「おはようございます」
つややかな黒髪を肩口で結わえ。
赤い瞳の切れ長の目を私に向けながら。
綺麗に正座をして、枕元から私の事を見降ろしてくる巫女服の女性。
朝、目を覚ましたら、そこに居たのは見知らぬ人でした。
2回ほど目を瞬く。
処理能力が間に合わない。
寝起きに誰だかわからん奴が枕元に居るって何さ、夢? 夢なの? 夢よね? そーよね、そーよね。やだ私ったら。
じゃあ目を覚まさなきゃ。夢で寝れば現実で目が覚めるのが道理。
そんなわけでグッバイ知らん人、おやすみなさい。あなたの事は忘れないわ、目が覚めるまで。
「布団かぶって二度寝の態勢に入るの止めて下さい。起きて下さい、霊夢。もういい時間ですよ」
頭までかぶりなおした布団の上から私の体がゆさゆさと揺さぶられる。
しつこい夢ね。いい加減目を覚ましなさい私。いくら昨日が宴会だったからって、そんなに寝てる事ないでしょうが。早く起きて寝てる3人起こさなきゃいけないんだから。起きなさい起きろってば。お願いだから起きて下さい。
「……仕方ないですね、えいっ!」
「むぇっ!?」
ぶわっさ!という音と供に被っていた布団をはぎ取られる。冷えた空気が私の体を包みあげ、一気に脳内が覚醒する。
「ななな何すんのよ! 寒いじゃない!」
「すみません、こうでもしないと起きて下さらない気がいたしまして」
「だからっていきなり布団剥ぐ事ないじゃない!」
「何度声をかけても起きない方が悪いのです。それに起きたらまず挨拶です、基本ですよ」
「え、あ、あぁ、おはよう?」
「はい、おはようございます、霊夢」
わずかながら頬の筋肉が動き女性の冷静な表情が緩む。
あ、この人結構綺麗ね。もっと微笑めばいいのにもったいない。ん? あれ?
「って! 違うから!!」
「どうしました、霊夢?」
あまり変わらない表情だが、それでも分かる程度に疑問の表情を浮かべる女性。
まてまて、疑問なのは私の方だから。
確認する。
目の前に居るのは女性だ。今まで一度もあった事が無い女性だ。全然、完璧に、完全に、欠片も知らない。そんな人がなぜ自分の枕元に居て、布団はがされて、起こされて、朝の挨拶まで強要されなきゃならないのか。しかもこやつここに居るのがごく当たり前って顔してやがる。いくら博麗神社が入り浸りOKな神社でも、私に挨拶もなく寝室に上がりこむってどうなのよ。新種の変態かしら。なんにせよ制裁フラグはばっちOK。カモンベイベレッツキリングタイム。
「ふぁあ~、おはようございます、霊夢さん」
ぐっと握りしめたこぶしに平和な声が響く。
うるさくしたせいか昨日一緒に宴会してそのまま泊まって行った早苗が、隣の布団で目をこすりながら起き上る。
そして私へと目線を投げて、そのまま隣いる謎の人物を見つめてぽかんとする。
「えっと……どなたでしょう?」
あ、そうか、そうよね、まず身元確認よね。寝起きは思考が飛んじゃうわね、まずいわ。知り合いの知り合いくらいの人が知り合いに連れられて来たのかもしれないし。いきなりぶっ飛ばすとか第一印象最悪にも程があるもの。
女性は早苗を見て自分の身元を明かす。
鈴を転がすような耳触りのいい声が響いて、
「私は霊夢の道具です」
爆弾を投下しやがりました。
博麗神社に二人分の絶叫が響く。
「れれれれれ霊夢さん!? ままままさか、この人の事を……!?」
「ま、待って、誤解しないで! 私こいつの事なんて知らないわよ! あんたも突然何言ってんのよ!」
「知らないとは失礼な言い草ですね。私を投げたり叩きつけたり、あげくほっぽらかしたりを散々しているというのに」
「はぁ―――っ!?!?」
「げ、幻想郷では、常識にとらわれてはいけない、のですね。しかしまさか特殊な方法の上、放置だなんて……さすが博麗の巫女、半端ないです」
「いやぁー!? 私のイメージが壊れていく――っ!!」
自分の頭を抱えて絶叫する。何この状況、意味分かんない、ホント分かんない!
早苗は早苗で微妙に頬を染めながらこっちをちらちら見ているし、件の女性は平静を保ったまま私の混乱っぷりを見ている。
あー! もうなによこの状況!!
「ん~、なんだよ、うるさいなぁ……」
「ほんとよ、ふぁ~あ」
私の絶叫に叩き起こされて、今まで熟睡していた魔理沙とアリスが起き上がる。
助かった! 魔理沙はともかくアリスなら冷静に状況判断をしてくれるは……ず……?
「……ねぇ、魔理沙、その子は一体……」
「はっ? 何言ってるんだ、霊夢、その子ってっ……!?」
目がまん丸に見開かれた私たち一同の視線はある一点に向けられる。
起き上った魔理沙のお腹の上に、金色の髪を肩のあたりで切りそろえた小さめの女の子が抱きついていた。見た事が無い子だ。
その子が目をこすって一つ大きなあくびをする。そして魔理沙の方を見上げてにっこりと笑顔を浮かべる。
「おはよう、ご主人様!」
今日二度目の爆弾が投下されました。
再び博麗神社に絶叫が響いた。4人分の。
「ちょっと魔理沙! もしかしてあんたそういう趣味あったの!?」
「なななななないわっ! お、お前誰だよ、私はお前と会った事はないぞ!?」
「酷いよ~、ご主人様! 私を抱き締めながら、『お前は最高の相棒だ』ってあの夜言ってくれたじゃない!!」
「んなっ!?」
「うわ~、そんな事を……魔理沙さんロマンティックですね!」
「違うわーっ!」
魔理沙に面識を否定されたせいか、少女のうるみ始めた目と不満そうにとんがらせた唇とがダブルラリアットで魔理沙への不信感を直撃する。
こんな清純そうな、しかも幼女に近い少女に手を出すなんて、あんたアリスという恋人がいながら……って、あれ? アリスからの反応なくない?
首を回してアリスの方を見た。
鬼がいた。
「…………魔理沙?」
「ひっ!? あ、あ、あ、アリス? あの……これは誤解で! ほ、ほらお前もなんか言えよ!」
ハイライトの消えた絶対零度の瞳で見られる恐怖に、魔理沙はついお腹に居る少女に話を振ってしまう。
でもそれって悪い方向にしか話が転がらない気がするんだけど。
「ご主人様の相棒です! よろしく、アリス!」
その一言でアリスの中の審判が決まったらしい。アリスの顔がものすごい事になって、魔理沙が涙目で何か言い訳しているけど、私は何も見ていない、うん。
「いや~、大変な修羅場ですね、見ごたえがあります」
「本当です。しかしこのまま止めないと血の雨が降りそうな気配がします」
早苗と謎の女性が会話をしながらのほほんと修羅場を見つめている。
修羅でのほほんか……相反してるわ。ん? ていうかあんたら何時の間にそんな仲良しに!
「信じてくれアリス! 私はこんな奴知らないってば! ほんとにほんとだぜ!」
「そんな事言うなんてご主人様は意地悪だ! 私はずーっとご主人様を支えてきたのに!」
「へぇ……この子にずっと支えられてきた……ねぇ」
「うわーっ! アリスの顔が般若に――っ!?」
「大変ですねぇ」
「大変ですよねぇ」
混乱はとどまるところを知らない。
「浮気は絶対しないとかいっときながらこれはどういう事かしら?」
「ちょ、その般若顔怖すぎるから! いつもの可愛いアリスに戻ってー!」
「わー、アリスの顔すごいね、ご主人様! どうやったらああいう顔になるの? 暗黒オーラでてるよ」
「修羅場ですねぇ」
「修羅場ですよねぇ」
あぁもう。あんたら!
「うるさ―――い!!!」
私は叫びながら床にドバンと手を叩きつけて、場に静寂を呼び寄せる。
一時誰もが口を閉じる。
そのすきに私は会話の口火を切った。重要な事を確認するために。
「皆色々言いたい事があるのは分かったわ、えぇ。私も聞きたい事はたくさんあるわ。でもとりあえずこれだけははっきりさせましょうよ、まず一番目に」
キッと目に力を入れて見た事のない二人に目線を向ける。
「一体あんた達二人はなんなの!!」
申し合わせたように女性と少女とが目を合わす。
「ですから霊夢の道具だと言っているじゃありませんか」
「私もご主人様の相棒だよ」
若干誇らしげな雰囲気すら漂わせて答えを言う二人。
あぁもう、らちが明かない。だがこの二人に嘘をついてる気配はない。博麗の巫女としての勘だけど、ほぼ外れた事はないから……って、あれ? この二人、ひょっとして人間じゃない?
よくよく気をつけてみると妖力に近いものを二人の体から感じる。
「あんた達ひょっとして妖怪なの?」
「そうですね、ある物質を核に変化したという意味では確かに妖怪です」
うんうんと少女の方も頷く。
「そのある物質って何よ」
「霊夢の陰陽玉です」
「ご主人様の八卦炉だよ」
「「「「んな馬鹿な――――!?」」」」
皆の脳内が爆発した。
小傘ちゃんの仲間ですねわかります
冗談は置いといて確かに九十九神って擬人化みたいなものですよね、小傘ちゃんなんかわかりやすい
弾幕少女それぞれの道具視点での話なんて面白いかも
確かに続きや他のも気に成ります。
素晴らしい作者の発想に敬礼!
これは面白い発想。