レミリア・スカーレットは闇の神父である。
神の御使いでありながら魔と漆喰の深紅の王と夜の闇よりも深い契約を交わしている。
その真の姿を知るものはいない。いや、いないはずであるというべきかもしれない。何故なら彼女には悪魔と666の契約を果たし破壊と終末の使者<イマジンブレイカー>の称号を得た悪魔<デビル>にして悪魔<デーモン>の妹、フランドール・スカーレットが居るからだ。
彼女はいつもレミリアを見てる。そう、「いつも」視ているのだ。その目、いや、眼の鋭く冷たい――熱い――ことは誰の目に視ても明らかだ。明らかであるべきだ。そうレミリアは自分自身の罪を誤魔化すために繰り返し自己認識を繰り返す。
「いや、自己陶酔か」
――フッ。
口角がつり上がり、哀惜と憤り、そしてほんのわずかな罪悪感を込めた瞳で自嘲する。繰り返し、また繰り返し、闇の奥、言うなれば深淵に根ざす沈痛の<歴史>を振り返り、しかしレミリアはそれを悔いはしない。
「我が心の臓<こころ>に白木の杭を打ち立てることができるものは、所詮、私だけなのだから」
だからレミリアは。
いや、レミリア・スカーレットは。
永遠にして幼き深紅<あか>い月は悔やまない。
「奏でるは、死奏。四重奏<カルテット>というには拙いけれど。ねぇ、貴女はどう思う?」
――カツンッ。
足音だ。
天井から聞こえた音に、レミリアは瞑目する。あるいは、その心の眼は別の色を魅せていたのかも知れないが、それをカオに視せることはしない。
とくにそれが、愛しい妹<悪魔>だというのならば、なおさらだ。
「私は、どうとも思わないわ。お姉さま」
――そんなことより。
そう、唇が動いた。レミリアは戦慄を飲み込む。代わりに響いたのは、フランドールの唇から奏でられる美しき旋律であった。
「餌? それとも――」
「運命よ」
「――あはっ、そう」
笑った。
ワラったと、そう謂った方が良いか。
「ねぇ、お姉さま。私にも分けて」
「わけられないわ。運命だもの」
「壊せば一緒よ」
「一緒になれない運命は、ないの」
冷たく――凍てつく、魔王の息吹――言い放つ。するとフランドールは、ワラったカオを崩さぬままに愉悦の目で頷いた。
「いいよ。じゃ、運命の果てで」
「ええ――――踊りましょう」
「うんっ」
無邪気。
邪気の在処を知らぬ哀れな妹。
ソレは何より、悪魔として歪すぎる。
「ばいばい、またね」
闇夜に溶けるように、フランドールは消えた。
レミリアはその光景を見届けると、ただの一度も顧みることなく空を仰ぐ。もう、足音は聞こえない。聞こえるはずがない。だがもし“聴こえた”のだとしたら、それはきっと運命の足音だ。ゼロから零へ、オンリーから一へ。途絶えることのない、運命の螺旋階段。
頂へ昇るモノは、ただ一つ。
だというのに、既に頂きに在るレミリアを突き落とし、ソレに成り代わろうとする哀れな狩人<アンチテーゼ>に、レミリアは憐憫の目を向ける。
「闇よ。還るところも知らず、哀れにも踊り続ける蝙蝠よ」
足音は――無い。
なぜならば、彼女は浮いていたのだから。
闇夜にあってなお浮かぶ、高貴の象徴。けれどその血に流れるモノは、魔の方がずっと強い。
「魔は、所詮より強い魔には打ち克つことが出来ない。ならば貴様はここで私というより強い魔に打ち倒されるのが道理。覆しようのない、真実」
――カツンッ。
漸く、足音だ。哀れな人形は、向かい合うモノが何であるかもわからずに、海淵がごとき瞳でレミリアを覗き込んでいた。けれど、それも数秒の事。暗澹とした沈黙は、たった一声、レミリアのワラい声によって打ち砕かれる。
「ふ、あは、あはははははははハッ!」
「気でも違ったの? 化け物<フリークス>」
――いや。
そう言うと、目元に溜まった嘲りの雫を拭い捨て、レミリアは頬杖をついた。
「ただ、哀れなだけよ」
「哀れ? ハッ……この私が?」
「そう、哀れ。憐れよ」
レミリアの体躯が、ふわりと浮かび上がる。
――満月を背に。
――真紅を眼に。
――闇を身体に。
そして――恐怖を、声に。
「貴女は魔女。私は吸血鬼。良いわね、なるほど、より強い魔が貴女であるのならば私は確かに討たれることだろうさ。だがね――」
魔女――紫髪にして至高の魔女は、無意識のうちに一歩、引いていた。そんな自分に、彼女は気が付かない。
「――私はただの“魔”ではない。我が身に宿りし獄界の救世。その身に受けて、救われろ」
レミリアは手を大きく広げると、ついに、最後の言葉<執行宣言>をする。まるで――慈悲深い神父が、魂の救いを述べるように。
「我が名はレミリア。レミリア・スカーレット。聖邪を踏破し呑み込む――“闇の神父”なり!!」
「えーと、次は、パチュリーが不敵に笑い“第三賢者の非鉄”を繰り出す所ね」
「だ、だめっ、読み上げちゃいやよっ、レミィっ」
「私の漫画を撤去して何を入れておくスペースを確保したのかと思えば……しょうぞー権の侵害じゃない? この、“闇の神父”」
「おねがいレミィ、おねがいだからもうやめてぇっ! なんでもする、なんでもするからぁっ」
「えー、じゃあ私とパチェの艶本書いてよ」
「えっ、ぁ、む、むりよっ、そんなの!」
「ふぅん……『レミリアは告げる。「おまえの唇をいただこう。運命の楔を永遠のモノと」』……艶本代わりになるわね、これ」
「まって! ややや、やる、やるからぁっ」
「本当に?」
「……」
「……」
「……」
「……フランー。あのね、パチェが面白いもの書いてたんだけど――」
「だ、だめっ、やめてレミィ! やめてぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇええええっ!!!!」
――了――
その涙は決して感動の涙ではないんだぜ……。
ところでお嬢様。艶本なんて書かせなくても、あなたなら直接実践(ry
最初の一文の破壊力よ
恥ずかしがってるパチュリー可愛す
パチュリー様、御愁傷様です(-人-)
紅魔館メンバーは運命だとか吸血鬼だとか破壊だとか魔女だとか血だとか紅だとか
レミリアのスペカとか厨二に使いやすいネタが多いからだと