魔法の森で、一人の妖怪が走っていた。
豪雨の中を、傘も差さずに雨によって泥と化した地面を蹴っていた。
妖怪の名前はルーミア。
妖怪の中では弱い部類に入る妖怪で、人食い。
闇を操る能力を持っており、彼女の周りは闇で覆ってある。
「うわぁっ!?」
泥で足が滑って、顔ごと地面へ投げ出す。
最悪だ。
ルーミアは起き上がって、汚れた服を見つめた。
「……ん?」
遠い向こう。
何かが光っている。
それに一縷の望みを託して、ルーミアはそこへ転ばないように走って行った。
そこは家だった。
ルーミアはそこのドアをノックするより早く、屋根の下にもぐりこんだ。
これで雨を防げる。
見ると、雷が雨雲を照らしていた。
ここを発見できてよかった、と思いながらもルーミアは寒さに耐えきれずに扉をノックした。
意外と早くに扉は開いた。
ルーミアはその扉を開いた人物の顔を見た。
自分と同じ金髪の女性だ。
「あれ、あなたどうしたの?……凄い汚れじゃない!まさかこの雨の中走ってきたの?
……とりあえず上がって。紅茶とクッキーくらいは出せるわ」
「ありがとー」
ルーミアはそう呟いて部屋の中へ入った。
部屋の中は、屋内だからか外が寒かったからか暖かかった。
「あったかーい」
うんと腕を伸ばす。
腕の部分が濡れてあまり良い気もちはしなかったが、それでも暖かさこそルーミアの求めていたものだ。
金髪の女性は戸棚から服を取り出すと、ルーミアに渡した。
「とりあえずそれに着替えて」
ルーミアは指示に従って服を渡されたそれに着替えた。
金髪の女性は服を取って部屋に入ると、水を入れた桶の中にそれを沈めた。
そしてテーブルのある部屋――おそらく居間だろう――にルーミアを通した。
「座って。……ちょっと待っててね」
ルーミアはテーブルへ歩いていき、それに座る。
しばらくすると、金髪の女性が二人分の紅茶とクッキーを持ってきた。
ルーミアはそれが置かれた途端に、クッキーを素早く口に運んだ。
「んんー。もぐもぐ。……おいしー」
人肉ほどではないが、美味しい。
甘さが口に広がり、顔を綻ばせた。
「それは良かったわ。……さて。あなた、宵闇の妖怪のルーミアよね?」
「うん、ルーミアだよー」
ルーミアが二枚目のクッキーを口に運ぼうとして答えた。
内心、やはり妖怪を家に連れ込むのは駄目で、すぐに追い出されると思っていたので、その胸は不安でいっぱいだった。
「私はアリス・マーガトロイド。七色の人形使いって言われてるわ。
アリスって呼んで構わないわよ」
アリスはそう言うと、ルーミアから窓に目を移した。
「こんなに雨も酷いし……晴れるまでここにいなさい。
ああ、そうそう。服洗濯するから手伝いなさい」
「せんたくー?」
「まさかあなた洗濯してないの?
……どうりで一目見ただけで汚れがわかるはずだわ」
アリスはそう呟きながら、先ほどの服がある部屋のドアを開けて入った。
そこにはギザギザに刻まれた木の板と、先ほどより大きめの桶があった。
アリスはそこに服を入れると、服を木の板にこすりつけた。
「はぁっ、こうやって、服を、こするのよっ」
声を聞くとかなり力を入れているようだ。
アリスは途中で木の板と服を離してルーミアに言った。
「ほら、ルーミア。やりなさい」
「えー。……うん」
ルーミアは桶の中の木の板と服を掴むと、服をこすりつけた。
浅はかな汚れがどんどん水の上に浮かぶ。
ルーミアはしばらく服をこすりつけていたが、アリスに向かって言った。
「ねえー、疲れたぁー」
「我慢しなさいよ。しばらくすれば楽しくなるはずだから」
ルーミアは言っても無駄だと悟り、一心不乱にこすりつけ続けた。
数分後。
ルーミアの手の動きはかなり粗いものとなっていた。
手首を振り子のようにぶんぶんと振るだけである。
だが、ルーミアの顔はかなり楽しい顔となっていた。
一般の人間がやったら精々浅はかな汚れが取れるのみだろうが、ルーミアは妖怪特有の力を込めて振っていた。
つまり力業で、汚れを取っている。
「ぶんぶんー♪」
ルーミアは手首を振りながら鼻歌を歌っていた。
「ちょっと見せてみなさい。……ふんふん。
汚れがもうほとんど取れてるわ。もうこれで良いわよ」
そうアリスが語りかけると、ルーミアは不満そうな顔をした。
「えー?まだ洗いたいー!」
アリスは頭を抱えると、困ったように窓のカーテンを開けた。
先ほどの雨が嘘のように晴れている。
「もうとっくに雨は上がってるわ。今度、また来なさい」
アリスはできるだけ優しく、子に語りかけるようにルーミアに言った。
「えー。……むー」
ルーミアはしばらく不満そうな顔をしていたが、ぱっと立ちあがった。
「わかった。……今度の雨に、また来るね」
ルーミアは玄関の扉を開けて靴を履いた。
「ええ。―――雨と言わず、いつでもいらっしゃい」
「うん!……ちゃんと、洗濯するもの用意しといてね!」
「わかったわ」
アリスがにこりと笑うと、ルーミアはそれを確認して走り出した。
「バイバイ、アリスー!」
「さようなら、ルーミア」
晴れ、虹のかかった空の下、闇をまとわず走る宵闇の妖怪。
「とても良い図ね」
アリスはルーミアを照らす太陽のように、晴れやかな笑みを見せた。
豪雨の中を、傘も差さずに雨によって泥と化した地面を蹴っていた。
妖怪の名前はルーミア。
妖怪の中では弱い部類に入る妖怪で、人食い。
闇を操る能力を持っており、彼女の周りは闇で覆ってある。
「うわぁっ!?」
泥で足が滑って、顔ごと地面へ投げ出す。
最悪だ。
ルーミアは起き上がって、汚れた服を見つめた。
「……ん?」
遠い向こう。
何かが光っている。
それに一縷の望みを託して、ルーミアはそこへ転ばないように走って行った。
そこは家だった。
ルーミアはそこのドアをノックするより早く、屋根の下にもぐりこんだ。
これで雨を防げる。
見ると、雷が雨雲を照らしていた。
ここを発見できてよかった、と思いながらもルーミアは寒さに耐えきれずに扉をノックした。
意外と早くに扉は開いた。
ルーミアはその扉を開いた人物の顔を見た。
自分と同じ金髪の女性だ。
「あれ、あなたどうしたの?……凄い汚れじゃない!まさかこの雨の中走ってきたの?
……とりあえず上がって。紅茶とクッキーくらいは出せるわ」
「ありがとー」
ルーミアはそう呟いて部屋の中へ入った。
部屋の中は、屋内だからか外が寒かったからか暖かかった。
「あったかーい」
うんと腕を伸ばす。
腕の部分が濡れてあまり良い気もちはしなかったが、それでも暖かさこそルーミアの求めていたものだ。
金髪の女性は戸棚から服を取り出すと、ルーミアに渡した。
「とりあえずそれに着替えて」
ルーミアは指示に従って服を渡されたそれに着替えた。
金髪の女性は服を取って部屋に入ると、水を入れた桶の中にそれを沈めた。
そしてテーブルのある部屋――おそらく居間だろう――にルーミアを通した。
「座って。……ちょっと待っててね」
ルーミアはテーブルへ歩いていき、それに座る。
しばらくすると、金髪の女性が二人分の紅茶とクッキーを持ってきた。
ルーミアはそれが置かれた途端に、クッキーを素早く口に運んだ。
「んんー。もぐもぐ。……おいしー」
人肉ほどではないが、美味しい。
甘さが口に広がり、顔を綻ばせた。
「それは良かったわ。……さて。あなた、宵闇の妖怪のルーミアよね?」
「うん、ルーミアだよー」
ルーミアが二枚目のクッキーを口に運ぼうとして答えた。
内心、やはり妖怪を家に連れ込むのは駄目で、すぐに追い出されると思っていたので、その胸は不安でいっぱいだった。
「私はアリス・マーガトロイド。七色の人形使いって言われてるわ。
アリスって呼んで構わないわよ」
アリスはそう言うと、ルーミアから窓に目を移した。
「こんなに雨も酷いし……晴れるまでここにいなさい。
ああ、そうそう。服洗濯するから手伝いなさい」
「せんたくー?」
「まさかあなた洗濯してないの?
……どうりで一目見ただけで汚れがわかるはずだわ」
アリスはそう呟きながら、先ほどの服がある部屋のドアを開けて入った。
そこにはギザギザに刻まれた木の板と、先ほどより大きめの桶があった。
アリスはそこに服を入れると、服を木の板にこすりつけた。
「はぁっ、こうやって、服を、こするのよっ」
声を聞くとかなり力を入れているようだ。
アリスは途中で木の板と服を離してルーミアに言った。
「ほら、ルーミア。やりなさい」
「えー。……うん」
ルーミアは桶の中の木の板と服を掴むと、服をこすりつけた。
浅はかな汚れがどんどん水の上に浮かぶ。
ルーミアはしばらく服をこすりつけていたが、アリスに向かって言った。
「ねえー、疲れたぁー」
「我慢しなさいよ。しばらくすれば楽しくなるはずだから」
ルーミアは言っても無駄だと悟り、一心不乱にこすりつけ続けた。
数分後。
ルーミアの手の動きはかなり粗いものとなっていた。
手首を振り子のようにぶんぶんと振るだけである。
だが、ルーミアの顔はかなり楽しい顔となっていた。
一般の人間がやったら精々浅はかな汚れが取れるのみだろうが、ルーミアは妖怪特有の力を込めて振っていた。
つまり力業で、汚れを取っている。
「ぶんぶんー♪」
ルーミアは手首を振りながら鼻歌を歌っていた。
「ちょっと見せてみなさい。……ふんふん。
汚れがもうほとんど取れてるわ。もうこれで良いわよ」
そうアリスが語りかけると、ルーミアは不満そうな顔をした。
「えー?まだ洗いたいー!」
アリスは頭を抱えると、困ったように窓のカーテンを開けた。
先ほどの雨が嘘のように晴れている。
「もうとっくに雨は上がってるわ。今度、また来なさい」
アリスはできるだけ優しく、子に語りかけるようにルーミアに言った。
「えー。……むー」
ルーミアはしばらく不満そうな顔をしていたが、ぱっと立ちあがった。
「わかった。……今度の雨に、また来るね」
ルーミアは玄関の扉を開けて靴を履いた。
「ええ。―――雨と言わず、いつでもいらっしゃい」
「うん!……ちゃんと、洗濯するもの用意しといてね!」
「わかったわ」
アリスがにこりと笑うと、ルーミアはそれを確認して走り出した。
「バイバイ、アリスー!」
「さようなら、ルーミア」
晴れ、虹のかかった空の下、闇をまとわず走る宵闇の妖怪。
「とても良い図ね」
アリスはルーミアを照らす太陽のように、晴れやかな笑みを見せた。
あと、全体的に話に厚みが無いので、サラサラとすぐ終わってしまった。
ありがとうございました。面白かったです。洗濯板使うのって確かに力業なんですよねぇ。よいとおもいますよ。でも、これだとルーミアは裸ってことになりそう……それとも濡れた服をそのまんま来てるの……?風邪引いちゃいますよ!