Coolier - 新生・東方創想話

我ら、紅魔館FC! 第五節

2010/03/28 10:15:04
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 ※ このお話は『我ら、紅魔館FC! 第一節』からの続き物になります
 






 Ⅰ
   
 
 
 
 
 
 
 ――紅魔館 廊下――
 






 「う~ん、やっぱり慣れないなぁ~……」

 そう言って小傘は、下半身に穿いている目立ちはしないが、
 所々に可愛さと機能性が見事に融合している瀟洒なメイドスカートの裾を指でちょこんと摘む――。



 「まだその格好をして半月も経ってないでしょう? 一ヶ月もすれば気にならなくなるわよ」

 紅魔館の長い廊下を小傘を従える様に前を歩いて進んでいく紅魔館のメイド長、十六夜 咲夜はそう言って振り返る。


 「そんなもんなのかねぇ~」
 「そんなものよ」


 二人はそんな会話をしながらテクテクと目的の場所へと歩いて行く――。







 『愉快な忘れ傘』こと多々良 小傘は、半月程前に開かれた『紅魔館FC初勝利祝勝パーティー』からずっと紅魔館の客賓として紅魔館に住んでいる。
 『紅魔館FC初勝利祝勝パーティー』がお開きになり、小傘がさて帰ろうとしたところ、
 紅魔館の主であるレミリア スカーレットが

 『毎回、練習する日時を決めるのも面倒くさい。どうせなら『幻想郷サッカー大会』が終わるまではここで客賓として住むといい』

 と提案したからである。
 
 

 小傘は妖怪として生まれて今まで決まった住処を持たず、
 飄々と渡り鳥の様な生活をしていたので最初はレミリアの提案にどうしようか? と考えたものの、
 生まれて初めての経験になるが誰かと共同生活を営んでみるのも楽しいかもと最終的に紅魔館でお世話になる事に決めたのだった。
 
 しかし、いくら普段能天気で『明日は明日の風が吹く』を信条にしている小傘であっても、タダ飯食らいはさすがに気が引ける――。
 
 そこで、何か自分にも紅魔館の仕事を手伝わせてくれないかとレミリアに申し出て、現状に至るというわけである。
 






 「さ、目的の場所に着いたわよ」
 咲夜はそう言って、紅魔館の長い廊下のつきあたりにある扉の鍵をガチャガチャとはずしてゆく。


 「ここに何があるの?」

 「見てみれば分かるわ」
 




 ――カチャリ。
  




 咲夜は扉を開くと、その部屋には絵画や鉄で出来た大きな西洋の甲冑姿の像、
 骨董品であろう古めかしい壺などの様々な調度品が処狭しと無造作に積まれていた――。



 「ふぇ~、凄いわさ」
 小傘が部屋の中を覗き見て思わず感嘆の声を漏らす。

 「これはまだほんの一部だけどね。もう春だし、館全体の模様替えをしようと思って。
 あなたにはこの部屋にある調度品を全部廊下に出してほしいのよ」
 
 咲夜はそう言って、出来る? といった表情で小傘を見る。
 


 「ん、オッケー! 了解よ」

 「ここにある物は、中には凄く重い物もあるから妖精メイド達と一緒に運んだ方がいいかもね」
 咲夜は小傘の返事を聞くとそう言って近くを飛んでいた妖精メイドに声をかけようとする。すると、
 


 「わちきはこう見えても一人前の妖怪なんだから、一人で平気だわさ! まぁ、任せておきなさいって!」
 小傘はそう言うと、腕に力瘤を作ってアピールすると張り切りながら部屋の中に入っていく。

 「……そう? ならよろしくお願いするわね」
 そう言って咲夜は小傘に声をかけて、自身の能力を発動しその場に溶け込む様に消えた――。







 「……ふぅ。あともう少しね」

 一人で黙々と作業を続けていた小傘は、額の汗を自身の腕で拭う。
 


 小傘の一人での地道な作業によって、部屋の中にあった様々な調度品はあらかた廊下に運びだされ、
 残る物は嵩張る物や明らかに重そうな物ばかりである。
 




 「……よし、やるか! ――っしょ、っと」
 
 



 一息入れた小傘は気合を入れなおし、部屋の中にあった重そうな調度品
 ――精密な彫刻が入った骨董品の箱のような物――を両手に抱え上げ、部屋を出る。

 部屋からヨロヨロと調度品を運びだし、小傘が廊下に出来た調度品の山に差し掛かった時、
 
 





 「――あ、小傘いたいた! ねぇ、咲夜がおやつの時間だって言ってプリンを作ったんだけど、あんたも食べるでしょ?」
 

 
 「――プリン!? 勿論、食べるわさ! やったーーー!」

 背後から小傘を探しに来たレミリアがおやつのお誘いの声をかけると、小傘は感情を表現する為に両手を挙げて喜ぶ。
  


 「そう? じゃあ、行きましょうか――って、何そんな所で固まっちゃってんのよ? 涙まで浮かべちゃって、そんなに嬉しかったの?」

 両手を挙げて、まさに万歳の格好で固まり、さらにジワジワと目に涙まで溜めている小傘を見てレミリアはそう問いかける。
 




 「……」
 




 問いかけても一向に返事が返ってこない小傘にレミリアは首を傾げて、
 涙目になっている小傘の顔からゆっくりと視線を下方向にずらしてゆく――。
 


 そして、レミリアは小傘の足にずっしりと載っかかっている調度品を発見すると無言でくるりと振り返り、
 
 



 「――咲夜ぁぁあ、永遠亭の場所って――」
    
 



 ――ドッカァァァアアアアアン!!!!!
 




 レミリアが大声で咲夜を呼ぼうとした瞬間、紅魔館の大図書館の方で派手な爆発音が響く――。
  




 「また魔理沙か……。まったく、今日は夜にうちのチームと地霊殿の奴等の練習試合があるってのに。」
 大図書館の爆発音を聞いたレミリアは、今日は厄日だと忌々しそうにそう呟いた――。
 









 ――紅魔館スタジアム (略して紅スタ) ――

   



 「ウォォォオオオオオ!!!!!」
 「オー! 『紅魔館FC』、オー!! 『紅魔館FC』、オオー!!!」
 「We are the 『地霊殿ヘル・シティ』! オ、レ、オォー!!!」
 「粉砕! 玉砕! 大喝采!! いけいけ我らのレミリア様ぁぁあああ!!!」
 「今日の試合に勝つのは『地霊殿ヘル・シティ』だっつてんだろ! このダラズ!」
 




 『幻想郷サッカー大会』の試合会場であり、『紅魔館FC』のホームスタジアムでもある最近完成したばかりのこのスタジアムは、
 すでにたくさんの人妖の観客で埋め尽くされていた――。もっとも、観客の大部分はここ『紅魔館FC』の母体である紅魔館で働いている妖精メイド達と、
 今回の対戦相手である『地霊殿ヘル・シティ』のサポーターである地底の妖怪達であったが。
 

 ちなみに紅魔館スタジアムは紅魔館の隣に立てられている。
 さらにスカーレット姉妹の身体的弱点に配慮して、全天候型の完全密室ドームである。
 
 





 射命丸 文 (以下 文)『あ~、マイクテス、マイクテス。……はい、皆様こんばんは! 毎度お馴染み射命丸 文です! 
 今晩はここ、つい最近完成したばかりの紅魔館スタジアムから『紅魔館FC』VS『地霊殿ヘル・シティ』の練習試合をお送りいたします! 
 え~、解説ももう皆様もお馴染みとなりましたセル○オ天狗さんです。今日もよろしくお願いいたします』

 セル○オ天狗 (以下 セ)『はい、よろしくお願いいたします。今日は幻想郷で初めてのナイトゲームなんですね、楽しみです!』

 文 『そうなんですよね。これも全天候型のドームが成せる技なんでしょうが、私も初めてのナイトゲームの実況なので若干緊張しております。
 ……そうそう、この実況を拝聴中の皆様に今日は嬉しいゲストをお呼びしております!
 ――『永遠亭ムーンラビッツ』の監督である蓬莱山 輝夜さんです! 輝夜さん、今日はよろしくお願いいたしますね!』

 蓬莱山 輝夜 (以下 輝)『ええ、よろしくお願いするわね。――と言っても私は今日のゲームの事は、
 さっきうちに運ばれて来た『紅魔館FC』の多々良 小傘選手から聞いて、ここに来ただけなんだけれどね』

 文 『で、たまたま出遭った私に頼まれてこうしてゲストをしているというわけでございます』

 輝 『状況説明痛み入るわね。まぁ、私もこういうのは嫌いじゃないし付き合ってあげるわ』

 セ 『――先程のお話を聞いていますと小傘選手の容態に何かあった様子ですが、彼女は大丈夫なんですか?』

 輝 『何でも、足に重い物が乗っかったらしいわ。永琳の診断によると、足の甲に軽くヒビが入っていたそうよ。
 でも、彼女妖怪だしすぐ治るでしょ。……今日の試合は欠場だけどね』

 文 『あややや、それは大事にならずに良かったですね。今の彼女が長期離脱するのは『紅魔館FC』にとっては大打撃でしょうし』

 輝 『……確か、3人まで移籍オッケーだったわよね? 永琳に頼んで小傘選手をスカウトしようかしら……。いい選手だし。』

 文 『あやっ!? これは思わぬ所で爆弾発言が出ましたねぇ~! そのお話、試合終了後にでも詳しく――』
 









 ――紅魔館スタジアム フィールド内――
 




 「『紅魔館FC』のキャプテンであるレミリアよ。今日はよろしく頼む」

 「同じく『地霊殿ヘル・シティ』のキャプテンを務めています古明地 さとりです。
 今日はよろしくお願いします」

 両チームのキャプテンであるレミリアとさとりは握手を交わす。
 




 「――今日は私の妹の我がままを聞いて頂いて、本当にありがとうございます」

 「何、構わん。うちの妹もその話に乗ったんだ、おあいこさ」

 急な試合を組ませてしまって申し訳無いと頭を下げるさとりに、レミリアはニヤリと笑って返す。
 




 実の所、妹のフランドールから『地霊殿ヘル・シティ』と練習試合をしたいと頼まれた時、
 レミリアは二つ返事でオーケーした。
 それは何故か? 答えは簡単、レミリア自身が地霊殿の主である『古明地 さとり』という人物に対し前々から非常に興味があったからである――。

 さとり自身が博麗神社の宴会に顔を出す様になったのはつい最近で、
 レミリア自身は宴会で顔を会わせるまで存在自体知らなかったのだが、
 周りから古明地 さとりの人物像や自身の周りを取り巻く環境などを聞くたびに、
 さとりに対して何とも言えないシンパシーを感じる様になっていった。
 


 曰く、地霊殿という一つの勢力の主である――。
 曰く、手のかかる妹がいる――。
 曰く、自身の能力のお陰で周りの妖怪達から畏怖の目で忌み嫌われている(レミリアの場合は吸血鬼という種族が畏怖の対象となっている)など――。
 
 
 と、多少の差異はあれど、とても自分と似ていると思ったのである。
 
 そして、同じ『カリスマ』持ちであるレミリアの目にも映っているのである、見えるのである、
 古明地 さとりから溢れ出る『カリスマ』オーラが――!
 


 (ククク……、似たような境遇の『カリスマ』持ち同士、ここらでどちらが上か決着を付けておくのも悪くない……)
 


 レミリアはそんな事を考えながら、さとりに言う。

 「今日は観客も超満員だ、お互い良い試合をしようじゃないか」

 「ええ、――ふふっ。……いえ、すいません。お互い頑張りましょう」

 急にクスリと笑ったさとりを訝しげに見たレミリアに、何でもないとさとりは言うと、
 それではと自分のチームの方へ戻ってゆく。
 
 



 「? なんだ、あいつは? ……まぁ、いい。今宵は楽しい夜になるといいわね、お互いに――」
 レミリアは自分に背を向けて去ってゆくさとりを見ながら、クククッと嘲笑うのであった。
 






 ――『紅魔館FC』 ベンチ内――
 




 「随分楽しそうにお話してきたのね」
 レミリアがさとりとフィールドの中央で会話し、会話を終えて自身のチームのベンチ内に戻ってくるなりパチュリーがレミリアに言う。

 「クククッ。……何、他愛も無い会話さ」

 「そう」

 パチュリーの言葉にレミリアは笑いながら応える。
 


 「そんな事よりパチェ、今日も素晴らしい試合になるわよ。本格的な対戦相手、観客は満員、何も言う事はないわね!」

 「ええ。……、私もまたここであなた達の活躍を見させてもらうわね」

 レミリアが両手を広げて舞台演劇の役者の様にクルリと一回回ってパチュリーに問いかけると、
 パチュリーは落ち着いた静かな声で応える。
 




 「私もついでにしっかりとお前達の活躍とやらを見させてもらうぜ!」
 




 レミリアとパチュリーの会話に、急に騒がしい声が混ざる。
 




 「お前をウチのベンチに招待した覚えは無いんだが? 相変わらず厚かましい奴だよ、お前は」
 レミリアはそう言って騒がしい声の持ち主である霧雨 魔理沙の方を睨む――。
 


 「まぁ、そう固い事は言いっこなしだぜ。――試合の日に私が大図書館にお邪魔したのも何かの縁だ、 そう邪険にせんでも罰は当たらんだろう?」
 魔理沙はそう言って悪びれずにニカッとはにかんで、笑う。

 「ふん、好きにすればいい。お前がここに来てフランも喜んでいる様だし、それに免じて勘弁してやるわ」

 「へへっ、サンキューだぜ!」

 レミリアと魔理沙はそう言って会話を終える。
 すると、二人の会話が終わるのを待ってましたとばかりにフランドールが魔理沙の体に飛びつく!

 「魔理沙ーーー!!!!!」

 「――うぉわっと!」
 
 



 ――何だかんだと言いながら、魔理沙とフランドールのじゃれ合いを微笑ましそうに見ている
レミリアの背後に、音も無く一つの気配が現れる。
 


 「小傘さまを無事に永遠亭に運んでただ今戻りましたわ」

 足を怪我した小傘を永遠亭まで運んでいた咲夜が帰還し、任務を無事終了した事を主に報告する。
 


 「ご苦労様。――それで、あいつの容態はどうなの?」

 「全治一週間、といった所だそうですわ」

 「……そう。じゃあ、今日の試合は無理ね。まぁ、ちょうどいいハンデだわ」

 「治療が終わり次第、こちらに送り届けてくれるそうですわ。丁度、この試合の後半くらいに戻ってこれるかと」

 「分かったわ。――よし! 『紅魔館FC』のチームメンバー、全員私の前に集まりなさい! 
 試合前ミーティングをやるわよ!」
 レミリアは咲夜の報告を聞き終えると、大きな声でチーム召集をかけた――。
 






 ――『地霊殿ヘル・シティ』 ベンチ内――
 




 「さぁ、今日は私達『地霊殿ヘル・シティ』の初めての試合となります。気負いすぎない程度に頑張りましょう」

 チームのベンチ内に帰ってきたさとりはそう言って自らのチームメイト達を鼓舞する。
 
 
 


 「「「オーーーーーッ!!!!!」」」
  




 地霊殿チームの面々がさとりの鼓舞に元気良く賛同の声で応える。
 


 「うにゅ。ねぇ、さとり様、私達ってここに何しに来たんでしたっけ?」
 さとりの鼓舞に元気に応えたものの意味をまったく理解していなかった地底の地獄鴉、霊鳥路 空はさとりに問いかける。

 「ここに来るまでにあたいが5回も説明したじゃんかぁ~」
 空の発言に、彼女の親友である火焔猫 燐は呆れながら口を挟む。
 


 「あ! 思い出した! ここのスタジアムを核融合でフュージョンさせればいいのねっ!」
 「ちげーよ! あんたはあたい達を全員殺す気かっての。ここにはサッカーをしに来たんでしょうが!」
 「ああ~、そうそうサッカー、サッカー! ……で、サッカーって何だっけ?」
 「ええ~、そこからスタートするのぉ~」

 お燐はゲンナリしながらお空にサッカーのルールを説明し始める。
 
 



 「ねぇ、お姉ちゃん。さっき、フランちゃんのお姉さんとお話している時に何か面白い考えでも読めたの?」
 こいしがさとりに先程の二人の会話の途中で、さとりが笑った件について訊ねる。

 「えっ? ……ふふっ、まあね。」 
 さとりはこいしに訊ねられてまた思い出したのか、クスリと笑う。
  


 (確かにあの人の考えは読めました。……私に対する過剰なまでの対抗心がね。――まぁ、あそこまで露骨に気持ちに出されると、
 覚りである私でなくとも何となく気付けちゃうかもしれませんが……。――ふむ、私に対する対抗心ですか……、
 これを利用するのも面白いかもしれませんね)
 

 
 「それにはまず――」

 さとりは自身の思いついた作戦を頭の中で纏めると、
 『地霊殿ヘル・シティ』のGKである地底の鬼、星熊勇儀に話かける。

 「勇儀さん、ちょっといいですか――」
  









 『紅魔館FC』 スターティングメンバー

 ・GK 1 紅 美鈴

 ・DF 2 妖精メイド
    3 妖精メイド
    4 妖精メイド
    5 妖精メイド

 ・MF 6 小悪魔
    7 妖精メイド
    12妖精メイド
    16十六夜 咲夜

 ・FW 10レミリア スカーレット
    9 フランドール スカーレット

 4-4-2(4-3-1-2) 中盤はダイヤモンドタイプ
 




 『地霊殿ヘル・シティ』 スターティングメンバー

 ・GK 1 星熊 勇儀

 ・DF 2 古明地 さとり
    3 ゾンビフェアリー
    4 ゾンビフェアリー
    5 ゾンビフェアリー

 ・MF 6 火焔猫 燐
    7 ゾンビフェアリー
    8 ゾンビフェアリー
    10ゾンビフェアリー

 ・FW 99霊鳥路 空
    9 古明地 こいし

 4-4-2 中盤はフラットなタイプ
 
  





 ――『紅魔館FC』VS『地霊殿ヘル・シティ』     間もなくキックオフ!
  






 Ⅱ
 
  





 「ウォォォオオオオオッ!!!!!」
 


 ――両チームの選手達がフィールドに入場し、紅魔館スタジアムの歓声が一際に高くなる。
  






 文 『さぁ、両チームの選手が入場してフィールドの中に散らばって行きました! 主審も時計を合わせていますね。もう間もなく試合開始です!
 今晩の試合は私達にどのようなドラマを見せてくれるのでしょうか! 期待大です!』

 セ 『どちらのチームも、本番に向けて悔いの残らない様な試合をしてほしいですねぇ』

 文 『そうですね! レミリア選手とフランドール選手がセンターサークルの中に入りましたね。いよいよキックオフです!』
 
 





 ――『ピィィィイイイイイーーーーー!!!!!』
 




 主審が試合開始のホイッスルを鳴らす。

 『紅魔館FC』VS『地霊殿ヘル・シティ』の試合が今、始まった――!
 






 ――『紅魔館FC』VS『地霊殿ヘル・シティ』    前半7分 ――
 
  




 「――さて、お手並みを拝見させてもらおうかしらっ!」

 前線でボールを受け取ったレミリアはそう声を上げて、
 グイグイとドリブルを仕掛け『地霊殿ヘル・シティ』のディフェンスリーダーであるさとりに正面から
 一対一を挑む。
 

 
 「抜かせませんよ」

 さとりはスピードに乗って突っ込んでくるレミリアに対して迂闊に飛び込まず、
 動きを見極める様に持ち場を離れずレミリアを待ち構える。
 


 「――ふんっ、遅いわよっ!」

 レミリアはさとりと交差する手前でさらにドリブルのスピードを上げ、
 軽く上半身のフェイントを入れながら颯爽とさとりをかわしていく――。
 


 「ククク、この程度か」

 レミリアはチラリと後方に置き去りにされたさとりを見てそう呟き、シュートを放つ!
  


 
 


 ――バサァアッ!
 






 レミリアが放ったシュートはGKの勇儀の手を掠めて、『地霊殿ヘル・シティ』のゴールネットを揺らした――。
 






 「ウォォォオオオオオーーーーー!!!!!」
 

 その瞬間、スタジアムの『紅魔館FC』サポーター達から歓喜の大歓声がスタジアム全体に響き渡る。
 






 文 『ゴーーーーール!!!!! レミリア選手、先日の試合に続いて2試合連続ゴールを挙げましたぁーーーーー!!! 
 『地霊殿ヘル・シティ』のディフェンスリーダーのさとり選手を鮮やかにかわしてのゴール、これは『紅魔館FC』にとってはこれ以上ない追い風になるでしょう!』

 セ 『レミリア選手のゴールへ向かうスピリットが見事結果をだしましたねぇ~。』

 輝 『レミリア選手の身体能力はずば抜けてるわ。『地霊殿ヘル・シティ』はレミリア選手を抑えないと勝機は無いわね』
 



 


 「今回もお見事ですわ、お嬢様」

 「向こうのディフェンス陣は大した事ないわ。今回もどんどんボールを私に集めなさい! 
 ガンガン点を取ってやるわ!」

 「畏まりましたわ」

 レミリアの先制点を祝いに来た咲夜にレミリアは相手チームの守備陣を嘲笑いながらチームの作戦を指示する。
 


 (これなら今回もまた楽勝な試合になりそうね)
 


 次々とゴールを祝いに来たチームメイト達とコミュニケーションを取りながら、レミリアは心のなかでそう思うのであった。
 




 前半7分 『紅魔館FC』VS『地霊殿ヘル・シティ』     1-0
 









 「……これでいいのかい?」

 レミリアにゴールを割られたGKの勇儀が同じくレミリアに鮮やかにかわされたディフェンダーのさとりの所に近寄って呟く――。



 「――えぇ、これでよいのです。……ふふっ」
 相手フォワードに抜かされるというディフェンダーにとってもっとも屈辱的な事をされたにも係わらず、
 さとりは微塵も悔しがる様子を見せず不敵に笑う。

 「お前さんが何を考えているか分からんが、汚い手は使わないでおくれよ。――私は卑怯な事が大嫌いなんだ」

 さとりにこのチームに入れば、強い奴等と思う存分に戦えるとスカウトされて『地霊殿ヘル・シティ』に加入した勇儀はそうさとりに苦言を呈する。


 「分かっていますよ。汚い手など使いません、……これからは私も本気でやりますからね」

 「そうかい。……しかし、何でまた最初の1ゴールだけ手加減しなきゃならんのか、私にゃさっぱりだよ」
 勇儀はそう言って、試合開始前にさとりから最初の1ゴールだけはワザと入れさせる様に頼まれた事を思い出し首を捻る。

 「そのうちに分かりますよ。……うふふっ」

 そう言って一人嘲笑の笑みを浮かべるさとりをみて、勇儀はやれやれと息を吐いた。
 






 ――『紅魔館FC』VS『地霊殿ヘル・シティ』     前半17分 ――
 




 「また得点を貰うわよ!」

 中盤で試合の舵取りをしている小悪魔からスルーパスを受け取ったレミリアはそう言って
 先程と同じ様にさとりに向かってドリブルで突っ込んでゆく――。
  


 (さて、次はどんな風に抜いてやろうか。――よし、跨ぎフェイントから左に行くと見せかけて右に抜けてやろう!)
 


 レミリアはさとりに突っかかりながらそう考え、素早く両足を交差させる様にフェイントをしながら上体を左に流す。
 すると、さとりはジリジリと後退しながらレミリアの体に反応し、左側の進路をブロックする様に体を傾ける――。
 
 

 (――掛かったっ! 今!)
 


 レミリアはボールを利き足のアウトサイドでちょこんと小さく蹴りだし、
 自身の上体もがら空きの右側をすり抜けようと瞬時に右に流す。
 




 (抜いた――)
 






 「――まだです」

 「!?」
 

 がら空きの右側をすり抜けようとしたレミリアの利き足にあるボールが、
 ディフェンダーであるさとりの足によって掬われる――。
 




 「――あうっ!」
 




 レミリアは身体のバランスを崩してしまいフィールドに倒れてしまうが、
 さとりの足はボールに行っていたと主審に判断されプレーは続行される。
 
 そして、レミリアのボールを奪ったさとりはすぐさま中盤の底にいたお燐にパスを送る。
 

 
 「こいしさまっ!」
 さとりからボールを受け取ったお燐は一瞬でこいしの位置を把握すると、こいしに向かってロングパスを送る。
 

 


 「――ナイスパス! うふふ、得点頂いちゃうよ~」
 お燐からボールを受け取ったこいしはそのままドリブルで『紅魔館FC』のゴールマウスに向かう――。
 


 

 「ノーマーク!? うちの守備陣は何をやっているの!」
 お燐にボールが渡った時にチェックをかけようとしたが間に合わず、ボールが飛んでいった方向を目で追うしかない咲夜は、
 こいしがノーマークでボールを受け取った事に、驚愕の声を出す。
 


 



 「くそっ! 間に合って下さいー!」

 こいしと一対一になってしまった『紅魔館FC』のGKである紅 美鈴は、少しでもこいしのシュートコースを遮る為に急いで前に出る。
 




 「うふふ、まずは一点目だねっ!」
 






 ――コロコロコロ、……ファサッ。
 






 こいしは十分にシュートコースを吟味した後、慌てずにしかし確実にボールを『紅魔館FC』のゴールマウスに入れる――。
 




 ――「ウォォォオオオオオーーー!!!!!」
 


 こいしのゴールに今度は『地霊殿ヘル・シティ』の観客がドッと沸く――。
  






 文 『同点ゴーーーーーーール!!! 『地霊殿ヘル・シティ』、見事なカウンターで試合を元に戻しましたぁーーー!!! いやぁ、面白くなってきましたねぇ!』

 セ 『う~ん、お手本のようなカウンターでしたねぇ~。少ない手数で得点を狙う、サッカーの基本戦術の一つです』

 輝 『ふむ、『地霊殿ヘル・シティ』は堅守速攻のチームなのかしら? ……さっきのこいし選手のマークを外してボールを受ける動き、
 非常に素晴らしかったけど何か引っかかるわねぇ~』
  






 


 「……大丈夫ですか?」

 『地霊殿ヘル・シティ』のゴールに沸く観客の声がスタジアム内に響き渡る中で、
 さとりはフィールドに倒れているレミリアに向かって手を差し出す。
 


 「中々やるじゃない……」 
 さとりに手を貸して貰い、起き上がったレミリアはそう言い放つ。
 


 「まだまだこれからですよ」

 「面白い、上等じゃないか」

 さとりの言葉にレミリアの目に闘志が燃え上がる。
 対するさとりも余裕の笑みを崩さない。
 


 「「――」」
 


 同点ゴールに沸きあがる紅魔館スタジアムの歓声がまるで二人の勝負を後押しするかの様に、
 静かに二人は火花を散らした――。
 




 前半17分 『紅魔館FC』VS『地霊殿ヘル・シティ』   1-1
 
  





 ――『紅魔館FC』VS『地霊殿ヘル・シティ』     前半22分 ――
 




 「あっ、しまった!」

 「もらったわ! ――お嬢様っ!」

 お燐のトラップミスを見逃さず、咲夜は瀟洒にボールをスティールすると当初の作戦通りにレミリアにパスを送る。
 


 「ナイスよ、咲夜っ!」

 ボールを受け取ったレミリアはチェックに来た敵ゾンビフェアリーを自身のフィジカルで弾き飛ばし、 敵最終ラインにドリブルで突っ込んでゆく。
 


 (今度は負けない! ……絶対に、抜くっ!)
 


 レミリアは自身のトップスピードでさとりにドリブルでまたも突っかかる――。
 


 (さとりの目の前で一旦急停止して、そこからの急激なターンによる緩急の反応差を利用して抜く!)
 


 さとりの目の前でくるりと背を向けて止まり、利き足でボールをキープしつつ、レミリアは素早くターンを試みる――。
 




 「無駄です。マークは外させませんよ!」

 しかし、さとりはレミリアの動きに惑わされずしっかりとレミリアの正面に張り付く。

 「――くっ、しつこいわねっ!」

 レミリアはさとりのディフェンスに軽く毒付きながら、次の手を模索する。
 


 (――ならっ、悪いわね、あんたの技借りるわよっ!)
 


 まるでどこぞの黒白が言いそうな台詞を心の中で吐いてレミリアは、
 ワザとボールをさとりが取り易いように身体等を使ってブロックせず、オープンな状態でさとりをかわそうとする。

 そして案の定、さとりの足がレミリアの利き足にあるボールを掠め取ろうと伸びてくる。
 


 (もらったっ!)
 


 レミリアはその瞬間、自身の利き足でボールを掬い上げ、さとりの足をかわして前へ出ようとする――。
 




 ――バシィィイイイ!!!!!
 




 その時、レミリアの利き足にあるボールを狙っていたはずのさとりの足がグイッとそのまま上に上がり、
 掬い上げたボールをインターセプトする!
 




 「――なっ!」
 




 目の前にあったはずのボールがさとりの足に絡め取られて消えていくのを
 スローモーションで見ているかの様な錯覚に陥りながら、レミリアは唖然とした声を上げる。
 


 



 文 『あぁーーーっと! レミリア選手、またもさとり選手にボールを奪われてしまったぁーーー!!!』

 輝 『もの凄い反応速度ね。予め分かっていたとしか思えない……』
 






 「お燐! カウンターです!」
 レミリアからボールを奪ったさとりはまたも素早くボールを前線への繋ぎ役であるお燐に渡す。

 「はいさっ!」
 さとりからボールを受け取ったお燐はチラリと前線を確認する。
 


 「そう簡単にボールを前線に行かせるものですかっ! 小悪魔!」

 「はいっ!」

 ボールを持ったお燐に、咲夜と小悪魔が二人がかりでチェックにいく――。
 




 「おっ、来たねぇ~。――ゾッちゃん(味方のゾンビフェアリーにお燐が付けたあだ名)!」

 お燐は咲夜と小悪魔が飛びかかって来たのを見るや、味方のゾンビフェアリーにパスを送り自らも前線に走り込む。
 




 「パス&ゴー!? ――違う、これはワンツーパス! しまった、ボールを前に運ばれたっ!」

 咲夜はすぐにお燐の目論見に気が付くが、時すでに遅し、
 お燐からボールを受けたゾンビフェアリーはダイレクトでお燐が走り込んでいるスペースの前に
 ボールを送る。
  

 


 「にゃあい! バッチリね! ――それっ!!」

 ゾンビフェアリーとの抜群の連携を見せ、咲夜と小悪魔の二人を抜いたお燐はするどいスルーパスをこいしに送る――。
 






 「はい、オッケー! ――うふふ、二点目いっちゃうぞ~」
 




 こいしはそう言って、お燐からのスルーパスを受け取る。――またもノーマークで。
 






 文 『あぁーーー!! またしてもノーマークのこいし選手の所にボールが渡ってしまったぁーーー!!! 『紅魔館FC』の守備陣、先程から集中力が足りません!』

 輝 『……またノーマークか。これは――』
 






 「それっ!」

 またも一人ノーマークでボールを受け取ったこいしは、落ち着いて『紅魔館FC』のゴールネットを揺らす。
 






 文 『ゴーーーーーーール!!! 『地霊殿ヘル・シティ』、鮮やかに前半で逆転しました!!! 
 最初の1点目のカウンターを巻き戻してみているかの様な華麗なカウンターがまたも炸裂!!! 
 対して『紅魔館FC』、せっかく先制したのにこれではいけません!』

 セ 『こいし選手は相手守備陣のマークを外すのが物凄く上手いですねぇ~。まさにフォワード向きの選手だと思いますよ!』
 




 前半22分 『紅魔館FC』VS『地霊殿ヘル・シティ』   1-2
 









 ――紅魔館FC ベンチ内――
 




 「逆転されちまったな……」
 こいしの鮮やかな逆転ゴールを見て、魔理沙は隣にいるパチュリーにそう呟く。

 「ええ、そうね」
 魔理沙の呟きに対して、パチュリーはいつも通りの抑揚の無い静かな声で返す。

 「――能力、か」
 魔理沙は目を細めてポツリとそう漏らすと、
 


 「十中八九……ね。あの『地霊殿ヘル・シティ』の9番のフォワード、古明地 こいしだったかしら? 能力を使用しているわ。まず間違いない」

 「『無意識を操る程度の能力』だったか?」

 「選手名鑑にはそう書いてあるわね。おそらく、ボールを受ける直前に一瞬だけ能力を使用しているのね。だからいつもフリーになれる」

 「はっ、やっかいな能力だぜ」

 パチュリーの分析に魔理沙は天を仰いでしまう。
 

 
 「対処方法はあるのか?」
 魔理沙はパチュリーに問う。
 

 「……、あのこいしという子を何とか止める方法というのなら残念ながら思い付かないわね」

 「微妙な言い方だな。他に方法があるのか?」

 「無いわけではないわ」

 パチュリーは魔理沙の問いには完全には答えず、
 そして憂いを帯びた表情でフィールドにいるレミリアの方を見る――。

 魔理沙はそんなパチュリーの表情を見て、どうしたのかと自分もレミリアの方に顔を向ける。
 




 「……寧ろ今問題なのはこいしの方じゃない。――レミィの方よ」

 「えっ? レミリアか? 確かに2回ほど、さとりにドリブルを止められたが……」

 「その2回のドリブル失敗が2回とも直接失点に結びついているわ。さらに今のレミィは周りがまったく見えていない。
 レミィの周りにはいくつものサポートがあったのにも係わらず、さとりとの勝負に固執してしまっている。完全に向こうの術中に嵌ってしまっているわ」

 「成る程な……」

 魔理沙はそう言って頷き、改めてフィールドにいるレミリアを見やる。
 


 (お願いレミィ、早く気づきなさい! あなたはそいつとドリブルの一対一で遊んでいる場合じゃないのよ。
 おそらく、そいつも能力を発動しているわ! レミィ、あなた一人ではそいつを抜く事は出来ないのよ……)
  




 




 ――『紅魔館FC』VS『地霊殿ヘル・シティ』     前半41分 ――
 

 


 「早くボールを私に寄越しなさい!」

 ――レミリアは焦っていた。
 
 『紅魔館FC』が優勢だったのは、試合開始してわずか10分足らずで残りの時間はほとんど『地霊殿ヘル・シティ』が優勢だったからだ。
 

 
 勝負には波がある。そして勝負の勝者とは常にその波を上手く掴んだ者である事を、レミリアは知っていた。
 さらに自分のせいでその波が大きく悪い方向に揺らいでしまっている事も十分に分かっていた。
 ならば自分自らの手でその波を再びこちらに引き寄せなくてはならない――。だからレミリアは焦っていた。
 




 (どうしたら、どうしたら目の前のこいつを抜けるのっ!?)
 


 レミリアの目の前には、もう今日何度目になるだろうか、さとりがマークに付いている――。
 

 「くっ!」
 

 しばらく考えたものの、結局いいアイデアが浮かばずレミリアは一かバチかの自身のスピードに任せたドリブルでさとりをかわそうとする。
 


 「どうしました? 何をそんなに焦っているのですか」

 「うるさいっ! 私は何も焦ってなどいない!」

 「――そうですか。ですが、そのようなドリブルでは私は抜けませんよっ!」

 「――あっ!?」

 さとりはスピードにのったレミリアのドリブルコースを意とも容易くカットすると、
 レミリアの足からボールを奪いさる。
 



 ――ドッシャァァアアア!!!
 




 さとりのブロックでバランスを崩したレミリアはフィールドに倒れてしまう。



 「……うぅっ」

 フィールドに倒れこんだレミリアは思わず小さく呻く。
 そして、レミリアが立ち上がろうとしたその時、もっとも聞きたくない音を聞いてしまう。
 
  
 


 ――それは、『地霊殿ヘル・シティ』のサポーターの歓喜の声と、主審のゴールを認める笛の音であった。
 






 文 『ゴーーーーール!!!!! こいし選手、ハットトリック達成です!!! なんと前半だけでハットトリックを成し遂げてしまいましたぁーーー!!!
 これは来る『幻想郷サッカー大会』に向けて、楽しみな超逸材が誕生しましたね!!!』

 セ 『『紅魔館FC』はまたもレミリア選手のドリブル失敗からの失点になってしまったねぇ~。
 レミリア選手にボールが渡った時、周りの味方がちょくちょくいい位置でフリーになったりするんだけど、もったいないねぇ』

 輝 『『地霊殿ヘル・シティ』の古明地姉妹か、私達のチームと当たるときもやっかいな敵になりそうね』
  









 ――そして、前半はこのまま特に点差が変動する事はなく終了する。
 




 前半終了 『紅魔館FC』VS『地霊殿ヘル・シティ』   1-3
 

 



 
 Ⅲ
 



 


 ――『地霊殿ヘル・シティ』 ベンチ内     ハーフタイム ――
 

 


 「……ふぅ」
 前半を終えて、フィールド内からベンチに戻って来たさとりは大きく息をつく。
 

 「どうだい、あんたの作戦とやらは上手くいってるのかい?」

 ベンチに座って休憩を取ろうとしたさとりに、後ろから勇儀が声をかける。
 


 「えぇ、上手くいっていますよ」
 


 (しかし、この作戦を使う事でこうなると分かっていたとはいえ、予想以上ですね……)
 


 さとりは勇儀にそう応えながら、僅かに小刻みに震えている自身の手足をジッと見つめる。
  




 この前半、さとりは能力を発動してずっとレミリアを一人でマークし続けてレミリアの突破を封じていた。
 だが、さとりは妖怪ではあったが本来はあまり自身の体を使ったスポーツ等は得意ではない。
 それにも係わらず、あの爆発的な身体能力を誇るレミリアをマークする為に自身の限界を超えて身体を酷使していたのである――。
 


 (何にしても前半でリード出来てよかった。あとはこのリードを守りきるだけ……。
 ――ふふっ、私もこの大会を機に少し外に出て体を鍛えた方がいいかもしれませんね)
 


 この大会は自身の能力のせいで他人から疎まれる事を嫌い、自ら地底深くの地霊殿に引きこもっていた 自分を変えるいい機会になるかもしれないと、ベンチに座りながらさとりは一人で微笑したのだった。
 



 


 ――『紅魔館FC』 ベンチ内     ハーフタイム ――
  

 


 『……』
 




 『紅魔館FC』のベンチ内は誰一人話さない重苦しいムードに包まれていた――。
 


 「……、妹さま?」
 重苦しい雰囲気の中、気を使う程度の能力を持っている美鈴が疲れた表情をしているフランドールに声をかける。
 


 「……、交代いたしますか?」

 「絶対にイヤッ!」

 美鈴がおずおずと提案すると、フランドールは大きな声で拒絶の意思を表す。
 

 「妹さま……」

 フランドールの頑なな態度に美鈴は心配そうな顔をするが、
 フランドールはそんな事は意にかえさず不完全燃焼だった前半を心の中でふりかえる。
 


 (前半は私は何も出来なかった。ただフィールドを走り回って、お姉さまにパスを出してただけ。
 ――こいしはもう3得点も挙げてるのに! このままこいしに負けちゃうなんて絶対にイヤだ! 
 後半はもっと頑張らないと!)
 

 


 「……小悪魔、後半はボールホルダーにもっと激しくチェックをかけるわよ」
 咲夜が同じ中盤の選手である小悪魔に、後半は今以上にプレスをかけると提案する。
 

 「咲夜さん、それなら咲夜さんもポジションを一つ下げて私と中盤の底をケアしましょう。その方がより効果が出ると思います」

 「えぇ、後半は私もディフェンシブハーフでプレーするわ。敵のパスの出所を潰すわよ」

 「はい。それしか手がありませんね」


 咲夜も馬鹿ではない。このハーフタイム中に前半の3失点の原因と対策を頭の中で組み上げていた。
 その対策が先程の小悪魔に提案したもので、その対策は魔理沙がこいしの対策について訊ねた時にパチュリーが考えたものと同じであった。


 すなわち、現時点でフォワードであるこいしを止める術は無い。
 
 ならばどうするか? 例えるならば、蛇口から出る水を止めるにはどうすればいいか、――答えはそのまま蛇口を捻ればよい。
 
 つまり、こいしにラストパスを渡さないようにすればよい。
 それは敵がボールを持った時、すぐさま激しくチェックをし自由にさせないようにすること。


 


 「お嬢様もそれでよろしいですか?」

 「――えっ? あぁ、それでいいわ。あなた達、後半はもっとボールホルダーに厳しくプレスをかけるのよ!」

 咲夜が自身の提案を主に承認してもらおうと声をかけるが、
レミリアはうわの空だったらしく慌ててチームメイト達に先程の指示を出す。





 「「「オーーーーー!!!!!」」」





 レミリアの指示に重苦しい雰囲気だった場を吹き飛ばそうと『紅魔館FC』の面々は精一杯の声を張り上げる――。







 「……お前、このチームの監督なんだろ? 作戦とか指示しなくていいのか?」
 魔理沙の質問にパチュリーは、アリスといい魔理沙といい魔法使いにはお節介焼きが多いのかしらと溜息をつきつつ応える。



 「私の仕事はここにいる事よ」

 「――違うな。お前の仕事はその知識を存分に発揮して、こいつらの監督をやる事さ!」

 パチュリーの言葉に魔理沙はゆっくりと、確信を持った声で返す。


 「私は面倒な事はしたくはないの。知っているでしょうに……」

 「ああ、これが本当にお前にとって面倒くさい事だったらな。
 今日の前半のサッカーを観戦するお前の横顔を見てるだけで分かったぜ、……お前、監督の顔になってたぜ? 
 ――チームの得点に喜び、失点に頭を振って険しい顔をする監督の顔にな!」



 「……私が、監督の顔に」

 「やらないで後悔するよりやって後悔したらどうだ? 少なくとも私は今までそうやって生きてきたぜ」
 魔理沙はそう言って、自身の帽子を深く被り直す。
 


 「……まさかあなたに諭される日が来るだなんてね」

 「失礼な奴だな。私はこう見えても結構真面目なんだぜ」
 




 ――結局、このハーフタイムの間パチュリーはこれ以上口を開くことは無かった。
 だが、魔理沙はパチュリーの瞳に今までに無かった新しい光が宿ったのを見逃さなかった――。
  









 ――紅魔館スタジアム 実況席――
 




 文 『さていよいよ後半が始まりますが、セル○オ天狗さん、この試合は後半どのような所が見所になりますか?』

 セ 『そうですねぇ~。『紅魔館FC』は前半ほとんど攻撃が機能していませんでしたから、そこの修正。あと、3失点してしまった守備陣の連携の確認でしょうか。
 『地霊殿ヘル・シティ』の方は前半にリードを作れたので、無理をせず前半と同じ様なカウンターサッカーでよいと思いますよ』

 文 『成る程。ありがとうございます。それでは後半はセル○オ天狗さんが解説してくださった点に注目しながら試合を見てみましょう!』
 



 


 それから間もなく後半が始まり、試合は咲夜の作戦が効をそうして半ばまで両チームとも得点無し、
 失点無しの落ち着いた試合展開になる。
 
 しかし、咲夜のチーム全員による激しいプレッシング作戦は、
 前半で多くのスタミナを消費していたフランドールにさらなる負担をかけていた――。
 






 ――『紅魔館FC』VS『地霊殿ヘル・シティ』     後半30分 ――
 
 



 「はぁ、はぁ、――んっ、」

 フランドールは肩で荒い息をしながらフィールド上を走っていた。
 
 「はぁ、んっ、はぁ――」
 

 
 (身体が上手く動かない……。身体が鉛みたいに重い、足が自由に動かせない。――もう、一体私の身体はどうしちゃったんだろう?
 前の試合でもそうだった、最初は全然平気なのにちょこっと走っただけですぐにおかしくなっちゃう。 ――あぁ、イライラするなぁ!!!)
 




 ――グラッ!!!
 




 苦しそうに顔を歪めながら、それでもひたすらにフィールド内を走り回るフランドールの視界が急にブレ始める――。
 


 (――え、何だろう、これ? 視界がブレて前がよく見え――)
 


 ――ドサッッッ!!!
 


 フランドールの意識はそこでブラックアウトし、フィールドというベットに飛び込むように倒れ込んでしまう。
 




 『――フラン!? おい、咲夜! ボールをライン外に出して試合を止めろ! 早くっ!!!』

 ベンチから試合を観戦していた魔理沙がフランドールの状態の異変に気づき、
 ボールを保持している咲夜に大声で指示をだす――。
 




 「えっ? ――妹様っ!?」

 魔理沙の大声に気づいた咲夜は一瞬戸惑うが、フィールドに倒れているフランドールを発見すると急いでボールをライン外に出して試合を止める。
 

 「大丈夫か! フラン! 返事をしろっ! フラン!!!」
 

 試合が止まった事を確認した魔理沙はすぐさまフィールド内に入って行き、倒れているフランドールを抱きかかえて声をかける。
 


 「妹様っ!」
 「妹様!」
 「すぐに担架を要請しますね! ――救護班、担架お願いします、早く!」
 「フラン!!! ――あぁ、フラン目を開けてちょうだい!」
 



 


 文 『ああっと、フィールド内でアクシデント発生ですっ!!! あれはフランドール選手でしょうか……? 
 ――とにかく『紅魔館FC』の選手が倒れてしまっているようです。これにより、ただ今試合は一時中断しております! 
 倒れている選手は大丈夫なのでしょうか?』

 セ 『どうやらフランドール選手のようですねぇ~。最後は眠るようにしてフィールドの上に倒れ込みましたが……』

 輝 『普段なら彼女は吸血鬼だから平気でしょうけど、この試合はフィールド内に特殊な結界を張ってあるからね、気は抜けないわね』
 

 




 ――ガヤガヤ、ザワザワ
 






 フィールド内の異常事態に紅魔館スタジアムの観客達もざわめき始める――。
 







 ――『紅魔館FC』 ベンチ内 ――
 

 


 「妹様……」

 フィールドに飛び出すタイミングを見失ってしまい、
 一人ベンチに取り残されてしまったパチュリーはフランドールの安否を気使いそう小さく呟く。

 すると、その雰囲気をぶち壊す様に
 


 「ばぁ~っ!! 『紅魔館FC』のアイドル、多々良 小傘ちゃんただ今帰還したわさ! 
 ――って、あれぇ? 試合1-3で負けてる!? ってか、フィールドに誰か倒れてる!?」
 


 自身の足に包帯を巻いた小傘が空気をまったく読まずに、『紅魔館FC』のベンチ内に帰還した事を高らかに宣言する。
 




 「……あなたはもう少しその場の空気を読む事を勉強した方がいいわね」
 そう言ってパチュリーがジト目で小傘を睨むが、
 


 「――あら、そうでもないわよ?」
 小傘の後について来た人物がパチュリーの発言をやんわりと否定する。
 

 「姫様がこのスタジアムで試合を観戦しているというから、私自身がこの子の送り迎えを担当したんだけど……。
 ――どうやらナイスタイミングだったみたいね」
 



 ――そう発言したのは、永遠亭の天才薬師である八意 永琳だった。
 

 「確かにナイスタイミングだわ。妹様をお願い」

 「えぇ、分かっているわ」

 パチュリーの言葉に永琳は真剣な顔になって頷くと、
 フィールド内に倒れているフランドールの元へ小走りに駆け寄っていく――。
  









 「――ふむ」

 「大丈夫なの!? ねぇ、フランは大丈夫なの!?」

 「落ち着きなさい。今の所は命に別状はないわ、急激な脱水症状による気絶ね。
 でも、今日は試合続行は無理よ。交代の選手を出しなさい」
 フランドールの容態を診察し、心配する紅魔館の面々や魔理沙達に永琳は落ち着いた声音で指示をだす。
 

 「分かった。 ――おい、主審! 選手交代だ、フランを下げて控えの妖精メイドを――」
 永琳の指示を聞いてレミリアは主審を呼び、フランドールの交代を告げる。
 

 
 

 「……おい、永琳」

 「ん、何かしら?」

 魔理沙が診察を終了してフランドールを担架に乗せようとしている永琳に声をかける。

 「フランドール、やっぱり担架に乗せて運ばなくちゃ駄目か?」

 「そりゃそうだけれど……、一体どうしたの?」

 「なに、私がフランドールの所に駆けつけて抱き寄せた時からずっとフランドールに腕を掴まれているもんでな。
 私がこのまま抱き上げてベンチに戻ろうかと思ってさ」
 

 永琳は思わず魔理沙の腕を見ると、確かにフランドールの手がギュっと魔理沙の腕を掴んでいる。
 


 「――ふふっ、分かったわ。担架はいらないわね、フランドールはあなたが運びなさい。
 ……但し、優しくそっとよ?」
 それを見た永琳はクスリと微笑むと、魔理沙の考えにオーケーサインをだす。
 

 「やれやれ、私は繊細な動きとかは苦手なんだがな。そういう事はもう一人の森に住んでいる魔法使いに言ってくれ」

 魔理沙はそう言いながらもフランドールを器用に優しく抱き上げてフィールドの外へと出てゆく――。
 

 
 



 文 『あやっ、魔理沙さんがフランドール選手をベンチ内に運び出しましたねぇ~。そして第四の審判から『紅魔館FC』に選手交代が告げられます。
 ――あー、やはりフランドール選手のようですね。フランドール選手、ここで退場となってしまいました』

 セ 『今はただフランドール選手の安否を気遣うばかりですねぇ~』

 輝 『うちの永琳が来たからにはもう大丈夫でしょ。何にしても、追い上げたい『紅魔館FC』にとってフランドール選手の交代は痛いわね』
 

 
 

 後半30分     フランドール スカーレット途中交代
 

 




 ――『紅魔館FC』VS『地霊殿ヘル・シティ』     後半38分 ――
  




 「う~ん、試合が膠着しちゃったなぁ」
 味方のディフェンダーからのボールを周りに捌きながら、お燐はどうしようと呟く。
 


 後半が始まって以降『紅魔館FC』のボールホルダーへのチェックが厳しく、
 お燐はなかなか前にボールを運ばせてもらえず、ボールが来てもワンタッチ、ツータッチのリスクを
 賭けないバックパスか精度の甘いロングパスを散発的に前線に放り込む事しか出来なくなっていた。
 


 (このままお茶を濁して試合終了も悪くはないけど、もう一点追加点を取って『紅魔館FC』の息の根を完全に止めるのもいいよね! 
 ――よし、まだ未完成だけどアレを試してみよう!)
 


 お燐はそう考えると、自身に来たボールをダイレクトで今まで沈黙を保ってきた親友、霊鳥路 空へ送る――。
 




 「お空! アレをやっちゃえーーー!」

 「うにゅ? お燐、アレって何だっけ?」
 
 
 お空にボールを送ったお燐はそう声高く叫ぶが、当の本人は?と首を傾げてしまう。
 


 「ああっ、この⑨鴉っ! ほら、アレだよ! いつもあたいと一緒に練習してたでしょ!! ――『お空砲』だよっ!!!」

 「『お空砲』? ――あぁ、アレね! ……でも、このボールをどうするんだっけ?」

 「打てぇぇえええ! ていうか、この状況でそれしかないでしょうが!」

 「打つ? このボールをフュージョンすればいいの?」

 「違うけどもうそれでいいや! そのボールを思いっきりフュージョンしちゃいなっ!」

 「うにゅ? 分かった! ――さぁ、フュージョンよ! 爆符『ペタフレア』!!!!!」
 


 お空はお燐と漫才のような掛け合いを交わすと、お燐から送られてきたボールをダイレクトでシュートする――!
  

 




 ――チリッ! ギャアォォォオオオオオン!!!!!
  






 まるで空気が焼ける様な音を立ててボールは一直線に『紅魔館FC』のゴールマウスに向かっていく。――そして、
 


 






 ――バシュ!!! ブチン!!!!!
 









 お空が放った強烈なミドルシュートは『紅魔館FC』のゴールネットを揺らし、
 さらに回転による熱でネットを焼ききって突き破ってしまう――。
 




 「っ、……」

 『紅魔館FC』のGKである美鈴はあまりに速く勢いのあるミドルシュートにその場から一歩も動けず、
 呆然と揺れるゴールネットを見やる。
 


 



 文 『……、ゴ、ゴーーーーーーール!!!!! 霊鳥路 空選手、強烈なミドルシュートを決めたぁーーーーー!!! 
 『地霊殿ヘル・シティ』、このゴールでリードをさらに3点差に拡げました!!! しかし、今のゴールは凄い、凄いです!!!』
 
 セ 『い、いやぁ~、今のは凄い殺人的な勢いのあるシュートでしたねぇ~。外の世界でもこういうシュートを放つ選手はいました、
 代表例だと元ブラジル代表の某サイドバックの選手とかですね。もっとも、今のシュートはそれ以上でしたが』
 
 輝 『『地霊殿ヘル・シティ』はとんでもないストライカーを二人も抱えているのね。――まったく、冗談じゃないわ』

 文 『しかし、これで時間的に『紅魔館FC』はかなりキツくなってきましたね。果たして残り5分強で逆転出来るのでしょうか!?』

 セ 『サッカーは10秒で1点取れるスポーツだと言われますが、厳しいでしょうね』

 輝 『今の『紅魔館FC』にはレミリア選手しか攻撃の軸がいない。でも現状、レミリア選手は『地霊殿ヘル・シティ』のさとり選手に完全マークされていて
 手も足も出ない。――この1点は事実上の決勝点かもしれないわ』
 

 




 ――「ウォォオオオオオーーーーー!!!!!」
   「オオー、カンピオーネ! 『地霊殿ヘル・シティ』、オオー!」
  

 


 お空の強烈なミドルシュートで追加点を挙げ歓喜に沸く『地霊殿ヘル・シティ』サポーターの声援がスタジアムに響き渡るなかで、
 

 


 「にゃぁい! やったねっ! イチが罰かの賭けは大成功!」

 「うにゅ? あれで良かったの?」

 「オッケーオッケー、大成功さっ! お空の威力は凄いノーコンミドルシュート、
 ――名付けて『お空砲』! いやぁ~、よくぞ本番で成功させた! エライエライ!」
 ゴールを決めたお空に駆け寄って、お燐はお空の頭をグリグリと手で弄る。
 


 「お空、凄いじゃない!」
 「頑張ったわね、ゴールおめでとう」
 

 遅れてお空のゴールを祝いに来た古明地姉妹に褒められたお空は、
 

 「うにゅっ! 何かよく分からないけど、皆喜んでくれて良かった!」
 

 と、飛びっきりの笑顔で微笑むのであった――。 
  
 



 後半38分 『紅魔館FC』VS『地霊殿ヘル・シティ』   1-4
 




 




 ――『ピッ ピッ ピイィィイイイイイ!!!!!』
 

 




 文 『試合終了ーーー!!!!! 主審が試合終了の笛を吹き、今日の試合が終了いたしました! 
 結果は、試合終了間際に『地霊殿ヘル・シティ』が1点を追加し1-5で『地霊殿ヘル・シティ』の大勝です!!! 
 『紅魔館FC』は、攻撃陣は空回り、守備陣は相手フォワード二人に蹂躙されて大量失点と目を覆いたくなるような惨敗をきっしてしまいましたぁーーー!!! 
 セル○オ天狗さん、今日の試合はどうでしたか?』

 セ 『いやぁ~、今日の練習試合は『紅魔館FC』の課題がおおいに出た試合でしたねぇ~。
 まず、今日のレミリア選手は自分勝手なプレーが目立ちましたね。確かにフォワードには少なからずエゴが必要不可欠ですが、
 サッカーは11人で得点を競うスポーツですから、本番までに直っている事を期待したいです。
 次に守備陣ですが、これはチーム練習等で連携を煮詰めていってほしいです』

 輝 『うちの要警戒チームは『幻想郷SG』だけだと思っていたけど、とんでもなかったわね。
 『地霊殿ヘル・シティ』、いいチームだったわね』

 文 『はい、今日は御二人方、解説にゲストに本当にありがとうございました! 本日の文々。実況生中継はここまでとなります。
 御清聴いただいた皆様、ありがとうございました! あっ、輝夜さんは小傘さんへのオファーの件でお話を――』

 輝 『あなた、まだその話覚えていたの!? あぁ、面倒くさいわね! 永琳――』
 
 



 試合終了 『紅魔館FC』VS『地霊殿ヘル・シティ』   1-5
  

 


 

 ――『紅魔館FC』 ベンチ内 ――
 




 「まったく、情けないったらありゃしないわっ!!!!!」
 
 



 ――ガッシャアァァアアアン!!!
 




 レミリアはそう憤りながらベンチ内の壁に自らの拳を叩きつける――!
 

 




 「……申し訳ありません、お嬢様」
 チームメイトを代表して咲夜がレミリアに頭を下げて謝罪する。
 


 「ええ、まったくね! 何が完全で瀟洒な従者よ、聞いて呆れるわ!」

 「……」

 咲夜の謝罪に対してレミリアは咲夜に侮蔑の言葉をぶつける。
 


 「それに美鈴! そんなにザルな守備では紅魔館の門番失格よ!」

 「すみません」

 「小悪魔、今日みたいなプレーをしていたんじゃいつかパチェに愛想をつかされちゃうわよ?」

 「あ~、精進いたします……」

 「それから、お前達! もっと紅魔館の妖精メイドとしての誇りを持ったプレーをしなさい!」

 「「「も、申し訳御座いません……!」」」

 そうしてレミリアは『紅魔館FC』のチームメイト達を次々と詰ってゆく――。
 

 


 「……お前、いい加減に――」

 先程からベンチ内でフランドールの看病をしながらレミリアのチームメイト達に対する詰りを聞いていた魔理沙は、
 ついに我慢が出来なくなり口を挟もうと声を上げる。その時、
 


 「――魔理沙!」

 魔理沙の隣にいたパチュリーがそう声を上げて、無言で顔を横に振る――。
 

 「パチュリー……、ちっ」

 魔理沙はパチュリーの意を汲み取ると、
 苦虫を噛み潰したような顔をして舌打ちをしながらフランドールの看病を再開する。
 

 




 「――もういい、私は疲れたから一人で部屋に戻ってるわ。お前達は好きにしてるといい」
 
 
 チームメイト達を詰る事に疲れたのか、レミリアはそう言ってユニフォームの上着を脱ぎ捨てて一人で紅魔館の自室へ戻っていった――。
 





 
 Ⅳ  
  






 「うー……」

 薄暗い自室のベットの上で、レミリアは小さく膝を抱えながら一人落ち込んでいた。
 原因は言うまでもない、つい先程の試合終了後の自身のチームメイト達に対する態度である。
 レミリアは始めは、最初の1点以外全てさとりに完封された自分自身に対して憤っていたのだが、
 従者である咲夜に謝罪をされてつい怒りの矛先がチームメイト達に移ってしまったのだ。
 俗に言われる『責任転嫁』というやつである――。
 


 (私は怒りに任せて何と言う事を言ってしまったんだろう。――今日の試合で一番駄目だったのは間違いなく自分だったではないか!
 なのに私は……、これでは『カリスマ』どころかこの紅魔館の主としても失格だな)
 


 レミリアは先程の出来事を十分反省していた。だが、それを表情や態度に表すという事は自身のプライドが邪魔をして出来そうもなかった。
 このままでは自分のせいで『紅魔館FC』は空中分解してしまう――。さて、どうしたものかとレミリアは鼻をすすりながら考えていた。
 

 




 ――コン、コン
 






 その時、自室の部屋に軽いノック音が響く。
 


 

 「レミィ、居る? ――入るわよ?」

 「パチェか……。悪いけれど、今は一人にしておいて頂戴」

 レミリアはパチュリーのドア越しの言葉にそう返事を返す。
 

 




 ――ガチャリ
 






 パチュリーはレミリアの言葉が聞こえなかったかの様に部屋のドアを開けると、
 テクテクとレミリアの前に歩いてくる――。
 




 「パチェ……」

 「レミィ、私、――私『紅魔館FC』の監督をやるわ」

 「――えっ?」

 レミリアはパチュリーの発言に何が何だか分からないという顔になる。
 




 「私は『紅魔館FC』の監督をやる。今までのお飾りの監督じゃなくて、本物の監督を……ね」
 パチュリーはそう言って決意に満ちた目でレミリアを見る。
 

 「ち、ちょっと、パチェ。急に一体どうしたのよ……」
 レミリアは親友のいきなりの態度の急変に、無難にどうしたと問いかける。
 

 「今日の試合、もし私がちゃんとした監督をやれていたら打てる手がいくつもあった……。
 でも今日まで私がウジウジと悩んでしまっていたが為に、チームは成す術もなく1-5で大敗してしまった。
 だから、今日のチームの敗戦の責任は私にもある。……レミィ一人だけの責任じゃない。
 大方、さっきまでそれで落ち込んでいたのでしょう?」

 「パチェ……、でも私はチームメイト達に随分と酷い事を言ってしまった。チームのリーダー失格だ」

 「そんなの、あなたのいつもの癇癪が出たと思って皆大して気にしていないわよ。それに――」
 


 そう言ってパチュリーはベットに座って隣に来ると、
 レミリアの手を優しく握り自身の額をレミリアの額にコツンとぶつけて言う――。
 

 「いつまでも落ち込んでいるレミィなんてらしくないわ。レミィは倣岸不遜なくらいが丁度いいのよ」

 「――ふふっ、まったくパチェには敵わないな。確かにいつまでも落ち込んでいるのは私らしくない……か」
 
 レミリアはそうくすぐったそうに笑って応える。
 

 レミリアの表情が幾分か明るくなったのを感じたパチュリーは瞳を閉じて静かにレミリアに語りかける。
 


 「私が読んだ本の中にこういう台詞があったわ。『One For All, All For One』って言ってね、
 直訳すると『一人は皆の為に、皆は一人の為に』になるの。これはサッカーにも言える事よ。
 『紅魔館FC』のチームメイト達はあなたを優勝に導く為に全力を尽くすわ、勿論、私も。
 ……だから、レミィもこれからはそんなチームメイト達に応えるようなプレーをすればいいのよ」 
 

 「『One For All, All For One』、いい言葉だ。
 ……そうね、私は誇り高き吸血鬼であり、この栄光ある紅魔館の主でもあるレミリア スカーレット!
 この幻想郷の全ての名誉と栄誉はこのレミリア スカーレットが手に入れる! ――だがしかし、
 その勝ち得た名誉や栄誉は私一人だけの物ではない、私に仕え、協力してくれた全ての者にも遍く降り注ぐのだ! 
 私とした事が、今まで忘れていたよ。ありがとう、パチェ。」

 パチュリーの言葉ですっかり自信が回復したレミリアは、拳をグッと胸の前で握しめ、
 励ましてくれた親友に感謝の言葉を述べる。
 


 「まぁ、私が『紅魔館FC』の監督になったからには、いくらレミィでも私の指示には従ってもらうわよ?」

 「クククッ、いいだろう。我が紅魔館全体の栄誉の為ならばそれくらい造作も無いことさ。
 ――何より、我が最高の親友であるパチェが本格的に協力してくれるんだ、この『幻想郷サッカー大会』貰ったも同然だな!」
 

 「監督を引き受けると言ったからには私も全力でやらせてもらうわ。目標は優勝――、でいいのね?」
 
 「当然!!! それ以外になにがある? ――っと、気持ちがフッ切れたら何だかお腹が減ってきてしまったわ。パチェも一緒に夕食にしましょ!」

 「ふふっ、レミィったらまったく現金なんだから」

 「生きている限り、永遠に空腹とは縁が切れないものなのさ」
 


 レミリアとパチュリーはお互いにそう笑い合いながら、レミリアの自室を出ようとする――。
 
 





 ――ガタン!!!
  



 


 レミリアが自室のドアノブに手をかけた時、ドアの外側で何かの大きな音が聞こえる。
  




 「「……?」」
 




 その音にレミリアとパチュリーは顔を見合わせる。
 レミリアが不審に思いながらドアを開けると、
 







 「……お前達!?」
 


 レミリアの自室の前には『紅魔館FC』のチームメイト達が全員集まっていた。

 そしてレミリアがその光景を見て、思わず声を漏らすとチームメイト達は気まずそうに横を向いたり、 下を向いたり、頬を手で掻いたりしている。
 

 なんの事はない、チームメイト達もまた試合終了後のレミリアの様子を心配してチーム全員でレミリアの部屋に聞き耳を立てていたのである――。
 


 「お前達、何で? あの時、私はあんなに酷い事を言ったのに……」
 レミリアは今の状況を理解出来ないと、自身の瞳をパチパチとひらく。
 

 「それはですね。確かにあの時、私達はお嬢様にきついお言葉を貰いましたけど実際そうでしたし。
 ……特に私なんかは。はは……」
 レミリアの疑問にチームメイトを代表して美鈴が答える。
 
 レミリアが試合終了直後に自分に対して憤っていたように、
 他のチームメイトも不甲斐ない結果に自分自身に腹を立てていたのである。
 


 「お嬢様、二度目になりますが今日は本当に申し訳ありませんでしたわ。
 次からは必ずやお嬢様の意に沿える結果を出して御覧にいれますわ」
 そう言って咲夜が恭しくレミリアに対して頭を下げる。

 すると、 
 

 「お姉さま、今日は途中で倒れちゃってゴメンね。……私、次はもっと頑張るよ!」
 と、体調が回復したフランドールが。
 

 「あちきも大事な試合の前に怪我しちゃってゴメンだわさ……」
 と、申し訳なさそうに小傘が。
 

 「これからはパチュリー様に誇ってもらえる様なプレーを心掛けますね!」
 と、小悪魔が。
 

 「「「私達も精一杯頑張ります!」」」
 と、『紅魔館FC』の妖精メイド達がそう言って頭を下げる。
 




 レミリアはそう言って自分に対し頭を下げている『紅魔館FC』のチームメイト達全員を見渡す――。
 


 「――くっ」
 


 レミリアはその光景を見て、思わず目頭に熱いものがこみ上げてくるのを必死に抑えながら
 目の前にいる『紅魔館FC』のチームメイト全員に応える。
 





 「――くっ、わ、私、レ、レミリア スカーレットは今宵、自身の二つ名である『永遠に紅い幼き月』に賭けてここに誓おう!!!
 私、レミリア スカーレットの全力をもって『紅魔館FC』を栄光ある優勝に導くと!!! 
 そっ、そして私は自身の胸に深く刻みつけ、決して忘れる事は無いだろう、共に戦った勇敢な英雄達の活躍をっ!!!」
 

 レミリアは泣きそうになるのを抑え、所々どもりながらも高らかに言う。
 


 (私は普段からこんなにも素晴らしい従者や、親友達に囲まれて過ごしていたのか……。
 ――あぁ、今宵ほど神とやらに感謝した事はない! 新しい紅魔館、真『紅魔館FC』はここに成ったのだッ――!!!!!) 
  




 そしてレミリアはさらに大きな声でチームメイト全員に宣言する。
 




 「いいかっ! 我が『紅魔館FC』は同じ相手に二度は負けない! 次にあの『地霊殿ヘル・シティ』と対戦する時、それは私達が勝利するという事だ!
 勿論、『幻想郷サッカー大会』の本番では『地霊殿ヘル・シティ』以外にもたくさんの強敵がいるだろう。――だが、我が『紅魔館FC』は決して負けない!
 何故ならそれは『運命』だからだ!! こんな素晴らしいチームメイト達がいるチームが優勝出来ないはずがあるものか! 
 ……いいかお前達、この大会絶対に優勝するぞ!!!」
 




 「「「オーーーーーーー!!!!!」」」
 




 レミリアの鼓舞にチームメイト全員が高らかに賛同の声を上げる。
 


 それは、『紅魔館FC』が結成してから初めてチーム全員が一つになった瞬間であった――。
 




 そしていよいよ幻想郷中を巻き込んだ『幻想郷サッカー大会』の幕が開ける――!

 
 
 




















 
 
皆様、こんにちは。こんばんは。ビバです。
今回のお話は、前回の最後に書いてあった通り、地霊殿チームとの練習試合と『紅魔館FC』のチームの
絆みたいなものがテーマになります。
お話の最後が王道っぽくなってしまったのは、自分が書いてみたかったのでどうかご容赦を。

とりあえず、このお話で物語の第一部が終了になります。
次回からは、『激闘! 幻想郷サッカー大会、リーグ戦開幕!』というような感じで
物語が進んでいく予定です。

それでは、ここまで自分の拙い物語を読んでくださった皆様、
もし宜しければこれからもよろしくお願いいたします。
ビバ
vibaviba0902@yahoo.co.jp
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コメント



0.870簡易評価
4.100名前が無い程度の能力削除
待ってました~~。
相変わらず魅せてくれますねー、最高です!
さとり様とこいしの能力はホント便利ですね、お空も凄い格好良い!
個人的に一番楽しみにしているシリーズです!!次も楽しみにしてます。
7.100ずわいがに削除
このシリーズ、俺は完全に頭からっぽの状態で読ませて頂いてます。先読みせずに純粋に楽しんでます。
なので古明地姉妹のプレーにはマジで「スゲーっ!」と大興奮です!フェイントが効かないDFとノーマークのFW――最強じゃねーですか!!
そして単にサッカーをしてる場面を描くだけでなく、それぞれのキャラにしっかりとストーリーを持たせてるのが凄いです。
本当に面白い。確かに満足以上のものを頂きました。続きも期待してます!
14.100名前が無い程度の能力削除
お待ちしてました!
ここの姫様は切れ者っぽくていいなぁw
ここから一体どのように紅魔館FCがチームとして成長していくのか楽しみです。
次回も頑張ってください!