第11回稗田文芸賞候補作発表
幻想郷文芸振興会は15日、第11回稗田文芸賞の候補作を発表した。
今回は六作品がノミネート。門前美鈴氏、マーガレット・アイリスといったベテラン勢と、関万旗氏、堀川雷鼓氏の新人勢が並び立つ形となった。
選考会は24日、人間の里の稗田邸にて行われる。
候補作は以下の通り。
門前美鈴『虹の国の物語』(スカーレット・パブリッシング)
マーガレット・アイリス『きみの名はパペット』(博麗神社)
富士原モコ『サンジェルマンは死んだ』(竹林書房)
ミスティア・ローレライ『波羅蜜多ロックンロール』(稗田出版)
関万旗『生首が多すぎる』(稗田出版)
堀川雷鼓『ハートビート・ドリーマー』(付喪新社)
(文々。新聞 師走16日号1面より)
博麗霊夢&伊吹萃香の第11回稗田文芸賞メッタ斬り!
パチュリー退任&慧音欠席! 名物選考委員ふたりの不在と新選考委員の登場で、波乱必死の第11回稗田文芸賞を、こちらはおなじみメッタ斬りコンビが今回もぶった斬る! 果たして栄冠の行方は!?
◆受賞レース予想&作品評価
(◎…本命 ○…対抗 ▲…大穴 評価はA~Eの五段階)
霊夢 萃香
-B ◎A 門前美鈴『虹の国の物語』(スカーレット・パブリッシング) 6回目
▲B ◎B マーガレット・アイリス『きみの名はパペット』(博麗神社) 5回目
◎A -C 富士原モコ『サンジェルマンは死んだ』(竹林書房) 3回目
-C ○A ミスティア・ローレライ『波羅蜜多ロックンロール』(稗田出版) 2回目
-B -C 関万旗『生首が多すぎる』(稗田出版) 初
◎A ▲B 堀川雷鼓『ハートビート・ドリーマー』(付喪新社) 初
◆門前美鈴『虹の国の物語』(スカーレット・パブリッシング)6回目
予想…霊夢- 萃香◎ 評価…霊夢B 萃香A
萃香 いやあ、どうなるんだろうね今回の稗田文芸賞。今回ばっかりは本当に予想がつかない。
霊夢 パチュリーと慧音が揃って消えたからねえ。どっちも声の大きい選考委員だったから、賞自体の勢力図ががらっと変わりそうよね。
萃香 で、代わりの選考委員がさー(苦笑)。
霊夢 白蓮はいいのよ白蓮は。稗田児童文芸賞でも選考委員やってるんだし。問題は咲夜よね。なんでいきなり咲夜が選考委員なのよ。
萃香 全くだよ(笑)。いや、稗田文芸賞はいろいろあって獲ってないけど、作家としての実績で言えば誰も文句はつけようがない。そりゃ確かなんだけどさ。あと歴代受賞者で選考委員やれそうなのが軒並み他の賞の選考委員やってるからね。神奈子とか幽香とか。
霊夢 第2回だっけ? レミリアがボロクソに言われて落とされて臍曲げたの。
萃香 それで稗田出版から版権引き揚げてスカーレット・パブリッシング設立したんだよね。あれから十年近く経って、レミリアもいつまでも拗ねてるより、咲夜を稗田文芸賞に送り込んで内部から幻想郷文芸を支配しようとか考えてるんじゃないかと邪推してみる(笑)。
霊夢 パチュリーが直々に推薦したとか言ってなかった?
萃香 そりゃまあ、表向きの話でしょ(笑)。
霊夢 で、計ったように門前美鈴が候補に入ってるわけで。あんたはやっぱり本命なのね。
萃香 やー、さすがにこれであげるでしょ。6回目だよ6回目。中身ももちろん良いし。大枠は『華国英雄伝』路線の戦国絵巻だけど、メインは神の力を嗣いだ亡国のお姫様と、その護衛の拳士の絆を軸に据えた冒険活劇。
霊夢 自分の国を滅ぼしてしまった制御不能の神の力を受け継いだお姫様が、護衛の拳士とともに母国再興を目指して逃避行を続けているところに、その力を狙う悪い奴らや他国の刺客が迫ってきて――って、まあベタな話よねえ。面白いけど稗田児童文芸賞向きじゃない?
萃香 いやいや、お姫様の力を巡って渦巻く他国の権謀術数も読み応えあるし、破壊しかもたらさないと思われていた力の価値を鮮やかに反転させるクライマックスの盛り上がりは、大人から子供まで万人の楽しめるエンターテインメントの正道じゃないさ。門前美鈴を評価してた慧音がいなくなっちゃったけど、こういうのにいちばん難色示しそうなパチュリーも消えて、咲夜という強力な援軍を得たから票数的には実質プラスだし、今回こそ、門前美鈴にとっては最大のチャンスでしょ。本当にこれで獲れないならもう一生獲れないよ(笑)。
霊夢 咲夜が素直に門前美鈴を推すかしらねえ。レミリアがまだ獲ってないのに。まあレミリアこそ永久に獲れなさそうだけど。あと、これにやるなら先に大橋もみじにやっとけって話じゃないの? ていうか、あんたが来年八坂神奈子賞あげればいいじゃない。
萃香 それは言わないお約束でさあ。霊夢、これのどこに文句があるってのさ。
霊夢 面白いは面白いけど、こっちの予想を超えてくれないのよねえ。前半の伏線からすればこうなるだろうって想像する展開がその通りに来るんだもの。丁寧に伏線回収して上手く作ってあるお話だとは思うけど、丁寧すぎて意外性が無さ過ぎるのよ。
萃香 あんまり贅沢ばっかり言いなさんなってば(苦笑)。
◆マーガレット・アイリス『きみの名はパペット』(博麗神社)5回目
予想…霊夢▲ 萃香◎ 評価…霊夢B 萃香B
萃香 まあでも実際、『虹の国の物語』だけじゃ八坂神奈子賞っぽすぎるって判断は出ると思う。そこでバランスを取るとすれば、アイリスとの二作受賞じゃないかな。
霊夢 それはいくらなんでも、常連候補者の在庫一掃セールっぽすぎない? それに、『きみの名はパペット』も悪くはないんだけど、第9回で落ちたアレに比べるとねえ。
萃香 幻想郷恋愛文学賞獲った『ドールハウスにただいま』ね。自分とこで出して自分とこで賞あげた本のタイトルぐらい覚えててあげなよ(苦笑)。
霊夢 中身は覚えてるからいいのよ。
萃香 ホントかなあ(苦笑)。ま、それはさておき、『きみの名はパペット』はアイリスお得意の人形ネタの恋愛小説。右手に装着した腕人形を介した腹話術でしか喋らないっていうヒロインの設定がいいよね。パペットを介してコミュニケーションを取っているうちに、主人公がだんだん自分はヒロインが好きなのか、それとも彼女の演じるパペットが好きなのか解らなくなってくるっていう展開がいかにもマーガレット・アイリス。
霊夢 要するに自我の主体がどこにあるのかって話で、例によってアリス……じゃないアイリスが書き続けてる《心の在処》の話になるのが、ちょっとパターン通り過ぎない? パペットでしか喋らないヒロインのおかげで前半はだいぶコメディっぽかったり、アプローチの仕方には変化を加えてて、今までのアイリス作品読んでるとそのへんは楽しいけど。
萃香 まあ、結局白岩怜的な金太郎飴感に落ち着いちゃうところはあるかな。主人公もヒロインもわりと変なひとだから、ドリーム入ってるっぽい部分がなくて、私はいつものアイリスより読みやすかったけど。
霊夢 『ドールハウス』よりは落ちる、って言われて終わりじゃない?
萃香 それじゃ魔理沙と同じルート入っちゃうよ(苦笑)。それに、咲夜と白蓮が『ドールハウス』読んでるって保証は無いわけだしさ。もともと、咲夜はアイリス作品には好意的だったはずだから、少なくとも咲夜は推すんじゃないかなあ。阿求も好きそうじゃない?
霊夢 むしろ、案外幽々子が気に入りそうな気はするわね。ま、大穴はつけておくわ。
◆富士原モコ『サンジェルマンは死んだ』(竹林書房)3回目
予想…霊夢◎ 萃香- 評価…霊夢A 萃香C
萃香 前作の方が良かったって言ったら富士原モコでしょ。渾身の大作『永遠の途中で』で落とされて、『サンジェルマンは死んだ』でどう? って言われても本人がいちばん困ると思うんだけど……え? 霊夢これに本命でAつけてるの? なんで? どう考えたって獲れないしAつけるような作品じゃないでしょ?
霊夢 あんたこそ、なんでCなんかつけてんのよ。面白いじゃないこれ。
萃香 ええー(のけぞる)。いや、そりゃまあ富士原モコだから読める水準には達してるけどさあ。モコ作品の中でこれが特別良いっていう人はあんま居ないと思うよ? ていうか、完全に論理が破綻してるじゃんこれ。伝奇アクションホラーとしてはまあ面白いけど、ミステリとしては完全な失敗作だよ。
霊夢 は? ミステリだったのこれ?
萃香 ミステリだよ! 不老不死のサンジェルマンはいかにして惨殺されたのか、っていう謎がまずあって、後半でそれに対して論理的解決を試みてるじゃん。全く説明になってないんだけど。そこはハッタリで流して伝奇アクションに特化すれば良かったのに。
霊夢 え、あれはギャグでしょ? これまでのモコ作品の、《不死者の異質な論理》を、寿命のある者の視点から翻訳せずに直接書くと全く理解不能になるっていうセルフパロディじゃない。私あそこで爆笑して、モコ作品でも指折りの傑作だと確信したわよ。
萃香 いやいやいやいや(苦笑)。まあ、三歩譲ってそういう評価軸があってもいいけどさあ。本命印はつかないでしょー。文とか阿求が最後の破綻した推理を「なんじゃこりゃ」って言って終わりでしょ。
霊夢 最近ねえ、私が低評価した作品ばっかり獲るじゃない。
萃香 あー、『雲の上の虹をめざして』とか『六花』とか。
霊夢 そろそろ揺り戻しが来ると思ったのよ。だから虚心坦懐に面白かったふたつに本命印打ってみただけ。ぶっちゃけ咲夜と白蓮の評価軸が読めないから、今までの調子で予想したって当たりっこないんだし。
萃香 ううん、まあ、そうかもしれないけど(苦笑)。でもこれは無いと思うなあ。『永遠の途中で』を落としてこれであげるのはいくらなんでも……。
霊夢 いくらなんでもって言われまくった魔理沙の立場はどうなるのよ。
萃香 主にそう言ってたのは霊夢じゃないさ!(苦笑) まあ、ミステリ部分に目を瞑れば文が推してくれる可能性はあるのかなあ。しかし永月夜姫の新刊『ドラゴンバレッタ』を外して富士原モコを単独で入れたんだから、予選委員としてこれ上げてきたパチュリーや小鈴は勝算ありと見てるのかなあ。私には解らん。
霊夢 あんたが破綻してるって言ったところをパチュリーが気に入ったんじゃない? パチュリーと同じところ面白がったって考えるとちょっと癪だけど。
萃香 なんで癪なのさ(笑)。
◆ミスティア・ローレライ『波羅蜜多ロックンロール』(稗田出版)2回目
予想…霊夢- 萃香○ 評価…霊夢C 萃香A
霊夢 ミスティアの候補入りってなんかめちゃくちゃ久しぶりじゃない?
萃香 第3回の『夜に鳥籠の鍵を』以来だから実に8年ぶりの候補入りだね。『くらやみのうたはきこえない』とか『歌声屋台繁盛記』とか、その間にも候補にしていい作品いろいろあったと思うんだけど、なんで今更『波羅蜜多ロックンロール』で候補にするんだろう。
霊夢 そんなこと言いつつ対抗つけてるじゃない。評価Aだし。私はよくわかんないけど。
萃香 『サンジェルマンは死んだ』で笑えてこれはわからないって霊夢の感性の方が私にゃわからんよ!(苦笑) 予測不能のジェットコースター展開が読者を翻弄する破天荒な傑作じゃないさ。
霊夢 なんか前に候補になったのもそんなんじゃなかったっけ?
萃香 そうだね、読感としては『夜に鳥籠の鍵を』に近いけど、あっちをさらに百倍無軌道にしたようなデタラメぶりが素晴らしいよ。絶対これはパチュリーが予選から上げたね間違いない(笑)。ロックに傾倒しすぎて寺を破門された尼さんふたりが、般若心経のロックアレンジを大道芸として道ばたで歌っていたら、だんだん有り難がる人たちが集まってきて新興宗教みたいになるんだけど、それを妨害すべく派遣されてきた刺客が法華経ゴスペル(笑)。そのまま歌で張り合うのかと思ったら、それぞれの歌によって仏様が降臨してきて、不動明王がサンバ踊り出すわ薬師如来が十二神将オーケストラ結成するわで仏教オールスターズ音楽大戦みたいなわけのわからんことになって(笑)。全人類を救済する踊らない他力本願ダンサーズとか素晴らしく意味が解らない。
霊夢 部分的には笑えるんだけど、全体を通して見ると論理が欠落しすぎててついていけないわ。主役の尼さんコンビすら途中でどっかいっちゃうし。
萃香 少なくとも米井恋よりは解りやすいと思うよ(笑)。仏教と音楽っていう統一テーマはあるし、その組み合わせで何がやれるか、をある意味徹底的に突き詰めながら、ぶっ飛んだ発想の飛躍で読者を見たことのない世界に連れていくって意味では、今回の候補作の中で一番の意欲作じゃない? 前半から同じフレーズを反復するというモチーフがなにげに後半のエスカレートしていく展開に効いてくるあたり、めちゃくちゃに見えて意外と周到だし。
霊夢 そこは行き当たりばったりがたまたま上手く噛み合っただけじゃないの?
萃香 その可能性もあるけど(苦笑)、まるでデタラメな即興演奏が奇跡のハーモニーを奏でるような感動がこの作品にはあるよ。文あたりが推してくんないかなあ。無理かなあ。
◆関万旗『生首が多すぎる』(稗田出版)初
予想…霊夢- 萃香- 評価…霊夢B 萃香C
霊夢 残りのふたりは新人ね。関万旗は私もあんたも無印だけど。
萃香 これさー、タイトルと装丁から絶対富士原モコ系のミステリだと思って読み始めたんだよね(笑)。三分の一ぐらい読んだところでなんか変だなーとは思ったんだけど。
霊夢 どんな嫌な奴もみんな首を切り落とせば死ぬんだ、っていう想像で心の平穏を保ってる、鬱屈した人間の少年が、人見知りな飛頭蛮の少女に出会うっていう人里青春小説。悪くないと思うけど。作者が妖怪のくせに、わりと人間の少年の心理がよく書けてるし。私は全然共感はできないんだけど。
萃香 やー、うん、ねえ。周りは嫌な奴ばっかりの人間の里で一生暮らしていかなきゃいけないっていう絶望感とか、周りの価値観に馴染めない疎外感とか、誰も自分を解ってくれないっていう鬱屈はすごく良く書けてるとは思うんだ。鬼の私にも刺さるぐらいにさ。
霊夢 あんたのどこに鬱屈があるのよ。
萃香 こう見えて私だって繊細なんだよ。
霊夢 へー(棒読み)。
萃香 全く……(ぶつぶつ)。そのへんがすごくリアルに書けてるから、前半はジュヴナイルとして評価できるんだけど、後半の展開がさー。どうなのさこれ。
霊夢 周りの人間がだんだん生首に見えてくるってあたり?
萃香 や、そこじゃなくてさ。結局この話って、飛頭蛮の少女と仲良くなって、生首が飛んでることに慣れてしまったら他人の首を切り落とす想像もしなくなって、っていう流れで〈自分と違う存在〉を受容していく話なわけじゃん。そのテーマ設定自体はジュヴナイルとしては別にいいんだけど、最後にヒロインの飛頭蛮の少女は去っていっちゃって、残された主人公は人間の里の暮らしを受け入れて幸せに暮らしましたって結末には、私は異を唱えたいわけよ。
霊夢 なんで?
萃香 この主人公とおんなじような鬱屈抱えてる子が読んだら、「結局人間の里の価値観に迎合しろってことかよ」ってムカつくんじゃないかなあ、この結末。人間が彼女ができて、彼女はいなくなったけど幸せになりました、って話なら、そういうのは白岩怜に任せておけばいいんだよ(笑)。
霊夢 つまりそれあんたがムカついてるんでしょ。というか、むしろそれがこの小説の狙いじゃないの? 最終的に主人公が結局長いものに巻かれちゃう、人間の同調圧力の気持ち悪さ。だからヒロインはこの主人公の元から去っていっちゃうわけじゃない。これをあたかもやむを得ない切ないハッピーエンドみたいに書くあたり、作者の性格の悪さが滲み出てて私は好きよ。私は前半の鬱屈に共感できないぶん、このラストで評価上乗せ。
萃香 あー……そうかそういう狙いの小説なのか……。ううむ。
霊夢 まあでも、人間の里の話を評価しそうな慧音が居ないし、こういう鬱屈に共感するのも居なさそうだから、、受賞は無いんじゃない。案外阿求が気に入るかもしれないけど。
◆堀川雷鼓『ハートビート・ドリーマー』(付喪新社)初
予想…霊夢◎ 萃香▲ 評価…霊夢A 萃香B
萃香 最後は虹川月音が《幻想演義》の書評で大絶賛した堀川雷鼓の『ハートビート・ドリーマー』。周りの反応見てても評判いいし、初候補ですんなり獲るとしたらこっちかな。
霊夢 いくら能楽ブームのご時世と言ったって、『波羅蜜多ロックンロール』と音楽ネタで被せなくてもって思ったけど、読んでみたら一緒に候補にするのも納得したわ。読み口全然違うんだもの。
萃香 そりゃ『波羅蜜多ロックンロール』と同じような読み口の話書ける作家なんて米井恋ぐらいだよ!(苦笑) まあ、こっちは真っ当な音楽青春小説だね。ドラムの魅力に取り憑かれた主人公が、バンドメンバーとぶつかり合いながら、奇跡のセッションを目指していく。虹川月音『レインボウ・シンフォニー』の系列だけど、面白いのはバンドの使う楽器が全部付喪神って設定になってること。楽器に人格を持たせることで、楽器と演奏者の信頼関係っていう角度から書いてるのが新鮮でいいね。
霊夢 物語の途中で断片的にバンドメンバーの未来の姿が挿入されるけど、そこで読者の期待感や不安感を抱かせておいて、本編でそれを上手くひっくり返してみせたり、はたまた期待通りに書いてみたり、そこらへんの読者の感情の動かし方はものすごく堂に入ってるわね。新人のくせにベテランみたいな書きっぷり。面白さでも小説技術的にも大本命じゃない。
萃香 私は『波羅蜜多ロックンロール』の無軌道ぶりの方が好きだけどなあ。個人的に物足りないのは、主人公の相棒であるドラムの描写への熱の入りっぷりに比べると、他の楽器の描写が弱いところ。主人公だから、って言うにはちょっとアンバランスすぎるかなあと。それなら半端にギターとか書かずにドラマーの話に専念すれば良かったのに。
霊夢 作者がドラマーだからねえ。でもまあ、そのへんは演奏シーンの迫力で帳消しじゃない?
萃香 クライマックスの〈奇跡のセッション〉の描写が素晴らしいから、そこに至るまでの個々のドラマをもうちょっと書き込んでほしかったなーと。その点、私としちゃ『レインボウ・シンフォニー』には及ばないと思うんだよね。ないものねだりかねえ。
◆まとめ◆
萃香 咲夜と白蓮はとりあえず置いておくとして、他の四人はどれ推すと思う?
霊夢 文はまあ、いつも通りエンタメ推しで『虹の国』と『ハートビート』じゃない? 『波羅蜜多』は推さないと思うわよ。個人的には『サンジェルマン』推してほしいけど。
萃香 ダメかなあ。文に頑張ってほしいんだけどなあ。幽々子は『パペット』かね。案外どれも推さないってことも幽々子ならあり得るけど。
霊夢 人間として阿求は『生首』をどう評価するかしらね。推すのは『パペット』になると思うけど。
萃香 で、藍が……今回SF無いからなあ。意外と藍も普通にエンタメ好きだから『虹の国』かな。ジュヴナイル推しで『生首』の可能性もある? 鳥獣伎楽が苦手だって言ってたから『波羅蜜多』と『ハートビート』は推さないかな。まあ、票読んでも『サンジェルマン』は絶対無いって(笑)。
霊夢 『サンジェルマン』は咲夜が推すんじゃない? 普段の咲夜の作風に一番近いし。今までの傾向からいっても、新委員が強く推せばだいたい獲るじゃない。
萃香 咲夜はアイリスか義理で門前美鈴推しだと思うけど。白蓮は?
霊夢 白蓮は……里に近いし元人間だし、あれ、そうなるとひょっとして『生首』? 『波羅蜜多』はまず推さないでしょうね。『ハートビート』はどうだか知らないけど。
萃香 おっと、票読んでみたら案外『生首』に受賞可能性あり?
霊夢 別に獲ってもおかしくはないとは思うけど。
萃香 本命不在だなあ。なら素直にキャリア加味して門前美鈴とアイリスでいいじゃん。
霊夢 そのふたりじゃ今更もいいところじゃない。永月夜姫が八坂神奈子賞獲ったし、富士原モコに稗田文芸賞あげとけばいいのよ。
萃香 前回が魔理沙に『いじわる巫女と三匹の妖精』で、今回が富士原モコに『サンジェルマンは死んだ』じゃ、ますますあげどきを間違ってるって言われるだけのような……(苦笑)。どうなることやら。
(文々。新聞 師走21日号 3面文化欄より)