「ぬえとこいしちゃんが私に料理をご馳走してくれるなんて珍しいわね」
ここは紅魔館のリビング。今日はぬえとこいしがフランに手料理をご馳走するという事で集まった。
「だけど、あなた達の料理ってちょっと不安ね。何が出てくるかわからないし」
やる気まんまんの二人に向かって、フランは苦笑気味に言う。
「大丈夫だってフランちゃん、絶対においしいから♪」
「そうだよフラン、材料だってフランの大好物を用意したんだから」
二人は満面の笑みをフランに向けるが、相変わらずフランの顔は不安な様子だった。
「ちなみに料理って何なの?」
「「素材の味を生かした料理です」」
「じゃあ材料って何?」
「「それは出てきてからのお楽しみです」」
フランの顔さらに不安な表情となった。
「……まあいいや。料理と一緒にお茶も持って来てね。飲みたいから」
「「わかったよ!」」
「「じゃあ、キッチンで調理してくるね!」」と言いながら、二人は明らかに調理向きじゃない大きい鉈や斧を背負ってリビングを出て行った。そんな二人をやるせない顔でフランは見送る。
「あんなの調理で使わないよね……?」
ぬえとこいしの持ってた鉈や斧はまるで怪獣でも倒しに行くかのようなスケールの大きさだった。そんなのを見たら、誰だって不安になるに決まってる。
さらにしばらくたってから、キッチンで料理にふさわしくない音が聞こえてきた。
「バギッ! ボギッ! ギィ~! プェー! シャーン! ボギャ! ピャー! グギャ!」
楽器を叩きつけたかの様な騒音を聞いたフランは、大げさに驚いたような顔でキッチンの方を見る。
「あんな音、料理で鳴るっけ……?」
誰かに尋ねるかのように、フランは不安な口調で言う。音はさらに大きくなり、フランの顔は見る見る暗くなっていった。
「ちょっとー、二人とも何やってるのー!」
心配な顔をしてフランが大声で二人に尋ねるが、「「大丈夫、大丈夫―!」」と言う返事しか返って来なかった。そのうち、「ジュージュー」という何かを焼くような音もしてきた。
「もし変なのが出てきたら、破壊しちゃえばいいか」
強気な顔をするフランであったが、口調は相変わらず不安そうだった。
しばらくして、料理を完成させた二人が戻ってくる。こいしは楽しそうに、プロのウェイターのマネをしながら片手で持ったトレーに料理とお茶を乗せ、フランの元へ運んだ。その料理は相変わらず「ジュージュー」と言う音がして、見た目はとてもおいしそうだった。
「おまたせフランちゃん、さあ召し上がれ♪」
しかし、その料理を見たフランは今までの不安が一気に倍増するかのような表情をした。
「えーと何これ?」
フランがその料理を指差して、こいしとぬえに尋ねる。するとぬえは疑問そうな顔で答えた。
「見て分からないのフラン? 【ハンバーグ】だよ。みんな大好きハンバーグ」
その料理は丁度子供くらいの大きさのおいしそうなハンバーグだった。ハンバーグの横には桜状に切られたにんじん四枚とスティック状の大根三つとポテトが五個添えてある。
「いや、ハンバーグってのは見てわかるけどさあ。何の肉なのこれ?」
「まあまあ食べてみなよフランちゃん。フランちゃんの大好きなお肉だから♪」
食欲が無さそうな顔をして聞くフランに対して、こいしは楽しそうに答える。
「私の好きな肉ねぇ。不安だからお姉さまに試食でもさせようかしら」
「それは無理だよフラン」
「どうしてよぬえ?」
「えーと、フランのために作ったからね。いいから早く食べてみなって、絶対に美味しいから」
疑問そうな顔をするフランを軽く無視して、ぬえはフランに早く食べるように促す。フランもハンバーグは別に嫌いじゃなかったから、肉の正体は不明だけど試しに一口食べる事にした。
「あら、おいしいわね」
「「でしょー♪」」
本当においしそうな顔をするフランを見て、ぬえとこいしが喜ぶ。「早くもっと食べなよ♪」とこいしがさらに促す。
「うん、まあおいしいし食べちゃうか」
「よかったねこいし、フランに喜んで貰って」
「そうだねぬえ♪」
さらにおいしそうに食べるフランを見て、二人も楽しそうに喜ぶ。
ハンバーグを三分の一くらいで食べたところで、フランが満腹そうな顔をする。
「ふぅ、流石にこれは一人じゃ食べきれないわね。やっぱりお姉様にも食べて貰う事にするわ」
そう言ってフランは館全体に聞こえるかのような大声で「お姉様―!!」と叫んだ。しかし、その声は館内に虚しく木霊するだけで、誰からも返答は無かった。
「おかしいわね、いつもだったらすぐに飛んでくるのに。デビルズイヤーのお姉様がどうしたのかしら?」
疑問そうな顔をするフランを、ぬえとこいしはクスクスと笑う。
「何がおかしいの二人とも?」
「だって、レミリアさんならフランちゃんの直ぐ近くにいるのに気が付かないんだもの」
そう言ってこいしはフランの方を指す。フランは辺りをキョロキョロと見渡すが、誰も居ないように見える。
「どこにいるのよ? どこにも居ないように見えるけど?」
「いるじゃんそこに、ほらそこだよそこ」
ぬえはこいしと変わらずフランの方を指差す。しかしいるのはフランだけであった。フランはだんだんと表情を強張らせる。それは不安や疑問というよりは、恐怖に近い顔だった。
「だからどこにいるのよ二人とも! どこにもいないじゃないの!」
「「だから、それだよそれ」」
大げさに声を荒げてフランが聞くと、冷静に二人はテーブルの上の物を指差した。さっきまでフランが食べていたそれを。ハンバーグを。
「えーと、嘘……だよね二人とも? 冗談……だよね?」
フランは苦笑いで二人に聞くが、ぬえとこいしは冷静に答える。
「あれ? フランちゃん好きじゃなかったのお姉ちゃんの事?」
「好きに決まってるじゃないかこいし、あんなにおいしそうに食べてたんだから。ね、フラン?」
楽しそうな顔で聞くぬえだが、フランの表情はもう恐怖に引きつってるような顔だった。
「嘘……でしょ? 嘘だと……、嘘だと言ってよ二人とも!」
フランは机を思いっきり叩きながら、声を荒げて二人に聞く。しかし、二人から返ってきたのは言葉では無く物だった。こいしが後ろから真っ赤な液体の付いた布を取り笑いながらフランに手渡す。それは子供が着るような小さな服だった。フランの姉、レミリア・スカーレットの着る服だった。
「う……、うぐ……ぐぇ…、うぇ……げぇ」
それを見たフランは、椅子から倒れ、大げさに吐き気をもよおしたような態度を取る。それを見たぬえとこいしは楽しそうに笑う。
「あれー? どうしたのフランちゃん。あんなにおいしそうに食べてたじゃない?」
「フランが食べないのなら、私とこいしで食べちゃうよ?」
気持ち悪そうな顔をし、さらに目に水を溜めるフランを見て、二人は楽しそうにさらに笑う。
「このっ!」
そんな二人を見て怒ったような顔をしながら、フランは拳を握ろうとする。そのときだった、フランの後ろから、誰かの声が聞こえてきた。
「……たわね」
「え?」
フランは不思議そうに後ろを見ると、そこに居たのは、
「よくも私を食べたわね」
「ひっ!」
服を奪われて全裸にされたレミリアだった。恨めしそうな顔な顔をしており、亡霊のようにフランの後ろに佇んでいる。
「許さないわよフラン……、貴方も食べてやるわ」
「ちちち、違うよお姉様。私は悪くない、あの二人が悪いのよぅ……」
フランは目に水を溜めながら、ゆっくり近づいてくるレミリアに許しを願う。フランのポーズは丁度、レミリアの下ガード、通称カリスマガードのような体勢になっていた。
「言い訳なんて駄目よフラン、貴方は私を殺して食べたんだから。絶対に許さないわ!」
「違う違う、私のせいじゃない! あの二人が悪いのよ! あいつらのせいよ!」
恐怖で顔が引きつった顔をしながら、フランはニヤニヤと笑うぬえとこいしを指差すが、レミリアはおかまいなしにフランの方へ近寄る。
「食べてやる、あなたも道連れよフラン!」
「私は悪くないよぅ、私は悪くないんだよぅ……」
「ぎゃおー、食べちゃうぞー!」
「うー迷わず成仏してお姉様! ごめんなさいごめんなさいごめんなさいごめんなさい!」
両手を挙げて襲ってくるレミリアを見たフランは、目から水を溢れ出させてさらに許しを願う。しかしレミリアは襲ってくる事はなく、そんなフランを見て楽しそうに笑っていた。
「あはははは、フランは怖がりねぇ。そんなに目に涙を溜めちゃって」
疑問そうな顔でフランが頭をあげると、レミリアだけでは無く、ぬえとこいしもさっきまでの怪しい笑いではなく、楽しそうに笑っていた。
「ごめんねフランちゃん♪」
「全部ドッキリだったんだよフラン。私達が考えたね」
「え? どういうこと? え? え?」
わけがわからないと言った表情でフランがみんなに尋ねると、レミリアが自信まんまんな顔でフランに話す。
「ぬえとこいしに貴方を脅かすドッキリを仕掛けないかって言われてね。普段、姉を尊敬しない妹を懲らしめるのに丁度いいと思ったのよ。想像よりも効果があって驚いたけどね」
「え? じゃあお姉様は死んでないの?」
「この通り、ピンピンしてるわよ」
満足げな表情で、レミリアはフランに言う。わざわざ、リアリティを出すために全裸にまでなってフランを驚かせようとしたのだ。そしてこいしの無意識の力を借りて今まで全裸で部屋の隅に隠れて、頃合を見計らってフランを脅かすために全裸で近づいたのだ。
「まったくもうー、ぬえもこいしちゃんもひどいなー」
楽しそうに笑う三人を見て、フランは不機嫌そうな顔で二人に言う。
「えへへ、ごめんねフランちゃん♪」
「まあ、たまにはこういうのもいいでしょ」
溜息を付きながら言うフランに、こいしとぬえは笑いながら言った。
「ふふっ、じゃあ霊夢とかに私のカリスマ性を伝えてこようかしら。どんだけフランが泣いたもね」
レミリアがいやらしい笑みを浮かべ、相変わらず目に水を溜めたフランに聞こえるように言う。そんなレミリアを見てフランは叫びだす。
「駄目よ! 他の人には言わないでお姉様! 恥ずかしいから私! お願いだからやめてお姉様!」
フランは許しを請うようにレミリアに言うが、レミリアはもう誰かに言いたくてたまらない様子だった。
「駄目よフラン、私の演技力がどれだけ凄かったか、みんなに話すんだから。さあぬえ、私の服を貸しなさい。そのケチャップの付いた服じゃなくて、新しい服をね」
「はいよレミリア」
そう言ってぬえが笑いを堪えながらレミリアに服を手渡す。フランが怒ったようにぬえを見るが、ぬえはもう我慢が出来ないようだ。
「じゃあ言ってくるわねみんな! このカリスマを伝えに霊夢の所に!」
「ああ、待ってお姉様ー!」
フランは必死な顔をして止めようとするが、時すでに遅くレミリアは館の外へと飛んでいってしまった―――。
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「しかし、本当に悪趣味だねぇ。可愛そうに」
「持ち上げて一気に落とすなんて、まさに悪魔の所業ね♪」
レミリアが完全に飛び去って行ったのを確認したぬえとこいしは、ニヤニヤとしながらフランの方を見る。そんな二人を見たフランも、さっきまでの泣き顔をやめ、楽しそうにニヤける。
「貴方達も楽しんでたでしょ? 同罪よ同罪。それにお姉様も私をドッキリに仕掛けようとしたのは変わらないんだから。断れば逆に自分がドッキリに仕掛けられる事なんて無かったのに。だから、自業自得よ。自業自得」
フランは目に溜めた水を服の袖でふき取ると、手に持っていた永琳特製の目薬を放り投げた。そしてまた椅子に座って、残ったハンバーグを食べだす。
「さてと、じゃあ残りをみんなで食べますか」
「そうだねフランちゃん。それにしても本当においしいよねこれ♪」
おいしそうに残りのハンバーグ食べだすフランとこいしを見て、ぬえが自信たっぷりに解説する。
「おいしいでしょそれ? ぬえ特製大豆ハンバーグだからね。幽香から大量に貰ったおいしい大豆を調理し、さらに正体不明の種をつければ、見た目も味も肉その物だよ。いやー命蓮寺でも評判でねこれは」
そのハンバーグの肉の正体は、畑の肉とも呼ばれる大豆だった。この料理は肉が食べれないボクサーやお坊さんなどのために、大豆を肉のように見せかけて調理する精進料理だ。ダイエットにもオススメである。
「ところであの「バギッ!ボギッ!プェー!」っていうやかましい音はどうやって出したの? やけに五月蝿かったけど」
「プリズムリバーの三人を呼んだのよ。たまに地霊殿でヤマメさんと合同ライブしてるから知り合いなのよね私♪ イタズラをするって言ったらすぐに了解してくれたわ。霊界でライブがあるらしいからもう帰っちゃったんだけどね」
「地底のライブも面白いのよ♪」と、こいしは口にハンバーグを頬張りながら楽しそうに話しだす。「三人にお土産の大豆ハンバーグあげたら喜んだよ」と最後にぬえが付け加える。
「それにしてもぬえ、服を渡すところで笑っちゃ駄目じゃないの。あそこまでやってあいつにバレちゃったらどうするのよ」
「いやーごめんごめん。もう大成功すぎて噴出しちゃって、まさかフランを驚かすために本当に脱いでくれるとは思わなくってね」
フランが怒り気味に言うと、ぬえは苦笑しながら答える。あのとき、ぬえがレミリアに渡した服は実は正体不明の種を付けた、ただの透明のビニール袋。だからぬえが能力を解除したら、レミリアはまさにほぼ裸の王女様となる。
「しかし本当においしいねこれ、今度私とフランちゃんとぬえの三人でお店でも開く?」
「それいい案だねこいし、店の名前は【正体不明の肉料理店】で決定だね!」
「「それはない」」
「えー、なんでよ二人とも。そんな全力で首を横に振らなくてもいいじゃん」
そんなやり取りをしながら、三人で楽しそうに笑い、ハンバーグをおいしそうに食べる。
「しかしお姉さまも馬鹿よねー、冷静に考えればこんな罠に引っかからないのに」
「「どうして?」」
フランが呆れながら言うと、二人が疑問そうな顔でフランを見る。それに対してフランは二人の目を見つめ、真剣な顔で話し出す。
「あいつを私に食べさせる? そんなひどい事二人がするなんて私が思うわけ無いじゃない。私が二人の事を疑う、不安に思う? そんな事するわけないじゃない。私はこいしちゃんとぬえの事を信用してるんだからね。なんたって、大切な親友なんだから」
そしてフランは暖かい笑顔で二人を見つめる。ぬえとこいしもちょっと恥ずかしかったのか、何も言えず嬉しそうにフランに笑いかける。
「それにしてもせっかくお姉さまにはヒントあげたのにね。これは茶番なんだっていうヒントを」
「ああ、だから最初にお茶を頼んだのかフラン」
「オヤジギャグだねフランちゃん♪」
それを聞いて三人でまた楽しそうに笑い出す。
「ところでこの大根だけどなんの意味があるの? にんじんとポテトはわかるとしても、ハンバーグに大根スティックはないでしょ二人とも」
「それ私も疑問に思ったんだフラン。その大根は確かこいしが置いたんだよね? 地底だとハンバーグに大根スティックを付けるのが流行ってるの?」
「私もよくわからないのよねー、レミリアさんにとりあえず置いといてって言われて置いたんだけど。紅魔館だとハンバーグに大根を付けるのフランちゃん?」
こいしの問いに対して、フランは首を横に振る。
しばらく目の前の大根スティックで悩む三人だったが、ふとフランがその意味に気が付く。
三つの大根スティックが置いてある意味に。そして悔しそうに、だけど尊敬するかのような顔で、フランはくすりと笑い出す。
「なるほど、私達は大根役者って事ね。やられたわお姉様」
付け合せの数に何か意味があるかと思ったり。でも大根もなかなか美味しいですよ。
誤字脱字色々報告です。
「もし変なのが出てきたら、破壊しちぇえばいいか」しちゃえば
「子供くらい大きさのおいしそうなハンバーグ」子供くらいの?子供が食べるくらいの?
「肉の正体は不明だけどためにし一口」試しに
「服を奪われて全裸されたレミリアだった」全裸に
「カリスマガードのような体制」体勢
「手に持ったいた永琳特製の目薬」持っていた
「真剣な顔で話だす。」話し出す
これはちょっと酷すぎますね……
誤字報告いつも本当にありがとうございます。
修正させていただきました。
遅れながらコメントを返させていただきます
>6さん
さらりとしたカリスマを持ってますよねおぜう様は
>ぺ・四潤さん
大根は自分も好きです。
お味噌汁とかにもよく入れます。
付けあわせで意味があるのは大根くらいです。
>9さん
おぜう様の優しさに乾杯です
>11さん
ホラーはやっぱり自分には書けませんw
>15さん
おぜう様はいつもカリスマ宿ってるって咲夜さんが
>22さん
家族思いの話は本当に好きです
>25さん
なんだかんだでフランちゃんもおぜうの事は尊敬してそうです
>26さん
ありがとうございます。
そう言っていただけると本当に嬉しいです
でか過ぎて嫌な予感しかしねぇww
オイィッ、このオチ、誰が予想出来たよ!?;
誤字報告ありがとうございます
修正させて頂きました。