夕日に染まる空の下を、息を切らしてかけていく。
夜空にはすでに一番星が輝き、世界がもうすぐ闇に包まれることを知らせている。
普段だったらこんな時間に森の中を走ることなんてしないのだけど、今日中にどうしてもいかなければならない場所があるのだ。
それはいつも私の家に遊びに来る人間の魔法使い―――魔理沙の家だ。
今日も魔理沙は私の家にやってきて、いつもどおりに私の出したお菓子を食べていた。
なぜ今日も家にやってきた魔理沙の家に、急いで向かっているのか不思議に思われるかもしれない。
でもそれには、行かなければならない理由があるからだ。
その理由とは、今日私が魔理沙に言ってしまった言葉にある。
やってきた魔理沙にいつものようにお菓子を出したのだけど、今日出したお菓子は気が向いたので今まで作ったことのないものに挑戦してみたのだ。
初挑戦だった割りに上手く出来て、魔理沙も喜んでくれるかなぁと期待しつつ彼女に食べさせてみたのである。
結果は思った以上に美味しいと褒めてもらえて、心の中ではとっても嬉しかった。
けれど魔理沙の前ではどうしても素直になれなくて、褒めてくれた魔理沙に対して「お、お世辞でしょそんなのっ! それより用がないなら早く帰ってっ!」と言ってしまったのだ。
それで魔理沙は少し寂しそうな顔をして帰ってしまった。
彼女はただ、私のお菓子を褒めてくれただけなのに…。
きっと魔理沙を傷つけてしまったに違いない。
魔理沙が出て行った後私は後悔の念に駆られ、迷いはしたが魔理沙に謝ることに決め、家を飛び出した。
途中までは空を飛んできたのだけど、心の準備は終わる前に見つかってしまうのが怖くて、近くまで来てから飛ぶのをやめて走っているのだ。
自分が悪いのだからそんなこと言ってられないだろうとは思うのだけど、急に話しかけられたらちゃんと答えられる自信がない…。
だから自分でも駄目だとは思いつつ、森の中を走る。
とにかく会って謝ろう。
謝って、出来ることなら今までみたいに、変わらずうちに遊びに来るようになって欲しい。
なぜなら、彼女のいない生活なんて寂しくて堪えられそうにないから。
本当はあそこで帰って欲しくなんてなかったし、ずっと一緒にいて欲しかった。
だって私は、魔理沙のこと―――
ガサッ
「えっ…!?」
すぐ横の草むらから物音がして立ち止まる。
この魔法の森は化け物茸の胞子がまっていて、普通の動物は住めないし妖怪もほとんど近づかないはず。
だから森の中を歩いていても、なにかに出くわすことなんてほどんどないのだけど…。
まさか、魔理沙?
慌ててどこか隠れられそうなところを探すけど、今いるのは比較的開けたところで身を隠せそうな場所なんてない。
そうしてわたわたしていると、気配の主が姿を表す。
けれど現れた影は魔理沙でも、妖怪ですらなかった。
「なに……これ…?」
私の前に現れたのは、顔のほとんどを占める大きな目が一つだけあり、その頭から20センチくらいの触手が何十本と生えた、異形の怪物だった。
頭の横からはどの動物にもたとえられないような、ねじれて歪んだ腕が左右あわせて3本あり、ビクビクと時々気味悪く震えている。
その歪すぎる姿に思わず声を失う。
普通の自然界にはありえないその姿。
人の形をしていない妖怪でも、ここまで歪な形はしていないだろう。
おそらくこれは、魔法生物というものだ。
主に魔法使いなどが実験や、使役するのを目的として動物などを元に作り出す生き物。
普通ならこのように野放しされることはほとんどないのだが、この歪な形からして失敗作の可能性が高い。
どこかの魔法使い、もしくは魔法の扱いに長けた妖怪がこの生物を生み出したが上手くいかずに捨てたか、昔の魔法使いが作り出したものが魔法の森の妖気を吸って、いまだに生きながらえていたか……そのどちらかだろう。
…今はこいつがどんな生物か考えるよりも、刺激せずに逃げるほうが大事ね…。
私はそう結論付けると、逃げ出すタイミングを計る。
魔法生物というのは基本的に魔法使いの護衛に作られた場合が多く、攻撃と防御魔法が使えるようにしてあるのだ。
作った魔法使いによって魔法生物の力も違うが、実力が未知数である以上下手に刺激するわけにはいかない。
その上急いで家を飛び出してきたおかげで、人形たちを一つも持ってきていないのだ。
この状態ではまともに戦うことは出来ないし、逃げるのが一番だろう。
「……そうと決まれば…」
私は魔法生物の目の動きに注目する。
こちらへの注意が一瞬でもずれたら、そのときがチャンスだ。
だが相手の目が合った瞬間、魔法生物の目の前に魔方陣が展開され―――
「きゃあっ!?」
―――私の足元に手のひら大の光の棘が打ち出された。
とっさに後ろ跳びに避けたので無事だったが、反応が遅かったら足をやられていた。
どうやら隙を突いて逃げようという考えは甘かったみたいね…。
戦力未知数の相手に万全ではない状態で挑みたくはないが、背中を見せて逃げ出すわけにはいかない。
もはや相手は完全に臨戦態勢。
私のことを駆除すべき“敵”と判断したのだから。
けれど私だってこんなところで動けなくなるわけにはいかない。
なぜなら、魔理沙にもう一度会って今日のことを謝らなければいけないから。
そのためにも、なんとかここを乗り切らなければ。
私はひとつ小さく息を吐き気持ちを切り替えると、素早く魔方陣を展開する。
とりあえず一番単純な攻撃魔法で牽制するだめだ。
魔方陣が出現し瞬時に数発の光弾が打ち出される。
それらは全て外れずに敵へと命中しそうになるが、寸でのところで障壁に防がれてしまう。
やはりこの程度の攻撃ぐらいなら防ぐ防御魔法は備えていたらしい。
これは相手の攻撃をかわしながら、あの障壁を破るほどの威力がある魔法を放つか、隙を突いて障壁を張られる前に攻撃を叩き込むしかない。
けれどさっきの反応速度からして、障壁を張るのに敵が要している時間は限りなく短く、隙を突いて攻撃を当てるという案が成功する確率は低そうだ。
なら敵からの攻撃をかわしつつ、発動には時間がかかるが威力のある魔法で障壁ごと吹き飛ばす。
それが最善の手だろう。
私は決断すると、即その準備にかかる。
しかし敵も待ってはくれない。
私が攻撃してこないと見るなり、即座に魔法を放ってくる。
「けどこのぐらいの初級魔法なら…!」
次々と襲い掛かる光弾や光の帯を、軌道を読みかわしていく。
魔法によっては追尾性能を備えたものもあるが、敵の魔方陣の単純さから見てそれはないだろう。
これなら障壁を展開せずにかわすだけでしのぐことが出来そうだ。
そうしてかわしながらも、徐々に魔力を練っていく。
よし、これなら……!
準備が整ったところで、思いっきり横飛びして敵の射程から外れる。
そして練りこんだ魔力を魔法に変え―――
「これで最後よっ! 喰らいなさいっ!」
―――かわす余裕を与えずに叩き込むっ!
魔法は回避不能の速度で敵へと迫り、みごとに直撃する。
十分に力をためて放った一撃は障壁を打ち破り、爆発とともに相手を後方へと吹き飛ばした。
「ふぅ……これで一安心かしら」
ちゃんと敵の身体への命中を確認したわけじゃないけど、防御は崩したし硬そうな身体もしていなかったから倒したことに間違いないだろう。
一時はどうなるかと思ったけど、これで本来の目的を果たしにいける。
「今度こそ魔理沙の家にいけるわね…。魔理沙に、ちゃんと謝らなくちゃ…」
ちゃんと仲直りできるか不安を覚えながらも、魔理沙に会いに行くべく一歩を踏み出した。
が―――
ビュンッ
「―――えっ!?」
風を切る音が聞こえ、とっさにその方向を向く。
視線を向けた先には、眼前まで迫ってきている光の帯が見えた。
「なっ!?」
瞬間身を翻し、紙一重でそれをかわす。
おそらく攻撃魔法であろうその光が飛んできた方向に目を向けると、そこにいたのは―――先ほど倒したはずの魔法生物だった。
「嘘っ…! た、確かに倒したはずだったのに…!」
間違いなくあの時、私の放った魔法は障壁を破壊し敵の身体へと届いたはずだ。
それなのにどうして、あいつは無事でいるの…!
困惑して相手に視線を向けていると、その身体を覆うように球状の障壁が展開されているのが確認できた。
「まさか、二重に張ってあったっていうの…!?」
私は自分の詰めの甘さを呪った。
一枚目の障壁が張られたその先に、さらに2枚目があったなんて…!
そこへ先ほどと同じ攻撃が迫ってきた。
予想外の出来事に呆然としていた私は、一瞬反応が遅れた。
「まずっ!?」
紙一重のところでその攻撃はかわすが、地面に足を取られ次の対応が遅れる。
その隙に相手の追撃が迫り、なんとか防御したもののバランスを崩し倒れこんだ。
「しまっ!?」
体勢を立て直そうとしたがすでに遅い。
敵はすでにとどめの一撃を私に叩き込むべく、力の充電を完了していた。
もはやあとはその力を私に向かって解き放つだけ。
防御壁を作り出す暇などない。
嘘……私、ここで死んじゃうの…?
頭に漠然と死という言葉が浮かんでくる。
死はある日突然、不条理に降りかかるものだとは知っていたけど、いくらなんでもこれはあんまりだ。
だってまだ、魔理沙にごめんなさいも言えてないのに…。
「いや…こ、こんなところで死にたくない…っ」
魔理沙とケンカしたままで、仲直りできないままで。
謝ることも出来ないまま死んでしまうなんて、そんなの絶対に嫌だ。
けれど、感情どころか思考回路すらまともにあるかわからない魔法生物に、なにを言っても無駄だ。
攻撃の準備が完了した瞬間、なんの躊躇もなくそいつは魔法を放ってくる。
ほ、ホントにここで終わりなの…?
魔理沙と仲直りできないまま、謝ることも出来ないまま、死んじゃうの…?
心の中が後悔で埋め尽くされる。
これも魔理沙にあんなことを言った報いなのだろうか。
「いや……魔理沙…」
後悔と恐れで頬には一筋の涙が伝う。
彼女の名前を口にするが、そんなことになんの意味もない。
だけどもしかしたら、名前を呼んだら助けに来てくれないだろうかなんて、都合のいい考えが頭に浮かび、慌てて否定する。
魔理沙に対して酷いことを言っておきながら、その上助けてもらおうなんて都合がいいにもほどがある。
……でも、もう一度だけでいいから魔理沙に会いたい。
一目でいいから魔理沙にあって、今日のことを謝りたい。
このまま死んでしまうなんて、絶対に嫌だ…。
「助けて……魔理沙…っ」
自然とそんな言葉が口をついて出る。
敵の攻撃は放たれ、すでに眼前へと迫っていた。
もはや次の瞬間には、私の身体を吹き飛ばしているだろう。
だから私は、最後になるかもしれない一言を口にした。
「助けてっ…魔理沙ーーーっ!!」
無駄だとは知りつつも、夢物語だと思いつつも、その名前を叫ぶ。
あぁ、やっぱり自分は最後まで、魔理沙に迷惑をかけっぱなしだったと後悔し目を閉じたとき―――
―――ありえないことが起こった。
強烈な炸裂音がし、驚き目を開ける。
てっきり私に敵の攻撃が当たる音だと思ったが、そんな激痛は感じない上に音は目の前で鳴り響いていた。
そして目の前の光景に、私は驚愕する。
私の目の前にひとつの人影が立っていたのだ。
その人影は―――
「う…そ……。魔理……沙?」
私は自分の目を疑った。
もしかして夢でも見ているんだろうか?
私を守るように敵と対峙する背中は、まさしく見間違いようのない彼女のもの。
この場に来てくれることを、なによりも願った姿。
「魔理沙……来て、くれたんだ…」
言葉とともに、止まっていた涙が一粒こぼれた。
あんなことを言ったのに、魔理沙は私を助けるために駆けつけてくれた。
それがとっても嬉しくて、感情が胸では収まりきらず涙となってあふれ出した。
「てめぇ……よくも私のアリスを傷つけてくれたな…」
この場にいても感じる、魔理沙から発せられる怒気。
いつもの彼女からは絶対に感じることのないそれは、私ですら声をかけるのをためらうほど、重厚で濃密だった。
魔理沙が纏っている空気は、いつもの明るいそれとは異質のもの。
威圧感と力強さ、激しさを兼ね備えた風。
その身をも焦がしかねない雰囲気に、感情がないはずの魔法生物が恐れをなしたように後ずさる。
それほどに魔理沙から感じられるそれは、殺気とすら錯覚するほどにチリチリと相手の精神をすり減らすものだった。
「私はなぁ…大抵のことは許してやるが、一つだけどうしても許せないことがあるんだ。それはな……」
魔理沙が話している途中、魔物が自棄になったのか突然レーザーを放ってくる。
「魔理沙危ないっ!!」
思わず叫び声をあげるが魔理沙は微動だにしない。
そうしている間にも攻撃は迫り、魔理沙にもう少しで直撃しそうになる。
くっ…とにかく、なんとか止めないと!
魔理沙の真意はわからないが、あの魔法の直撃を受けたら魔理沙でもただではすまない。
私は最後の力を振り絞り、障壁を展開させようしたが―――そこでレーザーが、突然向きを変えた。
「えっ!?」
その攻撃は魔理沙へ向かうと見せかけ、急に方向を変えて私のほうへと向かってくる。
完全に不意をつかれ、対応が間に合わない。
そのまま魔法は私の身体に直撃―――しそうなところで、眩しい光とともに炸裂し消え去った。
…………えっ?
予想外の出来事に驚き動きを止めてしまう。
何が起こったのかわからないが、敵の魔法があたる直前で見えない壁に阻まれて打ち消されたようだ。
しかし私は防御なんてする暇なかったし…。
まさか魔理沙が…?
そう考えれば魔理沙が微動だにしなかったのも説明がつく。
それに打ち消される間に見えた光の色は、魔理沙がいつも防御に使っている障壁の色にそっくりだったし…。
「ったく、魔法生物で感情ほとんどないくせして、性根だけは完全に捻じ曲がってやがるな…。いいぜ、てめぇの腐りきった性根ごと、跡形もなく消し去ってやる…!」
言葉とともに魔理沙はポケットに手を突っ込み、ビー玉大の黒い玉をいくつか取り出す。
だがその隙に魔法生物は、先手必勝とばかりに攻撃を放ってくる。
それに対して魔理沙は右手に持っていた玉を投げつけた。
魔法と魔理沙の投げた接触した瞬間、激しい閃光とともに爆発音がとどろく。
その炸裂によって相手の魔法は完全に吹き飛んだ。
「ふっ!」
軽く息を吐くとともに、魔理沙は敵へと左手に持っていた先ほどと同じ玉を投げつける。
だが相手もバカではない。
魔理沙の動きに合わせて、その玉とは逆方向に飛び回避しようとする。
しかし魔理沙は焦ることなく左足を後ろにそらし、
「甘いんだよっ!!」
掛け声とともに、その足を思いっきり振りぬく。
その蹴り上げた軌道の先には黒い玉があり、勢いよく敵の回避方向へと飛んでいった。
おそらく右手で玉を投げつけたとき一粒下に落としていたものを、地面に落ちる前に蹴り上げたのだろう。
相手は対応しきれずに丁度玉の飛んでいくところと重なり、近距離まで迫ったところで爆せる。
ギリギリで敵が踏みとどまったのか直撃はしなかったが、完全に動きは止まった。
そこへ魔理沙が先ほどのと同じ玉を素早く取り出し、相手に投げつける。
またしてもそれは直撃はしなかったが、爆発は相手を包み込み動きを完璧に封じた。
そこで魔理沙の意図に気づいた。魔理沙の狙いはあの炸裂魔法による攻撃じゃない。
あれはあくまでおとりと足止めのため。
彼女の本当の狙いは―――
「これで終いだ。てめぇにこれ以上手間かける気はねぇ。この一撃で景気よく沈みな」
素早く懐からあるものを取り出す。
私にはすでにおなじみの、魔理沙が愛用している魔法具―――ミニ八卦炉。
短い八角柱の形をした、一見武器には見えそうもないそれ。
けれど彼女にとってはまさに、伝家の宝刀。
刀を構える武士のごとく、自然にかつ隙なく両手で構える。
そして魔力がミニ八卦炉へと集中し―――
「消え失せなっ! 恋符・マスタースパァァァァクッ!!!」
―――彼女の代名詞たる魔法が放たれる!!
轟音とともに虹色の魔法が迸る。
それは辺りを明るく照らし出し、空気を鋭く切り裂いていく。
人一人なら容易く飲み込んでしまうほどの光の帯は、地面を削りながら瞬く間に敵へと到達した。
瞬時に敵を包み込むとその勢いを衰えさせることなく、周りの木々を巻き込み景色を虹色に染め上げる。
そして光が収まった後に敵の姿は塵ほども残ってはおらず、なぎ倒された木々と丸く削りとられた地面のあとだけが、その威力の高さを物語っていた。
魔理沙は八卦炉をしまうと力を抜くようにフッと息を吐き、敵の立っていた場所を一瞥する。
「私のどうしても許せないことは、自分の愛するものを傷つけられることだ。来世では気をつけるんだな」
魔理沙のまっすぐな言葉に、思わず胸が高鳴った。
家ではあんな態度を取ってしまったのに、変わらず想いを伝えてくれる魔理沙。
「ま、魔理沙っ。その…さっきはごめんなさいっ。あんな酷いこと言って…」
ちゃんと言えるか心配だった言葉も、自然とこぼれ出ていた。
ここまで真剣に私のことを想ってくれている魔理沙に対して、ただの照れ隠しなんかであんなことを言ってしまうなんて…。
自分の酷さが頭にくる。
こんなに理不尽な理由で追い返したのだから、簡単に許してなんてもらえないと思う。
けれど魔理沙は―――
「いや、気にしなくていいぜ。あれはアリスの照れ隠しだって分かってるしな。それより怪我してないか?」
―――なんて、笑顔で心配してくれた。
「魔理沙……。うん、大丈夫。ホントにありがとう…」
悪いのは全部私なのに、それを笑顔一つで許してくれる優しさに涙がこぼれそうになる。
どうして魔理沙は、こんなにも強くて優しいんだろう…。
「それならよかったぜ。うん、手とかちょっと擦りむいてるところあるけど、それ以外は大丈夫みたいだな」
「だ、だから大丈夫だってばっ」
特に怪我したところなんてないんだけど、それでも魔理沙は私の手なんかを掴んで怪我がないかどうか確かめている。
なんだかそれが恥ずかしくてちょっと照れてしまうけれど、さっきのことがあるからされるがままになってしまう。
ただ照れている顔は見られたくなくて、思わずそっぽを向いてしまった。
それだけ心配してくれるということだからホントは嬉しいのだけどね…。
「そういえばさ、アリスに一つ言っておきたいことがあるんだけどさ…」
ふいに今まで明るかった魔理沙の声が、少し真剣なものになる。
「えっ…どうしたの魔理―――きゃっ!?」
返事をしようとしたところでぐいっと腕を引かれ、バランスがとれず魔理沙の方に倒れこむ。
そのまま胸で受け止められ、ぎゅっと抱きしめられた。
「ま、魔理沙…?」
突然起こった出来事に、驚きと恥ずかしさで心臓がバクバクいっている。
いつもは優しくしてくれるまりさだけど、今は少しキツイくらいに抱きしめられていた。
さっきはいつもの笑顔の魔理沙だったのに、いったいどうしたんだろう…?
「…あんまり危ないことすんなよ。アリスが傷つくところなんて一瞬だってみたくないんだ。ましてや私がもうちょっと来るのが遅かったらどうなってたか…!」
普段からは想像出来ないほど、トーンの低くて真面目な声で話す魔理沙。
そう言う魔理沙の声は凄し怒っているようで、それでも私を心の底から心配してくれる気持ちが伝わってきてドキドキしてしまう。
「アリスがなにより大事なんだよ。この世界中の誰よりも、自分の命よりも…。アリスがいなくなったらなんて考えたら私はっ……!」
少し震えている声が、私の胸を締め付ける。
ここまで自分のことを案じてくれる魔理沙に、ときめいてしまうと同時に、本当に申し訳なく思った。
あんな酷いこと言っておきながら助けに来てもらって、しかもその上こんなに心配させて…。
「魔理沙……ごめんなさい…。でもあなたが、そこまで私のこと思ってくれてたなんて…」
「…当然だろ? 私はアリスのこと、そのぐらい真剣に愛してるんだ。お前のことは絶対、私が命をかけて守ってみせる。相手が誰であったとしても、アリスを傷つけさせやしないぜ」
抱きしめられていた腕を解き、まっすぐな瞳で見つけてくる魔理沙。
本気の言葉と強い眼差しに、体の熱は急上昇し始めた。
「アリス…大好きだぜ」
「魔理沙…………うん、私も……だ、大好き」
熱があるんじゃないかと思うほど顔の熱が上昇する。
いつも素直にいえない私でも、ここまで言われたら素直にならざるおえなかった。
ううん、やっぱりホントは自分からも想いを伝えたかったからだと思う。
だって私も魔理沙のこと、言葉じゃ言い表せないくらい大好きだから。
「アリス……」
「ま、魔理沙……」
互いの名前を呼び合い、魔理沙の左手と自分の右手の指を絡める。
視線がぶつかり彼女の瞳に釘付けになった。
とても綺麗で吸い込まれそうな、優しさと強さを兼ね備えた瞳。
見つめられるだけで彼女の魅力に取り付かれたように、頭がぼーっとしてくる。
まるで彼女に酔ってしまったように。
「なぁアリス、いいだろ?」
魔理沙の問いかけに、こくんと頷くだけで答える。
なにをとは言われてないけれど、魔理沙が言いたいことはわかっている。
だからそれを待つように、私はドキドキしながら目を閉じた。
今まで何度かされたことはあるけれど、いつもこの瞬間は心臓が飛び出そうなほど緊張する。
目を閉じてすぐに、顎に温かいものが触れた。
目を開けなくても分かる。これは間違いなく魔理沙の親指と人差し指。
そして次の瞬間―――温かで柔らかい、ちょっと湿った感触が唇に触れた。
胸が今まで一番の早鐘を鳴らし、顔の熱は湯気が出ているんじゃないかというほど熱い。
あまりの緊張で身体は硬くなり、つい息まで止めてしまう。
少しの間触れていた後、それはゆっくりと離れていった。
静かに目を開けると目の前に魔理沙の顔があって、さらに心臓が跳ね上がる。
「アリス…すごく可愛いぜ」
言って、もう一度口付けしてくる魔理沙。
今度は短く、けれど何度もキスをされる。
小鳥がついばむような連続したキスに、心がとろけてしまいそう。
「アリス、愛してるぜ」
20回近くの短い口付けの後、吐息がかかる距離でそう告げてくれる魔理沙。
「魔理沙……私も愛してる…」
自然と答えが口からこぼれ出た。
沢山の愛の言葉のおかげで身体は火照り、胸はバクバクしっぱなし。
おまけに熱いキスまでされて、お酒に酔ったように意識ははっきりせず魔理沙しか見えない。
ううん、今だけは魔理沙しか見たくない。
この視界に魔理沙だけ。この世界に二人だけ。
そうなってしまってもいいと思えるくらい―――あなたが好き…。
「魔理…沙…。すき……だいすきぃ…」
求めるように名前を呼び、あふれ出る想いを言葉にする。
自分の唇から漏れる吐息が、びっくりするくらい熱い。
魔理沙のことが好きで、好きで……大好きで。
彼女を想い過ぎて胸が締め付けられる。
「私も大好きだ。本当に心から、世界中の誰よりも大好きだぜ…」
熱い視線で見つめられ、強い気持ちを向けられる。
唇にかかる魔理沙の息もすごく熱くて、火傷してしまいそう。
いつもだったらこんな距離間、一秒だって耐えられない。
でも今は、ずっとこのままでいたいと思う。
―――違う、これじゃあ足りない…。
「まりさぁ…もっと、ほしいよぉ」
もっともっと、魔理沙の“好き”が欲しい。
あれだけじゃ、全然満たされない。
だから私は―――
「うん? どうしたんだアリ―――っ!?」
―――初めて自分から、魔理沙に口付けをしていた。
最初はそっと、後からどんどん強く。
魔理沙のことが好きなんだ、魔理沙は私のことが好きなんだという想いが欲しくて。
途中から魔理沙がしてくれたみたいに、短く連続したキスをする。
何度も繰り返すたびに、少しずつ満たされていく。
それでもまだまだ足らなくて…。
「魔理沙が好きで好きでしょうがないの…。もっと魔理沙の好きだって気持ちが欲しいの…」
私の言葉に魔理沙は少し驚いたような顔をする。
きっと普段素直じゃない私が、ここまで言うとは思っていなかったんだろう。
さすがに自分でも変なこと言ってしまったかと不安になったけど、魔理沙はすぐに、
「じゃあさ、少し激しくいくぜ?」
なんていたずらっぽく笑った。
「えっ…―――んっ」
言ってすぐに、さっきよりも強めに口付けされる。
唇を吸うようにキスをされて少しビックリしたけれど、されるがままになる私。
そして強めのキスにも慣れてきたとき―――ふいに舌を入れられた。
「んっ!?」
今までそんなこと一度もされたことなくて、ビクッと身体を震わせてしまう。
だけど魔理沙がゆっくりとしてくれたおかげで、だんだんと体の硬さも取れてきた。
そして自分からも少しずつ、魔理沙の舌に自分のそれを絡めていく。
最初自分の口の中で受け止めているだけだったのに、気がついたら自分から魔理沙の舌や口の中に触れるようになっていた。
互いの唾液が混ざり合い、どんどん激しくなっていく。
「魔理沙ぁ…」
「アリスっ」
互いの名前を呼びながら、濃厚なキスを交わす。
魔理沙の舌で自分の舌を絡めとられ、優しく吸われる。
それを見よう見まねで真似をし、深い絡みになっていく。
ただのキスとは違って、魔理沙のことが強く感じられてクラクラする。
だけど同時に、心がすごく満たされていった。
魔理沙の想いが伝わってきて、胸の中の空洞が温かいもので満たされる。
そんな感覚が嬉しくて、幸せで…。
このままずっと続けていたい―――そんな気持ちになる。
その想いを伝えるようにつないだ手をしっかりと握り締め、求めるようなキスを繰り返す。
胸に詰まった魔理沙への想いを、彼女の胸に送り届けられるように。
愛しているというこの気持ちを、ずっと一緒にいたいというこの想いを―――かっこよくて、優しくて……どんなときも元気をくれる、大好きなあなたに。
届けたくて、わかって欲しくて、伝えたくて…。
何度も、何度も、何度も…口付けを交わした―――
何十分にも何時間にも感じられたキスの後、どちらともなくゆっくりと唇を離す。
離した瞬間には互いの間に透明な橋がかかり、自分たちが激しくつながっていたことを表していた。
「アリス……その、大丈夫か?」
魔理沙が少し不安そうに私の顔を覗いてくる。
ここまでしたのは初めてだったから、心配してくれているんだろう。
「うん……だ、大丈夫…」
最初はかなり驚いたけど、今は満たされた感じで一杯だった。
大好きな彼女からこんなに愛されて、沢山キスをされて……本当に幸せ。
嬉し過ぎて、幸せ過ぎて…胸が一杯。
家を出たときは魔理沙への罪悪感で一杯だったのに、今では幸せな気持ちで溢れている。
ピンチのときに助けに来てくれたこと。
酷い言葉に一言も文句を言わず、私のことを心配してくれたこと。
強く抱きしめて、いっぱい口付けてくれたこと…。
沢山の魔理沙からの愛で、とっても心があたたかい。
ありがとうって言いたくて、一緒にいたいって伝えたくて、大好きだよって何度も告げたくて…。
魔理沙への数え切れない想いが、あとからあとから溢れてくる。
びっくりするくらい幸せで、驚くくらいの気持ちがあふれ出て、自分でもどうすればいいかわからなくなりそう。
「アリス…」
どうすればいいか困っている私に対して、魔理沙はニコっと笑いかけてくれる。
そして、今まで一番優しい声で―――
「…大好きだぜ」
―――包み込むように届けてくれた。
その言葉があまりにも優しくて、想いが沢山詰まっていて、気づいたら―――涙が零れ落ちていた。
「ア、アリスっ? や、やっぱりさっきの激し過ぎたかっ?」
「う、ううん…そうじゃないの。す、すっごく幸せで……魔理沙が大好き過ぎて、いつのまにか涙が出てきちゃったの…」
悲しさじゃなく、苦しさでもなくて、幸せや嬉しさで涙がこぼれるなんて初めてだった。
きっとそれは今まで生きてきた中で、一番彼女と一緒が幸せだから。
魔理沙の隣が一番安らげる場所だから…。
「そっか…。なんだか嬉しいぜ」
安心したように微笑むと、ふわりと優しく抱きしめてくれる魔理沙。
ここが私の温かくて心地いい、世界で一番大好きな場所。
「焦らなくてもいい。泣き止むまでこうしてるから、ゆっくり落ち着こう、な?」
「うん……ありがとう魔理沙」
柔らかな声で語りかけながら、優しく頭をなでてくれる。
魔理沙は人間のはずなのに、私よりもずっと魔法使いみたい。
だって彼女の言葉や行動で、私はあっという間に幸せになってしまうんだもの。
きっと魔理沙は魔法使いなんだ。
いつだって私に笑顔をくれる―――幸せの魔法使いさん。
「アリス、愛してるぜ」
「うん…ありがとう。私も魔理沙のこと、愛してる…」
目を合わせて笑いあう―――
たのしくはずむ、しあわせなこころ。
ふわふわでまあるい、やさしいきもち。
だいすきだよ。
ずっとずっと、いっしょにいよう。
いつでもあったかい、えがおにしてくれる。
いつもしあわせを、とどけてくれる。
わたしだけの、やさしいやさしい―――まほうつかいさん。
~Fin~
夜空にはすでに一番星が輝き、世界がもうすぐ闇に包まれることを知らせている。
普段だったらこんな時間に森の中を走ることなんてしないのだけど、今日中にどうしてもいかなければならない場所があるのだ。
それはいつも私の家に遊びに来る人間の魔法使い―――魔理沙の家だ。
今日も魔理沙は私の家にやってきて、いつもどおりに私の出したお菓子を食べていた。
なぜ今日も家にやってきた魔理沙の家に、急いで向かっているのか不思議に思われるかもしれない。
でもそれには、行かなければならない理由があるからだ。
その理由とは、今日私が魔理沙に言ってしまった言葉にある。
やってきた魔理沙にいつものようにお菓子を出したのだけど、今日出したお菓子は気が向いたので今まで作ったことのないものに挑戦してみたのだ。
初挑戦だった割りに上手く出来て、魔理沙も喜んでくれるかなぁと期待しつつ彼女に食べさせてみたのである。
結果は思った以上に美味しいと褒めてもらえて、心の中ではとっても嬉しかった。
けれど魔理沙の前ではどうしても素直になれなくて、褒めてくれた魔理沙に対して「お、お世辞でしょそんなのっ! それより用がないなら早く帰ってっ!」と言ってしまったのだ。
それで魔理沙は少し寂しそうな顔をして帰ってしまった。
彼女はただ、私のお菓子を褒めてくれただけなのに…。
きっと魔理沙を傷つけてしまったに違いない。
魔理沙が出て行った後私は後悔の念に駆られ、迷いはしたが魔理沙に謝ることに決め、家を飛び出した。
途中までは空を飛んできたのだけど、心の準備は終わる前に見つかってしまうのが怖くて、近くまで来てから飛ぶのをやめて走っているのだ。
自分が悪いのだからそんなこと言ってられないだろうとは思うのだけど、急に話しかけられたらちゃんと答えられる自信がない…。
だから自分でも駄目だとは思いつつ、森の中を走る。
とにかく会って謝ろう。
謝って、出来ることなら今までみたいに、変わらずうちに遊びに来るようになって欲しい。
なぜなら、彼女のいない生活なんて寂しくて堪えられそうにないから。
本当はあそこで帰って欲しくなんてなかったし、ずっと一緒にいて欲しかった。
だって私は、魔理沙のこと―――
ガサッ
「えっ…!?」
すぐ横の草むらから物音がして立ち止まる。
この魔法の森は化け物茸の胞子がまっていて、普通の動物は住めないし妖怪もほとんど近づかないはず。
だから森の中を歩いていても、なにかに出くわすことなんてほどんどないのだけど…。
まさか、魔理沙?
慌ててどこか隠れられそうなところを探すけど、今いるのは比較的開けたところで身を隠せそうな場所なんてない。
そうしてわたわたしていると、気配の主が姿を表す。
けれど現れた影は魔理沙でも、妖怪ですらなかった。
「なに……これ…?」
私の前に現れたのは、顔のほとんどを占める大きな目が一つだけあり、その頭から20センチくらいの触手が何十本と生えた、異形の怪物だった。
頭の横からはどの動物にもたとえられないような、ねじれて歪んだ腕が左右あわせて3本あり、ビクビクと時々気味悪く震えている。
その歪すぎる姿に思わず声を失う。
普通の自然界にはありえないその姿。
人の形をしていない妖怪でも、ここまで歪な形はしていないだろう。
おそらくこれは、魔法生物というものだ。
主に魔法使いなどが実験や、使役するのを目的として動物などを元に作り出す生き物。
普通ならこのように野放しされることはほとんどないのだが、この歪な形からして失敗作の可能性が高い。
どこかの魔法使い、もしくは魔法の扱いに長けた妖怪がこの生物を生み出したが上手くいかずに捨てたか、昔の魔法使いが作り出したものが魔法の森の妖気を吸って、いまだに生きながらえていたか……そのどちらかだろう。
…今はこいつがどんな生物か考えるよりも、刺激せずに逃げるほうが大事ね…。
私はそう結論付けると、逃げ出すタイミングを計る。
魔法生物というのは基本的に魔法使いの護衛に作られた場合が多く、攻撃と防御魔法が使えるようにしてあるのだ。
作った魔法使いによって魔法生物の力も違うが、実力が未知数である以上下手に刺激するわけにはいかない。
その上急いで家を飛び出してきたおかげで、人形たちを一つも持ってきていないのだ。
この状態ではまともに戦うことは出来ないし、逃げるのが一番だろう。
「……そうと決まれば…」
私は魔法生物の目の動きに注目する。
こちらへの注意が一瞬でもずれたら、そのときがチャンスだ。
だが相手の目が合った瞬間、魔法生物の目の前に魔方陣が展開され―――
「きゃあっ!?」
―――私の足元に手のひら大の光の棘が打ち出された。
とっさに後ろ跳びに避けたので無事だったが、反応が遅かったら足をやられていた。
どうやら隙を突いて逃げようという考えは甘かったみたいね…。
戦力未知数の相手に万全ではない状態で挑みたくはないが、背中を見せて逃げ出すわけにはいかない。
もはや相手は完全に臨戦態勢。
私のことを駆除すべき“敵”と判断したのだから。
けれど私だってこんなところで動けなくなるわけにはいかない。
なぜなら、魔理沙にもう一度会って今日のことを謝らなければいけないから。
そのためにも、なんとかここを乗り切らなければ。
私はひとつ小さく息を吐き気持ちを切り替えると、素早く魔方陣を展開する。
とりあえず一番単純な攻撃魔法で牽制するだめだ。
魔方陣が出現し瞬時に数発の光弾が打ち出される。
それらは全て外れずに敵へと命中しそうになるが、寸でのところで障壁に防がれてしまう。
やはりこの程度の攻撃ぐらいなら防ぐ防御魔法は備えていたらしい。
これは相手の攻撃をかわしながら、あの障壁を破るほどの威力がある魔法を放つか、隙を突いて障壁を張られる前に攻撃を叩き込むしかない。
けれどさっきの反応速度からして、障壁を張るのに敵が要している時間は限りなく短く、隙を突いて攻撃を当てるという案が成功する確率は低そうだ。
なら敵からの攻撃をかわしつつ、発動には時間がかかるが威力のある魔法で障壁ごと吹き飛ばす。
それが最善の手だろう。
私は決断すると、即その準備にかかる。
しかし敵も待ってはくれない。
私が攻撃してこないと見るなり、即座に魔法を放ってくる。
「けどこのぐらいの初級魔法なら…!」
次々と襲い掛かる光弾や光の帯を、軌道を読みかわしていく。
魔法によっては追尾性能を備えたものもあるが、敵の魔方陣の単純さから見てそれはないだろう。
これなら障壁を展開せずにかわすだけでしのぐことが出来そうだ。
そうしてかわしながらも、徐々に魔力を練っていく。
よし、これなら……!
準備が整ったところで、思いっきり横飛びして敵の射程から外れる。
そして練りこんだ魔力を魔法に変え―――
「これで最後よっ! 喰らいなさいっ!」
―――かわす余裕を与えずに叩き込むっ!
魔法は回避不能の速度で敵へと迫り、みごとに直撃する。
十分に力をためて放った一撃は障壁を打ち破り、爆発とともに相手を後方へと吹き飛ばした。
「ふぅ……これで一安心かしら」
ちゃんと敵の身体への命中を確認したわけじゃないけど、防御は崩したし硬そうな身体もしていなかったから倒したことに間違いないだろう。
一時はどうなるかと思ったけど、これで本来の目的を果たしにいける。
「今度こそ魔理沙の家にいけるわね…。魔理沙に、ちゃんと謝らなくちゃ…」
ちゃんと仲直りできるか不安を覚えながらも、魔理沙に会いに行くべく一歩を踏み出した。
が―――
ビュンッ
「―――えっ!?」
風を切る音が聞こえ、とっさにその方向を向く。
視線を向けた先には、眼前まで迫ってきている光の帯が見えた。
「なっ!?」
瞬間身を翻し、紙一重でそれをかわす。
おそらく攻撃魔法であろうその光が飛んできた方向に目を向けると、そこにいたのは―――先ほど倒したはずの魔法生物だった。
「嘘っ…! た、確かに倒したはずだったのに…!」
間違いなくあの時、私の放った魔法は障壁を破壊し敵の身体へと届いたはずだ。
それなのにどうして、あいつは無事でいるの…!
困惑して相手に視線を向けていると、その身体を覆うように球状の障壁が展開されているのが確認できた。
「まさか、二重に張ってあったっていうの…!?」
私は自分の詰めの甘さを呪った。
一枚目の障壁が張られたその先に、さらに2枚目があったなんて…!
そこへ先ほどと同じ攻撃が迫ってきた。
予想外の出来事に呆然としていた私は、一瞬反応が遅れた。
「まずっ!?」
紙一重のところでその攻撃はかわすが、地面に足を取られ次の対応が遅れる。
その隙に相手の追撃が迫り、なんとか防御したもののバランスを崩し倒れこんだ。
「しまっ!?」
体勢を立て直そうとしたがすでに遅い。
敵はすでにとどめの一撃を私に叩き込むべく、力の充電を完了していた。
もはやあとはその力を私に向かって解き放つだけ。
防御壁を作り出す暇などない。
嘘……私、ここで死んじゃうの…?
頭に漠然と死という言葉が浮かんでくる。
死はある日突然、不条理に降りかかるものだとは知っていたけど、いくらなんでもこれはあんまりだ。
だってまだ、魔理沙にごめんなさいも言えてないのに…。
「いや…こ、こんなところで死にたくない…っ」
魔理沙とケンカしたままで、仲直りできないままで。
謝ることも出来ないまま死んでしまうなんて、そんなの絶対に嫌だ。
けれど、感情どころか思考回路すらまともにあるかわからない魔法生物に、なにを言っても無駄だ。
攻撃の準備が完了した瞬間、なんの躊躇もなくそいつは魔法を放ってくる。
ほ、ホントにここで終わりなの…?
魔理沙と仲直りできないまま、謝ることも出来ないまま、死んじゃうの…?
心の中が後悔で埋め尽くされる。
これも魔理沙にあんなことを言った報いなのだろうか。
「いや……魔理沙…」
後悔と恐れで頬には一筋の涙が伝う。
彼女の名前を口にするが、そんなことになんの意味もない。
だけどもしかしたら、名前を呼んだら助けに来てくれないだろうかなんて、都合のいい考えが頭に浮かび、慌てて否定する。
魔理沙に対して酷いことを言っておきながら、その上助けてもらおうなんて都合がいいにもほどがある。
……でも、もう一度だけでいいから魔理沙に会いたい。
一目でいいから魔理沙にあって、今日のことを謝りたい。
このまま死んでしまうなんて、絶対に嫌だ…。
「助けて……魔理沙…っ」
自然とそんな言葉が口をついて出る。
敵の攻撃は放たれ、すでに眼前へと迫っていた。
もはや次の瞬間には、私の身体を吹き飛ばしているだろう。
だから私は、最後になるかもしれない一言を口にした。
「助けてっ…魔理沙ーーーっ!!」
無駄だとは知りつつも、夢物語だと思いつつも、その名前を叫ぶ。
あぁ、やっぱり自分は最後まで、魔理沙に迷惑をかけっぱなしだったと後悔し目を閉じたとき―――
―――ありえないことが起こった。
強烈な炸裂音がし、驚き目を開ける。
てっきり私に敵の攻撃が当たる音だと思ったが、そんな激痛は感じない上に音は目の前で鳴り響いていた。
そして目の前の光景に、私は驚愕する。
私の目の前にひとつの人影が立っていたのだ。
その人影は―――
「う…そ……。魔理……沙?」
私は自分の目を疑った。
もしかして夢でも見ているんだろうか?
私を守るように敵と対峙する背中は、まさしく見間違いようのない彼女のもの。
この場に来てくれることを、なによりも願った姿。
「魔理沙……来て、くれたんだ…」
言葉とともに、止まっていた涙が一粒こぼれた。
あんなことを言ったのに、魔理沙は私を助けるために駆けつけてくれた。
それがとっても嬉しくて、感情が胸では収まりきらず涙となってあふれ出した。
「てめぇ……よくも私のアリスを傷つけてくれたな…」
この場にいても感じる、魔理沙から発せられる怒気。
いつもの彼女からは絶対に感じることのないそれは、私ですら声をかけるのをためらうほど、重厚で濃密だった。
魔理沙が纏っている空気は、いつもの明るいそれとは異質のもの。
威圧感と力強さ、激しさを兼ね備えた風。
その身をも焦がしかねない雰囲気に、感情がないはずの魔法生物が恐れをなしたように後ずさる。
それほどに魔理沙から感じられるそれは、殺気とすら錯覚するほどにチリチリと相手の精神をすり減らすものだった。
「私はなぁ…大抵のことは許してやるが、一つだけどうしても許せないことがあるんだ。それはな……」
魔理沙が話している途中、魔物が自棄になったのか突然レーザーを放ってくる。
「魔理沙危ないっ!!」
思わず叫び声をあげるが魔理沙は微動だにしない。
そうしている間にも攻撃は迫り、魔理沙にもう少しで直撃しそうになる。
くっ…とにかく、なんとか止めないと!
魔理沙の真意はわからないが、あの魔法の直撃を受けたら魔理沙でもただではすまない。
私は最後の力を振り絞り、障壁を展開させようしたが―――そこでレーザーが、突然向きを変えた。
「えっ!?」
その攻撃は魔理沙へ向かうと見せかけ、急に方向を変えて私のほうへと向かってくる。
完全に不意をつかれ、対応が間に合わない。
そのまま魔法は私の身体に直撃―――しそうなところで、眩しい光とともに炸裂し消え去った。
…………えっ?
予想外の出来事に驚き動きを止めてしまう。
何が起こったのかわからないが、敵の魔法があたる直前で見えない壁に阻まれて打ち消されたようだ。
しかし私は防御なんてする暇なかったし…。
まさか魔理沙が…?
そう考えれば魔理沙が微動だにしなかったのも説明がつく。
それに打ち消される間に見えた光の色は、魔理沙がいつも防御に使っている障壁の色にそっくりだったし…。
「ったく、魔法生物で感情ほとんどないくせして、性根だけは完全に捻じ曲がってやがるな…。いいぜ、てめぇの腐りきった性根ごと、跡形もなく消し去ってやる…!」
言葉とともに魔理沙はポケットに手を突っ込み、ビー玉大の黒い玉をいくつか取り出す。
だがその隙に魔法生物は、先手必勝とばかりに攻撃を放ってくる。
それに対して魔理沙は右手に持っていた玉を投げつけた。
魔法と魔理沙の投げた接触した瞬間、激しい閃光とともに爆発音がとどろく。
その炸裂によって相手の魔法は完全に吹き飛んだ。
「ふっ!」
軽く息を吐くとともに、魔理沙は敵へと左手に持っていた先ほどと同じ玉を投げつける。
だが相手もバカではない。
魔理沙の動きに合わせて、その玉とは逆方向に飛び回避しようとする。
しかし魔理沙は焦ることなく左足を後ろにそらし、
「甘いんだよっ!!」
掛け声とともに、その足を思いっきり振りぬく。
その蹴り上げた軌道の先には黒い玉があり、勢いよく敵の回避方向へと飛んでいった。
おそらく右手で玉を投げつけたとき一粒下に落としていたものを、地面に落ちる前に蹴り上げたのだろう。
相手は対応しきれずに丁度玉の飛んでいくところと重なり、近距離まで迫ったところで爆せる。
ギリギリで敵が踏みとどまったのか直撃はしなかったが、完全に動きは止まった。
そこへ魔理沙が先ほどのと同じ玉を素早く取り出し、相手に投げつける。
またしてもそれは直撃はしなかったが、爆発は相手を包み込み動きを完璧に封じた。
そこで魔理沙の意図に気づいた。魔理沙の狙いはあの炸裂魔法による攻撃じゃない。
あれはあくまでおとりと足止めのため。
彼女の本当の狙いは―――
「これで終いだ。てめぇにこれ以上手間かける気はねぇ。この一撃で景気よく沈みな」
素早く懐からあるものを取り出す。
私にはすでにおなじみの、魔理沙が愛用している魔法具―――ミニ八卦炉。
短い八角柱の形をした、一見武器には見えそうもないそれ。
けれど彼女にとってはまさに、伝家の宝刀。
刀を構える武士のごとく、自然にかつ隙なく両手で構える。
そして魔力がミニ八卦炉へと集中し―――
「消え失せなっ! 恋符・マスタースパァァァァクッ!!!」
―――彼女の代名詞たる魔法が放たれる!!
轟音とともに虹色の魔法が迸る。
それは辺りを明るく照らし出し、空気を鋭く切り裂いていく。
人一人なら容易く飲み込んでしまうほどの光の帯は、地面を削りながら瞬く間に敵へと到達した。
瞬時に敵を包み込むとその勢いを衰えさせることなく、周りの木々を巻き込み景色を虹色に染め上げる。
そして光が収まった後に敵の姿は塵ほども残ってはおらず、なぎ倒された木々と丸く削りとられた地面のあとだけが、その威力の高さを物語っていた。
魔理沙は八卦炉をしまうと力を抜くようにフッと息を吐き、敵の立っていた場所を一瞥する。
「私のどうしても許せないことは、自分の愛するものを傷つけられることだ。来世では気をつけるんだな」
魔理沙のまっすぐな言葉に、思わず胸が高鳴った。
家ではあんな態度を取ってしまったのに、変わらず想いを伝えてくれる魔理沙。
「ま、魔理沙っ。その…さっきはごめんなさいっ。あんな酷いこと言って…」
ちゃんと言えるか心配だった言葉も、自然とこぼれ出ていた。
ここまで真剣に私のことを想ってくれている魔理沙に対して、ただの照れ隠しなんかであんなことを言ってしまうなんて…。
自分の酷さが頭にくる。
こんなに理不尽な理由で追い返したのだから、簡単に許してなんてもらえないと思う。
けれど魔理沙は―――
「いや、気にしなくていいぜ。あれはアリスの照れ隠しだって分かってるしな。それより怪我してないか?」
―――なんて、笑顔で心配してくれた。
「魔理沙……。うん、大丈夫。ホントにありがとう…」
悪いのは全部私なのに、それを笑顔一つで許してくれる優しさに涙がこぼれそうになる。
どうして魔理沙は、こんなにも強くて優しいんだろう…。
「それならよかったぜ。うん、手とかちょっと擦りむいてるところあるけど、それ以外は大丈夫みたいだな」
「だ、だから大丈夫だってばっ」
特に怪我したところなんてないんだけど、それでも魔理沙は私の手なんかを掴んで怪我がないかどうか確かめている。
なんだかそれが恥ずかしくてちょっと照れてしまうけれど、さっきのことがあるからされるがままになってしまう。
ただ照れている顔は見られたくなくて、思わずそっぽを向いてしまった。
それだけ心配してくれるということだからホントは嬉しいのだけどね…。
「そういえばさ、アリスに一つ言っておきたいことがあるんだけどさ…」
ふいに今まで明るかった魔理沙の声が、少し真剣なものになる。
「えっ…どうしたの魔理―――きゃっ!?」
返事をしようとしたところでぐいっと腕を引かれ、バランスがとれず魔理沙の方に倒れこむ。
そのまま胸で受け止められ、ぎゅっと抱きしめられた。
「ま、魔理沙…?」
突然起こった出来事に、驚きと恥ずかしさで心臓がバクバクいっている。
いつもは優しくしてくれるまりさだけど、今は少しキツイくらいに抱きしめられていた。
さっきはいつもの笑顔の魔理沙だったのに、いったいどうしたんだろう…?
「…あんまり危ないことすんなよ。アリスが傷つくところなんて一瞬だってみたくないんだ。ましてや私がもうちょっと来るのが遅かったらどうなってたか…!」
普段からは想像出来ないほど、トーンの低くて真面目な声で話す魔理沙。
そう言う魔理沙の声は凄し怒っているようで、それでも私を心の底から心配してくれる気持ちが伝わってきてドキドキしてしまう。
「アリスがなにより大事なんだよ。この世界中の誰よりも、自分の命よりも…。アリスがいなくなったらなんて考えたら私はっ……!」
少し震えている声が、私の胸を締め付ける。
ここまで自分のことを案じてくれる魔理沙に、ときめいてしまうと同時に、本当に申し訳なく思った。
あんな酷いこと言っておきながら助けに来てもらって、しかもその上こんなに心配させて…。
「魔理沙……ごめんなさい…。でもあなたが、そこまで私のこと思ってくれてたなんて…」
「…当然だろ? 私はアリスのこと、そのぐらい真剣に愛してるんだ。お前のことは絶対、私が命をかけて守ってみせる。相手が誰であったとしても、アリスを傷つけさせやしないぜ」
抱きしめられていた腕を解き、まっすぐな瞳で見つけてくる魔理沙。
本気の言葉と強い眼差しに、体の熱は急上昇し始めた。
「アリス…大好きだぜ」
「魔理沙…………うん、私も……だ、大好き」
熱があるんじゃないかと思うほど顔の熱が上昇する。
いつも素直にいえない私でも、ここまで言われたら素直にならざるおえなかった。
ううん、やっぱりホントは自分からも想いを伝えたかったからだと思う。
だって私も魔理沙のこと、言葉じゃ言い表せないくらい大好きだから。
「アリス……」
「ま、魔理沙……」
互いの名前を呼び合い、魔理沙の左手と自分の右手の指を絡める。
視線がぶつかり彼女の瞳に釘付けになった。
とても綺麗で吸い込まれそうな、優しさと強さを兼ね備えた瞳。
見つめられるだけで彼女の魅力に取り付かれたように、頭がぼーっとしてくる。
まるで彼女に酔ってしまったように。
「なぁアリス、いいだろ?」
魔理沙の問いかけに、こくんと頷くだけで答える。
なにをとは言われてないけれど、魔理沙が言いたいことはわかっている。
だからそれを待つように、私はドキドキしながら目を閉じた。
今まで何度かされたことはあるけれど、いつもこの瞬間は心臓が飛び出そうなほど緊張する。
目を閉じてすぐに、顎に温かいものが触れた。
目を開けなくても分かる。これは間違いなく魔理沙の親指と人差し指。
そして次の瞬間―――温かで柔らかい、ちょっと湿った感触が唇に触れた。
胸が今まで一番の早鐘を鳴らし、顔の熱は湯気が出ているんじゃないかというほど熱い。
あまりの緊張で身体は硬くなり、つい息まで止めてしまう。
少しの間触れていた後、それはゆっくりと離れていった。
静かに目を開けると目の前に魔理沙の顔があって、さらに心臓が跳ね上がる。
「アリス…すごく可愛いぜ」
言って、もう一度口付けしてくる魔理沙。
今度は短く、けれど何度もキスをされる。
小鳥がついばむような連続したキスに、心がとろけてしまいそう。
「アリス、愛してるぜ」
20回近くの短い口付けの後、吐息がかかる距離でそう告げてくれる魔理沙。
「魔理沙……私も愛してる…」
自然と答えが口からこぼれ出た。
沢山の愛の言葉のおかげで身体は火照り、胸はバクバクしっぱなし。
おまけに熱いキスまでされて、お酒に酔ったように意識ははっきりせず魔理沙しか見えない。
ううん、今だけは魔理沙しか見たくない。
この視界に魔理沙だけ。この世界に二人だけ。
そうなってしまってもいいと思えるくらい―――あなたが好き…。
「魔理…沙…。すき……だいすきぃ…」
求めるように名前を呼び、あふれ出る想いを言葉にする。
自分の唇から漏れる吐息が、びっくりするくらい熱い。
魔理沙のことが好きで、好きで……大好きで。
彼女を想い過ぎて胸が締め付けられる。
「私も大好きだ。本当に心から、世界中の誰よりも大好きだぜ…」
熱い視線で見つめられ、強い気持ちを向けられる。
唇にかかる魔理沙の息もすごく熱くて、火傷してしまいそう。
いつもだったらこんな距離間、一秒だって耐えられない。
でも今は、ずっとこのままでいたいと思う。
―――違う、これじゃあ足りない…。
「まりさぁ…もっと、ほしいよぉ」
もっともっと、魔理沙の“好き”が欲しい。
あれだけじゃ、全然満たされない。
だから私は―――
「うん? どうしたんだアリ―――っ!?」
―――初めて自分から、魔理沙に口付けをしていた。
最初はそっと、後からどんどん強く。
魔理沙のことが好きなんだ、魔理沙は私のことが好きなんだという想いが欲しくて。
途中から魔理沙がしてくれたみたいに、短く連続したキスをする。
何度も繰り返すたびに、少しずつ満たされていく。
それでもまだまだ足らなくて…。
「魔理沙が好きで好きでしょうがないの…。もっと魔理沙の好きだって気持ちが欲しいの…」
私の言葉に魔理沙は少し驚いたような顔をする。
きっと普段素直じゃない私が、ここまで言うとは思っていなかったんだろう。
さすがに自分でも変なこと言ってしまったかと不安になったけど、魔理沙はすぐに、
「じゃあさ、少し激しくいくぜ?」
なんていたずらっぽく笑った。
「えっ…―――んっ」
言ってすぐに、さっきよりも強めに口付けされる。
唇を吸うようにキスをされて少しビックリしたけれど、されるがままになる私。
そして強めのキスにも慣れてきたとき―――ふいに舌を入れられた。
「んっ!?」
今までそんなこと一度もされたことなくて、ビクッと身体を震わせてしまう。
だけど魔理沙がゆっくりとしてくれたおかげで、だんだんと体の硬さも取れてきた。
そして自分からも少しずつ、魔理沙の舌に自分のそれを絡めていく。
最初自分の口の中で受け止めているだけだったのに、気がついたら自分から魔理沙の舌や口の中に触れるようになっていた。
互いの唾液が混ざり合い、どんどん激しくなっていく。
「魔理沙ぁ…」
「アリスっ」
互いの名前を呼びながら、濃厚なキスを交わす。
魔理沙の舌で自分の舌を絡めとられ、優しく吸われる。
それを見よう見まねで真似をし、深い絡みになっていく。
ただのキスとは違って、魔理沙のことが強く感じられてクラクラする。
だけど同時に、心がすごく満たされていった。
魔理沙の想いが伝わってきて、胸の中の空洞が温かいもので満たされる。
そんな感覚が嬉しくて、幸せで…。
このままずっと続けていたい―――そんな気持ちになる。
その想いを伝えるようにつないだ手をしっかりと握り締め、求めるようなキスを繰り返す。
胸に詰まった魔理沙への想いを、彼女の胸に送り届けられるように。
愛しているというこの気持ちを、ずっと一緒にいたいというこの想いを―――かっこよくて、優しくて……どんなときも元気をくれる、大好きなあなたに。
届けたくて、わかって欲しくて、伝えたくて…。
何度も、何度も、何度も…口付けを交わした―――
何十分にも何時間にも感じられたキスの後、どちらともなくゆっくりと唇を離す。
離した瞬間には互いの間に透明な橋がかかり、自分たちが激しくつながっていたことを表していた。
「アリス……その、大丈夫か?」
魔理沙が少し不安そうに私の顔を覗いてくる。
ここまでしたのは初めてだったから、心配してくれているんだろう。
「うん……だ、大丈夫…」
最初はかなり驚いたけど、今は満たされた感じで一杯だった。
大好きな彼女からこんなに愛されて、沢山キスをされて……本当に幸せ。
嬉し過ぎて、幸せ過ぎて…胸が一杯。
家を出たときは魔理沙への罪悪感で一杯だったのに、今では幸せな気持ちで溢れている。
ピンチのときに助けに来てくれたこと。
酷い言葉に一言も文句を言わず、私のことを心配してくれたこと。
強く抱きしめて、いっぱい口付けてくれたこと…。
沢山の魔理沙からの愛で、とっても心があたたかい。
ありがとうって言いたくて、一緒にいたいって伝えたくて、大好きだよって何度も告げたくて…。
魔理沙への数え切れない想いが、あとからあとから溢れてくる。
びっくりするくらい幸せで、驚くくらいの気持ちがあふれ出て、自分でもどうすればいいかわからなくなりそう。
「アリス…」
どうすればいいか困っている私に対して、魔理沙はニコっと笑いかけてくれる。
そして、今まで一番優しい声で―――
「…大好きだぜ」
―――包み込むように届けてくれた。
その言葉があまりにも優しくて、想いが沢山詰まっていて、気づいたら―――涙が零れ落ちていた。
「ア、アリスっ? や、やっぱりさっきの激し過ぎたかっ?」
「う、ううん…そうじゃないの。す、すっごく幸せで……魔理沙が大好き過ぎて、いつのまにか涙が出てきちゃったの…」
悲しさじゃなく、苦しさでもなくて、幸せや嬉しさで涙がこぼれるなんて初めてだった。
きっとそれは今まで生きてきた中で、一番彼女と一緒が幸せだから。
魔理沙の隣が一番安らげる場所だから…。
「そっか…。なんだか嬉しいぜ」
安心したように微笑むと、ふわりと優しく抱きしめてくれる魔理沙。
ここが私の温かくて心地いい、世界で一番大好きな場所。
「焦らなくてもいい。泣き止むまでこうしてるから、ゆっくり落ち着こう、な?」
「うん……ありがとう魔理沙」
柔らかな声で語りかけながら、優しく頭をなでてくれる。
魔理沙は人間のはずなのに、私よりもずっと魔法使いみたい。
だって彼女の言葉や行動で、私はあっという間に幸せになってしまうんだもの。
きっと魔理沙は魔法使いなんだ。
いつだって私に笑顔をくれる―――幸せの魔法使いさん。
「アリス、愛してるぜ」
「うん…ありがとう。私も魔理沙のこと、愛してる…」
目を合わせて笑いあう―――
たのしくはずむ、しあわせなこころ。
ふわふわでまあるい、やさしいきもち。
だいすきだよ。
ずっとずっと、いっしょにいよう。
いつでもあったかい、えがおにしてくれる。
いつもしあわせを、とどけてくれる。
わたしだけの、やさしいやさしい―――まほうつかいさん。
~Fin~
次回作もよろしく!
たくさんのマリアリssうpしてくださいよww
需要しかないと思いますので次のも楽しみにしてます!!
王道、故に最高ですな。
おっとこ前魔理沙の登場シーンは鳥肌モノでしたぞw
ちょっと魔理沙の口調が乱暴過ぎるかなぁと思ったけど楽しめたので問題無かったです
やっぱり王道もいいなぁ。
そして随分遅刻気味ですぜ。次回作の投下に期待が収まらないんだ。
やっぱ貴方のマリアリは素晴らしいです。