「ねえ、霊夢」
「なによ」
「あなたの体ちょうだい」
「だめ」
「そう」
会話が途切れ、静寂が訪れる。
なんなんだ、こいつら。
それは早春の日光が降り注ぐ博麗神社にやってきた魔理沙を突如として襲う疑問。
境内でいつも通りどこか遠くを見ているような霊夢と、そこから少し間隔を空けたところで同じく瞳をどこに向けているのかわからないアリスの会話。
「右腕だけでもいいから」
「不便になるからイヤ」
「そう」
再び沈黙。
もうすぐ春ですよー、とどこからか聞こえてきた春告精のささやきとは対極的に、魔理沙の混乱は高まるばかりだ。
(え、なんだよ、体をくれって……。殺すってことか? さとりの妹みたいにコレクションでもするのか?)
まさか人形愛好の趣味が悪い方向に洗練されてしまったのだろうかなどと、恐怖と心配の混合物が白黒の頭の中を支配しそうになる。
頭を軽く振って、いつも通りに、そういつも通りに声をかけようとする魔理沙。
「よ、よぅ、霊……」
が。
「アリス」
「なにかしら霊夢」
「一緒に死んでくれない?」
ひきつったような、滑稽な笑顔を貼り付けた魔理沙が静止する。
「じゃあ体くれないかしら」
「いや」
「じゃあ私もイヤ」
一体有彩二色と七色が何を考えているのか、無彩二色の魔理沙には自分の理解の範疇をこえている気がした。
心中? 猟奇? それともジョークなのか。
次々と根拠のない推論が湧き上がっては霧散していく。
霊夢たちは、当然魔理沙もだが、再び沈黙を続けている。
この何とも言えない空気を脱する方法を、割と不器用な少女は一つしか知らなかった。
「いよーっす! 霊夢、アリスっ! 魔理沙さまのご登場だぜ!」
「普通の魔法使い」は、考えるのをやめた。
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紅魔館の大図書館は、たとえ湖がゆで上がるような真夏日であっても常に快適な温度を保っている。
しかし、咲夜には今の室温はなんとも不快だった。
いや、不快というのもおかしい。
(強いて言えば、不可解かしら……?)
半目で主の客人とともにテーブルに着いている二人を見やる。
「……」
「……」
霊夢はゆっくりと紅茶でみたされたカップを傾け、アリスは本に夢中。
いつもなら緑茶がいいわなどとのたまう紅白が、大人しい。
そして。
「な、なはははは」
もくもくと茶菓子を食べ続け、咲夜がにらみつけると苦笑いをこぼす魔理沙。
そんな彼女をたしなめたり、話しかけたりしているはずの七色も、やけに静かだ。
(というか、近寄りづらい……!)
今日の二人は隣同士の椅子に腰掛けているのだが、まるで結界でも張ったかのような気配がある。
珍しいことにパチュリーも本を持ちすらせずに、ティーカップ片手に二人を観察している。
その目から読み取れる感情は、やはり、咲夜や魔理沙と同様だ。
(……なにこれ)
そんな膠着状態を崩すのはやはり。
「霊夢」
「ん」
「あなたパチュリーに何か用事があったの?」
「アリスが行ったから」
「そう」
「アリスは?」
「霊夢が行きそうだったから」
「そう」
「そうよ」
会話終了。
本当にこの空間の適温は維持されているのか、咲夜にはわからなくなってきた。
魔理沙も同様なのか、「あついのかな~。 汗かいちゃったぜっ」と帽子を団扇代わりに扇いでいる。
「魔理沙、それ汗ちがう。 冷や汗、オーケィ?」
パチュリーがカタコトでしゃべり出した。
その魔女もやけに青ざめているが。
しかし、時間は止まらない。
「ねえ、霊夢」
「うん」
「霊夢をちょうだい」
「ブッ!」と魔理沙が紅茶を噴出し。
「ちょうだ、ぅ……ゲッホ! ゴホゴホ!」
パチュリーが咳き込む。
「え」
メイド長の思考回路がショートを起こして。
「え、な、ななななななな!?」
ストップ&ゴー。
時は再び動き出した。
「さささささささっきから何なんですかあなたたちー!?」
普段の瀟洒な振る舞いからは想像できないほどに取り乱し、顔を真っ赤に染めて、叫びだす。
「ちょうだいなんてそんなハレンチな不潔なそーいうのは好きな人と!」
「さ、げふ、咲夜落ち着きなさい……」
「パチュリーさま!」
「ごほっ……あーくるし……二人とも聞いてないわ……」
「あ……」
衝撃的な発言の直後だというのに、アリスも霊夢もお互いに遠くを見たまま動かない。
そして少しずつ咲夜の頭が冷えていき、周囲を見渡すと、先ほどまでは見なかった影が一つ。
本棚から少し顔を出した小悪魔だ。
赤髪の使い魔と、銀髪のメイドの目線が合う。
「……」
「……」
「ハレンチナフケツナ、ソ-イウノハスキナヒトト~」
嗤う悪魔が、そこにいた。
「こあくまあああああああ!」
時を止めることすら忘れるほどの怒りにとらわれた咲夜も、考えるのをやめた。
そして、結界内の二人は再び沈黙を破った。
「イヤよ、アリス」
「そう」
「そう」
魔理沙は相変わらず苦笑いで、パチュリーは少しげんなりとしながら、二人を眺めていた。
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それからしばらくして、二人はやってきたときと同じように、忽然と姿を消した。
大図書館には、魔理沙とパチュリーだけが残った。
「はー……しかし参ったぜ。 なんだったんだアレ」
「私はなんとなくわかったけどね」
小悪魔も咲夜も不在なため、珍しくパチュリーがいれた紅茶を魔理沙が受け取る。
「お、サンキュ……ってわかったのか!?」
「多分よ」
「それでも納得できればこの際なんでもいいんだぜ……」
すっかり元気をなくした魔理沙を見て、パチュリーはふむ、と少し考えてから、推論を語って聞かせることにした。
「ケンカ」
「は? 献花?」
「喧嘩よ、痴話げんか」
「でもアイツら、怒ってなかったぜ?」
「ケンカするのは、お互いに不都合があるから」
こんな目してたでしょ、といいながら少し感傷にひたるような目をパチュリーはしてみせた。
「あー、してたしてた。してたぜ」
「あの子たち、お互い好きあってるんでしょ? もちろん恋愛方向で」
「え、知らなかったのかパチュリー」
「知ってるから言ってるのよ。 この館で知らないのは咲夜と妹様ぐらいよ」
百年以上のときを生きた魔女は少し苦笑して、少し自らを振り返って語り出す。
「霊夢は人間で、アリスは魔法使い。確実に、霊夢はアリスよりずっと早くに逝ってしまう」
「……そうだな」
齢三十にも満たない魔法使いは思い出すのもイヤそうだ。
「ほら、そんな顔しないの、仕方ないんだから」
そう、仕方ないからこそ。
こんなこと言うとレミィに怒られそうだけどね、と前置きしてパチュリーの推理は続く。
「アリスはその運命に逆らおうとしているのよ。 多分霊夢の体を改造するつもりなのかしらね」
「ああ、だから……」
魔理沙も思い返してみれば、ここ最近のアリスの図書館で読んだ本のジャンルと合致した。
「医学とか薬学とか、難しそうなの読んでたもんな」
しかし、魔理沙の疑問はまだ残る。
「でも、じゃあなんでケンカなんてするんだ? 霊夢にとっても嬉しいことじゃじゃないのか?」
「なんか、昔の私を見てるみたいね」
「あに?」
「いえ、若いなって思っただけ。 ……どうしてそれでケンカしちゃうんでしょうね」
首を傾げる人間と、それを見つめる魔女。
図書館の空気は和やかなものになりつつあった。
『へーるぷ! へるぷみー!』
扉の向こうから聞こえる小悪魔の悲鳴を除けば、だったが。
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もう雪も溶けてしまったとはいえ、日が沈んだ境内は未だ寒い。
霊夢とアリスは、身を寄せ合ってまた遠くを見つめていた。
「ねえ、霊夢」
「……」
「好きよ。 好きだから、死なせない」
「……バカ」
二人は一体、どこを見ているのだろうか。
「私もアリスが好き。 でも、私は人間だから」
そして、相変わらず二人の視線は合わないままだった。
とかなりそうな危うさがありますねアリスは。
しかし、これはなんなんだ一体。
やはり幻想郷は常識にとらわれてはいけない
ギャグかと思ったらシリアスだった、でも自分の中ではギャグでした。
でも二人らしいと思える今日この頃。
霊夢らしさ、アリスらしさがよく出てる。
小悪魔www
あと、これだけは…
もっと広がれレイアリの輪!!!!
でも面白かったです
もっと広がれレイアリの輪!!!!
続きがみたいです……できればハッピーエンド的な感じで……
これも二人だけの世界、なんていうのかな。
良いレイアリだ!