Coolier - 新生・東方創想話

図 書 館 談 話 

2010/10/09 21:58:23
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『 図 書 館 談 話 』

昼下がりの紅魔館大図書館。本日のメンバーは住人であるパチュリーと小悪魔に、
いつものごとく本を借りに来たアリス、いつものように狩りに来た魔理沙、そして珍客の霊夢である。
紅魔館に来ることはあっても図書館を訪れることは滅多にない霊夢だが、なんでもスキマ妖怪に
宿題を出されたとかで渋々ながらも訪問したようだ。

「ここが、この式を使うとするでしょ、そうなると・・・」
「違うわ。ここにはこっちの、この式をあてるのよ」

パチュリーとアリスは共同研究している案件について話し合っていた。あ、そっか、とアリスが
呟いた声が響いた後、図書館はまたページをめくったり、書き物をする音のみになる。
10分ほど経った頃だろうか。

「なんだかなぁ」

魔理沙が呟く。アリスとパチュリーは同時に視線を魔理沙に向けるが、それは一瞬のことで、
すぐに各々の読んでいた書物へ戻る。霊夢に至ってはこちらを見もしない。小悪魔は本の整理で
テーブル周辺にはいないから期待していないとして。今度はもう少し強めに魔理沙は言う。

「なんだかなーあー」
「なんなのよ、もう」

今度はアリスだけが魔理沙に目を向ける。こういう時相手をしてくれるのはたいていアリスである。
魔理沙は魔法薬の手引書を読んでいたと思っていたが、それは今閉じられていた。今手にしているのは
何の本か。魔法薬や魔導書の類ではなさそうだ。

「いや、この本にだな、『恋の悩みほど甘いものはなく、恋の嘆きほど楽しいものはなく
 恋の苦しみほど嬉しいものはなく、恋に苦しむほど幸福なことはない』ってあるんだ。なんだか納得いかないぜ」

「あんたなに読んでんのよ」霊夢がつっこむが流される。

「ネガティブすぎやしないか?悩み・嘆き・苦しみだなんて。恋ってのは、もっと、こう、楽しいとか
 嬉しいとか幸せなことの方が大きいもんじゃないのか?」

「最終的には幸福って言ってるじゃない。パチュリー、その本次読ませてね」

「それだって”恋に苦しむほど幸福なことはない”だぞ?」

「じゃあこう解釈すればいいじゃない。主語を恋だけにするのよ。そしたら、"恋は甘く、楽しく、嬉しく、幸福"。
 これで魔理沙の思い描く恋にあてはまるんでしょ」

「むぐ、あ、あともう一つあるんだ。『愛されることは幸福ではない。愛することこそ幸福だ』とも書いてある。
 自分が愛してるのに愛されなかったら不幸じゃないのか」

「あんたホントに何を読んでんのよ・・・」

再び霊夢が呟く。視線を魔理沙の手にしている本に向けると
『恋愛の格言』などと書いてある。新しいスペカ名を考えるとか何とか言っていたが、
いったいどのへんを参考にする気だ。

「恋やら愛だとかは熱を生むだろう?私の研究にも関係がないとは言えからな」

「十人十色という言葉があるのだから、恋愛も人それぞれ、恋についての考え方も愛についても
 それだけ種類があってもいいんじゃないかしら。なにもそこに書いてあることが正しいというわけではないのだから」

もっともらしいことを言う魔理沙にアリスが七色の人形遣いらしい発言を返す。
そこにパチュリーが続く。

「『真実の愛は幽霊のようなものだ。誰もがそれについて話をするが、それを見た人はほとんどいない』という
 格言もあるわ。結局かたちのないものだから、みな言葉というものに押し込めて安心を得ているのよ。
 そういった本の類はけっこうあるけど、それに同意するしないは問題じゃないわ。
 ただ、そういう言葉を誰々が言ったという記録が残ってるだけよ」

「恋だの愛だのの定義はそこまでにして、恋人については?」

「おいおい、ずいぶん話が飛ぶな」

もう飛ばした方がいいというアリスの判断だ。まだ恋も愛もよくわかっておらず、
それらに対して理想だけがつまっている魔理沙といくら議論してもキリがない。
定義よりも恋人の想像をしてた方がまだ遊べるというものものだ。

「以前読んだ本に書いてあったことなんだけどね。恋人の条件について」

「アリスまで何読んでんのよ・・・」霊夢が本日三度目のつっこみをする。

「自分の恋人に求める条件をまず3つ考えるの。考えればいろいろあるわ。例えば外見、優しいだとか誠実である、
 清潔である、お金持ち、自分より背が高い・・・ここでは”人間であることもしくは妖怪であること”なんかもあるわよね」

「あれあれ、なんだか楽しそうなお話ですねぇ。私も混ぜてください。恋人の条件、ですか?」

何冊か持ってきた本をパチュリーとアリスの傍らに置きながら小悪魔が話に加わる。

「みっつぅ・・・?いきなり言われてもなぁ。アリスはどうなんだ?」

「私の答えは一番最後に教えるわ。とにかくなんでもいいの。適当に。
 お遊びなんだから別にそこまで深く考えることはないわ」

「そう言われたって、これは重要なことじゃないか?」

「うーん、そうですねぇ。かわいい、きれい、愛らしい、ですかねー」

「ほぼ同じ意味よね、それ・・・」

「思考能力を持っている、私の邪魔をしない、私とレミィが認める人妖、かしらね・・・」

「・・・・(一に金、二に金、三に金、かしら)」

「そうだなぁ、誠実なのは大切だな。浮気なんて許せんぜ。あとは、そうだな、
 私のことを理解してもらいたい。私は自由に生きていきたいんだ。私についてこられるやつがいいな。
 束縛されるのは嫌だぜ。おまえの幽香みたいにな」

「・・・余計なお世話よ」

魔理沙に指摘されたように、恋人の束縛は時に物理的に及ぶこともあるので
あまり強く言い返せない。それでもアリスは思う。魔理沙はまだ知らないのだ。
”甘い束縛”というものがあることを。束縛をされて生じる不愉快な気持ちに勝る幸福な感情を。

「それで、同条件の二人がいたとするの。さっき自分が考えた3つの条件よ。
 それを持ってる違う二人の人妖。さて、最後の決め手はなにかしら?」

「金」 「顔の好みかしら」 

霊夢とパチュリーがほぼ同時に答える。即答だ。しばらく考えた小悪魔が二人に続く。

「どれだけ私を必要としているか、ですかね。より私を欲した方を選びます」

「なによそれ。まぁ、別にいいけど」

より必要としているかが重要。それでは結局自分で選んではないではないか、とパチュリーは思う。
 それは使い魔としての本分か。だが、”求めよ、さらば与えられん”という言葉がなぜか頭をよぎった。
 自分よりも小悪魔のことを求める者がいたら、そちらへ行ってしまうのだろうか。レミリアほどではないが、
 それでも長いつきあいだ。しかし、パチュリーは小悪魔のことがいまいちつかめていなかった。

確かなことは、自分が召喚し、それ以後使い魔としてそばにいることだった。
ぼんやりと考えていたパチュリーは魔理沙の声で我に返る。

「心、だな!」

「心で判断するって、わかんなくない?」霊夢がつっこむ。四回目。

「いやでも、絶対!きっと、わかるんだ。どちらがいいかなんて。それはあれだ、
 言葉で捉えられるもんじゃないのぜ!だいたいまったく同じ条件の二人なんてな」

「ハイハイ、お遊びにそこまでムキにならないの。仮定よ仮定。
 現実にそんな相手がそう二人もいないわ」

「だったら、なんなんだよ、この”お遊び”とやらは」

「つまりね、その最後の決め手となった条件、それこそが
 自分が本当に相手に求めている条件なんですってよ」

一瞬図書館内がシンとなる。皆が皆、アリスが言ったことを黙考しているようだ。

「・・・・え?それって、どういうことだ?」

「言葉どおりの意味よ。魔理沙は心といったわね。だから魔理沙が本当に恋人に求めているのは
 心ということだわ。素敵な条件ね。恋や愛と同様目に見えないものだから、難しくもあるけれど。
 ちなみに私は服のセンス、でした。3つの条件は優しい、顔の好み、清潔であること、だったわ」

答えながらアリスは考える。一応幽香は全部あてはまるのよねぇ。”優しい”というあたりに
かなり疑問の余地があるのだけれど。もっとも考える時点で幽香を思い浮かべていたわけだから
あてはまって当然、とも言える。

皆に言うつもりはないが、幽香の3つの条件は花が好きであること、おもしろいこと、
虐め甲斐があること、だった。がっかりである。最終的な条件は顔だった。こちらもまた気落ちした。
嬉しくないと言えばウソになるが複雑な気持ちになるのも仕方が無いだろう。しかしこちらも
服のセンスというわけだからお互い様である。

思いもよらずアリスにほめられて、魔理沙は照れている。少し顔が赤い。
照れ隠しに仏頂面をつくって言う。

「服のセンス?本当にあってるのかよ。これは心理テストってやつか?」

「まぁそんなところかしら。条件なんて、考えようと思ったら無数にあるもの。
 その中の一番を決められて、それ以外の3つも浮き彫りにできるってワケ」

「ありえない設定は確かだけど、究極的な決め手を無意識に引き出す手法としては、
 うなずけなくもないわ」

「パチュリーは顔って言ったっけ。なんだよ、納得なのかよ」

「さぁ、どうかしらね」

即座に顔と言ってしまったのだ。無論納得だ。何故なら自分は一目ぼれしたのだから、と
パチュリーは心の中で呟く。思いを告げるつもりはない。誰かに話すつもりも、ない。

「霊夢の金っていうのは。いいのか、それで。より金を持ってる方って、身も蓋もないぞ」

「かまわないわよ。お金はあるに越したことないでしょ」

霊夢は思う。本当は、お金なんて、条件だって、どうであろうとかまわないのだけれど。
そんな思いをため息に変えて吐き出す。今更条件なんて関係ないのだ。すでに心は一人の女に
奪われているのだから。あいつに条件だなんだ振りかざしたところであてはまるはずもない。
問題はあいつが手に入るのかどうか、だけだ。


魔理沙が続けて何かを言おうとしたところで、大図書館の扉を叩くノックの音がする。
続いて扉が開き、盆の上にティーセットを乗せた咲夜が近づいてくる。

「失礼いたします。お茶とお菓子をお持ちいたしました」

「ええ、ありがとう。小悪魔、手伝ってやって」

「はい」

咲夜を手伝いながら小悪魔はそうか、と思う。私は求められたいんだ、と。
だから、もっと求めてくれたらいいのに。それで万事解決するのに。
自分を求めてくれることこそが、こちらの求めることなのだから。
もう待ちくたびれてしまいそうだ。それでも待つしかないのだけれど。

魔理沙がニヤニヤしながら咲夜を見ている。さては今の質問を咲夜にぶつけるつもりだろうと
パチュリーは見当を付ける。咲夜はバスケット二つ持っていた。おそらくこのあとに
愛しの門番のところへ行くつもりだろう。忙しい咲夜の貴重な短い休息時間だ。
あまりここで時間をとらせたくはない。この手の話はとかく長くなるものだ。
  
「咲夜。あとは小悪魔にやらせるからもういいわ。」

「・・・そうですか?では、お言葉に甘えて。小悪魔、よろしくね。霊夢、珍しいわね」

「ちょっとした調べ物よ」

「そう、次はお嬢様にも会いにきて頂戴。会いたがってらしたから。アリス、魔理沙またね」

「考えとくわ」

「ええ、またね」

「いや、ちょ、まてさく」

魔理沙が「や」と声に出した時にはもう咲夜の姿はなかった。
なんだよ、もう、と魔理沙がパチュリーを睨みながら呟く。

「人の恋路を邪魔するものは、馬に蹴られて死んでしまうのよ。
 だいたい咲夜の条件なんて聞くまでもないわ」

「あいつらはわかりやすいよなー。特に咲夜」

「昔からよ」

「ふふ、確かに。咲夜は初めて見た時、とても美しい人形みたい、と思ったわ。若くして
 悪魔の館のメイド長を任され、よく気がついて、卒がない。主人の命には求める以上の結果を出す。
 ”完璧で瀟洒な従者”もなるほどと思ったけど、美鈴が絡むとあっというまに等身大の女の子なんだもの。かわいいわ」

「アンタに言われたくないと思うけど」

「まったくだぜ」

霊夢や魔理沙に言わせればアリスだってまさに”お人形”だ。外見は人形のように整っているし、
普段のアリスは人形のようにあまり感情を露にしない。淡々としていると言えばいいか。
そう、弾幕勝負の時にさえ。まれに魔理沙の無茶に対して激することはあるけれど。

そんなアリスがある一名を前にしては、いつもの澄ました表情を保っていられない。
相手はそんな澄ましたアリスの顔が変わるのを楽しみの一つとしているのだから、分が悪い。
そしてそれが愛情表現の表れでもあるので憤慨しながらもアリスは受け入れるしかないのだ。
追及を逃れるようにアリスが言う。

「咲夜お手製のロールケーキには負けるけれど、
 私も今日はクッキーを持ってきたのよ。よかったらどうぞ」

「お、いただくぜ」
「「いただくわ」」
「いただきます」

それぞれお菓子をほおばりつつ、紅茶を飲みつつ、そういえばこの間文が言ってたんだけどな、と
魔理沙が新しい話題をふり、また別の雑談へと興じていった。お菓子も紅茶もなくなり、
話題も落ち着いた頃、帰るか、と魔理沙が言い出し住人以外は帰ることになった。


余程急いでいるときで無い限り門までは歩いていくことが、なんとなくアリスと魔理沙の暗黙の了解だった。
歩いていって、美鈴に挨拶をして帰るのだ。霊夢もそれに準じた。美鈴のそばにもう咲夜はいなかった。
しかし咲夜がまたねと言っていなくなる時に持っていたバスケットが美鈴の足元に置かれていた。

「美鈴、お邪魔したわね。帰るわ」

「おや、お三方様。お帰りですか。もう薄暗いですからお気をつけてお帰りください」

「なぁ、美鈴。美鈴が求める恋人の条件ってなんだ?」

唐突に魔理沙が先ほど咲夜に質そうとして出来なかった質問をだいぶん端折って問う。
突然質問された美鈴は口を”は”の形にしてポカンとしてたが、質問の意味を把握したのかニコリと笑って言った。

「条件ですか。そうですね、咲夜さんであること、ですかね」

周囲をしばらく沈黙が支配する。アリスはため息をつき、霊夢は魔理沙を恨めしそうに睨んで言う。

「アンタ、こういうのやぶへびっていうのよ」

「悪かった。私がわりと悪かったぜ。胸焼けがしそうだ。ケーキとクッキーで十分だったな」

「・・・ご馳走様」

一日の終わりといってもよい時間に痛恨の一撃を食らった三者はノロノロと空へ飛び上がり、
紅魔館をあとにしたのだった。それを見送る美鈴の顔は満足げだった。



End
とりとめも無い会話のやり取りを書いてみました。実話をヒントに。
みんなそれぞれ恋人や想い人への気持ちを新たに認識したり悩んだりしてます。
魔理沙以外は。作者の中で魔理沙はまだニュートラルです。恋魔法とか言ってる割に
魔理沙は初恋が遅いんじゃないかと。

今回伏線的に出したカップリングたちにスポットライトを当てたお話が
いつか書けるといいなぁと思っております。魔理沙主役のお話とかも。

なお、作中で使用した格言について。
魔理沙が会話の始まりで納得いかん!と言っていたのはアルントさんという
ドイツの詩人さんの言葉です。もう一つ魔理沙が引用した『愛されることは~』は
ヘルマン・ヘッセさん。これまたドイツ。パチュリーがラ・ロシュフコーというフランスの貴族様。


ここまでお読みいただきありがとうございました!

*************

10月17日 追記

評価・コメントくださった方々ありがとうございました!

>>27・35様より霊夢とパチュリーの想い人について。

実は、このお話の中では二人(あと小悪魔)の想い人が誰だかあえてわからないようにと努めました。次回作への伏線を張りたかったからなんですが、今思うと読んでくださる方々に対して不親切だったかなぁと反省しています。一期一会と言う言葉もあるように、この作品だけのおつきあいということもなきにしもあらずですものね。(それはそれでちょっと切ないですが(苦笑))

ですが、今回だけはお許しいただくとして二人、じゃなかった三人の物語は別の機会で書き起こしていきたいと思っています。もし、ご縁とご興味がありましたら、またご閲覧いただければありがたく存じます。それまでは、ご自由にご想像にお任せします ^_^


・・・・王道カップリング(と言うのですかね?)ですよ。ヒソッ

次回作もよろしくお願いします!ありがとうございました!!
coniko
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コメント



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6.100奇声を発する程度の能力削除
愛とか恋とか羨ましい……orz
13.100名前が無い程度の能力削除
面白かったです。キャラが皆たってますね。
そして女の子同士の会話、いいですね。
17.100名前が無い程度の能力削除
恋とはどの様なものかしら
24.80名前が無い程度の能力削除
二十歳過ぎてんのに初恋まだだぜヒャッハー!
26.100名前が無い程度の能力削除
女の子してるなー。すばらしい空間ですな。
27.100名前が無い程度の能力削除
霊夢とパチュリーは誰が好きなんだろうか
28.80名前が無い程度の能力削除
愛なんて粘膜が見せる幻に過ぎないんだ!
そうに決まってる!!11!
35.100名前が無い程度の能力削除
面白かったです。
幽アリとめーさく楽しみにしています。
霊夢とパチェの相手が分からんかった。
38.100名前が無い程度の能力削除
とても素敵でした
40.100名前が無い程度の能力削除
恋する少女は素晴らしきかな、次回作が楽しみですわ
42.80爆撃削除
ガールズトークでほのぼの気分。
でも……。心が痛い……。
62.100名前が無い程度の能力削除
めーりんかっけぇ!
ガールズトークいいですね。