七色の人形遣い、アリス・マーガトロイドはその日、人形のメンテナンスを行っていた。
ここのところはずっと研究で家に篭っていたため、たまには湿気対策をしないと人形がカビてしまう。
人形のコレクションを風通しの良い場所に並べていると、ある人形から魔力が漏れ出ているのを感知した。
魔力の源を手に取ったアリスは、呟くように一人ごちた。
「この構成は――」
魔法使いが魔法で世界に干渉する際、その空間には魔力構成というものが編まれる。
魔力構成を目視できるのは魔法使いだけであり、逆に言えば魔力構成を目視し、現実のものとして認識できることが魔法使いの前提条件である。
魔力構成を目で視認し――その内容を理解できるできないは別として――頭で認識できないものは、魔法使いにはなれない。
一般的に、編成された魔力構成には術者の癖が強く出る。
例えば、七色の人形遣いと呼ばれるアリスの構成は、その二つ名の通り七色に輝く糸が複雑に編みこまれているように見える。
七曜の魔女の通り名で知られるパチュリー・ノーレッジのそれは、発動する曜日に応じたイメージ映像が流れる。
火曜日なら灼熱の炎、水曜日なら豊かな水、と言った具合である。
そして今、アリスの目に映っているのは誰よりも良く知っている、白と黒のモノトーンカラーで構成された魔力であった。
「開門よ、成れ……」
人形には極めて単純な施錠魔法が施されていたが、アリスが開錠魔法をかけるとあっさりと霧散した。
それと同時に人形のポケットから小さな紙片が床に落ちる。
劣化防止のためだろうか、固定化の魔法が掛けられている紙片の表面には、魔力が込められた文字が記されていた。
「『目を閉じよ。そして汝が心に想う、最も大切なパートナーの名前を述べよ』……どういうこと?」
アリスはしばらく無言で紙片を眺めていたが、文字の表面に浮かぶ魔力構成に呪詛や洗脳のような効果は無いと判断し、瞼を閉じた。
「――――」
頭に浮かんだ一人の魔法使いの名前を口にする。
その瞬間、強烈な光を感じて目を開けると、魔力文字が紙片の中央に集まって小さな閃熱エネルギーに変換されている最中であった。
「ちょっと、嘘でしょ!?」
驚いたアリスが紙片を手放して身を伏せるのと、紙片から発射された指向性の閃熱エネルギーが天井に穴をあけたのはほぼ同時であった。
小さなエネルギーとはいえ威力はそれなりのもので、天井が一部こげて剥がれ落ちている。
天井だったものの破片がパラパラと落ちてくる様を呆然と眺めていると、今しがたあいた穴の奥に小さな箱があるのが目に留まる。
「なんなのよ、もう……」
誰にともなく呟きながら、上海人形を操ってその箱を回収する。
箱にも何かしらの細工が施されているかと身構えたが、今度は何事もなく開く事ができた。
箱の中には、これまた固定化の魔法がかけられた手紙が複数はいっており、通し番号がナンバリングされていた。
「親愛なるアリス・マーガトロイド様」
一番若い通し番号が振られた手紙を開封し、最初の一文を声に出して読む。
その字は、人形にかけられていた魔力構成の主――霧雨魔理沙のものと見て間違い無かった。
◆ ◆ ◆
霧雨魔理沙からの手紙 №1
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親愛なるアリス・マーガトロイド様
手紙なんて私の性に合わないが、幻想郷でも紙が手に入りやすくなったので書いてみることにした。
これを書いているのは、お互いに告白しあって、やっと私の願掛けが実った翌日だ。
アリスは今、私の後ろで寝ている。寝顔も可愛いぜ。
昨日の夜はアリスにいいように弄ばれたが、このままで終わると思うなよ。
今度は私がアリスをいじめて泣かせてやるぜ。
その時は恥ずかしいこと、いっぱいさせてやるからな、覚悟しとけ。
話がずれたな。
手紙なんて普段書かないから、何を書けばいいのかわからん。
とにかく今の私は、アリスと気持ちが通じ合って幸せだ。
この手紙を書き終わったら、アリスの横でもう一眠りするつもりだぜ。
まあ、これからも節目節目で手紙を書いていこうと思う。
それじゃあ、またな、アリス。
霧雨魔理沙
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霧雨魔理沙からの手紙 №2
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親愛なるアリス・マーガトロイド様
今日もアリスにいじめられた。
恥ずかしいことされて、恥ずかしいこと言わされた。
アリスは私に優しいし可愛がってくれるけど、たまに暴走するよな。
そのくせ私が本気で嫌がる前にやめてくれるし、逆に演技だと見抜くといつまでもやめてくれない。
終わったあとは私のわがまま聞いてくれるし、抱きしめてくれる。
私はいつもそれに騙されて、怒るに怒れないんだぜ。
アリスはずるいぞ。
可愛い顔して卑怯者だ。正々堂々と勝負しろ!
そしてたまには私にも色々やらせろ!
マウント取ったのにオモチャにされ続けた時は本気で泣きそうだったんだからな!
……どうやったら勝てるんだよ。
他の奴らにはそんなことないのに、アリス相手だと調子が狂うんだよな。
アリスの目に見つめられると、頭がボーっとして何も考えられなくなってしまう。
アリスの声を聞いていると、逆らえなくなって何でも言うこと聞いてしまう。
アリスの指に触れられると、身体に電気が走ったみたいになって力が入らなくなる。
……私って、どこか病気なのか?
それとも、アリスには狂気の眼を操る能力でもあるのか?
それと、自覚がないようだからはっきり言っておくぞ。
アリスはとんでもない変態だ。
変態! 変態!! 変態!!!
今日はこれからその変態、もといアリスの家に遊びに行く。
今日こそは勝つからな。
じゃあな、手紙の方のアリス。
霧雨魔理沙
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霧雨魔理沙からの手紙 №3
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親愛なるアリス・マーガトロイド様
今日からしばらくの間、アリスの家に泊まりこみで共同研究だ。
同じテーマを個別で研究したことはあるが、一緒にやるのは初めてだよな。
前から一緒にやりたいと思ってたけど、私がいると邪魔かと思って遠慮してたんだぜ。
でも、アリスの方から誘ってくれた。
アリスが私を信頼してくれてる。
嬉しいぜ。
研究テーマはアリスがずっと取り組んでいる自立人形。
これが成功すれば、アリスの夢に大きく近づくことになるんだよな。
鼻歌交じりに準備するアリスを見てると、私も心が沸き立つぜ。
アリスの役に立ちたい。
アリスに褒めてもらえるように頑張ろう。
そして、この研究が終わったら、今度は私の家での共同研究に誘ってみよう。
一緒にやってもらえると嬉しいな。
でも、その前に部屋を片付けないと無理か?
霧雨魔理沙
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霧雨魔理沙からの手紙 №4
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親愛なるアリス・マーガトロイド様
やっちまった。
アリスの研究を台無しにしてしまった。
触媒を入れる順番を間違ったせいで、反応が進みすぎた。
気づいた時にはもう、必要な中間生成物は跡形もなくなっていた。
材料は全部使ってしまったから、やり直すこともできない。
研究に必要な材料は貴重で、なかなか手に入らない。
それなのに、アリスは私を怒らなかった。
それどころか、泣きそうな私に優しくしてくれた。
そのあと私の好きな和食を作ってくれたけど、満足に喉を通らなかった。
美味しくなかったわけじゃない、それどころが私が好きな味付けだった。
前に教えた和食のレシピ、ちゃんと練習してくれてたんだな……
でも、あんな失敗をした私に優しくしてくれるアリスを見てると、自分が惨めでたまらなかったんだ。
そして、そんな優しさを無下にしてしまう自分に腹が立って仕方なかった。
家に帰ると言い出した私を、アリスは引き止めないでくれた。
いつも私を家まで送ってくれるアリスが、その日は一人で帰してくれた。
普段なら、近いから必要ないって言ってもついてくるのに。
その代わり、アリスが一番大切にしている上海人形をお供につけてくれた。
私が泣きたいのを我慢しているのに気づいて、気を遣ってくれたんだろ?
家に着くと、上海人形が小さな手で私の頭を撫でて、帰っていった。
ごめん、アリス。
この埋め合わせは必ずする。
台無しにしてしまった材料は私が集める。
それくらいできなきゃ、魔法使いとしての沽券に関わる。
待っててくれ、アリス。
霧雨魔理沙
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霧雨魔理沙からの手紙 №5
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親愛なるアリス・マーガトロイド様
今日もアリスが家に来た。
扉の外から、私を案じる声が聞こえてくる。
でも、今日も私は扉を開けなかった。
ごめんなアリス、今は合わせる顔がない。
本当は今すぐにでもアリスにあって、抱きついて甘えたい。
でもこんな状態でアリスの優しさに甘えてしまったら、私は人間としても魔法使いとしても中途半端になってしまう。
パチュリーのところで調べさせてもらったが、研究に必要な材料は幻想郷で手に入らないものもいくつかあった。
外の世界のものは香霖の店を物色したり、スキマ妖怪に頼んで手に入れたが、魔界でしか手に入らない品もある。
魔界は昔はよく遊びにいったが、最近はどうやって行けばいいのかわからん。
アリスは魔界出身だから知っているだろうが、今は聞けないからな。
どうしたものかと悩んでいたら、空に浮かぶ不思議な船の噂を耳にした。
眉唾ものかと思っていたが、早苗曰くどうやら本当に存在するらしい。
そして船にはたくさんの財宝が眠っている可能性がある。
私はそこに行くことにした。
だけどこの『宝船』に、そんな都合よく材料があるだろうか?
正直、可能性は低い。世の中そんなに甘くはない。
でも、私は行く。
ひょっとしたら材料が見つかるかもしれないと思ったら……
万が一でも! 材料が見つかる可能性があるのなら!
その『宝船』に行かないわけにはいかないだろう?
霊夢たちに遅れを取るわけにはいかない。
すぐに準備をして向かおう。
もう少しだけ待っててくれ、アリス。
霧雨魔理沙
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霧雨魔理沙からの手紙 №6
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親愛なるアリス・マーガトロイド様
結論から書こう、あの『宝船』には宝なんかなかったよ。
でもその代わりに、その船に乗って魔界に行くことができた。
そしてそこには、遥か昔に封印されたという"同業者"が居た。
魔界は瘴気だらけな上に、何も無いように見えた。
とてもじゃないが、材料探しはできそうになかった。
アリスが居たのは、もっと別のところなのか?
だが封印を解いてやった"同業者"が、お礼をすると言い出した。
私は半信半疑で足りない材料を希望したんだが、後日それが本当に届いたんだ。
これで私がダメにしてしまった材料が全て揃った。
この手紙を書き終えたら、久し振りにアリスの家に行こうと思う。
そして、また一緒に研究させてもらえるように頼もう。
できれば、これからもずっと。
異変解決のパートナーとしてだけじゃなくて、研究でもパートナーになりたい。
そしていずれは……
と、そろそろ外が暗くなる。
そろそろアリスに会いに行こう。
じゃあな、手紙のアリス。
それにしても、この手紙が半ば私の日記帳と化しているのは気のせいだろうか。
まあ、読まれるにしてもずっと後のことだから気にはしないが。
霧雨魔理沙
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霧雨魔理沙からの手紙 №7
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親愛なるアリス・マーガトロイド様
久し振りにアリスに会った。
泣かれた。私も泣いた。そして説教された。心配かけてごめんなさい。
研究はまたやり直すことになった。
私がまた手伝いたい旨を伝えると、黙って抱きしめられた。
アリスの首筋に顔を埋めると、アリスのいい匂いがした。
そのあと、珍しくアリスの方から甘えてきた。
いつもお姉さんぶってるアリスが、私に甘えてくる姿は破壊力抜群だったぜ。
初めて私がアリスをいじめた日にもなったな。
恥ずかしいことさせて、恥ずかしいこといっぱい言わせた。
どうだ、私はいつもあんなことされてるんだぞ?
まあ、アリスみたいに上手くできなかったけど、アリスが手を取って教えてくれたから頑張れたぜ。
……今思うと、それって結局アリスにリードされてないか?
最後は結局「魔理沙も気持ちよくしてあげる」なんて言われていつも通りだったし。
私はいつになったらアリスに勝てるんだ?
手紙の方のアリスはどう思う?
霧雨魔理沙
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手紙を次々に読み進めていくアリス。
人形の手入れのことは、すっかり頭から抜け落ちていた。
霧雨魔理沙からの手紙 №193
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親愛なるアリス・マーガトロイド様
私が成人を迎えた今日、一緒に暮らそうと言われた。
そして、二人だけで式を挙げようと。
私は不覚にも泣いてしまって、それが否定の意味だと勘違いしたアリスをとても焦らせた。
嬉しくて泣いてしまったことを告げると、アリスは笑ってた。
その日の晩、アリスにウェディングドレスを着せてもらった。
お互いに歩み寄って目線を交わす。
昔と違って、対等な高さでの目線。
私の背丈は結局、アリスにほんの僅か届かないところで成長が止まってしまった。
計画ではアリスを追い抜いて、妹扱いして可愛がってやると豪語していただけに、この事でも散々からかわれたな。
これは私たちの立場とか力関係を暗示しているようで、私にはあまり笑えない。
結局私は、いつまで経ってもアリスにとって手のかかる妹なのか?
それとも、いつかはアリスを支えられる程になれるのか?
二人だけの式のあと、そんなことを思っていると、アリスが傍にきてこう言ってくれた。
「二人で歩いていきましょう」って
その言葉を聞いて、私の心のわだかまりが消えた。
アリスは私をパートナーに選んでくれた。
それは私が頼りないとか、面倒見なきゃとか、そんな義務感じゃなくて、私だから選んでくれたんだ。
どっちが支えるとかじゃなくて、二人で手を取って歩いていくんだ。
そう言ってもらえた気がして、私はまた泣いてしまった。
アリスは何も言わずに、私に口付けをした。
キスは今まで何度も交わしたけど、その日は特別なものに思えた。
これからもよろしく、アリス。
愛してるぜ。
魔理沙・Margatroid・霧雨
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アリスが最後の手紙を手に取り、読み始める。
霧雨魔理沙からの手紙 №398
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親愛なるアリス・マーガトロイド様
おそらくこれが、最後の手紙になることでしょう。
貴女に出会えて、そして愛してもらった私は幸せでした。
何度もケンカをしましたね。
それと同じ数だけ仲直りをしましたね。
調子に乗りやすい私は、何度お仕置きされたかわかりません。
私は最後まで貴女に頭が上がりませんでした。
私に捨虫の法を習得させようか何度も思い悩み、そのたびに思いとどまってくれていたこと、私は知っています。
貴女は最後まで、人間であろうとした私の意志を尊重してくれました。
ありがとう。
先に逝く者として、私は貴女に何を遺してあげられたのか分かりません。
私は貴女の優しさに甘えてばかりで、与えられるばかりだったような気がします。
貴女の数十年を、ただ空虚に奪ったのでなければいいなと願ってやみません。
白と黒の二色だけだった私の人生に、貴女は素敵な七色をつけ加えてくれました。
恋色の魔法は、私の二色と貴女の七色が混ざり合って完成したのだと思います。
最後に。
アリス、貴女を遺していくこと、本当にごめんなさい。
そして、寂しがりやの私の傍にずっといてくれて、本当にありがとう。
またいつか逢いましょう。
魔理沙・Margatroid・霧雨
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◆ ◆ ◆
手紙を全て読み終わったアリスは、それらを丁寧に折りたたんで箱に戻し、出かける準備を始めた。
花束を用意し、バスケットに焼き菓子を詰める。
魔理沙専用の帽子掛けから、彼女のトレードマークである三角帽子を手に取り、少しだけ逡巡するが、両手が塞がっていることに気づいて頭に被る。
久しぶりに嗅いだ外の匂いは、慣れ親しんだ森の空気。
アリスはゆっくりと歩いていく。
彼女のいる場所へ。
霧雨邸。
前に見たときから、何も変わっていない。
ドアノブに手をかけ、鍵が開いていることを確認すると、静かに扉を開く。
そこにはあの日のままの魔理沙が見えた気がして――というか気のせいでもなんでもなく、いつもの背中が見えた。
その背中に呼びかける。
「忘れ物を届けにきたわよ、魔理沙」
魔理沙の帽子を手に取り、ヒラヒラと振るアリス。
その声に応え、振り返ったのは……
「ん? おお、アリス。来てたのか」
まだ成人も迎えていない霧雨魔理沙、その人であった。
◆ ◆ ◆
「久し振りだなアリス。研究は終わったのか?」
「ええ、おかげさまで。ほら、この間きたときに忘れていったでしょう、帽子」
パッと顔をほころばせながらパタパタと寄ってきた魔理沙の頭に、フワリと帽子を載せる。
「お、サンキュー。わざわざすまん」
「全くもう、貴女の大切なものじゃないの? その帽子」
「ああ、いや、次の日に気づいてはいたんだが……その、アリス研究で忙しいかと思ってだな……」
「あら、気を遣ってくれたの?」
「な、なんだよ。私がそんなことしたらおかしいか?」
「ううん、嬉しいわ。ありがとう、魔理沙」
「お、おう」
帽子を目深に被りなおし、視線をそらして応える魔理沙。
照れている魔理沙を横目に、アリスは花瓶に持参した花束を挿しテーブルの上に飾る。
バスケットを目の高さに持ち上げて、魔理沙に微笑みかけながら、
「それじゃ、いい子の魔理沙ちゃんにはご褒美のお菓子を食べさせてあげようかしら?」
「子供扱いするなよぉ……」
今度は拗ねたようにそっぽを向く魔理沙の百面相ぶりに、アリスは笑った。
◆ ◆ ◆
「ところでね、魔理沙」
「んー?」
研究のことや、会えなかった間のことをひとしきり話し終えたところで、アリスが次の話題を持ち出す。
「貴女、私の人形に面白い手品をしかけたでしょう?」
「ブッ!?」
アリスとおそろいのティーカップ――アリスが持ち込んで置いていったものだ――を口につけていた魔理沙が、紅茶を盛大に吹く。
「ゴホッゴホッ、な、なんのことだかサッパリ分からんですぞ?」
「語尾おかしいわよ。赤モップじゃないんだから」
「………………………………………………………………………見たの?」
「ええ、素敵なお手紙を拝見いたしましたわ」
ニッコリ笑って伝えると、やおら立ち上がった魔理沙が帽子で顔を隠し、床をゴロゴロと転がり始めた。
「何で見ちゃうんだよー。やぁーめぇーろぉーよぉー!」
「人形の整理してたら、魔力ダダ漏れだったからすぐ分かったのよ」
「うぅ~……」
「ほらほら、あんまり掃除してないんだから床転がらないの」
魔理沙を立ち上がらせ、服についた埃をはたいてやる。
しかし魔理沙の首から上はゆでダコのように真っ赤だ。
面白がったアリスが魔理沙に顔を近づけるが、そのたびに顔をそらして決して目を合わせようとしない。
その姿にアリスの中の悪アリスがムクムクと意識を覚醒させ、次なる手段を遂行する。
「親愛なるアリス・マーガトロイド様」
「うわあああああああああああああああああああああああ! あーあー! 何も聞こえない! 何も聞こえないぜ!」
手紙の一節を魔理沙の耳元で囁く。
魔理沙の息が切れた瞬間を見計らい、続ける。
「恋色の魔法」
「いやあああああああああああああああああ! やめっ、やめてくれー!」
「魔理沙・Margatroid・霧雨」
「やめてええええええええ! わ、わかった、私の負け! 負けでいいですから! もう許してください!」
ついに半泣きになってスカートにすがりつく魔理沙。
対照的に、世にも楽しそうな笑顔のアリス。
そのまま座り込んで魔理沙と同じ目線になると、よしよしと頭を撫でる。
「別に怒ってるわけじゃないのよ? さっきも言ったけど、とっても素敵なお手紙だったわ。私って、魔理沙に愛されてるんだなあ、って思ったもの」
「うぅぅぅ……ホント……? 引いてない……?」
目尻に涙をいっぱい浮かべ、上目遣いに見つめてくる魔理沙。何この可愛い生物。
アリスは鼻の奥に熱くたぎる龍脈の息吹を感じたが、寸でのところで押しとどめる。
魔界神は言っている。まだ血を噴くべきではないと。
「引いたりなんかしないわよ。可愛い可愛い魔理沙のすることですもの。ほら、おいで?」
「……うん」
両手を広げ、受け入れ態勢を整える。
魔理沙は少し迷ったが、結局はアリスの腕の中に収まった。
◆ ◆ ◆
「いつの間にあんな仕掛けをしたの? 魔理沙が話したくなければ、もう聞かないけど」
アリスに抱かれるように座り、尚もグスグスと鼻を鳴らしていた魔理沙であるが、徐々に落ち着きを取り戻して話し始める。
「手紙はずっと書いてたんだ。……私、アリスの前だと、思ったことなかなか言えなくて、でも、手紙なら、って……」
「あら、私って魔理沙が意見を言いにくくしちゃってる?」
「ち、違う。アリスは優しいし、大好き。たまにすごく意地悪だけど……。でもアリスを前にすると、緊張して上手く喋れないんだ……」
恋煩いだな、とアリスは判断する。
見た目や言動とは裏腹に、魔理沙は誰よりも乙女なのだとアリスは知っている。
しかし、こればっかりはどうすることもできない。
別に悪いことではないので、本人が恋に慣れて大人になっていくのを見守るしかない。
ただアリスの個人的な意見としては、このままの魔理沙がいいなあ、というものであったが。
「普段も、アリスと挨拶するだけで胸がドキドキしちゃうんだ……。私って変なのかなあ……?」
「ううん、変じゃないわ。私だって、魔理沙とお話しているときは胸が高鳴るもの」
「ホント……?」
「ええ、本当よ。ほら、聞いてみて?」
魔理沙の頭を抱きしめ、胸の鼓動を聞かせる。
「ホントだ。……へへ、アリスと一緒だ」
「ええ、おそろいね。だから何もおかしいことはないの。好きな人を目の前にしたら、誰だってこうなるのよ」
魔理沙を安心させたところで、次の質問を投げかける。
「ところで、途中から未来予知をしたお手紙も入っていたけど、あれはどうしたの?」
「う……あ、あれは、その……アリスに会えないときになんとなく書き始めたらその……気分が乗っちゃって……」
両手の人差し指同士をモジモジさせながら説明する魔理沙。
「未来を想像しながら書いたの?」
「はい、その通りです……」
「魔理沙・Margatroid・霧雨は?」
「け、結婚したら、相手の姓を名乗るもんだろ?」
また恥ずかしさが甦ってきたのだろう、顔が紅潮している。
しかしこの行動は、アリスにも身に覚えがあった。
「そんなに落ち込まないで。私も魔理沙と同じようなこと、やったことあるわ」
「そうなの……?」
「魔界に居た頃、お母様や夢子にお別れの手紙を書いたことがあるの。理由は貴女と一緒。なんとなく、そんな気分になっちゃってね」
そのことで、二人には随分からかわれた、とアリス。
尤も、魔界神の方はその手紙を真に受けて大騒ぎを起こしたが。
魔理沙はそれを聞いて幾分落ち着いたようだ。
ただし、アリスがそれをやったのは子供の頃の話なのだが、それを言うとお子様扱いされたとむくれるので黙っておく。
「手紙を私の人形に封印したのはどうして?」
「私の家は物がすぐどこかに紛れちゃうし、でも恥ずかしくて渡せないし……」
「それで、書く度に追加してたの?」
コクン、と頷く魔理沙。
「まさか、こんなに早く見つかるとは思ってなかったんだがな」
「さっきも言ったけど、魔力ダダ漏れだったわよ。それに魔理沙って、固定化とか施錠魔法使えたの?」
「いつまでも星の魔法やマスパだけの私じゃないぜ。……まあ、苦手だから失敗したんだけどな」
歯を見せて笑う魔理沙。
すっかり普段の調子を取り戻したようだ。
「これから頑張ればいいわ。難しいところは、私も教えてあげるから」
「ありがとう、アリス」
「どういたしまして」
お互い見つめあい、柔らかく微笑む。
その流れのまま、アリスが続ける。
「今日、泊めてもらえるかしら?」
「お、おう。いいぜ。大歓迎だ」
何を期待したのか、僅かに赤面する魔理沙。
その様子を見たアリスのスイッチが再び入ろうとしていた。
「それにしても、手紙では随分なこと書いてくれてたわね。誰が変態ですって?」
ニコォー、っと笑うアリスに、言い知れぬ恐怖を覚えた魔理沙が慌てて取り繕う。
「い、いや、あれはだな、その、言葉のアヤというか……」
「私、魔理沙をいじめたりなんかしてないわよ?」
「う、うん、そうだな、その通りだ。アリスは優しい」
必死にアリスの言葉に追従する魔理沙。しかし――
「私が本気で魔理沙をいじめたらどうなるか、今晩たっぷり教えてあげる」
「…………え?」
「そのために準備もしてきたの」
上海人形がバスケットを床に置き、焼き菓子が乗っている段を持ち上げる。
二重底になっていたそこには、ここに固有名詞を書くのがはばかられるようなものが、所狭しと詰め込まれていた。
「今までのが本気だと思われたら『魔法使いとしての沽券に関わる』もの。ねっ、魔理沙・Margatroid・霧雨さん?」
「い、いやああああああああっ! だ、誰か助け――」
「大丈夫。魔理沙は私の指が一番好きなのよね? 最後はそれでシてあげるから」
「そういう問題じゃないっ! こ、このド変態いじめっこ!」
「心外ねえ。魔理沙だっていじめられてる時、気持ち良さそうにしてるじゃない。魔理沙のMはそういう意味かしら?」
「ち、違うううううううううう!」
必死に抵抗する魔理沙であったが、一度スイッチが入ってしまったアリス相手に太刀打ちできるはずもなかった。
◆ ◆ ◆
霧雨魔理沙からの手紙 №?
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親愛なるアリス・マーガトロイド様
昨日もいじめられまくった。
いやもう、今までのとは比べ物にならなかった。
そういや、昨日は満月だったんだな、くそ、はめられた……
もうお嫁にいけないぜ……責任とれよな!
それから、私をMだと言ってたがそれは断じて違うからなっ!
好きな人に触られてるのに、気持ちよくないわけないだろ、馬鹿!
変態! 変態!! 変態!!!
……でも大好きだ。
惚れた方の負けだな。
こんな私だけど、これからもよろしくな、アリス。
霧雨魔理沙
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悪アリスのSっぷりが素敵
たが一個多い?
大丈夫だ(ry
こんなに可愛いんだ、アリスが暴走してもしょうがない
そして、一番いいプレイを頼む
面白かったです
この魔理沙にSアリスは神だ。
三魔女物も期待してます
全然関係なかったのぜw
某河童は言っている、
セクハラは、やぁ~めぇ~ろぉ~よ~
(・・・・・・いいぞもっとやれ)
詰めの甘い魔理沙がかわいい
私の望んだマリアリがここにありました。魔理沙が実に可愛くて素敵です
ゴフッ!!
アセスルファムカリウム吐いた
口の端が不自然に上がったまんま元に戻らない
本当に未来の話だと思ってた
良いマリアリでした。