いつものようにお茶を飲んで、それから神社の縁側で昼寝をして、ぐっすり寝て目を覚ますと魔理沙が手のひらで私の口をふさいでいた。
とりあえず殴った。
「痛たた、何をするんだ」
「こっちのせりふだ」
息ができなくなったらどうするんだ。
さいわい、鼻の穴のお手入れはじゅうぶんにしてあるので、酸素欠乏症にはならない。
「ひまにまかせて鼻くそほじりまくってるだけだろ。それに私はお前の窒息をねらったんじゃない。もっと限りなく攻撃的で、ビューティフルな意図があったのだ」
「あっそう。じゃあね。……わかったわよ、さみしそうにしないでよ、何なのよどんなねらいがあったのよ」
「よくぞ聞いてくれた。これが私の新・必殺技、泣く子も黙る秘中の秘だ」
と言って、また私の口を手のひらでふさぐ。
「ふが」
「霧雨エターナル・タイガー」
「ふが」
「霧雨エターナル・タイガー」
「ふがふが、ふがーがが、ふんがー」
「そうだ。覚えたか? よくできました」
魔理沙の手を払いのける。
「あん」
「で、何なのよ。どんな意味があるの。相手にどんなダメージを与えるの」
「霊夢はせっかちだな。そんなにあわてて訊かなくてもいいじゃないか。私は来たばっかりなんだぜ。喉が乾いたお茶出せ」
腕折ったろかと思った。思ったのでV1アームロックをかけた。柔道においては腕緘(うでがらみ)、キャッチ・アズ・キャッチ・キャンにおいてはトップリストロック (Top wrist lock)、ブラジリアン柔術においてはアメリカーナ (Americana) とも呼ばれる。
もうすぐ折れそうだったがわりとしゃれにならないのに気づいたのと、V1アームロックで極まるのは腕ではなく肩であることに思い至ったので直前で外した。
「痛たた、何をするんだ」
「うん」
ごめん、とあやまっておいた。
◆ ◇ ◆
お茶を出すと、ようやく魔理沙は新・必殺技とやらについて話しだした。
「ゆうべ寝ないで考えたんだ。すごいだろ。嘘だ。ちゃんと寝た。本読みすぎてちょっと目が疲れてるけど、寝たのは寝たぞ。そもそも夕飯に食ったキノコがやたら精力がつくものだったみたいでな」
「いいから話せ。その、霧雨エターナル?について」
「そうそう、霧雨エターナル・タイガーだ。こうする」
と言って、またも私の口をふさぐ。
「ふがふが」
「こうすると、なんか息苦しい。鼻で息してても精神的になんか追い込まれた感じがする。そしてとてもうざい」
「ふが」
「以上だ」
見るものすべてを魅了するような、太陽のような笑顔で言い放つ魔理沙。
あいにくだがこちとら幼なじみである。耐性がついている。
「うらあっ」
「あ痛っ」
お茶を乗せてきたお盆を手にし、下からアッパーで魔理沙のあごを跳ね上げる。
「貴様ぁー今日一日で何度暴力をふるわせるつもりだ」
「落ち着け霊夢。博麗の巫女は軽々しく動いてはいけない。もっとどっしりかまえてるもんだ。白鵬のように」
「負けたじゃねーか」(※注:横綱・白鵬は平成22年11月15日、稀勢の里に破れ、連勝を63で止めました)
もう勘弁ならん。
私は暴れる魔理沙を制し、馬乗りになった。マウントポジションだ。ここからは、魔理沙をどう料理するのも私の自由。
「ふっふっふ」
「な、何だよ、痛くするなよ、何のつもりだよ、怖いよ」
おとなしくするがよい。
私は右手を振り上げると、ひっ、といって目をつぶる魔理沙の口元へすばやく手をもっていって、手のひらで口をふさいだ。
魔理沙はぱちっと目を開けると、真昼に星でも見たかのように不思議そうに私を見上げる。星はいつでも魔理沙の瞳の中にあり、だからキラキラしている、と私は思っている。
「ふがふが」
「博麗エターナル……エターナル・グリズリー」
「……ふがー」
私にも新・必殺技ができた。
パクリというのがいかんせん格好悪いが、パクリ元が魔理沙というのもレアだし、パチュリーなんかからは喝采をもって受け止められるだろう、と思った。
放してやると魔理沙はすぐさま体を起こして、うらめしそうな目でこちらを見る。
「なんだよグリズリーって。どういうネーミングセンスだよ。巫女とグリズリーに何の関係があるんだよ。知ってるのかグリズリーって熊だぞ。灰色熊だぞ。でかくて強くておっかないんだぞ。クマのプーさんなんかとわけが違うんだからな」
「プー!」
「だから違うって言ってるだろ。そもそもプーさんはプーって鳴かないんだよ」
えっそうなの。
「なんでそんなに詳しいのよ」
「うるさいな乙女の秘密だぜ。それに詳しいってほどじゃない、当たり前のことだろ。そんなことより人の技をパクるとはどういう了見だ。パテント料もらうぞ。優れたアイデアは政府が保護してくれるんだからな」
「ふむ」
両手を開いて、少し勢いをつけて両手のひらで魔理沙のほっぺたをはさみこむ。
やらかい。
「むがー」
「博麗エターナル・グリズリー・フレンドシップ」
「だああ」
暴れる魔理沙。
それからは霧雨エターナル・ハヤブサだの、博麗エターナル・パンダちゃんだの、霧雨エターナル・アドバタイズメントだの必殺技の撃ち合いとなった。
間髪入れず矢継ぎ早に新技を開発できるのが、さすが私たち、主人公の面目躍如といったところである。
「何してるの」
お互いに撃ち疲れたころ、スキマがにゅるりと開いて中から紫が出てきた。やたらげんなりした顔をしている。さてはずっとのぞいてやがったなこの野郎。
「何、か。そうだな、これはうん……『かわいがり』だ」
「相撲ネタから離れなさい」
「魔理沙」
「うん?」
「声を小さく、睦言のように」
目配せをすると、魔理沙はにやり、と笑った。
そろそろと紫に近づく。
スキマに乗っかった紫は、大物ぜんとして日傘を肩に乗せ、もう一方の手をお尻のわきに置いている。
目を閉じて首を振ったりしてヤレヤレだぜドララーな雰囲気を出して、われわれの接近を許したのが敗因と知るが良い。
「あのね、あなたたちも旧作から数えればこの道14年のベテランでしょう。いつまでも子どもじゃないのよ。もう少し色気づいて、たとえばリップグロスって校則でだめかな、とか、ボーカロイドのコスプレするなら誰がおすすめかなやっぱりミクかな、とか、そういうことを相談してくれると、お姉さんうれしくてウッハウハになっちゃんだけど……あら?」
幻想郷屈指のスピードを活かし、背後に回りこんだ魔理沙が紫を羽交い締めにする。
それを逃さず、私は両の手で先ほど開発した新技を紫に叩き込む!
「博麗エターナル・どたぷ~ん!」
おっぱいわしづかみにして揉んだ。
もみもみ。
やらけー。
「まっ!」
紫は顔を赤らめた。
◆ ◇ ◆
それからしばらくの間、来る客みんなに種々のエターナル技を試してみた。各人いろいろな反応があった。慧音や妖夢は普通に怒ったが、ほかはたいがい冗談として処理してくれた。閻魔様はパニックになったあげく泣きそうになっていた。
咲夜には試していない。死ぬので。
というか、エターナル技は別に乳を揉むだけの技ではないので、もっとこう、スキンシップの側面が強いのである。あまりにセクハラに傾きすぎるのも、開発者の一人としては本意ではない。
ふと空を見上げれば、ミスティアが「ローレライ式エターナル・三処絡み!」とか言ってリグルを後ろからぎゅうぎゅうにからんでなんかエロいことになっている。そーゆーんじゃないのになあ、と思いつつまあ(見た目)子どものやることなのでほっとこうか、と思って掃除をはじめようとしたところリグルがやたらハアハアしているし、ミスティアのちんちんちんちん言う鳴き声もなんだか普段の十倍ぐらいひわいに聞こえてきたのでやっぱり退治しておいた。
「ご苦労だな」
箒に乗ってふわふわ魔理沙が降りてきた。後ろにはアリスを乗せていた。
「紫のところでも、藍に試したら獣の本性を久しぶりにあらわしたとのことでけっこう大変なことになったみたいだぜ……紫の奴、ああみえて意外とはぐれ刑事だからな……。
おい、純情派、って言いたいんだぜ。つっこんでくれ」
「うーん」
地霊殿じゃあお燐やお空も含めてすべてのペットが発情期に突入したみたいになっちゃって、さとりがノイローゼになりそう、などのニュースはあったが、それよりもアリスのほうが気になった。
「ねえ、何でアリスは顔真っ赤にしてるのよ。そんで、何であんたと小指絡めてるのよ」
「これか? これはなあ……」
困ったような調子で、魔理沙は下を向く。アリスが答えた。
「マ、マガトロ流エターナル・乙女の勇気(誕生編)」
だ、そうだ、と魔理沙が言う。
そうか。でも何なんだ誕生編って。ゲージためれば劇場版まであるのか。
ふうむ。
「いいけどね」
いいけどね。
とはいえ、開発者の一人として、ある種の矜持は見せておかねばなるまい。
私は右手を魔理沙の口にあてると、そのまま二分くらいじっとしていた。
「ふが?」
不思議そうな顔をする魔理沙。
私は手をはなすと、ちょっぴり湿った手のひらを今度は私の口に持ってきて、ちゅっと口づけた。
「博麗エターナル・間接キッス」
魔理沙は真っ赤になって、動かなくなってしまった。
要するに完敗した。
れいまりが子供っぽくてかわいいなあ!
ゆかりん可愛い
この作風書けるのは自信持ってもらいたい
パニくる閻魔様とかハアハアしてるリグルとか小指絡めるアリスとか皆可愛すぎるw
アアア