「第一回、芸術の秋石像大会ーッ!!」
人里の中央広場で、鴉天狗の射命丸文の声が響き渡る。
普段から人の集まるこの場所だが、今はイベントの催しもあってかいつも以上の賑わいを見せていた。
里の長と、妖怪の賢者の八雲紫が共同で企画した今回の催し。
目的はこれからの幻想郷をよりよいものにするために、人間と妖怪の距離を縮める目的もあるとか何とか。
そんなわけで、もともとお祭りが大好きな幻想郷の住人はあれよあれよと参加を表明し、人里の中央広場には数多くの自作の石像が並ぶこととなったのだ。
50cm程度の石像もあれば、中には10mを超える力作まで様々だ。
紫の伝で鬼の伊吹萃香が石像を運んでくれるものだから、最優秀作品には賞金も出るとあってどれもこれも力作ぞろい。
そんな石像が立ち並ぶ会場を、日傘を片手に楽しげに歩く少女の姿があった。
金紗の髪はサイドテールにされており、ルビーのような真紅の瞳はパッチリと開いて可愛らしさを強調する。
紅魔館在住の悪魔の妹、フランドール・スカーレットその人である。
「へぇ、やっぱりみんな力はいってるのねぇ。どれもこれもすごい出来だわ」
「あはは、賞金も出ちゃいますからねぇ。中には人間と妖怪の共同で作った作品もあるみたいですよ」
そんな彼女の後ろに追随しているのは、こうもりの翼を側頭部と背中にもつワインレッドの長い髪の女性だった。
温和な顔立ちでにこやかに笑い、楽しそうなフランを見守るさまはまるで人の良い近所のお姉さんといった感じだ。
彼女は名無しの小悪魔。紅魔館の地下に存在する大図書館で、魔女の使い魔と司書を兼任する悪魔である。
「ふーん、なるほどねぇ。……ねぇねぇ小悪魔、あのお茶と煎餅の石像ってもしかして霊夢かな?」
「あっちの餅つきをするウサギは永遠亭の方々ですかね?」
「こうして見ると、やっぱりその人の個性が出るよねぇ、やっぱりさ」
純粋にこうして作品を見て回るのが楽しいのか、いつも以上に上機嫌なフランはいつになく饒舌だ。
そんな彼女に「そうですね」と笑顔で言葉を返し、小悪魔はどこか暖かな気持ちを覚えていた。
元々、フランはあまり外に出るような性格ではなく、自由に憧れこそありはするが部屋にいることの多い少女だった。
それが最近では自分で外を出歩くようになり、今もこうしてこのイベントを純粋に楽しんでいる。
(こうやって笑ってると、本当に普通の女の子なんですけどね)
その能力ゆえか、あまりいい噂のないフランだが、こうしているとやっぱり年頃の女の子だ。
いろんなことに興味を持つのはいいことだと、小悪魔は思う。
なまじ、フランはほとんど紅魔館に篭りきりだから、なおのことこういったイベントは新鮮に違いない。
フランの姉であるレミリアが小悪魔を同行させたのは、彼女たちがよく二人でいるからというのもあるのだろう。
なまじ、小悪魔はフランの面倒を良く見ているので紅魔館内でも二人が談笑していたり、フランが小悪魔に怒っている姿は良く見られた。
そんな姿を見るたびに、当のレミリアはハンカチをかみ締めて悔しがるのだが……っと、話が脱線したようである。閑話休題。
「ねぇ、小悪魔。紅魔館も石像を展示してるんでしょ?」
「もちろんです。私の自信作なんですよ!」
「うん、今スッゲェ不安になった」
自信満々に小悪魔が宣言すればあら不思議、今までキラキラと輝いていたフランの目がどんよりと曇った。いや、むしろ曇ったというより死んだ魚のような濁った目と言ったほうが正しいかもしれない。
笑顔のままで目が死ぬという器用な真似をやってのけたフランの心内はいかなものであっただろうか。
それも無理もないことかもしれない。過去の経験上、小悪魔がこんなことを自信満々で言い出したときはほぼ確実に碌な目にあってねぇのである。
「さぁご覧ください妹様、あちらです!!」
「……うわぁ」
小悪魔が指し示した先に視線を向ければ、そこには明らかに悪趣味な石像がそこにあった。
できうることならば、目の前の現実を全否定したかった。したかったがだがしかし、小悪魔の指し示す方角にはどう見てもそれがあるわけで。
それは、一言で言い表すならばゴリマッチョだった。
上半身裸でポージングをとり、筋肉美をアピールするかのごとくその表情は晴れやかだ。
くるくると丸まった特徴的な前髪を一房を残してつるっつるの頭、同じくくるくると丸まった特徴的な髭。
なんか、見るからに「ムゥンッ!!」とか今にも聞こえてきそうなそのさまは、あまりのリアルさに思わず生理的嫌悪を覚えさせるほどだった。
「……ねぇ、アレ何?」
「ネオアームストロングサイクロンジェットアームストロング砲です」
「どこからどう見ても人間じゃないのアレ!? しかもアームストロング二回言ってるし、アレのどの辺に砲台要素があるって言うのよ!!?」
「かつて己の筋肉美を披露しながら、群がる敵をその肉体と錬金術で粉砕した地獄の兵器です」
「やっぱり砲台要素なんて欠片もないし!!? 明らかに人間以外の何者でもないでしょうが!!? そしてやたら上手なのが余計に腹立つッ!!?」
なにやら自信満々に説明した小悪魔に、フランがあからさまに納得の言っていない様子でツッコミを入れる。
そりゃそうだろう。どこからどーみても砲台要素が欠片もない上に、あんな筋肉マッチョの像が紅魔館の出し物とか軽くめまいを覚えそうだった。
しかも、石像が5m前後とものごっつい目立つのだから余計にたちが悪い。
そんなわけで、フランが頭痛を堪えるように頭を抑えていると、見知った顔がこちらに歩いてくるのが見えた。
フランと同じ金紗のセミロングを揺らしながら、魔道書を片手に歩く少女は人形遣いのアリス・マーガトロイド。
黒白の魔女スタイルに、大きな帽子から覗く長い金髪の少女は、霧雨魔理沙である。
二人ともフランと小悪魔の知人であり、それなりの友好関係を築き上げているものたちであった。
「あら、アリスに魔理沙、二人も来てたのね」
「おぉ、こりゃまた意外な奴が来てるんだな」
「そして珍しい組み合わせ……って、わけでもないのかしらね。あなたたちの場合」
「んっふっふー、そういうお二方は相変わらず仲のよろしいことで」
とまぁ、顔を合わせればこんな風に世間話をするぐらいには仲がよろしいわけで。
小悪魔の一言に眉間に眉を寄せるアリスと、おかしそうにケタケタと笑う魔理沙はなんとも対照的だ。
仲がいいのやら、それとも悪いのやら。
そんな二人の様子に苦笑しながら、フランは言葉を投げかける。
「二人も石造作ったの?」
「えぇ、私のはあそこよ。大きさだけなら負けないゴリアテ人形の石像版」
答える声はどこか自信満々なのを見る当たり、よほど自信があったのだろう。
アリスが指差す方角に視線を向ければ、5m前後のゴリアテが目を瞑り、腰にさした剣を今にも引き抜かんとするところが再現された石像がある。
さすがは人形遣いと賞賛するべきか。その石像は細かく仕上がっており、今にも動き出しそうな迫力があった。
「さすがはアリス、こういうことさせたら右に出るやつなんていないんじゃない?」
「買いかぶりすぎよ。ところで、あなた達も石像展示してるんでしょう?」
そして思い出すいやな事実、だらだらと冷や汗流し始めたフランを誰が責められようか。
なんたって、その石像がフランの後ろで今もムサッ苦しくポージングを決めているであろうあのアームストロング砲である。
アリスの見事な石像を見た直後である。とてもじゃないが恥ずかしくて紹介できねぇのである。
「え!? いや、確かにそうなんだけどさー……」
「アリスさーん、あちらですよー!」
「ちょっ、小悪魔!!?」
なんとか誤魔化そうとした矢先に、にこやかに指をさす小悪魔に思わず文句が飛び出しそうになった。
そしてアリスと魔理沙の視線が件の物体に向けられる。
やめてぇー! と、フランが心の中で悲鳴をあげたがもはや後の祭りである。
そしてフランの予想通りに、例のブツを見たとたんぴたりと硬直する魔法使い二人。
あぁ、そうなるよねぇ。などと、ある種の達観じみた感想を抱きながら、どこか遠い目をしたフランだったが。
「ネオアームストロングサイクロンジェットアームストロング砲じゃない。……完成度高いわね」
「ちょっと、アリスゥゥゥゥゥ!!?」
まさかの人形遣いのボケに盛大なツッコミをひとつ入れる羽目になったのであった。マル。
そんな彼女のツッコミに、はてと首をかしげる他三人。まるで自分がおかしいみたいな反応に心が挫けそうフランだったが、なんとか瀬戸際で「自分は正しい」と思い直して踏ん張った。
「どうしたの?」
「どうしたもこうしたも無いよ! あるわけないでしょうがあんなムキムキのムサッ苦しい大砲!!? え、ていうかみんなして何なのさその反応!
……まさかあるの? 本当にあるのアームストロング砲!!?」
「過去のイシュヴァール殲滅戦において、あまりの凄惨さと虚しさに戦場を去った悲しき兵器よ」
「イシュヴァールってどこよ!? ていうかやっぱり砲台じゃないでしょあれ!!? 去ったっていったもん今、完全に自分で移動してるよその砲台!!?」
「あっはっは、まぁおちつけよフラン。それにしても、見事なネオアームストロングサイクロンジェットアームストロング砲だぜ。完成度たけーなオイ」
「魔理沙まで!!?」
今この瞬間、フランは誰も味方のいない四面楚歌状態であることを理解した。
だって、よくよく耳を澄ませば他の人里の方々もアリス達と同じようなことを口走っていたりするのである。
常識って、なんだっけ? とか本格的に悩み始めたフランをよそに、小悪魔は魔理沙に言葉をかける。
「そういえば、魔理沙さんも何か作ったんですか?」
「もちろん。私のはあそこだ」
そういって、魔理沙はニヤニヤと自身ありげな様子で視線をとある場所に向けた。
小悪魔が「おぉ」と感嘆の言葉をこぼしたのを耳にして、フランも面を上げてそちらに視線を向けて……絶句した。
そこにあったのはウェーブの髪をして巨大な斧を構えたやたらと筋肉質な男の石像だった。
こう、なんというか「ぶるぁぁぁぁぁ!!」とか叫んで来そう感じの。
「ネオバルバ○スサイクロンジェットバルバ○ス砲ですね。完成度たけーなオイ」
「あんた達の脳内の大砲は一体どうなってんのよぉぉぉぉぉぉぉぉ!!!?」
「こぁーっこぁっこぁっこぁっこぁっこぁ! 何をおっしゃいます妹様、ネオバルバ○スサイクロンジェットバルバ○ス砲はですねぇ……」
「いい説明しなくて! 聞きたくない!!」
なにやら得意げに説明しようとした小悪魔の言葉をさえぎり、耳を塞いで猛抗議なさるフランさん。
そんな彼女の様子がちょっぴりショックだったのか、羽と尻尾をしょんぼりさせる小悪魔を見やり、怪しく笑う黒と白の魔法使い。
そんな騒がしくなって来そうな面々の様子を見てアリスがため息をついていたりするが、どうやら傍観に徹するようである。
「お前さんのネオアームストロングサイクロンジェットアームストロング砲も中々のもんだが、私のネオバルバ○スサイクロンジェットバルバ○ス砲には敵わんよ。
悪いが賞金は私のもんだな」
「何をおっしゃいますか魔理沙さん、優勝は私のネオアームストロングサイクロンジェットアームストロング砲に決まってます!」
「ねぇ、二人とも。とりあえず全世界の大砲作ってる方々に謝っとかない? いや、本当に」
「ま、そのうち結果が出るか」
「そうですね、どちらが上かはっきりするでしょう」
「だから、人の話を……いや、いいやもう。好きに生きればいいと思うよ、うん」
なにやら熱く語り合う二人に何か言おうとして、無駄と悟ったのか、それとも諦めたのか、フランはどこか遠い目をして言葉を噤んだ。
まさかのツッコミがツッコミを放棄するという事態にもかかわらず小悪魔と魔理沙は不敵に笑いあっており、一方のアリスはというとさすがにフランが哀れに思ったかぽんぽんと肩をたたくのである。
「みなさーん、お待たせいたしましたぁー!! 最優秀作品の発表です!!」
空から鴉天狗の声が響き渡り、小悪魔と魔理沙が待ってましたと顔を見合わせた。
そんな彼女たちの様子に、アリスもフランもあきれた様子だったが、何も言わずにただ黙って見守るだけである。
そんな中、広場に集まった人間、妖怪たちの視線が射命丸文に集まった。
その視線に満足したよう、文は楽しげに笑って言葉を紡ぎ始める。
「人間、妖怪、さまざまな方々がこのお祭り騒ぎに参加なされました。皆さん、自身の作品に絶対の自信があることでしょう!
今回の審査員は人里の長老様、そして八雲紫様、天魔様の三名が協議した結果決まりました、誉ある作品です!!
そんな誉れある今回の最優秀作品は!!」
ごくりと、生唾を飲み込む音は誰のものだったのか。
誰もが息を呑む中、フランは心底どうでもよさそうに近所の和菓子の老舗で巫女と一緒にお茶を飲んでた。
そうして、鴉天狗は告げた。
皆が固唾を呑んで見守る中、その言葉は信託のように紡がれて。
「守矢神社在住の東風谷早苗さんの1/1スケールガ○ダム試作3号機デ○ドロビウム(砲身込み140m)です!!」
『どうやって作ったぁぁぁぁぁぁぁぁぁ!!!?』
会場全体から盛大なツッコミが響き渡ったのであった。マル。
その後、件の最優秀作品が人里にしばらく展示され、子供たちの遊び場になったとか何とか。
ちなみに、小悪魔と魔理沙とアリスの作品は佳作に選ばれましたとさ。
「霊夢ー、この茶菓子おいしいよー」
「あら、フランにしてはなかなかいいの選ぶわね」
とりあえず、ガン無視してたフランと霊夢だけはお店で平和にまったりしてたとか何とか。
▼オマケ▼
一方、そのころの妖怪の山のとある神社にて。
「……」
「……」
「……」
力尽きた神二人と唐傘お化けが真っ白に燃え尽きていた。
一部『子悪魔』がいましたよー
あと魔理沙の石像の神が水色って、石像って色あるっけ?
あと、早くパソコンを直しなさい
てっきりアドンとサムソンだと思ってたよ、こいつら髭ないのにな
寝る前に腹筋が吹っ飛んだwどうしてくれるwww
復活をまってます
だ が そ れ が い い
取り敢えず俺の前にあった1/550デンドロビウム返せwww
コーヒーで黒くなっちまったwww
あ、あと誤字訂正です
おぜうがハンカチ噛む辺りで、「起こっている」→「怒っている」かと。
あと「子悪魔」もその辺りに隠れとりますよ~。
また新作期待してます。
銀魂の方再現してなくて本当によかった……
早苗さん、握手
早苗さん3号機かよ!
驚異のカッパテクノロジーも噛んでるはず。
当然、制作にあたってはモデルが必要なわけで……守矢神社には「アレ」が鎮座してるのか。
……声優が被るから駄目か
やはり奇跡なのか
レベルたけーなオイ
これまんまパクリだよね…
まさに四面楚歌な気分だなあ。
やりとりもまんまな気がします
小悪魔も同じく生意気すぎて不愉快に思えてきました
メ〇粒子砲の砲身を突き刺したくなった自分はきっと整備兵にボコられるんだろーなー。
いや、天子にでも頼み込んで巨大な要石を出してもらえばなんとか……って、それでも無茶な気が
>ウェーブの髪をして巨大な斧を構えたやたらと筋肉質な男
武装錬金おもいだした
これでバル○トスっていったらテイルズでしょう
どっちも大砲じゃねーよと思いつつもなんとなく納得できるあたり恐るべき筋肉よ
闘気と殺意と魔力をマスパ並の威力で打ち出す兵器
どっちも怖ぇw