薄暗い明りが灯る大部屋にて、少女たちは動けずにいた。
まず状況を説明しよう。
畳みに敷かれた残る布団は、然程の差異のないものが四組。
立つ少女たちは、人間二名に妖怪四名、加えて、半人半霊が一名。計七名。
つまりどういうことかと言うと――布団が足りない。
膠着した状況の中、埒が明かぬと一人の少女が手を挙げた。
一人。そう、彼女は人間。
十六夜咲夜。
《咲夜の案》
突っ立っていてもしょうがない、どうペアを組むか考えましょう。
「ペアを組む?」
……そうですわ、パチュリー様。
状況が状況ですもの、二人一組を三ペア考えないといけません。
各々が属している組織を基準にするのではなく、体格差で分けるべきでしょう。
例えば、この中では二番目に背の高い私と、一番低い魔理沙……あら?
「何時の話だ。私だって伸びてるぜ」
三分前とか?
こほん。
やや高くなっているのね。
認めてあげるから、八卦炉を向けるのは止めて頂戴。
「んー、咲夜さんの案で考えると、私は妖夢とですね」
「ふむふむって、うどんげさんと同衾!?」
「どう……? ですよね?」
そうなるわね。
あと妖夢、その言葉は咲夜さんどうかと思う。
あ、だけど、華を散らせる気なのであれば、別室で。
「……こほん」
わざとらしい空咳ありがとう、アリス。
だけど、人形は仕舞ってくれて構わないわ。
そも女の子同士なのだから華を散らせると言う表現は、あぁでも出来なくも!
――痛い、痛いわアリス!?
「おい、パチュリー。お前んとこのメイドだろう。何とかしろよ」
「私のメイドじゃないもの。余り参加しないから、テンション上がっちゃってるようね」
「ほー、あの咲夜がね。珍しいな。……アリスさんそのティターニアは何処に仕舞っていたの!?」
な、何故か私には当たりがきついわね、アリス。
「貴女の普段の格好が悪い」
……?
まぁ、いいわ。
ともかく、ペアはそれでいいわね?
「あのー」
ん、と言うことは、私のペアはパチュリー様ですわね。
「そのー」
ふふ、お嬢様に恥をかかせない程度に、メイドの妙技、床で披露させて頂きますわ。
「基本、咲夜さん受け身じゃないですか」
そう言う発言しないの――美鈴っ!
「うけみ……?」
「今の場合、ネコと言う表現が」
「聞くなうどんげ、応えるな妖夢っ!」
「誰をどう責めればいいのかしら。あ、そう言う意味ではなく」
「アリス、その注釈はいらないと思うの。……えぇと、じゃあ咲夜、美鈴はどうするの?」
お仕置きが必要ですわね! 別室で!
「やぶさかではありませんが、パチュリー様が問うているのはそう言うことではないと思います」
美鈴に諭された!?
ぐぬぬ……っ。
すぅーはぁー、すぅーはぁー。
最初に言ったでしょう? 体格差で分けましょう、と。
だから、一番背の高い貴女は誰ともペアを組む必要はないの。わかった?
「デレ期きましたー」
「アリス、今のはツンじゃないの?」
「お前ら頼むから、私に突っ込み役を回さないでくれ」
「破廉恥、破廉恥だぞ、魔理沙!?」
「え、あの、どこが?」
シャラーップ!?
「先ほどから、咲夜さんの声が一番大きいです」
私を黙らせようとするのならその口で塞いで!?
「それはまた別の機会に。
あぁいや、貴女が混乱してどうするんですか。
とりあえず、お話は解りました。良い案だと思います」
……褒めてもいいのよ?
「では私と咲夜さんがペアの一組になりますので、残り三組を皆さんで分けてくださいね」
あん、素敵なご褒美。
……じゃない!?
何をどう聞いていたの!
一番大きな貴女と二番目の私が同じ布団って密着具合が半端ないわよ!?
「私は我慢出来ますよ?
咲夜さんの案、確かに良いものだと思います。
ですが、年長者が我慢するのも、然るべき理かと考えます」
まぁ……私はともかく、貴女は年も一番とっているでしょうね。
「はいな。ですので、咲夜さんさえ宜しければ、と」
……ふん、其処まで言うなら、いいでしょう。
《/咲夜の案》
かくして、一組のペアが出来上がり一組の布団が減った。
残る人数は五名で布団は三組となる。
次に手を挙げたのは、半人半霊。
魂魄妖夢だった。
《妖夢の案》
あー、いや、案と言うよりは要望なんですが……。
「妖夢、布団に入る前には三つ指を突いて、不束者ですが、と」
解っていますアリスさん。
この魂魄妖夢、生娘なれどその手の作法は教本で……。
違います違います、と言うか要望の前提が何故別室行きなのですか!?
「ふふ、妖夢も意外と……」
あぁぁ、否、そも私は別室に行って何をするかも、否、否、ナニってそんな破廉恥でござるぅ!
「あの、アリス、なにか色々とさっきの咲夜と変わらないわよ?」
「先手を打つ辺り、より性質が悪いと思うぜ」
「教本ってなんだろう……」
そのままのうどんげさんでいて。
「……残念だわ。もう少し押せば、『貴女の方が破廉恥よ?』って服装になったでしょうに」
雄っぱいにも負けそうな某の胸を晒しても……。
んぅ、話を戻します。
それと、アリスさんは少し自重してください。
私だけならともかく、魔理沙の気力もどんどこ減っているように見えるので。
「なんか暗い未来が視えた……!」
「魔理沙って意外と良識あるもんねー」
「うどんげ、貴女は主に似るのか従に似るのか」
黒髪和服のうどんげさん……それはそれで大層に素敵です。
「駄目よパチェ、変なスイッチ押しちゃ。
妖夢、脱線しているわ。
話を続けて?」
ありがとうございます、アリスさん。……あれ?
要望と言うのは他でもない、布団のことです。
我儘は承知なので言わせて下さい。
一組、私に使わせて欲しいのです。
「んー……理由を教えて欲しいな、妖夢」
ですから、うどんげさん、我儘です。
「よ・う・む?」
おでこをくっつけてガン見しないで下さい、また狂う!?
そ、そりゃぁ、偶には、誰かと寄り添って寝たいと思わないでもないですよ?
こう言う機会ってそうそうあるものでもないですし……。
ですが、私は半人半霊。
人間の魔理沙は勿論、他の方々も冷たく感じられるかと。
しかも、今の季節は冬です。
折角湯で温めた体を、冷やしてしまうこともないでしょう?
「皆さん、私は妖夢とペアを組みまーす」
決めたのに! 話を聞いて下さいうどんげさん!?
「『誰かと寄り添って寝たい』まで聞いた」
言いましたね! 言いましたけども!
「体温なら大丈夫。
私、人間よりも高いし。
これで問題解決だと思うんだけど?」
うー……兎の体温は四十度ほどと聞いたことはありますが、月の兎も同じ位なのですか。
「それにね、妖夢――兎は、寂しいと死んじゃうんだよ?」
――!
仕りました、うどんげさん!
この魂魄妖夢、冷たき身なれど熱き魂にて友の心を温めましょうぞ!
「間違った俗説よね、とか」
「別に妖夢じゃなくてもよくはないかしら、とか」
「魔理沙さんは、そう言うことには突っ込まないんだぜ」
《/妖夢の案》
かくして、またも一組のペアが出来、一組の布団が減った。
残る人数は三名で、布団は二組。
次に手を挙げたのは、妖怪。
パチュリー・ノーレッジだった。
《パチュリーの案》
ここまで選択肢が減れば、案も減ったくれもないような気がするけど……。
一つ、魔理沙と私。
一つ、アリスと私。
一つ、魔理沙とアリス。
フタリは体格も然して変わらないけれど、厳密に考えるなら、私と魔理沙が妥当かしら……はっ。
(『妖夢ほどじゃないんだろうけど、お前も大概冷たいのな』
『血行が悪いのよ。以前よりはマシになっているはずだけど』
『それでも指先はカチンコチンだぜ?』
『典型的な症例ね。寝れないほどじゃないから、別にいいけど』
『私が困る。しょうがない、暫く揉んでやろう』
『あ……。えと、ちょっと、痛い』
『そんな顔するなよ。……少し、苛めたくなっちゃうぜ』)
――駄目よ魔理沙、そこは違う先っぽよ!?
「うぉ、いきなりどうした、パチュリー?」
な、なんでもない、なんでもないわ!
ともかく、一つ目の案は駄目よ。
駄目ったら駄目なのよ。
こほん。残る二つを検討しましょう。アリスと私……はっ。
(『ふふ、いらっしゃい、七曜魔女さん』
『物凄いオープンガードね、アリス』
『だって私はオフェンスだもの』
『その言い方なら誤解は生まな……アリス?』
『そして、私は七色人形遣い。さぁ、四十九手目を創りだしましょう』)
――違うわアリス、表裏合わせれば既に九十六手存在しているの!?
「パチェ、相撲の話は今必要ないと思うわ」
夜のお相撲、がっぷり四つ。
いや、気にしないで、ごめんなさい。
え、と、アリスと私も駄目ね。私の体力がもたない。いやいや。
うぉっほん! となると、最後の一つ、魔理沙とアリス……。
(『アリス』
『魔理沙』
『ん……』)
――止めてフタリとも、凡そ百歳児が見ているのよ!?
「誰だ百歳児」
「パチェのことじゃないの?」
「いやまぁわかっちゃいるが。……あー、その、混乱してないでだな」
悪魔の思考が私を蝕む……!
「さり気に責任転嫁をするな」
「一理がないとは言えないような」
「うるせぇ話を進めるぞ。パチュリー、お前も手伝え」
……え? 手伝うって、何を?
「布団をくっつけるのよ」
「三名二組なら上等な範囲だろ」
「体格を考慮して、両側を私と魔理沙、真ん中がパチェ」
割と理想的な川の字だわ。
「さぁパチェ、お休みの前にご本を読みましょうね」
わーい。
「それでいいのか百歳児……」
《/パチュリーの案》
かくして、立つ人妖はいなくなり残る布団もなくなった。
結果を見れば、収まるところに収まった、と言うべきか。
今宵の宴は灯りと共に、静かに終わりを迎えようとしていた。
――していた。
「決まった?」
「じゃあ行燈を消しますね」
「ん、お願い。ったく、あんたら無駄に長いのよ」
一同の視線が一点に集まる。
一同とは、人間二名に妖怪四名、加えて半人半霊一名。
一点とは、人間二名、内訳は博麗神社の巫女と守矢神社の風祝。
どの組よりも早く布団に潜り込んでいた、霊夢と早苗のペアだった。
「そも霊夢、お前がちゃんと人数分の布団を出してたら済んでいた話なんだが」
「面倒くさい」
「押入れの場所、教えてくれたら取ってきたのに」
「面倒くさい」
「言い訳すらしないのは、ある意味潔いと思うけどねぇ」
「面倒くさい」
魔理沙と鈴仙、美鈴の対応に、霊夢は一言で乗り切った。
「にしても、結構騒いでたのに、よく霊夢が暴れなかったわね」
「人のことは言えないけれど、アリスも一因なような……」
「それはもう、布団の中で……うふふ」
「は、破廉恥でござる、破廉恥でござるぅううううう!」
「あら、単に耳を塞いでいたんだと思っていたけど、何がどう破廉恥なのかしら?」
だけれど、霊夢と違い、妖夢は言葉に詰まってしまったのだった。
「矛先おかしくないですか!?」
アリスと早苗、咲夜が微笑む。
パチュリーは静観していた。
妖夢、逃げ場なし。
――再び騒がしくなる直前、大きな空咳が場に打たれた。
「んぅ!
いいから、さっさと寝ましょう。
ほらほらあんたら皆、ちゃんと布団に入って」
魔理沙が半眼になり、
アリスが呆れ、
パチュリーが頬を掻き、
鈴仙が笑い、
妖夢が胸を撫で下ろし、
咲夜が肩を竦め、
美鈴が微苦笑を浮かべ、
――そして、誰もがちゃんと布団に入るのだった。
これぞ、鶴の一声ならぬ巫女の一声なり。
「では、行燈を消しますね」
声の後、息を吐く音二つが、静かな場に響く。
一つは早苗が行燈に向けたもの。
もう一つは、霊夢が早苗に向けたもの。
ちらりと覗いた首筋に、ふぅと小さな吐息を当てた。
「――ひゃ!? もう、何をするんですか霊夢さん!」
「何時もやられてばっかりだから、仕返し。へへん」
「では、仕返しの仕返しです、ふぅ!」
「ひぁ、こっの、やったわね!」
「んぅお臍は駄目、です」
わーわーきゃーきゃーもみもみくちゃくちゃ。
「あーもぅ、汗掻いちゃったじゃない」
「もう一度お風呂に入りましょう」
「うん」
笑顔で頷き合う少女二名に――
「……あによ、あんたたち?」
――再び、一同の視線が集まる。
「えーと……とりあえず、行燈を安全な場所に移しましょうか」
「大丈夫よ美鈴。時間を止めて、もう置いてきたから」
美鈴が布団を掴み立ち上がり、咲夜が得物を鷲掴みにする。
「滾る、滾るぞ、燃え上がれ我が魂ぃぃいいい!!」
「関係ないけど半霊ちゃんが若干ピンク色に! えっと、Let's Party♪」
前衛の妖夢が両拳を振りあげ叫び、後衛の鈴仙が二つの得物でお手玉をする。
「パチュリー、危なくなったら、アリスの後ろに行くんだぞ?」
「パチェ、当たりそうになったら、魔理沙を盾にするのよ?」
「え、あ、その、そうならないように、頑張る」
読まれる予定だった魔導書を胸に抱いてコクリと頷くパチュリー、そんな彼女を見て、魔理沙とアリスは空いている手の甲を軽くぶつけ合う。
かくして――
「二対七か。……弾幕戦ならともかく、ちょいときついかしらね」
「大丈夫です霊夢さん。合体した巫女祝の力を信じましょう!」
「うんまぁ布団で二人羽織状態だけど。なんとかなる、かな」
――各々の得物を枕に変え、少女たちの戦は始まったのであった。
<幕>
まず状況を説明しよう。
畳みに敷かれた残る布団は、然程の差異のないものが四組。
立つ少女たちは、人間二名に妖怪四名、加えて、半人半霊が一名。計七名。
つまりどういうことかと言うと――布団が足りない。
膠着した状況の中、埒が明かぬと一人の少女が手を挙げた。
一人。そう、彼女は人間。
十六夜咲夜。
《咲夜の案》
突っ立っていてもしょうがない、どうペアを組むか考えましょう。
「ペアを組む?」
……そうですわ、パチュリー様。
状況が状況ですもの、二人一組を三ペア考えないといけません。
各々が属している組織を基準にするのではなく、体格差で分けるべきでしょう。
例えば、この中では二番目に背の高い私と、一番低い魔理沙……あら?
「何時の話だ。私だって伸びてるぜ」
三分前とか?
こほん。
やや高くなっているのね。
認めてあげるから、八卦炉を向けるのは止めて頂戴。
「んー、咲夜さんの案で考えると、私は妖夢とですね」
「ふむふむって、うどんげさんと同衾!?」
「どう……? ですよね?」
そうなるわね。
あと妖夢、その言葉は咲夜さんどうかと思う。
あ、だけど、華を散らせる気なのであれば、別室で。
「……こほん」
わざとらしい空咳ありがとう、アリス。
だけど、人形は仕舞ってくれて構わないわ。
そも女の子同士なのだから華を散らせると言う表現は、あぁでも出来なくも!
――痛い、痛いわアリス!?
「おい、パチュリー。お前んとこのメイドだろう。何とかしろよ」
「私のメイドじゃないもの。余り参加しないから、テンション上がっちゃってるようね」
「ほー、あの咲夜がね。珍しいな。……アリスさんそのティターニアは何処に仕舞っていたの!?」
な、何故か私には当たりがきついわね、アリス。
「貴女の普段の格好が悪い」
……?
まぁ、いいわ。
ともかく、ペアはそれでいいわね?
「あのー」
ん、と言うことは、私のペアはパチュリー様ですわね。
「そのー」
ふふ、お嬢様に恥をかかせない程度に、メイドの妙技、床で披露させて頂きますわ。
「基本、咲夜さん受け身じゃないですか」
そう言う発言しないの――美鈴っ!
「うけみ……?」
「今の場合、ネコと言う表現が」
「聞くなうどんげ、応えるな妖夢っ!」
「誰をどう責めればいいのかしら。あ、そう言う意味ではなく」
「アリス、その注釈はいらないと思うの。……えぇと、じゃあ咲夜、美鈴はどうするの?」
お仕置きが必要ですわね! 別室で!
「やぶさかではありませんが、パチュリー様が問うているのはそう言うことではないと思います」
美鈴に諭された!?
ぐぬぬ……っ。
すぅーはぁー、すぅーはぁー。
最初に言ったでしょう? 体格差で分けましょう、と。
だから、一番背の高い貴女は誰ともペアを組む必要はないの。わかった?
「デレ期きましたー」
「アリス、今のはツンじゃないの?」
「お前ら頼むから、私に突っ込み役を回さないでくれ」
「破廉恥、破廉恥だぞ、魔理沙!?」
「え、あの、どこが?」
シャラーップ!?
「先ほどから、咲夜さんの声が一番大きいです」
私を黙らせようとするのならその口で塞いで!?
「それはまた別の機会に。
あぁいや、貴女が混乱してどうするんですか。
とりあえず、お話は解りました。良い案だと思います」
……褒めてもいいのよ?
「では私と咲夜さんがペアの一組になりますので、残り三組を皆さんで分けてくださいね」
あん、素敵なご褒美。
……じゃない!?
何をどう聞いていたの!
一番大きな貴女と二番目の私が同じ布団って密着具合が半端ないわよ!?
「私は我慢出来ますよ?
咲夜さんの案、確かに良いものだと思います。
ですが、年長者が我慢するのも、然るべき理かと考えます」
まぁ……私はともかく、貴女は年も一番とっているでしょうね。
「はいな。ですので、咲夜さんさえ宜しければ、と」
……ふん、其処まで言うなら、いいでしょう。
《/咲夜の案》
かくして、一組のペアが出来上がり一組の布団が減った。
残る人数は五名で布団は三組となる。
次に手を挙げたのは、半人半霊。
魂魄妖夢だった。
《妖夢の案》
あー、いや、案と言うよりは要望なんですが……。
「妖夢、布団に入る前には三つ指を突いて、不束者ですが、と」
解っていますアリスさん。
この魂魄妖夢、生娘なれどその手の作法は教本で……。
違います違います、と言うか要望の前提が何故別室行きなのですか!?
「ふふ、妖夢も意外と……」
あぁぁ、否、そも私は別室に行って何をするかも、否、否、ナニってそんな破廉恥でござるぅ!
「あの、アリス、なにか色々とさっきの咲夜と変わらないわよ?」
「先手を打つ辺り、より性質が悪いと思うぜ」
「教本ってなんだろう……」
そのままのうどんげさんでいて。
「……残念だわ。もう少し押せば、『貴女の方が破廉恥よ?』って服装になったでしょうに」
雄っぱいにも負けそうな某の胸を晒しても……。
んぅ、話を戻します。
それと、アリスさんは少し自重してください。
私だけならともかく、魔理沙の気力もどんどこ減っているように見えるので。
「なんか暗い未来が視えた……!」
「魔理沙って意外と良識あるもんねー」
「うどんげ、貴女は主に似るのか従に似るのか」
黒髪和服のうどんげさん……それはそれで大層に素敵です。
「駄目よパチェ、変なスイッチ押しちゃ。
妖夢、脱線しているわ。
話を続けて?」
ありがとうございます、アリスさん。……あれ?
要望と言うのは他でもない、布団のことです。
我儘は承知なので言わせて下さい。
一組、私に使わせて欲しいのです。
「んー……理由を教えて欲しいな、妖夢」
ですから、うどんげさん、我儘です。
「よ・う・む?」
おでこをくっつけてガン見しないで下さい、また狂う!?
そ、そりゃぁ、偶には、誰かと寄り添って寝たいと思わないでもないですよ?
こう言う機会ってそうそうあるものでもないですし……。
ですが、私は半人半霊。
人間の魔理沙は勿論、他の方々も冷たく感じられるかと。
しかも、今の季節は冬です。
折角湯で温めた体を、冷やしてしまうこともないでしょう?
「皆さん、私は妖夢とペアを組みまーす」
決めたのに! 話を聞いて下さいうどんげさん!?
「『誰かと寄り添って寝たい』まで聞いた」
言いましたね! 言いましたけども!
「体温なら大丈夫。
私、人間よりも高いし。
これで問題解決だと思うんだけど?」
うー……兎の体温は四十度ほどと聞いたことはありますが、月の兎も同じ位なのですか。
「それにね、妖夢――兎は、寂しいと死んじゃうんだよ?」
――!
仕りました、うどんげさん!
この魂魄妖夢、冷たき身なれど熱き魂にて友の心を温めましょうぞ!
「間違った俗説よね、とか」
「別に妖夢じゃなくてもよくはないかしら、とか」
「魔理沙さんは、そう言うことには突っ込まないんだぜ」
《/妖夢の案》
かくして、またも一組のペアが出来、一組の布団が減った。
残る人数は三名で、布団は二組。
次に手を挙げたのは、妖怪。
パチュリー・ノーレッジだった。
《パチュリーの案》
ここまで選択肢が減れば、案も減ったくれもないような気がするけど……。
一つ、魔理沙と私。
一つ、アリスと私。
一つ、魔理沙とアリス。
フタリは体格も然して変わらないけれど、厳密に考えるなら、私と魔理沙が妥当かしら……はっ。
(『妖夢ほどじゃないんだろうけど、お前も大概冷たいのな』
『血行が悪いのよ。以前よりはマシになっているはずだけど』
『それでも指先はカチンコチンだぜ?』
『典型的な症例ね。寝れないほどじゃないから、別にいいけど』
『私が困る。しょうがない、暫く揉んでやろう』
『あ……。えと、ちょっと、痛い』
『そんな顔するなよ。……少し、苛めたくなっちゃうぜ』)
――駄目よ魔理沙、そこは違う先っぽよ!?
「うぉ、いきなりどうした、パチュリー?」
な、なんでもない、なんでもないわ!
ともかく、一つ目の案は駄目よ。
駄目ったら駄目なのよ。
こほん。残る二つを検討しましょう。アリスと私……はっ。
(『ふふ、いらっしゃい、七曜魔女さん』
『物凄いオープンガードね、アリス』
『だって私はオフェンスだもの』
『その言い方なら誤解は生まな……アリス?』
『そして、私は七色人形遣い。さぁ、四十九手目を創りだしましょう』)
――違うわアリス、表裏合わせれば既に九十六手存在しているの!?
「パチェ、相撲の話は今必要ないと思うわ」
夜のお相撲、がっぷり四つ。
いや、気にしないで、ごめんなさい。
え、と、アリスと私も駄目ね。私の体力がもたない。いやいや。
うぉっほん! となると、最後の一つ、魔理沙とアリス……。
(『アリス』
『魔理沙』
『ん……』)
――止めてフタリとも、凡そ百歳児が見ているのよ!?
「誰だ百歳児」
「パチェのことじゃないの?」
「いやまぁわかっちゃいるが。……あー、その、混乱してないでだな」
悪魔の思考が私を蝕む……!
「さり気に責任転嫁をするな」
「一理がないとは言えないような」
「うるせぇ話を進めるぞ。パチュリー、お前も手伝え」
……え? 手伝うって、何を?
「布団をくっつけるのよ」
「三名二組なら上等な範囲だろ」
「体格を考慮して、両側を私と魔理沙、真ん中がパチェ」
割と理想的な川の字だわ。
「さぁパチェ、お休みの前にご本を読みましょうね」
わーい。
「それでいいのか百歳児……」
《/パチュリーの案》
かくして、立つ人妖はいなくなり残る布団もなくなった。
結果を見れば、収まるところに収まった、と言うべきか。
今宵の宴は灯りと共に、静かに終わりを迎えようとしていた。
――していた。
「決まった?」
「じゃあ行燈を消しますね」
「ん、お願い。ったく、あんたら無駄に長いのよ」
一同の視線が一点に集まる。
一同とは、人間二名に妖怪四名、加えて半人半霊一名。
一点とは、人間二名、内訳は博麗神社の巫女と守矢神社の風祝。
どの組よりも早く布団に潜り込んでいた、霊夢と早苗のペアだった。
「そも霊夢、お前がちゃんと人数分の布団を出してたら済んでいた話なんだが」
「面倒くさい」
「押入れの場所、教えてくれたら取ってきたのに」
「面倒くさい」
「言い訳すらしないのは、ある意味潔いと思うけどねぇ」
「面倒くさい」
魔理沙と鈴仙、美鈴の対応に、霊夢は一言で乗り切った。
「にしても、結構騒いでたのに、よく霊夢が暴れなかったわね」
「人のことは言えないけれど、アリスも一因なような……」
「それはもう、布団の中で……うふふ」
「は、破廉恥でござる、破廉恥でござるぅううううう!」
「あら、単に耳を塞いでいたんだと思っていたけど、何がどう破廉恥なのかしら?」
だけれど、霊夢と違い、妖夢は言葉に詰まってしまったのだった。
「矛先おかしくないですか!?」
アリスと早苗、咲夜が微笑む。
パチュリーは静観していた。
妖夢、逃げ場なし。
――再び騒がしくなる直前、大きな空咳が場に打たれた。
「んぅ!
いいから、さっさと寝ましょう。
ほらほらあんたら皆、ちゃんと布団に入って」
魔理沙が半眼になり、
アリスが呆れ、
パチュリーが頬を掻き、
鈴仙が笑い、
妖夢が胸を撫で下ろし、
咲夜が肩を竦め、
美鈴が微苦笑を浮かべ、
――そして、誰もがちゃんと布団に入るのだった。
これぞ、鶴の一声ならぬ巫女の一声なり。
「では、行燈を消しますね」
声の後、息を吐く音二つが、静かな場に響く。
一つは早苗が行燈に向けたもの。
もう一つは、霊夢が早苗に向けたもの。
ちらりと覗いた首筋に、ふぅと小さな吐息を当てた。
「――ひゃ!? もう、何をするんですか霊夢さん!」
「何時もやられてばっかりだから、仕返し。へへん」
「では、仕返しの仕返しです、ふぅ!」
「ひぁ、こっの、やったわね!」
「んぅお臍は駄目、です」
わーわーきゃーきゃーもみもみくちゃくちゃ。
「あーもぅ、汗掻いちゃったじゃない」
「もう一度お風呂に入りましょう」
「うん」
笑顔で頷き合う少女二名に――
「……あによ、あんたたち?」
――再び、一同の視線が集まる。
「えーと……とりあえず、行燈を安全な場所に移しましょうか」
「大丈夫よ美鈴。時間を止めて、もう置いてきたから」
美鈴が布団を掴み立ち上がり、咲夜が得物を鷲掴みにする。
「滾る、滾るぞ、燃え上がれ我が魂ぃぃいいい!!」
「関係ないけど半霊ちゃんが若干ピンク色に! えっと、Let's Party♪」
前衛の妖夢が両拳を振りあげ叫び、後衛の鈴仙が二つの得物でお手玉をする。
「パチュリー、危なくなったら、アリスの後ろに行くんだぞ?」
「パチェ、当たりそうになったら、魔理沙を盾にするのよ?」
「え、あ、その、そうならないように、頑張る」
読まれる予定だった魔導書を胸に抱いてコクリと頷くパチュリー、そんな彼女を見て、魔理沙とアリスは空いている手の甲を軽くぶつけ合う。
かくして――
「二対七か。……弾幕戦ならともかく、ちょいときついかしらね」
「大丈夫です霊夢さん。合体した巫女祝の力を信じましょう!」
「うんまぁ布団で二人羽織状態だけど。なんとかなる、かな」
――各々の得物を枕に変え、少女たちの戦は始まったのであった。
<幕>
ありがとう
最高でした! ありがとうございます!
面白かったぜ。
いいぞもっとやれ!