「新聞ですよ~!」
とある日のこと、幻想郷中に新聞が配られた。
いつものように烏天狗が新聞を届けて回る。
そして、いつものように新聞を広げる。
そこに書かれていたものは、様々な妖怪達や人間の話し合いにより、あるものが開催されることが決定した、とのことだった。
それは、妖怪達による勉強会だった。
様々な教科を、それが得意な妖怪達が集まって教えるというものだった。
これは、妖怪達の人間に対する感謝の気持ちも込めている。
また、少しでもイメージを良くしようというものも含まれているらしい。
勉強場所として、寺子屋だけでなく、人里全体を使ったものとなっており、新聞にはどこで何がやっているかを指した地図も入っていた。
そこには教科と講師の名前が記されていた。
社会 上白沢慧音・稗田阿求
数学 八雲紫・八雲藍
国語 射命丸文・聖白蓮・古明地さとり
理科 アリス・マーガトロイド・霧雨魔理沙・パチュリー・ノーレッジ
体育 紅 美鈴・星熊勇儀
保健 八意永琳・鈴仙・優曇華院・イナバ
家庭科 十六夜咲夜・魂魄妖夢
図工 比那名居天子・伊吹萃香
音楽 ミスティア・ローレライ・プリズムリバー三姉妹
どれも魅力的な授業ばかりで、講師も豪華。
すぐに人里ではその話で持ちきりになった。
自分の気になる授業、はたまた、好きな講師のいる授業へ行くのか。
人里は、一つのお祭りのような雰囲気に包まれていた。
「あいつらは何を勝手に…。まぁ、別にいいけど」
博麗の巫女は小さく呟く。
いつの間にこんな話が進められていたんだと呆れるも、新聞を床へと放る。
「ま、どうでもいいか。私も暇だし行ってみようかしら」
咎めることも無く、それが来る日を待つことにした。
そして、その日はやってきた。
いつにもまして快晴で、雲ひとつない青空が広がっていた。
人里には、教師の妖怪や人間以外にも、暇をつぶすために妖怪達が訪れていた。
もちろん、人里の人間達もそれぞれに興味のある場所へと足を運んでいる。
授業はどれも同じ時間に終わるように設定されており、時間単位で区切られている。
一度やって、面白いと思うならそこにまたいてもいいし、別の場所にいってもいい。
寺子屋とは違い、自由な教科を受ける事が出来るのだ。
そんな中、様々な教科の中で子供に注目されている教科があった。
それは、理科。
やる内容として書かれていたのは、実験だった。
普通寺子屋じゃ実験なんてものはない。
なので、子供たちは実験とやらに興味があったのだ。
理科は、人里から少しばかり離れた森の入口付近で行われる。
普段は妖怪がいるからという理由で子供が近寄るのを禁じているも、今日ばかりは別だった。
大きな白いテーブルの上には、見たことも無いような器具が沢山並んでいる。
透明なガラスの中の液体は綺麗な色をしており、何で出来ているのか興味がそそられる。
少しばかり、新鮮な空気の中に薬品のにおいが混じっている。
そして、実験に使う用具の中へと、液体を注ぎこむ人物達。
白衣を身にまとい、手際良く準備を進めて行く。
「パチュリー、ちょっとそっちのプラスチックの筒取ってくれないか」
「はい、どうぞ」
「魔理沙、奥から鉄粉取ってくれないかしら?」
「あいよ~」
人が集まっていくなか、着々と準備を進めて行く魔女三人。
子供たちは、普段見たことも、もちろん着たことも無い白衣を羨ましく思っていた。
それは子供だけでなく、大人にとっても少しばかり羨ましく思うほどだった。
どことなく、知的というか、恰好よく見えたからだった。
そんな三人が、準備をしているのを見ているだけでも十分面白かった。
しばらくして、準備が終わったのか、手の動きが止まる。
そうして三人は並び、辺りを見回す。
沢山の子供と大人、そして妖怪や妖精達も混じっている。
今からどんなことが起こるのだろうかと、小さな声が重なり、ざわつく。
「え~、ごほん。今日は理科の授業を見に来て下さってありがとうございます」
その一言で、場の空気が一気に変わった。
静まり返るのを確認すると、彼女は続ける。
「私は今回の講師を務める、アリス・マーガトロイドです、よろしくお願いします」
普段の砕けたような口調とは違い、丁寧な言葉遣いで相手に話しかけるように喋る。
これも、少しでも自分達の印象を変えようと思うためだった。
アリスの自己紹介が終わると、拍手が返ってくる。
今から実験が始まるのかと、人々の思いは高まる。
「他の講師として、皆さまからみて左側の黒い大きな帽子を被っている彼女、霧雨魔理沙と、皆さまから見て右側、紫の髪をした彼女がパチュリー・ノーレッジです」
「どうも」
「よろしく」
魔理沙とパチュリーが短く返すと、アリスの時と同様に拍手が返ってくる。
子供たちの瞳を一身に浴びているのが痛いほどに解る。
それに三人は微笑みで答え、話を進めて行く。
「それでは、早速実験に入りましょう。まずは水についてを霧雨先生に話してもらいましょう」
「霧雨先生!?な、なんか変な響きだな…」
魔理沙は、アリスの呼び方に違和感を覚えるも、役割を果たすべく机の中央に立つ。
「今から、水に関しての実験を始める。空気の中には、様々な気体と言うものがある。まぁ、生きる者が必要とする酸素もその一つだ。その酸素と水素と言う気体を合わせることで、水が生まれるんだが…まぁ、百聞は一見にしかずだ。実験を始めるぜ」
プラスチックの筒の中には水が8分目ほど入れられており、上の方には空間がある。
そして、それにゴムで栓がしてあり、その栓から金属の棒が2本飛び出している。
その前に魔理沙は立つと、説明を始める。
「この筒の上の方の空間は、酸素と水素で出来ている。そして、この金属を通してプラスとマイナスの電気を通すと…どうなるかな?」
悪戯っぽい笑みは、何故かサイエンティストに似合う。
魔理沙はそんな笑みを浮かべると、金属の棒から少し離れた位置に手をやる。
手元に小さな魔法陣が浮かび上がる。
それに小さな驚きの声が上がったかと思うと、そこから、電気が伸びる。
発生したらすぐさま、金属の棒をめがけて走っていく。
その瞬間だった。
筒の中が眩しい光で満たされると共に、爆音が響き渡る。
いきなりの出来事に、子供達は目を大きくして驚く。
何の予想もしていない時だからこそ、その驚きはより一層大きいものだった。
そして、ふと筒の中を見れば、中は水でいっぱいになっていた。
「このように、純粋な酸素と水素に電気を通すことで、激しい光と爆音と共に水が生まれるんだ。これで一つ、水の実験は終了だぜ」
あっという間の出来事だった。
目の前の用具に惹かれ、そしてその変化に惹かれ…
少しばかりの沈黙。
そして、それを破るようにしてざわめきが生まれる。
いきなりの出来事への不思議な感じと、初めて見る実験の素晴らしさに会場は沸く。
魔理沙達からしたら簡単な実験で、何でもない事。
だけど、それは観客からすれば見たことのないショーである。
そんな盛り上がる場を静めるように、声を放つ。
「静かに。次は私が綺麗な炎を見せてあげるわ」
片手に拡声器を持ち、口元にそれを近づけて喋るのは、パチュリーだった。
机の上には小さな白いお皿が数個並んでいる。
「今から、炎色反応という実験をするわ。花火に使われている物質として様々な元素がある。その元素を一つひとつこのお皿に入れる」
茶色の瓶が幾つも並び、ラベルには様々な言葉の羅列が記載されている。
くるっと蓋を回し、トントンと底を叩いてお皿に入れる。
それに、アリスが水を少量加え、ガラス棒でくるくるとかき混ぜる。
パチュリーは作業を進めながら話も進めて行く。
「少量水を混ぜたら、それにメタノールを加える。まぁ、水よりは多めに。今回は、リチウム、ナトリウム、カリウム、カルシウム、ストロンチウム、バリウム、銅の7種類を用いるわ」
パチュリーは、実験の準備を魔理沙とアリスに任せると、白衣のポケットから札を取りだす。
人差し指と中指とでそれを挟むと、一瞬にしてそれを赤い炎が包んでいく。
何が起こると思えば、辺りが闇に包まれる。
それと共にざわめきが起こるも、拡声器の声が響き渡る。
「ちょっとこの空間の光を簡単な結界で遮断しただけだから騒がないで。炎色反応を見るのなら良く見える方がいいでしょう?」
指先から炎を揺らめかせるパチュリーの姿が浮かび上がる。
そのままゆったりとした足取りで白いお皿の並べられた机の前まで歩いていく。
指から出る炎を、流れるように横に薙ぐ。
白いお皿の上に炎が浮かび上がる。
じっとそれを見つめる人々の瞳の中には、確かに炎が映っている。
どれも同じ色をした炎が、徐々に色を変えて…
「リチウムは赤、ナトリウムは黄色、カリウムは赤紫、カルシウムは橙、ストロンチウムは紅、バリウムは黄緑、銅は青緑に変化するわ。ほら、色が変わってきた」
するとどうだろうか、見る見るうちに炎の色が変わっていく。
暗闇の中で、色とりどりの炎が浮かんでいる。
普段見る炎とは違う色に、あっけにとられる。
それは幻想的な光景で、吸い込まれるような感覚に人々は襲われる。
ゆっくりと時間が過ぎるような、そんな感覚。
人々は、幻想の世界へと潜っていった。
そして、お皿の中が空になると共に炎はゆっくりと消えていく。
それを合図に、太陽の光が視界いっぱいに広がる。
幻想から現実へと帰る瞬間だった。
パチュリーは結界を解くと、拡声器を机にそっと置く。
「これで、炎色反応の実験は終わり」
静かに放たれたその言葉の後に、また歓声が上がる。
しかし、そんな歓声にいちいち満足していられない。
「さてと、次は私ね」
アリスが机の前に立つと、大きな容器を取り出す。
容器からは白い煙が溢れ出ている。
一体中に何が入っているのか、視線はその容器へと向けられた。
「ここに、液体窒素と呼ばれるものがあります。これは非常に冷たいもので…たとえば、このバラの花をこの液体に入れて…」
液体窒素を机の前に持ってくると、バラの花を液体窒素の中へと入れる。
しばらくした後にそれを取りだすと、表面に少しばかり白いものが付いている。
それをみんなに見せるようにして高く上げると、花弁をぎゅっと握りしめる。
すると、バリバリと音を立てて花弁が崩れていくではないか。
「他にも、このバナナをここに入れて…。ほら、カッチカチよ」
どこか卑猥な言葉に聞こえるのは気のせい。
とにかく、バナナを取り出し、板にくぎを突き刺すとそれでトンカチのごとく叩く。
その硬さに子供達は思わず驚きの声を上げる。
アリスはそれを子供たちに手渡し、回すように指示した。
子供達は声をあげて驚き、頭にコンコンとぶつけてみたり、折ろうとしたりしている。
何ともほほえましい風景である。
「さてと、最後はこれね」
何かを、アルミホイルがキャンディのように包んでいる。
そのアルミホイルを取ると、黒い物体が出てきた。
左手に掴んだ試験管の中に放り込むと、右手で液体の入った試験管を持つ。
ふと、講師の三人を見ると、鼻栓をしているのに気が付く。
さっきまでの声とは違い、曇った声で話を進める。
「今からやるのは、この硫化鉄という物体に塩酸をかけるとどうなるかというものをやります。まぁ、鼻栓をしているのは察していただければ幸いです。では…」
塩酸を試験管の中に注ぎこむ。
液体に沈む硫化鉄が、次第に泡をしゅわしゅわと吐き出し始める。
そして、次第に辺りに漂う匂いは…
「卵の腐った匂いを放ちます。まぁ、卵の腐った匂いなんて嗅いだこと無いから解らないんですけど」
見ている人たちはそれぞれ鼻に手をやった。
しかし、そんな行動も無意味で、鼻にその匂いが入り込む。
強烈に臭い。
何故これを実験の最後に選んだのかは、全くもって不明だった。
「くっせぇ!」 「ちょっと気分悪くなってきた…」 「おぇ…」
人々は口ぐちに異臭に対しての感想を述べるも、表情は何故だか笑顔だった。
なんだかんだいっても、実験は見ていて楽しいし、結果も楽しいのだろう。
何事も楽しまなければ損だという思考がここでは身についている為だろうか。
表情を見る限りでは、不快に思ってはいないようだ。
アリスは、そんな表情を見て心底ほっとした。
「これで実験を終わりにします。また次も違う実験を行うので、見たいという方はこのままここでお待ち下さい。今日はありがとうございました」
三人は同時に頭を下げると、盛大な拍手が送られた。
そして、一部の者は違う場所へと移動し、新しい人々が流れ込む。
そんな中に、霊夢も紛れ込んでいた。
「…え?何これ。すっごい臭い。一体何したのよ…」
顔をしかめると、踵を返して理科の授業を受けるのをやめた。
(料理とか面白そうだし、咲夜と妖夢のところにでも行ってこようかしら)
そんな事を考えながら、人里へと引き返していった。
それでも、理科の会場は、沢山の人たちで溢れかえっていた。
三人それぞれの実験など、さくさくっと楽しく読めました。
あと、他の授業編もありますか?
評価ありがとうございます。
他の授業は考えてませんでしたね…。
まぁでも、そういう声があるならやってようかなぁとも思います。
霊夢もなんかそんな素振りだったし。メンバー見ただけでも面白そうなのが想像できる。
一瞬保健の授業に四人も先生がいるのかと思ったwww
ていうかどう色々想像してみても部屋の中でカーテンを閉めてから授業をする光景しか想像できないwww
評価ありがとうございます。
そうですねぇ、続き書いてみようかなぁと思います。
保健は自分もちょっとこれ…まずいかのぅとか思いながらも書いてましたw
保健の授業とか聞きに来る人いるんでしょうかw
まぁ、でも理科も5人に見えなくもないんですけどね~。
公開授業ですもんね。そんなことするわけないか。あはハハハハハ。
な、何を言ってるんですか、当り前じゃないですか。
保健ですから、それはもう健全な内容を行うわけですよ、あはアハハハハ。
一方その頃、因幡てゐ先生による非公式な道徳の授業によって、子供達はイヤな感じで大人の階段を
一歩登ったのだった。
>アリス先生ー、バナナを渡す時きちんとみんなに手袋を着けさせましたかー?
>(9)ペ・四潤氏
>(10)へたれ向日葵氏
何を想像したwwwwwww
評価ありがとうございます。
子供達が…なんてこったいw
幻想郷じゃ常識に囚われちゃ…どう見ても知識と描写不足です、すみませんでした。
評価ありがとうございます。
理科でやりませんでしたかね?
いやぁ、別にいやらしいことなんて考えてないですよ?
勘違いしてもらっちゃ困りますね、あはアハハハハ。
大学の研究室に入ってから無駄に着てたのもいい思い出。
アリスとパチュリーは普通に似合いそうだけど、
魔理沙にはワンサイズ大きいのを着せてみたいw
理科の実験は授業時間が足りないとかでかなり削られたけど、
あれは削っちゃいけない部分だと思うんだ…。起こる現象を全く見ずに反応式や公式や知識を
暗記したところで面白くも何ともないだろうに…。
ところで、鉄粉は何に使ったのだろう。その場で
硫化鉄作成とか?
評価ありがとうございます。
白衣羨ましいです~…。
>魔理沙にはワンサイズ大きいのを着せてみたいw
激しく同意せざるをえませんね。
鉄粉に関しては、鉄粉と活性炭とをつかって化学カイロ作ろうと思ってました。
次の時間でやる準備っていうことですね。
というか、自由に教科を見れるんでしょう?
他の教科を見せろーっ!いや見せて下さい!
評価ありがとうございます。
自由に見れますよ~。まぁ、書ける限り書いていきたいと思いますがね。
>27 様
にとりはちょっと話進めていく上でちょっと入ってくるとは思いますわ。
評価ありがとうございます。
参加したくなりますよね、この教師陣なら。
私個人としては国語と社会を受けたいです。