その日、幻想郷の空を翔る二つの影があった。
「特に面白アイテム見つからなかったなー」
片方は魔法の森に住まう普通の魔法使い、霧雨魔理沙。
「なに、見つからない日があるからこそ、見つかったときがうれしいのさ」
もう片方は、命蓮寺の妖怪ネズミ、ナズーリン。
宝船の事件のときに戦った二人だが、その後ネズミ対抗紅魔館チキンレースなる謎の催しで再会し、意気投合して現在に至る。
「さすがナズー。生粋のダウザーだな。私は何か見つからないとやっぱりがっかりするぜ」
「魔理沙は見つけることよりも、見つけたものを調べることの方が好きみたいだしね」
「うむ。だがまあいいさ。四六時中宝が見つかっていたら私の身ももたんからな」
「はははっ」
今日は朝っぱらから二人の趣味であるトレジャーハントにいそしんでいたのだが、昼近くになって疲れてきたしおなかも減ってきた。
弁当を用意してこなかったわけではないが、特に継続して打ち込みたいような手がかりも見つかっていなかったため、ナズーリンの提案で命蓮寺に引き返し、お昼を食べようということになったのだ。
「命蓮寺か……そういや最近お前のご主人の視線が怖いんだが……」
「はは、部下を取られたみたいでいい気がしないんだろうね」
自らの主、寅丸星のことを言われ、ナズーリンは笑う。
「まさしく泥棒猫……いや、泥棒ネズミというわけか」
「ふふ、そうだね。まぁ、今のご主人様には白蓮殿もいるし、一輪や……ムラサ船長もいる。寂しいことはないだろう」
「ふぅむ……」
そんな会話をしながら、二人は命蓮寺へとだんだん近づいていく。
そして、気づいた。
「そろそろ見え……なんだあれは」
「なんだなんだ……なんだあれは」
命蓮寺のあるはずの場所に、塔のような――塔というにもゴチャゴチャしていて不可思議なのだが、ともかく、そんな建物がそびえ立っていたのだ。
『ミョウレンの遺跡』
「うっひゃあー、こりゃ見事なもんだぜぇー!」
近づいてみて、その巨大さに改めて驚く。聖輦船も、それが変化した命蓮寺もなかなかの大きさだったが、その印象に比しても圧倒されてしまう。
「魔理沙! あそこに白蓮殿たちが!」
ナズーリンが、建物のたもとを指差す。確かにそこには命蓮寺のメンバーが集まっているように見えた。
魔理沙はそれを見て方向を転換する。
「よしナズー、降下するぜ!」
「おー!」
そこに降り立った魔理沙とナズーリンを見て、聖白蓮はのほほんと首をかしげ、寅丸星は自らの部下に熱い抱擁を仕掛けた。
「あら、ナズーリン? と普通の魔法使いさん」
「普通だぜ~」
「あぁナズーリン、よく帰ってきてくれました!」
「うおあぁー、とりあえずご主人様、放して。白蓮殿、何があったのですか」
ナズーリンが星を押し返しつつ、白蓮に説明を求めると、白蓮は難しい顔で額に指を当てる。
「うーん……なんというか……いきなりお寺がこんなになっちゃったとしか……」
「なんだと? それじゃそのまんまじゃないか」
白蓮の答えに、魔理沙がもっともな感想を述べた。
「姐さんの言ってることは本当よ。本当にそうとしかいえないんだから」
そうして、白蓮の言うことを肯定したのは雲居一輪。入道を操る妖怪であり、傍らにいる入道、雲山も頷いているところを見るに、そういうことらしい。
「だが、何の前触れもなくこんなになったのか? だとしたら不自然すぎるんだが……」
「い、いえ……私が悪いのです……」
魔理沙がいぶかしがる中、そうしておずおずと手をあげたのは……なんと寅丸星だった。
「ご主人様?」
「いえ、この前、ナズーリンが変なネジ巻きを持って帰ったではありませんか」
「あぁ、うん。確かに持って帰ったね」
奇妙なネジ巻きのネジ。
魔理沙とナズーリンがトレジャーハントをするようになってから得た戦利品の一つである。
「香霖いわく、とある伝説の遺跡に関わるアイテムだと言っていたが……」
「で、それがどうしたんだご主人」
ナズーリンにうながされて、星は意を決した子供のように話し出す。
「カレンダーをかけようとして……! ちょうどいい感じの引っ掛けるものがなくてっ、ちょうどネジが目に留まったので、あぁ、これでいいやと……」
「おい」
「それで、ちょうどあった穴にネジを差し込んで、固定するためにギリギリと回していたら……命蓮寺自体が変化を始めて、こんなことに……!」
「そういうネジじゃねーからこれ!」
「が、がお……」
魔理沙の苛烈なツッコミに、星はしょぼんとうなだれる。
毘沙門天の代理の威厳などあったものではなかった。元々かもしれないが。
「それにしても、あのネジが伝説の遺跡に関するアイテムだというのなら、これはつまり、命蓮寺がネジの力によってその遺跡と化してしまったということなのか?」
「命蓮寺の力にそのネジが影響を与えた結果かもしれませんね。命蓮寺は元々聖輦船。その聖輦船は元々私が法力で改造した飛倉ですから」
ナズーリンの推理を白蓮が補う。
命蓮と白蓮、二人の力が宿る命蓮寺という建物。何が起こってもおかしくないといえば、そうなのかもしれない。
「……あれ、聖輦船といえば、船長、ムラサ船長は?」
ナズーリンはあたりを見回した。
そこにいるのは白蓮と星、一輪と雲山、そして何故か後ろの方でぷるぷると震えているぬえ、だけである。
聖輦船の船長だった舟幽霊、村紗水蜜の姿が見当たらない。
「……出てこないのです」
「え」
白蓮の言葉に、ナズーリンは呆ける。
「私達は、命蓮寺の変化に驚いて、すぐに外に逃げ出しました。……ですが、村紗さんだけは、いくら待っても出てこないのです……。探しに行こうと相談していたところでした」
「そこに探し物が得意なナズーリンが帰ってきてくれたので……」
「なるほどね」
ナズーリンはこくりと頷く。
その横で、魔理沙は震えるぬえに興味を示していた。
「で、そこの正体不明は何を震えてるんだ?」
「い、いや、怖いわけじゃないのよ?」
「ん?」
ぬえは、伝説の遺跡と化した命蓮寺を見上げながら、呟く。
「この建物から、ものすごい正体不明の雰囲気が漂ってるの。正体不明の象徴たる私ですら圧倒されそうなほどよ。いや、怖いってわけじゃないんだけどね。うん。がくがくがくぶるぶるぶる」
そうしてぬえは振動を強めた。
「ダメだこりゃあ」
魔理沙は肩をすくめた。
「そんなわけで、事態は一刻を争うのです。ですからお願いですナズーリン。ネジと村紗の探索を、頼みます」
星がナズーリンに、仕事を依頼する。
「了解だご主人様。さぁ、行こうか魔理沙」
「よっしゃあ!」
「ままま待ってください!」
ナチュラルに魔理沙を誘うナズーリンに、星が慌てて突っ込む。
「……どうしたねご主人様」
「いや……なんというか……これは命蓮寺の問題であって、部外者の魔理沙さんの手を煩わせることでは……」
「白蓮殿復活の大立者を捕まえておいて、部外者はないんじゃないかな?」
「がお……」
必死の言い訳がつぶされ、星は再びうなだれる。
「これから行こうとしているところはぬえがおののくほどの空間……私一人では心もとない。魔理沙ならきっと大きな力になってくれると思うのだけれど……」
「いや、怖いわけじゃないんだよ!?」
「はいはいわかったわかった。飴でも食ってろ」
「がくがくぺろぺろ……」
ナズーリンの言葉にもの申しにきたぬえが、魔理沙に飴を渡されて後ろの方に押し返される。
そんな中、星は悩んだ。
魔理沙は弾幕戦とはいえ、この命蓮寺メンバー全てに勝った存在。確かに軽く扱うわけにはいかなかった。
それに、曲がりなりにも飛宝を集めた者。いわば飛宝の力に認められたものなのだ。元は飛倉であるこの遺跡を探索するのに、これ以上の人選はないかもしれない。
「……わかりました。私からもお願いしましょう。魔理沙さん、どうか力をお貸しください」
そうして星は意を決し、自ら頭を垂れる。
「もちろんだ。こんな面白そうな事件を前に何もせずに帰らされたらどうしようかと思ってたぜ」
待ってましたとばかりに魔理沙は胸を張り、その後に話をつけてくれた感謝をナズーリンに示す。
「ありがとな~、ナズ~」
「も、もう、だから頭を撫でないでくれよっ」
嫌がった素振りを見せるナズーリンだが、やはり、ぴょこぴょこ揺れ動く尻尾の先はハートマークを形作っていた。
その様を複雑な表情で星は見つめる。
自分に見せない一面を見て、ほのぼのとするような、少し悔しいような。
そんな星の感情の機微を読んだか読まずか、白蓮は唐突に宣言した。
「それじゃあ、中の探索は魔理沙さんとナズーリン、星にお願いします」
「ええ!? 私もですか!?」
「協力すると言っていたではありませんか」
「それは言いましたが……」
驚く星に、白蓮は不思議そうな顔をして首をかしげる。
「ならば良いではありませんか。ナズーリンとあなたは主従ですし、一緒に事に当たるのが良いでしょう」
「はぁ……あなたは良いのですか、ナズーリン」
白蓮の言葉なら、従うことに異論はない。が、ナズーリンはどうなのだろうと、星は気になった。
魔理沙と一緒にいたいのではないのだろうか。
「ん? 別にかまわないよ。趣味の時間ならともかく、お仕事だしね。魔理沙もかまわないだろう?」
「ん、あぁ」
相槌を打ったものの、魔理沙は白蓮とナズーリンの真意が図りかねた。
この機会にだから一緒に行動してわだかまりを断ち切ってもらおうということだろうか。
……わざわざこの機会に?
「まぁ、あまり構えないであげてくれ。相手が構えると構えてしまうのは獣のサガだからね。いつものとおり胸を張っているといい。一番君らしくね」
「うむ、善処するぜ」
魔理沙が頷く。
話がまとまったのを見届けると、白蓮は残りのメンツにも指示を振り分けていった。
「星たちが内部を探索するのに対して、一輪と雲山は外からこの遺跡の様子を探ってみてください」
「わかりました」
一輪と雲山が頷く。
「私とぬえはここで待機し、不測の事態や、この命蓮寺遺跡を見てやってくる人妖への対応を行います」
「ぶるぶるぶる……こくこくこく……」
「さすが姐さん! 周りのこともよく見えてらっしゃる!」
ぬえと一輪がそれぞれの反応を返す中、突入班はそれぞれの意思確認をするようにめいめい目配せをして頷くと、元気よく突入していった。
「それじゃ行ってくるぜー!」
「はい、お気をつけて」
その後姿が見えなくなるまで、白蓮は手を振っていた。
そして、見えなくなってから、微笑を崩して、振っていた手を下ろし、じっと見る。
再び視線を命蓮寺遺跡へと向けると、彼女は小さく呟いた。
「ええ、きっとあなたが行かなければならないのですよ。星」
遺跡と化した命蓮寺の中は、奇妙なごった煮感に包まれていた。
元々の命蓮寺のつくりを思わせる木造の部分もあれば、ネジが持ち込んだ概念であろう石造りの壁もある。
建物をつぎはぎしたような、不思議さがあった。
「部屋があるな……」
「どうやら、つながりとしては元の命蓮寺のつくりを色濃く残しているようだ。恐らく迷うことはないだろうよ。ねえご主人様」
「え、ええ。そうですね」
ナズーリンの振りに歯切れ悪く答える星。
その様子を見て、魔理沙が茶化す。
「なんだなんだ寅丸さん? もしかして命蓮寺で迷ったことがあるとか?」
「ば、馬鹿にしないでくださいっ!」
「そうだよねご主人様。いまだに厠が自分の部屋から出て右だったか左だったかちょっと悩むようなことはないよね」
「ナ、ナズー!? え、ええ、そうです。ありませんとも」
「へえ」
「その半笑いやめてくださいよ! めっちゃ殴り飛ばしたい!」
魔理沙熟練の半笑いに、いかな毘沙門天の代理といえども拳を震わせてしまう。
「まぁ星の残念なところは置いておいてだ。大体のつくりが元の命蓮寺のままってことは、どこを目指せばいいのかわかるのか?」
「まずは船長の部屋だね。船長を見つけるのが第一目的だし、そのあたりから何らかの宝の反応もある。何かがあるかもしれない」
「よし、なら決まりだな。案内してくれ」
「わかっているさ。だが……」
ナズーリンは歩みを止め、ぐるりとあたりを見回した。
自慢のディテクターを今一度かざす。
「どうしたのですか。ナズーリン」
星が心配げに問いかける。
「うん、奇妙だ。いくらなんでもノイズが多すぎる。船長の部屋のようにでかい反応はわかるんだが……」
「が?」
「小さな反応が多すぎるんだ。反応だけを見るとまるで今も宝の山にいるようなんだが、その実体はない。わけがわからんね」
澄ました表情のまま、ナズーリンは首をかしげた。
「どういうことなんだぜ?」
つられて、魔理沙も首をかしげる。
「だからわからないんだ。ぬえが怖がっていたのもこういうことかもしれないね。とにかく、ここには事実として色んなものがある、らしい。でもそれを上手く捉えることはできなくて、船長の部屋にあるのも宝だと断言することもできない。本当にヘンだ。ちょっと信じられないくらいヘンだよ」
「ど、どんな?」
神妙に言うナズーリンに、星が尋ねる。
「一輪車に乗ってバックしながら砲丸投げする妖精みたいな」
「なんですかそれ!?」
「たとえばだけど……」
「そ、そうですよね、あーうわっ!?」
星の足元に、突如鉄球がズゥンと重い音を立てて落ちてくる。
何事かと全員が見上げると、そこには……
「あたいったら最強ね!」
からからからからから……
「あたいったら最強ね!」
「ちょ! チルノ! どこに行くの!? 待って! 待ってったら!」
からからからからから……
「……たとえばだけど」
「ち、違う! 今のは現実だ!」
「ホントに一輪車で砲丸投げの妖精でした!」
確かに、空中に渡されたロープの上で、一輪車に乗って砲丸投げをしながら妖精が通り過ぎていき、ついでに友達の橋姫が慌ててそれを追いかけていった。
「なんの! こっちは一輪とげんこつスマッシュする時代親父ですぞー! と雲山が言っています」
「そうですね」
「いいから外回りしてなよ」
「くすん」
一輪と雲山はしょんぼりと窓から出て行った。
「単なる偶然……と捉えることもできるが、あの妖精が出てきた瞬間に、確かに反応がこのあたりに凝縮された。リクエストに答えた、ということになるのだろう。……何か、この塔の主のようなものがいるのかもしれない」
「塔の主……ですか」
「そいつを倒せばクリアーってわけなのか?」
腕を頭の後ろに組んで歩きながら、魔理沙が問う。
「いや……戦うことになったとしたら、かなう相手じゃなさそうだ。この反応が魔力の規模だとしたら桁違いだし、弾幕勝負に持ち込める相手とも思えない」
「むう、厄介だな」
魔理沙が唸ったところに。
「あー! 侵入者ー!」
どこかで……というかさっき聞いた声が響く。
「さっき見たのは気のせいじゃなかったのね!」
「なんだ、チルノじゃないか。戻ってきたのか?」
さっき砲丸投げをしていた妖精――チルノが行く手をふさぐ。
「こんなところにはお宝があるってのがジョーシキよっ、みんな最強のあたいがいただいちゃうんだから!」
そうしてチルノは笑いながらふんぞり返る。
「聖は止められなかったのでしょうか……」
「うーん、さっきの呟きのせいで、塔の魔力に招きいれられた存在なのかもしれないね」
「ともかく、片付けないとな」
魔理沙が呟くと、星が一歩前に出た。
「ここは私がお相手しましょう。たまには体を動かさなくては」
そうして、星はスペルカードを取り出す。
――光符『インフィニットジャスティス』!
…………
……
…
「光符……インフィニットジャスティス?」
「ま……間違えました」
星は顔を赤くした。
正しくは光符『アブソリュートジャスティス』である。
「心外ね。そんな馬鹿なことでこのあたいに立ち向かおうなんて」
「あなたに言われたくありませんよ!」
その時だった。
ゴゴゴゴゴゴ……
「ん? 何の音?」
外から威圧感と共に重低音が響いてきて、みんなは窓の外を見、唖然としました。
インフィニットジャスティスでした。
全高18.90m、重量79.67t。
まごう事なきインフィニットジャスティスガンダムでした。
「な、なな……なんでこんな巨大ロボットが!?」
「うひゃー! かっくいー! ってあれ? なんかストレートパンチの構えをしてるような……?」
チルノがぱたぱたと羽を震わせて興奮したものの、インフィニットジャスティスの雰囲気にぴたりと動きを止める。
そして、ロボットが動いた。
「ぬ、ぬわーーーーーーー!」
当たったのかかすったのか、どちらにせよ相当な衝撃がその場を襲い、チルノは通路の奥深くへと吹っ飛ばされていった。
「チルノ! どこに……!」
「ぱるすぃ~~~~~~~~~~」
「チルノぉぉぉぉぉぉぉ!!」
遠くに橋姫の声が響く中、気づけばインフィニットジャスティスは影も形もなく消え去っていた。
「……あれが光符『インフィニットジャスティス』」
「ち、違います!」
「間違いないね。言ったことが悪ふざけで具体化されていく……たしかに正体不明のとんでもないお宝だよ。何にでもなれるんだから」
「塔の主……恐ろしい奴だな」
「力の源は命蓮寺にあった聖と飛倉の力なのでしょうが……」
一時的とはいえ巨大ロボの具現をも可能にするその無茶苦茶な力に魔理沙たちは辟易した。
「まぁ、なおさらまともに相手をしてやるわけにはいかなくなったということだね」
ナズーリンの言葉に、星も頷く。
「手早く村紗の部屋に急ぎましょう」
「おう!」
そうして、一行は村紗の部屋の方角へと急いだ……。
「ついたよ」
「早いな。ここでは解決しない予感がビンビンするぜ」
「う、後ろ向きな発言はやめましょうよ……」
繋がり自体はあまり変わっていないものの、縦に伸びているのは確かなため、だいぶ上がってくる事になってしまった。
「でもその間、塔の主が特に何もしてこなかったことが気になるといえば気になる」
「魔理沙、しゃべり過ぎは命に関わるよ」
「おっと、すまん」
ナズーリンに指摘され、魔理沙はバツが悪そうにスッと帽子を深くかぶった。
「村紗、無事ですか? いますか? 返事をしてください、村紗!」
星が戸をたたくも、中から返事はない。
「失礼するよ……っと」
ナズーリンが戸を開けようとするも、びくともしない。
「……強行突破やむなし、かな。頼むよご主人」
「仕方ありませんね……許してくださいよ村紗」
星は元は力で鳴る虎の妖怪。開かない戸の一つや二つ物の数ではないだろう。
「ふんっ!」
気合の唸りと共に、ガコンと音を立てて、戸はあっけなくはずれる。
と共に、村紗の部屋から水の奔流が、まさに堰を切ったかのようにあふれ出してきた。
「う、うわわわ!?」
「なんですかこれは!?」
「ペロッ……これは海水!?」
流される中、ナズーリンがその水が塩辛いことに驚いた。なんでこんな高い場所にある部屋の中から、しかも海水が溢れ出てくるのか。
「いけない! 流されてしまいます!」
「激流に身を任せ同化する……!」
「同化してる場合ですかー!」
こうして、魔理沙たちは流されていった。
「う、う~ん……」
少し気を失っていたらしい。
意識が覚醒していく感覚に、そんな冷静な考えを浮かべつつ、魔理沙は身を起こす。
「うー、よかったぜ。水の底じゃない……」
あれだけの量の海水に押し流されたのだから、最悪そういうこともありえたかもしれない。だが、そういうことはなかった。
「光り輝く水底のトラウマってレベルじゃねーからなぁ」
しかし、服に濡れた感覚すら残ってないのは少し引っかかることではあった。
「幻か何かだったって……事かね? 夢オチだとは思わないが……星が寝てるし」
傍らに星がうつぶせに倒れていた。だがナズーリンの姿は見えない。
「流されてはぐれたか……。早く探しに行かないとな。おーい、星ー、起きろー」
星の背中をぽんぽんとはたくと、星ははっと目を開けた。
「あいたたた……ここはどこですか」
「それはこっちが聞きたいんだぜ」
魔理沙たちがいる場所は、畳張りの部屋だった。
机の上に巻物が積まれているくらいで特に目立つようなものも置かれていないが、誰かの私室であろうと類推できるくらいには生活感が漂っている。
「え……あれ、やだ。ここ私の部屋じゃないですか」
「ほう、そうなのか。なんもないな」
「ほっといてください」
魔理沙の率直な感想に、星は頬を膨らませてぷいと顔を背けてみせた。
「だって趣味の一つも感じられない部屋だし……。長生きしてるやつは趣味の一つも持ってないとやってられないってよく言うんだけどな」
「聖に尽くし、その救いを広めることが私の喜びです。そういう意味ではそれが私の趣味なのでしょうね」
「ふぅん……」
それ以上押すことが出来ず、魔理沙は口をつぐんだ。
改めて思った。星を初めとして、命蓮寺のメンバーは白蓮の影響が大きすぎる。
――まぁ、今のご主人様には白蓮殿もいるし、一輪や……ムラサ船長もいる。寂しいことはないだろう
ふと、朝のナズーリンの言葉を思い出す。どこか、命蓮寺のメンバーから一歩引いたような、物言いだった。
(……居心地が悪かったんだろうな。ナズーリンにとって)
ナズーリンの態度からは、白蓮への尊敬こそあれ、信仰と言えるほどのものは伺えなかった。
周りとの温度差に悩む場面も多かっただろう。
だから、ナズーリンは自分とつるむようになったのだろう。命蓮寺の外の存在である、自分に。
「って、ナズーリンは、ナズーリンはどこですか!?」
「いなかった。どうもはぐれたようだな……」
「ええ!? さ、探しにいかないと。……まぁナズーリンの気がついているのなら、向こうがこちらを探し当てるほうが先かもしれませんが……」
「どっちにしろ、ナズーリンがいなきゃ探し物どころじゃないだろ? 案内してくれ。しらみつぶしに行こう」
「はい……」
そうして魔理沙たちが腰を上げた一方で、ナズーリンはというと。
「うーん、どこだろうここは。記憶にない部屋だね。ネジの力で新たに付け足された部分だろうか?」
しげしげと石造りの、まるで地下室のような部屋を眺める。
「塔のような場所にいたんだから、地下室まで流されるということはないと思うが……。一応光もどこからか射しているし。部屋に囲まれた、塔の中央部分だろうか?」
そして、後ろに向き直る。
「いやしかし、君達と一緒に流れ着くとは思わなかった」
「あ、あははは……」
「うーん……だいだらぼっちがぁ、だいだらぼっちがぁ……」
ぺたんと座る橋姫、水橋パルスィと、彼女の膝でうなされている氷精、チルノ。
塔に入ってから何かとよく会う二人組である。
「しかし珍しいね。妖怪と妖精が連れ立ってるなんて」
ナズーリンは率直に感想を漏らす。自分も人間とつるんでいるのだからあまり人のことは言えないかもしれないが、それでも妖精とつるんでいるのは珍しかったのだ。
「まぁ、そうかもね」
パルスィが苦笑する。
ただ、困ったときの笑いではない。どこか満足そうな苦笑だった。
「色々あった……としか形容できないんだけど。まぁ縁は異なもの味なものってね。面白いものだわ」
「縁は異なものっていうのは男女の縁をいった言葉だよ?」
ナズーリンの指摘に、パルスィの顔がさっと朱に染まる。
「そそそ、それは言葉のあやよ! それに……」
「うにゃー、ぱるすぃ~♪」
寝ぼけているのか、チルノがパルスィの膝に頬をこすりつける。
「……まったくもう、チルノったら」
困ったような言い草をしつつ、パルスィは顔をほころばせてチルノの頭をさらさらと撫ぜた。
「……それに、なんだい?」
「あ、あなた、ちょっと私達に嫉妬したでしょ」
「ななななにを」
無表情を装ったが、ナズーリンの声が震える。
……幸せそうだな、と思ってしまったことは、事実であるのだけれど。
「まずは質問に答えるわ。私は嫉妬を司る妖怪、水橋パルスィ。嫉妬深くて、愛しい者を独り占めしたくなる……その点では、友達だろうが恋人だろうが、私にとって変わらないものよ」
「……」
ナズーリンは驚いた。
ともすれば恐ろしいことを言っているはずだのに、まるで聖のような優しい表情を浮かべる。
「そして、私は言ったとおり嫉妬の妖怪。周りの嫉妬を煽ってしまいもするし、嫉妬の気くらいすぐにわかるわ」
「……なるほどね」
この嫉妬マイスターを相手に言い逃れようとするのは、無意味なのだろう。
せいぜいこの感情を目の前の妖怪のせいにしておくのが関の山だ。
(だけど、いいなぁ……)
でも、チルノとパルスィの表情を見ていると、やっぱり思ってしまう。
(私も……いやいや、何を考えているんだ。……でもなぁ……)
なんてナズーリンが頭の中で考えていると。
「ここからは、なかなかに強い嫉妬の気が感じられるわ」
パルスィが見上げながら、言った。
「……え?」
「思えば、私も釣られたのかもしれない。この塔に漂う、嫉妬の気に」
魔理沙と星は困っていた。
会話が続かないのである。
「この部屋にもいなかったな……」
「そうですね……」
「……」
「……」
「この部屋にもいなかったな……」
「そうですね……」
「……」
「……」
「この部屋にも」
「無限ループって怖くないですか」
「まじこわい」
元々ナズーリンを接点として繋がっていた二人である。
聖輦船の一件で直接に知り合っているとはいえ、どうしてもナズーリンフィルターがかかってしまい友人の上司、部下の友人として見えてしまう。
微妙な距離感である。
さらにいえば、ノリのいい魔理沙と丁寧で生真面目な星では元々あまり噛み合わないのであった。
どう話を振ったものかと魔理沙が思案していると。
「そういえば、こうして二人で話すのは、法界で初めて会ったとき以来ですかね」
星の方から、会話を切り出してきた。
「そうだな……あの後は白蓮や……ナズーリンが一緒にいたからな」
こつこつと歩を進めながら、返す。
「はは、そうですね。……ナズーリンがいつもお世話になっているみたいですね。ありがとうございます」
「いや……礼を言われるほどのことじゃないぜ」
ただ仲良くなって、仲良くなったから当たり前に遊びに行っているだけの話。
まだ、あまり連れまわさないでくれと言われたほうが自然だ。
「あの子はあまり個人的なことは表に出さないのですけれど、あなたのことはたまに言ってくるんですよ。それに、以前に比べて生き生きしているような感じがしますし」
「へへ、そっか」
自分が見られないナズーリンを、自分が一緒にいないときの彼女の様子を聞くことが出来て、魔理沙はちょっとうれしくなった。
「そう、自分の見られない、表情」
同じ言葉に、対照的なニュアンスが混ざる。
「星?」
「いえ……私も一応、ナズーリンのことを気にかけていました。ですが、どうにもうまくいかず、逆に気を使わせてしまう始末で……」
ふぅ、とため息のようなものを吐いて、続ける。
「ちょっと、うらやましく思いました。ナズーリンに、あんな幸せそうな顔をさせた、あなたを」
かつん、と。魔理沙の足が止まった。
慌てて、星も立ち止まる。
「星、お前……ナズーリンの何になりたかったんだ?」
「え?」
さっと、瞳を見て言われた一言に、星は反射的に疑問符を口に出した。
「言ったまんまの意味だ。いい上司でありたかったのか、友人でありたかったのか、親になりたかったのか、それとも――」
「いえ――そんなことを、考えたことは」
「そうか」
魔理沙は少し目を閉じ、そしてもう一度星を見つめる。
「なら気にするこたぁない。あんたには最初からナズーリンを幸せにすることは出来なかったんだ」
魔理沙の言葉に、星は呆けたような表情を浮かべる。
そして、すぐに眉を上げて詰問した。
「どういう、意味ですか」
その剣幕に、魔理沙は焦って両手を挙げる。
「いや……別に喧嘩を売ったつもりはないんだ。……ただ、はっきりとは言わせてもらう。あんたがナズーリンに対しての立ち位置を真剣に考えたことがないなら、それはナズーリンに対してちゃんと向かい合ったことがないってことだ。それじゃあいつは幸せに出来んよ」
「私が……ナズーリンに、ちゃんと向かい合ったことがない?」
「まぁ、あんたなりに考えたことは数え切れないほどあるんだろう。ただ、立ち位置が定まらんままでは、何をやっても空回りでしかない。……私は、そう思うんだが」
毘沙門天に帰依しているとはいえ、星は猛獣の代名詞とも言える虎の妖怪。さすがに迫力がある。
だが、星は考える。口で食むよりも先に、頭でしっかりと咀嚼する。
「……ナズーリンとの付き合いは、長かった」
魔理沙も言い切ったのは、信じていたからだ。
星を。ナズーリンのご主人を。
「ですが、確かにあなたの言うとおりかもしれません。私はナズーリンの何であるかと問われると、主であるという以外には、適当な言葉がないような気がします。ただ、近くにいる存在だった」
星もまた、目を瞑り、過去を思い返す。
「……しかし、それでは駄目なのでしょうか? ただ近くに、当たり前にいる存在では」
そして目を開き、疑問をぶつける。
星も、かつて白蓮が封印される以前からの自分とナズーリンの付き合いを、ナズーリンと知り合ってわずかの時間しか経っていない小娘にむざむざ否定されるわけにはいかなかったのだ。
「駄目とは言わん。そういう関係が成り立つ場合もあるだろう。……だけどな。お前のその席は、いつだって他の誰かが予約済みだったんだよ」
「え……」
「大体は白蓮だろう。時には村紗や一輪だったかもしれん。ナズーリンにとっては、自分よりもあいつらの方が、お前に近いって感じてたんだ。……言えるか? 何をおいても、自分にとってナズーリンが一番だって」
「……いえ、言えません」
肯定するしかない。
村紗や一輪、そして白蓮を差し置いて、ナズーリンが一番だと、決して言うことは出来ないだろう。
「でも、あいつは自分を一番に考えてくれる存在が欲しかったんだ。……だからお前には、多くの存在を救おうとする白蓮を慕うお前には、決してナズーリンを幸せには出来ない」
「……」
言いようもない無力感を感じ、星は項垂れた。
こんなに長い間一緒にいながら、すぐ近くにいると思っていた存在も、救えていなかったのだ。
「あー、落ち込まんでくれ。別に私はあんたを責めてるわけじゃない。ただそういう役割にあんたがいなかったと言ってるだけだぜ」
落ち込む星を見て魔理沙が少しあわてる。
「その、つまり、あれだ。ナズーの『一番近くにいる存在』は、私がもらう!」
「ほ、ほう!?」
「だ、だから、あんたは新しい、自分とナズーの関係を考えてやってくれないか」
魔理沙の言葉に、星は止まり、しばらく表情の変化のないまま二人、見つめ合う。
そして、にわかに星が笑い出した。
「……ふふ、なんか今、『娘さんをください』って言われた親の気持ちになりました」
「え、うぇえ?」
「いえ、私がそう思っただけなので……そうですね。一番近い存在は盗まれてしまいましたし……しばらくはナズーリンの親でも目指してみましょうか」
「おいおい、仕事人間が親なんて出来るのか?」
「なぁに、胸を張って娘はやらんって言えるレベルを目指しますよ」
「おおっと、怖い怖い」
にこりと笑いかける星に、魔理沙は肩をすくめる。
そのやり取りに、当初のぎこちなさはない。なんだか、ナズーリンを通して、分かり合えた気がした。
「青・春! ストライ~~ク!!」
「うおぉ!?」
傍の窓から二人の間に割り込むように、いきなり猫のような謎の生物が顔を突き出してきて、二人は驚きのあまり盆踊りの途中みたいなポーズで固まる。
そして、あっけに取られている間に、その口から大量の水が洪水の如く湧き出し始めた。
「ま・た・水・攻・め・か!」
「くっ、魔理沙さん……!」
「駄目だ、水圧で手が届かん!」
なんとかはぐれないように手をつなごうと試みるも、恐ろしい勢いで流れ出る水に阻まれてしまう。
「くっそぉ……これ以上はぐれたらまずい。こうなったら、気がついたらてっぺんで落ち合おう! そこなら絶対にわかるだろ!」
「わ、わかりました! お気をつけて!」
「げ、激流に身を任せ……!」
「同化する……!」
今度は息もぴったりに、別々の方向へ流されていった。
一方、ナズーリンサイド。
「いやぁ、こんなところだとなんか岩とかがごろごろ転がってくる罠とかありそうだよね!」
起きたチルノが、ふとそんなことを言ったのがいけなかった。
ごーろごーろごーろごーろ
「いやはや、まさか本当に転がってくるとはね」
塔の主の存在を甘く見てはいけなかったのだ。
「何こんな状況でシニカルに笑ってんのよ!」
一緒に飛んで逃げながら、パルスィがツッコミを放つ。
通路は何か空間操作でも受けてるのかと思うほど飛んでも飛んでも一本道で、避ける場所もない。
「だいたいあたいがなんでこんなのから逃げないといけないのよ!」
「おーけー、主に君のせいだ」
「そういうことじゃないわよ!」
チルノが叫んで、にわかに反転、大岩に向き合う。
「最強のあたいがなんでこんなのからわざわざ逃げなきゃいけないのかってこと!」
――凍符『パーフェクトフリーズ』
妖精としては強大に過ぎる冷気が岩の周りを席巻する。
そして見る見るうちに岩を氷でコーティングし、地面と繋げて岩の動きを押し留めていく。
「おおっ!?」
パルスィは驚く。が。
ぼきっと鈍い音がして、岩は平然と何事もなかったかのように転がり始めた。
「だめだー!」
「しかも氷が付いた分直径が増えてスピードが増している」
「よりだめだー!」
「しかし待てよ? このまま直径を増やし続ければ、周りの壁につかえさせて止めることができるんじゃないだろうか?」
「そ、そうか! チルノ! もう一回パーフェクトフリーズよ!」
「つかれた」
「おいィ!」
「だめだこりゃあ」
そんな寸劇を挟みつつ、逃げ続けていると……。
「壁が見えるよ!」
「ええ!? 行き止まり」
パルスィが驚き、ナズーリンがさらによく目を凝らす。
「いや、左右に道が分かれてるようだ」
「よっしゃー! とびこめー!」
間一髪、脇の通路に滑り込む。瞬間に、うしろで重い衝撃音がした。
「ふー、危なかった。ってあれ?」
ナズーリンはとっさに右の通路に飛び込んだが、一緒に逃げていたチルノとパルスィの姿がない。
「左の通路に逃げたのか? おーい、チルノ、パルスィー?」
後ろを向き、完全に通路を塞いでいる岩越しに呼びかける。だが返事はない。
「どうしたんだ? ディテクター……にも反応はない? どういうことだ?」
忽然と消えたチルノとパルスィの気配。
騒がしかったのが急に消え、ふと襲ってくる、寂しさ。
「やれやれ、どうにも最近騒がしいのに慣れていたようだよ。……元々、騒がしいタチじゃないのにさ」
岩が放つ冷え冷えとした冷気を背負い、ナズーリンはため息をつく。
「あぁ、忘れてた」
そんな、面白みのない自分を。
なぜなら、あの人間がいたから。あの人間がいたから……。
私は、冷笑的にでなく、本当に笑っていられた。
「魔理沙……」
足りないものを満たしたい、そんな当たり前の流れで……いつのまにか魔理沙を、求めていた。
ナズーリンはディテクターをかざした。探すのだ。自分にとって一番の、宝物を。
だが。
「ない。何も……ない」
あれだけ無駄にひしめき合っていた正体不明の反応が、消えている。
何の反応もない。
チルノとパルスィどころの騒ぎではなかったのだ。
いつの間にか光がなくなっている。後ろに凍った岩があるのかすら分からない。
もしかしたら。
もしかしたら消えたのは。
(――私?)
嫌な考えに、背筋がぞくりとする。
どこに立っているのかすらおぼつかない。怖い。
慣れたはずの闇が。そこで生きていたはずの闇が。
光が……欲しい。
「魔理沙……魔理沙っ」
願いを込めて、その名を呼ぶ。
自分に差し込んだ、一筋の光を。
「マスタァー……スパーク!」
一筋と言うにはやや太すぎる光明が、闇を切り裂く。
がらがらと壁が崩れるように闇が欠けていくその向こうから。
「ナズー! 呼んだかっ!?」
慌てたように飛び込んでくる魔理沙の顔を見て。
「魔理沙ー!」
「わわっ!?」
ナズーリンは魔理沙の胸に飛び込んでいた。
「ど、どうしたんだナズー。そんなに怖い目にあったのか?」
魔理沙は驚いて尻餅をつきながらも、ナズーリンをしっかり受け止めて、優しく頭を撫ぜる。
「怖いっていうか、不安な目、かな」
今一度、確認するようにナズーリンは顔を離し、魔理沙の瞳を見つめる。そして、再びぽふんと魔理沙の胸に顔をうずめた。
ふと思い出す。
チルノが幸せそうにパルスィに甘えていた様子を。
そして、この際だからやってみようという、常ならば決して浮かばないであろう発想が、頭に浮かんだ。
「魔理沙っ、魔理沙っ」
抱きしめるようにして、名前を呼ぶ。
なんだか、安心できたような気がした。
一方、魔理沙もわけがわからないなりに、現実をそのまま受け止める。
(か、かわいい……)
双方しあわせな時間が、そこにだけ流れていた。
*
「星、星……寝てしまったの? 風邪引きますよ?」
寅丸星は、体を揺すられて、目を開ける。
そして驚いた。そこは屋内ではない。ぬけるような青空が広がっていた。
「あ、あれ……ここは」
「まったくもう、私との約束があるのに、修行だなんだって夜更かしするからです!」
そうして、傍らで騒いでいるのが誰なのかを確認して、星は跳ね起きた。
「村紗!?」
「みなみつ!」
今塔の中を探し回っている、村紗水蜜だったからだ。
そんな村紗は、星の言葉に対して、自分の名前を付きつけた。
「……え?」
「水蜜って呼んでって言ったでしょう! 聖はともかくとして、一輪とかは名前で呼ぶのに何で私だけ苗字なのよ~」
「いや、そのほうが語呂が良くて、つい……」
「むぅ……」
星の言い訳に、水蜜は頬を膨らました。
「……それにしても、ここはどこですか?」
目の前に広がるのは、海。
塔の中でなければ、幻想郷ですらない。
「うう、どうしよう……星が修行のし過ぎで頭がやられちゃった……」
「いやいやいや!? 何を失敬な」
「だって、聖輦船の操舵の練習に付き合ってって約束してここまで来たのに……もう忘れちゃうなんて……あんまりにもあんまりですよう……」
水蜜がうるうると涙を浮かべる。
海……? 聖輦船の練習……?
星は考えをめぐらせ、そして思い当たる。
これは、過去の記憶。昔々、聖が封印される前。星と水蜜が仲良くなった頃のお話だ。
(幻覚? ……いや、夢か?)
どちらかではあるのだろう。いずれにせよ、そのときの記憶を追体験しているという事実には間違いない。
「いや……すみませんでした。ちょっと夢を見ていたもので、それとごっちゃになってしまって……」
夢で現実のことを夢と称す。なんとも滑稽なことである。
本当に逆転してしまわなければ良いのだが。
「そうなの? よっぽど現実感のある夢を見たんだねー。どんな夢?」
「……迷子になったあなたを、必死こいて探す夢ですよ」
「はうう! 星は心の奥深くで私のことをそんな風に思ってたんだ……」
表情と身振りで、水蜜はショックを体現する。
「はは……今日の練習でも、気合を入れすぎて知らないところまで行っちゃわないようにしてくださいね」
「もう! 子どもじゃあるまいし変な心配しないでください!」
――そう。こんなことがあった。
乗っていた舟の転覆により亡くなり、舟幽霊となった村紗水蜜。白蓮により舟を与えられたことにより、海に縛り付けられることはなくなった。
水蜜は白蓮に感謝し、信仰を捧げるようになった。
舟に白蓮を乗せることを誇りに思い、その舟に聖輦船と名前をつけた。
だが、舟に縁深い舟幽霊とはいえ、元はただの乗客。舟を乗りこなすには要・練習であった。
さすがに練習で空を飛んでたんじゃ目立って仕方がないので、普通に海で特訓をすることになった。水蜜曰く、呪縛さえなければ海は愛すべき故郷、らしいので。
暇を見つけては繰り返していた航海の特訓。いつの頃からか、水蜜はそれに星を付き合わせるようになっていった。
特訓の結果? 聖輦船に自動操縦機能がついたことからお察しください。
「ほらほら、乗って乗って!」
「せかさないでくださいよ……」
水蜜に背中を押され、星は慌てて乗船する。
「さぁ、行きますよっ! 呪われてない大海原えー!」
「大海原までは行かんでくださいね? マジで帰れなくなったら困りものですので」
「むー、出航宣言くらい景気良くさせてくださいよー」
懐かしい。
星は遠い思い出に浸る。
結局このときは、調子に乗った水蜜のせいで帰るのがずいぶん遅くなったものだ。
「あははは! 見て見て! 満天の星空ですよっ!」
「ああ……そうですねえ……。ちょっと私だけ先に飛んで帰っちゃってもいいですかねえ……」
「そんなつれないこと言わないで~。ほら、甲板にねっころがると壮観ですよ~」
隣に来いとばかりにバンバンと床を叩く水蜜にため息をついて、星はどっかりと腰を下ろす。
「はぁ……」
今頃心配してるだろうなぁ。ナズーリンとか飛び回ってるだろうなぁ。
胃を痛くしながら、せめてもの慰めに星空を見上げる。
「……ごめんね、星。こんなとこまで付き合わせちゃって」
ころんと背を向けながら、水蜜が謝罪の言葉を口にする。
「別に……謝ることではありませんよ」
なんだか毒気を抜かれて、星は優しい声をかける。
「でも、その、私ずっと、星に迷惑とかかけてしまってて……」
ふぅ、と星はため息をつく。
「だから、ですよ」
「え?」
普段勢いがいいくせに、すぐに転んで泣き出す。
子供じゃあるまいしといったって、村紗水蜜、あなたはまだまだ子供だと――
「私は突っ走るあなたに、わざわざ付き合ってあげているのですよ?」
つん、と言葉を叩きつける。
水蜜の背中が震えるのが見て取れた。
「だから、あなたが私に言うべき言葉は、『ありがとう』です」
謝罪なんていうよそよそしいものを、星は求めていない。
水蜜は、仲間なのだから。
「……星」
ごろりと、水蜜が星の方へと向き直る。
「私、うれしいです。星が私のわがままに付き合ってくれて。そしてこうして、一緒に星空を見上げることが出来て」
水蜜は、星が提示した言葉からしっかりと、自分なりの形にしようとしていた。
「だから……ありがとう。星。一緒にいてくれて」
一生懸命なそんな舟幽霊が、星には好ましかったのだ。
*
「……! 今一度船長の部屋を目指そう、魔理沙! 反応があの部屋に集まりつつある!」
完全に落ち着いたナズーリンが、照れ隠しも含めて大きな声で言った。
「おいおい、またあの部屋か? また流されるだけなんじゃないのか?」
「そうかもしれないね……だが初めてじゃないんだ。対策くらいは立てられる」
「……そうだな。どうせ行くしかないんだ。ようし、塔の主がなんだ。私らの底力、見せてやろうぜ!」
「おうともさ!」
魔理沙とナズーリンはがっしと手を組んだ後、勢い良く走り出した。
そして曲がり角から食パンをくわえて飛び出してきたチルノとパルスィに激突した。
「あいたぁー!?」
「何やってんだお前ら!?」
チルノとごっつんこしたナズーリンが両手で頭を抑えて転がり、パルスィとごっつんこした魔理沙も右手で頭を摩りつつ、現状にツッコミを入れる。
一方、パルスィとチルノも頭を抑えながら反論した。
「私だって聞きたいわよ! いつの間にかこんなことになってて……!」
「そうよ! あたいだって好きで食パンくわえてるんじゃないわ! どうせならおはぎがよかったわよ!」
「お前は何を言っているんだ!?」
そして、またチルノの発言がいけなかった。
「うええええええ!? 巨大なおはぎが転がってくるよ!?」
「ふん、おはぎごときあたいの敵じゃないわ!」
「いやいやいや! チルノが凍らせたらおはぎの殺傷力上がるからやめて! 死因:冷凍おはぎなんてイヤよ!?」
「ええーい! こうなりゃ強行突破だ! 彗星『ブレイジングスター』っ!」
魔理沙が箒で特攻し、転がってきたおはぎを粉砕する。
「うおー! あんこがべちゃべちゃするんだぜ!」
「魔理沙に続いて早く船長の部屋に急ぐよ! もうあんまり猶予がない!」
「うめえ」
「食っとる場合かーっ!」
「星? 星? 大丈夫ですか? 星?」
「……はっ」
いつの間にか、目が覚めていた。
「うーん……」
上半身を起こし、顔を振って意識をハッキリさせる。
「……ここは」
「聖輦船ですよー」
「聖輦……っ!?」
星は再び、何気なく会話していたその声に驚いた。
「村紗!?」
「みなみつっ!」
何か既視感のあるやりとりを交わす。
目を覚ました星の傍らにいたのは、やはり村紗水蜜だったのである。
(まだ、夢の中なのでしょうか……)
あたりを見渡しても、なんということもない船室で、情報が汲み取れない。
どういうことなのだろう。夢中夢なのだろうか。それとも、すべては塔の見せる幻のなせる業なのか。
「いやー、びっくりしましたよー。航行してたら、いきなり星が流れてくるんだから」
「はい?」
慌てて立ち上がって船室の窓から外をうかがうと、そこは海だった。
そして空は星空だった。
(……私に海を流れた記憶は、ない)
つまり、これは先ほどまでの記憶の追体験とは、また違うものであるらしい。
それだけは、わかる。
「もうすぐ空に上がろうと思ってたんだ。それで一人で行くのも寂しいなって、星でも流れてこないかなーと思ったら、ホントに流れてちゃったのですよ」
「何物騒なこと願ってんですか……」
水蜜の物言いに、星は額に指を当ててうなる。
(……いや待て、本当だとしたら不自然だぞ?)
それは自分の服がいつもどおりであることと、それでいてまったく濡れていないこと。さすがに夢でも、海に漂っていたのならそんなことにはなっていないはず。
思い出されるのは、最初に水に流されたはずなのに、何も濡れていなかった最初の時。
(今度は『幻』の方か?)
だとしたら目の前の村紗水蜜は何なのか。本物か、幻か。
「ねえ星」
「……何ですか、水蜜」
考え込んで窓辺に立ち尽くしていた星に、水蜜が声をかける。
「昔を思い出すね」
星は振り返った。
思い出すも何も――さっき夢で体験したばかりであるのだが。
「……そうですね。思えばあなたもあの時から、あんまり変わっていないような気がします」
「それ、どういう意味?」
にこりと、わずかばかりの殺気を込めて微笑んでくる。
星はそれには不敵な笑いで返礼しておいた。
しばらく、奇妙な空気が二人の間を流れる。
「……星」
「なんですか」
ふと、水蜜が星を呼ぶ。
「あなたはかわったね」
「そう……ですか?」
言われて、星は戸惑う。
自分もまた、あのときのままと……いえ、聖の封印を解き、あのときの姿を取り戻せたのだと、思っていた。そういう意味も込めての『変わらない』だったのに。
「私が思い出しているのはもっともっと昔ですよ。星」
「もっともっと、昔?」
「そう、あなたが毘沙門天に弟子入りするよりも、昔」
聖白蓮は、毘沙門天を召喚する代わりに、星を弟子入りさせて代理とした。
星が寺のある山ではもっとも信頼された妖怪だったから。
「……それはまた、昔ですね」
「うん、ホントに昔。……今でも鮮明に思い出せるんです。聖のお寺に来た私に色々と世話を焼いてくれた、虎の妖怪のこと」
すぅ、と水蜜は目を閉じた。
「聖は、私を助けてくれた恩人だけど、その妖怪は私にもっと近い……まるでお姉さんみたいな存在でした」
水蜜の言葉に、星は何か照れくさくて顔を赤くした。
「……でも、その妖怪はだんだんと、私の手の届かないところへ行ってしまう。まずは毘沙門天のところへ……そしてやっと帰ってきたと思ったら、その傍らにはナズーリンがいた」
「……水蜜」
星は自分の頬から、熱さが消えたのがわかった。
「えへへ、こんなことを言うと怒られちゃうかもしれないけれど、私が星をよく特訓に連れ出してたのって、邪魔するためだったんですよ? 修行とか、ナズーリンとかを。……少しでも、星が私から離れていかないように」
ぱちりと水蜜が目を開ける。
暗き水底のような色をたたえて。
「でも……結局あなたは遠いところに行ってしまった。私どころか、聖からすら、離れていってしまった」
「あれは……!」
白蓮が封印されたとき、星は人間の側に付いた。
彼女は毘沙門天の代理として、自分が妖怪であることを隠していなければならなかったから。
「わかってます。あなたは聖がそう望んだから、それを実行しただけ。星がいなければ聖の封印も解けなかったしね」
「なら……」
何故そんな目をするのか。星はそんな目を見ていたくはなかった。
明るく子供のように笑うのが、この舟幽霊の魅力なのに。
「寂しかったんですよ」
ぽつりとつぶやく。
「地底に封じられて、ずっと船の中。地底の川や湖を漂い続けて……本当にただの幽霊船のように」
とうとうと水蜜は、自分の感情を訴える。
「……恋しかったよ。恋しかったよ。一緒に星空を見上げた夜が。隣に星さえいてくれれば、千年の封印だってつらくないって……」
「……だから、私をここに?」
「!」
冷えた頭がはじき出す。ここは――地底だ。
『星空と私がある』、地底だ。
「これが、あなたが願った世界?」
呟きが具現化する塔の魔力。
水蜜はきっとそれに、囚われてしまったのだろう。
「そう。そうよ星。ナズーリンは盗られてしまったのでしょう? だから、私が隣で、私の隣で、一番近くで船旅を……していたい」
「――何を怯える、村紗水蜜」
水蜜はびくりと体を震わせた。水底のような瞳も、先ほどまでの力を失っている。
なぜなら、もっと恐るべき、虎の瞳で見つめられているから。
「しょ、星?」
「だからあなたは変わらない。どうでもいいところでは図々しいくせに、肝心なところになると途端に臆病になる。……昔っから子供だよ、あんたは」
毘沙門天の弟子になる前に、水蜜と、聖と出会う前に持っていた、虎としての荒ぶる気性、その片鱗。
曲がりなりにも自分のありのままを見せた水蜜へ、返礼として。
「言ったはずだ水蜜。言葉をごまかすな。私にありがとうを言ったあのときのように、今一番私に言うべき言葉を、そのままぶつけて見せろ!」
鋭い眼光と言葉を、手本とばかりに叩きつける。
「……星」
水蜜は、呆然と、しかしはっきりと、言葉に出す。
「好き……です。私は、あなたが大好きです……。ずっとずっと、あなたの隣にいたかった……あなたの隣に、いたいんです……」
その言葉を聞くと、星は静かに水蜜に近づき、抱きしめた。
「あ、しょ、星……」
「……ありがとう、水蜜。あなたは封印されている気の遠くなるような長い年月の間、その想いを持ち続けてくれたのですね。……どうしてその想いを無碍に出来ましょうか」
ナズーリンよりもずっと前から、ナズーリンよりもずっと近くにいた、いようとしてくれた。聖とも、一輪とも違う。ただ、私のためだけに。
それに気づかなかった、否、気づけなかった私の、なんと罪深いことだろう。
彼女らを裏切っても、水蜜は、自分を信じ続けていたのだ。
(魔理沙さん、ふふ、どうやら私も、選ばなければいけないようですよ)
いつもの優しい声色に戻って、そして微笑む。
「ありがとう水蜜。こんなにも私を想ってくれて」
「星……星っ……!」
水蜜はじわりと涙を溢れさせ、ひしと星を抱き返した。
星はそんな水蜜の髪を、さらさらと優しく撫でた。
「寂しい想いをさせてしまいましたね。もう、どこにも行きません。行きませんから……」
瞬間、景色が歪む。
幻想が、終わる。
「よーし、位置に付いたか!?」
水蜜の部屋の前に、魔理沙ら四名がスタンバっていた。
「何が出てきても勢いで突破するしかない。力を合わせて突貫だ!」
「あたいの最強なところ見せてやるわ!」
「私はオマケだけど……あれ? なんか景色が歪んで……?」
パルスィがその異変に気づいたときには、時既に遅し。
「つっこめーい!」
「おー!」
バキィィィ!
「うおー!?」
「うわー!?」
星と水蜜が抱き合ってるところに魔理沙たちがときの声をあげて突っ込んできたので、お互いに気まずさMAXになる以前に部屋の中がひどいことに。
「部屋がー! 私の部屋がー!」
「げ、元気出してください水蜜! 手伝ってあげますから!」
「星……」
「いったいなんなんだぜ」
バキバキのタンスから身を起こしつつ、魔理沙が首をかしげる。
「綺麗なお星様がみえるー」
「それは目が回ってるだけよチルノ」
「誰?」
水蜜が見知らぬ妖精と妖怪に首をかしげる中、同様にナズーリンも首をかしげる。
「はて……奇妙な気配が全部消えている……?」
「というか外が普通なんだぜ」
「……戻った?」
そこにいる全員が事態を飲み込めずに首をかしげていると。
「みんなー、無事だった?」
窓の外、普通に高いところとかそんなのでなく、見慣れた地面が広がるそこを、白蓮やぬえ、そして空から一輪たちもやってくる。
「聖! みんな!」
「まぁ、何がなんだかわからないけど……なんとかなったみたいだね」
「やれやれだぜ」
そうして、何がなんだかわからないうちに、命蓮寺遺跡化異変は幕を閉じたのである。
「やれやれ、今日はえらい目にあいましたよ」
「あら、そうでしたか?」
その夜、命蓮寺にて。
廊下を連れ立って歩きながら、ナズーリンが白蓮に今日のことを愚痴まがいに切り出すと、白蓮は笑って首をかしげた。
「そうでしたかって……内部突入班はだいぶ苦労したんですから」
「でも、みんな心と心のわだかまりが消えたんじゃない?」
「確かに、ご主人と船長の私を見る目がやたら温かくなったような気はしますが……」
ナズーリンが、歩を止める。
「もしや、何かご存知なので? いつの間にか消えてしまった、あのネジについて……」
命蓮寺が元に戻った後、ネジを差し込んだところを確認しに行ったところ、影も形も消えうせ、カレンダーは下に落ちていた。
一体あれはなんだったのか。
「ふふ、私も一応、大魔法使いと呼ばれる者ですからね」
「……では」
「いたずら好きで好奇心旺盛で、そして何よりもハートを大切にする魔法使いの一族が残した――『おもちゃ箱のネジ』」
「おもちゃ……箱?」
「ええ、そのネジを巻くことによって、その場所は幻の劇場と化す。ネジを巻いたおもちゃの上で、入るものすべてを出演者として取り込んで――ハッピーエンドを迎えるまで止まらない、素敵な素敵な大魔法よ。……今頃きっと、またどこかに隠れて、力を溜めながら次に見つけられるのを待っているのでしょうね」
「……それが、『塔の主』の正体ですか。恐ろしいというか、なんというか……」
肩をすくめるナズーリンに、白蓮はにやと微笑みかける。
「そんな事言って、ナズーリンもなかなか清々しい顔をしていたではありませんか」
「な、何をおっしゃる」
「……泊まってきてもいいのよ? 魔理沙ちゃんとこ」
「か、からかわないでください白蓮殿!」
「あら怖い、うふふ、じゃあやっぱり泊まってきていいってのはなしね?」
「えっ!?」
「あらあら、今度は世界の終わりみたいな顔されちゃいました……」
「びゃ、白蓮殿……」
ナズーリンの眉がぴくぴくと震える。
「でも心配要らないわよ、ほら」
「ほい、だーれだ」
突如、ナズーリンの視界が遮られる。
そしてその声は。
「なっ、えっ、ま、魔理沙!?」
「ぴんぽーん」
正解して手がどけられると同時に、ナズーリンは勢いよく振り向く。
「よっ、ナズー。お呼ばれしてお泊りに来たぜ~」
「まだあわ、あわわわわわ」
「あらあらうふふ」
混乱するナズーリンを見て、魔理沙と白蓮は笑顔を浮かべるのだった。
「星が、綺麗だね」
「そうですね……」
命蓮寺の屋根の上で、星と水蜜が並んで寝転んでいた。
上には満天の星空。まるで、あのときのような。
「今の聖輦船は命蓮寺だから、一応これであのときを再現してることになるんですかね?」
「別に形にこだわらなくてもいいんじゃないですか? 水蜜がいて、私がいる。それで十分じゃあありませんか」
どちらからともなく、きゅっと二人は手を繋ぐ。
「なんだか、まだ夢の中みたいです……」
ぽう、と本当に夢心地であるようにつぶやく水蜜に、星は微笑んで答えた。
「起きてても見られる夢です。――私達が、作ったんですよ」
全ての者に幸せな夢を。
全ての者に救いある終焉を。
今、幻の劇が終わり――
再び、新しい夜明けが来る。
―fin―
ところどころのチルノがうぜえww
ナズマリひゃっほい!キャラの当てはめも面白かったです!
あと、>星「が、がお……」
ゴールしたらあかーん!!
まさか星水に目覚めるとは思わなかった
よし、100点置いてきますね!
おや?魔法使い二人と河童と巫女がアップを始めたようですよ
星さんはやればできる虎
怒涛のグルグルネタに何度も吹きました。あな懐かしやパンフォス遺跡編……。
ところで、『おいら高等な悪魔じゃーん』『野生の狼少女発見!』『くそばか』のシーンが見当たらないのは仕様ですか?
ケッ……ケッ……ケベスベスさんは……
一体どういう流れで誰にやってもらえばいいのか、まったく見当も付きませんでした……
申し訳なし! ま、また機を見て(ry
というかナズーが可愛すぎる!
ごめんなさい、個人的に苦手な要素も多かったのでこの点数で;
ですがそれでも十分に楽しませて頂きました。面白かったです。
グッジョブ
それよりも星水要素があって私は嬉しいw