「ねぇ文。そのカメラってさ」
「はい?」
神社の居間にて、霊夢と文は突っ伏している。
暑さにへばって見事な屍体風味を醸し出している。
「そのカメラって弾幕消せるじゃない」
「えぇ、そうですね」
霊夢がじっとカメラを睨む。
「ずるっこいわよね」
「ずるっこじゃないですよ」
怠さと眠気の所為で半眼で睨んでる様に見える霊夢。そんな霊夢ににへらと笑みを投げ返す文。
「このカメラを私が使ってる時、私は弾幕を使わないでしょう。そういうリスクです。それで平等なんです」
「弾幕を消す代わりに、弾幕は使わない、と」
「そうです」
そしていつの間にかどや顏。
少し蹴りたい。
「まぁよしんば使えたとしても自分の弾消しちゃったりで難儀しそうですが」
「ふぅん」
あっはっはっはっと豪放に笑い飛ばす。こういうところは鬼にそっくりである。
「それでさ、なんであんた私が山へ行った時、あんたカメラ使わなかったのよ」
「あぁ、それですか」
どう説明したものかと天井を仰ぐ。そして言葉を整理してから、やる気なく口の端から溢す。
「主役の能力は相手の能力無効化というのが流行だと早苗さんが仰るので」
「黒ヒゲ?」
「危機一髪?」
中途半端に噛み合わない合の手で話が逸れる逸れる。
「ええっと、端的に言いますと、大切な商売道具なので取材でもなければ持ち歩かないと、そういう感じです」
「あぁ、なるほど」
言われてみれば実に道理で納得。
考えてみればカメラは精密機械。写真撮影目的でもないのに持ち歩いて壊しては阿呆だろう。
「それって弾幕以外も消せるの?」
「いやぁ、それはないんじゃないですか。そうなると人物写真や風景写真取れなくなっちゃいますし」
「というか、どうやって弾幕消してるの?」
「それはにとりさんに聞かないと」
「河童印か」
河童印とは
『高品質中値段低説明』と呼ばれる河童の作った商品のこと。
基本的に完成度と品質は高く、お値段はほどほどで、不親切が過ぎるほど商品の取り扱い方の説明が足りないというもの。というのも、多機能が過ぎて説明しきれないのである。別の言い方で『本質一割無駄九割』と呼ばれるそれは、グリル機能のある冷凍庫に代表される。
「で弾幕消去か」
「天狗もビックリ」
「もしかして、えっと姫なんとか……」
「えぇ、はたてのもそうです」
「すごいわね河童」
何が作れて何が作れないのか、それは河童にさえ判らない。ただ言える事は、単純明快はあり得ないということくらいだろうか。
「好いわね。頂戴」
「譲るわけない」
「ケチぃ」
「我々ジャーナリストはジャイアニズムには屈しません」
「キスしてあげる」
霊夢にとっては何気ない冗談。しかし文からすれば大いなる想定外。
何故そこで接吻が出るのか。それが何の代償になるのか。いやしかし人間の唇というのはここしばらく興味など持ったことがなく味わった憶えがない。若干の興味が。そしてこの巫女の唇というのは果たしてどの様な触感なのか。
好奇心が噴水する。
しかし、カメラは大事。
「少し心が揺れましたお断りです」
「何故揺れる」
霊夢は真顔である。
「純真な天狗を弄ぶ巫女に仕置きを」
「わぁ!?」
文はむくりと起き上がりだらぁっと霊夢を押し倒す。
「暑いですね」
「退け!」
べたぁ。
ぐだぁ。
こしょこしょ。
びくっ。
「くすぐらないー!」
「あぁ、やめて押さないで暑いー」
「はーなーれーろー!」
二人の汗が混ざり合う。どっちのかいた汗か判らない。
じたばた。
じたばた。
巫女と天狗のすることではない。
「霊夢さん。提案」
「退けー」
「退くから提案」
「何よぅ」
既に霊夢の声にも覇気がない。
「温泉に」
「さっさと着替え用意しなさい」
そして二人は湯船に向かう。
レッツ入浴。
そして出る。
「あっつ」
「でも汗流れましたね」
烏の行水コンビ。
「しかし文」
「なに?」
「なんでネグリジェ?」
今昼。
ちなみに霊夢は青い浴衣である。
「……ふっ、これしか持ってこなかったと言ったら?」
「馬鹿と言う」
何故か文は誇らしげである。
「まぁいいや」
「ですね」
ぐでぇ再開。
「文ってさ」
「んー、なんですかぁ。ネグリジェ着たいですかァ」
「剥ぐわよ」
「剥がなくてもネグリジェならあと三着」
「なんで!?」
どういう思考回路が導いた衣服持ち込みなのか不明である。
ぶっちゃけ文にも判らない。
「置いておいて。なんですか霊夢さん」
「質問に……いいわ。文ってさ、なんで新聞作ってるの?」
「好い質問だ。はたての尻掘っていいぞ」
「……何それ?」
「なんか早苗さんの見てた武闘家育成系の何かでそんな科白が」
「……早苗って色々持ってるわね」
多少誤解が先行している。
「でだ。話戻して好い?」
「私の新聞ですね」
「そうよ」
逸れるのも一瞬なら戻るのも一瞬。
このスキルがあるからこそ、話題が常に逸れるのである。
「私が新聞を作る理由なんて決まってるじゃないですか」
「知らないから訊いている」
「残せるでしょう?」
「はい?」
巨大なハテナ一つ。
「文字にすれば記憶は時間を超える。写真にすれば風景は歴史を越える。それが楽しいから私は書くんです」
「えっと、つまり?」
「頭の悪い巫女にも、時間をおいて見せればいつかは判る日が来るかもしれない。そういうものです」
「待てこら」
腕を振って文を叩こうとするが、ころりと転がられて手が届かない。
ぺたぺたぽてぽてと畳を叩いて諦める。
「つまり、文は何したいの?」
「過去を未来に残すことを。新しいことを大勢に知らすことを。その結果が見てみたい」
「そんなの阿求がいるじゃない」
「あれは生憎と写真がないでしょう」
「あぁ、まぁそうね」
文はにやぁっと笑う。嫌な笑み。
「何よ」
「あなたの成長した後に、今のあなたの記事を見たら、あなたは憤死するか恥死するか。私はそれが楽しみで仕方ない」
はぁん、と霊夢は笑みを返す。
「阿呆ね。変わらないわ、私は」
「そんな人間がいたら怖いでしょう」
「さぁね。でも懐かしむだけだわ」
二つの目線がぶつかり合い、温かく弾け散る。
「楽しみです」
「つまらないわよ」
睨み合う目は、至極愉快そう。
「じゃあここで一つ、怠そうに寝転ぶ巫女さんの写真でも残しましょう」
「どうぞ。きっと数十年経っても、私はこうしているわよ」
あはははは。
負ける気はない。未来にも過去にもをする気はない。
妖怪の時間は遅いから。人間の時間は早いから。
だから、二人はお互いにその時間の流れを知らない。知るはずもない。だから興味を持っている。
だから、二人は一緒にいた。一番妖怪を妖怪と思わない人間と。一番人間を人間と思わない妖怪と。
「はい、霊夢さん笑わないでェ」
「殴る」
嫌味ににやついた笑い顔で、二人は向き合っていた。
ぱしゃり。
また一枚、歴史を越える。
「おや?」
「ん?」
文がきょとん。
霊夢もその目にきょとん。
「消えた」
「何が?」
「えっと」
文は少し頬をぽりぽり。
言い淀む。
殴られたら嫌だな。殴られるだろうな。と。
腹を括る。
「浴衣が」
霊夢が自身を見る。青はなく、一面肌色。
悲鳴と怒声が結婚して拳固が産まれる。
産声は随分と重い音であったという。
かくして、今日も幻想郷は平和である。
「はい?」
神社の居間にて、霊夢と文は突っ伏している。
暑さにへばって見事な屍体風味を醸し出している。
「そのカメラって弾幕消せるじゃない」
「えぇ、そうですね」
霊夢がじっとカメラを睨む。
「ずるっこいわよね」
「ずるっこじゃないですよ」
怠さと眠気の所為で半眼で睨んでる様に見える霊夢。そんな霊夢ににへらと笑みを投げ返す文。
「このカメラを私が使ってる時、私は弾幕を使わないでしょう。そういうリスクです。それで平等なんです」
「弾幕を消す代わりに、弾幕は使わない、と」
「そうです」
そしていつの間にかどや顏。
少し蹴りたい。
「まぁよしんば使えたとしても自分の弾消しちゃったりで難儀しそうですが」
「ふぅん」
あっはっはっはっと豪放に笑い飛ばす。こういうところは鬼にそっくりである。
「それでさ、なんであんた私が山へ行った時、あんたカメラ使わなかったのよ」
「あぁ、それですか」
どう説明したものかと天井を仰ぐ。そして言葉を整理してから、やる気なく口の端から溢す。
「主役の能力は相手の能力無効化というのが流行だと早苗さんが仰るので」
「黒ヒゲ?」
「危機一髪?」
中途半端に噛み合わない合の手で話が逸れる逸れる。
「ええっと、端的に言いますと、大切な商売道具なので取材でもなければ持ち歩かないと、そういう感じです」
「あぁ、なるほど」
言われてみれば実に道理で納得。
考えてみればカメラは精密機械。写真撮影目的でもないのに持ち歩いて壊しては阿呆だろう。
「それって弾幕以外も消せるの?」
「いやぁ、それはないんじゃないですか。そうなると人物写真や風景写真取れなくなっちゃいますし」
「というか、どうやって弾幕消してるの?」
「それはにとりさんに聞かないと」
「河童印か」
河童印とは
『高品質中値段低説明』と呼ばれる河童の作った商品のこと。
基本的に完成度と品質は高く、お値段はほどほどで、不親切が過ぎるほど商品の取り扱い方の説明が足りないというもの。というのも、多機能が過ぎて説明しきれないのである。別の言い方で『本質一割無駄九割』と呼ばれるそれは、グリル機能のある冷凍庫に代表される。
「で弾幕消去か」
「天狗もビックリ」
「もしかして、えっと姫なんとか……」
「えぇ、はたてのもそうです」
「すごいわね河童」
何が作れて何が作れないのか、それは河童にさえ判らない。ただ言える事は、単純明快はあり得ないということくらいだろうか。
「好いわね。頂戴」
「譲るわけない」
「ケチぃ」
「我々ジャーナリストはジャイアニズムには屈しません」
「キスしてあげる」
霊夢にとっては何気ない冗談。しかし文からすれば大いなる想定外。
何故そこで接吻が出るのか。それが何の代償になるのか。いやしかし人間の唇というのはここしばらく興味など持ったことがなく味わった憶えがない。若干の興味が。そしてこの巫女の唇というのは果たしてどの様な触感なのか。
好奇心が噴水する。
しかし、カメラは大事。
「少し心が揺れましたお断りです」
「何故揺れる」
霊夢は真顔である。
「純真な天狗を弄ぶ巫女に仕置きを」
「わぁ!?」
文はむくりと起き上がりだらぁっと霊夢を押し倒す。
「暑いですね」
「退け!」
べたぁ。
ぐだぁ。
こしょこしょ。
びくっ。
「くすぐらないー!」
「あぁ、やめて押さないで暑いー」
「はーなーれーろー!」
二人の汗が混ざり合う。どっちのかいた汗か判らない。
じたばた。
じたばた。
巫女と天狗のすることではない。
「霊夢さん。提案」
「退けー」
「退くから提案」
「何よぅ」
既に霊夢の声にも覇気がない。
「温泉に」
「さっさと着替え用意しなさい」
そして二人は湯船に向かう。
レッツ入浴。
そして出る。
「あっつ」
「でも汗流れましたね」
烏の行水コンビ。
「しかし文」
「なに?」
「なんでネグリジェ?」
今昼。
ちなみに霊夢は青い浴衣である。
「……ふっ、これしか持ってこなかったと言ったら?」
「馬鹿と言う」
何故か文は誇らしげである。
「まぁいいや」
「ですね」
ぐでぇ再開。
「文ってさ」
「んー、なんですかぁ。ネグリジェ着たいですかァ」
「剥ぐわよ」
「剥がなくてもネグリジェならあと三着」
「なんで!?」
どういう思考回路が導いた衣服持ち込みなのか不明である。
ぶっちゃけ文にも判らない。
「置いておいて。なんですか霊夢さん」
「質問に……いいわ。文ってさ、なんで新聞作ってるの?」
「好い質問だ。はたての尻掘っていいぞ」
「……何それ?」
「なんか早苗さんの見てた武闘家育成系の何かでそんな科白が」
「……早苗って色々持ってるわね」
多少誤解が先行している。
「でだ。話戻して好い?」
「私の新聞ですね」
「そうよ」
逸れるのも一瞬なら戻るのも一瞬。
このスキルがあるからこそ、話題が常に逸れるのである。
「私が新聞を作る理由なんて決まってるじゃないですか」
「知らないから訊いている」
「残せるでしょう?」
「はい?」
巨大なハテナ一つ。
「文字にすれば記憶は時間を超える。写真にすれば風景は歴史を越える。それが楽しいから私は書くんです」
「えっと、つまり?」
「頭の悪い巫女にも、時間をおいて見せればいつかは判る日が来るかもしれない。そういうものです」
「待てこら」
腕を振って文を叩こうとするが、ころりと転がられて手が届かない。
ぺたぺたぽてぽてと畳を叩いて諦める。
「つまり、文は何したいの?」
「過去を未来に残すことを。新しいことを大勢に知らすことを。その結果が見てみたい」
「そんなの阿求がいるじゃない」
「あれは生憎と写真がないでしょう」
「あぁ、まぁそうね」
文はにやぁっと笑う。嫌な笑み。
「何よ」
「あなたの成長した後に、今のあなたの記事を見たら、あなたは憤死するか恥死するか。私はそれが楽しみで仕方ない」
はぁん、と霊夢は笑みを返す。
「阿呆ね。変わらないわ、私は」
「そんな人間がいたら怖いでしょう」
「さぁね。でも懐かしむだけだわ」
二つの目線がぶつかり合い、温かく弾け散る。
「楽しみです」
「つまらないわよ」
睨み合う目は、至極愉快そう。
「じゃあここで一つ、怠そうに寝転ぶ巫女さんの写真でも残しましょう」
「どうぞ。きっと数十年経っても、私はこうしているわよ」
あはははは。
負ける気はない。未来にも過去にもをする気はない。
妖怪の時間は遅いから。人間の時間は早いから。
だから、二人はお互いにその時間の流れを知らない。知るはずもない。だから興味を持っている。
だから、二人は一緒にいた。一番妖怪を妖怪と思わない人間と。一番人間を人間と思わない妖怪と。
「はい、霊夢さん笑わないでェ」
「殴る」
嫌味ににやついた笑い顔で、二人は向き合っていた。
ぱしゃり。
また一枚、歴史を越える。
「おや?」
「ん?」
文がきょとん。
霊夢もその目にきょとん。
「消えた」
「何が?」
「えっと」
文は少し頬をぽりぽり。
言い淀む。
殴られたら嫌だな。殴られるだろうな。と。
腹を括る。
「浴衣が」
霊夢が自身を見る。青はなく、一面肌色。
悲鳴と怒声が結婚して拳固が産まれる。
産声は随分と重い音であったという。
かくして、今日も幻想郷は平和である。
今回二人そろって鴉の行水だったのは一緒に入って恥ずかしかったからですね、わかります
しかし笑顔全裸で写っていたら相当シュールそうなw
文!もう一枚写真を撮るんだ!!