Coolier - 新生・東方創想話

「ま……まり…………」

2010/05/15 07:30:44
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「まりべひっ! ……………………ふぅ」

これでもう何回目だろうか。
いい加減自分で自分が嫌になってくる。
まだヒリヒリと痛む舌を気にしつつ、私は紅茶を淹れることにした。
落ち着こう、まずは。

「……はぁ」

会いたい。
あの綺麗な金色の髪に、無邪気な笑顔。
若さ故か、時々見せる世間知らずな一面もまた愛らしい。
本当は弱いくせに、強がって、強がって……ほんと、馬鹿みたい。
でもそこに惹かれている自分はさらに馬鹿だろう。
ああ、彼女に、今すぐにでも会いたい。

「…………魔理沙」

出てきたのは一人の名前。
彼女になら、伝えられるだろうか。
私のこの、会いたくて、会いたくて仕方がない気持ちを。

「…………よし」

ここ数日は待つだけだったが、もう限界だ。
今日の晩、それまでには伝える。
いや、伝えなくてはいけない。
もはや、恥ずかしがっている場合ではないのだ。

「でもその前に……」

自分の意気地のなさに、少々自己嫌悪する。
だが、できることはやっておきたい。
そう自分に言い聞かせる。
私は作りかけの人形を片付け、外套を羽織った。
もう5月だというのに、外はまだ肌寒かった。




───────────




店内に入ると、むわっとした熱気が私を包み込んだ。

「やあ、いらっしゃい。 君が来るなんて珍しいね」

「ええ、少し……ね」

どうやら熱気の原因は、店主の傍にあるストーブのようだ。
それにしても、この時期にまだストーブとは……

「ああ、これかい」

私の視線に気づいてか、店主は言った。

「今日は一段と寒いから……なんてね。 片付けるのが面倒で置いたまま……で、偶々今日寒かったから点けただけさ」

「片付けが得意じゃないのはこの部屋を見ればわかるけど、よくこれでどこに何があるかわかるわね」

「住めば都、と言うだろう。 僕にとってはこれが一番心地いい配置なのさ」

「ふぅん……まぁ、いいわ」

そう、私は世間話をしに来たわけではないのだ。
予め用意しておいたメモを店主に渡すと、適当な椅子に腰を下ろした。
「座って商品を見たいなら適当なとこに座っていいよ」と以前来た時に言われたので、問題ないだろう。
直接商品を言わないのは、できるだけ話題にされたくないからだ。
あるかないか、それだけが私の関心だった。
しかしというべきか、案の定、店主は私のメモに興味を示した。

「へぇ、これを君が……ねぇ」

言わずともわかる、その顔は「意外だ」と言っている。
何に使うのか、とは言わない。使い道なんて一通りしかないからだ。

「できれば余計な詮索は……」

私が言葉を発すると、店主は慌てて手を振った。

「あぁごめんごめん、別にあれこれ聞こうってわけじゃないよ、ただ単に意外だったから、ね」

それに、と店主は付け加えた。

「あいにくと品切れでね、これ。 わざわざ来てもらったのに悪いね」

「そう……」

ここならあるいはと思ったが、やはりなかったようだ。
残念に思う一方、嬉しがる自分がいる。
これでいい、当初の予定通りだと。
魔理沙……そう、魔理沙だ。
魔理沙の家に行けば、会えるではないか。

「おや、もうお帰りかい」

「ええ、今日はちょっと……忙しいのよ」

それは残念だ、と、全然残念じゃない素振りで呟く店主。

「君とは色々と面白い話ができそうだったんだけどね」

「機会があれば、ね」

そう言い残し、私は店をあとにした。
香霖堂と書かれたその上を飛び越え、呟いた。

「機会……か」

あれが入荷する時はあるだろうか。
品切れ、ということは以前はあったのだろう。
時々顔を出してみるのも悪くはない。
もっとも、彼の期待している私の「面白い話」はずっと品切れだろうが……




───────────




再び自宅へと戻った私は準備を始める。
もう予定の時刻まで30分もない。
きっかりあの時間に魔理沙の家にいくのだ。
着替えを終え、ふと、鏡の中の自分を見た。
キッと唇を噛み締める。
これが最後だ。
最後の練習。
大丈夫、成功する。
そう自分に言い聞かせる。
そう、たった一言、言うだけじゃないか。

「ま……まり…………」

「よっ!」

「まりでぁっ!」

「…………」

「…………」

ギギギと首を動かし、後ろを向くとそこには魔理沙さん。
OK、落ち着け私。
そうだ、こんな時は素数を数えるんだ。
マルコメちゅっちゅって、それはお味噌吸うやん。
ああもうだめだノリで乗り切るだけない、ってやかましいわ。

「アリス?」

「ハッ」

何を考えているんだ私は。
平常心……大丈夫よ、もう大丈夫。
Yes we can。

「ま、魔理沙……どうしたの急に」

きょとんとしていた彼女は、少しバツが悪そうに答えた。

「いや、玄関で呼んだんだけどさ、返事なかったし、鍵開いてたから」

「お……お茶でも出すわ」

「お、サンキュー」

なんとかこの場を切り抜け、キッチンへと引っ込む。
魔理沙は魔理沙で慣れたもので、応接用の椅子にちょこんと座り、足をブラブラさせている。
私は魔法でちょちょいと湯を沸かすと、紅茶の葉を手にとった。
こういう時、魔法使いは便利だ。

「おーい、アリスー」

何やら呼ばれたので、返事をすると魔理沙は言った。

「このテレビ見れねーの?」

「あぁ……それは」

テレビ、あれは最近になって幻想郷に普及した。
私の家にあるそれは30cm四方ほどの立方体をしたタイプだ。
どこぞのスキマ妖怪と河童が共同で作った電波塔なるもので、外の世界の番組を配信しているらしい。

「ちょっと、調子が悪くて……最近見れなくなったのよ」

私はテーブルに紅茶を置き、魔理沙の向かい側に座った。

「へー、そりゃあまた……お、こりゃ美味い」

茶請けとして持ってきたクッキーを、彼女は嬉しそうに頬張る。
私の手作りなのだが、褒められてから言うのも恥ずかしいので言わないでおこう。
実は最近、食事は菓子のみ、という時が少なくない。
パンなどを一々食事のたびに用意するより、こうしてまとめて作り置いておいた菓子をかじって済ますのだ。

「ま、魔理沙……あのね」

先程の気まずい空気から、魔理沙の興味がテレビにいってくれて丁度よかった。
何も、彼女の家に行くこともない。
用があるのは魔理沙であり、彼女の家ではないのだ。

「んー?」

魔理沙の澄んだ瞳が、私のみを見つめる。
言うんだ。告白するんだ。
今しかない、恥ずかしがってはいけない。

「あ、あの……」

「…………」

「タ……タルトもあるんだけど、食べない?」

「マジで? 食べる食べる」

ぱぁっと魔理沙の目が輝いた、可愛い。
…………じゃなかった、何やってんだ私。

「……はぁ」

彼女に気づかれないよう、キッチンでこっそりとため息をつく。
何をやっているんだろうか。
今ここで、絶好の機会を逃してしまった。

「つ、次こそは……」

今まで数え切れないほど繰り返し、ついに一度も行動に移ったことのない「決心」をする。
今度こそ、今度こそ、だ。
たった一言なのだ。
言って後悔、という言葉もある。

「よしっ!」

とは言わないが、心の中で大きく気合を入れ、私はトレイを持った。
テーブルに置くや否や彼女は手を伸ばし、私が椅子につくころには既に一個完食していた。

「いやー、最近こういう西洋菓子にハマっててさ」

からからと笑う魔理沙の頬にタルトのカスが付いていた、舐めたい。
…………じゃなかった。

「ま……まり」

「あっ!」

いきなり大声をあげ、魔理沙は床を蹴って立ち上がった。

「い、今何時?」

「え……えっと…………18時45分、ね」

「やっべ、間にあうかな」

わたわたと焦る魔理沙は、私を拝むように手を合わせて言った。

「ごめん! ちょっと楽しみにしてる番組があってさ、どうしても見たいんだ」

慌てつつもひたすら謝り、最後にご馳走様と言い残し、彼女は駆けていった。
それは一瞬のことで口を挟む暇もなく、私は呆然とするしかなかった。

「……片付けないと」

残された食器をトレイに乗せていると、視界が歪んだ。

「…………ぁ」

涙が、止まらなかった。
自分でも何故泣くのかわからなかったけど、止まらなかった。
それは情けない自分だとか、切なさとか、色々な感情が入り混じっていて……
私は、泣いた。




───────────




どれくらい時間が経っただろう。
私はハンカチを取り出し、涙を拭うと時計を見た。
数時間は泣いたように思えたが、時計の針は正確に時を刻んでいた。
18時57分。10分ほどしか経っていない。
視線を下ろすと、そこには木箱があった。
中には作りかけの人形が一体、ちょこんと腰を下ろして私を見つめていた。

「…………」

私はきっと、この人形を完成させるだろう。
今やめれば中途半端だし、完成させる気がないならそもそも作らない。
さらに根本的に考えると、私は完成させたほうが幸せになれるから完成させるとも言える。
物事の動機なんてものは、大抵そんなものだ。
したいからする、したほうがよさそうだからする。

「……魔理沙」

恥ずかしい、もし断られたら、もし失敗したら。
そう考えていた。
いまでもそう思っている。
そして今まではそれが、そう思うことがいけない、と思っていた。
しかし、違った。
失敗を考えることも、恥ずかしいと思うことも、悪くはなかった。
悪いのは、それを恐れること。

18時58分。

私は玄関から飛び出した。




───────────




飛んでる途中、まるで走れメロスみたいだとか、風が冷たいだとか、そんなことばかり考えていた。
とにかく何かを頭に入れていないと、どうにかなりそうだった。
疲労と緊張で私の心臓はフル回転しており、肩が大きく上下している。

18時59分。

よくもまあ、ここまで早くこれたものだ。
息が整うのを待つ暇もなく、ドアをノックする。
大して時間もあけず、ドアは開かれた。

「……アリス?」

さっき会ったばかりということと、息をあげているということで魔理沙は少し驚いているようだった。
だがそれも一瞬で、いつものおどけた感じで接してくれる。

「悪い、忘れ物でもしたか?」

違う、そうではないのだ。
言うために、そう、貴女に告白するために、来たのだ。

「ま……ま……」

「?」

喉につまり、言葉がでない。

「……っ!」

そうではない。
“言えない”ことは“ない”はずだ。
“言おうとしていない”のだ。
そして、もう、“言う”……そんな言葉は使う必要がない。




「……魔理沙!!」




なぜなら、私はもう、その言葉を頭に思い浮かべた時には!
実際に“言って”しまっていて、「もうすでに」終わってるからだッ!









「ま……まり…………マリー・アントワネットを見せて!!」









“言った”なら使ってもいいッ!




───────────




「いやぁー、ギリギリだったな」

「だって……」

「しっかし、アリスもこの番組にハマってるなんて驚いたぜ」

私達はソファーに並んで座り、テレビを見ていた。
小さな箱の中では「コードマリー~反撃のアントワネット~」という題名と共にOPが始まったばかりだった。
近未来を舞台とした、SFモノのアニメである。
「PAN」と呼ばれる人型兵器も出てきており、ロボット要素も満載だ。
ライバルであるデュ・バリー夫人との駆け引きや、ヒロインであるルイ26世とのあんな話やこんな展開が話題を呼んでいる。
テレビの中では今まさに、主人公のマリーが出てきて暴れているところだった。
核兵器廃絶のようにPANの撲滅を願っているマリーにとって、PANは全て破壊の対象なのだ。
ある回でPAN基地を破壊し、職を失ったPAN乗り達に『PANがなければお菓子を食べればいいじゃない!』と言ったのはもは名言だ。

「よし! そこだ!」

無邪気にはしゃいでいる魔理沙を横目に、私はふと思った。
さっき魔理沙がうちに来てテレビをつけようとしたのも、これを見るためだったのだろう。
そう考えると、結局私はしなくてもいい心配をし、一人で悩み、泣き、本当に馬鹿をやったと思う。
でもいきなりアニメを見せて欲しいなんて告白は、断られると恥ずかしすぎるだろう。

「魔理沙……」

「ん?」

テレビに夢中になっている魔理沙の頬に、私はキスをした。
私が今、とても幸せなのはマリーを見れたということだけが原因ではない。
彼女と、魔理沙と一緒に見る。
私がそれに幸福を感じる、ということに気づいた時、私は無性にたまらなくなった。
そしてふと、ある言葉を言いたくなった。
いや……言おうとした時には既にもう、口に出ていた。

「好きよ」













“言った”なら使ってもいいッ!
「それにしても、私の家のテレビはなんで見れなくなったのかしら……香霖堂にもテレビ置いてないし」
「HEY アリス! そんな君にビッグなニュースだZE☆」
「WOW! 早く教えてくれよマリーサ!」
「HAHAHA! そんなに慌てるのは朝の通勤ラッシュだけで十分だZE……っと、これさ!」
「WHAT? なんだいこの黒い物体は?」
「【地デジチューナー】 サ!」
「ちでじちゅぅなぁ? なんだいそれは?」
「実はアリス、君の家のテレビはアナログ放送と言ってね、先日配信が終わってしまったんだYO……」
「SHIT! うちのカミさんと同じに使用期限切れってか!」
「HA-HA-HA-! でもネ! この【チューナー】さえあればノープロブレム、これからも見れるってわけサ!」
「フォーーー!ファンタスティーーーーック!!」
「これは未来の話だけど、画面の前のミンナはちゃんと地デジ対応テレビか、チューナーを買うんだZE!?」

「「2011年7月24日、地上およびBSのアナログテレビ放送は終了し、デジタル放送へと移行します!!」」


提供:NHK(ニトリ放送協会)
ハリー
http://kakinotanesyottogan.blog66.fc2.com/
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コメント



0.870簡易評価
1.100名前が無い程度の能力削除
いい感じに〆てくれました。
うちもまだアナログです…
2.90ぺ・四潤削除
なんだかんだ言って幸せなマリアリがいい! アリスは放送終了まで魔理沙の家に住んじゃえよ!
しかし「コードマリー~反撃のアントワネット~」マジですげえ見てぇwwww

ところで開始三行でずいぶんと色気の無いフィニッシュだなとか思っちまった。すまねえwwwww
3.70コチドリ削除
うーん、面白い二段オチだとは思うのですが、どうもしっくり来ないなぁ。
香霖堂のシーンで描かれているように、アリスは飽くまでも魔理沙と一緒に見る
テレビに価値を見出している、と思いたいのですが、最後のオチによって逆に
彼女の真意がぼやけてしまった印象を、個人的には受けました。
12.無評価ハリー削除
oh……誤字どうもです
自分の見直し能力が原因か、睡魔が原因か
はたまた無意識に直さなかったのか
おのれこいし
21.80削除
これいいじゃない