「ひぇー…まさか降ってくるとは…」
私、鈴仙は土砂降りの雨の中、森の中を駆けていた。
「もう、朝は晴れてたのに…!」
私は空を睨みつけながらそう漏らす。
今日は里へ薬の配達に行っていたのだが、運悪くその帰りに雨に降られてしまった。
「全く…こんなに濡れちゃったら風邪引くわよ…」
体はすでにびしょ濡れ。
服と頭からは水が滴り落ちている。
早く体を乾かさないと風邪を引いてしまう。
「どこか雨宿りが出来るところがあればいいのだけれど…」
私がそう呟いた時、遠くに家が見えた。
あれは確か…人形遣いの家だったわね。
彼女は優しい人だって聞いてるし、頼めば少しの間雨宿りさせてもらえるかも。
私はそう思い、彼女の家に向かって走った。
玄関の前に辿り着くとゆっくりとドアをノックする。
一拍の間をおいて中から「どちら様?」という声が中から聞こえてきた。
次の瞬間、ドアが開かれてこの家の主である人形遣い、アリスが姿を現す。
「あら、永遠亭の…」
「いきなりごめんなさい。実はいきなりの雨で困っていて…」
「…雨宿りさせてくれってことね?」
私が言おうとする前にくすくすと笑いながら答えるアリス。
「な、何で分かったの?」
「だってこの大雨の中で困っている…と言えばそれしか考えられないでしょ?」
あ…確かに。
「ふふふ、私は別に構わないわよ。さ、入って」
私の服と頭からは水がぽたり、ぽたりと滴っていたが、
彼女はそんなことは気にせずに家の中へと案内してくれた。
「うーん、このままだとさすがに風邪を引いちゃうわね…」
まずアリスはずぶ濡れになっていた私を見て言った。
確かにそうだけど…
そして彼女はいきなりこんなことを言い出した。
「とりあえず鈴仙…今すぐ着ている服を脱ぎなさい」
「は、はぁ!?」
「…何驚いてるのよ?」
いや、いきなり服を脱げって言われて驚かない人はいないと思う。
「濡れた服はすぐに乾かさないといけないじゃない。
…はい、タオル。服を乾かしているあいだはそれで我慢して」
アリスはタオルケットを私に向かって投げてきた。
服を脱いでいる間はこれを体に巻きつけておけ、ということだろう。
ついでに衣類用のかごを私に差し出す。
「服はここに入れておいて。私はお風呂を沸かしてくるわ」
そこまで言うとアリスはお風呂場へと消えていってしまった。
「…と、とりあえず脱ごうかな」
いきなりのことで少し驚いてしまった。
ひとまず私は濡れた服を脱ぐことにする。
服は水を吸っていて、重かった。
その上肌にくっつくので、脱ぐのは一苦労だ。
「あ、流石に…下着は着ておこう…」
本当は濡れた下着も乾かしたかったが、上にタオルを被るとはいえ裸になるのは流石に恥ずかしかったので着ておくことにする。
私は服をかごに放り込んでからタオルを被った。
そのまま近くにあった椅子に腰を下ろしてアリスが帰ってくるのを待つ。
数分後にアリスは戻ってきた。
「今溜めているからちょっと待っててね」
タオルで濡れた手を拭きながらアリスはかごに目を落とした。
「これはここに干しておくわ」
そう言ってアリスは濡れた私の服を部屋に張ってあったロープに吊るした。
いまだに服からは水滴が滴り落ちている。
外を見ると雨はまだ降っているようだった。
「それにしても朝は晴れていたのにねぇ…」
アリスは私の服を干しながらそう漏らした。
「そうね…いきなり降り始めたから驚いたわ」
私は彼女に向かってそう返す。
「そういえばもうそろそろ梅雨ね…」
「梅雨かぁ…私は嫌いね。
洗濯物は乾きにくいし、じめじめして暑くなるし…」
私ははぁ、とため息をついた。
「ま、私もあまり好きではないわ」
アリスは苦笑する。
やっぱり梅雨が嫌いな人って多いんだなぁ…
それから数十分が経過した。
「おっと、そろそろお湯が溜まっている頃じゃないかしら」
アリスはお風呂場へと向かう。
少し待つとアリスが叫ぶ声が聞こえてきた。
「入っていいわよ!」
「あ、わかった。今行くわ!」
私はタオルを被ったままお風呂場に向かう。
「いい感じの湯加減のはずよ」
笑顔を見せて私を案内してくれるアリス。
そこで私は一つ思ったのだけれど…
「そういえば服はどうすれば…?」
「あ…そういえばそうよね。
…私の服ならあるけどそれでもいいかしら?」
「私はアリスさえよければ別に構わないけど…」
「うん、わかったわ。
あなたがお風呂に入っている間に準備しておくから入っていていいわよ」
アリスはそう言って脱衣所を出て行った。
「アリスの服ねぇ…どんなのかしら?」
少し気になる…
意外にピンク色の可愛いやつとかだったりして。
「そんなことを気にする前に入ろう…早く温まりたいし」
私はタオルと下着をかごに入れて浴槽に入った。
「あ、ものすごく気持ちいい…」
お湯はちょうどいい温度だった。
雨で濡れて冷たくなった体が少しずつ温まっていく。
「湯加減はどうかしら?」
外からアリスが聞いてきた。
服を置きに来たのだろう。
「ええ、大丈夫よ。ちょうどいい感じね」
「そう、それは良かったわ。
着替えはここに置いておくからね」
「ありがとう」
「いえいえ」
そこまで言うとアリスは脱衣所から出て行った。
ドアを閉める音が聞こえた。
「…それにしてもアリスは優しいわね」
雨宿りをさせてもらった上にお風呂まで用意してくれるなんて…
そこまでしてくれる人はなかなかいないだろう。
「今度は私が何か恩返しをしないとね」
私は浴槽の中で一人ふふふ、と笑った。
私はそこまで長風呂をするほうでは無いので、そろそろあがることにした。
湯船からあがり、脱衣所に入って中にあったタオルで体を念入りに拭く。
「えーと、服ってこれかしら?」
近くに置いてあった服を広げてみる。
「あれ、これは…」
それはアリスが普段着ている服だった。
「…私に着れるかしら?」
少し不安になったが、何とか着ることができた。
意外とサイズは合っているようだ。
さて、着替えも終わったし外に出よう。
「あら…似合うじゃない!」
椅子に座って本を読んでいたアリスはお風呂場から出てきた私を見て笑った。
「そ、そうかしら…?」
私は少し恥ずかしくなって頬を赤らめた。
「うんうん、似合うわよ」
近くまでやってきて私を上から下まで眺めるアリス。
「それにしても…サイズがピッタリとは驚きね…」
「あ、でも少しだけ胸の辺りが窮屈かな?」
私が感じたことを率直に言うとアリスは固まった。
…?
何か悪いこと言ったかしら?
「む、胸が窮屈…?」
「ええ、ほんのちょっとだけれど…」
そう言うとアリスは肩を落として何かを呟いている。
「自信があったわけじゃないけど少し悔しいわ…
あぁ、私もまだまだね…」
「あ、あのー?」
「あ、ごめん! 今のは気にしないで!」
アリスは真っ赤になって手をぶんぶんと振った。
その様子がおかしかったので私はつい笑ってしまう。
「な、何笑ってるのよ!?」
「いや、なんか面白かったから」
「え、そ、そんなに面白かったかしら…?」
「ええ。あ、可愛くも見えたわね」
「はい!?」
さっきよりも真っ赤になるアリス。
「い、いきなり何を…!?」
「私は思ったことをただ言っただけよ」
私は笑いながらそう返した。
「も、もう! からかわないでよ!」
真っ赤になりながらアリスは叫んだ。
「ふふふ、わかったわ」
真っ赤になって慌てるアリスはかなり可愛かった。
クールで冷静な普段の性格とのギャップが可愛く見えた理由かな?
しばらくするとアリスは何とか落ち着いてくれた。
「はぁ、顔から火が出そうだったわよ…」
「ものすごい真っ赤だったものね」
私たちはアリスが入れた紅茶を飲みながらそんな会話をする。
ちなみに私はまだアリスの服を着たまんまだ。
「全く…いきなり可愛いとか言われるから私もびっくりしたわよ…」
自分を落ち着かせるように紅茶を一口飲むアリス。
「でも私は本当にそう思ったから言っただけなんだけどね」
「…そ、そう。とりあえずありがとうって言っておくわ」
アリスは頬を赤らめながらそう言った。
これはこれで悪い気はしないみたい。
「それにしても…雨、止まないわね」
「そうね…」
話題を切り替えるアリス。
私も外を見る。
雨が止む気配は今のところ無い。
「もしかしたら今日はずっとこんな調子なのかしら?」
「うーん、可能性はあるかも」
アリスは外を見ながらそう答えた。
「あなたさえ良ければ今日は泊まっていってもいいけど?」
「まぁ、雨が止まなければお言葉に甘えてそうするわ」
私は笑って答える。
「わかったわ」
アリスも笑った。
私は紅茶を一口飲んでからまた外を見つめた。
それから私はアリスに勧められた本を読んでいた。
なんでも紅魔館の図書館から借りた本で、外の世界の小説なんだとか。
内容はとある小さな村の祭りの日に謎の殺人事件が起きるというもの。
何編、何編と分かれていてかなりの大作らしい。
私はその小説が気になったので、ずっと読んでいた。
ふと気づくと時刻は夕方に近い。
夢中になりすぎたみたい…
外は相変わらずの雨だ。
雨足はかなり弱まったようではあったけど。
「…まだ止まないのね」
「そうね…」
アリスはは外を見ながら呟いた。
「今日は泊まり、かしらね」
私は冗談っぽく笑いながら言った。
「そうなっちゃうかもね」
アリスも笑う。
「それじゃあ私はベッドの準備をしてくるわ。
少し汚いからね」
そう言い残すとアリスは寝室へと入っていった。
それにしても本当に優しい人だ。
彼女がもし結婚したらいいお嫁さんになれることは間違いなしね。
「終わったわよ」
アリスは帰ってくると椅子に腰を下ろす。
「何から何まで…すまないわね」
「大丈夫よ。私が好きでやっていることだから」
笑いながらそう言うアリス。
「へぇ、好きでやっているって…それまたなんで?」
「うーん、困っている人は見過ごせないって感じかしらね。
魔理沙にはよく『お前はお人好しだな』とか言われちゃうけど…」
話を聞きながらいい人だなぁ、と私は思った。
「ま、とりあえずそんなところね」
そこまで言うとアリスは紅茶を飲んだ。
「他人に優しくできるなんて…尊敬するわ」
「尊敬されるほどじゃないわよ」
私がそんなことを言うと苦笑される。
その時、窓から光が差し込んできた。
外に目をやると、雲の割れ目から太陽が覗いている。
「あ、晴れてきたわね」
「そうね…」
アリスは立ち上がって、干してあった私の服をたたみ始める。
「はい、あなたの服。まだ少し湿っているけどね。
あなたが今着ている服はまた今度返してくれればいいわ」
微笑みながらアリスは私に服を手渡してくれた。
「ありがとう」
私は服を受け取って外へ出る。
アリスもついてきてくれた。
まだ雲は残っているが、永遠亭に帰り着くまでに降ることは無いだろう。
「それじゃあ気をつけてね」
「大丈夫よ。あ、それと…」
「どうしたの?」
「…今度は雨宿りじゃなくて遊びに来るわ」
私は笑顔でそう告げた。
「…ええ、いつでもどうぞ」
一瞬驚いたような顔を見せたが、すぐに笑顔になってそう言ってくれる。
「永遠亭にも遊びに来てね。お茶くらいは出すから」
「ふふ、それじゃあ暇なときに行くわ」
私たちは顔を見合わせて笑った。
「それじゃあまた今度ね」
「ええ、また会いましょう」
私はアリスに手を振ってから永遠亭のほうへ駆け出した。
…また今度お邪魔させてもらって、たくさんお喋りをしたりお茶を一緒に飲んだりしよう。
私はそう心に決めて、森の中を走った。
「ただいま帰りました!」
「お帰りウドンゲ…って何よその服は?
それは確か森の人形遣いの服じゃ…?」
師匠は私を見て、首を傾げていた。
「あ、実はアリスのところで雨宿りをさせてもらってですね…」
私は師匠にアリスの家であったことを話す。
「へぇ、そんなことが。色々と大変だったわねぇ」
「確かに大変でしたが、今は雨に降られて良かったかなぁ、って思ってます」
「え? なんで?」
「ふふふ、だって雨が降ってくれたお陰で彼女と過ごすことができたんですから」
「…もしかして彼女に恋でもしたの?」
師匠は悪戯っぽい笑みを浮かべた。
「そ、そんなんじゃないですよ! ただ友達として好きってだけです!」
「どうかしらねぇ?」
ニヤニヤする師匠。
「も、もう! とりあえず私は部屋に戻ります!」
私は頬を赤く染めながら自分の部屋に戻った。
「ふぅ…それにしても次はどんなことをしようかしら…」
部屋に入って私は考えた。
次にアリスの家に行ったときには何をしようか、と。
まずは私の料理を食べてもらって…
一緒に本を読んだり、アリスに人形劇を見せてもらって…
色々としたいことが浮かんでくる。
そうだ、今度服を返す時にお礼としてクッキーでも焼いて持っていってあげよう。
きっと彼女は喜んでくれるはず。
私はその日のことを考えながら空を見上げた。
…今度会うときには綺麗に晴れて欲しいな。
雨でも構わないけど…ね。
私、鈴仙は土砂降りの雨の中、森の中を駆けていた。
「もう、朝は晴れてたのに…!」
私は空を睨みつけながらそう漏らす。
今日は里へ薬の配達に行っていたのだが、運悪くその帰りに雨に降られてしまった。
「全く…こんなに濡れちゃったら風邪引くわよ…」
体はすでにびしょ濡れ。
服と頭からは水が滴り落ちている。
早く体を乾かさないと風邪を引いてしまう。
「どこか雨宿りが出来るところがあればいいのだけれど…」
私がそう呟いた時、遠くに家が見えた。
あれは確か…人形遣いの家だったわね。
彼女は優しい人だって聞いてるし、頼めば少しの間雨宿りさせてもらえるかも。
私はそう思い、彼女の家に向かって走った。
玄関の前に辿り着くとゆっくりとドアをノックする。
一拍の間をおいて中から「どちら様?」という声が中から聞こえてきた。
次の瞬間、ドアが開かれてこの家の主である人形遣い、アリスが姿を現す。
「あら、永遠亭の…」
「いきなりごめんなさい。実はいきなりの雨で困っていて…」
「…雨宿りさせてくれってことね?」
私が言おうとする前にくすくすと笑いながら答えるアリス。
「な、何で分かったの?」
「だってこの大雨の中で困っている…と言えばそれしか考えられないでしょ?」
あ…確かに。
「ふふふ、私は別に構わないわよ。さ、入って」
私の服と頭からは水がぽたり、ぽたりと滴っていたが、
彼女はそんなことは気にせずに家の中へと案内してくれた。
「うーん、このままだとさすがに風邪を引いちゃうわね…」
まずアリスはずぶ濡れになっていた私を見て言った。
確かにそうだけど…
そして彼女はいきなりこんなことを言い出した。
「とりあえず鈴仙…今すぐ着ている服を脱ぎなさい」
「は、はぁ!?」
「…何驚いてるのよ?」
いや、いきなり服を脱げって言われて驚かない人はいないと思う。
「濡れた服はすぐに乾かさないといけないじゃない。
…はい、タオル。服を乾かしているあいだはそれで我慢して」
アリスはタオルケットを私に向かって投げてきた。
服を脱いでいる間はこれを体に巻きつけておけ、ということだろう。
ついでに衣類用のかごを私に差し出す。
「服はここに入れておいて。私はお風呂を沸かしてくるわ」
そこまで言うとアリスはお風呂場へと消えていってしまった。
「…と、とりあえず脱ごうかな」
いきなりのことで少し驚いてしまった。
ひとまず私は濡れた服を脱ぐことにする。
服は水を吸っていて、重かった。
その上肌にくっつくので、脱ぐのは一苦労だ。
「あ、流石に…下着は着ておこう…」
本当は濡れた下着も乾かしたかったが、上にタオルを被るとはいえ裸になるのは流石に恥ずかしかったので着ておくことにする。
私は服をかごに放り込んでからタオルを被った。
そのまま近くにあった椅子に腰を下ろしてアリスが帰ってくるのを待つ。
数分後にアリスは戻ってきた。
「今溜めているからちょっと待っててね」
タオルで濡れた手を拭きながらアリスはかごに目を落とした。
「これはここに干しておくわ」
そう言ってアリスは濡れた私の服を部屋に張ってあったロープに吊るした。
いまだに服からは水滴が滴り落ちている。
外を見ると雨はまだ降っているようだった。
「それにしても朝は晴れていたのにねぇ…」
アリスは私の服を干しながらそう漏らした。
「そうね…いきなり降り始めたから驚いたわ」
私は彼女に向かってそう返す。
「そういえばもうそろそろ梅雨ね…」
「梅雨かぁ…私は嫌いね。
洗濯物は乾きにくいし、じめじめして暑くなるし…」
私ははぁ、とため息をついた。
「ま、私もあまり好きではないわ」
アリスは苦笑する。
やっぱり梅雨が嫌いな人って多いんだなぁ…
それから数十分が経過した。
「おっと、そろそろお湯が溜まっている頃じゃないかしら」
アリスはお風呂場へと向かう。
少し待つとアリスが叫ぶ声が聞こえてきた。
「入っていいわよ!」
「あ、わかった。今行くわ!」
私はタオルを被ったままお風呂場に向かう。
「いい感じの湯加減のはずよ」
笑顔を見せて私を案内してくれるアリス。
そこで私は一つ思ったのだけれど…
「そういえば服はどうすれば…?」
「あ…そういえばそうよね。
…私の服ならあるけどそれでもいいかしら?」
「私はアリスさえよければ別に構わないけど…」
「うん、わかったわ。
あなたがお風呂に入っている間に準備しておくから入っていていいわよ」
アリスはそう言って脱衣所を出て行った。
「アリスの服ねぇ…どんなのかしら?」
少し気になる…
意外にピンク色の可愛いやつとかだったりして。
「そんなことを気にする前に入ろう…早く温まりたいし」
私はタオルと下着をかごに入れて浴槽に入った。
「あ、ものすごく気持ちいい…」
お湯はちょうどいい温度だった。
雨で濡れて冷たくなった体が少しずつ温まっていく。
「湯加減はどうかしら?」
外からアリスが聞いてきた。
服を置きに来たのだろう。
「ええ、大丈夫よ。ちょうどいい感じね」
「そう、それは良かったわ。
着替えはここに置いておくからね」
「ありがとう」
「いえいえ」
そこまで言うとアリスは脱衣所から出て行った。
ドアを閉める音が聞こえた。
「…それにしてもアリスは優しいわね」
雨宿りをさせてもらった上にお風呂まで用意してくれるなんて…
そこまでしてくれる人はなかなかいないだろう。
「今度は私が何か恩返しをしないとね」
私は浴槽の中で一人ふふふ、と笑った。
私はそこまで長風呂をするほうでは無いので、そろそろあがることにした。
湯船からあがり、脱衣所に入って中にあったタオルで体を念入りに拭く。
「えーと、服ってこれかしら?」
近くに置いてあった服を広げてみる。
「あれ、これは…」
それはアリスが普段着ている服だった。
「…私に着れるかしら?」
少し不安になったが、何とか着ることができた。
意外とサイズは合っているようだ。
さて、着替えも終わったし外に出よう。
「あら…似合うじゃない!」
椅子に座って本を読んでいたアリスはお風呂場から出てきた私を見て笑った。
「そ、そうかしら…?」
私は少し恥ずかしくなって頬を赤らめた。
「うんうん、似合うわよ」
近くまでやってきて私を上から下まで眺めるアリス。
「それにしても…サイズがピッタリとは驚きね…」
「あ、でも少しだけ胸の辺りが窮屈かな?」
私が感じたことを率直に言うとアリスは固まった。
…?
何か悪いこと言ったかしら?
「む、胸が窮屈…?」
「ええ、ほんのちょっとだけれど…」
そう言うとアリスは肩を落として何かを呟いている。
「自信があったわけじゃないけど少し悔しいわ…
あぁ、私もまだまだね…」
「あ、あのー?」
「あ、ごめん! 今のは気にしないで!」
アリスは真っ赤になって手をぶんぶんと振った。
その様子がおかしかったので私はつい笑ってしまう。
「な、何笑ってるのよ!?」
「いや、なんか面白かったから」
「え、そ、そんなに面白かったかしら…?」
「ええ。あ、可愛くも見えたわね」
「はい!?」
さっきよりも真っ赤になるアリス。
「い、いきなり何を…!?」
「私は思ったことをただ言っただけよ」
私は笑いながらそう返した。
「も、もう! からかわないでよ!」
真っ赤になりながらアリスは叫んだ。
「ふふふ、わかったわ」
真っ赤になって慌てるアリスはかなり可愛かった。
クールで冷静な普段の性格とのギャップが可愛く見えた理由かな?
しばらくするとアリスは何とか落ち着いてくれた。
「はぁ、顔から火が出そうだったわよ…」
「ものすごい真っ赤だったものね」
私たちはアリスが入れた紅茶を飲みながらそんな会話をする。
ちなみに私はまだアリスの服を着たまんまだ。
「全く…いきなり可愛いとか言われるから私もびっくりしたわよ…」
自分を落ち着かせるように紅茶を一口飲むアリス。
「でも私は本当にそう思ったから言っただけなんだけどね」
「…そ、そう。とりあえずありがとうって言っておくわ」
アリスは頬を赤らめながらそう言った。
これはこれで悪い気はしないみたい。
「それにしても…雨、止まないわね」
「そうね…」
話題を切り替えるアリス。
私も外を見る。
雨が止む気配は今のところ無い。
「もしかしたら今日はずっとこんな調子なのかしら?」
「うーん、可能性はあるかも」
アリスは外を見ながらそう答えた。
「あなたさえ良ければ今日は泊まっていってもいいけど?」
「まぁ、雨が止まなければお言葉に甘えてそうするわ」
私は笑って答える。
「わかったわ」
アリスも笑った。
私は紅茶を一口飲んでからまた外を見つめた。
それから私はアリスに勧められた本を読んでいた。
なんでも紅魔館の図書館から借りた本で、外の世界の小説なんだとか。
内容はとある小さな村の祭りの日に謎の殺人事件が起きるというもの。
何編、何編と分かれていてかなりの大作らしい。
私はその小説が気になったので、ずっと読んでいた。
ふと気づくと時刻は夕方に近い。
夢中になりすぎたみたい…
外は相変わらずの雨だ。
雨足はかなり弱まったようではあったけど。
「…まだ止まないのね」
「そうね…」
アリスはは外を見ながら呟いた。
「今日は泊まり、かしらね」
私は冗談っぽく笑いながら言った。
「そうなっちゃうかもね」
アリスも笑う。
「それじゃあ私はベッドの準備をしてくるわ。
少し汚いからね」
そう言い残すとアリスは寝室へと入っていった。
それにしても本当に優しい人だ。
彼女がもし結婚したらいいお嫁さんになれることは間違いなしね。
「終わったわよ」
アリスは帰ってくると椅子に腰を下ろす。
「何から何まで…すまないわね」
「大丈夫よ。私が好きでやっていることだから」
笑いながらそう言うアリス。
「へぇ、好きでやっているって…それまたなんで?」
「うーん、困っている人は見過ごせないって感じかしらね。
魔理沙にはよく『お前はお人好しだな』とか言われちゃうけど…」
話を聞きながらいい人だなぁ、と私は思った。
「ま、とりあえずそんなところね」
そこまで言うとアリスは紅茶を飲んだ。
「他人に優しくできるなんて…尊敬するわ」
「尊敬されるほどじゃないわよ」
私がそんなことを言うと苦笑される。
その時、窓から光が差し込んできた。
外に目をやると、雲の割れ目から太陽が覗いている。
「あ、晴れてきたわね」
「そうね…」
アリスは立ち上がって、干してあった私の服をたたみ始める。
「はい、あなたの服。まだ少し湿っているけどね。
あなたが今着ている服はまた今度返してくれればいいわ」
微笑みながらアリスは私に服を手渡してくれた。
「ありがとう」
私は服を受け取って外へ出る。
アリスもついてきてくれた。
まだ雲は残っているが、永遠亭に帰り着くまでに降ることは無いだろう。
「それじゃあ気をつけてね」
「大丈夫よ。あ、それと…」
「どうしたの?」
「…今度は雨宿りじゃなくて遊びに来るわ」
私は笑顔でそう告げた。
「…ええ、いつでもどうぞ」
一瞬驚いたような顔を見せたが、すぐに笑顔になってそう言ってくれる。
「永遠亭にも遊びに来てね。お茶くらいは出すから」
「ふふ、それじゃあ暇なときに行くわ」
私たちは顔を見合わせて笑った。
「それじゃあまた今度ね」
「ええ、また会いましょう」
私はアリスに手を振ってから永遠亭のほうへ駆け出した。
…また今度お邪魔させてもらって、たくさんお喋りをしたりお茶を一緒に飲んだりしよう。
私はそう心に決めて、森の中を走った。
「ただいま帰りました!」
「お帰りウドンゲ…って何よその服は?
それは確か森の人形遣いの服じゃ…?」
師匠は私を見て、首を傾げていた。
「あ、実はアリスのところで雨宿りをさせてもらってですね…」
私は師匠にアリスの家であったことを話す。
「へぇ、そんなことが。色々と大変だったわねぇ」
「確かに大変でしたが、今は雨に降られて良かったかなぁ、って思ってます」
「え? なんで?」
「ふふふ、だって雨が降ってくれたお陰で彼女と過ごすことができたんですから」
「…もしかして彼女に恋でもしたの?」
師匠は悪戯っぽい笑みを浮かべた。
「そ、そんなんじゃないですよ! ただ友達として好きってだけです!」
「どうかしらねぇ?」
ニヤニヤする師匠。
「も、もう! とりあえず私は部屋に戻ります!」
私は頬を赤く染めながら自分の部屋に戻った。
「ふぅ…それにしても次はどんなことをしようかしら…」
部屋に入って私は考えた。
次にアリスの家に行ったときには何をしようか、と。
まずは私の料理を食べてもらって…
一緒に本を読んだり、アリスに人形劇を見せてもらって…
色々としたいことが浮かんでくる。
そうだ、今度服を返す時にお礼としてクッキーでも焼いて持っていってあげよう。
きっと彼女は喜んでくれるはず。
私はその日のことを考えながら空を見上げた。
…今度会うときには綺麗に晴れて欲しいな。
雨でも構わないけど…ね。
話しの展開が単調すぎると言いますか、
鈴仙がアリスの家に雨宿りして無事帰った。
の一言で終わってしまう内容が残念。
起きて当然の事しか起きない物語になってしまいます。
もう少し何らかの障害を入れたり話しに捻りを加えて欲しかったなぁ。
鈴仙が人里から魔法の森を経由して帰る所もよく分かりませんでした。
これはアドバイスというより単なる我侭なんですけど、二人の感情表現を
少し抑え気味にして、基本聞こえて来るのは雨音だけ、そこに二人の会話が
時々挟み込まれる。みたいな、しっとり描写だと尚良しだったかな?
でもただ「優しい」だけだとちょっとだけ物足りない気がしました。
いっそアリス宅であったカナカナとなく本をキッカケにでも、アリスの別の一面を見せると更に「優しさ」が引き立ったのでは?と思いました。
(実はこれが何かの伏線か!?と深読みした自分がいます……雨の中の森、ウッディ!! そういやその作者さん、ウドンゲが好きとか言ってらしたなぁ
あともう少し、例えば最初とどこか中間地点で、雨やひとつひとつの描写を丁寧にしてみる。
気持ちを直接言い表す地の文以外でも、より余韻を感じられると良いな、という。
個人的目標にしているものをあげてみたりします。
この組み合わせに、雰囲気も何か和みました~。
なんといいましょうか……話が一方行にしか行っていないような感じがしました。
ただの雨宿りですが、例えば「帰ってこない鈴仙を心配になり探しに永琳が~」とか色々とちょっとした起伏を
つけてやってみると、もっと物語の中に入っていけたかもしれません。
上の不動遊星さんのコメントのように、何か物足りない感じが否めませんでしたが
次、がんばってください~。
今回鈴仙をアリスの家に泊まらせなかったのは最近「泊まらせて終わる」というパターンが多く、
流石にワンパターンすぎるかな、と思ったからです。
そして話に起伏をつけると言う点も次回に生かしたいですね。
そしてなぜ鈴仙が森に行ったかといいますと・・・
単純に自分のミスです。
もう少し脳内で大体の地図を作ってから考えるべきだったかなと反省しております。
毎回色々なアドバイスありがとうございます。
次回もよろしくお願いします!