【注意】
この話には、都合のよい俺設定が数多く用いられます。
そういうものに嫌悪感を抱く人は、読まないほうがいいかも。
さらに、霊夢と魔理沙のキャラ、人間性などが大幅に変えられております。
これらを許容できる方はどうぞー
迷いが生じるのは仕方がないことなのか?
夢なのだ。
このために、人を捨てると決めたのだ。
だが、しかし。
しかしだ。
夢よりも大切だと思えるものができてしまったら、どうすればいい?
愛しく思えるものができてしまったら、どうしたらいい?
夢以上のものなんて、あるわけが無いと信じているのに。
・・・信じていたのに。
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決断の時は迫っていた。
時間は待ってはくれなかった。
光り輝く七色の魔方陣。
森を包む宵闇も、今この時は木々の姿を隠すことはできていない。
その前に立つ、三人の少女。
一人は両の拳を握りしめ、一人は鋭い眼でその時を待っていた。
最後の一人は、前の二人よりも少し魔方陣の近くにいる。
二人に背を向けているため、表情はうかがえない。
だが、凛と立っていた。
確固たる存在感が、そこにはあった。
魔方陣の七つの光が、きらめきを失い始めた。
どうやら、すでに魔法は発動中らしい。
魔方陣の中心では、魔力の奔流によって生まれたひずみの衝撃音が響いてきている。
高等な魔方陣が、その場所に何かを起こしているのは間違いなさそうだった。
やがて、先頭の少女は歩み出す。
一歩一歩、ゆっくりと、枯草を踏みしめながら。
その姿は威風堂々としていて、"先へ進む"という決意が見て取れた。
ゆっくりと七色に近づく少女を見て、後ろの二人は動かない。
体は、動いていない。
手を伸ばせば光に届く距離。
そこまで来て、少女は一度歩みを止めた。
自然体で振り返る。何事もないかのように。
そこには、二人の少女が立っていた。
両手を握りしめ、少し口を開けたまま、もの欲しがっているかのような・・・そんな顔をした、二色の魔法使い。
悲愴感に満ちた瞳から、大粒の涙を流す二色の巫女。
二人が、見ていた。
それだけで、人形遣いの少女は満足だった。
「・・・――――」
人形遣いから漏れる、一言。
だが、魔方陣から漏れる衝撃音でかき消され、二人の耳には届かない。
何かしゃべっている・・・と気づいたのか、二人も何かを叫び始めた。
やはり届かない。
そして、動かなかった二人は同時に動いた。
魔法使いの右手と、巫女の左手が同時に差し出され・・・
差し出した二人が面くらった。
互いの手を見て・・・顔を見て、それにも面くらった。
互いの顔を見合う。
同じ顔をしていた。
当然だ。二人とも同じ気持ちなんだ。
そして、その瞬間――――
「―――ッ!?」
「―――ッ!!」
二人の視界は七つの光でふさがれた。
~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~
冬
山中にある幻想郷の冬は、一際厳しい。
幻想郷のすべては白銀に覆われ、草花も、動物も、人間も、妖怪も・・・等しく"眠り"につく。
そういう、"待ち"の季節。
世界が待つのは春という季節。
動植物が待つのは暖気という気質。
ならば、人間は・・・妖怪は・・・何を待つのか。
やはり春を待つのか。
やはり暖気を待つのか。
もしくは、それ以外のものを待つのか・・・。
人かもしれない。
物かもしれない。
掴めるものかもしれず、眼には見えないものかもしれない。
そしてそれは・・・必ずしも訪れはしないのかもしれない。
季節の巡りという理とは違い、確証はないものかもしれない。
ある魔法使いは、"機"を待っていた。
その時は、近かった。
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紅魔館地下図書館
幻想郷において、ここでわからないものは存在しないと噂される。
魔法の使い方から、秘術、秘宝の在り処、今晩の夕食、外の知識でさえもここで得ることができる。
膨大な知識がそこには存在していた。
数名の妖精メイドと図書館の主の使い魔。
彼らがせっせと掃除を進める中、ゆっくりと歩を進める影がいた。
コツコツと靴音を響かせながら、堂々と進む。
周囲の妖精や使い魔は一礼をし、影もまたそれを返す。
いつものことだから苦ではない。
ある魔法使いには「疲れないか」と問われたこともある。
確かに、全員の例に例で返していてはキリがない。ここの妖精メイドは半端な数ではないのだ。
だが返す。礼儀は守ってこそあるものだ。
そう返したら、「そうかい、面倒なことをするなぁ」と呆れられた。
自身からすれば、その魔法使いの普段の言動のほうが呆れてしまうのだが。
見知った廊下を進む。
迷路のような道を迷わず進めるほどには、ここの常連だ。
進み、進み、光が見えた。
あそこで、ここの主は読書をしている。
普段と変わらない光景を目に焼きつけながら、影は広間に進み出た。
「・・・また来たのね、半人前」
「ええ。お邪魔するわね、動けない大図書館」
読書かと思ったが、図書館の主は薬を飲んでいた。
大方、持病の喘息を和らげるものだろう。
皮肉には皮肉で返した。ちょうど、ネタである持病の薬も服用していることだし。
図書館の主『パチュリー・ノーレッジ』は、いつものキツイ目つきで睨みつけてきた。
皮肉を気にしているわけではない。彼女はそういうものでは動じない。
おそらく、私が来たこと自体に対する反応だろう。
この魔女は、私のことを何かと毛嫌いしている。
「・・・で、何の用?本なら好きに持っていきなさい。期限は二週間よ」
似つかわしくない早口で会話を終わらせようとする。
悠久の時を生き、日々の大半を研究に費やす魔法使いにとって、二週間という期限は明らかに短い。
それを理解して期限を決めるのは、彼女なりの嫌がらせだ。
この扱いにも、そろそろ決着がつく。
・・・だからこそ、一言言っておく必要がある。
「・・・今日は、真の意味で同族になるという報告にも来たわ」
「!」
6種の粉薬を飲み終わり、一息ついていたパチュリーは、静かにこちらを見た。
その眼の奥にある感情を、読み取ることはできない。
「・・・で、なぜわざわざ報告するのかしら?」
「まぁ、誕生日は祝ってほしいものなのよ」
「・・・じゃあとりあえず、『おめでとう、アリス・マーガトロイド』」
「『ありがとう、パチュリー・ノーレッジ』」
名前を言い合い、言葉の上のみで感情のないやり取りを交わす。
だが、言葉に乗っていないだけで感情はある。
互いに表には出さないが、感慨深いものはあった。
「・・・ようやく、あれをやるのね?」
「そうよ」
この問いかけには、相応の重みを乗せた言葉で答えた。
ずっと前から決めていたとはいえ、人生が変わる選択だ。
「で、時は?」
「次の満月の夜に」
「なるほど・・・待っていた時が丁度満月とは、運がいいわね」
「全く」
おそらく、膨大な魔力が使われることだろう。
妖怪や魔法使いなどにとって、満月の夜というものは特別だ。
この館の主人の言葉を借りるなら、まさに運命といえるであろう。
「・・・それ関係の本なら、その本棚の・・・下から三段目にあるわ」
パチュリーの指を目で追い、指し示された場所を確認する。
確かに存在する数冊の本をまとめて、召喚した人形に持たせた。
「・・・では、幸運を祈るわ」
「まさかあなたにそう言われるとは、うれしいわね」
「・・・・・・」
二度目の皮肉も軽く流されたが気にしない。
毛嫌いされる理由はもうじきなくなり、個人としてのアリス・マーガトロイドを見てもらえることだろう。
この魔女を、私は少なからず尊敬しているのだ。嬉しいことである。
本を開く音を背景に、私は歩を進めた。
待ち望んだ"機"を迎えるために。
~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~
ガチャリ
「おっす、来たぜ」
「帰れ」
バタムッ
朝の魔法の森。
瘴気が満ち、獣が飢え、不思議な魔法使いが多く住む森。
人間からは少々嫌煙されがちな場所だが、想像よりそこまで悪いというわけでもない。
瘴気と獣、妖怪を自力で何とかできるなら、すむことになんら問題はない場所だ。
今は冬ということもあり、普段の瘴気に加えて霧まで出ている。
森に住む者でも迷ってしまうくらいの濃密な霧だった。
ガチャリ
「いきなり酷いぜ。来ちゃ悪いって言うのかよ」
「悪いわよ、帰れ」
バガンッ!
その立地環境とじめじめした気候から、この森に住もうと思う者は滅多にいない。
というか、考えもしない。
たいていの人間は里で守護者に守ってもらいながら、安全に過ごしたいと願うからだ。
つまり、ここに住む人間などはほとんど・・・いや、全てが変わり者だ。
それ以外は人外しかいない。
ガバンッ!
「要件すら聞かないで客人を追い払うとは、なんとも無礼なやつだ」
「どっちが。その口を引き裂かれる前に帰れ」
バゴォンッ!
そして今、変わり者の人間が、人間以外の家を訪れていた。
魔法の森の変わり者としては有名な二人・・・
魔法使い『霧雨魔理沙』と、人形遣い『アリス・マーガトロイド』であった。
カゴオォン!!
「次に閉めたら、この魔砲が・・・」
「咒符『上海人形』」
「え!ちょ―――」
・・・まぁ、来訪者は真っ黒焦げにされてしまったのだが。
「・・・・・・でぇ、何の用なの?」
「まずは謝れと何度言わせる!」
マーガトロイド邸のリビング。
いつもは人形がせわしなく動いているのだが、今日は上海人形と蓬莱人形しか動いていない。
普段の姿を知っている者からすれば、少々寂しくなる光景だ。
「実力行使で魔砲を使おうとした襲撃犯に?」
「ぐぅ・・・」
「お互いさまよ」
「・・・・・・・・・覚えてろよ」
「忘れるわ」
スペルカードが直撃したことで、魔理沙は少々の怪我をしたらしい。
肘や頬に絆創膏が貼ってあるが、大したことはなさそうだ。
手当を終えた人形二体は救急箱をしまうために扉から出て行ってしまった。
「・・・・・・で、話って何?」
紅茶をカップに注ぎながら、アリスは魔理沙を見やる。
ふてぶてしく両足を伸ばし、すっかりおくつろぎモードのようだ。
他人の家でここまでくつろげるのも一種の才能かと思う。
・・・いや、幻想郷にはそんなのしかいなかったか。
「・・・いや、な。一緒に霊夢の家に泊まってくれないか?」
「・・・・・・はぁ?」
話の頭で一瞬だけ見せた陰鬱な表情が気になるが、すぐに意識は要件の内容に奪われた。
ていうか何だそれは。一体どういう誘いなのだ。
「・・・え?何のために?」
『博麗霊夢』
幻想郷に古来から存在する巫女の末裔にして、幻想郷を取り仕切る管理者。
ぐうたらな日常態度からは想像だにできないほどの強力な霊力と勘と才能を持ち、妖怪からは恐れられ、人間には頼られる存在。
霊夢と魔理沙は親友だ。
『腐れ縁』と霊夢は言っていたが、私には同じものに見えた。
なんだかんだ言っていても、どこかでは繋がっている二人が羨ましくも見えたこともあった。
で、だ。
なぜ親友の家に泊まるのに私が必要なのだろうか。
正直、理解できない。
私の反応は予想できていたのか、意にも介さずに魔理沙は続ける。
「いいじゃないかそれくらい。アリスは霊夢の家に泊まるのは嫌じゃないだろう?」
「いや・・・それはそうだけど」
実は。
いや、改まって言わずともみな知っていることなのだが。
最近は、私も霊夢の家に泊まることが多い。
最初は宴会で酔いつぶれたときに泊めてもらっていただけなのだが・・・
幾度となく泊まるうちに、なんてことない日にも泊まるようになった。
大抵は宴会の日にそのまま。後片付けを手伝い、終わった後に霊夢と二人で杯を交わした。
言葉は少なかったがいつも楽しく飲んでいて、心が落ち着くときだった。
そして朝になると魔理沙がやってきて、結局三人で話をしたりする。
口に出したことはないが、私はそれが楽しかった。
昔は顔を忘れられていた時期もあったが、今はしっかりと友達・・・いや、親友と言ってもよいほどに親しくなっていた。
だから、霊夢の家に泊まりにいくことはやぶさかではない。
気になるのは、魔理沙がわざわざ来て、提案したということだ。
今までに魔理沙の提案で三人があつまったことは一度もなかった。
いつの間にか集まっているというのが基本だったのもあるだろう。
最初に見せた影のある表情を思い出し、何かが引っ掛かった。
「・・・なにを企んでいるのかしら?」
カマをかけてみることにした。魔理沙のようなあわてんぼうには効果的だろう。
「え?いやいやいや!なんにもやましいことなんてないって!」
両手と首を振って、全力で否定する魔理沙。
期待したような反応は見られず、ただ必死な姿しか見られなかった。
・・・不安材料は残っているが、とりあえずは大丈夫だろうか。
「本当になにもないわね?」
「霧雨魔理沙の名に誓って、なにもない!」
最後の確認も、よくわからない宣誓とともに返された。
・・・まぁ、これなら大丈夫そうだ。
魔理沙は嘘吐きだが、不誠実というわけでは・・・・・・
・・・・・・考えると不安になってしまった。
だがまぁ、信じるとしようか。
最近は研究ばかりで、霊夢の家に行けていなかったし。
また三人でくだらない話でもするのも悪くない。
「・・・まぁ、ないのなら良いわよ」
「よし!なら決まりだな!」
眩しい笑顔を煌めかせ、魔理沙はガッツボーズをとった。
いつの間に戻ってきたのか、上海と蓬莱がテーブルの上で動きを真似ていた、正直やめてほしい。
「なら、夕方にでも神社に来いよ!先に霊夢に伝えてくるから!」
「え?今日なの・・・?」
それはさすがに急すぎる。
例の日も近いし、こちらにも色々と準備が・・・
「ってコラ!待ちなさい!」
ガチャ
バタァン
「・・・・・・」
疾風怒濤という言葉が頭をよぎった。
深い深いため息をついて、自然と頭に手をやった。
何も聞こうとしない、闘牛のような猛進っぷりは相変わらずだ。
こうなったら魔理沙は止まりはしないだろう。いつものことだ。
まだ研究が少し残っていたが、一度行くと言ってしまったのだ。後日に回そう。
まだ時間はあるのだし。
「・・・・・・上海、蓬莱。準備を手伝ってちょうだい」
気持ちを切り替えて、さっそく準備に取り掛かった。
こういうことは早めに終わらせないと気が済まない性分だ。
素早く終わらせ、残った時間で人形のメンテナンスでもしよう。
ここ最近は研究ばかりだったから、こういう一日も悪くはないだろう。
「さてと・・・・・・さぁ、みんな手伝って!さっさと終わらせましょう!」
号令がかかると同時に、部屋のそこかしこから人形が飛び出す。
人形が舞うことでアリス邸はいつもの姿を取り戻し、騒がしさが生まれた。
初めは思い思いの動きをする人形達。
伸びをする者、槍を振り回す者、眠そうに眼を擦る者、そこらじゅうを飛びまわる者と様々だ。
それらの一挙手一挙動を確かめる。うん、今日も動作に問題無し。
確認が終わってから、一斉に命令を送った。
「整列」
細いその一言で、人形達は一斉に動きを止める。
全員が全員、訓練された兵士のような統率された動きだ。
「じゃあ、取りかかって頂戴」
その言葉が引き金となり、人形は主の思い通りに動きだした。
数十体の人形を不同期で一度に動かす・・・
アリスは、人形遣いとしての本領を惜しみなく発揮し始めたのだった。
せっせと動き回る人形達を見ながら、久しぶりの三人での語らいの時に思いを馳せる。
何を話そうか。何を尋ねようか。
語りたいことは山ほどある。
すでに大切な親友となった二人との、三人でのひととき。
こんなに待ち遠しいことは、他にはないかもしれない。
研究以外の楽しみを、アリスは全力で感じていたのだった。
~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~
「・・・・・・さて、何がいいかしら」
冬
雪が積もり積もっている神社があった。
幻想郷の東の端に存在し、この世界の核とも言える役割を持つ巫女の神社。
博麗神社は、今日も今日とて清閑の一言だった。
普段は何かと妖怪の往来があるこの神社だが、今は季節が季節だ。
ここに集うモノ好きも日に日に減っており、最近は一週間に一人来ればいいほうだ。
神社の巫女である博麗霊夢は、一人の時間を悠々と過ごして・・・いるわけではなかった。
霊夢の冬の仕事は特に多い。まあ、その大半が雪かきなのだが。
山中に位置する幻想郷の冬は、厳しいなんて言葉一つでは言い表せないものになる。
それは今回も例外ではなく、膨大な雪が年季の入った神社の屋根を押しつぶそうとし、境内に人が侵入できないように防波堤を築くのだ。
それゆえ、この時期の霊夢は来客を心待ちにしていた。
普段は、何かにつけて仕事の手伝いをさせようと、躍起になっているのだ。
「この時期なら鍋がいいかしらね・・・それとも、アリスに教わって洋食に挑んでみるとか・・・」
だが、今日の霊夢は労働力探しに必死になっているわけではない。
先ほど魔理沙が来て、アリスと二人で泊まりに来る旨を伝えていったのだ。
ここしばらくは一人でいることが多かったし、また三人で楽しく過ごせると考えると、つい二つ返事で了解してしまった。
了解の返事を聞くや否や、魔理沙は嵐のようにあっという間に飛び去ってしまった。
疾風怒濤という単語が霊夢の胸中にまでも去来した。その勢いには呆れるほかなかった。
「ああもう・・・何がいいかしら。せっかく集まるんだし、なにか相応しいものにしないと・・・」
魔理沙が去ってからは、霊夢はずっと夕食のメニューについて考えていた。
魔理沙は完全な和食派で、アリスは完全な洋食派だ。二人の舌を同時に満足させるにはどうすればいいか、懸命に考える。
「・・・・・・・・・あぁもう!もう鍋でいいわ!決まり!もうぐだぐだ考えるのなんて性に合わないわ!」
考え始めたのは自分自身なのだが、霊夢は勝手に憤り、勝手に爆発した。
ふんっと鼻を鳴らし、早速里へ買い出しに出かける準備を始める。
身だしなみを整え、財布を手にしたところで、ふと気がついた。
あの二人が来るというだけで、舞い上がってしまっている自分自身に気がついた。
気がつき、そして開き直った。
そうだ。私は二人が来るのが待ち遠しい。
馬鹿な話で盛り上がりたい。
笑いながら杯を交わしたい。
ごろ寝をしながら、普段は言わないような内容の話を交わしあいたい。
久しぶりだからか、こうしてわくわくしながら夕食のことで悩んだりもした。
らしくない。
けど、楽しい。
楽しいから、いいじゃないか。
楽しいなら、らしくなくてもいいじゃないか。
財布を袖に滑り込ませ、霊夢は曇天の冬空に躍り出た。
すでに、親友といえるほどに親密になった二人を思う。
あいつらを精一杯もてなしてやろう。
もてなすなんて、この自分がしようと思っていることが今でも信じられないが、そこまで悪くはない。
いや、悪くはないと思えるからこそ、親友なのかもしれない。
そんな他愛もないことを考えながら、霊夢は張り切って飛んで行った。
~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~
「おーい、霊夢!」
「あら、来たわね」
夕暮れ時。曇天の隙間からこぼれる夕日が雪を照らしている。
それをただただ眺めていた霊夢に、上空から魔理沙が声をかけた。
手にしていた湯のみを置き、霊夢は立ち上がる。
「・・・あら、アリスは?」
目の前に降り立った普通の魔法使いに、種族魔法使いの行方を聞いた。
てっきり、一緒に来るものかと思っていたのだが。
「あー。なんか、準備に手間取っていてな・・・とりあえず先にきた」
「準備に?珍しいこともあるわね」
アリスは何事もしっかりと準備をしてから望むタイプだ。
彼女が手間取っている姿など、想像もできない。
だがまぁ、たまにはこういうこともあるのだろう。
そう結論付けて、霊夢は湯のみを手に取った。
実際は少し心配したりしたが、言葉に出す必要はないだろう。
どのようにからかわれるかわかったもんじゃないし。
「じゃあ、アリスが来るまで夕食の準備をしていましょうか」
「なら私はこたつで暖まっているとするぜ」
「手伝うに決まっているでしょうが」
「うへぇ・・・ここに来るまでに体が冷えちまったんだ。少しくらい暖を取ったっていいだろう?」
見ると、小刻みに体を震えさせていた。
普段は見せないような弱弱しい顔で、両手で体を抱きしめている。
・・・卑怯だと思ったが、これは流石に可哀そうだろう。
「・・・じゃあ、温まったら手伝いなさいよ?」
「よっし、まかせとけって!温まったらな!」
・・・ああ、恩情なんてかけるんじゃなかった。
私の言葉を聞いた途端に、魔理沙は先ほどとは打って変わって元気はつらつ。
勢いよく靴を脱ぎ散らかし、縁側から母屋へと侵入した。
これは手伝わないなと確信しつつ、ため息をつく。
長年の付き合いから、こういう場合の魔理沙の行動パターンは簡単に予測できた。
諦めるしか選択肢はなさそうだ。
さっさと部屋に入り、こたつに入り込んだ魔理沙に苦笑しつつ、霊夢も部屋に入って行った。
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「なぁーまだか?まだ駄目なのか?」
「駄目よ。その箸を下ろしなさい」
「でも、煮えちゃうぜ?煮すぎるのもどうかと思うんだが」
「くどい」
結局、全ての準備は霊夢が一人で行った。
すでにこたつの上では、鍋がグツグツと音を立てている。
右手に箸を持ち、左手で鍋の蓋を持ち、すでに魔理沙は臨戦態勢に入っていた。
霊夢は魔理沙を必死に押しとどめる。
「霊夢ぅ、寒空の中をがんばって飛んできたからさ、胃袋が凍えちまってガタガタ震えているんだ・・・」
「よし、唐辛子を食べさせてあげるわ。感謝しなさい」
「冷たいぜ」
「調子に乗るな」
アリスがまだ来ない。
だから、霊夢は食べずに待つ。
魔理沙も最初は従っていたが、飢えが限界に来たのだろう。
ついには殺気を放ち、霊夢を威嚇し始めた。もう我慢できないらしい。
うーうーと唸り声をあげる魔理沙と睨みあい、今にも何かが爆発しそうな張りつめた雰囲気となっていた。
「・・・・・・う゛~まだか!?まだなのか!?」
「まだよ。もう少し待ちなさい」
「うー・・・だってよぉ・・・」
何かあったのだろうか。
言い知れぬ不安が胸をよぎる・・・。
だが、魔理沙が泣きごとを言い始めようとしたとき、勢いよく障子が開かれた。
ピシャリというこぎみよい音が響きわたる。
二人が音のした方向に顔を向けると、息を切らせた人形遣いが一人・・・。
「ごめんなさい!!遅くなったわ・・・」
「早くしろ!手を洗え!席につけ!土下座しろ!」
「こらこら」
アリスを見るや否や、魔理沙は轟々とまくしたてる。
立ち上がり、人差し指をビシィとアリスの額につきたてたりした。腹が減って、気が立っているのだろう。
霊夢がどうどうと魔理沙を落ち着け、とりあえずアリスを座らせた。
「ごめんなさい・・・遅くなって」
「まあ、理由があるんでしょ?何で遅くなったの」
「がるるるるるるる」
「アンタは本当に落ち着きなさい」
座ってから、アリスは霊夢とも魔理沙とも目を合わせようとしない。
何か言い辛い理由でもあるのだろうか。
アリスはもじもじと落ち着きなく体を揺らしているだけだ。
・・・と、唸っていた魔理沙が突然キョロキョロと辺りを見回した。
「・・・む?うまそうな匂いがするぞ!」
「だからいい加減に・・・・・・あら、ほんとだ」
言われてみれば、確かに香る。
この場にそぐわない、甘い甘い香り。
なんだろうと思考をめぐらせるよりまえに、匂いの元はテーブルの上に出された。
「・・・・・・これ、作ってたら遅くなっちゃって・・・」
差し出されたバスケットには、大小さまざまなクッキーが並んでいた。
星型や、陰陽玉をかたどったもの、霊夢と魔理沙らしき輪郭のクッキーもあった。
たしかに、これだけの量をこれだけ手の混んだ形に作っていれば、遅くもなるだろう。
遅れた理由につい顔をほころばせながら、霊夢は魔理沙を見た。
魔理沙は魔理沙で、さっきまで気が立っていたのが嘘のように、満面の笑みを浮かべている。
純粋にうれしいのだろう。魔理沙はよく顔に出る。
「あー・・・これは、まぁ・・・仕方ないな。うん」
先ほどまでの野獣のような気迫はどこへやら、そんなことをいう魔理沙。
それが少しおかしい。おかしくて、笑ってしまう。
「フフフ・・・・・・私たちは気にしてないし・・・むしろ嬉しいわよ。ありがとうアリス」
「え!いや・・・まぁ、そういってくれるとこっちも・・・ね」
申し訳なさそうに俯いていたアリスだったが、今度は気恥ずかしさで俯いてしまっていた。
まったく、可愛いやつだ。
アリスが来たことで、準備はすべて整った。
鍋も煮立って、いい塩梅だ。まさに食べごろと言えよう。
今にも肉に飛び掛りそうな魔理沙をなだめて、三人は同時に手を合わせる。
そして、一言。
心をこめて、この三人での食事を神に感謝する。
『頂きます』
楽しい、三人の宴が幕を開けた。
思い思いに話し、笑い、食べ、呑み、また笑う。
そこには絶えず笑みがあふれていた。
至福の時間というものは、過ぎ去るのも早い。
あっという間に時間は過ぎていった。
~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~
夜も更けて、すでに丑三つ時。
三人の夜はまだ終わらない。
女三人寄れば姦しいとはよく言ったものだ。
広い和室に布団が三つ。
うつ伏せになりながら、互いの話で盛り上がる。
愚痴を言い合い、褒め合い、頷き合う。
雑談は未だに終わりを見せない。
「―――よし、ちょっと聞いてほしいことがあるんだが」
魔理沙は唐突に言い出した。
そのときまで続いていた自然な流れを、少々不自然にせき止める。
よっこいせという掛け声とともに体を起こし、布団の上に胡坐をかいた。
残りの二人はその場を動かず、口を閉じて魔理沙の言葉を待った。
「・・・・・・二人に話しておきたいことがあるんだ」
月が暗雲に隠れていて暗いせいで、魔理沙の顔はうかがえない。
だが、その声色にはいつもの元気はなく、深刻そうにも落ち込んでいるようにも聞こえた。
そんな声を出すなんて思ってもみなかった二人は、
「・・・聞いてあげるわよ」
「まぁ、珍しいことだけど、それだけに放っておけないわね」
自身の言葉で、話を促す。
それに魔理沙は、心の中で一度感謝をして・・・
ゆっくりと話し始めた。
「・・・・・・この話を二人にしたくて、今日これを企画したんだ」
ぼそりと、覇気のない声で話し始めた魔理沙。
緊張は解けることはない。
いつしか体は震えていた。
・・・二人は、どんな反応をするのだろうか。
想像もできない。
想像できないから、話すしかない。
「・・・私な・・・・・・種族の魔法使いになろうと思う」
「・・・・・・!!」
「・・・・・・ッ」
二人の声が、かすかに聞こえた。
驚いたのだろうか。
嫌悪したのだろうか。
まさか喜んだわけではあるまい。
妖怪になるという選択をしようとしていることを、喜んだわけではあるまい。
「一応前から意識して、丹とかも作ってたんだ。失敗続きだったけどな。」
二人からの反応はない。
まずは話しきってしまおう。
それからだ。
「・・・パチュリーにな、話を聞いたんだ。今までにしてきた実験とか、これからしたい実験とかの話」
話の種にと軽く聞いていたが、聞いているうちに耳を離せなくなっていた。
長年のパチュリーの悪戦苦闘。試行錯誤。時折組み込まれるアイデア。どれもこれも探究心をくすぐるものばかりだった。
「でな、話を聞いているうちに思った。100年生きているパチュリーが、これだけしか実験できていない。
まだ、今までの数十倍の実験をやりたがっている。私はどうだ?」
100年生きていると聞いたから、もっと色々な発見をして、もっとたくさんの実験をしていると思っていた。
だが実際は、そんなことはなかった。
100年というものは、自分の想像よりも遥かに短く、儚く、尊いものだった。
「・・・私もやりたい。多くの知識を身につけて、多くのものを集めたい。それには、100年ぽっちの人生じゃ短すぎるんだ。」
スケールの大きいことを知り、集め、実行したいと思っていた。
だが、パチュリーの実体験を聞けば聞くほど、短い一生ではこなせないものだという事実を理解してしまう。
やりたいことはたくさんある。
ありすぎる。ありすぎるのだ。
そして、自分は全てをこなし、全てを手に入れたい欲張りだということも理解した。
だから、なるしかないものだと思った。
「だから、私は妖怪になろうと思っている・・・・・・・・・これを、伝えたかった」
話が終わり、二人の方向を見る。
アリスは問題ないだろうと思っていた。
話によると、アリスも人間から妖怪になった・・・言わば同じ穴の狢だ。
理解もしてくれるし、協力もしてくれると思っていた。
問題は・・・・・・
「・・・・・・本気、なの?」
霊夢は、恐ろしく低い声でたずねてきた。
まるで、死刑執行前の死刑囚の、絶望の声。
顔が見えないことが、その声の不気味さを助長していた。
「ああ、本気だ」
背筋に冷たいものを感じながら、それでもはっきりと言い切る。
ずいぶんと悩んだ。
己の生き方を己に問いただした。
その上での決意だ。霊夢一人の言葉で変えようとは思っていない。
だが、猛反対は受けるだろうと思っていた。
なんだかんだで長い付き合いだし、霊夢によって退治される側になろうとしているのだ。
もし霊夢が「私は妖怪になる」などと言い出したら、私自身は納得できないだろう。
結局は、エゴなのだ。
自分勝手に、自分の人生を選択しようとしているのだ。
自分ひとりで生きているわけではないというのに。
「・・・・・・・・・」
霊夢は黙ったままだ。
私の言葉を受け止めてくれたのか、受け流したのか、何もわからない。
だが、間違いなく怒っているだろうという確信はあった。
根拠はないが、勘というやつだ。
「・・・それで、どこまで進んでいるの?」
霊夢が喋らないのを見て、アリスが尋ねてきた。
私と霊夢に対する助け舟でもあるのだろう。
沈黙というものは、時として思考することすら許さない。
「なにが、だ?」
「だから、捨食と捨虫の術よ」
魔法使いというものは、先天的な者と後天的な者がいる。
後天的に魔法使いという『種族』になる場合、二つのステップを踏むことになる。
そのステップこそが、『捨食の魔法』と『捨虫の魔法』である。
『捨食の魔法』により食事をとらずとも魔力のみで生きられる体になり、
『捨虫の魔法』により不老となって、『種族:魔法使い』は完成する。
「・・・まだ、捨食の魔法の準備中だ。捨虫の魔法なんて調べ始めてすらいないぜ」
「そう・・・その程度の段階で、打ち明けるべきだったのかしら?」
「どういうことだ?」
「そういうことはね、すべてが終わってからの事後報告でいいのよ。どうせ反対されるのだから」
「・・・!?」
アリスの口から、なんとも妖怪らしい言葉が紡がれた。
冷たい声色の、凍えるような言葉。
その言葉に、私は驚きを隠せなかった。
霊夢も衝撃を受けたのだろうか、唐突に立ち上がった。
暗闇の奥に見える人影は、両肩を上下させて荒い息をついている。
「・・・アリス、あんた・・・あんたにとっての友達って、そんなもんなの?」
「ッ・・・何よ!」
私より先に霊夢が食ってかかる。
声は怒気で満ちており、その声がこの場を緊迫したものへと変えていく。
アリスはアリスで、らしくなく声を荒げて立ち上がる。
「相談しようって、そういう気にはならないのって聞いてるのよ」
「ならないわね。したら反対される相談なんて、するわけがないでしょう!」
「だから!相談してほしいとか、せめて一言言ってほしいとか!そう思っている私たちは・・・私はどうなのよ!?」
「・・・私の一生をどう決めても、私の勝手でしょう?」
「・・・・・・なによ・・・!」
発展していく言い争いを聞きながら、私はどちらにも共感していた。
友達として知りたいと言う霊夢。
己の道は己のみで決めるアリス。
どちらも正しくあり、どちらも引けるものではない。
そして、そのどちらも選ぼうとしている私が、一番間違っているのではないかとも思えた。
魔法使いとしての自分も、反対してくれる友人も、どちらも欲しい欲張り者。
霊夢が絶対に認めないと言うのならば、
この選択で友情が壊れると言うのならば、
どちらか一方は捨てなければいけないのかもしれない。
「・・・・・・」
「・・・・・・」
いつしか言い争いはおさまり、気まずい空気だけが残っていた。
痛い沈黙。
熱く滾っていた先ほどまでとは違い、まるで氷点下のようなヒリつく空気。
およそ3分もそうしていると、影が沈黙を、静かに壊した。
「・・・私はね、アリスも魔理沙も親友だと思ってるの」
霊夢は細々と話し始める。
その声色に、今はもう怒気は含まれていない。
「人間も、妖怪も、私を『博麗の巫女』として見る。『博麗霊夢』として見てくれることはなかった。
里の人間は巫女様と崇め、妖怪は巫女を恐れ、同世代の人間は腫れもののように扱う。
『巫女』は沢山の人に囲まれているけれど、『私』はいつも一人だった。
だから・・・初めて『私』を友達って言ってくれたあんたたちが・・・私は大好きよ」
いつになく、霊夢は素直に己をさらけ出した。
普段だったら口が裂けても言わないようなことを、まるで確認しているかのように丁寧に語る。
それを二人は聞き入っていた。
「あんたたちが大好きで、大切で・・・だからこそ、こうして語りあいたいし、相談もしてほしい」
「・・・・・・」
「・・・・・・」
「そして大切だから・・・・・・私は私のエゴを通したい。魔理沙に妖怪になってほしくないの・・・」
そう言うと、霊夢は黙ってしまった。
影がパサリという音を立て、布団に座り込む。
それっきり、沈黙が訪れた。
私は、嬉しさでいっぱいだった。
普段はあまり内面を見せない霊夢が、こうして想っていてくれたことが、とてもうれしかった。
そして同時に、申し訳なさが心を蝕み始めた。
ここまで想っていてくれているとも知らず、私は私のエゴを通そうとしている。
負い目・・・のようなものを感じている。
「・・・もう・・・気持ちはわかるわよ」
今度は、アリスが喋りだした。
こちらも、先ほどまでの冷たさは感じられない。
それどころか・・・
「痛いくらいわかるわ・・・」
今にも泣き出しそうなか細い、湿った声だった。
聞いたこともない声色に、驚きが顔に出る。
だが、それもすべて闇にまぎれて相手に届くことはない。
アリスも座り込んだのだろう、影が揺れ動き、布がこすれ合う音が響いた。
「・・・妖怪としてこっちにきて、ここまで仲良くしているのはあなたたちだけ。
まぁ、腐れ縁みたいなものかもしれないけど・・・少なくとも、居心地はいいわ。・・・良すぎるのよ」
優しい、温かい声色でアリスは語る。
やはり、嬉しかった。恐らく霊夢も同じ気持ちだろう。
アリスは続ける。話すうちに、その声に悲痛なものが混じり始める。
「・・・あなたたちに言ったことはないけど、私は怖いの。
いつの間にか私の中であなたたちの存在は大きくなってしまった。
多分これから、もっともっと大きくなっていく」
湿っぽい声が、だんだんと湿った声へと変化していた。
まだ話を聞き終わっていないにもかかわらず、悲しみが自分の心に伝播してくるのがわかる。
すすり泣く声を耳にしながら、目から溢れそうになる悲しみを、必死に押しとどめた。
「大きくなって、大きくなって、大きくなって!
一番大きくなった時に、あなたたちはいなくなってしまう!
私を置いて!二人だけ消えてしまう!!そんなのは嫌なのよ!」
免れぬ別れ。
死は等しくこの世を飲み込む。
だが、飲み込む速さというものはすべて違う。
セミならば、地上に出てから一週間。
ヒトならば、生を受けてから長くて百年。
ヨウカイなら・・・・・・わからない。
わからないが、人間とは桁違いの年数を生きることになるだろう。
「消えるの!あなたたちが消えてしまうの!今どれだけ大切でも、200年後はどうかしら?500年後は?1000年後は!?
今のあなたたちがこんなに大きいのに、それをいつか、全て忘れてしまうかもしれない!それが怖いの!!」
最後はもはや、叫びだった。
泣き声のままに吐き出された想いは、私たちの心を揺さぶる。
ガタガタと。ガタガタと。
心のうちを吐露したアリスは、少し間をおいてから話続ける。
「・・・大事なことを相談するのが友達ってやつなら、私にも言わないといけないことがあるわ
話すべきだとは今まで思っていなかった。でも、話すことで霊夢が嬉しいと感じるなら・・・話したい」
それを聞き、霊夢は口を開いた。
「是非、聞かせてほしいわ」
「どんな内容でも?」
「・・・聞きたい」
その頑なな返事を聞いてから、アリスは大きくため息を出した。
そして、想像だにしていなかったことを話し始めた。
「・・・・・・実はね、私はまだ人間なのよ」
「・・・え?」
「はぁ?」
「捨食の魔法を習得しただけの、人間の魔法使い。それが今の私、アリス・マーガトロイドなの」
衝撃が大きすぎて、よくわからなくなった。
今まで根底にあった常識が、音をたてて崩れていく。
アリスという存在の概念が、瞬く間に壊れていく。
否、壊されていく。
まぎれもない、アリス本人によって。
「・・・魔界で魔法使いの修行をしていた私は、すぐに捨食の魔法・捨虫の魔法を会得した。でも、そのころの私はまだ幼かったわ。」
確かに、あのころのアリスは自分たちよりもはるかに小さい子供だった。
その容姿は今でも覚えているが、今のアリスとはまったくの別物だ。
再会したころは、まるで別人のようになっていて驚いたものだ。
「一度捨虫の魔法で不老になると、一生をその姿で過ごすことになる。幼い姿が嫌だった私は、体が完全に成熟するまで捨虫の魔法を使うのを待つことにしたの。
魔法で成長促進をしながら、この幻想郷で研究を進めることにして・・・・・・今、ここにいるわ」
「・・・てことは、なんだ?アリスはまだ人間・・・なのか?」
「だから、そう言ったじゃないの」
信じられずに聞いたら、さらりと返されてしまった。
あっけにとられつつも、霊夢の方を見る。
それと同時に、霊夢が口を開いた。
「私たちは・・・まだ、同じなの?人間の友達なの?」
「食事を必要としなくなった時点で完全に同じとは言えないと思うけど・・・まだ、私は人間よ」
「そう・・・なの」
驚き以外が感じられない。
脳は活動をやめ、自分の時間は止まってしまっている。
だが、その衝撃が和らぐにつれて・・・自分の本心が顔を出した。
アリスは、私たちと違う種族。
それを意識するたびに、なんとも言えない気持ちになった。
決定的に違う生き物だということで、悲しくなることもあった。
友達としてやっていくことに不自由もあった。
ほかの人間から奇異の目で見られることも多々あった。
だからだろうか。
私は今、とても・・・
とても、嬉しい。
これから人間を捨てると、数分前に言った者が感じるべきではない感情かもしれないが、
確かに今、私、霧雨魔理沙は喜びを感じている。
~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~
月が、雲の隙間から顔を出したらしい。
うっすらと外が明るくなり、互いの顔が見えるようになった。
目の前にいるアリスの口は、すでに閉じていた。
アリスの言葉を飲み込んで、理解した。
そうしたら、たまらない喜びが湧き上がってきた。
巫女としての私にとっての数少ない友人が、人間だった。
これほどに嬉しいことはない。
なにより、いつまでも一緒に生きられる。
そう、死ぬまで一緒に生きられる。
一緒に年老いて、無二の友人として同じ土に還ることができる。
それを理解し、泣きそうになっていた。
すると魔理沙が、ある当然の疑問を口にした。
「・・・なぁ、人間だっていうなら、なんでさっきはあんなに悲しんだんだ?まだ妖怪じゃないんだろ?」
確かにその通りだった。
さっきアリスは、「同じ時を生きられない」から泣いたのだ。
アリスが人間だとするならば、悲しむことなど何もないはずなのだ。
その不可思議な行動に思考を巡らせるうちに、アリスは言った。
「まだ、ね」
「・・・どういうことだ?」
「まさか・・・あんた」
「そうよ。私は・・・・・・妖怪になるわ」
わけがわからなかった。
思考は停止し、先ほどからの情報が頭で渦を巻く。
「あなたたちは、私にとって大きな存在。だけど、私にはそれ以上に大切なことがあるの」
「・・・・・・大切な、こと?」
「そう、私の、生きる目標。生きる意味」
力強くアリスは語る。
普段の飄々とした態度からは想像もできない、真摯で、想いの籠った声。
「私の夢。人形遣いとしての夢。自律人形の制作よ」
「・・・!」
そう、私も、もちろん魔理沙も知っているアリスの夢。
人形遣いとして、今までに誰も達せなかった境地。
「私は、それを作りたい。作りたいから、今までも・・・これからも人形を作っていくわ」
周知の事実を今更ながらに突き付けられて、私は戸惑った。
戸惑ったが、ある種当然の疑問を・・・微かな希望を持って突き付ける。
「その夢は・・・妖怪にならないとかなわない夢なの?」
「・・・・・・」
「違うわよね?人間でも出来るわよね?それくらいのこと、アリスならやってのけるわよね!?」
最後は、気づかぬうちに叫びとなっていた。
そうだ、そうだ、そうだ。
妖怪にならなければ作れない?馬鹿げている。
馬鹿げているじゃないか!?
「霊夢・・・」
荒げた声を制止させたのは、アリスではなく魔理沙だった。
どんよりと、重い声。
その声が、心のうちに灯っている、希望の灯を食い散らす。
「私は・・・前にアリスに聞いたから知っている。これは、今の世界の技術じゃあ到底無理なんだ。無謀な試みなんだよ」
無理?
無謀?
「例えば、石は喋るか?机は歩くか?紙が自分の行動を制御できるか?」
なんだ、それは。
そんなこと、無理に決まっているじゃないか。
それが妖怪にでもならない限り、土台無理な話だ。
「つまり、アリスがやろうとしているのはそういうことなんだよ。人形は、喋らない。歩かない。物事を判断できない」
「・・・待ってよ・・・アリスの人形は喋るし、歩くし、簡単なことなら自分で判断できるじゃない」
「違う、そうじゃない。喋るのはそういう魔法。歩くのは魔法の糸での操作。判断は、本当に簡単な特定の行動しかできない」
「それなら・・・それだけできれば!」
「無理だ。ここから先に進むための技術は、そうやすやすと見つかるものじゃない」
なんとなく、理解はできていたのかもしれない。
共同で研究を行っている魔理沙のいう言葉なのだ、まず間違いは無いのだろう。
でも、だからと言って納得なんてできなかった。
「・・・そう、魔理沙が言ってくれた通り、そんなに簡単なことじゃないの」
静かに、アリスは言った。
その静けさが、冷淡に見えてしまう。
その冷静さが、私を押しつぶす。
「じゃあ、なによ・・・アリスは人間をやめたいっていうの!?」
押しつぶされていた私は、自分がどんなことを言ったのかもわかっていなかった。
「―――――っっっそうじゃないていってるでしょう!!?」
「ひっ!?」
「!!」
だから、烈火のごとく怒りだした理由を、理解するのに時間がかかった。
「初めはそうだったわよ!夢だけ追っていれば良かった!他に大切なものも、必要なものもなかった!」
顔を真っ赤にして、怒鳴り散らす。
怒鳴る姿を見たのも初めてで、
アリスに怒鳴られたのも初めてで。
「なのに、なによ!突然私の前に現れて、再開して!勝手に私の心に入り込んで、勝手に大切になって!!」
無茶苦茶言っていることは、誰もが理解した。
だが、その無茶苦茶な激情こそが、今の三人を結んでいることも理解していた。
「私だって、ならずにかなえられる夢ならそうするわよ!人間の寿命じゃ足りないのよ!足りないから、それでもなろうとしているんじゃないのよ!!」
ハァハァと肩で息をつくアリス。
圧倒された、残りの二人。
圧倒されながらも、霊夢は嬉しかった。
それと同時に、哀しかった。
アリスは、私達との関係をここまで大切に想ってくれていた。
その一方で、アリスは夢を決して諦めることはない。
そして、夢と私たちを天秤にかけた時、夢のほうが重い。
嬉しかった。
哀しかった。
大切に想われていて嬉しかった。
夢には敵わない事が哀しかった。
「・・・ごめんなさい」
霊夢は一言だけ謝り、頭を下げた。
それを見てか見ずにか、アリスは口を開く。
「・・・私は、夢を追うわ」
「・・・・・・」
「次の満月の夜に、私は名実ともに妖怪になる」
その返答は、冷え切った空気に溶け、消えていった。
~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~
数日がたった。
アリスは、自分の家の居間にいた。
居間で一人、すでに冷めきったコーヒーを混ぜる。
周囲には、常にいる人形が一体もいない。
今日は、人形を繰る気分ではなかった。
銀のスプーンをくるくる回しながら、アリスは考える。
考えるのは、数日前の博麗神社でのこと。
夢を追うと宣言した、あの夜のこと。
正直なところ、嬉しかった。
魔理沙が同じ種族を目指すことが、嬉しかった。
霊夢が人間に引き止めてくれたことが、嬉しかった。
二つの想いは矛盾していた。
かちゃかちゃ かちゃ かちゃ
結局、一緒に居たいという気持ちに嘘は無いのだ。
だから、どちらの道を選んでもどちらかと居られるという事実に若干の安堵を覚え、
そして、安堵した自分を心の中で非難した。
駄目だろう、二人だけは。
いるのなら常に三人一緒だ。
かちゃがちゃ がちゃちゃ
相反する二つの感情。
感情としてのベクトルは同じ向きを向いているのに、結末は全く正反対。
どちらも取れる位置に居る。
どちらかしか取れない位置に居る。
かちかちゃちゃ がちゃ
私は、今、どうしたいのだろう。
夢を追いたい。この気持ちは間違いなく本物だ。
二人と同じ時を生きたい。この気持ちも本物。
・・・なんだ、どちらも取りたいのではないか、欲張りめ。
がちゃ ちゃ かちっ
どちらも取りたい。
どちらかしか取れない。
どうすればいい。
どうすれば。
かちっ
「・・・・・・」
腕の動きは止まり、思考も止まる。
私は何を考えているのだろう。
最初から決まっていたのではないのか?
夢を追うために人間を捨てる決心をしたのではないのか?
いまさら、それが、いまさら・・・
「・・・霊夢・・・魔理沙」
なぜだ、なぜだ。
なぜここまで必要としている?
なぜここまで大切にしている?
わからない
わからないわからないわからないわからないわからない
わからないけど、駄目なんだ。
大切なものは大切なんだ。
ちゃ かちゃ
スプーンは回りだし、思考も巡りだした。
終わりの無いメビウスの輪の上を、譲れない思いは回り続ける。
どう抜け出せばいいのかわからぬまま、今日もアリスは考える。
満月の夜まで、あと4日。
~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~
数日と1日がたった。
魔理沙はベッドの上に横たわっていた。
眠るわけではなく、体をゴロゴロと左右に揺れ動かしている。
これは、彼女が物事を考えるときにするしぐさだ。
なのだが、今回は考えにも気持ちにも、まとまりがつかない。
私は、妖怪になろうと一度は決心した。
そして、そのことを公言するために、この間の宿泊会を企画した。
そうだったはずだ。間違いはない。
だが、霊夢の想いを知り、アリスの真実を知り、私はどう思った?
どたん ばたん
魔理沙は左右に動くことをやめた。
代わりに、うつ伏せになり水泳選手のように足を交互に上下させる。
右足を上げては叩きつけ、左足を上げては叩きつけ、
ギシギシというスプリングの暴れる音を聞きながら、規則正しく動かした。
どたん ばたん どたん ばたん
嬉しかったんだ。
霊夢が引き止めてくれたことが嬉しかった。
アリスが妖怪じゃ無かったことが嬉しかった。
だから、自分の決心ってやつを疑わざるを得なくなった。
どたん ばたん がたん どたん ばたん どたん
今、私はどうしたい?
人間のままでいたい?それもある。
妖怪になりたい?それもある。
三人一緒に居たい?それが一番ある。
どたんばたんどたん がたん どたん
なんだ、そうか。
私はとんだ卑怯者じゃぁないか。
どたん どたばたん
両足の動きを止め、魔理沙はクックッと笑いだす。
ハッキリとしていた。
結局、あの宿泊会自体に意味は無かったのかもしれない。
この結論に至った時点で、私にとっては無意味なものだったのかもしれない。
そうだ、そうだ、そうだ。
簡単なことじゃないか。
結局、私にとっての一番は、「三人がいい」ってことだったんだ。
私は、一人が嫌なんだ。
妖怪になると決めた時は、妖怪になってもアリスと一緒に居られるという算段があった。
今はどうだ?アリスが妖怪じゃ無かったと知って、私の心は簡単に「妖怪になること」を諦めている。
今ならみんな人間だから。
今のままなら、みんな一緒だから。
どちらにも進める自分が有利だと感じている。
このポジションがおいしいと思っている。
なんだこれは、病気じゃないか?
もともとは見ず知らずの赤の他人だった二人に合わせて、どうして自分の人生まで変える?変えたがる?
私には私の人生があるんじゃないのか?
種族:魔法使いとして華麗にデビューを果たして、古今東西世界中の「智」を知りつくし、新たな「智」を発掘するんじゃないのか?
それが、私が今一番やりたいことじゃないのか?
・・・・・・
・・・
まぁ、考えても仕方がないか。
だって、大切なんだから。
大切で、貴重で、無二で、掛け替えの無い存在。
きっとこれは、恋と同じものなんだと思う。
三人は三人で恋をし合って、それに縛られている。
うん、そう考えたほうがしっくりくる。
友情で人生を決めるってのが現実味が無かったんだ。
恋で人生を決める・・・うん、これならしっくりくる。
実際は、友情だとしても。恋に限りなく近い友情だとしても。
それならば、自分の行動に説明が付けられる。
これが恋なら、親愛なら、迷うことなどないだろう。
私は恋の魔法使い。二人に恋をさせ、二人に恋をした。
なら、全てまるくおさめるにはどうすればいい?
決まってる。
二人を奪い、私を奪ってもらう。
「―――ぃよおっし!!」
寝転がったまま、腹から気合の一声を吐き出し、信念を込める。
すっきりはっきりした。ここ数日、胸にかかっていた霧は、見事に消え去った。
すっきりした気持ちで、ハッキリした頭で、魔理沙は思考を巡らせ始める。
霊夢は大丈夫だ。
あいつはもうメロメロだ。三人で居ることしか考えていない。私と同じだ。
問題はアリスだろう。
あいつは己の夢のためにここまで一直線に進んできたやつだ。
その決心の強さは誰よりも知っている。
・・・なら、どうしようか
ばたん どたん
アリスは人間のまま?妖怪になる?
どちらにしても、三人一緒だ。じゃなきゃだめだ。
なら、他に道はあるか?
どうすればいい・・・
どうすれば三人いっしょにいられる?
どたん ばたん がたん ばたん
満月の夜まで、後3日。
~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~
数日と2日がたった。
博麗神社の母屋の縁側。
そこで、博麗霊夢は考える。
曇った寒空の下、普段と変わらぬ格好で。
ここに居ると、あの日の宴会での事を思い出す。
馬鹿みたいに呑み、食い、騒ぐ、一晩中賑やかな夜のことを。
そこで見事に酒に飲まれた人形遣いが一人。
あれほど自分を失ったアリスを見たのは、あの時がはじめてだった。
『れいみゅ~・・・だめ、かえれないわー。きょーは泊めて~』
物珍しいとは思ったが、正直鬱陶しいことこの上なかった。
酔っ払いの介抱という仕事が増えたのだから。
布団に寝かしつけると、何ともだらしない緩んだ顔で、すーすーと寝息を立てていた。
普段の冷静な・・・冷淡さという名の仮面をつけて人と関わろうとしないアリスはそこにはいなかった。
居たのは、可愛らしい寝顔で幸せそうに眠る、一人の酔っ払い。
翌日、宴会の後片付けをするために早起きをしたのだが・・・すでに片づけは終わっていた。
萃香がやってくれたのだろうか?いや、あの鬼は皿洗いなんてデリケートなことはできまい。
居間に移動すると、普段通りのアリスが、普段通りに人形の手入れを行っていた。
『あら、おはよう霊夢』
『おはようアリス。よく眠れたかしら?』
『おかげ様で。酒に飲まれたみたいで何も覚えていないわ』
人形の手入れはまだ終わらなさそうだったので、茶を淹れることにした。
水を入れたヤカンを火にかけ、とりあえず居間に戻る。
せっせと人形の服のほつれを直すアリスを眺めながら、向かいに腰かけた。
『・・・片づけはあんたがやってくれたの?』
『まぁね、一宿一飯の恩義ってやつよ。気にしないで』
なんともまぁ、普段通りだった。
この、おせっかいなのに人を寄せ付けない感じ。
それが少し気に食わなかったから、ちょっと苛めてみることにした。
『・・・そうねぇ、れいみゅ~かえれないの~泊めて~だものね』
『ブッ!?』
『それくらいはやってもらわないとねぇ。割に合わないわ』
驚きのあまり、何も口に含んでいないのに吹きだした。無駄に器用な奴め。
目をぱちくりさせながら、こちらを凝視するアリス。
顔はいつの間にか紅くなっていた。
これはおもしろい。
『そ、そんな・・・え?私が・・・』
『あんなだらしない顔で寝て・・・よだれまで垂らして。幸せそうだったわよ~?』
『えぇ!?う、嘘よ!嘘でしょ!?』
『なんで嘘なのよ?私はね、ベロベロになったあんたを介抱してあげたのよ?その時にあんたのあられもない姿を見てもなんらおかしくは無いじゃない?』
『え・・・そんな・・・うえぇぇぇ・・・』
茹でダコだ。茹でダコがいる。
今までに見たことない、新鮮な表情。生きた表情。
笑いをこらえながら、それを見ることも楽しんだ。
『フフ・・・冗談よ』
『なっ・・・霊夢!!』
『よだれの部分はね』
『うわあああぁぁぁぁ・・・もうやめてぇぇ・・・』
今思うと、あの時からだ。
アリスとより深い関係になったのは。
以前から腐れ縁のような感じで付き合ってはいたが、どこかしらに壁があった。
アリスが張り続けていた壁が、あの時から無くなり・・・今はもう、掛け替えの無い友となっている。
次に、魔理沙のことを思い出す。
あの傍若無人な魔法使いとは、いつからの付き合いだっただろうか。
・・・正直、覚えていない。
あの馬鹿は、誰とでもすぐに打ち解ける・・・いや、誰の心にも入り込み、盗み取ると言ったほうがいいだろうか?
その最初の被害者は、恐らく私だろう。
アリスのように、いつから仲良くなったなどという記憶は一切ない。
だけど、じんわりと、ゆっくりと、あいつに心を絡めとられていたことは確かだろう。
・・・本当に、どうしてこうなったのだろう。
確かに私は、来る者拒まず去る者追わずだった。
だが、ここまで私の心に踏み込んできたのは、あの二人だけだ。
ずいずいと、遠慮容赦なく土足で入ってくる魔理沙。
いつの間にか、ストンと隣に収まっているアリス。
私にだって、絶対に入り込ませない心のバリケードはあった。
それまでは、完璧に守り通してきた。
・・・私の心は、ザル警備だったのだろうか。
知らず知らずのうちに心の一番深いところに入り込まれ、そこに二人は住み着いてしまった。
もはや取り除く術はない。
・・・なのに、なのにだ。
それなのに二人は妖怪になり、私を置いていってしまうと言うのか。
魔理沙が妖怪になると言った時、私を絶望が支配した。
逆にアリスが人間だったと知った時、私はたまらなく嬉しかった。
だが結局、状況は悪いほうにしか変わっていない。
魔理沙もアリスも妖怪になり、長寿を手に入れたとしたら・・・
私は、私だけ、一人先に逝ってしまう。
二人は永い時を歩むと言うのに、私の時はあっという間に止まってしまう。
寂しい、悔しい、そして怖い。
アリスが言っていたことが、今になってようやくわかった。
もし二人が長寿になり、100年、1000年、10000年と生を重ねていって・・・私は覚えていてもらえるのか。
アリスが危惧していたように、永い永い時間が脳を、記憶をすり減らし、私のことを忘れさせてしまうのではないか。
三人が、いつの間にか二人になってしまうのではないか。
嫌だ。それは絶対に嫌だ。
こんなに二人が好きなのに、忘れられてしまうの?
私の中にこれだけ踏み込んでおいて、どこに入り込んだか忘れてしまうの?
嫌だ・・・
嫌だ・・・
いやだ・・・
ピィィィッィィイイイイイイイイイイイイイイイイ
「――――っあ!」
霊夢はあわてて縁側から立ち上がり、台所に向かった。
沸騰して蒸気を吹き上げるヤカンの火を止める。
ピイイイイイイィィィィィィ ィィ ィ
「・・・・・・」
寂しくて、辛くて、いつかくる『いつか』が怖くて。
でも、私には二人を止める資格は無い。
二人の夢を妨げることは、私にはできない。
それは、わかっていた。
わかっていた。
わかっているから、それが切迫感になって、心を押しつぶそうとしている。
置いていかれてしまう。
私だけ、置いていかれてしまう。
ゆっくりと蒸気を上げるヤカンを見つめながら、霊夢は台所に立ちつくして考えていた。
どうすれば置いて行かれないか、考えていた。
満月の夜まで、後2日。
~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~
数日と3日がたった。
この日、アリスは飛んでいた。
どこまでも高く、蒼い空を飛んでいた。
山々の緑は力なく、葉をつけない木も数多い。
寒風がビュウビュウと吹きつけ、体温を奪おうとしてくる。
そんな、厳しい寒さの日だった。
しばらく飛んでいると、アリスは目的地を目に捉えた。
人間の里の近くに建つ、古びた寺。
名を、命蓮寺。
入り口に降り立ち、寺を見渡す。
最近できたとは思えないほどに古びた外装だった。
だが、古びているが故の荘厳さも確かにかねそろえていた。
そうして見ていると、ガラリと戸が開いた。
見ると、寺の住職・・・お目当ての人物が出迎えてくれたらしい。
「いらっしやいませ、命蓮寺へ。あなたが・・・」
「ええ、手紙を出したアリス・マーガトロイドよ」
「お待ちしておりました。さぁ、中へどうぞ」
アリスのお目当ての人物・・・聖白蓮は、屈託の無い笑顔でアリスを迎え入れた。
~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~
その日、その時、魔理沙は紅魔館の地下に居た。
お目当ては、地下図書館の魔法書。
いつものように力任せで乗り込んで、手当たり次第に本棚を漁っていた。
「・・・出した本は、元の場所に戻しておきなさいよ」
そう注意するのは、この図書館の主であるパチュリー。
出しっぱなしの本の山が次々と量産されていくのを見かねての注意だった。
「あーはいはい、わかったわかった」
だが、注意されている本人の返事からはその気が全く感じられない。
これは、このまま放置されるのだろうな・・・
そう悟ったパチュリーは、後に残る片づけのことを考えてため息をついた。
まぁ、片づけは使い魔が行うので、実際のパチュリーの負担はゼロなのだが。
魔理沙は、アリスの魔法を手助けしようと考えた。
結局のところ、3人が一緒でさえあれば魔理沙はかまわないのだ。
なら、アリスの夢を尊重しつつ、共存の道を探すのが賢明だと考えた。
ここで調べることは、後々自分が妖怪になる時に役に立つ。
そういう打算もあってのことなのだが。
霊夢のことは、後で考えることにしよう。
まずは明日のことだ。これが最優先事項だ。
霊夢一人を置いていくわけにはいかない。
だから、霊夢にも提案しようと考えていた。
・・・そう、妖怪になるという選択肢を。
友愛で歪んだ打算を巡らせながら、魔理沙は次の本棚を探すために移動した。
~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~
風流な佇まいの個室。
そこで正座をする二人の少女。
出された茶を一口飲み、アリスは白蓮を見た。
「手紙で、話したい内容は伝えたわ。今日は、聞きに来たの」
ハッキリとした口調で白蓮に意思を伝える。
白蓮は薄く微笑んでいた。
その笑顔があまりにもまぶしすぎて、逆に気味が悪くなった。
「そうですね、確か、『どうして種族の魔法使いになったのか』という話でしたね」
コクリと頷くアリス。
魔理沙から、白蓮が大先輩にあたることは聞いていた。
だからこそ思った。
どうして魔法使いになったのか。
今の生活はどうなのか。
それが知りたかった。
首を振ったのを確認してから、白蓮はゆっくりと語りだした。
「簡単なことですよ、死ぬことが怖かったんです」
「怖かった・・・そんなことで?」
「ええ、そんなことでです」
想像していなかった答えに、若干あっけにとられた。
だが、白蓮の表情を見て理解した。
先ほどまでの笑みはなりを潜め、いつしか険しい表情になっていた。
真剣であることを、理解した。
「私は死ぬのが怖かった。怖くて怖くて、狂いそうになりました。あるいは、その時にすでに狂っていたのかもしれません。
それに耐えることはできず、この道に逃げ込んだのです。人間を捨て、若さと寿命を取ったのです」
「・・・・・・」
それはなぜ?
とは聞けなかった。
というよりも、口が動かなかった。
白蓮の眼力に気押されてしまったのか。自分でもわからない。
「・・・お手紙には、捨虫の法を使うか迷っている・・・と有りましたが」
「・・・・・・ええ、そうよ」
アリスは、相手から喋る機会を与えられて、ようやく口を動かすことができた。
いまだに鋭い視線が刺さるが、答えるときは答えねばなるまい。
アリスは、今回話を聞くにあたって、全ての事情を手紙で説明してあった。
人間を捨てることを悩んでいることも・・・その経緯も。
「私にしてみれば、一緒に『死にたい』などと思える精神が理解できません。
みんな一緒がいいなら、全員で魔道に堕ちればいいのではないですか?」
「・・・私一人で決められることではないわ。それに、一人は巫女。巫女のような聖職者に、そのような選択肢はあるというの?」
「確かに、あるかも知れなければ無いかもしれないです。それはわかりません。」
霊夢は巫女だ。
この幻想郷の管理も行っている、由緒正しい巫女なのだ。
その彼女が魔に落ちる道を選択するとは、アリスには考えられなかった。
よしんぼ霊夢にその気があるとしても、方法がわからない。
もしかしたら聖職者の場合は、方法が無いかもわからない。
・・・なにより、アリス自身が嫌だった。
巫女であるということは、霊夢にとってのアイデンティティの一つ。そう感じていたからだ。
霊夢自身がどう思っているかはわからないが、人間でいてほしいというのも、アリスの正直な気持ちなのだ。
その一方で、ずっと一緒に居たいという思いも勿論持っており、それらが混ざりあう。
矛盾だらけの自分の心がわからなくなる。見失う。
どこかしらは割りきらねばならないというのに。
「・・・それで迷っているのですか。歩めぬ者がいるのならば、捨て置くのも手でしょう。己の生は、何よりも優先されるべきものです」
先ほどから露わになっていた、白蓮の死への恐怖。
それを考慮すると、なんともらしい言葉だと感じた。
なによりも生を重視する住職。
ここにも矛盾が一つ。
「元聖職者の言葉とは思えないわね」
「失敬な。私は今でも聖職者のままですよ。特に妖怪に対しては」
「なら、元人間の言葉とは思えないと言ったほうがいいかしら」
「それは・・・私もそう思います」
可笑しそうに笑う白蓮。
笑顔がこれほどまでに似合う人物を、アリスは知らない。
良い意味でも、悪い意味でも。
ひとしきり笑顔を見せた白蓮は、少し表情を変えた。
それも確かに笑顔だった。
だったのだが、その目はアリスを見ていない。
どこか遠く・・・夢想の彼方を見ていた。
「あるいは・・・生を伸ばす道がありながら、それよりも『共に死ぬ』という選択を選ぼうと思えるあなたは、何者よりも幸せなのかも知れませんね」
「・・・・・・え?」
その言葉に、アリスは固まった。
心も、体も、全てがプツリと動くことをやめる。
「例えばの話です。自分の親が死ぬ時・・・あるいは死んだ時、自分も死にたいと思いますか?
両親と一緒が良かったからと言って死にますか?死なないでしょう。」
「・・・・・・」
「親子の絆以上のもの・・・自分の生と天秤にかけられるものが、そこにあるということではないですか?」
「・・・・・・」
そんな考え方をしたことは、無かった。
そこまで深いものだとは、思ってなかった。
あの二人の存在が、命よりも重いものだなんて。
「とても素敵だと思いますよ。・・・・・・理解はできませんが」
一言最後に付け足して、白蓮は口を噤んだ。
アリスの目の前で、自分用の茶を一口啜る。
二人とも、喋らない。
否、アリスは喋れない。
頭が整理しきれず、追いついて来ていなかった。
混乱が脳に満ち、それを整理することで手いっぱい。
その様子をしばらく見ていた白蓮は、湯呑を置いてから、静かに沈黙を壊しにかかった。
「・・・それで、他になにか聞きたいことは?」
「え・・・あ・・・」
その言葉を聞いて、アリスはようやく我に返る。
目の前には、大先輩の魔法使いが一人。
聞きたいこと・・・
そんなことを言われても、困る。
今知りたいと思えることなんて、自分の心以外は何もない。
それ以外に無くなってしまっていた。
だから、アリスはストレートに聞いてみることにした。
「・・・さっき言っていた、親子の絆以上の何か・・・それって、一体何?私にはわからないの・・・」
なにもわからなくなり、不意に心が蝕まれた。
何に浸食されたのかは分からない。
不安?期待?怒り?絶望?希望?
「私の主観になりますが、それでよろしければ」
「構わないわ」
即答するアリス。
白蓮はもう一度湯呑に口をつけ、唇を濡らしてから語りだす。
「・・・愛です」
「あ、愛・・・?」
「そうです。あなたは、その二人を愛している。親よりも、他の何よりも」
考えたこともない言葉。
あの二人を、自分が『愛』している。
驚きは今までで最も大きかった。
だが、ストンとおさまった。
頭が納得する前に、心のもやは晴れていた。
今まで求めていたモノが、降って湧いたかのようだった。
「愛とは、惜しみなく与えるものなのです。私は妖怪を愛し、護るためにこの寺を『与え』ました。
あなたは二人に対し、己の人生を『与え』たいと考えてしまっている」
「愛・・・だと?」
「そうです。変な意味ではありませんよ?素晴らしく美しくて、綺麗で・・・脆い。友愛だと思います」
『友愛』
その一言をあてはめた途端、全てがハッキリとした気分になった。
愛などという感情は、今まで理解できていなかったが・・・
これが愛だというのならば、納得がいく。
最も優先するべき『夢』を捨てるなどと考えてしまい、自分がわからなくなって。
あの二人を自分の人生よりも優先していると指摘され、またわからなくなった。
だけど、それが愛だと言われて・・・
自分の心に指標をもらえた気がした。
すべてこの場での気分かもしれない。
衝撃のあまり、脳が回っていないだけかもしれない。
でも今は、その指標が自分の心の答えだと感じていた。
「・・・・・・そうか」
「ええ、私はそうだと思いますよ」
「・・・・・・」
目線を落とし、アリスは心に『答え』を染み込ませてゆく。
それが正しいか、間違っているかは後で考えればよい。
あくまで一つの答えとして、アリスはその指標を仕舞い込んだ。
「・・・他にも、聞いていいかしら」
落とした目線を持ちあげ、アリスは白蓮を見る。
その目には、最初のにあった迷いはない。
まっすぐな瞳をしていた。
「ええ、何なりと。なにを聞きたいですか?」
「あなたの今までの生活について・・・そして、今の生活について」
白蓮は、アリスの目から視線を外さず、さらりと言った。
「ええ、喜んで」
~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~
霊夢は、自室で一枚の手紙を読んでいた。
傍らには一体の人形。
手紙の入っていた封筒には差し出し人の名前。
アリス・マーガトロイド。
手紙は簡素で簡潔で、だからこそ霊夢の心に重くのしかかった。
「拝啓 博麗霊夢様
明日は、私にとっての新たな旅立ちの日となります。
今現在のアリス・マーガトロイドの最後にお立会いくださればと思います。
儀式は明日の夜0時に私の家、満月の下で行います。
よろしければご出席頂きたくここにご報告申し上げます
アリス・マーガトロイド」
アリスからの招待状。
人間との決別を決めた証。
もうどうしていいかわからなかった。
アリスは明日、妖怪になる。
魔理沙も恐らく、妖怪を目指す。
置いていかれてしまう。
いやだ。
一人はいやだ。
いやだいやだいやだいやだ
「いや、いや、いや、いや、イヤ、イヤ、イヤ、いやぁ、いやぁぁあ、いやああっぁぁぁぁ・・・」
頭を抱えてブンブンと左右に振る。
置いて行かれたくない。
今更一人になりたくない。
なのに、二人とも行ってしまう。
遠くに・・・手の届かないところに。
それを止められない。
そして、自分はその道へは進めない。
二人は歩きだしてしまった。
私は立ち止まったままだった。
そして、もうすぐ・・・
そう、明日には、アリスは決定的に手の届かないところに行ってしまう。
いつしか、嗚咽に合わせて涙があふれ始めていた。
嫌なのに。一人は嫌なのに。
「助けて・・・助けてよ魔理沙・・・アリスぅ・・・」
どうしようもできない絶望が心を壊す。
壊れていくのを止められない。
「うあ゛ぁあ゛ぁぁ・・・あ゛ぁぁぁ・・・」
涙が止まらない。止められない。
心の崩壊も止められない。
一人、孤独感に押しつぶされながら、霊夢は泣き続けた。
~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~
数日と4日がたった。
霊夢は一人空を行く。
日は落ちており、進行方向で輝く月がまぶしかった。
光輝く月とは対照的に、霊夢の心は暗く淀んでいた。
結局、心に決着が着かないまま、約束の時間が来てしまったのだ。
結局は見守るしかない。自分にはアリスを止める権利が無い。
だから、せめて笑顔で送ろうと思った。
そう決めた。
決めたのだが、やはり笑顔は作れない。
どうしても暗い、陰気な顔になってしまうのだ。
「おーい、霊夢ー!」
呼びとめられ、背後を振り返る。
すると、彗星のような早さで魔理沙がこちらに飛んできた。
猛スピードを急ブレーキで制し、霊夢の前で止まる。
「よう、久しぶりだな」
「ええ、神社に泊った時以来ね」
一週間ぶりに、大切な友人の一人に会った。
だが、やはり心は晴れない。
「・・・どうしたんだ、やけに元気がないな」
やはりというか、簡単に見抜かれてしまった。
まぁ、元から態度に出してしまっていたし、見抜かれるとは思っていたが。
「それは・・・そうでしょう。アリスが遠いところに行ってしまうのよ。元気でいられるほうがどうかしているわ」
それを受けた魔理沙は、霊夢が相当重症であることを理解してしまった。
全く、アリスも罪な女だと思う。
いつもは澄ました顔をしている霊夢が、明らかに陰鬱な表情をしている。
これは、見ていられなかった。
友人として。
だから、
「・・・霊夢、おまえ・・・」
魔理沙は、霊夢に悪魔の囁きをした。
心配して言ったというのは嘘ではない。
元気づける意味があったのは嘘ではない。
だが、それ以上に自身の欲望に添わせるための誘導であったことも間違いない。
「妖怪になって、私と一緒にアリスを追わないか?」
~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~
「これで・・・よしと」
アリス亭の裏庭。
ざわめく夜の森で、アリスは準備を終えた。
庭には大きな魔法陣が描かれており、鈍く光を放っている。
この選択に、後悔はない。
しないように生きて見せよう。
そう、堅く決意を決めた。
だからこそ、全てが終わった時・・・
二人には自分を受け入れてほしい。
それさえ叶えば、良いと思った。
十分だと思った。
何気なく月を見ると、二人の姿が空に見えた。
満月を背に、こちらに向かって飛んでくる。
やけに遅い到着だった。最後に、話しておきたいことがあるのだが、伝え切れるかもわからない。
「いらっしゃい、待っていたわ」
降り立った二人に、いつもの調子で声をかけた。
なるべく普段通りにしか接することができない。
それが、人生を決める大事な瞬間の前だとしても。
「おう、待たせたな。ちょっと途中で話しこんじまって・・・久しぶりだな」
「・・・・・・」
「ええ、久しぶりね。・・・?」
いつも通りすぎるほどいつも通りな魔理沙に比べて、霊夢のほうはおかしかった。
普段の霊夢とは違い・・・暗い。
表情も、雰囲気も。
・・・いや、これは暗いというよりも、何かを思いつめているかのような切羽詰まった表情だった。
「・・・アリス」
その霊夢が口を開く。
挨拶もなく、前置きもなく、声をかけられる。
「何?」
その表情がどこからきているものなのかは分からないが、少しでも安心させられればと笑顔で聞き返した。
霊夢の表情は変わらない。
「あの・・・ね、聞いてほしいことがあるの・・・」
少し震えた声で呟く。
その声色に、アリスの心も震えてしまう。
不安が伝播する。
その不安からか、霊夢はなかなか話を切り出さない。
アリスは辛抱強く待った。
霊夢が自分から言い終わるまで。
「・・・・・・あの、さ・・・もし、もし私が・・・人間じゃなくなったら、どう・・・思う?」
「―――えっ・・・?」
「もし、アリスを追って・・・妖怪とか、そういう存在になったら・・・どう思う?」
霊夢は、妖怪になることが怖かった。
なれるという保証すらないのだが、もしなれるとしたら、間違いなくその道を選んでしまうだろう。
だが、それを選ぶことへの恐怖はすさまじいものがあった。
人間であること、巫女であることに誇りをもって生きてきた。
だからこそ、人間以外のモノになるということは、死と同じくらいの未知の恐怖がある。
人間でなくなったら、自分はどうなってしまうのか。
人間を食うようになるのか。
人間を襲うようになるのか。
それが幻想郷のパワーバランスを保つためだからと。
そんなことをしなくてはならなくなるのだろうか。
そのような恐怖を打ち払いたかった。
だからこそ、霊夢はアリスに聞いた。
魔理沙はもう望んでくれている。
あとはアリスが、アリスさえ望んでくれれば、迷いなくその道を歩けると思ったから。
恐怖を決意で抑えられると思ったから。
「ねぇ・・・どう思う?」
一連の流れを見ていた魔理沙は、内心ほくそ笑んだ。
これで、全てはまるく収まるだろう。
アリスは夢を追える。
霊夢は納得した。
自分も、魔法の知識と友人への愛の両方を手にできる。
アリスなら、喜ぶはずだ。
喜ばないはずはない。
だって、三人でずっといることを、アリスも望んでいるのだから。
そう思っていた。
「―――っふざけないで!!」
だから、アリスが怒りを見せたことが、信じられなかった。
「え・・・」
「な、なにがだよ!?」
霊夢は驚愕し言葉に詰まり、魔理沙は強く聞き返す。
その両方に、アリスは想いをぶつけた。
「私はね、確かにあなたたちと一緒に居たいわ!でもね、私は『人間の』霊夢と魔理沙が好きなのよ!」
「妖怪になったからって、何か変わるっていうのか!?変わらないだろう!!」
魔理沙の全力の批難を浴びながら、アリスは叫ぶ。心が泣き叫ぶ。
「違う!全然違う!!私は、人間らしいあなたたちが好きなの!妖怪になる身として、妖怪の感覚で接していた!
だからこそ、人間らしいあなたたちが眩しくて!温かくて!好きになったのよ!!」
「なん・・・だよそれ・・・」
丸く収まると思っていた。
それが、なんだ。これは、なんだ。
アリスがそんな風に想っていたなんて、思いもしなかった。
霊夢に至っては、もう泣いてしまっていた。
魔理沙はそれをみて、罪悪感を感じた。
妖怪になることを勧めたのは間違いだったのだろうか。
アリスが怒りの表情を湛え、霊夢が大粒の涙を流し、魔理沙が驚きで動けない、まさにその時。
アリスの後方にある魔法陣が、大きな音を立てて光りだした。
いや、光があふれ出した。
眩しさで、昼のように明るくなる。それは七色の光の洪水。
それを見たアリスは内心舌打ちをした。
結局、最後の話をする時間は無くなってしまった。
すぐにでもあの魔法陣に入らなければならない。
霊夢と魔理沙も、時が来たことを悟った。
だからこそ、果てしない絶望が心を砕き始める。
アリスとの別れが来てしまった。
もう、時間は無い。
焦りでおろおろと落ち着かない魔理沙。
あふれる涙を拭きもせず、こちらを見る霊夢。
二人が愛おしい。
愛おしくてしょうがない。
だから、二人を抱きしめた。
二人まとめて抱きしめた。
二人の表情は見えないが、二人の想いは流れ込んできた。
温かい二つの体温が、アリスの決心を後押しする。
「・・・行ってくる、待っててね」
その言葉に、二人の体が跳ねた。
もう一度ぎゅっと抱きしめてから、アリスは二人を解放する。
そして、光へと向かい歩き出した。
ゆっくりと。
ゆっくりと。
手を伸ばせば光に届く距離。
そこまで来て、アリスは一度歩みを止めた。
自然体で振り返る。何事もないかのように。
そこには、二人の少女が立っていた。
両手を握りしめ、少し口を開けたまま、もの欲しがっているかのような・・・そんな顔をした、霧雨魔理沙。
悲愴感に満ちた瞳から、大粒の涙を流す博麗霊夢。
親友が、見ていた。
それだけで、アリス・マーガトロイドは満足だった。
「・・・今までありがとう」
アリスの口から漏れる、一言。
だが、魔方陣から漏れる衝撃音でかき消され、二人の耳には届かない。
何かしゃべっている・・・と気づいたのか、二人も何かを叫び始めた。
やはり届かない。
そして、動かなかった二人は同時に動いた。
魔理沙の右手と、霊夢の左手が同時に差し出され・・・
差し出した二人が、互いに顔を見合わせた。
それを見てから、アリスは光の中へと足を踏み入れる。
魔法陣の中心。
光の泉の真ん中。
そこに立ち、数日のことを思い出す。
今までの人生を思い出す。
うん、こんな人生でも、悪くない。
この道に後悔なんて、絶対にしない。
己の選ばなかった道。
その先にあった、選ばれなかった未来へと別れを告げる。
「・・・そして、これからも・・・――――」
そして、その瞬間――――
「―――ッ!?」
「―――ッ!!」
二人の視界は七つの光でふさがれた。
~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~
光と轟音が脳を揺さぶり動かす。
だが、それも長くはなかった。
ものの10秒で光は収縮し、音は反響のみとなり・・・
いつしか、夜の宵闇が戻ってきていた。
眩しさでくらんだ目を見開き、二人はアリスを見た。
彼女はこちらへと向かって歩いてくる。
外見は何も変わっていなかった。
だが、決定的な何かが変わった。
変わってしまった。
魔理沙は、言葉が出せない。
結局自分は、なにをしていたのだろうか。
「ただいま」
アリスは穏やかにそう言った。
その言葉が、魔理沙の心へと突き刺さる。
「・・・私は何をしていたんだ・・・」
口から漏れ出てしまう後悔の念。
アリスと霊夢への申し訳なさが、心をえぐる。
「自分だけ、利己的な考えで動いて・・・アリスの気持を決めつけて・・・霊夢を傷つけた」
「・・・魔理沙?」
アリスにも霊夢にも顔を合わせられなかった。
胸中にしまっておいたからこそ、なおさらだった。
卑怯者め。卑怯者め。
「なん・・・で・・・?」
霊夢が、となりで声を震わせた。
魔理沙はその声を聞き、霊夢をちらりと見る。
その表情は、なんとも呆けていた。
口は開いたまま、少し震えて、アリスを見ている。
「なんで・・・・・・アリスから・・・妖気を感じないの・・・?」
「・・・え!?」
その言葉の衝撃を受けて、魔理沙は力強く顔を上げた。
顔を合わせられないという先ほどの想いも、吹き飛んでしまっていた。
確かに、アリスからは妖気を全く感じない。
捨食の魔法を使った時点で種族魔法使い。その時から妖気を発していた。
なのに、捨虫の魔法まで使ったアリスに妖気が無いのはおかしかった。
両者の声を受けて、アリスは微笑む。
そして、先ほどと同じように二人を抱きしめた。
「時間が無くて、説明できなくてごめんなさい。あれはね・・・捨食の魔法を捨てるための封印術なの」
「ふう・・・いん・・・?」
「そう。これで、私は完全な人間の魔法使いになった」
二人の肩が震え始める。
アリスの両手も震え始めた。
「それじゃあ・・・」
「そうよ。私は、人間を選ぶわ」
霊夢は、その言葉を噛みしめ、気づけばまた泣いていた。
先ほどまでとは違う涙。
温かい、心からの涙を。
アリスにようやく手が届いたことが嬉しくて。嬉しくて。
この手を一生離さないと、心に誓った。
魔理沙も、その言葉を噛みしめ、泣いた。
申し訳なさと、喜びとが半々で混ざり合い、涙が防波堤を超えた。
なんとも言えなかった。
言葉が出なかった。
だから、謝るのは後にすることにした。
アリスも、二人の震えと嗚咽を聞き、泣いた。
こんなにも、自分を求めてくれることが嬉しくて。
こんなにも、三人で居られることが嬉しくて。
二人を強く抱きしめた。
「霊夢・・・魔理沙・・・大好き。愛してるわ・・・」
「私も・・・だっ!」
「うえ゛え゛ぇ・・・あ゛あ゛あ゛ぁぁ・・・」
大好きな親友と気持ちを確認し合う。
この『愛』を確かめ合う。
アリスは、二人のぬくもりを感じながら、確信した。
自分の人生は、この二人がいる限り幸せでいられる。
短い一生だが、悔いなく生を全うできる。
それで夢が叶わなかったとしても、後悔はしない。
大丈夫だ、きっと、最高の人生を送れる。
だって私たちは、愛し合っているのだから。
~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~
「・・・また来たのね、半人前」
「ええ。お邪魔するわね、動かない大図書館」
紅魔館地下図書館。
アリスは、借りていた魔法書を返しに来ていた。
もう、捨食・捨虫の魔法の本は、必要無い。
「・・・結局、その道を選んだのね」
「ええ。あなたに認められる日は来なくなってしまったけどね。後悔は無いわ」
「・・・・・・そう」
結局、半人前以下に戻ってしまったのだ。
同族になることを歓迎してくれていたパチュリーは、面白くないだろう。
まぁ、このまま嫌われ続けたとしてもしょうがないと思った。
後悔は、無い。
「・・・今日は返しに来ただけだから、帰るわね」
「・・・・・・」
返事は無い。
視線はいつも通り、手元の本にのみ向けられている。
ふぅとため息一つついて、アリスはパチュリーに背を向けた。
「・・・また来なさい。魔法書くらいなら貸してあげるわ」
最後に声をかけられ、一瞬歩みが止まる。
たが、アリスはすぐに歩き出した。
止まったところで、パチュリーはもう何も喋らないだろう。
それに、この顔は見られたくない。
笑い顔なんてみせたら、気持ち悪がられる。
新しい関係。
新しい自分。
その始まりを感じながら、アリスは図書館の扉を開けた。
~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~
~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~
森の中に、一つの墓。
真新しく光沢のあるそれに、一人の老婆が手を合わせていた。
紅と白を基調とした和服。纏められた白髪まみれの長髪。
「もう来てたのか」
そこに、もう一人老婆が姿を現した。
真黒な洋服を身にまとい、頭の上には格好とは不釣り合いな黒く大きなフリル付きの帽子。
右肩の上には、人形が一体立っている。
「ええ、待ちきれなくてね」
「せっかちな奴め。昔はあんなにのへら~としていたのに」
「そういうアンタは昔と比べておとなしくなったわよね」
「余計なお世話だ」
黒い服の老婆は、持ってきた花束を墓前に捧げ、続いて手を合わせた。
風の吹く音と、木々がざわめく音。
それ以外の音が消え去る。
静寂が訪れ、二人はその中で祈る。
「よし、こんなもんだろう」
黒い老婆はそういうと、先に立ちあがった。
それに続くように、紅い老婆も祈りを終え、立ち上がる。
「もう、あの日から49日もたったのね。あっという間だわ」
「そうだな。この分だと、あっという間に向こうへお呼ばれしそうだ」
さぁぁぁぁ
風が葉を撫ぜ、枝を揺らす。
その音が、実に良い。
ここで眠る彼女に合う、落ち着いた音色。
「・・・こういうのもアレだけど、早く向こうに行きたいわ」
「ハハッ、私もだ。早くまた三人でバカやりたいもんな」
二人は笑い合う。
実に、実に朗らかな笑顔で。
「―――っと、おまえも祈っていたのか?」
二人が墓前に視線を落とすと、人形が両手を合わせていた。
いつの間にやら、肩の上から降りていたらしい。
呼びかけに反応し、人形は振り返り、笑顔で頷いた。
「おまえは本当によくできたやつだな。しゃべれはしないが、それ以外は完璧だぜ」
「本当ね。・・・本当、夢までちゃんと叶えて逝くところが、らしいわよね」
「全くだな。アイツらしい」
再び笑い合う二人。
そのうち祈りが終わったのか、人形は肩の上へと戻って来た。
それを見た紅い老婆は、軽く言う。
「ねぇ、うちに寄って行かない?思い出話でも語り合いましょう」
「おお、いいね。次に会う時に語れるかどうかもわからないしな」
「そうよ、次は片方がお陀仏してるかもしれないんだから」
軽口を飛ばす紅い老婆に同調し、黒い老婆はククッと笑う。
「ハハ・・・そうだな。じゃあ行くか」
二人は、ゆっくりと歩き出した。
その墓に振り返ることはしない。
只一人・・・いや、一体。人形だけは、見えなくなるまで墓を見つめていた。
風が、ざわめく。
木々が揺れる。
まるで、その場を去りゆく二人に、何かを伝えようかとするかのように。
心地良い風で、感謝を述べるかのように。
綺麗な墓には、刻まれていた。
人間として生き、人間として死んだ、ある魔法使いの名が。
『人形遣い アリス・マーガトロイド 此処に眠る』
~FIN~
ただ、心情表現を擬音に頼りすぎた感が否めず、それだけがちょっと心がかりです。次作、お待ちしています。では。
こういうの大好きです
大多数が「習得している」を前提にしている中、そこに触れている作品は新鮮でした。
いつまでも3人で仲良くしてほしいです。
少しウルっとしました。
ていうか、予想を完全に裏切られました(良い意味で)
魔理沙とアリスについてはともかく、霊夢の動向に目を向けていたところに、アリスのあの行動。
落ちもばっちり決めて、良い感じでした。
ところで、そろそろ甘いレイアリ分が足りなくなってきたんでがどこかにないかな~(チラッ
人と妖、生と死の境界で揺らぐ理由が「友愛」。私には正直理解できませんが、
私みたいな者の理解が及ばぬほどに強固な絆になりうるのもきっとまた事実なのでしょう。
そして三人の別れの言葉は「さよなら」ではなく「またね」だと、そう信じてます。
今作もすごく良かった。さすがです。
魔法使いに対する独自解釈が非常にうまくはまっていた、と思います。
3人の友情物語、で良いんでしょうか?とても良かったです
アリスが普通の人間に戻ったことや最後には自立人形を作り上げたこと、それぞれの心情などとても素晴らしいお話でした。
さよならだけが人生だ。まさにその通りですよね
なかなか難しいテーマなのによくまとめられていると思います。
夢や人生設計をも凌駕する、友愛という絆の強さ。きっと前世からの因縁とかそういうのは、こういう絆によりもたらされるものなんでしょうね。
ところで『友愛』って聞くと、どこかの鳩さんを思い出すから困る(笑)
さて、アリスはわかったけども、魔理沙がどの程度自分の夢を実現できたか気になるところではありますね。
しかし老後の萎れっぷりからすると・・・途中で断念しちゃったのかな。いやむしろ逆で、あらゆる「智」を習得した結果なのか。
そもそも老後は萎れるものか(笑)
相談役として白蓮が出てきたのはかなりの適役だと思いました。
元人間で大先輩魔法使いというところからしても。まあ成った動機は全然違うんだけども。
ここに更なるアドバイザーとして幽々子や永琳が出てきたら、また興味深い意見が聞けたりして話も色々と膨らんだのかな。
特に白蓮と幽々子の意見は完全食い違いそうですが。
そもそも幽々子は死を幸せなものとしか捉えていない節が・・・
おや、となると、未だに死を恐れているらしい本編の白蓮にとっては天敵ですね。幽々子と永琳も不仲そうですが、きっとそれ以上に。
妖怪(魔法使い)でもその気になれば死に誘えるそうですからね。
と、話が逸れた。
このお話の結末とは正反対の想定ですが、
幻想郷は冥界がわりと身近なので、死んだとしても魂が冥界に在る間なら簡単に会いにいけそうですし、
蓬莱の薬を服用すれば人の身のまま不老不死になることもできますから、
魔道に堕ちずに一緒にいる時間を延ばす方法も他に色々とあったわけです。
そういえば、仙人や蓬莱人は幻想郷的には人間とは見なされないんですかね。
妹紅なんかはバリバリ人間のつもりみたいですけど。(幽々子もそんな感じのこと言ってたっけ)
それも人間の範疇なら、霊夢に人間であってほしいというアリスの願いにも背かず、三人揃って長寿になることも・・・って魔理沙みたいなことを失礼(笑)
霊夢はただの人間というよりも、将来仙人みたいなのになってそうなイメージがあるので、なんとなく。
ともあれ、不老長寿になると誰がいつ死ぬか全くわからなくなりますし、そういう意味では死期が読みやすい(数十年以内の誤差)人間としての生を選び取ったことは、三人一緒にいたいという願いを叶える上では最適解だったかもしれません。
その為に、たとえどんな夢や希望を叶える可能性を犠牲にしてしまったとしても。
・・・おや、では、どちらも叶えたアリスが一番美味しいですね。要領が良いというか。
同じように、どちらも手に入れようと画策した魔理沙は、果たしてどちらも手に入れられたのか・・・やはり片方だけだったのか。
それにしても、不老長寿になる術がこんなに身近な幻想郷の住人は、それだけでも恵まれていると思います。
たとえ生涯かけても叶いそうにない夢があるからって、外界暮らしの我々には延命なんてできませんからね。きっと途中で妥協するしかないのです。
それこそはじめから、このお話の結末のような選択肢しか持ち合わせていません。即ち、人間として百年そこそこの人生を全うすることしか。
まあだからこそ、幻想郷ならではの『それ以外の選択肢』について、この場を借りてもうちょっと考えてみたくなったわけです。
彼女たちは深く深く葛藤し、迷い、悩んだけども。それも自分の意思で選び取る自由があるからこそ。同じ人としての生でも、それを自らの手で選び取った彼女たちにとっては、我々のそれとは大いに異なった意味合いを持つはずです。
良作、感動云々は他の方も述べられている通りなので、ちょっと違う観点からコメントしてみました。
もうちょっととか言いながら、かなり長くなってしまいましたが(苦笑)
コメント励みになります、ありがとうございます。
>1様
好みに合って何よりです。こういうのは苦手な人もいるでしょうし、投稿する時不安でした。
>3様
これは・・・指摘されると確かにそう感じる;
魔女っぽい表現や雰囲気は、書くと結構難しいですね。パチュリーにはもっと魔女しててもらいたいのに;
>不動遊星様
擬音表現は、三人分を統一させようと多用していました。
何事もほどほどがいいですね;
テーマ的に、【葛藤】は不可欠なものなので、そう言っていただけると嬉しい限りです。
>6様
そのお言葉にぐっときました←
>7様
一応、書く前にwikiや資料などを総ざらいしたのですが、やっぱり捨虫の魔法を使ったという表現はないです。他の人とは根本的に違うものを書きたいというのがあったのと、【アリスが人間かもしれない】という可能性を生かしたかったというのがあり、こういう話にしました。
>9様
私の大好きなレイマリアリの作品は、大抵が思いの一方通行。そして、結末もあまりよいものにはなっていなかったんです。仲良くたっていいじゃないかと、思いっきりラブラブにしてみました。
私も、この三人にはずっと笑顔でいてほしいですね。
>夕凪様
封印の魔法陣に入るときのアリスのセリフは、多少期待を裏切れるように考えたのですが・・・私は白蓮とアリスの会話の時点で、結構方向性をばらしちゃったかなーと思っていました。
なので、良い意味で裏切れたことには心のなかでガッツポーズをしています←
この落ちは、書き始めた当初からずっと頭の中にありました。これ以外にしっくりくるラストを、私は思いつきません。
>14様
私も寿命ネタは結構苦手なんですよね・・・涙腺が持ってくれないのでw
なので、その気持ちがよくわかります。
そういう方にも最後まで読んでもらえて感謝感激です。
甘い・・・レイアリ・・・?ちょっと甘さを研究する作業に戻ります。
>16様
視点変更は今後の課題の一つです。これ以外にいい表現方法を持っていなかったんですorz
今作を書くにあたって、三国志をよく思い返しました。桃園の誓いなどにもある通り、主従や友情を超えた絆というものは、ずっと昔からあるのではないかと思います。今回はそれを思い浮かべてくだされば、少しはすんなりと読めるかもしれません;
まあ、正直私にも理解できない世界です。理解できないからこそ、想像力、妄想力でそれに近いものを書ければ・・・そういう感じで、これからもがんばっていきます。
「またね」すごく良い言葉です。三人に一番合う言葉ではないでしょうか。
>17様
読み返してくれているですと・・・!?
嬉しさが有頂天です。これからも少しでも楽しんでいただけるよう精進いたします。
>18様
かなりの俺設定になってしまいましたので、そう言っていただけると救われますw
友情物語を目指したつもりです。百合っぽく感じてしまった方ごめんなさい、私の精進が足りないだけですorz
>煉獄様
最後には、ちゃんとやることやってから眠る。それがアリスのイメージの一つなんですね。
この話はちゃんと幸せに終わらせてあげたかったので、考えうる中で一番幸せな道に進ませました。
>22様>33様
泣ける話というものが書けたのか、今も不安でいっぱいです。
ありがとうございます!
>47様
この世の真理だと言えます。それにぶち当たった三人は、真理を曲げるのではなく、真理に逆らわないという選択をとりました。
悲しい真理だと、思いますね。
>48-49様
とてもたくさんの考察・感想をありがとうございます!
魔理沙がどれほど夢を追い、つかみ取ったのかは、御想像にお任せという形で。私には決めかねることなので。
白蓮を相談役にするというのは、最初から決まっていたことです。
自分の先を行く大先輩。考え方は正反対。これしかないなと思って書いていました。
今作では三人とも人間ですし、「死なない」という選択は考えなかったのではと思います。三人とも、輝夜や妹紅のことを知っているわけですし。
アリスが人間らしい二人が好きだと言った時点で、最善はこの結末だけかと思い、この形に落ち着きました。
この量のコメントをもらったのは初めてです。重ねてありがとうございます。
ただ、一つだけ意見を申し上げるなら話の流れとして最後にアリスが人間であるところを選んだところがどうも急な気がします。
なんというか、シミュレーションゲームの高感度によるフラグ分岐を見ている気分になりました。
>56様
ご意見ありがとうございます。
某所で今作のレビューをしていただいたのですが、その方にも、
「作中の少女たちの感情の豹変っぷりは激しく、ちょっと付いてゆきづらいように感じました。」と指摘をされました。
もう少し長文にして、ゆったりとした感情の変化を描けば・・・と言っても、後の祭りですが。
これらは次回作以降に反映できればと思います。
とても内容が良いだけに、いくつか誤字があるのが少々もったいない気もしましたが、それにしたって満足以上のものがあります。
タグで避けようか迷ったので試しに流し読みしようと思ってたら、いつの間にか本格的に読み直していました。
アリスがまだ魔法使いでなかったことにも驚きましたが、さらに完全な人間に戻るという選択にはもうブワッときましたね、主に涙腺が。
キャラがなんだか臆病過ぎる気もしましたが、それがまたこのストーリーには合ってるんでしょうかね。面白かったです。
幸せそうだなこんちくしょう。
感動した!