/白い夜のゆくえ
ランプの古い灯りがぼんやりと辺りを照らしている。
虫の音も響かぬ、雪が地面に積もりゆく冷たさだけが広がる夜だ。
明日はきっと雪除けに追われるだろうな、とアリスは考えた。
夜中に目が覚めてしまうことはあまり珍しくもない。ベッドから起き上がったそのままの形で手の届く窓を、かしゃり、と開けた。
途端に鋭い空気が部屋の中に侵入してきて、アリスは思わず身を震わせる。
それでも窓を閉めてしまわないのは、こんなふうに真夜中に目覚めてしまった時に吸う外の空気がとても澄んでいるから。
夢の中で遊んでいた意識を引っ張り起こしてくれるからだ。
当たり前だけれど、部屋の中も外も真っ暗だった。ランプだけがぼんやりと光って、ベッドの上の少女と棚の中の人形たちを照らし出している。
「今、何時かしら」
アリスはそう呟いて、部屋の明かりを点けようとしたけれど――伸ばした手を途中で下ろした。
しなやかな指の先で淡い光が消えていく。
すぐに時間に頼ろうとするのは悪い癖だ。時計は確かで正しいが、曖昧なものを否定してしまう。
代わりに外の空気をめいっぱい吸い込んだ。
今はもしかしたら朝に近いのかもしれない。それとも、実は真夜中だと自分が勘違いしているだけで、まだ昨日は終わっていないのかもしれない。
どっちでもいいや、とアリスは思った。寝てしまえば、どうせいつもと同じ朝がやってくるのだから。
ばふりと枕にダイブして、傍らの上海人形の位置を元に戻す。
寝る前まで本を読んでいて点けっぱなしになっていたランプを消そうと手を伸ばして、アリスはなんとなく本棚に視線を巡らせた。
一角は小さながらくたが一緒くたにまとめられていてちょっと汚い。
「明日、掃除しようかな…」
使いかけでそのままの薬瓶や、古くなって色褪せたリボン。
使用機会のない星座表は、魔理沙が無理やり置いていったもの。
何に使っていいのかわからないお札は、偶然訪れた霊夢に余りもののクッキーをあげたところ、大喜びしてお礼に渡されたもの。
パチュリーと実験していた時のメモまである。もういらないのに、とアリスはため息をついた。
それぞれのがらくたが、それぞれに思い出を含んでいるのだから、捨てるにも重くて仕方がない。
雪除けに棚掃除。明日の重労働を思ってまた湿ったため息が出た。
(ひとりの方がずっと楽だった)
そんなことを思って、ぶるりと肩を震わせた。
どうも寒いはずだ、こんな雪の降る夜に窓が開きっぱなしなのだから。
すっかり忘れていた、とアリスはのろのろと起き上がり窓枠に手をかける。
カーテンを閉めようとした時、ちかりと星が目に入った。
ああ、そうだ、あの星は―――誰と見に行ったんだろう。誰だっけ。とても温かい手だったのに。
私はお洋服のボタンが上手に掛けられなくて、行きたくないって駄々をこねて。
誰だっけ、私はもう一度あの空が見たい―――小さな自分の手を握って星の夜を一緒に居てくれた人。
誰だっけ、誰だっけ、と思いながらもうアリスは半分夢の中だった。
白い息が夜に混じって消える。
夢に落ちる瞬間は何を考えていたかなんて誰も知らないけれど、しんしんと積もる雪の中に佇んでいる自分をアリスは夢見ていた。
捨てようと思っていたがらくたばかりが周りに散らばっている。
自分の息遣いだけが静かに響く、雪の夜だった。
(やっぱりひとりはいやだなぁ)
ぼんやりと思考が宙を舞って、夢の国のアリスはがらくたをひとつ拾い上げる。
使い方を丁寧に説明された、星座表。
ご都合主義に雪は止み、いつか見たような星空にそれを重ね合わせて目を細めた。
「きれいでしょう、アリスちゃん」
いつの間にか幼くなった自分と、隣に立つ母の姿を垣間見たところで視界はだんだん閉ざされていく。
――もう眠いのよ、おかあさん。
結局消し忘れたランプが照らす部屋の中。
温かくて重たい布団を頭まですっぽりと被って、少女の真夜中が終わる。
/サマー・ナイト・ドリーム
紺色のスカートが膝上でふわり、と翻る。
霊夢はそれに違和感を覚えた。そして、違和感を覚えた自分に違和感を抱いた。
彼女のスカートが短いのはいつもの事だし、昨日と別段変わった様子もない。
いぶかしんだ目つきで下から上まで見れば、丁度こちらを見た彼女と目が合った。
「なんだよ、私に何か付いてるか?」
「憑いてるわよ、いろいろ。――ああ、冗談だから。そんなに怯えないでよ」
「お前が言うと怖いんだよ」
自転車をひいたまま道を歩いていた魔理沙が歩を止めて振り返る。
手に持っていた一個120円のソフトクリームが溶けて、コーンがぐしゃぐしゃになっていた。
それをこぼさないように器用に食べながら、二人はまた歩き出す。
生徒会の会議を終えた霊夢と、部活を終えた魔理沙がこうやって一緒に帰るのは久しぶりの事だった。
時間がなかなか合わないのだ。お互い長い時間待ったりするのは苦手な性分だから、たまに時間が合った時だけ一緒に帰る。
合わない話でぎこちなくなるほど浅い仲でもない。
小さい頃に親を亡くした霊夢を、魔理沙の両親はとてもよく面倒を見てくれたのだ。
喧嘩もしたし(今でもするが)、片方が泣いたら慰めたりもしていた。いじめっ子がいたら二人で成敗した。
魔理沙の方が年下だったが、そんなのは気にする暇もなかった。そもそもこんな田舎では年下も年上もあったものでない。
からから、と車輪の音が響いている。
「そういえばさあ、」
魔理沙が呟く。
「霊夢んちってお守りとかって売ってる?」
「えー…いるの?作るよ?お金になるでしょ」
「お前のそういう現金なところ嫌いじゃないぜ」
そう言って冷めた目を霊夢に向ける。
最近コンクリートになったばかりの道路の白い線の上を霊夢は踏み外さないように歩いていた。
「私じゃなくてさ、にとりだよ。いるだろ、1つ下の機械同好会会長。元気印」
「…ああ。山城」
「お前わざとやってるな?でさ、あいつが聞いてきたんだよ。合格祈願のお守りは売ってないのかーって。
霊夢の家一応神社だろう。売ってるかなって思ったんだけど」
「うちがどんな神社かあんたはよーく知ってるでしょう。あんな山奥の寂れた神社に誰が参拝にくるかっての。
お守りは作ればあるけどね。…そもそも、なんで魔理沙が?接点あったの」
「こないだ、ちょっと助っ人に」
ふーん、と興味なさ気に霊夢は呟いた。
魔理沙は学園内でも割と有名な人間だ。
遠いがいいところだから、と周りに薦められてこんな田舎から電車を乗り継いで通っている由緒あるお嬢様学校であるこの学園には、
一癖もふた癖もあるような人間が集まってきているのだが、その中でも名を知られている。
黙っていれば深窓の令嬢、そして黙っていられないのが彼女の性格である。
あらゆる部活、同好会に助っ人として参加し、その度に成果を上げている。学業も優秀だし、問題があるとすれば、その捻くれた言動だった。
「魔理沙は有名人ねえ。最近は何をなくしたの?」
「えーと、シャーペンと、髪留めと、あ、この前靴がなかった。
いや、制服一式持ち去られる生徒会長霊夢様ほどではないけどな?」
「ばっ、何で知ってるのよ!」
「何でって、体操着着ていそいそと電車に乗る霊夢を後ろから見て―――いって、殴ることないだろ!?」
霊夢はとりあえず拳をふるった。にやにやと語る魔理沙がとにかくうっとおしかったから。
艶やかな黒髪、凛としたまなざし。運動もそつなくこなし、試験ではいつもトップ。
おまけに奨学金で学園に通っているときたら、生徒会長である霊夢に憧れるものは魔理沙以上に後をたたなかった。
髪留めや身に着けたアクセサリー、筆記用具が持ち去られることは日常茶飯事だが、さすがに制服が見当たらなかった時は霊夢も驚いた。
好奇の視線を浴びながら泣く泣く体操着で家に帰ったというのに、こいつは。
痛い痛いと呻く魔理沙を横目に霊夢は少し歩を早めた。空は橙を色濃く浮かべている。
流れるような形の雲の隙間から光が漏れて、海が燃えているように見えた。
海なんて遠い世界の話だけれど――そこまで考えて、またちくり、と霊夢を違和感が蝕む。
「いやいやいや、海なんてあるじゃない。地球ってほとんど海なんだから」
「あー?なんだ、海行きたいのか?いいねぇ、私も行きたい」
ソフトクリームのついた指先をぺろぺろと舐めながら魔理沙が言った。
「今年の夏ももう終わるしなー。よし、いっちょ行くか?そうだな、メンバーは…うん、アリス連れてこうぜ。
あいつ泳げないんだよ。面白いのなんのって。
後は――あの凶暴姉妹か。それならメイドもついてくるだろうし、咲夜に計画立てでもしてもらうか。
どうだ、霊夢?」
霊夢が丁度白線の終わりまで渡り終えた頃、そんなことを聞いてくる。
だいたい感じた違和感に思わず口が反論しただけで、海に行きたいとは言ってない。
なかなか訪れぬ夏の夜の気配を背に感じて、霊夢はため息をついた。
そうして、前を向いて笑った。
「ゴージャスな旅なんでしょうね?」
「ああ、保障するよ。なんてったって、あのスカーレット家のプランなんだからな」
「まだ話もしてないじゃない」
車輪がからから、と回る。
二人の少女の影がのびて、のびて、忍び寄る闇に溶けていく。
分かれ道に行き当たって、魔理沙が「じゃあな」と言って自転車に跨った。
ふうわり、と風に揺れた金の髪が遠のいていくのを見て、霊夢はふと思い出す。
「ああ、そうだ、魔理沙ー!河城さんのお守り何祈願だっけ―――」
魔理沙の消えていったはずの路地には粘ついた暑さだけが徘徊していて、橙色の空も、忍び寄る夜も、とりとめのない楽しかった話も見当たらなかった。
泥のついた車輪の後を辿ろうとして霊夢が一歩踏み出すと、
冷たい水が夢を醒ますように、世界は反転する。
ちりん、と風鈴が鳴っている。
ささやかな風が頼りないガラスを煽って音を鳴らしているだけなのに、少しだけ涼しくなる気がする。
「……あれ」
茹だるような暑さがじわじわと縁側に寝転ぶ霊夢を侵食する。
がばっと起き上がると、傍らにあったらしい酒の瓶が喧しい音を立てて倒れた。
しばらく呆けているとすぐ後ろの障子が開いた。
「なんだ霊夢、起きたのか?あーあー、そんなところで寝るから。寝汗拭けよ」
「…まりさだ」
「魔理沙さんだぜ。寝ぼけてんのか?」
魔理沙が手拭いを投げて寄こす。どうやら風呂に入っていたようで、まだしっとりと髪が濡れていた。
霊夢はそれを受け取り首の後ろを拭う。
府に落ちないような表情をしている霊夢に、髪を乾かしながら魔理沙が問いかける。
「変な夢でも見たか?パチュリーがヌンチャク振り回しながら民家を襲う夢とか」
「それよりは変じゃないと思うけど」
「じゃあ、にとりがきゅうりを全力で否定する夢」
「…ああ。山城」
「は?」
魔理沙が縁側に腰を落ち着ける。
酒瓶やおつまみが散乱しているところを見ると、どうやら二人で酒盛りをしていたらしい。
気持ちよくなってうっかり寝てしまったのだろう、と霊夢は思った。
じっとりと肌が汗ばんでいる。気持ちの悪い感触だった。道理で、変な夢を見るわけだ。
「あー…私もお風呂入る。さっぱりしたいわ」
のろのろと霊夢が立ち上がる。
風呂に入る前に一杯水を飲もう、とそのままの足取りで台所へ向かう。
透明で冷たい水を立ったままぐーっと一気に飲んだ。
やっぱりもう一杯、と霊夢がコップに水を汲んだ時の事だった。
「そういえば霊夢ー?」
向こうの方から魔理沙の声が響く。
「なにー?」
障子の奥から魔法使いの真っ黒いスカートが見えた。
瓶に少しだけ残った酒を自分の杯についでいる。
膝元で揺れた白いフリルに霊夢は違和感を覚えた。そして、違和感を覚えた自分に違和感を抱いた。
ガラスのコップがするり、と白い手から滑り落ちる。
「この前の、海に行こうって話だけどさ」
世界がくるくるとまわる。
/要注意爆発物
「咲夜、ケーキは爆発するわ」
「しません」
咲夜はその主に隠しもせず、重い重いため息を吐いた。
それというのも、突然レミリアが料理を作りたい、と言ったのが原因だった。
見た目は幼い子供といえ、その中身は血を啜る恐ろしき吸血鬼。
この館の当主である彼女がなぜそんな事を言い出したのか――傍に仕える咲夜には大体見当がついていた。
どうせ妹様のためだろう。
小さな小さな体に大きすぎる力を持って生まれたかわいい妹。
接し方がわからず、今まで酷いことをしてしまったと主が呟くのを聞いていた咲夜だからこそ、その願いを叶えてやりたかった。
変わった人間――霊夢や魔理沙と出会い、お嬢さまは変わった気がする。
妹様が魔法使いに懐き、とても楽しそうに笑っているのを、少し羨ましそうに眺めている。
時間は沢山かかってしまったけれど、やっと動き出したのだ。
人間である自分はその終わりを見れないかもしれないけれど――二人がすれ違わずに手をとりあう日に少しでも近づくならば、その手助けをしてやりたい。
いや、するべきなのだ。彼女に仕える身なのならば。
そんな思いで、咲夜はその申し出を受け入れた。
フランドールは見た目も幼いが、ずっと地下で過ごしていたため精神も幼い。
きっと作ったものが美味しくなければ、美味しくないとはっきり言うだろう。素直なのはいいことだが、それで口論になっては意味がない。
「はい、手は洗いましたか?エプロンは?前髪が長いようならピンで留めてくださいね。
爪が長いのも駄目ですわ。引っ込めてくださいお嬢さま」
「…いや、ちょっとあなたに殺意が芽生えちゃって。どうしてそんなにやる気なの、咲夜」
レミリアは子供用の可愛らしいエプロンに、いつもの帽子代わりに三角巾をつけて目の前の従者を睨む。
氷を取りにやって来た美鈴から「レミリアちゃんのひとりでできるもん」という呟きが聞こえたのでとりあえず一回休みにしておいた。合掌。
「私はただお嬢さまのご期待に応えたいだけですわ。一生懸命作ったほうが、食べた相手も喜びますから」
「…そう、そうよね。ありがとう咲夜。わたし、やるよ」
―――そうして出来たのが、白い粉があたりに舞うキッチンと、数々のよくわからない物体だった。
「咲夜がお菓子なら出来るって言ったんじゃないか!」
「誰も小麦粉の袋が大破するなんて思いませんよ!分量をはかって混ぜればいいだけな分簡単じゃないですか」
「じゃあなんでケーキが爆発したの」
「恐縮ですわ」
「褒めてないっ!」
オーブンからは爛れたような煙がぶすぶすと上がっている。焦げ臭い匂いが鼻をつき、レミリアは顔をしかめた。
恐る恐る中を覗くと、飛び散ったケーキ(になる予定だったもの)がぐちゃぐちゃになって張り付いている。
甘い甘い砂糖を混ぜ込んだあのいい匂いの生地がこんなグロテスクな物体になるなんて嘘だ。
レミリアはとりあえずオーブンを閉めた。見ていても悲しくなるだけだ。
後ろでは咲夜がメイド長の名に相応しい働きで飛び散った小麦粉を片している。
一瞬まばたきをする間にキッチンはすっかり元通りだった。
「仕方ない、次はマドレーヌね」
「小型爆弾の方が何かと便利ですからね……冗談ですわ。ですけれどお嬢さま、残念なお知らせが」
「お知らせ?」
「オーブンがどうにも」
先程閉めたオーブンをレミリアはもう一度開けた。
可哀想なケーキはもう見当たらないが、内部破壊が激しく使い物になりそうにない。
チ、と舌打ちをしてもこれが現状、やはり機械というものは厄介だ。今度河童にでも修理を依頼しよう。
けれど、これではもう焼き菓子を作ることは出来ない。
咲夜の作るお菓子はどれも美味しいが(滅多なものを混ぜなければの話だけれど)、中でもレミリアはショートケーキがお気に入りだった。
新鮮で艶やかな苺の赤。甘過ぎないクリームは絶品。
初心者にケーキは難しいと言われながらも、やはり一番美味しいものをフランドールに作ってあげたかった。
───あなたが一番なのだと、教えてあげたかった。
視線を横に巡らせると、ぐちゃぐちゃのケーキの残骸が皿に盛り付けられていた。
あんなものでは喜ばないだろう。そもそも自分で作ったとしても食べ物だと思えない。
レミリアはぽつりと呟いた。
「私には、無理だったのかしら」
初めから無理な話だったのだ。今更取り繕うような真似がまかり通るわけがない。
フランが、あの子が地下で過ごした時間を私は知らない。暗闇で思った事を私は知らない。
どうすればいいか分からずに、戸惑うだけで何も出来なかった私の手の感触をあの子は知らない───自分の手を結び、開いてはレミリアは目を閉じた。
その小さな手をすっぽりと覆ってしまって、咲夜はにこりと笑った。
「…大丈夫。ふたりっきりの姉妹ですもの」
「でも、あんまりいい運命が見えないのよ」
「その運命を壊せる吸血鬼を一人知っていますわ、だから」
きゅ、と握る手に力を込める。
咲夜はそのまま俯いた。
ああ、いい従者を持ったものだ、とレミリアは思った。
きっと自分を慰めるか、励ますか、あるいは愚かな考えを叱咤する言葉を探しているのだろう。
俯いているせいで顔は見えないが、さらさらと流れる銀の髪から柔らかい花の匂いがした。
「…だから、お嬢さま」
「ええ、咲夜。わかっているよ」
──お前の言うように、フランと関わる事を、諦めたりしない。
今回は失敗したけれど、何度だって、どんな形だって──そう言葉を続けるはずだったのだが。
咲夜の右手に携えられた小さな箱を視界に留めた。
「もうお嬢さまにはこれしかありません。溶かして混ぜて冷やすだけ!」
要するに焼かなければいいんです、と『お子様にも出来る初めてのゼリー・いちご』を手に力説する従者の頭を、とりあえず壁に掛かっていたお玉で殴った。
「……ねえ、これ本当に咲夜が作ったの?」
大きな館の地下、暗くて狭い部屋でフランドールは言った。
その顔を歪ませて、銀色のスプーンをガラスの器にぶつけカチン、と鳴らす。
石で出来た床の上に小さな丸いテーブルと椅子が置かれ、横には咲夜が微笑みながら立っていた。
毎日ティータイムに、こうして二人でお茶会をするのだ。
今日のデザートはルビーの色をしたつやつやのクラッシュゼリーに、キルシュの香りをつけたソーダ水を注いだもの。
砂糖漬けにしたさくらんぼがちょこんと乗っていてなんとも可愛らしい。
「――実は、新入りの妖精メイドがいまして。是非というので作らせてみたんですが。
…お気に、召しませんでしたか?」
「ゼリーが固いし、ゼラチンの味が残っててあんまり美味しくないの。
あと、ちょっとお酒の匂いがきついし」
やっぱり、無理なのだ。扉の外で話を聞いていたレミリアは表情を曇らせた。
咲夜のように美味しいお菓子など作れるはずがない。
美鈴のように遊んで喜ばしてやることも出来ないし、パチュリーのように絵本を読んでやることもない。
霊夢のように何事もなく接してやることも、魔理沙のように頭を撫でてやることも。
「…帰ろう」
長い長い石畳の廊下を明かりもなく歩き出した。
小さな木製の扉がさらに小さく、遠くなる。
扉の向こうで、フランドールは紅いゼリーをすくった。
スプーンの上で揺れたそれは宝石のようでとても綺麗だ。口まで運んで、するりと飲み込む。
やっぱり味はいいとは言えなかったけれど、フランドールはにこにこと笑った。
下げようか、という咲夜の言葉を断って、ひとりっきりでデザートを楽しむ。
ふと、一緒に運ばれてきた紅茶が冷めてしまっているのに気が付いた。
ゼリーと紅茶ではどうも合わない。冷めて美味しくない紅茶をひとくち舐めて、フランドールはすすけた木製の扉を見つめる。
「次は、美味しいケーキが食べたいなぁ。お姉さま」
どうせ届かない言葉を自分の手の中で大事そうに握って、フランドールは笑った。
「美鈴、ご飯よ」
「あの、犬みたいだからやめてもらえませんかね。それ」
もうとっくに陽も落ち、夜が充たす門の前で、美鈴は眠ることもなく立っていた。
昼にたっぷり寝てしまったからというのもあるのだが、なんだか嫌な予感がしたのだ。
恐怖すべきものがやってくる感覚。
後ろから声をかけた咲夜が手に持つ皿、その上の物体を目にした瞬間、自分は間違っていなかったと美鈴はため息をついた。
「ご飯って、もしかしなくても?」
「ええ、ケーキよ。クリームが紅いの、前衛的でしょう」
咲夜はにこりと笑う。
「ちなみにパティシエは」
「勿論、我が主。〝レミリアちゃんのひとりでできるもん〟」
「わぁお」
引き裂かれた――いや、千切られたスポンジの上にかけられた紅いクリーム。
蝋が流れるように滴り落ち、下に敷き詰められたさくらんぼやら砂糖菓子やらを覆っている。
美鈴はひくり、と頬を引きつらせた。しかしはい、と差し出されたフォークを手にとって、諦めた顔をした。
「咲夜さんも一緒に食べてくれるんでしょうね?」
「残念ね。今日は胃の調子が悪いのよ、それ以外の失敗作を全て平らげたから」
「……明日はしっかり休んでくださいね」
世界の片隅で、やわらかな日常が続いていく。
/透きとおったやくそくをしましょう
空はすばらしく青い。
こんな時に見上げても、ともだちとかくれんぼをしている時に見る空とまったく同じ色をしているのだからずるい、とチルノは思う。
いつものように白黒魔女に喧嘩を売って、弾幕ごっこをして。
急に目の前が真っ白になって、続いてぶつんと真っ暗になった。
目を開けたら、目の前は白でも黒でもなく青だった。ちょっと勝った気がする。
たいしたこともない攻防の末恋符で空から撃墜されたチルノは、ぼろぼろで草の上に寝転んでいた。
やっと自分の現状が飲み込めてきたところで、わなわなと手を震わせ。
「あーもう、また負けたーッ!」
くやしーっ、とばたばた暴れる。
その蒼い髪を風がふわりとさらったかと思うと、向こう側から魔法使いが舞い降りてきた。
「なんだよ、もう降参かー?この前の方が手ごたえあったぜ?」
「うるさいなぁ、あたいは昨日のかくれんぼで疲れてるのよ」
「じゃあ仕掛けてくるなよ」
魔理沙は箒から降りて仰向けのチルノの横に腰掛ける。
んーっ、と腕を伸ばしてのびをする。ついでに欠伸をひとつして、ごろりと寝転んだ。
春の風はやわらかい草の群れをわずかに揺らして、遠く向こうへと抜けていく。
「魔理沙寝るの?」
「んー、どうしようかなぁ。今日は図書館に行こうと思ってたんだが、遊んだら眠くなってきた」
そんな魔理沙を横目にチルノは首を動かして、霧の向こうに目をやった。
大きくて紅い、吸血鬼の住む館。あそこの門番は遊んでくれるし、メイドは時々お菓子をくれるからチルノは割りと好きだった。
けれど、吸血鬼のことはよく知らない。
姿は何度も見たことがあるけど、ろくに話をしたこともない。
周りの妖精たちに話を聞くと、とっても強いらしい。とっても怖くて、でも時々優しいらしい。
その話を聞いた時、チルノはいたく感動した。
強くて、怖くて、優しい。それなら多分頼りがいもあって、好き嫌いもなくて、自分の作る氷の美しさも認めてくれるような凄い奴なのだろう。
まるで、スーパーヒーロー!そう、あの吸血鬼みたいになれば、ヒーローになれるのだ!
「そうなったら魔理沙なんてけちょんけちょんなんだから!」
「どうなったらだよ」
首を動かしたままの体制で動きを止めたチルノを、魔理沙は半眼で見ていた。
妙に自信に滾った顔でこちらを見た小さな氷精の話にとりあえず耳をかしてやることにする。
チルノは首をこきこきと鳴らしながら、紅魔館を指差した。
「あそこの吸血鬼ってすっごく強いんでしょ?」
「まぁな。二人いるけど、どっちも馬鹿みたいに強い。…ああ、お前は馬鹿みたいに馬鹿だけど」
「…ええと、馬鹿みたいに強いって事はすごく強いってことで…、て事は、あたいはすごいってことか」
「待て、どうしてそうなる」
「いひゃい、いひゃいってばあ」
白くてやわらかそうなほっぺたを魔理沙は引っ張った。
チルノが暴れるので上下にぐいぐいと動かした後離してやる。
「で、吸血鬼がどうしたんだ?」
「まだじんじんする…だから、あの吸血鬼が強いのは、とっても長く生きてるからよ!
あたいがあと五百年も生きたら、もうすっごい最強になってるんだから。
あの吸血鬼ぐらい、いっしゅんで凍らせてあげるわ!」
「へえ、最強ねぇ。今より?」
「今より!もう、すっごい最強。巫女だってかなわない」
そりゃすごい、と魔理沙は笑った。
つまり、チルノは考えたのだ。あの吸血鬼のように強くなるには、自分も同様の時間があればいい、と。
確かにチルノでも、あと五百年も経てばびっくりするほど強くなっているかもしれない。
今では精神も幼いけれど、きっと長い時を過ごせばわかることもあるだろう。
馬鹿みたいに真っ直ぐだからこそ、出来ることもあるに違いない。
ただ、チルノが五百年過ごすということは、レミリアやフランドールも更に五百年過ごすということだと魔理沙は言うのはやめた。
それは多分、その時がきたら気付くことだろう。
その時のチルノのがっかりした顔を想像して、魔理沙はまた笑った。
「――そりゃ、面白そうだな」
箒を横に置き、ごろりと反対側に寝返りをうった。
その体の上にどすり、と何かがのしかかるのを感じて魔理沙は上を向いた。
目の前にはチルノが瞳を輝かせて手をわきわきと動かしている。
振り落とそうと魔理沙が体を動かした時、チルノは素早くやわらかそうな頬をつかみぐいーっと伸ばした。
「いひゃひゃひゃひゃ!?」
「えへへー、さっきの仕返しよ。たーてたーてよーこよーこ」
「こら、やめろってば」
「…ねえ、魔理沙!」
魔理沙の頬をいじくりまわしていた冷たい手が離れて、代わりにずいっと幼い顔が近くなる。
赤くなってじんじんと熱をもった頬に風に揺られた蒲公英が触れた。
「あたい、五百年経ったらもっともーっと強くなってるんだから!
魔理沙なんか負かしてやるから、待ってなさいよね!」
にやりと笑うチルノの言葉に、魔理沙はしばらく呆気にとられた。
そうして枕代わりにしていた黒い帽子を引っ張り出すと、跨っているチルノの頭にかぶせた。
サイズが大きかったようで、すっぽりと顔の半分まで覆ってしまう。
湖の周りには、霧と混じって春が曖昧に漂っている。
「―――ああ、楽しみにしてるぜ」
帽子の上から、チルノの頭をぐしゃぐしゃと撫でた。
ずりおちた帽子で魔理沙の表情は見えなかったけれど、チルノは嬉しそうに笑った。
頭を撫でる手が、いつも通り乱暴でやさしかったから。
ランプの古い灯りがぼんやりと辺りを照らしている。
虫の音も響かぬ、雪が地面に積もりゆく冷たさだけが広がる夜だ。
明日はきっと雪除けに追われるだろうな、とアリスは考えた。
夜中に目が覚めてしまうことはあまり珍しくもない。ベッドから起き上がったそのままの形で手の届く窓を、かしゃり、と開けた。
途端に鋭い空気が部屋の中に侵入してきて、アリスは思わず身を震わせる。
それでも窓を閉めてしまわないのは、こんなふうに真夜中に目覚めてしまった時に吸う外の空気がとても澄んでいるから。
夢の中で遊んでいた意識を引っ張り起こしてくれるからだ。
当たり前だけれど、部屋の中も外も真っ暗だった。ランプだけがぼんやりと光って、ベッドの上の少女と棚の中の人形たちを照らし出している。
「今、何時かしら」
アリスはそう呟いて、部屋の明かりを点けようとしたけれど――伸ばした手を途中で下ろした。
しなやかな指の先で淡い光が消えていく。
すぐに時間に頼ろうとするのは悪い癖だ。時計は確かで正しいが、曖昧なものを否定してしまう。
代わりに外の空気をめいっぱい吸い込んだ。
今はもしかしたら朝に近いのかもしれない。それとも、実は真夜中だと自分が勘違いしているだけで、まだ昨日は終わっていないのかもしれない。
どっちでもいいや、とアリスは思った。寝てしまえば、どうせいつもと同じ朝がやってくるのだから。
ばふりと枕にダイブして、傍らの上海人形の位置を元に戻す。
寝る前まで本を読んでいて点けっぱなしになっていたランプを消そうと手を伸ばして、アリスはなんとなく本棚に視線を巡らせた。
一角は小さながらくたが一緒くたにまとめられていてちょっと汚い。
「明日、掃除しようかな…」
使いかけでそのままの薬瓶や、古くなって色褪せたリボン。
使用機会のない星座表は、魔理沙が無理やり置いていったもの。
何に使っていいのかわからないお札は、偶然訪れた霊夢に余りもののクッキーをあげたところ、大喜びしてお礼に渡されたもの。
パチュリーと実験していた時のメモまである。もういらないのに、とアリスはため息をついた。
それぞれのがらくたが、それぞれに思い出を含んでいるのだから、捨てるにも重くて仕方がない。
雪除けに棚掃除。明日の重労働を思ってまた湿ったため息が出た。
(ひとりの方がずっと楽だった)
そんなことを思って、ぶるりと肩を震わせた。
どうも寒いはずだ、こんな雪の降る夜に窓が開きっぱなしなのだから。
すっかり忘れていた、とアリスはのろのろと起き上がり窓枠に手をかける。
カーテンを閉めようとした時、ちかりと星が目に入った。
ああ、そうだ、あの星は―――誰と見に行ったんだろう。誰だっけ。とても温かい手だったのに。
私はお洋服のボタンが上手に掛けられなくて、行きたくないって駄々をこねて。
誰だっけ、私はもう一度あの空が見たい―――小さな自分の手を握って星の夜を一緒に居てくれた人。
誰だっけ、誰だっけ、と思いながらもうアリスは半分夢の中だった。
白い息が夜に混じって消える。
夢に落ちる瞬間は何を考えていたかなんて誰も知らないけれど、しんしんと積もる雪の中に佇んでいる自分をアリスは夢見ていた。
捨てようと思っていたがらくたばかりが周りに散らばっている。
自分の息遣いだけが静かに響く、雪の夜だった。
(やっぱりひとりはいやだなぁ)
ぼんやりと思考が宙を舞って、夢の国のアリスはがらくたをひとつ拾い上げる。
使い方を丁寧に説明された、星座表。
ご都合主義に雪は止み、いつか見たような星空にそれを重ね合わせて目を細めた。
「きれいでしょう、アリスちゃん」
いつの間にか幼くなった自分と、隣に立つ母の姿を垣間見たところで視界はだんだん閉ざされていく。
――もう眠いのよ、おかあさん。
結局消し忘れたランプが照らす部屋の中。
温かくて重たい布団を頭まですっぽりと被って、少女の真夜中が終わる。
/サマー・ナイト・ドリーム
紺色のスカートが膝上でふわり、と翻る。
霊夢はそれに違和感を覚えた。そして、違和感を覚えた自分に違和感を抱いた。
彼女のスカートが短いのはいつもの事だし、昨日と別段変わった様子もない。
いぶかしんだ目つきで下から上まで見れば、丁度こちらを見た彼女と目が合った。
「なんだよ、私に何か付いてるか?」
「憑いてるわよ、いろいろ。――ああ、冗談だから。そんなに怯えないでよ」
「お前が言うと怖いんだよ」
自転車をひいたまま道を歩いていた魔理沙が歩を止めて振り返る。
手に持っていた一個120円のソフトクリームが溶けて、コーンがぐしゃぐしゃになっていた。
それをこぼさないように器用に食べながら、二人はまた歩き出す。
生徒会の会議を終えた霊夢と、部活を終えた魔理沙がこうやって一緒に帰るのは久しぶりの事だった。
時間がなかなか合わないのだ。お互い長い時間待ったりするのは苦手な性分だから、たまに時間が合った時だけ一緒に帰る。
合わない話でぎこちなくなるほど浅い仲でもない。
小さい頃に親を亡くした霊夢を、魔理沙の両親はとてもよく面倒を見てくれたのだ。
喧嘩もしたし(今でもするが)、片方が泣いたら慰めたりもしていた。いじめっ子がいたら二人で成敗した。
魔理沙の方が年下だったが、そんなのは気にする暇もなかった。そもそもこんな田舎では年下も年上もあったものでない。
からから、と車輪の音が響いている。
「そういえばさあ、」
魔理沙が呟く。
「霊夢んちってお守りとかって売ってる?」
「えー…いるの?作るよ?お金になるでしょ」
「お前のそういう現金なところ嫌いじゃないぜ」
そう言って冷めた目を霊夢に向ける。
最近コンクリートになったばかりの道路の白い線の上を霊夢は踏み外さないように歩いていた。
「私じゃなくてさ、にとりだよ。いるだろ、1つ下の機械同好会会長。元気印」
「…ああ。山城」
「お前わざとやってるな?でさ、あいつが聞いてきたんだよ。合格祈願のお守りは売ってないのかーって。
霊夢の家一応神社だろう。売ってるかなって思ったんだけど」
「うちがどんな神社かあんたはよーく知ってるでしょう。あんな山奥の寂れた神社に誰が参拝にくるかっての。
お守りは作ればあるけどね。…そもそも、なんで魔理沙が?接点あったの」
「こないだ、ちょっと助っ人に」
ふーん、と興味なさ気に霊夢は呟いた。
魔理沙は学園内でも割と有名な人間だ。
遠いがいいところだから、と周りに薦められてこんな田舎から電車を乗り継いで通っている由緒あるお嬢様学校であるこの学園には、
一癖もふた癖もあるような人間が集まってきているのだが、その中でも名を知られている。
黙っていれば深窓の令嬢、そして黙っていられないのが彼女の性格である。
あらゆる部活、同好会に助っ人として参加し、その度に成果を上げている。学業も優秀だし、問題があるとすれば、その捻くれた言動だった。
「魔理沙は有名人ねえ。最近は何をなくしたの?」
「えーと、シャーペンと、髪留めと、あ、この前靴がなかった。
いや、制服一式持ち去られる生徒会長霊夢様ほどではないけどな?」
「ばっ、何で知ってるのよ!」
「何でって、体操着着ていそいそと電車に乗る霊夢を後ろから見て―――いって、殴ることないだろ!?」
霊夢はとりあえず拳をふるった。にやにやと語る魔理沙がとにかくうっとおしかったから。
艶やかな黒髪、凛としたまなざし。運動もそつなくこなし、試験ではいつもトップ。
おまけに奨学金で学園に通っているときたら、生徒会長である霊夢に憧れるものは魔理沙以上に後をたたなかった。
髪留めや身に着けたアクセサリー、筆記用具が持ち去られることは日常茶飯事だが、さすがに制服が見当たらなかった時は霊夢も驚いた。
好奇の視線を浴びながら泣く泣く体操着で家に帰ったというのに、こいつは。
痛い痛いと呻く魔理沙を横目に霊夢は少し歩を早めた。空は橙を色濃く浮かべている。
流れるような形の雲の隙間から光が漏れて、海が燃えているように見えた。
海なんて遠い世界の話だけれど――そこまで考えて、またちくり、と霊夢を違和感が蝕む。
「いやいやいや、海なんてあるじゃない。地球ってほとんど海なんだから」
「あー?なんだ、海行きたいのか?いいねぇ、私も行きたい」
ソフトクリームのついた指先をぺろぺろと舐めながら魔理沙が言った。
「今年の夏ももう終わるしなー。よし、いっちょ行くか?そうだな、メンバーは…うん、アリス連れてこうぜ。
あいつ泳げないんだよ。面白いのなんのって。
後は――あの凶暴姉妹か。それならメイドもついてくるだろうし、咲夜に計画立てでもしてもらうか。
どうだ、霊夢?」
霊夢が丁度白線の終わりまで渡り終えた頃、そんなことを聞いてくる。
だいたい感じた違和感に思わず口が反論しただけで、海に行きたいとは言ってない。
なかなか訪れぬ夏の夜の気配を背に感じて、霊夢はため息をついた。
そうして、前を向いて笑った。
「ゴージャスな旅なんでしょうね?」
「ああ、保障するよ。なんてったって、あのスカーレット家のプランなんだからな」
「まだ話もしてないじゃない」
車輪がからから、と回る。
二人の少女の影がのびて、のびて、忍び寄る闇に溶けていく。
分かれ道に行き当たって、魔理沙が「じゃあな」と言って自転車に跨った。
ふうわり、と風に揺れた金の髪が遠のいていくのを見て、霊夢はふと思い出す。
「ああ、そうだ、魔理沙ー!河城さんのお守り何祈願だっけ―――」
魔理沙の消えていったはずの路地には粘ついた暑さだけが徘徊していて、橙色の空も、忍び寄る夜も、とりとめのない楽しかった話も見当たらなかった。
泥のついた車輪の後を辿ろうとして霊夢が一歩踏み出すと、
冷たい水が夢を醒ますように、世界は反転する。
ちりん、と風鈴が鳴っている。
ささやかな風が頼りないガラスを煽って音を鳴らしているだけなのに、少しだけ涼しくなる気がする。
「……あれ」
茹だるような暑さがじわじわと縁側に寝転ぶ霊夢を侵食する。
がばっと起き上がると、傍らにあったらしい酒の瓶が喧しい音を立てて倒れた。
しばらく呆けているとすぐ後ろの障子が開いた。
「なんだ霊夢、起きたのか?あーあー、そんなところで寝るから。寝汗拭けよ」
「…まりさだ」
「魔理沙さんだぜ。寝ぼけてんのか?」
魔理沙が手拭いを投げて寄こす。どうやら風呂に入っていたようで、まだしっとりと髪が濡れていた。
霊夢はそれを受け取り首の後ろを拭う。
府に落ちないような表情をしている霊夢に、髪を乾かしながら魔理沙が問いかける。
「変な夢でも見たか?パチュリーがヌンチャク振り回しながら民家を襲う夢とか」
「それよりは変じゃないと思うけど」
「じゃあ、にとりがきゅうりを全力で否定する夢」
「…ああ。山城」
「は?」
魔理沙が縁側に腰を落ち着ける。
酒瓶やおつまみが散乱しているところを見ると、どうやら二人で酒盛りをしていたらしい。
気持ちよくなってうっかり寝てしまったのだろう、と霊夢は思った。
じっとりと肌が汗ばんでいる。気持ちの悪い感触だった。道理で、変な夢を見るわけだ。
「あー…私もお風呂入る。さっぱりしたいわ」
のろのろと霊夢が立ち上がる。
風呂に入る前に一杯水を飲もう、とそのままの足取りで台所へ向かう。
透明で冷たい水を立ったままぐーっと一気に飲んだ。
やっぱりもう一杯、と霊夢がコップに水を汲んだ時の事だった。
「そういえば霊夢ー?」
向こうの方から魔理沙の声が響く。
「なにー?」
障子の奥から魔法使いの真っ黒いスカートが見えた。
瓶に少しだけ残った酒を自分の杯についでいる。
膝元で揺れた白いフリルに霊夢は違和感を覚えた。そして、違和感を覚えた自分に違和感を抱いた。
ガラスのコップがするり、と白い手から滑り落ちる。
「この前の、海に行こうって話だけどさ」
世界がくるくるとまわる。
/要注意爆発物
「咲夜、ケーキは爆発するわ」
「しません」
咲夜はその主に隠しもせず、重い重いため息を吐いた。
それというのも、突然レミリアが料理を作りたい、と言ったのが原因だった。
見た目は幼い子供といえ、その中身は血を啜る恐ろしき吸血鬼。
この館の当主である彼女がなぜそんな事を言い出したのか――傍に仕える咲夜には大体見当がついていた。
どうせ妹様のためだろう。
小さな小さな体に大きすぎる力を持って生まれたかわいい妹。
接し方がわからず、今まで酷いことをしてしまったと主が呟くのを聞いていた咲夜だからこそ、その願いを叶えてやりたかった。
変わった人間――霊夢や魔理沙と出会い、お嬢さまは変わった気がする。
妹様が魔法使いに懐き、とても楽しそうに笑っているのを、少し羨ましそうに眺めている。
時間は沢山かかってしまったけれど、やっと動き出したのだ。
人間である自分はその終わりを見れないかもしれないけれど――二人がすれ違わずに手をとりあう日に少しでも近づくならば、その手助けをしてやりたい。
いや、するべきなのだ。彼女に仕える身なのならば。
そんな思いで、咲夜はその申し出を受け入れた。
フランドールは見た目も幼いが、ずっと地下で過ごしていたため精神も幼い。
きっと作ったものが美味しくなければ、美味しくないとはっきり言うだろう。素直なのはいいことだが、それで口論になっては意味がない。
「はい、手は洗いましたか?エプロンは?前髪が長いようならピンで留めてくださいね。
爪が長いのも駄目ですわ。引っ込めてくださいお嬢さま」
「…いや、ちょっとあなたに殺意が芽生えちゃって。どうしてそんなにやる気なの、咲夜」
レミリアは子供用の可愛らしいエプロンに、いつもの帽子代わりに三角巾をつけて目の前の従者を睨む。
氷を取りにやって来た美鈴から「レミリアちゃんのひとりでできるもん」という呟きが聞こえたのでとりあえず一回休みにしておいた。合掌。
「私はただお嬢さまのご期待に応えたいだけですわ。一生懸命作ったほうが、食べた相手も喜びますから」
「…そう、そうよね。ありがとう咲夜。わたし、やるよ」
―――そうして出来たのが、白い粉があたりに舞うキッチンと、数々のよくわからない物体だった。
「咲夜がお菓子なら出来るって言ったんじゃないか!」
「誰も小麦粉の袋が大破するなんて思いませんよ!分量をはかって混ぜればいいだけな分簡単じゃないですか」
「じゃあなんでケーキが爆発したの」
「恐縮ですわ」
「褒めてないっ!」
オーブンからは爛れたような煙がぶすぶすと上がっている。焦げ臭い匂いが鼻をつき、レミリアは顔をしかめた。
恐る恐る中を覗くと、飛び散ったケーキ(になる予定だったもの)がぐちゃぐちゃになって張り付いている。
甘い甘い砂糖を混ぜ込んだあのいい匂いの生地がこんなグロテスクな物体になるなんて嘘だ。
レミリアはとりあえずオーブンを閉めた。見ていても悲しくなるだけだ。
後ろでは咲夜がメイド長の名に相応しい働きで飛び散った小麦粉を片している。
一瞬まばたきをする間にキッチンはすっかり元通りだった。
「仕方ない、次はマドレーヌね」
「小型爆弾の方が何かと便利ですからね……冗談ですわ。ですけれどお嬢さま、残念なお知らせが」
「お知らせ?」
「オーブンがどうにも」
先程閉めたオーブンをレミリアはもう一度開けた。
可哀想なケーキはもう見当たらないが、内部破壊が激しく使い物になりそうにない。
チ、と舌打ちをしてもこれが現状、やはり機械というものは厄介だ。今度河童にでも修理を依頼しよう。
けれど、これではもう焼き菓子を作ることは出来ない。
咲夜の作るお菓子はどれも美味しいが(滅多なものを混ぜなければの話だけれど)、中でもレミリアはショートケーキがお気に入りだった。
新鮮で艶やかな苺の赤。甘過ぎないクリームは絶品。
初心者にケーキは難しいと言われながらも、やはり一番美味しいものをフランドールに作ってあげたかった。
───あなたが一番なのだと、教えてあげたかった。
視線を横に巡らせると、ぐちゃぐちゃのケーキの残骸が皿に盛り付けられていた。
あんなものでは喜ばないだろう。そもそも自分で作ったとしても食べ物だと思えない。
レミリアはぽつりと呟いた。
「私には、無理だったのかしら」
初めから無理な話だったのだ。今更取り繕うような真似がまかり通るわけがない。
フランが、あの子が地下で過ごした時間を私は知らない。暗闇で思った事を私は知らない。
どうすればいいか分からずに、戸惑うだけで何も出来なかった私の手の感触をあの子は知らない───自分の手を結び、開いてはレミリアは目を閉じた。
その小さな手をすっぽりと覆ってしまって、咲夜はにこりと笑った。
「…大丈夫。ふたりっきりの姉妹ですもの」
「でも、あんまりいい運命が見えないのよ」
「その運命を壊せる吸血鬼を一人知っていますわ、だから」
きゅ、と握る手に力を込める。
咲夜はそのまま俯いた。
ああ、いい従者を持ったものだ、とレミリアは思った。
きっと自分を慰めるか、励ますか、あるいは愚かな考えを叱咤する言葉を探しているのだろう。
俯いているせいで顔は見えないが、さらさらと流れる銀の髪から柔らかい花の匂いがした。
「…だから、お嬢さま」
「ええ、咲夜。わかっているよ」
──お前の言うように、フランと関わる事を、諦めたりしない。
今回は失敗したけれど、何度だって、どんな形だって──そう言葉を続けるはずだったのだが。
咲夜の右手に携えられた小さな箱を視界に留めた。
「もうお嬢さまにはこれしかありません。溶かして混ぜて冷やすだけ!」
要するに焼かなければいいんです、と『お子様にも出来る初めてのゼリー・いちご』を手に力説する従者の頭を、とりあえず壁に掛かっていたお玉で殴った。
「……ねえ、これ本当に咲夜が作ったの?」
大きな館の地下、暗くて狭い部屋でフランドールは言った。
その顔を歪ませて、銀色のスプーンをガラスの器にぶつけカチン、と鳴らす。
石で出来た床の上に小さな丸いテーブルと椅子が置かれ、横には咲夜が微笑みながら立っていた。
毎日ティータイムに、こうして二人でお茶会をするのだ。
今日のデザートはルビーの色をしたつやつやのクラッシュゼリーに、キルシュの香りをつけたソーダ水を注いだもの。
砂糖漬けにしたさくらんぼがちょこんと乗っていてなんとも可愛らしい。
「――実は、新入りの妖精メイドがいまして。是非というので作らせてみたんですが。
…お気に、召しませんでしたか?」
「ゼリーが固いし、ゼラチンの味が残っててあんまり美味しくないの。
あと、ちょっとお酒の匂いがきついし」
やっぱり、無理なのだ。扉の外で話を聞いていたレミリアは表情を曇らせた。
咲夜のように美味しいお菓子など作れるはずがない。
美鈴のように遊んで喜ばしてやることも出来ないし、パチュリーのように絵本を読んでやることもない。
霊夢のように何事もなく接してやることも、魔理沙のように頭を撫でてやることも。
「…帰ろう」
長い長い石畳の廊下を明かりもなく歩き出した。
小さな木製の扉がさらに小さく、遠くなる。
扉の向こうで、フランドールは紅いゼリーをすくった。
スプーンの上で揺れたそれは宝石のようでとても綺麗だ。口まで運んで、するりと飲み込む。
やっぱり味はいいとは言えなかったけれど、フランドールはにこにこと笑った。
下げようか、という咲夜の言葉を断って、ひとりっきりでデザートを楽しむ。
ふと、一緒に運ばれてきた紅茶が冷めてしまっているのに気が付いた。
ゼリーと紅茶ではどうも合わない。冷めて美味しくない紅茶をひとくち舐めて、フランドールはすすけた木製の扉を見つめる。
「次は、美味しいケーキが食べたいなぁ。お姉さま」
どうせ届かない言葉を自分の手の中で大事そうに握って、フランドールは笑った。
「美鈴、ご飯よ」
「あの、犬みたいだからやめてもらえませんかね。それ」
もうとっくに陽も落ち、夜が充たす門の前で、美鈴は眠ることもなく立っていた。
昼にたっぷり寝てしまったからというのもあるのだが、なんだか嫌な予感がしたのだ。
恐怖すべきものがやってくる感覚。
後ろから声をかけた咲夜が手に持つ皿、その上の物体を目にした瞬間、自分は間違っていなかったと美鈴はため息をついた。
「ご飯って、もしかしなくても?」
「ええ、ケーキよ。クリームが紅いの、前衛的でしょう」
咲夜はにこりと笑う。
「ちなみにパティシエは」
「勿論、我が主。〝レミリアちゃんのひとりでできるもん〟」
「わぁお」
引き裂かれた――いや、千切られたスポンジの上にかけられた紅いクリーム。
蝋が流れるように滴り落ち、下に敷き詰められたさくらんぼやら砂糖菓子やらを覆っている。
美鈴はひくり、と頬を引きつらせた。しかしはい、と差し出されたフォークを手にとって、諦めた顔をした。
「咲夜さんも一緒に食べてくれるんでしょうね?」
「残念ね。今日は胃の調子が悪いのよ、それ以外の失敗作を全て平らげたから」
「……明日はしっかり休んでくださいね」
世界の片隅で、やわらかな日常が続いていく。
/透きとおったやくそくをしましょう
空はすばらしく青い。
こんな時に見上げても、ともだちとかくれんぼをしている時に見る空とまったく同じ色をしているのだからずるい、とチルノは思う。
いつものように白黒魔女に喧嘩を売って、弾幕ごっこをして。
急に目の前が真っ白になって、続いてぶつんと真っ暗になった。
目を開けたら、目の前は白でも黒でもなく青だった。ちょっと勝った気がする。
たいしたこともない攻防の末恋符で空から撃墜されたチルノは、ぼろぼろで草の上に寝転んでいた。
やっと自分の現状が飲み込めてきたところで、わなわなと手を震わせ。
「あーもう、また負けたーッ!」
くやしーっ、とばたばた暴れる。
その蒼い髪を風がふわりとさらったかと思うと、向こう側から魔法使いが舞い降りてきた。
「なんだよ、もう降参かー?この前の方が手ごたえあったぜ?」
「うるさいなぁ、あたいは昨日のかくれんぼで疲れてるのよ」
「じゃあ仕掛けてくるなよ」
魔理沙は箒から降りて仰向けのチルノの横に腰掛ける。
んーっ、と腕を伸ばしてのびをする。ついでに欠伸をひとつして、ごろりと寝転んだ。
春の風はやわらかい草の群れをわずかに揺らして、遠く向こうへと抜けていく。
「魔理沙寝るの?」
「んー、どうしようかなぁ。今日は図書館に行こうと思ってたんだが、遊んだら眠くなってきた」
そんな魔理沙を横目にチルノは首を動かして、霧の向こうに目をやった。
大きくて紅い、吸血鬼の住む館。あそこの門番は遊んでくれるし、メイドは時々お菓子をくれるからチルノは割りと好きだった。
けれど、吸血鬼のことはよく知らない。
姿は何度も見たことがあるけど、ろくに話をしたこともない。
周りの妖精たちに話を聞くと、とっても強いらしい。とっても怖くて、でも時々優しいらしい。
その話を聞いた時、チルノはいたく感動した。
強くて、怖くて、優しい。それなら多分頼りがいもあって、好き嫌いもなくて、自分の作る氷の美しさも認めてくれるような凄い奴なのだろう。
まるで、スーパーヒーロー!そう、あの吸血鬼みたいになれば、ヒーローになれるのだ!
「そうなったら魔理沙なんてけちょんけちょんなんだから!」
「どうなったらだよ」
首を動かしたままの体制で動きを止めたチルノを、魔理沙は半眼で見ていた。
妙に自信に滾った顔でこちらを見た小さな氷精の話にとりあえず耳をかしてやることにする。
チルノは首をこきこきと鳴らしながら、紅魔館を指差した。
「あそこの吸血鬼ってすっごく強いんでしょ?」
「まぁな。二人いるけど、どっちも馬鹿みたいに強い。…ああ、お前は馬鹿みたいに馬鹿だけど」
「…ええと、馬鹿みたいに強いって事はすごく強いってことで…、て事は、あたいはすごいってことか」
「待て、どうしてそうなる」
「いひゃい、いひゃいってばあ」
白くてやわらかそうなほっぺたを魔理沙は引っ張った。
チルノが暴れるので上下にぐいぐいと動かした後離してやる。
「で、吸血鬼がどうしたんだ?」
「まだじんじんする…だから、あの吸血鬼が強いのは、とっても長く生きてるからよ!
あたいがあと五百年も生きたら、もうすっごい最強になってるんだから。
あの吸血鬼ぐらい、いっしゅんで凍らせてあげるわ!」
「へえ、最強ねぇ。今より?」
「今より!もう、すっごい最強。巫女だってかなわない」
そりゃすごい、と魔理沙は笑った。
つまり、チルノは考えたのだ。あの吸血鬼のように強くなるには、自分も同様の時間があればいい、と。
確かにチルノでも、あと五百年も経てばびっくりするほど強くなっているかもしれない。
今では精神も幼いけれど、きっと長い時を過ごせばわかることもあるだろう。
馬鹿みたいに真っ直ぐだからこそ、出来ることもあるに違いない。
ただ、チルノが五百年過ごすということは、レミリアやフランドールも更に五百年過ごすということだと魔理沙は言うのはやめた。
それは多分、その時がきたら気付くことだろう。
その時のチルノのがっかりした顔を想像して、魔理沙はまた笑った。
「――そりゃ、面白そうだな」
箒を横に置き、ごろりと反対側に寝返りをうった。
その体の上にどすり、と何かがのしかかるのを感じて魔理沙は上を向いた。
目の前にはチルノが瞳を輝かせて手をわきわきと動かしている。
振り落とそうと魔理沙が体を動かした時、チルノは素早くやわらかそうな頬をつかみぐいーっと伸ばした。
「いひゃひゃひゃひゃ!?」
「えへへー、さっきの仕返しよ。たーてたーてよーこよーこ」
「こら、やめろってば」
「…ねえ、魔理沙!」
魔理沙の頬をいじくりまわしていた冷たい手が離れて、代わりにずいっと幼い顔が近くなる。
赤くなってじんじんと熱をもった頬に風に揺られた蒲公英が触れた。
「あたい、五百年経ったらもっともーっと強くなってるんだから!
魔理沙なんか負かしてやるから、待ってなさいよね!」
にやりと笑うチルノの言葉に、魔理沙はしばらく呆気にとられた。
そうして枕代わりにしていた黒い帽子を引っ張り出すと、跨っているチルノの頭にかぶせた。
サイズが大きかったようで、すっぽりと顔の半分まで覆ってしまう。
湖の周りには、霧と混じって春が曖昧に漂っている。
「―――ああ、楽しみにしてるぜ」
帽子の上から、チルノの頭をぐしゃぐしゃと撫でた。
ずりおちた帽子で魔理沙の表情は見えなかったけれど、チルノは嬉しそうに笑った。
頭を撫でる手が、いつも通り乱暴でやさしかったから。
あと美鈴の渡された前衛的なケーキと、他の失敗作を全て胃に収めた咲夜さんが凄かったです。
それはそうとおぜうさまかわいいよ
どの話も良かったけど。
そしてパッチェさん自重w
かといって別々で投稿したんじゃ物足りない。うーむ。
どこまでも無邪気なチルノと、きっと人間であり続けるであろう魔理沙のやり取りには涙が出そうになりました。
おぜうさまの奮闘を全部わかってるフランもよかったです
どの話も大好きです!
個別に評価を捧げられないのが悔しいッ;