【バックナンバー】
第6回|第7回|第8回|第9回|第10回
第3回パチュリー・ノーレッジ賞に八意永琳さん
スカーレット・パブリッシングは26日、第3回パチュリー・ノーレッジ賞受賞作が、八意永琳さんの『無限除算』(竹林書房)に決定したと発表した。
八意永琳さんは迷いの竹林の奧にある永遠亭に暮らす薬師・医師。『無限除算』は小説デビュー作となるSF小説で、《数》という概念を持たない知性の思索を描いた極めて難解な作品として評判を呼んだ。
選考委員のパチュリー・ノーレッジ氏は受賞作について、「昨年一年間に出た小説の中では本作が飛び抜けていた。異質な知性の言語化不可能な思考のありようをあらゆる文章技法、タイポグラフィまで駆使して《翻訳》するという大胆な試みの中で、ゼロ除算と無限大除算を軸に置いた壮大な数学SFとしての知的興奮までも備えた幻想郷史上比類なき小説である。惜しむらくは私自身もどこまで理解できているのか甚だ怪しいことであるが、本賞が取り上げるにこれほど相応しい作品は無い。(何が書いてあるのか一行目からさっぱり解らないんですが、という記者の質問に対して)普通の読者は読む必要はない。読むなら睡眠薬として使うのが良い。そういう小説もあるということ」と絶賛した。
受賞者には紅魔館付属図書館の永久利用パスが与えられる。
(文々。新聞 睦月27日号 3面文化欄より)
霧雨書店・鈴奈庵に自警団から指導 ―性愛表現のある小説に対して
人間の里自警団は16日、人間の里の書店・霧雨書店および、貸本屋・鈴奈庵に対して、性愛の表現を有する書籍に対し、子供の目に触れないよう設置するように指導を行った。
対象となったのは、主に《耽美系》と呼ばれる女性向けの小説群。自警団の上白沢慧音班長は、「成人した大人がこういったものを個人的に楽しむのを否定はしないが、子供の目に容易く触れる形で販売・貸し出しされている現状は好ましくない。区分けは最低限のモラルとして必要だ」と語る。
これに対し作家で幻想郷文芸振興会副代表のパチュリー・ノーレッジ氏は、「性愛小説もまた文芸の一ジャンルであることに代わりはないし、今回の指導の範囲に入らない小説にも性愛表現の含まれるものはある。どこからが子供の目に触れぬべきで、どこまでなら良いのか、その線引きが不明瞭である限り、これは表現に対する弾圧に発展する可能性を孕む。公権力からの一方的な指導には断固として抗議したい」と語調を強めて語った。
幻想郷文芸振興会は近く自警団と話し合いを持った上で、出版社間で性愛表現を中心とした小説については独自の審査機関を設立する可能性も検討する方針である模様。
(文々。新聞 如月17日号1面より)
パチュリー・ノーレッジ氏が稗田文芸賞選考委員を退任
幻想郷文芸振興会は16日、パチュリー・ノーレッジ副代表が新たに名誉顧問に就任し、稗田文芸賞の選考委員を退任することを発表した。幻想郷文芸振興会副代表の地位には、新たに鈴奈庵店主の本居小鈴氏が就任する見込み。稗田文芸賞選考委員の後任は未定。パチュリー氏は今後、予備選考委員として稗田文芸賞候補作の選定に携わる模様。
パチュリー氏は本紙の取材に対し、「稗田文芸賞の開始から十年が経ち、もはや文芸は幻想郷に文化として根付いたと言っていいわ。振興会の持つ役割、稗田文芸賞の果たすべき使命も、設立当初のものからは変わりつつある。十年というのはひとつの良い区切り。このあたりで老兵は一度退いて、新しい風を入れるべきではないかということよ。もちろん、稗田文芸賞そのものには今後も携わるけれど」と語った。
性愛表現問題で自警団との対立が深まっている中でのパチュリー氏の名誉顧問就任と本居氏の副代表就任は、振興会の規制反対路線に店舗側を取り込みたいという狙いがあると見られる。
本居小鈴氏は本紙の取材に対し、「なんか面倒臭い問題に無理矢理巻き込まれた感じがするんですけど……まあ、文芸ブームが続いてくれればうちの店も安泰なので、がんばります」と語った。
(文々。新聞 卯月17日号1面より)
第3回八坂神奈子賞に永月夜姫氏、上白沢慧音氏
第3回八坂神奈子賞(鴉天狗出版部主催)は21日、守矢神社にて小説部門・ノンフィクション部門の選考が行われ、小説部門は永月夜姫氏の『あの月の向こうがわ』『バイバイ、スプートニク』二部作(竹林書房)、ノンフィクション部門は上白沢慧音氏の『人間を護る人間たち 自警団と消防団』(稗田出版)がそれぞれ受賞作に決定した。授賞式は来月四日、守矢神社にて行われる。
永月夜姫氏は、迷いの竹林の永遠亭に暮らす蓬莱人。『あの月の向こうがわ』は第123季に刊行された氏の代表作といわれる青春SFで、『バイバイ、スプートニク』は昨年刊行されたその姉妹編。今回は2作をシリーズとしてまとめての受賞となった。永月氏はデビュー以来質の高い作品を次々と送り出し、多くの読者の支持を得ながら、これまで賞に恵まれず、文学賞の受賞はこれが初となる。
上白沢慧音氏は、人里に暮らす半人半妖の歴史家。ほかに寺子屋教師、小説家、自警団員、稗田文芸賞選考委員など、多くの肩書きを持つ。『人間を護る人間たち』は、上白沢氏自身もその仕事に携わっている人里の自警団と、同じく人里を護る仕事である消防団のふたつの組織の成り立ちと歴史をまとめた史書。
小説部門受賞者には賞金60貫文、ノンフィクション部門受賞者には賞金20貫文がそれぞれ贈られる。
永月夜姫氏の受賞の言葉
別に賞自体はどうでもいいんだけど、くれるというなら貰っておくわ。ありがとう。先に賞獲っちゃったから、もこたんの顔が見物ね。ふふふ、楽しみ。
上白沢慧音氏の受賞の言葉
人間の里の自警団はもともと、魑魅魍魎の跋扈するこの地に住み着いた妖怪退治の人間たちによって作られた、外敵すなわち妖怪に対する自衛組織でした。(中略)それに対し消防団は、火事という里内部から起こる危機に対処するべく、妖怪退治の力を持たない人間たちによって作られた組織です。(中略)両組織は設立の経緯から既に対立軸を抱えていたわけですが、その対立の構図は両者の性質が大きく変化し、当初の対立軸が失われた現在もなお、感情的なしこりとして残り続けています。(中略)自警団と消防団、どちらも人間が人間を護るために立ち上げた組織であるということは変わりません。人里の歴史家として、また自警団の一員として、本書がその雪解けの一助となることを願ってやみません。
(花果子念報 卯月22日号より)
小説の性愛表現問題、審査機関の設立は難航の見通し
自警団が霧雨書店と鈴奈庵に対し、性愛表現のある小説に対して販売・展示方法の指導を行った、いわゆる性愛小説問題に関して、性愛表現に対する第三者による審査機関の設立をめぐって、是非曲直庁は3日、第三者機関の設立に携わるつもりは無いことを自警団・幻想郷文芸振興会の双方に通告した。これにより第三者機関の設立は一旦白紙撤回となる。
この問題は、性愛表現のある小説が霧雨書店や鈴奈庵において、誰でも手に取って読むことができる状態で販売・貸し出しされていることに対し、自警団が「子供が読むのに相応しくない内容の作品は、子供の目に触れないよう販売・貸し出しするのが望ましい」として両店に指導を行ったことに始まる。これに対し幻想郷文芸振興会は、「自警団の言う性愛表現はその基準が不明瞭であり、公権力による表現の弾圧に発展する可能性を孕む」として、この指導に強く反発。話し合いの結果、第三者による審査機関を通して閲覧に年齢制限を加えるという案が提出され、この第三者機関を是非曲直庁に委任する方針で一度は固まっていたが、今回是非曲直庁がこの提案を差し戻したことにより、計画は白紙に戻ることになった。
是非曲直庁の四季映姫・ヤマザナドゥ氏は本紙の取材に対し、「是非曲直庁の仕事は善悪の判断であり、芸術分野における表現の是非を問う場所ではありません」と答えるに留めた。
(文々。新聞 文月4日号1面より)
第3回稗田児童文芸賞に蘇我屠自古さん
16日、第3回稗田児童文芸賞(幻想郷文芸振興会主催)選考会が人里の寺子屋にて行われ、蘇我屠自古さんの『かみなり母さん、化けて出る』(道書刊行会)が受賞作に決定した。
稗田児童文芸賞は、少年少女を対象とした児童文学作品の優秀作を表象する賞。選考委員は作家・歴史家の上白沢慧音、作家・数学者の八雲藍、命蓮寺住職の聖白蓮の三氏。受賞者には賞金20貫文が贈られ、寺子屋にて推薦図書として生徒に配布される。
受賞作の『かみなり母さん、化けて出る』は、亡くなった母親が幽霊となり、残された頼りない父親とお調子者の娘をひそかに見守り助けていくというストーリー。
選考委員長の上白沢慧音氏は、「母親の子供に対する限りない愛情という普遍的なテーマをまっすぐに描きつつ、それが子供の目からはなかなか見えないものであること、そしていつか失われるものであるということを、幽霊という設定を用いて巧みに織り込んでいる。子供の時分には疎ましく思いがちな親という存在について、子供たちが見つめ直すきっかけとなってほしい作品」と語った。
受賞した蘇我屠自古さんは神霊廟に暮らす亡霊。今回の受賞については、「まあ、光栄です。ありがたく頂戴いたします。続編? 書いてやんよ!」と照れくさそうに語った。
(文々。新聞 葉月17日号1面より)
第3回幻想郷恋愛文学賞受賞作決定
去る霜月11日、博麗神社にて第3回幻想郷恋愛文学賞の選考会が行われました。白岩怜(作家)、風見幽香(作家)、本居小鈴(鈴奈庵店主)の三氏による選考の結果、候補4作の中から、虹川月音さんの『歩くような速さで』(白玉書店)が受賞作に決定しました。
◆各選考委員の短評
白岩氏「『歩くような速さで』が候補作の中で飛び抜けていたわね~。タイトルの通り、ゆったりとした時間の流れに心地よく浸れて、しみじみとした描写の中に恋愛の機微が品良く配置された、読み終えるのが勿体ないと思える素晴らしい作品だったわ~」
風見氏「ある偉大な音楽家の生涯ただ一度の恋と、その恋が彼女の音楽にもたらしたものを、様々な視点から多角的に掘り下げることで、痛切な純愛の物語でありながら、同時に優れた音楽論小説ともなっているわ。『歩くような速さで』は紛れもなく虹川さんの新たな代表作になるでしょうね」
本居氏「もちろん候補作の中では『歩くような速さで』がぶっちぎりだったんですけど、私は候補にならなかった十六夜咲夜さんの新刊にあげたかったなあ……」
◆受賞者プロフィール
虹川月音(にじかわ つきね)…プリズムリバー騒霊楽団のヴァイオリニスト、ルナサ・プリズムリバーとして知られる音楽家・小説家。第121季、『レインボウ・シンフォニー』で第4回稗田文芸賞を受賞している。音楽をテーマに、多彩なジャンルの作品を発表している人気作家。『歩くような速さで』は、ある偉大な音楽家の作品の根底にある生涯ただ一度の恋を、周辺の人物の視点から掘り下げる恋愛音楽小説。
◆受賞のことば
連載が足かけ2年以上にわたってしまい、読者の皆さんを随分とお待たせしてしまいましたが、幸いにして好評をいただき、こうしてまた賞をいただけたことは望外の幸福です。『歩くような速さで』は新たな代表作を目指した作品ですが、これで満足することなく、また次の作品が新たな代表作となるように努力していこうと思います。ありがとうございました。
(博麗神社月報 師走号より)
稗田文芸賞、新選考委員と臨時選考委員が決定
幻想郷文芸振興会は1日、稗田文芸賞選考委員を退任したパチュリー・ノーレッジ氏に代わり、第11回から新たに作家の十六夜咲夜氏が選考委員に加わることを発表した。
十六夜咲夜氏は紅魔館のメイドで、時間SFや耽美小説、ゴシックホラーなど多彩な作品で人気を博す小説家。稗田文芸賞では第2回において『クロック』で候補となっているが、受賞はしていない。十六夜氏は本紙の取材に対し、「パチュリー様より直々に仰せつかりました次第です。微力ながら、稗田文芸賞と幻想郷文芸の発展の一助となれますよう、誠心誠意務めさせていただきますわ」と瀟洒に語った。
また、同じく選考委員の上白沢慧音氏が多忙のため第11回の選考を欠席、代理として命蓮寺住職の聖白蓮氏が臨時選考委員として第11回の選考に加わることも同時に発表された。聖住職は取材に対し、「慧音さんが例の問題でお忙しいとのことで、代わりを頼まれたのですが、私でよろしいのでしょうか?」と首を傾げた。
これにより第11回稗田文芸賞は、西行寺幽々子氏(作家)、八雲藍氏(作家・数学者)、稗田阿求氏(幻想郷文芸振興会代表)、十六夜咲夜氏、聖白蓮氏、射命丸文(本紙記者)の6名による選考となる。候補作は今月15日に発表され、選考会は24日、人間の里の稗田邸にて開催される予定。
(文々。新聞 師走2日号1面より)
第6回|第7回|第8回|第9回|第10回
第3回パチュリー・ノーレッジ賞に八意永琳さん
スカーレット・パブリッシングは26日、第3回パチュリー・ノーレッジ賞受賞作が、八意永琳さんの『無限除算』(竹林書房)に決定したと発表した。
八意永琳さんは迷いの竹林の奧にある永遠亭に暮らす薬師・医師。『無限除算』は小説デビュー作となるSF小説で、《数》という概念を持たない知性の思索を描いた極めて難解な作品として評判を呼んだ。
選考委員のパチュリー・ノーレッジ氏は受賞作について、「昨年一年間に出た小説の中では本作が飛び抜けていた。異質な知性の言語化不可能な思考のありようをあらゆる文章技法、タイポグラフィまで駆使して《翻訳》するという大胆な試みの中で、ゼロ除算と無限大除算を軸に置いた壮大な数学SFとしての知的興奮までも備えた幻想郷史上比類なき小説である。惜しむらくは私自身もどこまで理解できているのか甚だ怪しいことであるが、本賞が取り上げるにこれほど相応しい作品は無い。(何が書いてあるのか一行目からさっぱり解らないんですが、という記者の質問に対して)普通の読者は読む必要はない。読むなら睡眠薬として使うのが良い。そういう小説もあるということ」と絶賛した。
受賞者には紅魔館付属図書館の永久利用パスが与えられる。
(文々。新聞 睦月27日号 3面文化欄より)
霧雨書店・鈴奈庵に自警団から指導 ―性愛表現のある小説に対して
人間の里自警団は16日、人間の里の書店・霧雨書店および、貸本屋・鈴奈庵に対して、性愛の表現を有する書籍に対し、子供の目に触れないよう設置するように指導を行った。
対象となったのは、主に《耽美系》と呼ばれる女性向けの小説群。自警団の上白沢慧音班長は、「成人した大人がこういったものを個人的に楽しむのを否定はしないが、子供の目に容易く触れる形で販売・貸し出しされている現状は好ましくない。区分けは最低限のモラルとして必要だ」と語る。
これに対し作家で幻想郷文芸振興会副代表のパチュリー・ノーレッジ氏は、「性愛小説もまた文芸の一ジャンルであることに代わりはないし、今回の指導の範囲に入らない小説にも性愛表現の含まれるものはある。どこからが子供の目に触れぬべきで、どこまでなら良いのか、その線引きが不明瞭である限り、これは表現に対する弾圧に発展する可能性を孕む。公権力からの一方的な指導には断固として抗議したい」と語調を強めて語った。
幻想郷文芸振興会は近く自警団と話し合いを持った上で、出版社間で性愛表現を中心とした小説については独自の審査機関を設立する可能性も検討する方針である模様。
(文々。新聞 如月17日号1面より)
パチュリー・ノーレッジ氏が稗田文芸賞選考委員を退任
幻想郷文芸振興会は16日、パチュリー・ノーレッジ副代表が新たに名誉顧問に就任し、稗田文芸賞の選考委員を退任することを発表した。幻想郷文芸振興会副代表の地位には、新たに鈴奈庵店主の本居小鈴氏が就任する見込み。稗田文芸賞選考委員の後任は未定。パチュリー氏は今後、予備選考委員として稗田文芸賞候補作の選定に携わる模様。
パチュリー氏は本紙の取材に対し、「稗田文芸賞の開始から十年が経ち、もはや文芸は幻想郷に文化として根付いたと言っていいわ。振興会の持つ役割、稗田文芸賞の果たすべき使命も、設立当初のものからは変わりつつある。十年というのはひとつの良い区切り。このあたりで老兵は一度退いて、新しい風を入れるべきではないかということよ。もちろん、稗田文芸賞そのものには今後も携わるけれど」と語った。
性愛表現問題で自警団との対立が深まっている中でのパチュリー氏の名誉顧問就任と本居氏の副代表就任は、振興会の規制反対路線に店舗側を取り込みたいという狙いがあると見られる。
本居小鈴氏は本紙の取材に対し、「なんか面倒臭い問題に無理矢理巻き込まれた感じがするんですけど……まあ、文芸ブームが続いてくれればうちの店も安泰なので、がんばります」と語った。
(文々。新聞 卯月17日号1面より)
第3回八坂神奈子賞に永月夜姫氏、上白沢慧音氏
第3回八坂神奈子賞(鴉天狗出版部主催)は21日、守矢神社にて小説部門・ノンフィクション部門の選考が行われ、小説部門は永月夜姫氏の『あの月の向こうがわ』『バイバイ、スプートニク』二部作(竹林書房)、ノンフィクション部門は上白沢慧音氏の『人間を護る人間たち 自警団と消防団』(稗田出版)がそれぞれ受賞作に決定した。授賞式は来月四日、守矢神社にて行われる。
永月夜姫氏は、迷いの竹林の永遠亭に暮らす蓬莱人。『あの月の向こうがわ』は第123季に刊行された氏の代表作といわれる青春SFで、『バイバイ、スプートニク』は昨年刊行されたその姉妹編。今回は2作をシリーズとしてまとめての受賞となった。永月氏はデビュー以来質の高い作品を次々と送り出し、多くの読者の支持を得ながら、これまで賞に恵まれず、文学賞の受賞はこれが初となる。
上白沢慧音氏は、人里に暮らす半人半妖の歴史家。ほかに寺子屋教師、小説家、自警団員、稗田文芸賞選考委員など、多くの肩書きを持つ。『人間を護る人間たち』は、上白沢氏自身もその仕事に携わっている人里の自警団と、同じく人里を護る仕事である消防団のふたつの組織の成り立ちと歴史をまとめた史書。
小説部門受賞者には賞金60貫文、ノンフィクション部門受賞者には賞金20貫文がそれぞれ贈られる。
永月夜姫氏の受賞の言葉
別に賞自体はどうでもいいんだけど、くれるというなら貰っておくわ。ありがとう。先に賞獲っちゃったから、もこたんの顔が見物ね。ふふふ、楽しみ。
上白沢慧音氏の受賞の言葉
人間の里の自警団はもともと、魑魅魍魎の跋扈するこの地に住み着いた妖怪退治の人間たちによって作られた、外敵すなわち妖怪に対する自衛組織でした。(中略)それに対し消防団は、火事という里内部から起こる危機に対処するべく、妖怪退治の力を持たない人間たちによって作られた組織です。(中略)両組織は設立の経緯から既に対立軸を抱えていたわけですが、その対立の構図は両者の性質が大きく変化し、当初の対立軸が失われた現在もなお、感情的なしこりとして残り続けています。(中略)自警団と消防団、どちらも人間が人間を護るために立ち上げた組織であるということは変わりません。人里の歴史家として、また自警団の一員として、本書がその雪解けの一助となることを願ってやみません。
(花果子念報 卯月22日号より)
小説の性愛表現問題、審査機関の設立は難航の見通し
自警団が霧雨書店と鈴奈庵に対し、性愛表現のある小説に対して販売・展示方法の指導を行った、いわゆる性愛小説問題に関して、性愛表現に対する第三者による審査機関の設立をめぐって、是非曲直庁は3日、第三者機関の設立に携わるつもりは無いことを自警団・幻想郷文芸振興会の双方に通告した。これにより第三者機関の設立は一旦白紙撤回となる。
この問題は、性愛表現のある小説が霧雨書店や鈴奈庵において、誰でも手に取って読むことができる状態で販売・貸し出しされていることに対し、自警団が「子供が読むのに相応しくない内容の作品は、子供の目に触れないよう販売・貸し出しするのが望ましい」として両店に指導を行ったことに始まる。これに対し幻想郷文芸振興会は、「自警団の言う性愛表現はその基準が不明瞭であり、公権力による表現の弾圧に発展する可能性を孕む」として、この指導に強く反発。話し合いの結果、第三者による審査機関を通して閲覧に年齢制限を加えるという案が提出され、この第三者機関を是非曲直庁に委任する方針で一度は固まっていたが、今回是非曲直庁がこの提案を差し戻したことにより、計画は白紙に戻ることになった。
是非曲直庁の四季映姫・ヤマザナドゥ氏は本紙の取材に対し、「是非曲直庁の仕事は善悪の判断であり、芸術分野における表現の是非を問う場所ではありません」と答えるに留めた。
(文々。新聞 文月4日号1面より)
第3回稗田児童文芸賞に蘇我屠自古さん
16日、第3回稗田児童文芸賞(幻想郷文芸振興会主催)選考会が人里の寺子屋にて行われ、蘇我屠自古さんの『かみなり母さん、化けて出る』(道書刊行会)が受賞作に決定した。
稗田児童文芸賞は、少年少女を対象とした児童文学作品の優秀作を表象する賞。選考委員は作家・歴史家の上白沢慧音、作家・数学者の八雲藍、命蓮寺住職の聖白蓮の三氏。受賞者には賞金20貫文が贈られ、寺子屋にて推薦図書として生徒に配布される。
受賞作の『かみなり母さん、化けて出る』は、亡くなった母親が幽霊となり、残された頼りない父親とお調子者の娘をひそかに見守り助けていくというストーリー。
選考委員長の上白沢慧音氏は、「母親の子供に対する限りない愛情という普遍的なテーマをまっすぐに描きつつ、それが子供の目からはなかなか見えないものであること、そしていつか失われるものであるということを、幽霊という設定を用いて巧みに織り込んでいる。子供の時分には疎ましく思いがちな親という存在について、子供たちが見つめ直すきっかけとなってほしい作品」と語った。
受賞した蘇我屠自古さんは神霊廟に暮らす亡霊。今回の受賞については、「まあ、光栄です。ありがたく頂戴いたします。続編? 書いてやんよ!」と照れくさそうに語った。
(文々。新聞 葉月17日号1面より)
第3回幻想郷恋愛文学賞受賞作決定
去る霜月11日、博麗神社にて第3回幻想郷恋愛文学賞の選考会が行われました。白岩怜(作家)、風見幽香(作家)、本居小鈴(鈴奈庵店主)の三氏による選考の結果、候補4作の中から、虹川月音さんの『歩くような速さで』(白玉書店)が受賞作に決定しました。
◆各選考委員の短評
白岩氏「『歩くような速さで』が候補作の中で飛び抜けていたわね~。タイトルの通り、ゆったりとした時間の流れに心地よく浸れて、しみじみとした描写の中に恋愛の機微が品良く配置された、読み終えるのが勿体ないと思える素晴らしい作品だったわ~」
風見氏「ある偉大な音楽家の生涯ただ一度の恋と、その恋が彼女の音楽にもたらしたものを、様々な視点から多角的に掘り下げることで、痛切な純愛の物語でありながら、同時に優れた音楽論小説ともなっているわ。『歩くような速さで』は紛れもなく虹川さんの新たな代表作になるでしょうね」
本居氏「もちろん候補作の中では『歩くような速さで』がぶっちぎりだったんですけど、私は候補にならなかった十六夜咲夜さんの新刊にあげたかったなあ……」
◆受賞者プロフィール
虹川月音(にじかわ つきね)…プリズムリバー騒霊楽団のヴァイオリニスト、ルナサ・プリズムリバーとして知られる音楽家・小説家。第121季、『レインボウ・シンフォニー』で第4回稗田文芸賞を受賞している。音楽をテーマに、多彩なジャンルの作品を発表している人気作家。『歩くような速さで』は、ある偉大な音楽家の作品の根底にある生涯ただ一度の恋を、周辺の人物の視点から掘り下げる恋愛音楽小説。
◆受賞のことば
連載が足かけ2年以上にわたってしまい、読者の皆さんを随分とお待たせしてしまいましたが、幸いにして好評をいただき、こうしてまた賞をいただけたことは望外の幸福です。『歩くような速さで』は新たな代表作を目指した作品ですが、これで満足することなく、また次の作品が新たな代表作となるように努力していこうと思います。ありがとうございました。
(博麗神社月報 師走号より)
稗田文芸賞、新選考委員と臨時選考委員が決定
幻想郷文芸振興会は1日、稗田文芸賞選考委員を退任したパチュリー・ノーレッジ氏に代わり、第11回から新たに作家の十六夜咲夜氏が選考委員に加わることを発表した。
十六夜咲夜氏は紅魔館のメイドで、時間SFや耽美小説、ゴシックホラーなど多彩な作品で人気を博す小説家。稗田文芸賞では第2回において『クロック』で候補となっているが、受賞はしていない。十六夜氏は本紙の取材に対し、「パチュリー様より直々に仰せつかりました次第です。微力ながら、稗田文芸賞と幻想郷文芸の発展の一助となれますよう、誠心誠意務めさせていただきますわ」と瀟洒に語った。
また、同じく選考委員の上白沢慧音氏が多忙のため第11回の選考を欠席、代理として命蓮寺住職の聖白蓮氏が臨時選考委員として第11回の選考に加わることも同時に発表された。聖住職は取材に対し、「慧音さんが例の問題でお忙しいとのことで、代わりを頼まれたのですが、私でよろしいのでしょうか?」と首を傾げた。
これにより第11回稗田文芸賞は、西行寺幽々子氏(作家)、八雲藍氏(作家・数学者)、稗田阿求氏(幻想郷文芸振興会代表)、十六夜咲夜氏、聖白蓮氏、射命丸文(本紙記者)の6名による選考となる。候補作は今月15日に発表され、選考会は24日、人間の里の稗田邸にて開催される予定。
(文々。新聞 師走2日号1面より)