魔理沙は変に真面目なところがある。
大雑把な性格にも見えるが、魔法の勉強に関しては手を抜かない。
しかし、それ以外にもこだわりを見せるところが一つあった。
それは、食事である。
魔理沙は食事はどんなに忙しくてもしっかりと摂る。
友人の家に泊まりにいった時でさえ、食事はバランスが良いものがいいといって食材を持っていくほどだ。
幼い頃から料理をしている為、魔理沙は料理が上手いのだ。
食事の中でも、特に朝食には力を入れている。
朝は一日の始まりであり、最初の食事が肝心だと魔理沙は言う。
私の場合、朝食は簡単なトーストとコーヒー、目玉焼きで済ませる事が多い。
そんな私の朝食を見るなり、魔理沙は毎回言うのだ。
「これだから都会派は駄目なんだぜ」
私からしたら余計なお世話なのだが、魔理沙は他人にも食事はしっかり摂って欲しいらしい。
いまに料理の教室というか講義みたいなのを開きそうで怖い。
それほど、食事に関する情熱というものを魔理沙は持っているのだ。
「ふぁ~……」
ゆっくりとベッドから身を起こすと、重たい頭を小さく振る。
少しばかり跳ねた髪の毛をがさがさと手で掻く。
ふと窓の外を見ると、眩しい木漏れ日が差し込んでいた。
私は、魔理沙の家にお泊りに来ている。
昨日は魔理沙と一緒なベッドで寝たのだが、既に彼女は隣にいなかった。
「まりさぁ~?」
まだ眠いせいか、はっきりとした言葉が口から出ない。
ゆるい言葉で魔理沙を呼ぶも、返事は無い。
魔理沙は意外に早起きだから驚きだ。
研究とか勉強とかしてて、夜遅くに寝てる日でも、朝は早い。
人間という、短い間しか生きられないという制限があるからかもしれない。
まぁ、今は人間だけど、いつかは本当の魔法使いになるときがくるかもしれない。
そのときにも魔理沙は早起きするのだろうがか、それが気になるところである。
それはおいといて。
ぐーっと背伸びをした後、立ちあがる。
一瞬ふらっとするも、持ちこたえて鏡の前に立つ。
家から持ってきた水を変に跳ねた髪にかけ、櫛で梳く。
もともと私はくせっ気のある髪だが、寝癖と元からの癖毛の差くらいはわかる。
寝癖の処理を済ませると、私は寝室を後にした。
短い通路に出ると、向こうのほうからかちゃかちゃと音が聞こえる。
少し予想はしていたが、朝食を作っているのだろう。
扉をゆっくりと開くと、少しむわっとした空気がそこには満ちていた。
「おはよう、アリス。相変わらず朝は弱そうだな」
「あんたが早いだけよ……。おはよ、魔理沙」
挨拶を短く返すと、魔理沙の方へと歩いていく。
可愛らしいクリーム色のエプロンを身につけ、髪の毛が入らないように三角巾を付けている。
家の中では帽子を被らない魔理沙だが、三角巾はしっかりと付けている。
ここにも、食事を大切にしているところが見られる。
「私も手伝おうかしら?」
「お、そりゃ嬉しいな。じゃあ魚の焼き加減を見てくれるか?」
「それくらいなら任せてよ」
しっかりと手を洗い、気合十分で手伝いをしようとすると、魔理沙は私になにか手渡す。
「これ、エプロンと三角巾な」
「やっぱり私もつけなくちゃ駄目?」
「駄目」
すぐさま駄目だしを食らったので、仕方なくエプロンと三角巾をつける。
エプロンは本格的に料理をするときくらいしか付けないし、三角巾なんて魔理沙のお手伝いの時以外はまったくと言ってもいいほど付けたことすらない。
なんというか、つけるのがちょっぴり恥ずかしいのだ。
よくわからないけど、私のプライドがそういったものを許さなかった。
しかし、つけないと魔理沙にいろいろ言われるので、仕方なく付ける。
エプロンをかけ、三角巾をきゅっと頭の後ろで結ぶ。
肩を一回二回と回し、魚を見る。
川で取れたヤマメだろう。
魔理沙は和食派なので、こういった魚を使った料理も多い。
その中でも特に焼き魚は好きらしく、食卓に焼き魚が並ぶ事が多い。
ヤマメの独特の模様に網目の模様がついていく。
魚を焼くところの上には換気扇がついており、部屋が煙たくならない。
にとりに付けてもらったらしく、つける前までは部屋の窓を全開にして焼いていたらしい。
だけど、それだと部屋のものに魚の臭いが染みつくということもあってか、外で焼いていることさえもあった。
また、にとりには時折山で取れた新鮮な魚や山菜などを送ってもらっているらしい。
このことから、魚はいつでも新鮮で旬な魚が食べられるのだ。
なんとも羨ましい限りである。
今度私もにとりにお願いしてみようかなぁと思った。
私は横目で魔理沙を見ると、味噌汁をお玉でかき混ぜていた。
具はというと、油揚げ、えのき、大根の三つ。
なんとも簡単につくってあるが、とてもいい香りがこちらまでやってくる。
焼き魚の匂いにも負けない、いい香りだった。
「今日の朝食の献立はなにかしら?」
私は魔理沙に問いかけると、ふふんと魔理沙は笑う。
そして、無い胸を張って言うのだ。
「今日はこの味噌汁と、ヤマメの塩焼き、きゅうりの浅漬けと白米だな」
「今日もまたバランスのとれた食事ね」
「そりゃ気を付けて作ってるからな」
そういって、得意げに微笑む。
ほんとに好きなんだなぁとこの笑顔を見てつくづく思った。
私はそろそろかなと菜箸を手に取る。
魚を菜箸でくるっとひっくり返すと、良い焼き加減だった。
「お、いい焼き加減だぜ」
あらかじめ付けておいたかざり塩のせいもあってか、焦げずに綺麗に焼けている。
ほんのりと塩の臭いも漂い、お腹がすいた私としては早く食べたいという気持ちが先行する。
私は人間とは違い、きっちり三食食べなくても生きていける。
それでも、食べたいという欲求はもちろんある。
そのため、美味しそうなものを目の前にすると食べたくなるのだ。
洋食派の私に、和食をこれほど食べさせたいと思わせる食事を作れるのは流石だなぁとつくづく思う。
ふと隣を見ると、味噌汁の調理が終わったらしく、鍋に蓋を閉めていた。
魔理沙は床にしゃがみ込むと、床下の保存庫を開く。
保存庫からきゅうりの浅漬けを取り出すと、小皿にそれを数個乗せた。
緑の彩りが美しく、つやつやして美味しそうだった。
私が魚の調理をしている間に、どんどん魔理沙は朝食の準備を進めていく。
水で濡れた布巾でテーブルの上を綺麗に拭く。
その後、箸とコップを並べ、先ほどのきゅうりの浅漬けが乗った小皿を並べていた。
そんな魔理沙を見ていると、私の鼻に焼き魚のいい香りが漂ってくる。
もう十分な焼き加減だった。
私は火を止め、魔理沙が隣に置いておいた横長のお皿に焼き魚を乗せた。
じゅーという音を立てて表面から油が流れ出ている。
とても美味しそうだった。
私は焼き魚の乗ったお皿をテーブルに並べる。
そこには既に白米が盛られた茶碗に、味噌汁が注がれたお椀、そして緑茶の入ったコップも置かれていた。
「よし、朝食の準備は整ったな。それじゃあご飯にしようぜ」
「えぇ、そうね。もうお腹がぺこぺこだわ」
私は三角巾とエプロンを外すと、丁寧に畳んだ。
早く食べたい気持ちはあるけれど、使ったものはちゃんと片付けないと気が済まないのだ。
几帳面なのも考えものだと改めて感じた瞬間でもある。
魔理沙もエプロンと三角巾を外し終わると、私達は椅子に座った。
目の前には、綺麗に配置された朝食。
みているだけで口の中から唾液が出てくるのがよく分かった。
「それじゃ、手を合わせて……」
魔理沙がそういうので、私は素直に手を合わせた。
食べるものがどんなものだろうと、食べる事への感謝の気持ちを忘れてはいけない。
目の前の食事にありつけることに感謝をして。
「いただきます」
「いただきます」
魔理沙に続いて、私も言う。
その、いただきますと言う時の魔理沙の表情は、とても可愛らしい笑顔である。
食事を大切にし、愛しているからこその笑顔だろう。
そんな笑顔を見ていると、私もなぜか笑顔になる。
私は箸を伸ばし、焼き魚の身をほぐし、口へと運ぶ。
ほんのりと塩の香りと味が口いっぱいに広がって、脂ものっていて美味しい。
続けて温かい白米を口に運ぶ。
「美味しいわね」
「だろ。洋食も確かにいいが、和食だって美味しいんだぜ」
こうしてみると、和食っていいなぁと思う。
今度魔理沙に和食の料理を教えてもらうとしよう。
しかし、食事というのは不思議なものだ。
お腹が空いている時はどんなものでも美味しく見えるし、いろんなものが食べたくなる。
また、自然と笑みがこぼれるのだ。
純粋に美味しいから、というものもちろんあるだろう。
そのほかにも、食べているとなんだか心が穏やかになるような、そんな気がする。
自然といろんな話も食事の間に生まれるし、なんとも不思議である。
「あ~、美味しいなぁ」
魔理沙はにっこり笑って言った。
なんだか、魔理沙が食事にこだわる理由がなんとなくわかった気がした。
私は、そんな魔理沙がちょっと羨ましかった。
最近、手抜き料理しか作ってないのでたまには頑張ってみようかなと思った。
ああ読んでたら腹減ってきた。
「私は箸を伸ばし、焼き魚の身をほぐし、うちへと運ぶ。」口へと
アリスはもうお泊りと言わずに結婚しちゃえば? ていうかアリス、俺に魔理沙を譲ってくれ。頼む。
豊かな食卓には幸せも宿るんですね。マジ腹減ってきました。
>昨日は魔理沙と一緒「な」ベッドで寝たのだが
ちょっと詳しく聞かせてもらおうか。
「一緒にベッドで寝た」と「一緒のベッドで寝た」では「一緒」の修飾場所が違うため、深読みする時に微妙に意味合いが異なるわけだ。
もちろん、どういう意味か判るよな?
でも、どちらかというとアリスの方が料理は上手そうな…
原作でもちらし寿司やら色々と作ってたし、寧ろ料理が上手いのは合っているのかも。
でも、洋食と和食の考え方の違いがもう少し掘り下げられていたら良かったかな。
というか、焼き魚美味そう…。
白米と味噌汁、焼き魚に醤油を垂らすコンボは、朝食で最強レベルだなー。
やはり日本人には和食が一番合ってますね。
読み終えてふと現実を見れば、朝はバナナとかシリアルとかばっかりです。
ああ、あんな朝食が食べたい。
おいかわってことはわかってるんですが反応してしまいましたw
実家の朝ごはんが恋しいよ
料理に情熱を傾ける魔理沙が繊細で魅力的だったと思います。
この組み合わせはいつになっても飽きないです。
この魔理沙の気持ちには全面的に共感できる。パンは昼に食べればいいのです。
私も朝ごはんは必ず取るようにしていますが、どうしてもパン食になってしまいます。
6枚切りを1枚が限度です。
健康のためには、この作品のようなバランスの良い食事がいいとはわかっているのですが……。
おいしそうな描写で、とても良かったです。
まず米炊いてないし、炊いてあったとしても目玉焼きですね。
目玉焼きって、和食でいいんでしょうか?かけるのは醤油ですが…
評価ありがとうございます。
手抜きは楽でいいけど、余裕がある時はちょっと気合い入れてみたいですよね。
お料理の本とか見て、普段作らないものつくってみたりとか。
>3 様
評価ありがとうございます。
朝食は夏場はほんと食べませんねぇ、ダメだなぁ。
>ぺ・四潤 様
評価ありがとうございます。
誤字の指摘ありがとうございます。
豊かな食卓ってほんと楽しい。
>8 様
評価ありがとうございます。
なんかすごいわかりますww
書いてて違和感はありましたが、やっぱりそうなりましたか。
>ダイ 様
評価ありがとうございます。
私だってマリアリ書きますよ!
アリスは戦闘と同じです、手抜きばかりする横着な子なんです。
>17 様
評価ありがとうございます。
変に真面目な魔理沙大好きです。
>22 様
評価ありがとうございます。
洋食と和食の考え方の違いかぁ……確かにそうですね。
そこら辺は私の知識のなさでした、精進せねば。
うわぁ、すっごい美味しそうですw
>オオガイ 様
評価ありがとうございます。
ほのぼのが私のジャスティス!
日本は色んなのものが食べられますが、和食いいですよね、ほんと。
>ワレモノ中尉 様
評価ありがとうございます。
朝はバナナとかシリアスに見えた私はもう駄目かも知らん。
朝食はしっかり食べたいものです。
>山の賢者 様
評価ありがとうございます。
おいかわ……だと!?
>30 様
評価ありがとうございます。
一人暮らしかぁ~。
したこと無いからわからないですけど、よく聞きますね、そういうこと。
私は幸せなのね。
>31 様
評価ありがとうございます。
誰かそう言ってくれると信じてました。
>32 様
評価ありがとうございます。
なんっていうか、容易に想像できる風景ですね。
魔理沙さん素敵!
>33 様
評価ありがとうございます。
ご飯とみそ汁ってほんといい組み合わせですよね。
でも、昼食に食パンを食べようとは思わない私。
>葉月ヴァンホーテン 様
評価ありがとうございます。
まぁ、食べないよりはましですが、パン食ばかりだとダメですよね。
意識していても実行できないのが現実ですわ。
>38 様
評価ありがとうございます。
目玉焼きは……どうなんでしょうね?w
>40 様
評価ありがとうございます。
どこがかっこよかったんでしょうか……。
>46 様
評価ありがとうございます。
おいしい描写だったということですね、ありがとうございます。