Coolier - 新生・東方創想話

博麗杯幻想郷最速決定戦

2010/09/14 08:19:00
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きっかけは些細な言葉だった
おそらく、口にした本人からすれば、川に石を投げ込むくらいの感覚で投げた言葉
その波紋が、まさかこれほどまでに拡がるとは、だれが予想しただろうか

魔「文さえいなければ、私が幻想郷最速なんだけどなぁ」

その言葉に敏感に反応したのは、もちろん伝統の幻想ブン屋

文「何をおっしゃいますか。普通の魔法使いのあなたが、幻想郷最速なんて名乗れるわけがありません。そもそも、正真正銘の幻想郷最速の私がいる限り、あなたには一生その称号を名乗ることなんてできませんよ」

魔「な・・・!そんなことはないぜ!逃げ足の早さは誰にも負けないんだぜ!」

文「逃げ足の速さなんて、自慢にもなりませんよ。美しく空を駆け、風になる。それができない限り、最速を口にする資格などありません」

魔「風になることはできなくても、風を切って飛ぶことくらいはできるぜ!そもそも、おまえは幻想郷最速って言ってるけど、実際に勝負したことは無いじゃないか」

文「まったく・・・お話になりませんね」

魔「ちくしょー!頭に来るなぁ!やるか!?弾幕ごっこなら受けて立つぜ!」

目の前で繰り広げられる言葉の争いが、スペルカードを使った争いに変わろうとしていた時、それまでお茶をすすりながら眺めていた霊夢がつぶやいた

霊「・・・決めればいいじゃない。純粋に、誰が幻想郷最速か」

その言葉の波紋は、ほどなくして幻想郷中に拡がった
あるものは、暇を持て余した退屈な毎日のささやかな暇つぶしができたことを喜び
あるものは、イベントと聞いていつものように、酒だ、祭りだ、宴会だと騒ぎ立て
そして、あるものは輝かしき称号を得るために心を燃え上がらせていた


『第1回 博麗杯幻想郷最速決定戦』
無駄に大げさな名前を掲げた勝負に参加を表明したのは次の4人の少女たち

だれしもがそのスピードを称え、最速である事は暗黙の了解だった
烏天狗の誇りに賭けて、最速の称号を確固たるものとするために、今宵、私は風になる
優勝の最有力候補、射命丸文

かつての栄光は、過ぎ去りし彗星のごとく遠い空のかなた
めぐりめぐって還ってきた彗星が描く、その軌跡、光となりて
天狗を地に落とすことはできるのか、霧雨魔理沙

紅魔の紅は3倍速の象徴、カリスマブレイクなんてどこ吹く風
空に浮かぶは満月、永遠に幼き紅い月は、今宵、幻想郷を妖しく照らすのか
紅魔館の主、レミリア・スカーレット

機械の力は肉体の限界を超える、可能性はいまだ未知数
彼女の武器はその科学力、幻想郷最高クラスのエンジニアが愛機と共に名乗りを挙げた
超妖怪弾頭、河城にとり

霊「・・・なんだか、おおごとになっちゃったみたいね」

スタート地点である博麗神社の境内には、幻想郷中から楽しいことやお祭り騒ぎが大好きな者達が集まっており、今にも宴会が始まるような雰囲気が漂っている
しかし、参加者である4人の少女たちの目は真剣そのものだった
4人とも、幻想郷最速の称号を我が物にすることだけを考えているのだ


ちょっとしたつぶやきがきっかけだったとはいえ、企画の発案者である霊夢は次のようなルールを設定した

博麗神社の境内からスタートして、中継地点を経由して、境内に戻ってくる
鳥居を出たところからのルートは自由
中継地点の太陽の畑に行った証として、1輪のひまわりを持ってくる
戻ってきて鳥居をくぐればゴール
互いに妨害工作を行ってもよい
なお、スペルカードの使用は2回までとする


空に浮かぶ満月が、境内を明るく照らしている

魔「よりによって満月の夜なんてな・・・妖怪にとっては断然有利じゃないか」

文「そんなことを言ってるようでは、一生かかっても私には勝てませんよ」

魔「ふんっ!その高飛車な態度、鼻と一緒にへし折ってやるぜ」

レ「あらあら、私のことは完全に無視してるみたいだけど、油断してると、足元をすくいに行くわよ」

文「いくら吸血鬼の身体能力でも、スピードでは烏天狗には勝てませんよ」

レ「ふふふ、満月の夜の吸血鬼を、甘くみないことね」

に「あのー・・・私もいるんですけd」

魔・文・レ「あぁ!?」

3人から睨まれ、思わず身体を小さくするにとり
しかし、その俯いた顔には不敵な笑みが浮かんでいる

に「・・・今に見てろよ、バカ烏。誰のおかげで活版印刷ができるようになったと思ってるんだ。そして吸血鬼。あんな弱点だらけの子供なんて、私の科学力を持ってすれば・・・あと魔理沙。人間は盟友だ。しかし、勝負の場では、一切の手抜きはしない」

月の妖しい魔力が、彼女たちのテンションを高めてゆく
周りにいる取り巻きは、「魔理沙―!魔法使いの名に賭けて頑張るのよー!」とか「お嬢様―!この戦いに勝ってカリスマも復活ですー!」とか「文―!同じ烏天狗として、負けたら承知しないよー!万が一負けたりしたら、永久保存版の記事にしてやるからねー!」とか「にとりー!私もいつもより多く回って応援してるからねー!」とか、思い思いのエールを送っている

霊「じゃあ、さっさと始めるわよ。準備はいい?・・・夢想封印!」

色とりどりの華やかな弾幕と共に、4人の少女は月夜に駆け上がった


鳥居を飛び立った4人の少女たち
真っ先に仕掛けてきたのは、レミリアだった

レ「紅符「スカーレットマイスタ」!」

文「あややややや!」

魔「なんなんだぜ!」

に「なんですとー!」

全方向に放たれる弾幕のおかげで進路を妨害される3人
その隙を逃さず、レミリアは太陽の畑に向かって飛び去って行った

紫「・・・あの吸血鬼も、今回ばかりは遊び半分じゃなさそうね」

霊「そうかしら。遊びにだって全力を尽くすことだってあるわよ。弾幕ごっこなんて、その代表のようなものじゃない」

4人を眺める霊夢と紫
その後ろでは、既に飲めや歌えやの宴会騒ぎが繰り広げられていた


現在、博麗神社の境内には大きな白い布が広げられている
今回のために、にとりが提供した映写機の映像を映すスクリーンである
4人それぞれにつけた発信機とリンクしており、リアルタイムで状況が送られてくる
あちらとこちらの間での会話も自由にできるらしい

ア「河童の技術力は侮れない・・・完全自立式の人形ですら、既に創っているかも」

スクリーンを見ながらつぶやくアリス
それを聞いて、横からパチュリーが口を出してくる

パ「魔法と科学技術は、どこか似ているところがあるのかもしれないわね。それにしても、にとりはすごいものをもってきたわね」
パチュリーですら感心するすごいものとは、にとりが操縦している高速艇である
外の世界の飲み物の容器を模した形状で、1人乗りのコクピットがついている
外見はとてもシンプルではあるが、その推進力は目を見張るものがあった

パ「もしかすると、この勝負・・・」

ア「あ!魔理沙も仕掛けるみたいよ!」

アリスの声に、パチュリーがスクリーンに映る魔理沙に注目した


魔「くそっ!あの吸血鬼!いきなりスペル発動なんて、戦略も何もあったもんじゃないぜ」

レミリアの姿は既に見えない
さすがに、文はすばやく体制を整えてレミリアを追っていった
負けじと魔理沙も追いかけるが、彼女たちの速さについていくことは難しく、なんとか3番手をキープしていた

魔「私だって負けてられないぜ!マスタースパークの推進力を使って追いついてやる!」

魔理沙は進路とは逆方向にミニ八卦炉を構える

魔「ブレイジング・・・!?」

スター!というスペル宣言を終える前に、魔理沙の手の中からミニ八卦炉が消えていた
困惑する魔理沙の目の前で、にとりがスペルカードを掲げて高笑いしていた

に「河童「のびーるアーム」!残念だったね、魔理沙。ミニ八卦炉は預かって行くよ。マスパを撃てない魔理沙はただの女の子だ!せいぜい指をくわえて悔しがるがいいさ!」

茫然とする魔理沙の横を、高速艇が駆け抜けていく


ア「何やってんのよ!これじゃあ戦線離脱もいいところじゃない!」

萃「・・・あれー?でも魔理沙、なんだか笑ってるよー?」

酒を飲みながら見ている萃香の言葉に、全員がスクリーンに映る魔理沙へと視線を向けた
魔理沙は笑っていた
はじめは俯きながら、小刻みに肩を振るわせて
だんだんとその動きは大きくなり、顔をあげると同時に闇夜に高笑いが響いた

ア「魔理沙・・・自暴自棄になって、おかしくなっちゃったとか・・・?」

萃「いやいや、よく見てみなよ。魔理沙、手に何かもってるよ」

そう言われてよく見てみると、魔理沙はその手にキノコを持っていた
さらによく見ると、そのキノコにはかじられた跡がある

ア「あぁ・・・魔理沙・・・悪いキノコをかじって・・・」

パ「ちがうわ、アリス。あのキノコは確か・・・」

赤い傘に白い水玉模様のついたキノコ
パチュリーはその絵を外の世界から流れ着いた文献で見たことがあった

パ「そうよ!あのキノコは、食べると一時的に限界速度で動けるという、マリ○カー○のキノコだわ!魔理沙、あんなものを隠し持っていたなんて、さすがキノコの女王ね!」

パチュリーのキノコについての解説が終わるか終わらないかのタイミングで、魔理沙の姿はスクリーンから消えた
その場にいた誰もが視認できないほどの速さで、魔理沙はにとりに突撃していたのだ

魔「にとりぃぃぃぃっ!」

に「げぇっ!魔理沙!どうして!?」

不意打ちを受けた高速艇が、衝撃をうけて大きく揺れる
さらに当たり所が悪かったのか、エンジンが故障してしまったらしい

に「なん・・・だと・・・?くそっ!動け!動けよ!」

魔「・・・ミニ八卦炉は返してもらうぜ。せいぜい、此処で大好きな機械いじりでもしてるんだな」


境内に歓声が上がる
故障した高速艇の修理を始めるにとりを横目に、魔理沙は飛び去って行った

雛「・・・ねぇ、霊夢。キノコってありなの?」

霊「ルール的には「あり」よね。魔理沙のキノコはスペルカードではないから、回数制限にも引っ掛からない。妨害工作は自由だし、そもそも妨害の手段はスペルカードに限定するっていうルールは決めてないしね」

にとりがやられて悔しいのか、さらに激しく回転しだす雛
厄が飛び散りそうな勢いに、あっち行けと手を振る霊夢

永「その話だと、にとりが復帰したらとんでもないことになるかもね」

横で見ていた永琳のつぶやきに首をかしげる霊夢

永「だって、あの高速艇にはどんな武装が搭載されているのか、まったくわからないじゃない?積んでるモノがモノだったら・・・もしかするかもよ」

それを聞いて、少しだけ冷や汗をかく霊夢
自分の考えたルールに抜け穴があることよりも、それによる事故の方が心配になって来た

霊「・・・まぁ、河童も加減くらいは知ってるわよね」

悪いことは極力考えないようにした
そうこうしていると、レースが中盤戦に差し掛かったことを告げる声があがる

は「さすが文!やっぱり中間地点には一番乗りね!吸血鬼の不意打ちには焦ったけど。さすが私がライバルに指定しただけのことはあるわ」

咲「一番乗りっていっても、ほとんどお嬢様と同着のようなものだったわよ。烏天狗の速さも、大したことないみたいね」

はたてと咲夜が睨みあいを始める
スクリーンには、太陽の畑で対峙する文とレミリアが映し出されていた

文「開始早々の攻撃には、さすがにひやっとしました」

レ「暫定とはいえ、幻想郷最速を名乗る者に対してまともに戦っちゃあ、勝つのは難しいだろうからねぇ」

文「ふふふ、恐縮です。でも、貴重なスペルカードを早々に使ってしまうのは、少しばかり焦りすぎたんではないですか?」

レ「あれで全員被弾して戦線離脱なんてのを期待したんだけどねぇ。そんなにうまくはいかなかったみたいだ」

沈着冷静に受け答えをする文と、カリスマモードに入っているレミリア
互いに一瞬の隙を見せることなく、ほぼ膠着状態である

レ「さて・・・ひまわりを持っていけばいいんだろうが、どうやら素直に持って行かせてくれる気は無いみたいだねぇ」

文「そのようですね。私としては、なるべく戦いは避けたいものなんですが・・・!」

それまでいた場所を放棄して、さっと身を引く2人
刹那の後、彼女達がいた場所を光の奔流が走り抜けた

文「姿を見せて、挨拶くらいはしたらどうなんでしょうか?」

レ「まったく、その通りよ、風見幽香!」

ひまわりの陰から、傘を構えてゆっくり歩いてくる妖怪
太陽の畑の主、風見幽香が2人の前に立ちふさがった

風「霊夢から話は聞いていたけど、此処のひまわりを持っていかれるのは悲しいことだわ。どうしても持っていきたいなら、私に勝ってから、ということになるかしら。もっとも、速さだけが取り柄の烏天狗と、まだまだお子様の吸血鬼が、私を倒せるわけがないだろうけど」


境内では、多くの見物客と共に、はたてと咲夜がスクリーンを通じてその様子を見ていた

は「・・・霊夢!これはどういうことだ!?幽香には話をつけに行ったんじゃないのか?」

霊「それが・・・あいつったら、『私の大切な花たちを傷つけるなんて許さないわ!』なんて怒り出すから・・・でも、今回の参加者だったら、なんとかして持ってこれるんじゃないかなーって・・・ね?」

咲「つまり、承認とれてないってことよね?どうしてあなたはいつもいつも適当なことをするのよ?」

どうしてって言われても・・・と、縮こまって困ったように上目使いで咲夜を見る霊夢
その姿に、咲夜はため息をつき、はたては紫に頼まれて写真を撮っている
あとで印刷したのを頂戴ね、とはたてに言い残し、紫は霊夢に歩み寄る

紫「しょうがないわね・・・まぁ、ここまできてやめるわけにもいかないわけだし、とりあえずこのまま見守っていましょう」

スクリーンを見ると、文、レミリア、幽香の3人による戦いが繰り広げられていた


風「どうしたの?吸血鬼の身体能力はその程度かしら?」

レ「くぅぅっ!なめるなぁぁっ!」

突撃するレミリアを軽くあしらう幽香
その背後から文が奇襲をかける

文「隙あり!もらいま・・・!」

振り向くこともなく、向けられた傘からレーザーが放たれる
ギリギリで身をひるがえしてかわす文

風「まったく・・・烏天狗の取り柄は速さだけと思っていたら、狡猾なところもあるのね」

レミリアと文は肩を並べる
強力な妖怪に対峙した2人の判断は、共闘することで一致したようだった

レ「文、癪だけど、少しだけ手を貸しなさい。今から・・・そうしたら・・・解ったわね?」

文「解りました、この場を抜けるためには、その提案を飲むしかなさそうですからね」

その言葉を確認して、レミリアは幽香に向かって突撃した

風「まったく・・・子どもはただ体当たりしてくることくらいしか能がないのかしら?」

幽香がレミリアを迎え撃とうと傘を振りかざした瞬間、レミリアの姿が消えた
正確には、消えたのではなく、無数の蝙蝠に変化しただけなのだが、突然の出来事に対応が遅れた
次の瞬間、幽香は背後からレミリアにはがいじめにされていた

レ「これで、動けないわよね?」

風「この、吸血鬼!離しなさい!」

体格的には断然小さいレミリアだが、吸血鬼という種族特有の腕力は、動きを封じるには充分だった

レ「文!今のうちにやっちゃいなさい!」

幽「本気?この状態で弾幕を撃たれたら、あなたもただじゃ済まないわよ?」

レ「私はまた蝙蝠になって回避するから平気よ・・・だから、文、早くしなさい・・・?」

レミリアが文の方を見ると、文はひまわりの花を手にこちらを見ていた

文「御苦労さま、おかげで安全にひまわりをとることができました」

レ「裏切ったわね!烏天狗は想像以上にずるがしこいみたいね!」

文「策略家と言ってください。では、失礼します」

そう言って、文は太陽の畑を飛び立った

レ「・・・烏天狗を信用した私も、愚かな者だったわね」

冷静に省みるものの、1人ではこの状態を打開することはできない
まともに戦っても、スペルカードは残り一度だけ
どうしたものかと思案しているところに、彼女は現れた

レ「・・・魔理沙!」

魔「レミリア!さっき文とすれ違ったんだが、おまえは何をやってんだ?」

レ「文と協力してこいつを倒そうとしたんだけど・・・あいつ、1人だけひまわり持って逃げてったのよ」

魔「・・・なんてやつだ。想像以上にずるがしこい。」

レ「んっ・・・とにかく、魔理沙!協力する気があるなら、私ごと、こいつを撃ちぬきなさい!・・・そろそろ、限界かも・・・!」

暴れる幽香を抑え込むレミリアを見る
ここで幽香を解放したら、自分にまで被害が及ぶ危険性がある

魔「しかし・・・お前だってただじゃ・・・」

レ「私なら直前で回避する・・・!だから・・・はやく・・・!」

わかった、と言って、魔理沙はミニ八卦炉を構える

魔「恋符「マスタースパーク」!」

光が走り、幽香とレミリアがのみこまれていく
光が収まったとき、そこには倒れた幽香の姿が残されていた

魔「レミリア・・・浄化されたんだな・・・お前の命、無駄にはしないぜ」

魔理沙はひまわりを持ってその場を後にする

レ「・・・人を勝手に殺すなぁっ!」

無事に逃げ切ったものの再生に時間がかかってしまい、戻った時にはすでに魔理沙の姿は無かった
叫び声だけが響き、やり場のない怒りだけが残された
高速艇を駆るにとりが到着したのは、まさにその時であった

に「げぇっ!吸血鬼!」

レ「おまえはそういう反応しかできんのか!?」

怒りの矛先をにとりに向けたレミリアは、高速艇に体当たりをくらわせていた
せっかく修理したエンジンだったが、この衝撃で再び壊れてしまった

に「うわぁぁぁ!せっかく直してきたのに!」

レ「あなたは黙って機械いじりでもしてればいいのよ!」

レミリアはひまわりをつかみとって言い放つ

レ「そうそう、さっき魔理沙が幽香を倒してくれたけど、しばらくしたらまた復活するわ。もたもたしてると、あなた、コテンパンにやられるわよ」

そして、レミリアは飛び去って行った
半泣きになりながら修理を始めるにとりを残して


咲「よかった・・・お嬢様が無事で」

ほっとした様子の咲夜の横で、はたてが複雑な顔をしている

は「いくら勝利のためとはいえ、ちょっと今回の文はやりすぎなんじゃないかなぁ・・・」

萃「それくらい、彼女にとって幻想郷最速の称号は大切なものだってことだよ」

萃香の言葉に苦笑を浮かべるはたて
博麗杯幻想郷最速決定戦も、後半戦に差し掛かろうとしていた


射命丸文は焦っていた
これまで幻想郷最速を掲げてきた自分
もし、この戦いで負けるようなことがあれば、それは自分自身を否定されると同義
それゆえに、多少狡猾な手段とは解っていながら、レミリアを囮に使った

戦いの前は、負けることなんてこれっぽっちも考えなかった
しかし、予想外の不意打ちや障害の存在が、彼女の心に不安の影を落としていた

文「もうすぐ・・・もうすぐ、私が私になれる。幻想郷最速の称号が確実なものになる」

ひまわりの花を抱えて、文は加速していく


て「どう思う?鈴仙」

鈴「どうもこうも、文に決まりじゃないの?順位はトップだし、もともと速いって事は解ってるし、何より、まだスペルカードを一枚も使ってないじゃない」

て「やっぱりそう思う?っていうか、妥当に考えればそうなるしかないよね」

てゐと鈴仙が勝敗を予想している
彼女達の予想は、この場にいる全員が納得できるものだった
ただ一人、永琳を除いて

輝「永琳、さっきから何難しい顔をしてるの?」

何やら考え込んでいる永琳に、輝夜が声をかける

永「姫様・・・姫様だったら、この状態で最下位にいたら、どうしますか?」

輝「どうするって・・・時間を遅くして追いついちゃうとか?」

永「姫様ならそれができるでしょうけど、そういうのができなかったら、どうしますか?」

輝「うーん・・・とにかく他の3人が、ゴールできないくらいに痛めつける、とか?」

永「そう・・・その、ゴールできないようにするための方法というのが、さっきからどうにも気にかかっているのです」

輝「どういうこと?・・・あ・・・まさか・・・」

永「お気づきになりましたか、姫様。もし、そんなことになったら・・・」

輝「この勝負・・・どうなるのかしら・・・」

スクリーンを振り返る永琳と輝夜
そこには、今にも文に追いつきそうな魔理沙の姿が映し出されていた


魔「ふぅ・・・これが最後のキノコみたいだぜ」

身体能力を限界まで引き出して加速するキノコ
短時間に何度もドーピングを重ねた魔理沙の身体は満身創痍だった

魔「でも、やっと追いついたぜ、文!」

驚きの表情を浮かべて振り返る文

文「まさか、人間のあなたが私に追いつけるなんて、考えていませんでした」

魔「おかげで、こっちは中身がボロボロだけどな」

文の口元が緩む
それは、人間になど負けるわけがないと思っていた自分へ向けられた嘲笑なのか
それとも、人間でありながら好敵手として立ちはだかる少女へ向けた賛美の笑顔なのか
どちらであろうと関係は無い
文は切り札とも言えるスペルカードをとりだした

文の代名詞ともいえるスペルカード
彼女が幻想郷最速であることを誰しもが疑わない理由は、これのおかげだろう
発動させてはいけないと解っていながら、今の魔理沙には反応ができなかった

文「疾風・・・」

文「「風神少女」!」

高く掲げた手の中でスペルカードが輝く
まさに発動しようとした、その瞬間

紅い魔力の奔流が、彼女の手からスペルカードを弾き飛ばした

レ「神槍「スピア・ザ・グングニル」!」

狙ったものには必ず命中するという神の槍
その名を頂いたスペルカードが、わずかに早く発動していた

レ「あなたに、スペルカードを発動させるわけにはいかないのよ」

レミリアは不敵に笑って飛び去って行った


境内の盛り上がりは最高潮に達していた
優勝の最有力候補である文の予想外の苦戦は、皮肉にも観客のテンションを高めていた

妖「あらら、また逆転されちゃいましたよ幽々子様・・・って、聞いてますか?」

幽「あ・・・ごめん、妖夢、聞いてなかったわ。それよりお団子持ってきてー」

妹「慧音、ここから誰が優勝するか、賭けてみないか?」

慧「賭けごとはよくないぞ、妹紅・・・というものの、面白そうだな、乗った!」

橙「藍様、もふもふしてください」

藍「おいで、橙」

思い思いに楽しむ様子を見て、笑顔を浮かべる霊夢
宴会もいいけれど、こんなイベントもいいかもしれない、なんていう気持ちになっていた
あ、でも、結局はお酒飲んで楽しんでるわけだし、あんまり変わらないのかな、ということを考えながらスクリーンに目を向けると、俯いて肩を震わせる文の姿が映っていた


文の心は悔しさでいっぱいだった
このままでは、自分のアイデンティティーが失われてしまう

文「私は・・・私は、絶対に負けられないんです!」

新たなスペルカードをとりだす

文「「幻想風靡」!」

スペルカードが発動し、高速で飛び去る文
それまでの様子を茫然としながら見ていた魔理沙も、我に返る

魔「行かせるか!「ブレイジングスター」!」

マスタースパークの火力をそのまま推進力に変えるスペル
勢いよく放たれる光の帯を残し、彗星のごとき速度で空を駆ける魔理沙

レ「これで、勝利は私のものかしら」

余裕の笑みを浮かべて飛んでいたレミリアに、文と魔理沙が迫ってくる

文「幻想郷最速は私です!」

魔「子どもなんかに負けられないぜ!」

レ「!・・・吸血鬼の名は伊達じゃない!」

ラストスパートをかける3人の視覚が、博麗神社の鳥居をとらえた

文「私のスピードは五十三万!」

魔「ピオリム!ピオリム!」

レ「もう「うー」なんて言わせない!」

思い思いの言葉を叫びながら、3人は、鳥居に向かって突撃して行った

◇◇◇

魔「霊夢!遊びに来たぜ!・・・っと、文もいたのか」

いつものように博麗神社に遊びに来た魔理沙
縁側には、お茶を飲んでくつろぐ霊夢と文がいた

魔「『第2回 博麗杯幻想郷最速決定戦』の開催でも頼みに来たのか?「元」幻想郷最速の射命丸文さん?」

文「その言い方はやめてください・・・いろいろとへこみます。それに、私はあの結果は認めていませんからね。魔理沙さんだってそうでしょう?」

魔「そりゃあ・・・あんな結果じゃあ、納得できないよな・・・聞いてるのか?霊夢」

霊夢は静かにお茶を飲んでいる

『第1回 博麗杯幻想郷最速決定戦』の結果は散々なものだった
最後の最後で、全力でゴールの鳥居に突撃した3人だったが・・・

◇◇◇

文「あやややや・・・」

魔「なんてこった・・・」

レ「力の調整ができなかったわ・・・」

3人のスピードが生んだ衝撃で、鳥居が木端微塵に壊れてしまったのだ

永「恐れていた事態が起きたわね・・・」

倒れて動けない3人の横で、唖然としている霊夢、その横でつぶやく永琳

永「放心しているところ悪いんだけど、勝負の結果はどうするつもりなの?霊夢」

ゴールの条件は鳥居をくぐること
鳥居が壊れたということは、ゴールすることができなくなってしまったということだ
ゴールが不可能であれば、勝者を決めることはできない
ここまでやってきておいて、この勝負は無効、というのも気が引ける
すっかり困り果てた霊夢たちの前に、4人目の参加者が到着した

に「魔理沙!いきなりマスパ撃ってくるなんて卑怯だぞ!ギリギリでかわせたからいいものの、危うく直撃するところだったじゃないか!」

魔「あぁ・・・ブレイジングスターを使った時のあれだな。そりゃ悪いことをした」

に「・・・やけに素直だな。なんか調子狂っちゃったよ。で、もう勝敗は決まったんだろ?誰が勝ったんだい?」

文「そのことなんだけど・・・実は、まだ誰もゴールしてないんだ」

え?なんで?と疑問を浮かべるにとりに、永琳が説明する

に「なるほど・・・鳥居を壊しちゃたから、ゴールすることができないってことだね」

そういうと、にとりは高速艇に乗り込み、コクピットで何やら操作を始めた
しばらくすると、高速艇の船首が展開し、淡い光が放射された
周りで見ていた者達にも何をしているのか解らなかったが、その疑問はすぐに解けた
光に照らされた鳥居がみるみるうちに修復されていき、数秒とたたずに壊れる前の形状を取り戻したのだ

に「簡易修復装置なんてのを搭載してみたのさ。今回は高速艇が何度も壊されちゃったからね。また壊されたときに使えるかな、と思ったけど、こんな形で役に立つとはね」

にとりはひまわりを手にとことこと歩いていく

に「ってことで、ゴール一番乗り!」

鳥居をくぐった
誰からともなく歓声が上がる
その様子を茫然と見つめるレミリア、文、魔理沙をよそに
にとりの顔には満面の笑みが浮かんでいた

◇◇◇

魔「あれは、どう考えても修理できたおかげで拾った勝利だ。鳥居の在ったところまで最初に来ることができたのは、私だったんだぜ」

文「そんなことはありませんよ。あなたが考えなしに鳥居に突っ込んだりしなければ、最初に鳥居をくぐっていたのは私でした。私こそが、真の幻想郷最速です」

魔「私だけのせいにするのか?お前だって、全然速さを落とす気は無かったくせに」

文「私はあの速度を制御できますから。あなたのように暴走するのとはわけが違います」

むー!と睨みあう2人
そんな2人を気にも留めず、お茶を飲んでいる霊夢

萃「まぁまぁ、二人とも、すぎたことはどうしようもないんだから、こんなところで言いあってたってしょうがないだろ?」

なだめる言葉をかけたつもりの萃香だったが、逆に火に油を注ぐ結果となったようだ

文「どうしようもない?何を言っているんですか。私はあの勝負で自分のアイデンティティーを奪われたんですよ。指をくわえて悔しがっているのは私の性に合いません。だから『第2回 博麗杯幻想郷最速決定戦』の開催をお願いしてるんじゃないですか」

魔「さっきの、マジだったんだな・・・」

文の顔が紅く染まっていく
怒っているのか、気恥ずかしさか、はたまたその両方なのか

文「とにかく!私は幻想郷最速の称号を取り戻したいんです!霊夢さん、聞いてますか!?」

軽い気持ちで、決めればいい、なんていうもんじゃないな
霊夢は少しだけ後悔する気持ちもあったが、盛り上がる境内はとても楽しかったとも思う

霊「・・・そんなに大きな声を出さなくても、ちゃんと聞いてるわよ」

もう一度、やってみてもいいかなという考えがよぎる
その時は、ちゃんと承認をとってからにしよう、と心に決めた霊夢であった
初めて投稿します、kirisameという者です
初めてなだけに、要領がつかめない部分がありますが、気になった点などご指摘いただけると嬉しく思います
拙い文章だとは思いますが、ご容赦ください、失礼します
kirisame
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コメント



0.500簡易評価
6.80山の賢者削除
地の文の始めは一文字分空白を入れる。
セリフや地の文の途中で感嘆符や疑問符が入った場合はその後ろにも一文字分空白を空ける。
あと、文の最後に句点を打ち忘れているのでそれもやっておくといいと思います。
それから、セリフの括弧の前にキャラクターの名前を入れるのは嫌われます。
誰が話しているかは地の文での描写や口調で区別した方がいいです。

にしても、初投稿で20kb以上書けるとか羨まし過ぎるorz
10.70名前が無い程度の能力削除
ソニック&クーガー「最速と聞いて」
11.80名前が無い程度の能力削除
>>純粋に、誰が幻想郷最速か

>>互いに妨害工作を行ってもよい
なお、スペルカードの使用は2回までとする

ちょっとよくわからないです
13.無評価kirisame削除
>山の賢者さま
 さまざまなご指摘、ありがとうございます、とてもためになるお言葉です。今後の作品に生かしていければと思います。
 容量に関しては、あまり意識せずパパパっと書いていったので気付いたらこのような量になりました。

>10さま
 例のハリネズミでしょうか?
 読んでいただいてありがとうございます。

>11さま
 純粋な速度勝負になっていないのは霊夢の手違いが原因です。また、スペルカードの回数制限は、文が幻想風靡を連発したり、魔理沙がブレイジングスターを連発したりするのを防ぐために設けたつもりでした。
 結果として、うまく設定がまとまっていないのは僕自身の至らなさです。今後の作品では、精進していこうかと思います。