大きな空に、一筋の虹を描いた
とっても大きくて、長い虹を
皆に見えるように
皆に誇れるように
皆に知れ渡るように―――
おおきなおおきな、虹を描いた
見渡す限り、雲一つ無い青い空。
その中をのんびりと、箒に乗って進んでいく。
さらに上のほうからは柔らかな日差しが降り注ぎ、とっても気持ちいい。
頬をなでる風は優しくて、思わず鼻歌でも歌いたくなりそうだ。
いつもはもっとスピードを出して飛んでいるのだけど、こんなに天気がいいのだから勢いよく飛ぶのはもったいないだろう。
それにゆっくり飛んでいる理由は、もう一つあったりする。
それはこの―――身体に回された優しい感覚にあった。
その回された愛しいものにそっと触れる。
「魔理沙? ど、どうしたの?」
すると後ろから、少し驚いたような声が聞こえてきた。
突然私が、手の甲に手を重ねたからビックリしたんだろう。
「アリスの手に触れてると安心できるからさ。ついこうやって触りたくなるんだ」
正直な気持ちを口にして、軽くその手を握る。
アリスの手はとっても柔らかくてすべすべしていた。
それに加えて透き通った見た目に反して温かくて、触れているだけで心まで温かくなっていくように感じる。
「そ、そうなの…?」
私の言葉に少し恥ずかしそうに頬を染めるアリス。
その様子が可愛くて、思わず頬が緩んでしまいそうだ。
「あぁ、アリスの手はとっても綺麗だしさ、触ってると心がポカポカしてくるんだ。だからさ、もう少し握っててもいいか?」
「す、好きにすればいいでしょっ…」
そう言ってぷいっとそっぽを向いてしまうが、気にせず手を握り続ける。
それにアリスの場合、『勝手にしなさい』は『好きにしていいよ』だしな。
それから二人とも何も喋らずに、時が過ぎる。
けれど私は、その無言の時間に苦痛は感じなかった。
なぜなら言葉を交わしていなくても、一緒に居られるだけで心地いいから。
触れている腕や背中から、アリスの温かさが伝わってくるからだ。
「そ、それにしても…ホ、ホントにいい天気ね」
沈黙に耐えかねたのか、アリスが口を開く。
いや、この場合なにも話さずに手を握られているのに耐えかねたのだろう。
アリスは前から、会話がなくても気にするようなタイプじゃなかったし。
「そうだな。ホントにいい天気だ」
アリスに言われて、改めて空を見上げる。
見渡す限り雲一つ無い、まさに快晴といった天気だ。
しかも風も優しく吹く程度で、絵に描いたようないい天気である。
こんなに心地よい空の下に居ると、あの日のことが頭に思い浮かんでくる。
「なぁアリス、あの日のこと覚えてるか?」
「え? あの日っていつのことよ…?」
「私とアリスが付き合い始めた日のことだよ」
綺麗に晴れた青空の下に居ると、自然と思い出されるあのときの気持ち。
私がアリスにその想いを告げたときも、今みたいに気持ちよく晴れた空だった。
私にとってなによりも思い出深いあの日の光景は、瞼の裏にしっかり焼きついている。
告白の瞬間は、普段緊張とかをしない私でもすごく胸がドキドキしてしまったのを覚えている。
体中の体温が上がって、特に顔は湯気でも出てるんじゃないかと思うほど熱くなっていた。
おそらく鏡に自分の顔を映したら、間違いなく真っ赤になっていたと思う。
そして恐る恐るアリスの顔を見たら、同じく真っ赤な顔になっていたんだ。
「と、当然よ…。忘れるわけ…ないでしょ?」
アリスを見ると、また顔を赤らめてしまっている。
アリスはなにか言うたびにすぐ赤くなってしまうことが良くあった。
まぁ、そこが可愛くてたまらないんだけどな。
「サンキュっ、私も絶対に忘れないぜ」
私が想いを告げたあと、アリスもすぐに答えてくれた。
今からすれば笑い話にも出来るのだけれど、それまでは断られるかもと、すごく不安だったのだ。
だから余計、そのときのアリスの言葉が鮮明に耳に残っている。
―――私も魔理沙のこと……大好きだよ。
「……なぁアリス、私の魔法が七色に輝いてる理由って知ってるか?」
「え? どうしたのよ急に? まぁ確かに分からないけど…」
案の定アリスは私の言葉に首を傾げる。
突然こんなことを言い出したんだから、不思議がるのも当然だろう。
けれど、なにも理由もなくこの話題を出したわけではない。
「私の魔法が、こんなに七色に光り輝いてるのは―――私の魔法が恋色魔法だからさ」
「? えっと…魔理沙が自分の魔法を恋色魔法だって言ってるのは聞いたことあるけど、それとこれとどういう関係があるの…?」
今突然この話題を持ち出したのには訳がある。
それはこの後私がしようとしていることと関係があるからだ。
それにアリスには、この魔法の秘密を知っていてもらいたかったしな。
だってこの魔法には、アリスの存在が必要不可欠なのだから。
「それはさ、恋色魔法は―――私のアリスへの想いを、そのまま表した魔法だからさ」
「えっ!?」
アリスは驚いているがけして嘘は言っていない。
この魔法はアリスへの恋心そのものだから。
「いっただろ? 私の魔法は恋色魔法。つまり私の恋の色を映し出した魔法なんだ」
言いながら右手から輝く星を出してみせる。
七色に輝くこの星も、私の得意な魔法のひとつだ。
「私はいつも魔法を使うとき、アリスへの想いをのせて力としてるんだ。アリスと出逢う前にも一応七色には光ってたんだけど、こんなに鮮やかにはならなかったんだぜ?」
あのときも七色ではあったけれど、輝きが今よりも遥かに劣っていた。
ここまで鮮やかな光を放つようになったのは、やはりアリスと知り合ってから。
「アリスと出逢って、アリスに恋をして、恋人同士になって……その度に私の魔法はどんどん鮮やかに、力を増していったんだ」
アリスへの恋心が募るたび、その想いが強くなるたびに輝きを増し、より威力が強くなっていった私の魔法。
その名を恋色魔法というように、それはまさに―――アリスへの気持ちそのもの。
「この魔法はアリスことが大好きでどうしようもないくらい愛しい……その想い全てをそのまま形にした、私の恋心―――アリスへの想いそのものなんだ」
「ま、魔理沙…」
アリスは今までも赤かった顔をさらに赤らめてしまう。
その顔がとても可愛らしくて、思わず抱きしめてしまいたい衝動に駆られる。
けれど今はさきにアリスに見せたいものがあるから、残念だがそれは出来ない。
そう結論付けると、一呼吸おいて本題を切り出した。
「だから今日はさ、せっかく晴れてるし幻想郷のやつらにアリスへの想いを見せつけてやろうと思ってるんだ」
「えっ…そ、それってどういうこと…?」
不思議さと恥ずかしさが入り交じった表情のアリスを尻目に、私は一枚のスペルカードを取り出す。
といっても弾幕勝負を始めようと言うのではない。
これは弾幕を発生させる為ではなく、今言ったようにアリスへの愛をこの幻想郷全てに知らしめるために用意したものだ。
「今日のために用意した、特製のスペルカードだ。きっとアリスも気に入ると思うぜ」
言いながら腕を目一杯伸ばして、スペルカードを掲げる。
そして一呼吸おいた後、この魔法の名を宣言した。
「見てろよアリス。恋符『恋色架け橋』!!」
スペル名を継げたと同時に、激しい光がカードからほとばしった。
まるで幻想郷全てに、これからなにかが起こることを知れ渡らせるように強い光を放ち続ける。
あまりの眩しさにアリスも思わず目を瞑ってしまっていた。
けれど、その方がかえって都合がいい。
この光は効果を広く行き渡らせるためのものでもあるが、こうしてアリスに一度目を閉じてもらう目的もあったからだ。
そしてスペルカードの光がゆっくりと収まり、しっかり魔法が効果を発揮したのを確認すると、アリスへと語りかける。
「目を開けてくれるかアリス。完成したぜ、私の魔法が」
「え、えぇ………っ!?」
私の示した方を向いたアリスは、驚きに言葉を失ってしまったようだ。
ま、私の自信作だからな。
アリスの反応が嬉しくて頬がゆるんでしまうのを堪えながら、最後の言葉を口にする。
「これが―――私からアリスへの愛の形だぜ」
私とアリスの視線の先には、わたしの恋色魔法が広がっていた。
そこには自然に見ることが出来るものよりも一回り大きな虹が、自らの存在を誇るように悠然とかかっている。
そしてその周りを取り巻くように七色に光る星達が、にぎやかに飛び回っていた。
七色の星達はけして虹の存在を邪魔することなく、周りを照らすことで逆にその美しさをより際だたせている。
「すごい……綺麗…」
アリスはあまりの綺麗さに心を奪われたように、その虹を見つめている。
ここまで素直に反応してくれるとは思っていなかったが、喜んでくれたみたいで何よりだ。
「この胸にあふれる気持ちを、どうやったらアリスに伝えられるかって考えたんだ。そしたら、あの想いが通じた日の空に似合うような虹にしようって思ったわけさ」
あの日の青空は、私たちの思い出の中でも一番と言っていいほどに記憶に残っているものだ。
だからアリスに改めてこの想いを伝えるなら、その空に似合う上に映えるような魔法にしようと決めたのだ。
そして、この想いが幻想郷全体に知れ渡るくらいの大きな魔法にしようと。
「幻想郷全てに、私はアリスが好きなんだって。こんなにも愛しているんだって誇りたかったんだ。だから胸を張って見せられるような、大きくてとびきり綺麗な魔法にしたんだぜ?」
何度も試行錯誤を繰り返し、本番でも成功してくれるか少し不安があったけれど、結果は予想以上の出来で自分でも満足している。
これで自分の気持ちを全て表せたわけではないけれど、今の私に出来る全力を出したつもりだ。
「この虹が、わたしのアリスへの想いだぜ。もちろんこれだけじゃ私の気持ちを全て表しきれてるわけじゃない。けど、それでも今私が出来る精一杯の恋色魔法だ。…気に入ってくれたか?」
「うん……凄く嬉しい…。ありがとう魔理沙…」
本当に嬉しそうに頬を赤らめて頷いてくれるアリス。
その瞳は潤んでいて、目尻にはうっすらと涙が浮かんでいた。
「アリス…?」
「あっ…ご、ごめんなさいっ。ま、魔理沙の気持ちが嬉しくて…感動しちゃって……。な、なんで嬉しいのに泣いちゃうんだろ…。ほ、ホントにごめ―――」
「―――いや、私こそ嬉しいよ。だから謝る必要なんてないさ」
慌てて謝ろうとするアリスを静止して、その頬にそっと手のひらを添える。
その潤んだ瞳を見つめながら、親指で静かに涙をぬぐう。
綺麗な瞳、紅潮した頬、少し不安そうな表情…。
そんなアリスの顔を見つめていたら、不意に愛しさがこみ上げてきて思わずその身体を抱きしめていた。
「…ありがとう、こんなに喜んでくれて。アリス…愛してるぜ」
あふれ出しそうな気持ちをこの一言に精一杯込めて、アリスへと届ける。
きっとこんな言葉では、この胸の中にある1%だって伝えることが出来ないかもしれない。
けれどこの言葉を止めるなんて出来なかった。
アリスを好きだという気持ちが後から後からあふれ出して、言葉にせずには居られなかったから。
「うん…私も魔理沙のこと、愛してる…。好きって気持ちが溢れ出して、止まらないの…」
「アリスっ……!」
アリスの言葉があまりに嬉しくて、さらに強く抱きしめる。
するとアリスもそれに応えるように抱きしめる強さを強くしてくれた。
しっかり重なり合った身体から聞こえてくるのは、同じリズムを刻む二つのドキドキ。
普段は別々にリズムで鳴っているはずのそれが、今はすっかり同時のタイミングで高鳴っている。
その鼓動を聞いていると、なんだか心も一緒になれているみたいで嬉しい。
「ねぇ魔理沙…。こうして近くで見ると、ホントに大きいわね…」
アリスの言葉に視線を周囲に向けると、少しずつ進んでいたからか、丁度虹の真下へと差し掛かっていた。
確かにこうして間近で見ると、自分でもよくここまで大きくしたものだと思う。
だけど、これで満足しているわけではない。
「でもアリスへの愛にはまだまだ足らないさ。いつか幻想郷の端と端を繋ぐような虹をかけて見せるさ」
あまりの大きさにやり過ぎだと言われてしまいそうだけれど、そのくらいやらないとアリスへの愛を表すには足らない。
そう思うほど、私のアリスへの愛は大きなものになっていた。
「ううん…こんなに素敵な虹を作ってくれたんだもの、すごく嬉しいわ…。そ、それにね……」
「…それに?」
歯切れの悪いのを不思議に思い、抱きしめるのをやめてアリスを見ると、なにかを言いたそうにもじもじしている。
下を俯いて恥ずかしそうにしている仕草がなんとも可愛いが、なにを言おうとしているのか気になるので抱きしめるのは我慢しておこう。
そして何度か言おうとして失敗した後、アリスはなんとか搾り出すように―――
「そ、そのね……。そ、そういうのを頑張ってしてくれるよりも……す、少しでも私と一緒に居て欲しいの…」
―――なんて、とんでもなく可愛いことを呟いた。
予想もしていなかった一言に、一瞬思考が停止してしまう。
あまりに破壊力が高すぎて、ときめきが止まらない。
って、惚けてる場合じゃなかった…!
アリスは不安そうな顔をしながらこちらを見ている。
きっと自分が言ったことで、私の気分を悪くしたんじゃないかと心配なのかもしれない。
「あぁ、そうだな。アリスがそう言ってくれるなら、私は出来るだけアリスの傍に居るよ」
「ほ、ホントに…?」
「当然だろ? 私だってアリスと一緒にいたいしな」
言いながら、アリスを安心させるように笑いかける。
アリスに言われて思い出した。
確かにこうして想いを形にすることも大事だけれど、やはり愛する人の傍にいて愛を確かめるほうが大切なのだと。
「…アリス、愛してるぜ」
その言葉と共にアリスの目を見つめる。
「私も魔理沙のこと、愛してるわ…」
アリスも私のことを見つめ返してくれた。
そうして二つの視線が絡まりあう。
何度見ても驚くほどにアリスの瞳は透き通っていて、ずっと見つめていると吸い込まれてしまいそうな錯覚に陥るほど綺麗だ。
その上気した頬、思わず触りたくなる髪、形のいい唇、その全てが愛おしい。
「ねぇ魔理沙……その…」
なにかを言おうとして口をつぐむアリス。
どうしたのかと首を傾げていると、アリスは―――瞳を閉じて唇を軽く前に突き出した。
なっ!? こ、これってもしかしなくても、そういうことだよな…?
ここまでされてわからないほどバカではない。
でもアリスから求めてくれることなんてほとんどないから、思わず目を疑ってしまった。
だけど、こうしてアリスからしてくれるなんて嬉しいぜ。
私は逸る気持ちを抑えながら、そっとアリスの肩に手を乗せる。
手が肩に触れた瞬間、緊張しているのかぴくっとアリスの身体が震えた。
その反応がなんとも可愛らしくて、思わず頬が緩んでしまう。
「じゃあいくぜ…?」
一言断りを入れると、こくんと小さく頷いてくれるアリス。
それを確認してからゆっくりと顔を近づけて行き―――優しく唇を重ねた。
優しい風が頬をなで、温かな日差しが降り注ぐ。
私がかけた大きな虹は、二人を包み込むように見守ってくれた。
心まで優しくなれる気がする、二人きりの午後。
影が二つになったそのあとも、しばらく寄り添いながら虹を眺めていた。
今度は二人で虹をかけてみたい―――そんなことを考えながら。
大きな空に、一筋の虹を描いた
とっても大きくて、長い虹を
皆に見えるように
皆に誇れるように
皆に知れ渡るように―――
おおきなおおきな、虹を描いた
君への愛を示すために
君への想いを形にするために
青い青い大空に
おおきなおおきな、虹(あい)を描いた
まだまだ大きさは足らないけれど
まだまだ美しさも及ばないけれど
いつかはきっと描きたい
これよりもはるかに大きくて
これよりもずっと綺麗な
君と私の心を繋ぐ―――
―――恋色の架け橋を
とっても大きくて、長い虹を
皆に見えるように
皆に誇れるように
皆に知れ渡るように―――
おおきなおおきな、虹を描いた
見渡す限り、雲一つ無い青い空。
その中をのんびりと、箒に乗って進んでいく。
さらに上のほうからは柔らかな日差しが降り注ぎ、とっても気持ちいい。
頬をなでる風は優しくて、思わず鼻歌でも歌いたくなりそうだ。
いつもはもっとスピードを出して飛んでいるのだけど、こんなに天気がいいのだから勢いよく飛ぶのはもったいないだろう。
それにゆっくり飛んでいる理由は、もう一つあったりする。
それはこの―――身体に回された優しい感覚にあった。
その回された愛しいものにそっと触れる。
「魔理沙? ど、どうしたの?」
すると後ろから、少し驚いたような声が聞こえてきた。
突然私が、手の甲に手を重ねたからビックリしたんだろう。
「アリスの手に触れてると安心できるからさ。ついこうやって触りたくなるんだ」
正直な気持ちを口にして、軽くその手を握る。
アリスの手はとっても柔らかくてすべすべしていた。
それに加えて透き通った見た目に反して温かくて、触れているだけで心まで温かくなっていくように感じる。
「そ、そうなの…?」
私の言葉に少し恥ずかしそうに頬を染めるアリス。
その様子が可愛くて、思わず頬が緩んでしまいそうだ。
「あぁ、アリスの手はとっても綺麗だしさ、触ってると心がポカポカしてくるんだ。だからさ、もう少し握っててもいいか?」
「す、好きにすればいいでしょっ…」
そう言ってぷいっとそっぽを向いてしまうが、気にせず手を握り続ける。
それにアリスの場合、『勝手にしなさい』は『好きにしていいよ』だしな。
それから二人とも何も喋らずに、時が過ぎる。
けれど私は、その無言の時間に苦痛は感じなかった。
なぜなら言葉を交わしていなくても、一緒に居られるだけで心地いいから。
触れている腕や背中から、アリスの温かさが伝わってくるからだ。
「そ、それにしても…ホ、ホントにいい天気ね」
沈黙に耐えかねたのか、アリスが口を開く。
いや、この場合なにも話さずに手を握られているのに耐えかねたのだろう。
アリスは前から、会話がなくても気にするようなタイプじゃなかったし。
「そうだな。ホントにいい天気だ」
アリスに言われて、改めて空を見上げる。
見渡す限り雲一つ無い、まさに快晴といった天気だ。
しかも風も優しく吹く程度で、絵に描いたようないい天気である。
こんなに心地よい空の下に居ると、あの日のことが頭に思い浮かんでくる。
「なぁアリス、あの日のこと覚えてるか?」
「え? あの日っていつのことよ…?」
「私とアリスが付き合い始めた日のことだよ」
綺麗に晴れた青空の下に居ると、自然と思い出されるあのときの気持ち。
私がアリスにその想いを告げたときも、今みたいに気持ちよく晴れた空だった。
私にとってなによりも思い出深いあの日の光景は、瞼の裏にしっかり焼きついている。
告白の瞬間は、普段緊張とかをしない私でもすごく胸がドキドキしてしまったのを覚えている。
体中の体温が上がって、特に顔は湯気でも出てるんじゃないかと思うほど熱くなっていた。
おそらく鏡に自分の顔を映したら、間違いなく真っ赤になっていたと思う。
そして恐る恐るアリスの顔を見たら、同じく真っ赤な顔になっていたんだ。
「と、当然よ…。忘れるわけ…ないでしょ?」
アリスを見ると、また顔を赤らめてしまっている。
アリスはなにか言うたびにすぐ赤くなってしまうことが良くあった。
まぁ、そこが可愛くてたまらないんだけどな。
「サンキュっ、私も絶対に忘れないぜ」
私が想いを告げたあと、アリスもすぐに答えてくれた。
今からすれば笑い話にも出来るのだけれど、それまでは断られるかもと、すごく不安だったのだ。
だから余計、そのときのアリスの言葉が鮮明に耳に残っている。
―――私も魔理沙のこと……大好きだよ。
「……なぁアリス、私の魔法が七色に輝いてる理由って知ってるか?」
「え? どうしたのよ急に? まぁ確かに分からないけど…」
案の定アリスは私の言葉に首を傾げる。
突然こんなことを言い出したんだから、不思議がるのも当然だろう。
けれど、なにも理由もなくこの話題を出したわけではない。
「私の魔法が、こんなに七色に光り輝いてるのは―――私の魔法が恋色魔法だからさ」
「? えっと…魔理沙が自分の魔法を恋色魔法だって言ってるのは聞いたことあるけど、それとこれとどういう関係があるの…?」
今突然この話題を持ち出したのには訳がある。
それはこの後私がしようとしていることと関係があるからだ。
それにアリスには、この魔法の秘密を知っていてもらいたかったしな。
だってこの魔法には、アリスの存在が必要不可欠なのだから。
「それはさ、恋色魔法は―――私のアリスへの想いを、そのまま表した魔法だからさ」
「えっ!?」
アリスは驚いているがけして嘘は言っていない。
この魔法はアリスへの恋心そのものだから。
「いっただろ? 私の魔法は恋色魔法。つまり私の恋の色を映し出した魔法なんだ」
言いながら右手から輝く星を出してみせる。
七色に輝くこの星も、私の得意な魔法のひとつだ。
「私はいつも魔法を使うとき、アリスへの想いをのせて力としてるんだ。アリスと出逢う前にも一応七色には光ってたんだけど、こんなに鮮やかにはならなかったんだぜ?」
あのときも七色ではあったけれど、輝きが今よりも遥かに劣っていた。
ここまで鮮やかな光を放つようになったのは、やはりアリスと知り合ってから。
「アリスと出逢って、アリスに恋をして、恋人同士になって……その度に私の魔法はどんどん鮮やかに、力を増していったんだ」
アリスへの恋心が募るたび、その想いが強くなるたびに輝きを増し、より威力が強くなっていった私の魔法。
その名を恋色魔法というように、それはまさに―――アリスへの気持ちそのもの。
「この魔法はアリスことが大好きでどうしようもないくらい愛しい……その想い全てをそのまま形にした、私の恋心―――アリスへの想いそのものなんだ」
「ま、魔理沙…」
アリスは今までも赤かった顔をさらに赤らめてしまう。
その顔がとても可愛らしくて、思わず抱きしめてしまいたい衝動に駆られる。
けれど今はさきにアリスに見せたいものがあるから、残念だがそれは出来ない。
そう結論付けると、一呼吸おいて本題を切り出した。
「だから今日はさ、せっかく晴れてるし幻想郷のやつらにアリスへの想いを見せつけてやろうと思ってるんだ」
「えっ…そ、それってどういうこと…?」
不思議さと恥ずかしさが入り交じった表情のアリスを尻目に、私は一枚のスペルカードを取り出す。
といっても弾幕勝負を始めようと言うのではない。
これは弾幕を発生させる為ではなく、今言ったようにアリスへの愛をこの幻想郷全てに知らしめるために用意したものだ。
「今日のために用意した、特製のスペルカードだ。きっとアリスも気に入ると思うぜ」
言いながら腕を目一杯伸ばして、スペルカードを掲げる。
そして一呼吸おいた後、この魔法の名を宣言した。
「見てろよアリス。恋符『恋色架け橋』!!」
スペル名を継げたと同時に、激しい光がカードからほとばしった。
まるで幻想郷全てに、これからなにかが起こることを知れ渡らせるように強い光を放ち続ける。
あまりの眩しさにアリスも思わず目を瞑ってしまっていた。
けれど、その方がかえって都合がいい。
この光は効果を広く行き渡らせるためのものでもあるが、こうしてアリスに一度目を閉じてもらう目的もあったからだ。
そしてスペルカードの光がゆっくりと収まり、しっかり魔法が効果を発揮したのを確認すると、アリスへと語りかける。
「目を開けてくれるかアリス。完成したぜ、私の魔法が」
「え、えぇ………っ!?」
私の示した方を向いたアリスは、驚きに言葉を失ってしまったようだ。
ま、私の自信作だからな。
アリスの反応が嬉しくて頬がゆるんでしまうのを堪えながら、最後の言葉を口にする。
「これが―――私からアリスへの愛の形だぜ」
私とアリスの視線の先には、わたしの恋色魔法が広がっていた。
そこには自然に見ることが出来るものよりも一回り大きな虹が、自らの存在を誇るように悠然とかかっている。
そしてその周りを取り巻くように七色に光る星達が、にぎやかに飛び回っていた。
七色の星達はけして虹の存在を邪魔することなく、周りを照らすことで逆にその美しさをより際だたせている。
「すごい……綺麗…」
アリスはあまりの綺麗さに心を奪われたように、その虹を見つめている。
ここまで素直に反応してくれるとは思っていなかったが、喜んでくれたみたいで何よりだ。
「この胸にあふれる気持ちを、どうやったらアリスに伝えられるかって考えたんだ。そしたら、あの想いが通じた日の空に似合うような虹にしようって思ったわけさ」
あの日の青空は、私たちの思い出の中でも一番と言っていいほどに記憶に残っているものだ。
だからアリスに改めてこの想いを伝えるなら、その空に似合う上に映えるような魔法にしようと決めたのだ。
そして、この想いが幻想郷全体に知れ渡るくらいの大きな魔法にしようと。
「幻想郷全てに、私はアリスが好きなんだって。こんなにも愛しているんだって誇りたかったんだ。だから胸を張って見せられるような、大きくてとびきり綺麗な魔法にしたんだぜ?」
何度も試行錯誤を繰り返し、本番でも成功してくれるか少し不安があったけれど、結果は予想以上の出来で自分でも満足している。
これで自分の気持ちを全て表せたわけではないけれど、今の私に出来る全力を出したつもりだ。
「この虹が、わたしのアリスへの想いだぜ。もちろんこれだけじゃ私の気持ちを全て表しきれてるわけじゃない。けど、それでも今私が出来る精一杯の恋色魔法だ。…気に入ってくれたか?」
「うん……凄く嬉しい…。ありがとう魔理沙…」
本当に嬉しそうに頬を赤らめて頷いてくれるアリス。
その瞳は潤んでいて、目尻にはうっすらと涙が浮かんでいた。
「アリス…?」
「あっ…ご、ごめんなさいっ。ま、魔理沙の気持ちが嬉しくて…感動しちゃって……。な、なんで嬉しいのに泣いちゃうんだろ…。ほ、ホントにごめ―――」
「―――いや、私こそ嬉しいよ。だから謝る必要なんてないさ」
慌てて謝ろうとするアリスを静止して、その頬にそっと手のひらを添える。
その潤んだ瞳を見つめながら、親指で静かに涙をぬぐう。
綺麗な瞳、紅潮した頬、少し不安そうな表情…。
そんなアリスの顔を見つめていたら、不意に愛しさがこみ上げてきて思わずその身体を抱きしめていた。
「…ありがとう、こんなに喜んでくれて。アリス…愛してるぜ」
あふれ出しそうな気持ちをこの一言に精一杯込めて、アリスへと届ける。
きっとこんな言葉では、この胸の中にある1%だって伝えることが出来ないかもしれない。
けれどこの言葉を止めるなんて出来なかった。
アリスを好きだという気持ちが後から後からあふれ出して、言葉にせずには居られなかったから。
「うん…私も魔理沙のこと、愛してる…。好きって気持ちが溢れ出して、止まらないの…」
「アリスっ……!」
アリスの言葉があまりに嬉しくて、さらに強く抱きしめる。
するとアリスもそれに応えるように抱きしめる強さを強くしてくれた。
しっかり重なり合った身体から聞こえてくるのは、同じリズムを刻む二つのドキドキ。
普段は別々にリズムで鳴っているはずのそれが、今はすっかり同時のタイミングで高鳴っている。
その鼓動を聞いていると、なんだか心も一緒になれているみたいで嬉しい。
「ねぇ魔理沙…。こうして近くで見ると、ホントに大きいわね…」
アリスの言葉に視線を周囲に向けると、少しずつ進んでいたからか、丁度虹の真下へと差し掛かっていた。
確かにこうして間近で見ると、自分でもよくここまで大きくしたものだと思う。
だけど、これで満足しているわけではない。
「でもアリスへの愛にはまだまだ足らないさ。いつか幻想郷の端と端を繋ぐような虹をかけて見せるさ」
あまりの大きさにやり過ぎだと言われてしまいそうだけれど、そのくらいやらないとアリスへの愛を表すには足らない。
そう思うほど、私のアリスへの愛は大きなものになっていた。
「ううん…こんなに素敵な虹を作ってくれたんだもの、すごく嬉しいわ…。そ、それにね……」
「…それに?」
歯切れの悪いのを不思議に思い、抱きしめるのをやめてアリスを見ると、なにかを言いたそうにもじもじしている。
下を俯いて恥ずかしそうにしている仕草がなんとも可愛いが、なにを言おうとしているのか気になるので抱きしめるのは我慢しておこう。
そして何度か言おうとして失敗した後、アリスはなんとか搾り出すように―――
「そ、そのね……。そ、そういうのを頑張ってしてくれるよりも……す、少しでも私と一緒に居て欲しいの…」
―――なんて、とんでもなく可愛いことを呟いた。
予想もしていなかった一言に、一瞬思考が停止してしまう。
あまりに破壊力が高すぎて、ときめきが止まらない。
って、惚けてる場合じゃなかった…!
アリスは不安そうな顔をしながらこちらを見ている。
きっと自分が言ったことで、私の気分を悪くしたんじゃないかと心配なのかもしれない。
「あぁ、そうだな。アリスがそう言ってくれるなら、私は出来るだけアリスの傍に居るよ」
「ほ、ホントに…?」
「当然だろ? 私だってアリスと一緒にいたいしな」
言いながら、アリスを安心させるように笑いかける。
アリスに言われて思い出した。
確かにこうして想いを形にすることも大事だけれど、やはり愛する人の傍にいて愛を確かめるほうが大切なのだと。
「…アリス、愛してるぜ」
その言葉と共にアリスの目を見つめる。
「私も魔理沙のこと、愛してるわ…」
アリスも私のことを見つめ返してくれた。
そうして二つの視線が絡まりあう。
何度見ても驚くほどにアリスの瞳は透き通っていて、ずっと見つめていると吸い込まれてしまいそうな錯覚に陥るほど綺麗だ。
その上気した頬、思わず触りたくなる髪、形のいい唇、その全てが愛おしい。
「ねぇ魔理沙……その…」
なにかを言おうとして口をつぐむアリス。
どうしたのかと首を傾げていると、アリスは―――瞳を閉じて唇を軽く前に突き出した。
なっ!? こ、これってもしかしなくても、そういうことだよな…?
ここまでされてわからないほどバカではない。
でもアリスから求めてくれることなんてほとんどないから、思わず目を疑ってしまった。
だけど、こうしてアリスからしてくれるなんて嬉しいぜ。
私は逸る気持ちを抑えながら、そっとアリスの肩に手を乗せる。
手が肩に触れた瞬間、緊張しているのかぴくっとアリスの身体が震えた。
その反応がなんとも可愛らしくて、思わず頬が緩んでしまう。
「じゃあいくぜ…?」
一言断りを入れると、こくんと小さく頷いてくれるアリス。
それを確認してからゆっくりと顔を近づけて行き―――優しく唇を重ねた。
優しい風が頬をなで、温かな日差しが降り注ぐ。
私がかけた大きな虹は、二人を包み込むように見守ってくれた。
心まで優しくなれる気がする、二人きりの午後。
影が二つになったそのあとも、しばらく寄り添いながら虹を眺めていた。
今度は二人で虹をかけてみたい―――そんなことを考えながら。
大きな空に、一筋の虹を描いた
とっても大きくて、長い虹を
皆に見えるように
皆に誇れるように
皆に知れ渡るように―――
おおきなおおきな、虹を描いた
君への愛を示すために
君への想いを形にするために
青い青い大空に
おおきなおおきな、虹(あい)を描いた
まだまだ大きさは足らないけれど
まだまだ美しさも及ばないけれど
いつかはきっと描きたい
これよりもはるかに大きくて
これよりもずっと綺麗な
君と私の心を繋ぐ―――
―――恋色の架け橋を
相変わらずの甘さで2828が止まりませんw
特にアリスが可愛い…!!
お疲れ様でした^^
次の小説も恋まりも楽しみにしてます^^
次も期待して待ってます。
甘いマリアリは良いものだ!
『マリアリはいいものだ』というダイイングメッセージ付き。
砂糖流出が止まらないぜえーーーーー!
マリアリ最高ーーーーー!