人間とは、物忘れの酷い生き物である。そして、妖怪も同じくらい物忘れが酷い。
つまり、人間と妖怪が共存する幻想郷は、物忘ればかりしている者たちが集う楽園と言えるだろう。
そんな彼らの物忘れは多岐にわたるが、その中でも最たるものが幻想郷の外に関する事である。
博麗大結界が成立して以来、人々は外の世界への関心を失い、おかげで外の世界の道具を扱う我が店『香霖堂』も閑古鳥が鳴く有様だ。
まったくもって、幻想郷の人々にも困ったものだ。もう少し幻想郷の外に目を向けてくれれば、外の世界の便利な道具によって、彼らの生活にも潤いが出て、僕の懐も潤うというのに。
そんな愚痴を押し込めて、棚の整理をしていると銀色の道具が奥から出てきた。
その道具を見て、僕は自分も酷い物忘れをしていた事に気が付く。
なんて事はない。人間と妖怪の合いの子である僕も、物忘れの酷い幻想郷の住人だったという事だ。
海のない幻想郷に生きていると忘れがちな事であるが、外の世界には海があり、この国は海に囲まれている。そして、外の世界に海がある事以上に忘れがちな事が、海の向こうには異国が存在するという事だ。
僕は、銀色の道具――胡椒箱を手に取って、それを弄びながら外の世界に広がる海を、そして海の向こうにある異国に思いをはせた。
なぜなら、この胡椒箱は正真正銘、異国から幻想郷に漂着した道具だからである。
鈍い銀色をした金属製の筒が五本束ねられていて、一つの太い曲がった棒にくっ付いている。その曲がった棒は、木製で握りやすいカーブを描いていて、金属の付け根のあたりに丸いリングが付いていた。
この胡椒箱という道具は、新大陸で作られた道具らしい。
見た目としては、いわゆる鉄砲に似ている。鉄砲とは、引き金を引くと弾丸が飛び出して、人を殺傷するという外の世界の物騒でつまらない武器の事だ。
しかしこの胡椒箱は武器などではない。鉄砲とは少し事情が違う、とても特別な道具なのだ。
――カランカラン
「久しぶりだな、香霖。何か私が持って帰りたくなる出物はあるか?」
「久しぶりに店に来て早々、そんな挨拶はないだろう」
店に来たのは、マフラーを首に巻いて、寒そうに手をこすり合わせる魔法の森の魔法使い、霧雨魔理沙だった。そんな彼女から見えないよう、僕は素知らぬ顔で手に持っていた胡椒箱を懐に隠す。
「まあ、よく来てくれたね、外は寒かっただろう。お茶を淹れてくるから、ストーブで暖を取るといい」
「ちょっと、待て。おかしくないか?」
台所に引っ込もうとした僕を、魔理沙が呼び止めた。
「なにもおかしい事はないだろう。魔理沙が来たからお茶を入れる、とても自然だ」
「いや、私が知っている香霖は、他人の為にわざわざ席を立ってお茶なんか淹れないぜ」
「……酷い言いようだな。僕だって、お客にはお茶を淹れる」
逆に言えば、僕が愛想よく振舞う時は、それぐらいという事だ。そして、この店に客が来る事は滅多にない。
おかげで、愛想の賞味期限も切れかけていた。
「残念ながら、私は客じゃない。おっと、論理的に破綻してきたぜ香霖? これじゃあ、お前が私に愛想を良くする道理はないじゃないか」
「魔理沙の言う事は分からないな。一体何が言いたいんだい?」
「簡単な事だぜ。香霖が私にお茶を淹れるという事は、何か頼み事があるか、何かを隠しているという事だ」
鋭い。
確かに僕は、胡椒箱を懐に隠している。
これが魔理沙に見つかると、面白い玩具などと思われ、持っていかれるかもしれない。
「隠し事なんて誰でもするものだよ。それに僕だって仏心を出す事もある」
我ながら苦しい言い訳だが、別にやましい事をしているわけじゃない。単に、せっかく見つけた胡椒箱を持って行かれたくないだけだ。
僕は魔理沙の戯言を切り捨てると、とっとと台所に逃げ込んだ。
そして、台所で胡椒箱を隠す場所を物色する。
とりあえず、魔理沙が帰るまでしのげればいいのだから、適当な棚にでも入れて置くのがいいだろう。
そう決めて懐に入れた胡椒箱を探るが、無い。
「おーい、香霖。これって一体何なんだ?」
やられた。
どうやら魔理沙は、僕が懐に入れていた胡椒箱をスリ盗っていたらしい。なんて手癖の悪い奴。油断をしていなくてもこの有様だ。
一人分のお茶を淹れると、僕は店に戻る。
「あれ、私のお茶は?」
「生憎と仏様が帰ってしまってね。僕の分だけだ」
「相変わらず香霖はシミったれてるなぁ。そんな事じゃ禿げるぞ」
文句を言う魔理沙を無視して、僕はお茶を啜った。
香りがイマイチの二級茶だが、適当に飲むには十分過ぎる。
そんな僕を魔理沙は恨めしそうに見ていたが、すぐに気を取り直して、僕からスリ盗った胡椒箱をいじり始めた。
「これは何なんだ」
「胡椒箱……ペッパーボックスだよ」
「……胡椒箱? ああ、ペッパーミルの事か、つまりこれは粒胡椒を挽く道具なのか?」
そう言って魔理沙が胡椒箱の筒が束ねられている部分を、ペッパーミルでやるように回そうとする。
「無理に回したら壊れる、それに胡椒箱では胡椒は挽けない」
慌てて僕は魔理沙の蛮行を止めた。
どうにも彼女は、思いつきで行動をするから困る。せっかくの美品が壊れたらどうするのだろう。
「それじゃあ、これはどんな道具なんだ?」
「これは、弾を撃ち出すものだ」
「はぁ?」
魔理沙は目を白黒する。
恐らく、胡椒箱という名称から、弾を打ち出すという感覚が理解しにくいのだろう。
しかし、それも仕方がない。
胡椒箱(ペッパーボックス)などという台所にあっても不思議がない名称でありながら、弾を打ち出すという用途である事が、この道具の洒落ている部分であり、戸惑う部分なのだから。
「なんで胡椒箱という名前なんだ?」
「魔理沙が頭を捻るのも無理はない。しかし、よく考えてみればこれは簡単な事なんだよ」
自分で考えてみろと、僕は魔理沙を促してやる。
「なんでだ?」
しかし、魔法の森の普通の魔法使いは即座に答えを求めてきた。魔理沙も霊夢も、こういう所は困ったものだ。
すぐに答えを得る事を是としてしまい、その過程を軽視する。実際には、答えを得る過程も、答えと同じくらい価値があるというのに。
「何度も言っているけど、少しは考えたらどうだ?」
「目の前の答えを知っている奴がいるのにか?」
道理ではあるのだが、そうなると僕が居なくなったらどうするのだろう。まあ、魔理沙のことだから別の人間に聞いて終わりとなるのだろうが、そう考えると少し哀しい気もしないでもない。
所詮は僕も半分は人の子という事か。
「で、これは何で胡椒箱って名前なんだ?」
「それは簡単な話だよ。魔理沙はペッパーミルを見た事はあるんだろう?」
胡椒挽き(ペッパーミル)とは、文字通り胡椒を挽いて粉にする道具で、この国では馴染みはないが西洋では一般的な、食卓で使われる道具だ。
「ああ、紅魔館で見た事があるぜ。あれで胡椒を挽くのはちょっと楽しかった」
「それと胡椒箱は良く似ていると思わないか?」
確かペッパーミルはどこかに仕舞っておいたはずだ。胡椒は幻想郷ではなかなか手に入らないので需要はないが、見た目が良く台所の置物にもなりそうな自慢の一品、僕はそれを胡椒箱と並べてやる。
チェスのポーンを思わせる格調高いペッパーミル、それを魔理沙はしげしげと眺める。
「ああ、なんで胡椒箱って名前か分かったぜ。この鉄砲がペッパーミルに似ているからだろ?」
なるほど、魔理沙は胡椒箱を鉄砲と勘違いしているのか。
確かに鉄砲も弾を出すし、胡椒箱の用途と変わりはないように思える。
しかし、幾らなんでもそれは的外れ過ぎる。どうして魔理沙にしても、霊夢にしても、彼女達は想像力に乏しいのだろうか。
「魔理沙はいくつか勘違いしているようだね」
しかし、彼女達はまだ子どもだ。
だからこそ、しっかりと丁寧に間違いは正してやらなくてはいけない。
それは、彼女達に近しい先達である僕にしかできない仕事だ。
「勘違いってどういう事だよ」
「それは、鉄砲と胡椒箱はまったく別の道具という事だ」
「でも、前に紅魔館でコレクションの鉄砲を見せて貰ったけど、こうやって握る所とか似ているぜ?」
魔理沙は実際に鉄砲を見た事があるのか。
それで、胡椒箱を鉄砲と勘違いをしてしまった訳だ。
鉄砲は、幻想郷に流れ着く事が滅多にないし、博麗大結界誕生以前に持ちこまれた物も、厳重に仕舞い込まれているか錆びて使えなくなっているので、幻想郷では鉄砲を知らない人は多い。
魔理沙が鉄砲を知っているのは少し意外だったが、異国情緒溢れる紅魔館ならば納得だ。
「確かに胡椒箱と鉄砲は良く似ているね。だが、勘違いしてはいけない事は、胡椒箱はあくまで胡椒箱という事だ。形が似ているからといって同じにしてはいけないんだよ。それは一つ目小僧とサイクロプスが同じ一つ目で似ているから同じ妖怪だと断定するぐらいに乱暴な論法だ」
「同じでも良いんじゃないか」
なんて乱暴な奴だ。
「訂正しよう。見た目が同じだからと言って、おはぎと馬糞を同じに扱うようなものだ」
「なるほど、それは乱暴だな」
「納得してくれたようなので続けると、つまり胡椒箱は独立したカテゴリを持つ道具という事さ。つまり鉄砲とは関係がない。似ているのは弾を飛ばすという事だけ。逆に言えば、弾を飛ばすという一点が似ていた所為で、胡椒箱は鉄砲に似てしまったんだろう」
そして、僕は胡椒箱を魔理沙から取り返して、構える。
金属製の五本の筒、そしてなめらかな木の持ち手。その造形はとても面白く、どう考えても鉄砲などというつまらない道具のカテゴリには相応しくない。
「でも弾を飛ばすんだろう?」
「魔理沙も弾を飛ばすじゃないか。弾を飛ばしたら、みんな鉄砲かい?」
「そんなわけあるか。私は魔法使いだ」
「だったら、これもただの胡椒箱さ。それに胡椒箱が飛ばす弾は鉄の弾丸じゃない。これはその名の通り胡椒を入れる箱なんだ。そして飛ばす弾は胡椒なんだよ」
「胡椒って、なんで外の世界の人間が胡椒を弾にして飛ばすんだよ」
魔理沙は訳が分からないという顔をしている。可哀想に、魔理沙はすっかり混乱してしまったようだ。
しかし、それも仕方のない話だろう。
ずっと、幻想郷で生きてきた彼女たちに外の世界の事は分かるまい。それが異国の風習ともなれば完全に理解の外になってしまう。
僕は、助け船を出してやることにした。
「なあ、魔理沙。魔理沙は節分で煎り豆をばら撒いた事はあるか?」
「ああ、それはあるけど……って、そうだな。アレは豆を家の中でばら撒く」
「節分は、豆を撒く祭だ。こういった食べ物をばら撒く祭は日本では節分ぐらいだが、異国では珍しい事ではないんだ。トマトをばら撒く祭に紅茶を海に投げ入れる祭祀、他にもチョコレートを撒いたり、カスタードパイをぶつけ合ったりね。この胡椒箱も同様だ。これは胡椒を撒く異国の祭で使われた祭器なんだと僕は考えている」
そう言って、僕は魔理沙の前に胡椒箱を置いた。
異国の祭器という言葉を受けて、魔理沙は改めて胡椒箱を観察しているようだ。
当たり前の事だが、外国にも神はいて、神がいる以上は祭祀と信仰が存在する。それらは幻想郷にあっては感じ取ることはできないけど、その証拠はこうして幻想郷に入ってきているのである。
「なるほど、胡椒をばら撒く祭か。そういや早苗も奇跡を起こすとか言って、果物を降らせていたな」
「前に言っていた妖怪の山の現人神の事だね。保食神(うけもちのかみ)は身体から食べ物を出したそうだけど、確かに神の奇跡で食べ物を生み出したり、降らせるというのは珍しい事じゃない。耶蘇教の神はマナという食べ物を降らせたそうだし、空から魚やカエルが降って来たなんて話もよく聞く」
そうした神事を真似して、人々は神の奇跡の再現として祭を行うのだろう。
「だったらさ。胡椒を撒く神ってどんな神なんだ?」
「詳しい事は分からないな。ただ、胡椒箱自体は亜米利加(アメリカ)で使われているという記述を本で読んだ事があるから、きっとその神は亜米利加の神なんだろう」
そして、僕は亜米利加に思いを馳せる。
巨神である『自由』という名前の女神によって支配される自由の国。なんでも亜米利加では「我に自由を与えよ、しからずんば死を与えよ」という文句が使われるほど、この『自由』という名の巨神に捧げられる信仰は激しいらしい。
「亜米利加ねぇ。どんな国なんだ」
外の世界の事もよく分かっていないのだ。魔理沙に亜米利加の事が分かるはずもない。
僕は何冊かの本を持ってきて、魔理沙の前に置いた。
「これはアポロ計画に関する本だ。この本には外の世界の人間が月に行くという話が書かれているが、それを成し遂げたのは亜米利加だ」
「へぇ、アポロ計画は亜米利加がやっていたのか」
太陽神の名を冠し、月へ至る外の世界の月面侵攻計画、それは亜米利加によって行われた。
「西部ではジョン・ウェインという銃士が活躍し、カスターという将軍がインド人と激しく戦い、東部では情け容赦のないアル・カポネが人々を支配し、野球選手は黒い靴下を履いただけで糾弾された。全く持って亜米利加は野蛮な国だが、同じくらいに革新的な国でもある」
「革新的ね、確かにロケットを作って月に行くくらいだから、革新的には違いがないな」
「それだけではないよ、例えばコレだ」
そして、僕は持ってきた本の一冊を取り上げた。
それは亜米利加の英雄について書かれた本、蝙蝠の姿を模した姿をした英雄が町の悪漢と戦うという伝承をまとめたモノである。
「なんだコレは」
「革新的だろう。亜米利加ではこうやって奇天烈な姿で悪党を懲らしめる英雄が多いんだそうだ」
胸にSと書かれたタイツを着た男にコーホーという呼吸音を鳴らす黒い男、緑の肌の巨人に蜘蛛の巣を模したデザインの赤と青のタイツを着た男など、こうした英雄譚は亜米利加では人気らしく何冊もの本が出ている。
「なんで全身タイツなんだ」
「悪と戦う為に姿を隠す必要があるからだろう」
「身を隠すわりに派手じゃないか」
「まあ、彼らは英雄だからね。日本の武将も鎧兜を華美に飾っただろう? 同じ事さ」
「なるほどねぇ。確かに革新的だ。そんな革新的な国で、この胡椒箱が使われたってわけだ」
魔理沙は、興味なさそうに英雄の本をどけると胡椒箱を手に取る。
どうも彼女は亜米利加の英雄には興味は無いが、胡椒箱は気に入ったらしい。
「なあ、香霖。この胡椒箱はどうやって使うんだ?」
そして、楽しげに胡椒箱を弄びながら僕に聞いてきた。
しかし、それは困った。
僕の能力は、道具の名称と用途が分かるだけで、使い方は分からないのだ。
基本的な構造が鉄砲と似ているとはいえ、胡椒箱と鉄砲は別の道具。鉄砲と同じように火薬を入れて胡椒を撃ち出す事もできるだろうけど、祭でそんな無茶な真似はしないだろう。
「使い方を知って何がしたいんだ?」
「そんなの決まっているだろ。スペルカードの参考にならないか、使って試してみるんだよ」
流石は腐っても実践する魔法使いだ。
その心がけは見事だけど、それに答える事は出来ない。
僕は、魔理沙に胡椒箱の使い方が分からない事を正直に伝える。
「なるほど。それは残念だな。ああでも、少し私に預からせてくれないか? 私は魔法の専門家だ。その知識の中には色々な外国の神の儀式も含まれていたりするんだぜ。だから、もしかしたら少し研究をすれば香霖とは違うアプローチが出来るかもしれない。そんなワケでコレは借りていくぜ」
なるほど、そうかその通りだと頷いているうちに、魔理沙は胡椒箱を持って帰ってしまった。
やられた、と気が付いた時には後の祭りだ。
「まあ、いいか」
魔理沙が胡椒箱の研究するのは本当だろうし、胡椒箱を使えるようになれば僕に使い方を教えてくれるのも間違いはない。
その後に戻ってくるかは分からないけど、どこかに消える訳ではないのだから、必要になるまで魔理沙に預けているのも良いだろう。
「もしかしたら、幻想郷で胡椒神事が行われる日が来るかもしれないしな」
空となった茶碗を置き、ふと溜息を吐く。
そして、胡椒を撒く祭祀とそれが行われた亜米利加という異国に思いを馳せた。
そこで僕は、霧雨の剣を片手に道化師のような悪党と戦い、蝙蝠の姿をした英雄と肩を並べる。そして亜米利加でも最悪の犯罪都市の平和を守り、僕は戦友の肩を抱いて湾岸のカフェーに向かう。その途中で、人々が盛んに海へと紅茶を投げ入れるのを目撃し、彼らに混ざって海に紅茶を投げ入れる祭祀を行うのだ。
僕は自由の戦士たちと共に自由万歳と叫び、すべてが終わった後にカフェーで一杯の薄いコーヒーを飲むのである。
「……ちょっとコーヒーでも飲むか」
少し子ども染みた想像に照れくささを感じながらも、僕は想像の中の自分と同じようにコーヒーが飲みたくなって、席を立ち戸棚からコーヒー豆の袋を取り出した。
しかし、袋は異様に軽く、中を覗き込んでみると中には豆が入っていない。
「しまった。豆は切らしていたな」
そこで僕はようやく、幻想郷では胡椒だのコーヒー豆といった嗜好品は、入手が困難な事に思い当たった。
どうやら、幻想郷で胡椒神事が流行る事はないだろう。
了
つまり、人間と妖怪が共存する幻想郷は、物忘ればかりしている者たちが集う楽園と言えるだろう。
そんな彼らの物忘れは多岐にわたるが、その中でも最たるものが幻想郷の外に関する事である。
博麗大結界が成立して以来、人々は外の世界への関心を失い、おかげで外の世界の道具を扱う我が店『香霖堂』も閑古鳥が鳴く有様だ。
まったくもって、幻想郷の人々にも困ったものだ。もう少し幻想郷の外に目を向けてくれれば、外の世界の便利な道具によって、彼らの生活にも潤いが出て、僕の懐も潤うというのに。
そんな愚痴を押し込めて、棚の整理をしていると銀色の道具が奥から出てきた。
その道具を見て、僕は自分も酷い物忘れをしていた事に気が付く。
なんて事はない。人間と妖怪の合いの子である僕も、物忘れの酷い幻想郷の住人だったという事だ。
海のない幻想郷に生きていると忘れがちな事であるが、外の世界には海があり、この国は海に囲まれている。そして、外の世界に海がある事以上に忘れがちな事が、海の向こうには異国が存在するという事だ。
僕は、銀色の道具――胡椒箱を手に取って、それを弄びながら外の世界に広がる海を、そして海の向こうにある異国に思いをはせた。
なぜなら、この胡椒箱は正真正銘、異国から幻想郷に漂着した道具だからである。
鈍い銀色をした金属製の筒が五本束ねられていて、一つの太い曲がった棒にくっ付いている。その曲がった棒は、木製で握りやすいカーブを描いていて、金属の付け根のあたりに丸いリングが付いていた。
この胡椒箱という道具は、新大陸で作られた道具らしい。
見た目としては、いわゆる鉄砲に似ている。鉄砲とは、引き金を引くと弾丸が飛び出して、人を殺傷するという外の世界の物騒でつまらない武器の事だ。
しかしこの胡椒箱は武器などではない。鉄砲とは少し事情が違う、とても特別な道具なのだ。
――カランカラン
「久しぶりだな、香霖。何か私が持って帰りたくなる出物はあるか?」
「久しぶりに店に来て早々、そんな挨拶はないだろう」
店に来たのは、マフラーを首に巻いて、寒そうに手をこすり合わせる魔法の森の魔法使い、霧雨魔理沙だった。そんな彼女から見えないよう、僕は素知らぬ顔で手に持っていた胡椒箱を懐に隠す。
「まあ、よく来てくれたね、外は寒かっただろう。お茶を淹れてくるから、ストーブで暖を取るといい」
「ちょっと、待て。おかしくないか?」
台所に引っ込もうとした僕を、魔理沙が呼び止めた。
「なにもおかしい事はないだろう。魔理沙が来たからお茶を入れる、とても自然だ」
「いや、私が知っている香霖は、他人の為にわざわざ席を立ってお茶なんか淹れないぜ」
「……酷い言いようだな。僕だって、お客にはお茶を淹れる」
逆に言えば、僕が愛想よく振舞う時は、それぐらいという事だ。そして、この店に客が来る事は滅多にない。
おかげで、愛想の賞味期限も切れかけていた。
「残念ながら、私は客じゃない。おっと、論理的に破綻してきたぜ香霖? これじゃあ、お前が私に愛想を良くする道理はないじゃないか」
「魔理沙の言う事は分からないな。一体何が言いたいんだい?」
「簡単な事だぜ。香霖が私にお茶を淹れるという事は、何か頼み事があるか、何かを隠しているという事だ」
鋭い。
確かに僕は、胡椒箱を懐に隠している。
これが魔理沙に見つかると、面白い玩具などと思われ、持っていかれるかもしれない。
「隠し事なんて誰でもするものだよ。それに僕だって仏心を出す事もある」
我ながら苦しい言い訳だが、別にやましい事をしているわけじゃない。単に、せっかく見つけた胡椒箱を持って行かれたくないだけだ。
僕は魔理沙の戯言を切り捨てると、とっとと台所に逃げ込んだ。
そして、台所で胡椒箱を隠す場所を物色する。
とりあえず、魔理沙が帰るまでしのげればいいのだから、適当な棚にでも入れて置くのがいいだろう。
そう決めて懐に入れた胡椒箱を探るが、無い。
「おーい、香霖。これって一体何なんだ?」
やられた。
どうやら魔理沙は、僕が懐に入れていた胡椒箱をスリ盗っていたらしい。なんて手癖の悪い奴。油断をしていなくてもこの有様だ。
一人分のお茶を淹れると、僕は店に戻る。
「あれ、私のお茶は?」
「生憎と仏様が帰ってしまってね。僕の分だけだ」
「相変わらず香霖はシミったれてるなぁ。そんな事じゃ禿げるぞ」
文句を言う魔理沙を無視して、僕はお茶を啜った。
香りがイマイチの二級茶だが、適当に飲むには十分過ぎる。
そんな僕を魔理沙は恨めしそうに見ていたが、すぐに気を取り直して、僕からスリ盗った胡椒箱をいじり始めた。
「これは何なんだ」
「胡椒箱……ペッパーボックスだよ」
「……胡椒箱? ああ、ペッパーミルの事か、つまりこれは粒胡椒を挽く道具なのか?」
そう言って魔理沙が胡椒箱の筒が束ねられている部分を、ペッパーミルでやるように回そうとする。
「無理に回したら壊れる、それに胡椒箱では胡椒は挽けない」
慌てて僕は魔理沙の蛮行を止めた。
どうにも彼女は、思いつきで行動をするから困る。せっかくの美品が壊れたらどうするのだろう。
「それじゃあ、これはどんな道具なんだ?」
「これは、弾を撃ち出すものだ」
「はぁ?」
魔理沙は目を白黒する。
恐らく、胡椒箱という名称から、弾を打ち出すという感覚が理解しにくいのだろう。
しかし、それも仕方がない。
胡椒箱(ペッパーボックス)などという台所にあっても不思議がない名称でありながら、弾を打ち出すという用途である事が、この道具の洒落ている部分であり、戸惑う部分なのだから。
「なんで胡椒箱という名前なんだ?」
「魔理沙が頭を捻るのも無理はない。しかし、よく考えてみればこれは簡単な事なんだよ」
自分で考えてみろと、僕は魔理沙を促してやる。
「なんでだ?」
しかし、魔法の森の普通の魔法使いは即座に答えを求めてきた。魔理沙も霊夢も、こういう所は困ったものだ。
すぐに答えを得る事を是としてしまい、その過程を軽視する。実際には、答えを得る過程も、答えと同じくらい価値があるというのに。
「何度も言っているけど、少しは考えたらどうだ?」
「目の前の答えを知っている奴がいるのにか?」
道理ではあるのだが、そうなると僕が居なくなったらどうするのだろう。まあ、魔理沙のことだから別の人間に聞いて終わりとなるのだろうが、そう考えると少し哀しい気もしないでもない。
所詮は僕も半分は人の子という事か。
「で、これは何で胡椒箱って名前なんだ?」
「それは簡単な話だよ。魔理沙はペッパーミルを見た事はあるんだろう?」
胡椒挽き(ペッパーミル)とは、文字通り胡椒を挽いて粉にする道具で、この国では馴染みはないが西洋では一般的な、食卓で使われる道具だ。
「ああ、紅魔館で見た事があるぜ。あれで胡椒を挽くのはちょっと楽しかった」
「それと胡椒箱は良く似ていると思わないか?」
確かペッパーミルはどこかに仕舞っておいたはずだ。胡椒は幻想郷ではなかなか手に入らないので需要はないが、見た目が良く台所の置物にもなりそうな自慢の一品、僕はそれを胡椒箱と並べてやる。
チェスのポーンを思わせる格調高いペッパーミル、それを魔理沙はしげしげと眺める。
「ああ、なんで胡椒箱って名前か分かったぜ。この鉄砲がペッパーミルに似ているからだろ?」
なるほど、魔理沙は胡椒箱を鉄砲と勘違いしているのか。
確かに鉄砲も弾を出すし、胡椒箱の用途と変わりはないように思える。
しかし、幾らなんでもそれは的外れ過ぎる。どうして魔理沙にしても、霊夢にしても、彼女達は想像力に乏しいのだろうか。
「魔理沙はいくつか勘違いしているようだね」
しかし、彼女達はまだ子どもだ。
だからこそ、しっかりと丁寧に間違いは正してやらなくてはいけない。
それは、彼女達に近しい先達である僕にしかできない仕事だ。
「勘違いってどういう事だよ」
「それは、鉄砲と胡椒箱はまったく別の道具という事だ」
「でも、前に紅魔館でコレクションの鉄砲を見せて貰ったけど、こうやって握る所とか似ているぜ?」
魔理沙は実際に鉄砲を見た事があるのか。
それで、胡椒箱を鉄砲と勘違いをしてしまった訳だ。
鉄砲は、幻想郷に流れ着く事が滅多にないし、博麗大結界誕生以前に持ちこまれた物も、厳重に仕舞い込まれているか錆びて使えなくなっているので、幻想郷では鉄砲を知らない人は多い。
魔理沙が鉄砲を知っているのは少し意外だったが、異国情緒溢れる紅魔館ならば納得だ。
「確かに胡椒箱と鉄砲は良く似ているね。だが、勘違いしてはいけない事は、胡椒箱はあくまで胡椒箱という事だ。形が似ているからといって同じにしてはいけないんだよ。それは一つ目小僧とサイクロプスが同じ一つ目で似ているから同じ妖怪だと断定するぐらいに乱暴な論法だ」
「同じでも良いんじゃないか」
なんて乱暴な奴だ。
「訂正しよう。見た目が同じだからと言って、おはぎと馬糞を同じに扱うようなものだ」
「なるほど、それは乱暴だな」
「納得してくれたようなので続けると、つまり胡椒箱は独立したカテゴリを持つ道具という事さ。つまり鉄砲とは関係がない。似ているのは弾を飛ばすという事だけ。逆に言えば、弾を飛ばすという一点が似ていた所為で、胡椒箱は鉄砲に似てしまったんだろう」
そして、僕は胡椒箱を魔理沙から取り返して、構える。
金属製の五本の筒、そしてなめらかな木の持ち手。その造形はとても面白く、どう考えても鉄砲などというつまらない道具のカテゴリには相応しくない。
「でも弾を飛ばすんだろう?」
「魔理沙も弾を飛ばすじゃないか。弾を飛ばしたら、みんな鉄砲かい?」
「そんなわけあるか。私は魔法使いだ」
「だったら、これもただの胡椒箱さ。それに胡椒箱が飛ばす弾は鉄の弾丸じゃない。これはその名の通り胡椒を入れる箱なんだ。そして飛ばす弾は胡椒なんだよ」
「胡椒って、なんで外の世界の人間が胡椒を弾にして飛ばすんだよ」
魔理沙は訳が分からないという顔をしている。可哀想に、魔理沙はすっかり混乱してしまったようだ。
しかし、それも仕方のない話だろう。
ずっと、幻想郷で生きてきた彼女たちに外の世界の事は分かるまい。それが異国の風習ともなれば完全に理解の外になってしまう。
僕は、助け船を出してやることにした。
「なあ、魔理沙。魔理沙は節分で煎り豆をばら撒いた事はあるか?」
「ああ、それはあるけど……って、そうだな。アレは豆を家の中でばら撒く」
「節分は、豆を撒く祭だ。こういった食べ物をばら撒く祭は日本では節分ぐらいだが、異国では珍しい事ではないんだ。トマトをばら撒く祭に紅茶を海に投げ入れる祭祀、他にもチョコレートを撒いたり、カスタードパイをぶつけ合ったりね。この胡椒箱も同様だ。これは胡椒を撒く異国の祭で使われた祭器なんだと僕は考えている」
そう言って、僕は魔理沙の前に胡椒箱を置いた。
異国の祭器という言葉を受けて、魔理沙は改めて胡椒箱を観察しているようだ。
当たり前の事だが、外国にも神はいて、神がいる以上は祭祀と信仰が存在する。それらは幻想郷にあっては感じ取ることはできないけど、その証拠はこうして幻想郷に入ってきているのである。
「なるほど、胡椒をばら撒く祭か。そういや早苗も奇跡を起こすとか言って、果物を降らせていたな」
「前に言っていた妖怪の山の現人神の事だね。保食神(うけもちのかみ)は身体から食べ物を出したそうだけど、確かに神の奇跡で食べ物を生み出したり、降らせるというのは珍しい事じゃない。耶蘇教の神はマナという食べ物を降らせたそうだし、空から魚やカエルが降って来たなんて話もよく聞く」
そうした神事を真似して、人々は神の奇跡の再現として祭を行うのだろう。
「だったらさ。胡椒を撒く神ってどんな神なんだ?」
「詳しい事は分からないな。ただ、胡椒箱自体は亜米利加(アメリカ)で使われているという記述を本で読んだ事があるから、きっとその神は亜米利加の神なんだろう」
そして、僕は亜米利加に思いを馳せる。
巨神である『自由』という名前の女神によって支配される自由の国。なんでも亜米利加では「我に自由を与えよ、しからずんば死を与えよ」という文句が使われるほど、この『自由』という名の巨神に捧げられる信仰は激しいらしい。
「亜米利加ねぇ。どんな国なんだ」
外の世界の事もよく分かっていないのだ。魔理沙に亜米利加の事が分かるはずもない。
僕は何冊かの本を持ってきて、魔理沙の前に置いた。
「これはアポロ計画に関する本だ。この本には外の世界の人間が月に行くという話が書かれているが、それを成し遂げたのは亜米利加だ」
「へぇ、アポロ計画は亜米利加がやっていたのか」
太陽神の名を冠し、月へ至る外の世界の月面侵攻計画、それは亜米利加によって行われた。
「西部ではジョン・ウェインという銃士が活躍し、カスターという将軍がインド人と激しく戦い、東部では情け容赦のないアル・カポネが人々を支配し、野球選手は黒い靴下を履いただけで糾弾された。全く持って亜米利加は野蛮な国だが、同じくらいに革新的な国でもある」
「革新的ね、確かにロケットを作って月に行くくらいだから、革新的には違いがないな」
「それだけではないよ、例えばコレだ」
そして、僕は持ってきた本の一冊を取り上げた。
それは亜米利加の英雄について書かれた本、蝙蝠の姿を模した姿をした英雄が町の悪漢と戦うという伝承をまとめたモノである。
「なんだコレは」
「革新的だろう。亜米利加ではこうやって奇天烈な姿で悪党を懲らしめる英雄が多いんだそうだ」
胸にSと書かれたタイツを着た男にコーホーという呼吸音を鳴らす黒い男、緑の肌の巨人に蜘蛛の巣を模したデザインの赤と青のタイツを着た男など、こうした英雄譚は亜米利加では人気らしく何冊もの本が出ている。
「なんで全身タイツなんだ」
「悪と戦う為に姿を隠す必要があるからだろう」
「身を隠すわりに派手じゃないか」
「まあ、彼らは英雄だからね。日本の武将も鎧兜を華美に飾っただろう? 同じ事さ」
「なるほどねぇ。確かに革新的だ。そんな革新的な国で、この胡椒箱が使われたってわけだ」
魔理沙は、興味なさそうに英雄の本をどけると胡椒箱を手に取る。
どうも彼女は亜米利加の英雄には興味は無いが、胡椒箱は気に入ったらしい。
「なあ、香霖。この胡椒箱はどうやって使うんだ?」
そして、楽しげに胡椒箱を弄びながら僕に聞いてきた。
しかし、それは困った。
僕の能力は、道具の名称と用途が分かるだけで、使い方は分からないのだ。
基本的な構造が鉄砲と似ているとはいえ、胡椒箱と鉄砲は別の道具。鉄砲と同じように火薬を入れて胡椒を撃ち出す事もできるだろうけど、祭でそんな無茶な真似はしないだろう。
「使い方を知って何がしたいんだ?」
「そんなの決まっているだろ。スペルカードの参考にならないか、使って試してみるんだよ」
流石は腐っても実践する魔法使いだ。
その心がけは見事だけど、それに答える事は出来ない。
僕は、魔理沙に胡椒箱の使い方が分からない事を正直に伝える。
「なるほど。それは残念だな。ああでも、少し私に預からせてくれないか? 私は魔法の専門家だ。その知識の中には色々な外国の神の儀式も含まれていたりするんだぜ。だから、もしかしたら少し研究をすれば香霖とは違うアプローチが出来るかもしれない。そんなワケでコレは借りていくぜ」
なるほど、そうかその通りだと頷いているうちに、魔理沙は胡椒箱を持って帰ってしまった。
やられた、と気が付いた時には後の祭りだ。
「まあ、いいか」
魔理沙が胡椒箱の研究するのは本当だろうし、胡椒箱を使えるようになれば僕に使い方を教えてくれるのも間違いはない。
その後に戻ってくるかは分からないけど、どこかに消える訳ではないのだから、必要になるまで魔理沙に預けているのも良いだろう。
「もしかしたら、幻想郷で胡椒神事が行われる日が来るかもしれないしな」
空となった茶碗を置き、ふと溜息を吐く。
そして、胡椒を撒く祭祀とそれが行われた亜米利加という異国に思いを馳せた。
そこで僕は、霧雨の剣を片手に道化師のような悪党と戦い、蝙蝠の姿をした英雄と肩を並べる。そして亜米利加でも最悪の犯罪都市の平和を守り、僕は戦友の肩を抱いて湾岸のカフェーに向かう。その途中で、人々が盛んに海へと紅茶を投げ入れるのを目撃し、彼らに混ざって海に紅茶を投げ入れる祭祀を行うのだ。
僕は自由の戦士たちと共に自由万歳と叫び、すべてが終わった後にカフェーで一杯の薄いコーヒーを飲むのである。
「……ちょっとコーヒーでも飲むか」
少し子ども染みた想像に照れくささを感じながらも、僕は想像の中の自分と同じようにコーヒーが飲みたくなって、席を立ち戸棚からコーヒー豆の袋を取り出した。
しかし、袋は異様に軽く、中を覗き込んでみると中には豆が入っていない。
「しまった。豆は切らしていたな」
そこで僕はようやく、幻想郷では胡椒だのコーヒー豆といった嗜好品は、入手が困難な事に思い当たった。
どうやら、幻想郷で胡椒神事が流行る事はないだろう。
了
胡椒を撒く祭りは初めて聞きました。
クシャミと涙目で胡椒の弾を撃ち合うという
物凄くシュールな光景が浮かびました。
愉しくゆっくりと読ませてもらいました。
アメコミヒーローはやり過ぎ、漫画や映画のパンフレットなら能力で判明するだろ。娯楽かどうか
あんな ねだんのたかいものは まきませんよ。
こうしてみると日本以上に不思議な国なアメリカwww
秋穣子に頼めば胡椒の実ができそうだな
ところで紅茶を海に投げ入れるのが祭りだったかどうだったか。思い出せません。
なんとも突飛な発想と、それを語る霖之助が面白かったです
紅茶を海に投げ入れたことが祭りと解釈されているとは。
ま、そこから始まる戦争も神々にとっちゃお祭りみたいなもんでしょう。
何処の神かは存じませんが。