「出てって」
冷たい目で見られると、服を剥ぎ取られてはだかの心まで見透かされるみたいで、ぞくぞくする。
そんなことを考えてしまう私は、悪酔いのしすぎだろう。
椅子に足を組んだ魔理沙が、琥珀色の瞳に苛立ちを火の粉のように散らして、私を睨みつける。
馬鹿な事をしてる。誰に言われなくてもわかっている。
みっともない。
うつむいて靴のつまさきを見つめたまま、黙りこむ。
たかぶる気持ちのままに真夜中に押しかけた。自分が制御できない。
冷たい汗の浮く手のひらに爪を食い込ませる。神経に響く痛みが遠い。
妙に現実感がなかった。
これから私はいったい、何をしでかすの?
「聞こえなかったか?私の部屋から出てってくれ」
「嫌よ」
「どうしても?」
私の返事は無言。無言のまま、目だけで訴える。嫌なら、無理やり放り出せば?
魔理沙の右眉が、つりあがる。
「よりによって、どうして私のところに来た?」
「近かったから。……嘘。ほんとはね」
「何?」
私はにっこりと、心を甘く蕩かす笑みを見せつける。
「嫌がらせよ」
「迷惑」
窓から吹き込む夜風に、本の頁がめくられる軽い音だけが部屋に響く。
夏の夜気は真昼の熱を残してけだるく、夜露に濡れてほのかに甘い。
短いスカートを揺らす夜風は、私の火照りをいっこうに醒ましてはくれない。
居心地の悪い静寂が続く。
耳障りな秒針の音だけが過ぎていく時を教えてくれる。
もう午前2時を回った。
だから何?朝はまだ遠い。
長い沈黙のあと、小さなため息がきこえた。
「ゲームをしようか」
遊び疲れた後、誰も片付けない机の上に放り出されたままのトランプを手にとって、魔理沙は告げる。
「10枚選んで、シャッフルして裏返す。めいめい1枚ずつひいていって、ジョーカーが出た方の負け。負けたら勝った方の言うことを何でも聞くこと」
「勝ったら出て行けって言うつもり?」
「駄々をこねるな。もう十分、我侭に付き合ってやっただろ。私は眠い」
「……わかった。その代わり私が勝ったら」
「約束する」
醒めた響きに頭のかたすみが冷えていく。
迷惑かけてごめんね。そう言って逃げることは簡単。
明かりもつけない部屋にこもって一人で泣けばいい。
いつもそうしてきたみたいに。
でも、泣くのはもう飽きた。
「のってやるわ。さんざん我侭言ってふりまわしてやる。泣いたって許さないんだからね」
「やってみろよ。あいにく私は他人の都合じゃ動かないぜ?」
魔理沙は9枚カードを適当に選んで、ジョーカーと混ぜる。
鮮やかな手さばきでシャッフルする。
カードを操る綺麗な手に見とれた。
夜闇に白く映える手、涼しげな爪先。
ふと、あの指が私に触れるところを想像する。火照った肌を冷ましてほしいと願う。
どうかしてる。
「……私にもやらせて」
言い出したのは向こうから、準備は相手の独壇場。
ズル、イカサマ、そんな無粋なもの、二人のゲームには要らない。
そうでしょ?
頬杖ついて窓の外の星を数える横顔をよそに、一枚一枚トランプをたしかめる。
カードを特定できるような傷は無い。
すり替えようにも、角ばったトランプは少女の小さな手に余る。
少しだけ安心する。
念入りにカードを混ぜ合わせて、余計なものをよけた机の上に置いた。
「どちらが先に引く?」
「どうぞお先に」
顔をあげると、魔理沙は本を読んでいた。
小さな体で、古びた大きな本を抱えるようにして、並んだ活字に夢中になっている。
胸の中で、苛立ちがパッと燃え上がる。
目の前に私がいるのに、見やしない。
どうしてこんな女のところに来たのだろう。
一番近かったから?
夜の散歩に選ぶには、もっとましな場所があるはずだ。
神社では夜通し華やかに酒宴が繰り広げられているから気晴らしにはもってこい。
夜の図書館で魔法理論を読めば頭が冴えて新しい発見がありそう。
それがどうして、散らかった部屋で、口喧嘩ばかりの相手と、トランプを引く羽目になったのか。
過去の自分の選択にやり場のない怒りを覚えながら、机の上に積んだ山から、一枚引いた。裏返す。
ハートのエース。
ほっと安堵のため息をつく。
まだ、魔理沙の部屋から出て行かなくてすむ。
安心してすぐ、自分を笑った。
馬鹿らしい。
◇ ◆ ◇
一枚ずつ、代わりばんこにカードを引く。
「あいにく悩み相談は受け付けてないんだが?」
本の向こうから、眠そうな声がきこえてきた。切って捨てる。
「悩みなんて無いわ」
「結構なことで」
「魔理沙はたくさんありそうね。この部屋にある魔道書、全部に目を通したの?がんばるのね」
「わかった、喧嘩売りにきたんだな」
「私は、手先以外は不器用だからね」
「どういう意味だよ?」
答える代わりに笑ってみせた。
だって怒らせて揺らす以外に、他人の心をかいま見る方法を知らないもの。
明るくあけっぴろげに見えて、魔理沙は案外かたくなだ。
いつも飄々とした風を装って、人一倍努力を重ねる姿を隠し、悩みや寂しさや妬み、ネガティブな感情を見せない。
そのくせ、人のぬくもりが恋しくてすりよる。
アンバランスな少女だ。
誰にも見せない魔理沙の内面を、私だけに打ち明けてくれたらいいのに、と思った。
それは甘い想像だった。
逸る心にせかされるまま、誘いの言葉を舌にのせる。
「……私が魔法を教えてあげようか?」
私と魔理沙をつなぐ点といえば、同じ魔法使いであることくらいしか思いつかなかった。
返事はそっけなかった。
「余計なお世話」
「……そ。二度は無いわ」
ちらりとカードの中身を確認して、魔理沙は短いため息をついた。
「どこまでも上から目線だな。嫌味なやつだぜ」
「お互い様」
「だから酔って愚痴を言いたいとき、聞いてくれる人がいないんだよ。さびしいな、アリス?」
「……私は私だもの。変えられない。好かれようとして人に媚びるよりましでしょう?」
魔理沙は引いたばかりのトランプを、私めがけて投げつける。
「こっちの迷惑も考えろ」
トランプの角が胸を打つ。
かすかな痛みに気づかないふりをして、また一枚、トランプに手を伸ばす。
どんなカードをひいても、この先に私の望む未来はない。
自分勝手な我侭を押し付けて、今よりさらに嫌われるだけ。
わかっているのに止められない。
カードをめくる。
待ち望んでいたジョーカーのお出ましだ。
描かれたピエロが、悪意に満ちた表情で私をあざ笑う。
『おまえの願いは叶わない』
うるさい。言われなくてもわかってる。
◇ ◆ ◇
「……負けたわ」
短かった。あまりにも。
思わずため息をつく。
チェシャ猫のような笑顔が返ってきた。
獲物をいたぶる猫の笑み。
「運命の女神様はひいきをするのさ。さーて、鬱憤晴らしの時間がやってまいりました。どんなお願いを聞いてもらおうかな」
魔理沙は考えるふりをする。
考えなくたって決まってるくせに。
うわべだけ優しいふりをして、これ以上みじめにさせないで。
その赤い唇で、今すぐ帰れと言えばいい。
散らかった魔理沙の部屋を見渡す。
いたるところガラクタだらけ。
さまよう視線が、机の端に追いやられた菫青石に惹かれた。
長い時間をかけて育つ宝石は、内側に魔力を蓄えるといわれる。
でも、これは駄目だ。
青みがかったすみれ色の結晶に手を伸ばし、指先でひび割れをなぞる。
走った傷から、魔力の大半が逃げていた。
大きなひびのせいで、身を飾る宝石としての価値も下がる。
冷めた目で判断を下した。
二級品だ。
……いや違う。
私にとってはくだらない物でも、ここにあるのは全て、魔理沙が価値を認めて欲しがった物ばかり。
指先ではじいた菫青石は、転げて悲しげに瞬いた。
この部屋は、やっぱり馴染めない。
彼女の欲しがるものになれなかった私じゃ。
帰り道がわりに、窓を大きく開け放つ。
白いカーテンが闇にはためく。
湿った夜風が流れ込んで、室内によどんだ熱気を一瞬だけ払った。
涼風が吹き抜けて、私の弱気もさらっていく。
……魔理沙のことだから、別のことを命令するかもしれない。
ちゃらんぽらんに見えて合理主義者だ。
利にさとい彼女が、他人に何でも言うことをきかせるなんてチャンスを棒にふるはずがない。
振り返ると、ふだん即決の魔理沙がまだ悩んでいた。
◇ ◆ ◇
「そんなに私にしてほしい事がいっぱいあるのかしら?」
「うーん、迷惑の仕返しにおまえが一番嫌がることをやらせたいんだけど。何がいいかな」
「……性格悪いわね、ほんと」
「なにをいまさら。よし、決めた」
椅子にあぐらをかいて、ひとさし指で私の心臓を狙い撃つ魔理沙。ばかじゃないの。
「アリスの一番恥ずかしい秘密を白状しろ」
私は天をあおいでため息をつく。
「なんでよりにもよって、一番嫌なことを願うのかしら」
「約束したよな?負けた方が勝った方の言うこときくって。ちゃんと守れよ」
唇を尖らせて身を乗り出す魔理沙を押しとどめるように両手のひらを突き出して、私は念を押す。
「……誰にも言わない?」
「おう、もちろんだ」
「本当のホントね?」
「魔理沙さんが嘘を言ったことあるか?」
「両手の指でも足りないわね。閻魔様に舌引っこ抜いてもらえば。……でも、この秘密、言いふらせるものなら神経を疑うわ」
「おうともさ。それでアリスの一番恥ずかしい秘密は?」
「……うぅ。素面じゃとてもいえないわ。ちょっと失礼」
テーブルの上の赤ワインをひきよせる。
私が抱えて持ってきたものだ。
ワイングラスを勝手にそこらへんから拝借して、くちびるを湿らせる。
濃い酒の香りがたちのぼって、くらりと視界が回る。
そういえば、ここに来る前から酔っ払ってた。世界がくるくる回る。
でもそんなこと、今は構っていられない。
魔理沙が、私の言葉を待ってる。
「アリス、答えは?」
言わなきゃ。一番恥ずかしい、私の秘密。
罰ゲームなんだから仕方ない。
こくりと息をのんで、跳ねる心臓をなだめて、それでも震える声を隠し切れなかった。
勇気を振り絞って打ち明けた。
「……あんたが好きよ」
ぽかん、と目も口も開いた間抜け顔を、指さして笑ってやりたかった。
百年の恋も醒めるわ、この顔。
なんでこんな女を好きになったんだか。
本当に、心の迷いとしか思えない。
「嘘はノーカウント」
「ごめんね嘘じゃなくて」
私はわざとらしく肩をすくめてみせる。
虚勢でも張らなくちゃ、やってられない。
たとえそれが、つつけば崩れ落ちる張りぼてでも。
「おまえさ。もうちょっと照れるとか恥らうとか、したら。乙女としてどうなの」
「あんたも。うら若き少女のはしくれなら、もうちょっと照れるとか恥らうとか、したら」
「……。やだ、アリス、あたしがいいの?……ふう、こんなの素面じゃきついぜ」
「ばーか」
わざとらしく体をくねらせて、砂糖菓子みたいな甘ったるい声でささやいて。
魔理沙は私の反応をうかがうように、顔をのぞきこんできた。
琥珀色の瞳の中にきらめく星がみえる。
ちょっと首をかしげたら、くちびるを盗めそうなほど近い距離。
「それにアリスは、乙女っぽくない私が好きなんだろ?」
頭、を。
ほんのちょっとだけ傾けたらどうなるだろう。
厄介な悪戯心が頭をもたげる。
おでこを指先でツンとついた。
「自惚れないでよね」
よりによって、初めての恋に厄介な相手を引き当てた。
同性で、寿命は短く、おまけに私のことなんて眼中にない。
気のおけない距離で、無防備な表情をさらしてみせる。
無意識のうちに私の本気を信じていない、魔理沙が嫌いだ。
つつかれたおでこをさすりながら、魔理沙は頬を膨らませた。
「……おい。冗談だっていうなら、笑えるタイミング逃してるぞ」
扇に開いたカードの隙間から、向かいを盗み見る。
指先がとんとんと早いペースで机を叩いているのを見つけて、トランプのかげで笑いをかみ殺す。
自分のペースを乱されること。
皮肉を聞き流されること。
思い通りにならない物事は、簡単に魔理沙を苛立たせる。
怒った魔理沙の表情が、私は好きだ。もっと怒らせたくなる。
何も知らなかった子どものころ、恋は綺麗な感情だと思っていた。
初めて知った私の恋は、ねじれて歪んでいた。
ちっとも綺麗じゃなかった。
「質問は、それだけ?じゃ、ゲームの続きをはじめましょうか」
見せつけるように優雅なしぐさで指をのばし、カードをとりあげる。
魔理沙の苛立ちが、一段と膨れ上がる気配がした。
目にみえない針が肌に刺さる、まぼろしの痛みすら感じる。
ああ、いますぐ笑い出したい。
私を見ないその瞳に、この姿を写したい。
あなたの感情を、私へと向けさせたい。
たとえそれが、怒りでも軽蔑でも嫌悪でもかまわない。
わずかな間でもいい、私を見て。
だからあなたを怒らせる。
これが私の秘密。
……とっくに頭がいかれてる。
◇ ◆ ◇
「あーあ」
ぼんやりとスペードのクイーンを眺めていたら、魔理沙が大げさにため息をついた。
はっと勝負に目を戻す。
伸びをして、魔理沙の白い指がカードを裏返してみせる。
ジョーカーだった。
「負けちゃった。ついてないな」
つまらなそうなその様子に、逆に心配になった。
「約束、覚えてる?」
魔理沙は、手の中のカードをぱっと空中に放り投げた。
「何をご所望ですか、お姫様」
舞い落ちるトランプの隙間から、おどけて聞いてくる。
あっけなく、勝った。勝ってしまった。
ばかじゃないの、こいつ。
私が厄介なことを願うのは、火をみるより明らかなのに。
そう、願いごと。
夢の中を漂っているような気持ちで考える。
魔理沙に願うこと。数え切れない。
あなたが私を好きになってくれたら、どんなに幸せだろう。
せめて私を迷惑に思うその気持ちを、消してしまえたら。
思ったはしから打ち消した。
目の前にあるのはただのトランプ、心までは操れない。
私のゆくてに待ち受ける、叶わない恋に袖を濡らす数々の夜。
今晩は耐え切れず押しかけてしまった。
次は同じ過ちをおかさない。
願うならば、思い出だけ。
せめて美しい思い出があれば、永遠の夜も一人で耐えてゆける。
そう信じた。
スカートのはしを皺になるほど握り締める。
誰かに聞かれるのをおそれるように、小さな声で囁いた。
「……キスして」
浅はかだった。
「それも、私への嫌がらせか?」
「……そうよ」
魔理沙の目に軽蔑の色が浮かぶ。
その冷たい目に惹かれると言ったら、本当に失望されるだろう。
「おまえは、もっとマシなやつだと思ってたよ」
私自身だってそう思ってた。
あんたがその幻想を叩き壊した。
ああ、馬鹿にした笑みを浮かべるその顔を、床にはいつくばらせて、靴のかかとで頭を踏みにじってやりたい。
どうしてそう願わなかったんだろう。
さっきまでの自分を呪った。私が願ったのは何だ。
こいつにキスされること。
でも、もしも時間を巻き戻せても、私は別の願いを言うだろうか。
心の中に問いかける。
決まってる。
私は、魔理沙が欲しかった。
気づいた時からずいぶん抵抗した。
泣いても喚いても懇願しても、恋の火種は私の心から去らなかった。
気づいたときには焼け野が原。
手がつけられないまま、不可視の炎が胸の中に燃え広がって魂をあぶる。
恋は落ちた方が負け。
熱気にあおられて、酷くのどが渇く。
水が欲しい。
あいにく、机の上には私が抱えてきた景気づけの赤ワインしかなかった。
やぶれかぶれの勇気の火種。
消えかかる炎に油をそそげ。
私を動かす火花を、もっと。
華々しく、何もかも焼き尽くしてしまえ。
グラスをあおると、舌先にぴりりと刺激を残してのどを滑り落ちて行くぬるい赤い酒が、胃にたどりついてかっと燃え上がる。
渇きはさらに酷くなった。
「酔っ払いめ」
舌打ちして、魔理沙が椅子から立ち上がった。
忘れたインクでも取りにきたように、ぶらりと歩みよってくる。
私にキスするために。
私は無意識にソファにひざを抱えて丸くなる。
逃げ出したい。近づきたい。
相反する感情にひきさかれて、結局どこにも行けないまま縮こまった。
恥じらうように、ひざこぞうで口元を隠す。
ソファの前に歩いてくると、魔理沙は私の前にひざまずく。
私のくちびるを守る膝を、からかうようにつつく。
つつかれて、ぎゅっと身を固くする。
いつまで待ってもあらわれない顔に退屈したのか、指先がつつっとひざをくだり、足首の骨をなぞって、つまさきを覆う靴にたどりつく。
ていねいに靴を脱がされた。
緊張してかいた汗で冷たくなった素足に、夜気の涼しさが染みる。
はだしの足に、さっきまで渇望して見つめていた手が触れる。
小さな足を手の中につつみこむ。
魔理沙がくちびるをぺろりと舐める。
のぞいた舌の赤さに目が奪われる。
ぼうっとして眺めていた私は、急に行動の意味を悟って、足を引っ込めた。
「待って」
琥珀色の目が見上げてくる。
夜に底光りして、感情が読めない。
舌がもつれて空回りする。
「夏の夜を飛んだから、汗をかいてるの、汚いから、あの、」
早口言葉は、ぷつんと途切れた。
足の甲に落とされた口付けで、体に火がともる。
「……満足した?」
夢見心地のふわふわした気分が、しゃぼん玉めいて弾ける。
なんだか、子供だましで誤魔化された気がする。
こんなんじゃ足りない。
思ってからすぐ打ち消す。
はしたない。満足しなさい。
できない。
私はのどの奥で唸る。
魔理沙が首をかしげ、捧げもっていた足を離した。
ぬくもりが遠ざかる。
考えるより早く、エプロンドレスの裾をつかむ。
「まだ、何か?」
ぶつかった視線が挑戦的で、息を呑んだ。
言いよどんでから、目をつぶって、息を吸う。
卑怯だ。
私の気持ちを知ってるくせに、この唇で願い事を言わせようとする。
恥ずかしさを思い知らされながら、消えそうな声でねだった。
「……ちゃんとキスして」
鼻で笑われた。
これが、魔理沙の仕返し。
ひとが勇気を振り絞ったのに、この態度。
頭にきた。許せない。目にもの見せてやる。
私はくちびるに冷笑をまとい、ひきしぼった矢のように鋭く、あざけりの毒をぬりこめて言葉を射掛ける。
「意気地なし」
魔理沙の瞳がすぼまり、きらめいた。
唇のはしから、尖った犬歯がのぞく。
噛み付かれる、と思った。
もういい。血が出てもいいや。
望むところだ。
「……私を怒らせたな」
熱が、待ち焦がれたくちびるに落ちてくる。
かがやく金色の髪が、夜空を流れる星の河となって視界を閉ざす。
満天の星が私めがけて降ってくるようだ。
あなた以外、もう何も見えない。
ワイングラスを引き寄せて、口移しで飲まされる。
ひどく、甘く感じた。
のどに絡みつくように甘い。
好きなひとの味。
寄せ合うくちびるの端からこぼれてしまうのが惜しくて、こくこくとのどを鳴らして一生懸命に飲んだ。
あふれた赤いしずくを、魔理沙の指がすくいとる。
ワインの海に溺れてしまわないように、くちづけの隙間から泡めいた文句を吐き出した。
「……よりによって、足にキスするなんて。野蛮な野良猫ね」
「おまえは、どこに、とは言わなかったろ」
返事に頭が痛くなる。
魔理沙も十分、夏の熱気に頭がぐらぐら沸いている。
ワイン味のキスを交わす。
ロマンチックなんて、とても言えない。
甘美でほろ苦い味わいに、ああ、酔ってしまいそう。
「酔いつぶれちまえ」
「あんたよりは強いつもりよ」
とっとと眠らせて黙らせようって魂胆はお見通し。
とろんと視界にかかってきた霧は見ないふり。
「これでも高いワインなんだから、大事に飲みなさいよ?」
「もちろん。せっかくの酒だ、楽しまなきゃ損だろ」
躾のなっていない少女が、耳元に意地悪な笑い声を吹き込んだ。
耳たぶに、熱く湿った吐息が触れる。
「……気持ちよかった?」
カッと体温が上がる。
とっさに突き飛ばしてやった。
ひとたび身を離せば、乱れた呼吸が恥ずかしさをあおる。
今すぐ机のかげに逃げ込んで、頭を抱えて隠れてしまいたい気持ちを堪えて、にらみつける。
「……ここまでサービスしろとは言ってないわ」
涙まじりの赤い顔じゃ説得力のかけらもない。
気づいたけど後の祭りだった。
面白がって魔理沙が指を伸ばし、私のあごをすくいあげる。
「おまえ、初めてのキスだったんじゃないか?」
馴れ馴れしい手をぴしゃりと払いのける。
「あんたこそ。子供っぽいキスでお茶を濁そうなんて、ずいぶん可愛らしいじゃないの」
「……ほんとに、可愛くない女」
魔理沙はもう何も言う気力もなくなったらしく肩をすくめる。
ばら巻いたカードの中から、表を見せていたジョーカーを取り上げた。
他のカードを適当に混ぜてシャッフルして、元のように机の上に置く。
いつのまにか隣に陣取って、ソファに元から座っていた私を当然のように肘で隅に押しやってくる。
ちょっと、狭いんですけど。
文句を言う気も失せた。
何で私は、こんな女を好きになったんだ。
体が熱い。
頭が痛い。
目の前がぐらぐらする。
ワイングラスをまた空ける。
酒なんてただの水以下だ。
飲んだらその分、のどが渇く。
恋ってこんなに命がけなのか。
好きな人とキスしただけで、今にもぷっつり糸が切れて死にそうだ。
あと、あきらかに飲みすぎた。
◇ ◆ ◇
「次はおまえの番だったな。早く引けよ」
うながされるままカードをめくった。
一枚目からジョーカーが出た。
いきなり負けた。
思わず二度見する。
頭が冷えた。
目の前で恋焦がれる相手は人の悪い笑みを浮かべている。
もしかしなくてもイカサマされたんじゃないだろうか。
そうとしか思えない。
「馬鹿言え。目の前でシャッフルしてみせただろうが」
魔理沙のやつはいつから読心術が使えるようになったんだ。
それにしても頭が痛い。
遅まきながら、一服盛られた可能性に気づいた。
やりかねないからタチが悪い。
魔理沙の部屋が、そこらじゅう罠が手ぐすねひいている魔窟に見えてきた。
本を積み上げた塔が乱立し、隙間から得体の知れない色の茸と魔法薬が見え隠れしている。
書きかけのまるめた紙も、どこかから落ちた螺子も、一緒くたに床に転がっている。
無秩序を体現した部屋だ。
まるで私の心の中みたい。
整理しようと手をつけるはしから崩れていく。
私のこぼしたため息が、部屋のがらくたに加わった。
「……このゲームをやめるには、どうしたらいいの?」
「勝って命令したらいいだろ」
「やっぱり勝たなきゃ終わらないの」
「自信が無いのか?」
からかうように、魔理沙が笑う。
めったに見られない優しい笑顔のまま、囁いてくる。
「もう遅いよね。始める前に気づくべきだよね。何でも言う事聞くって約束したからね」
「悪魔だわ、あんた」
「絞れるもんは絞りとる。私のキスは安くないぜ。さて、何をお願いしようかな?」
「お手柔らかにね」
「自分は手加減しなかったくせに、よく言うよ。ま、遊びですんだからいいけど」
眠たげに伏せられたまつげが長い。
明かりに金色に透ける様子に見入る。
ランプの芯が、夜風にゆらりと揺れる。
壁に伸びる長い影が、悪夢のように踊りだす。
「……私とのキスは、遊び?」
「笑ってすませられるお巫戯けのうち、だろ。私たち二人とも、酔っ払って前後不覚で」
「そうね」
「……今夜はとくに訳わかんないよ、お前。医者もさじを投げるってこの事か」
私は薄く笑みを浮かべるくちびるを自覚する。
わかったつもりになってたのね。
浅いよ、魔理沙。
どうしようもなく。
人の心は暗く淀んだ深淵のよう。
果てはどこかと覗き込めば、背中を押されて転がり落ちる。
そうなればもう終わり。
私は魔女、あんたを煮えたぎった釜の中で形がなくなるまで煮てやる。
とろとろの桃のスープにして、銀のさじにすくって美味しく食べてあげよう。
思わず舌なめずりする。
なんて罪深い。
「きっと酔ってるのよ。今夜は飲みすぎたわ」
嘘のさかずきに真実を盛って、魔理沙に飲ませる。
酔ってるのは本当。
今だって目の前で、魔理沙が二人に増えた。
自分の声が左右からきこえる。うるさいったら。
あ、魔理沙が一人に戻った。
ぼやけていた横顔がはっきり見える。
うつむいて、後悔の表情を浮かべている。
……本当に、残酷なひと。
急に泣きたくなった。
わかってたことじゃない。
自分に言い聞かせる。
キスだってしょせん罰ゲーム。
現実はいつだって優しくない。
知ってるわ、そんなこと。
「遊びと本気の境界線、目に見えないものほどタチが悪い。境界なんて、管轄違いもいいとこだぜ」
だから魔理沙の声に沈むほの暗い後ろめたさを、わざとからかってあげる。
「あんたが後先を気にするなんて、笑っちゃうわね。どうせ明日の朝には忘れてるわ」
魔理沙はずるい、私の告白もキスも、冗談にして無かったことにしようとする。
私は今夜の思い出だけを胸に抱いて、叶わない恋に身を焦がす幾千の夜を越えていかなくてはいけないのに。
ああ、のどが渇く。
冷たい、清涼な水が欲しい。
でも見当たらない。
やけっぱちになってワインをあおる。
「……苦い」
愛は首輪をつなぐようなもの。
だってこんなに、のどが渇く。
息ができない。
夜の底で溺れそう。
たぶん、私が本当に欲しがっているものは水じゃない。
のどの渇きを潤すもの、たましいの乾きを癒すもの。
それを与えられるのは、この幻想郷でたった一人だけ。
他の人からもらった水じゃ、意味なんて無い。
愛されているひとは絶対の権力を与えられた女王様、愛を乞うひとは奴隷のようにその足元にひれふすだけ。
ゲームの勝者なんて最初から決まってる。
ああ、愛が足りない。
のどが渇く。
この厄介な感情から、私は、早く解放されたい。
「魔理沙。何が欲しいの?言ってごらん、魔法使いが叶えてあげる」
目で答えをうながす。
魔理沙の欲しいものは、もう決まったようだ。
指が伸びてきて、頬を引っ張られた。
「アリス、泣いてみせろよ。思いっきり、同情引く顔でさ」
さっきから、魔理沙の願いごとは私を陥れる方向にしか発揮されていない。
そんなに私が嫌いか。
「……どうしてそうなるの」
「私はお前が気にくわない。泣いてくれたらすっきりするかなと思って」
「そんな理由で?」
「ほら、いつもの呆れ顔。その澄ました表情を崩してやりたいってつねづね思ってたんだ。ぐしゃぐしゃに顔をゆがめて、泣けよ」
酔っ払って私も大概おかしいけど。
魔理沙も相当、アルコールがきている。
眠くてどうしようもないんだろう。
でも、こいつの前で泣くなんて屈辱、永遠の黒歴史を残すことは、できれば避けたい。
本気で泣くなんてみっともない。
演技すれば、と思いついた。
私のプライドも保てるし向こうの溜飲も下がるし、ちょうどいいか。
適当に嘘泣きして誤魔化す方法を頭の中で思い巡らす。
魔理沙が話しかけてきた。
「……なあ」
「うるさい。今泣こうと必死なんだけど」
「アリス」
「あんたのせいよ。何なの」
気づけば、大嫌いな片思いの相手は、途方にくれた顔をしていた。
そのくせ琥珀色の瞳は熱っぽく、つややかに潤んでいる。
吸い込まれるように見つめていたら、ふいを突かれた。
「私のこと好き?」
その瞬間、後悔した。
嘘をつけばよかった。
正直に自分の弱みをさらすんじゃなかった。
頭の中が真っ白になった。
返事が何も浮かばない。
魔理沙がまばたくたびに、金色のまつげの影に火花が散る様子に魅せられる。
瞬きのたびに消えていく星を手のひらにすくいあげて、大事に守ってあげたい、誰にも見せずに閉じ込めてしまいたい。
切々と沸きいずる泉のように、気持ちがあふれる。
その思いは綺麗なはずなのに、どうしてか苦い味がした。
「……だいっきらい」
そう、ほんとは魔理沙なんて嫌いだ。
あふれた気持ちは、しずくになって目じりからこぼれる。
「嫌いよ、大嫌いで……頭がおかしくなるくらい、好き」
ぱたぱたと、時ならぬ雨が降って、青いワンピースに透明な染みをつくっていく。
頭が働かない。
頬を濡らすあたたかい雨を、手のひらに受けた。
こみあげる涙がとまらない。
両手でぬぐってもすぐ次のしずくが落ちる。
私、壊れちゃったみたい。
ううん、ずっと前から壊れてた。
きしむ心を隠して、無理やり外側を取り繕っていただけ。
恋を知ったときから、私はそれまでの私を失った。
「どうして、こんなになっちゃったのかしら。もう、手遅れなの。どうしていいかわからない」
いつの間にか魔理沙がそばに来て、泣く私を眺めていた。
いまさら取り繕っても仕方ないことはわかってるけど、顔を覆った。
「見ないでよ……」
「だめ。隠さないで」
目をおさえる両手の手首をつかまれて、無理やりおろされた。
泣き顔を隠すものがなくなってしまう。
まばたきを堪えても、涙は勝手にぽろぽろとこぼれ落ちる。
我慢しようと頑張るのに、しゃくりあげるのにあわせて、のどが鳴る。
くちびるを噛んでうつむいた。
最悪だ。
好きなひとの前に出るから、と思ってうっすらお化粧したのに。
アイシャドウもマスカラも、きっとこの涙で全部流れてまだらになってる。
ひどい顔をしてるだろう。
ますます涙が出てきた。
魔理沙が耳元でうっとりとつぶやく。
「ああ、あのアリスが子供みたいに泣いてる。いつもの澄まし顔が、ぐしゃぐしゃに崩れてる」
「意地悪。魔理沙っていつもそう。私が嫌がることばかり仕掛けてくる。私のこと目障りなんでしょ」
魔理沙は何も言わずに、耳の横でため息をつくみたいに笑った。
いっそ嫌いと言ってくれれば楽になるのに、と思って首を振る。
悪いのは全部私、夜中に押しかけて迷惑をかけて、勝手に期待して、勝手に傷つく。
こんな私は、自分でも嫌になる。
「ごめんなさい、好きになって。迷惑だって、自分でもわかってるの、なのに止められない。もう消えちゃいたい。……好きになったのが、男の人ならよかった。同じ時の早さで隣を歩く、魔法使いならよかった。ううん、何より、私を好きになってくれる人だったら。……なんで、あんたじゃなきゃ駄目なんだろう。どうしてなの?」
どうして、自分の気持ち一つ自由にならないんだろう。
私の心が、私の涙が、私の手を離れて転がり落ちる。
勝手に、辛いだけの相手を選ぶ。
同性で、寿命は短く、おまけに私のことなんて眼中にない。
考えられるかぎり、最悪の相手だ。
初めての恋だった。
もっと大切にしたかった。
同じだけ、大切にしてもらいたかった。
理想とはかけ離れた私の恋。
「……知ってた」
思いがけない魔理沙の言葉を耳にして、私は顔をあげる。
「知ってたよ、アリスがこっそり私を見てたこと。私が他の誰かと笑ってるところを見るたび、アリスは傷ついた顔で目をそらした」
魔理沙は困ったように首をかしげる。
「……嘘」
顔から血の気がひいていく音が聞こえたような気がした。
「気づいてないと思ってた?」
私は黙って、手のひらに爪を立てる。
気づかれてないと思ってた。
誰も知らないと、誤解してた。
だから、見てた。
蝶のように気ままに飛び回って、どこにでも首を突っ込んで、楽しそうに騒ぐ魔理沙を見かけるたび、遠くから眺めた。
そのとき自分が考えたことすら覚えてる。
私、嫉妬してた。
魔理沙の頭の中から、私以外のひとを追い出してしまいたかった。
他のひとのことなんて考えないで、気づいて、振り向いて、こっちを見て。
なんて自分勝手な思いだろう。
まさか、逆に見られていたなんて思わなかった。
ああ、そのときの私は、どんなにか、みにくいかおを。
魔理沙は私から目をそらして、机の隅に追いやられたがらくたを手のひらでそっと撫でた。
ひびの入った菫青石が揺れて、切なく瞬いた。
「ごめんね。……私、わざと知らないふりをしてた。アリスの目のとどくところで、他の人と仲良くした」
魔理沙の告白に、足元が崩れていくような感覚が押し寄せて、くらりと眩暈がする。
見開いた瞳いっぱいに魔理沙が映る。
私を見ない琥珀色の瞳には何が浮かんでるの?
後悔?あわれみ?嫌悪?
わからない。
焦がれてやまなかったその視線が、こちらを向くのが、今は怖い。
震えるくちびるで笑おうとして、失敗した。
無駄だとわかっていながら、耳をふさぐ。
聞きたくない。
「……私はずっと、アリスを傷つけたかったんだ」
ふさいだ指の隙間から、言葉が耳を打った。
意味を理解すれば、言葉は毒となってしたたる。
嫌われていた。
そんな事すら気づかずに、一人で悩んで、眠れないほど泣いて、
私、わたし……馬鹿みたい。
めくったカードの裏で、笑うジョーカーがまぶたの裏によみがえる。
ピエロの歪んだ微笑が、分の悪いゲームに賭けて、無様に負けた私を打ちのめす。
涙が頬を伝って落ちていく。
もう雫をぬぐうことさえ忘れて、肌の上を流れるがままにまかせていた。
今は泣き止む方法すらわからない。
私の心は、ばらばらに砕けて、壊れてしまった。
必死に手を伸ばしてかき集めようとしても、割れた欠片は尖って指先をひどく傷つけるばかり。
もう、消えてしまいたい。
泡になってしまえばいい。
好きな人に疎まれる私なんて、見つめるまなざしすら嫌がられた私なんて、
……いなくなれ。
魔理沙のほそい指が菫青石を持ち上げて、ランプの明かりに透かしてみせる。
ひび割れに光が乱反射して、涙ににじんだ視界に痛いほど青い、まばゆい輝きのかたまりになった。
「見て。綺麗だと思わない?みんな、私の集めるものをガラクタだと言うけれど。完璧なものなんてつまらないよ。ひび割れた宝石がこんなにも光るなんて、きっと誰も知らないんだ」
手の中の宝石に、恭しくキスを捧げる。
そんな魔理沙の姿が見ていられなくて、思わず目をそらした。
「……でも、本当は、こんな石なんてどうでもいいのかもしれない」
独り言のようにつぶやいて、魔理沙がゆっくりと振り返る。
その表情は、陰に隠れて黒く塗りつぶされている。
私は肩を震わせて、狭いソファの上で少しでも距離をとろうと後ずさる。
肘掛に背中があたったのを最後、望みは絶たれた。
魔理沙が身を乗り出すと、必死でかせいだ距離は詰められて、もうどこにも逃げられなくなった。
傷ついた菫青石を愛でていた指先は、ひやりと冷たくて、火照った目許に、熱い涙に触れるたびに染みた。
「ねえ、知ってる?……アリスの傷ついた目は、流す涙は、とても綺麗。だからもっともっと傷つけてやりたくなる。私のことで頭をいっぱいにして。他のひとのことなんて考えられなくなるくらい」
涙に濡れた指先をちろりと舐めて、魔理沙は満足げに笑った。
「あの宝石はね、おまえの身代わり」
◇ ◆ ◇
ゲームはまだ終わらない。
魔理沙は行儀悪く足を机の上に投げ出して、また本を読み出した。
私のほうを見もしない視線に、ちりりと嫉妬が胸を焼く。
気まぐれで意地悪な恋の相手に、振り回されてるのは私のほう。
それが私は気に入らない。
「アリスはさ、私にどうして欲しいんだ?」
「わからない。優しくして」
「嘘ばっかり。私にいじめられたいんだろう?」
ひとを馬鹿にした答えに、唇をかみ締める。
胸に、パチンと火花が散る。
赤ワインの入ったグラスを持ち上げて、ぶちまける。
何をされたのか、訳がわからない。
魔理沙のそんな表情が、自分と本の有り様を見下ろして、呆然へと変化する。
「……ごめんなさい、手が滑ったわ」
私はわざと挑戦的に笑ってあげる。
短いスカートから白い太ももがのぞくのもかまわずに足を組んで、目で誘いかける。
思い通りになる相手じゃ、つまらないでしょ?
ねえ、私と遊びましょ。
退屈なんてさせてあげない。
夏の夜は短いもの。
「ほら次は、あなたの番よ?」
◇ ◆ ◇
またカードをひく。
指が震える。
冷たい炎を宿した琥珀色の目が私を見てる。
ぞくりと甘い痺れが背筋を走った。
勝負なんてとっくに決まってると思ってたゲームの行方は、霧の向こうに閉ざされた。
恋は、より深く落ちたほうが負け。
このゲームに勝つのは私、それともあなた?
片思いアリスはハッピーエンドが良い!
にしても倒錯したマリアリだ、面白い
次作も期待しています
誤字です
この幻想卿でたった一人だけ →幻想郷
魔理沙のアリスへの思いのひねくれてる方向が子供にありがちな好きだから意地悪するを通り越してるのは理解できた
そして泣かされるアリスで一気に共感に。かわいいよ泣かされアリスかわいいよ
勢いに任せて投稿した後で、場違いっぷりにちょっと青ざめました。
こんな関係も受け入れてくださる皆様の懐の広さに救われます。
ご感想、ありがとうございました。
また、誤字の指摘ありがとうございます。
幻想卿…。ダンディーなおじ様みたいですね。
おもしろい
で、ちょっと変わった関係のふたりのやりとりが雰囲気あるね
いちおう相思相愛なのかなこれ?歪んでるけど。