行楽日和と言っても過言ではないポカポカ陽気のある日。魔理沙は霧の湖の畔に腰かけ空を見上げていた。
隣にはおバカなことで有名になってしまった氷の妖精ことチルノに膝枕をしてやっている大妖精。
この陽気の下、のんびりと空の散歩を楽しんでいた魔理沙に、大妖精を引き連れたチルノがスペルカード戦を仕掛けてきたのである。
魔理沙は今までに数多くの人妖と戦ってきた手練ではあったが、その魔理沙をしてチルノは油断ならない相手であった。そのためちょっと
白熱してしまったのである。ある程度パターン化されたスペルであれば魔理沙もそれほど苦にはしないが、スピードメインの魔理沙にとって
相性の悪いばら撒き型のスペルを多用してくるチルノは非常に厄介なのである。そのため弾幕を一掃するために放ったマスタースパークが
チルノも巻き込んだことで勝負がついた。
「また負けたぁ!」と不貞腐れてしまったチルノを優しい笑みで大妖精が迎え、現在大妖精の柔らかそうな太ももの上でチルノはお昼寝中である。
そんな仲よさげな親友コンビに目を向け、魔理沙にも穏やかな笑みが浮かぶ。
「お前ら、本当に仲いいんだなー」
「もちろんです。チルノちゃんは私の大事な友達ですから」
自信たっぷりに答える大妖精。魔理沙も自分の1番の親友を思い返していた。
「そうかい。私も今度霊夢に膝枕してもらおっかな」
その言葉に大妖精も微笑みながら返す。
「してもらえるといいですね」
「まあな。あ、そうだ」
「?」
箒に括りつけていた袋(チルノとの勝負に苦戦した理由に、これを庇うようにしていたからというのもある)から、包装された
何かを取り出す。
「本当は霊夢への土産だったんだけどな、一緒に食おうぜ」
そう言って包装紙を破いていく。書かれた文字をたどたどしく大妖精が読みあげた。
「何ですか、これ。えっと…え、ち、お、ぴ、あ…??」
妖精の大半は無学であり、新聞を読めるレベルまでになっている者はそう多くない。大妖精はその少数派ではあったが、
それでも『饅頭』は読めなかったようだ。
「エチオピア饅頭、だよ。外の世界の和菓子らしい」
知らない人はググってみよう。ググる前から知ってた人は作者と握手。
……嫌ですか。そうですか……
「外の世界のですか? いいんですか、そんな貴重なものいただいちゃって……」
幻想郷に生きる者なら外の世界のものがどれほど珍しいかはよく知っている。
弱々しく大妖精が尋ねるが、気にもしない風に魔理沙は答えた。
「いーっていーって。食わずに腐らせる方がもったいないだろ?」
「でも、霊夢さんが…」
「だいじょーぶ。この箱の分ならこの3人で分けても余るだろうからさ。……ほらよ」
開封して中の饅頭を1つ投げてよこす。
「…ありがとうございます! ……こんな色のおまんじゅう、初めて見ましたよ。食べれますよね…?」
受け取り、笑顔になる大妖精だったが、饅頭の色に若干引く。
皮の色が焦げ茶色だった。
「問題ないって。私にくれたやつも今日美味そうに食ってたし。ほら、こっちはチルノの分だ。起きたら食わせてやりな」
香霖堂の店主からお裾分けを貰ってきていたらしい。ものを食べずに暮らせる彼も絶賛していた。
チルノの分も投げて渡す。
「はい!」
「そいつが寝てる間にチルノの分だってこと忘れて1人で食うなよ?」
「そんなことないですよ! …いただきます」
顔を赤くして少しだけ強い口調で否定し、そろそろと饅頭を口に運ぶ大妖精。
硬い顔をしていたが、咀嚼を続けるうちに綻んでいった。
「どうだ、美味いか?」
「……はい! 甘くてとっても美味しいです!」
元気に答える彼女に魔理沙も得意気な顔になった。そして饅頭に口を付ける。
「だろ? んじゃ私も。あむっ……おっ、美味い美味い。こりゃ茶が欲しくなるな」
「そうですね……あ…あのっ、ま、魔理沙さん…」
小さな声で同意した後、すがるような目で魔理沙を呼ぶ。
「ん? どした?」
顔を赤くし、
「あ、あの…も、もう1つ、くださいませんか…?」
お願いした。
一瞬呆けた魔理沙だったが、すぐに笑いだす。
「…わははっ! 仕方ないなぁ。ほら、あーん」
そしてまだ食べかけだった自分の饅頭を少し大きめに千切り、大妖精に差し出す。
「!? …………ぁ……あーん…」
非常に驚いた様子だったが、それでも甘い匂いに勝てずに口を出す。
しかし緊張か何かのせいなのか、魔理沙の指先まで口に入れてしまっていた。
「っ!!!」
指を舐められる感触に思わず鳥肌が立った。
「ぅむぅ……ご、ごめんなさい」
そのことには気付かない様子で食べた後、卑しいお願いを謝罪した。魔理沙はそれどころではなかったが。
「い、いやぁ、気にスンナ? そ、そういや大妖精よ」
内心の動揺をごまかすため、話題を変えることにしたようだ。
「何ですか?」
「そいつに長いこと膝枕してるが、冷たくないのか? 確かチルノは年がら年中体から冷気を放出してるって聞いたが」
似たようなのに毒使いの人形っ娘もいるが、幽香や永琳は接していても平気そうだったことに少し疑問を覚えていた。
その問いに大妖精は自信ありげに返す。
「ああ、そんなことですか。大丈夫ですよ」
「そうなのか?」
「はい。チルノちゃんが気を許した相手には、冷たく感じさせないようにできるんだそうです」
ポニータみたいなものである。というかこのネタ覚えてる人いるんだろうか?
「へぇ、じゃあ夏場チルノにたかってくるやつは気に入らないってことだな」
「ええもう。『最強のあたいに頼んできたんなら冷気を出してあげてもいいけど、勝手に抱きしめてくるなー!』ってプンプンしてます」
想像してみた。
「……なんか可愛いな」
「ですよねー!」
元気よく同意する大妖精。その声に彼女の膝の上にいたチルノが反応した。
「……んー…?」
「あ、ごめんチルノちゃん。起こしちゃった?」
「……うん…」
とは言うものの、まだ眠たげに目をこすっていた。
「よぉチルノ、ご機嫌いかが?」
「まだいたのあんたぁ…どっかいけー」
怨敵の存在に思いっきり不機嫌そうに返す。
しかし魔理沙はニヤニヤしながらからかうことにした。
「そーかいそーかい亜阿相界。分けてやろーって思ったお菓子があるんだがな、いらないか」
「お菓子!? いるいる! 魔理沙さいこー!」
現金なものである。
「おわっ! …ほら、大妖精!」
魔理沙に飛びかかろうとする彼女をいなして、大妖精にブツを渡すように言った。
「はい、チルノちゃんの分。ちゃんとお礼は言うのよ?」
「ありがと大ちゃん! ……うわっ、おいしー! 魔理沙、ありがと!」
思いの外素直に自分に礼を言ったチルノに感心し、
「ほー。よく言えましたー」
夢中で饅頭にかぶりつくチルノの頭を撫でた。
その様子を大妖精がどこか羨ましそうに眺めていた。
「…………」
「ん、どうした大妖精」
「え。い、いいえ? 別に何もありませんけど!?」
魔理沙の問いかけに慌てて答えるも、不自然さは隠せていなかった。
「……♪」
魔理沙の中に悪戯心が生まれる。立ち上がって大妖精の後ろに回り込んだ。そして、
「ど、どうしたんですか魔理沙さん? ……きゃっ」
後ろから訝しがる大妖精の腹に両腕を回して抱きかかえ、そのまま胡坐をかくよう再び座り込んだ。
魔理沙は同年代から比べると小柄であるものの、大妖精1人を抱えるのは容易かった。
そして片腕をお腹に回したまま、もう片方で頭を撫で回してやる。
「よしよーし。大妖精はいい子だなー」
「っ~~~~~」
無意識に感じた嬉しさと恥ずかしさに何も言えなくなった大妖精。
「あー!! こら魔理沙ぁー! 大ちゃん盗るなぁー!!」
それを見つけた、饅頭に夢中だったチルノが魔理沙に飛びかかる。
「おおっとぉ! おろ?」
随分近くにチルノが来たのに冷気を感じなかった。大妖精がいたせいであろうか。
「うー、大ちゃんをはーなーせー!」
魔理沙が抱いている大妖精を引き剥がそうとするチルノ。しかし力の差からどうしても無理だった。
「……とりゃっ!」
「へ? わっ!?」
逆に魔理沙がチルノの力が抜けた瞬間に逆にチルノを引き込み抱きかかえた。
「おー、こりゃいい! チルノの体温と日差しとでバランスとれて気持ちいー!」
「知るかー! はーなーせー!」
なおも暴れるチルノに、大妖精が声をかける。
「ち、チルノちゃん…」
「何!? 大ちゃん苦しい?」
「ち、違うの…も、もう少し、このままで…いさせてくれない、かな…?」
「む」
大妖精の言葉に一瞬表情を険しくするも、
「……大ちゃんが、そう言うなら……いいよ」
大妖精がチルノに優しいように、チルノも大妖精に優しいのである。
そのお願いを撥ね退けることはできるわけがなかった。
「にっしっし! ……うりゃぁ!!」
その2人にいっそう気をよくした魔理沙は、2人を抱きしめる力をいっそう強めたのだった。
「むぎゅーっ! や、やっぱりはなせぇー!!」
自分も巻き込んだそんな2人のやりとりに、
「……あはははっ!」
大妖精もいつのまにか、大きな声で笑っていたのだった。
そんな3人のやり取りをこっそり撮影した烏天狗の書いた新聞の記事に、紅白巫女が白黒魔法使いを
パルパルした目で睨むのはまた別の話である。
そうか…俺が大妖精だったのか…ちょっとチルノ抱きしめて来るノシ
2人とも連れ帰りたい!!
銅メダリスト…!
元ネタは電撃ピカチュウなのか!?
いつも霊夢にいたずらしているからかな。
ともあれ良い雰囲気でほわほわしますね。
そのほうが『け』と『き』の中間ぐらいの微妙な発音で大ちゃんに面と向かって堂々と
だいすきぇーだいすきぇーって言えるじゃないか!!
それはそうと、作者様、抱きかかえるのが『お姐さん/母ちゃんキャラ』だと、自分的には更にジャスティスになります。
貴様同じ県に住んでいるな!?
握手しよう。
ポニータ理論はリアルにあるかもしれませんね
可愛!
食べた記憶はありませんが
ポニータとか懐かしいな
懐いた人は背に乗っけてやるんだっけ?