Coolier - 新生・東方創想話ジェネリック

~幻想少女物語~六芒星に想いを乗せて

2010/11/10 17:41:40
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「小悪魔」

「はい、ここに」


静寂なる魔法図書館に鋭い声が飛ぶ。

主の声と、それに答える使い魔の声。

それは実に約201600秒ぶりの音である。


「ホの列。291-10」

「効率の良い休息方法。マヌウス著ですね。少々お待ち下さい」


小悪魔は恭しくお辞儀をし、音をたてないようにパチュリーに背を向けた。

魔法ランプの明かりが、小さな羽に反射し優しく揺れている。

黒に朱色のコントラストが幻想的で、密かにパチュリーはこの色が好きだった。

それを小悪魔も知っているからか、彼女も歩いて去る。

カツカツともスタスタとも音を鳴らさず、小悪魔は本の魔宮へゆっくりと姿を消した。

後ろ姿が見えなくなってから180秒ほど経っただろうか。

小悪魔が去った方向から「ひゃああああ!!」という悲鳴と、大量の本が崩れる音が聞こえてきた。


……またか。


ふぅっと、ため息をひとつ。

パチュリーは栞も挟まずに呼んでいた本を閉じると、約604800秒ぶりに腰を上げた。

もちろん向かう先は、ホの列の棚である。

きっとそこには涙を浮かべた小悪魔がいるだろう。

小さな体と羽を一生懸命振り回して、本の海から這い出ようとしているはずだ。

だってそれは、約604800秒前にもあった事だから。





~幻想少女物語~六芒星に想いを乗せて





パチュリーが向かった先には一本の蝋燭と、それを立てている燭台。

さらに、ぷりんとした可愛い猫さんがいた。


「珍しく柄物なのね」

「パチュリーさまぁ。見てないで助けてくださいよぉ」

「ふむ……悪魔は何日間、本に埋もれていられるのかしら。これはいい題材になりそうね」

「パ、パチュリーさま!?」

「冗談よ」


小悪魔が話すたびに、白地の中にいる猫が右へ左へと振られる。

誘っているのか、そうなのか?

いや多分これは無意識なのだろう。

さすが小悪魔。やることが汚い。存在がずるい。


「っと、いつまでもお尻を見ている場合ではないわね」


むんずという擬音が似合うくらいに、パチュリーは小悪魔の尻尾をつかむと、勢いよく引き抜いた。

この小悪魔と付き合うようになってから、微妙に筋肉が付いた気がする。うれしくないけど。


「こあ……パチュリーさま、ご迷惑をおかけしました」

「別に気にしてないわ」


気にしていない、か。

数年前のパチュリーなら考えもしなかったであろう言葉だ。

むしろ当時なら、小悪魔を助けにすら行かなかっただろう。

精々咲夜を呼んで、処理させる程度だったはずである。

しかしたった数年で"動かない大図書館"の名は、"あまり動かない大図書館"になっていた。

それはきっと、幻想郷い住む破天荒な者達のおかげかもしれない。


「パチュリーさま?」

「ん……何でもないわ。それよりも」

「はい、本はちゃんと確保してございます」


にっこり笑顔で差し出された物。

それはパチュリーが指定した本だった。

転んでもただでは起きないというか、むしろ恐らくは……


「火事がおきて、気がついたら枕をつかんで逃げていた、の原理ね」

「こあぁぁ。その例えはあまり嬉しくないです」


単純に目の前にあった本を掴んだまま、離すのを忘れていただけだろう。

それでも目的は果たしていたのだから、司書としての素質は立派なものだ。


「ん、ありがとう」

「お仕事ですから」

「じゃぁお仕事として、この散らばった本。全て片づけておいてね」

「こあぁぁぁ……」


死刑判決を言い渡し、パチュリーはご機嫌そうに定位置へと戻って行った。

残されたのは所々擦り傷と痣だらけの小悪魔と、約300冊もの散らばった本。

そして……


『この薬草を傷に塗って一日安静にしてなさい』


一通の手紙と薬草の入った袋だけだった。

それを見た小悪魔はしばし瞬き、
涙が溜まった瞼をこすり、スカートの埃をぱぱっと払いのけながら叫んだ。


「パチュリーさま……よぉし、小悪魔二号がんばります!!」

「図書館では静かにしなさいって言ったでしょうロイヤルフレア」

「こああああぁぁぁぁぁあああああ!!」



結局、回復までに三日かかってしまったそうな。





◇ ◇ ◇ ◇ ◇ 





~それは今から一か月前の出来事。



「パチュリー様。ずいぶんと長い間お世話になりました」

「えぇ。ずいぶんと世話をしたわ。覚えてる? 貴方のオシメを変えたのは私なのよ?」

「残念ながら存在していない歴史は覚えていません」

「相変わらず冗談の通じない子ね。面白くないわ」

「パチュリー様の使い魔ですから」


魔法図書館の中央。

そこには大きな六芒星の魔法陣が敷かれていた。

そのさらに中央に、一人の女性が立っている。

小悪魔だ。

紅の霧異変の時よりも大人びているのは、其れ相応の時間が立っているからだ。

小さかった羽は十分に羽ばたけるほどに大きく、紅色の髪の毛も大人の艶を含んでいる。

もう、彼女を少女と呼ぶものは居ないだろう。

小悪魔はすっかり女性へと変化していた。


「小悪魔。最後に言い残したことはある?」


パチュリーが問いかける。

声が震えているが、小悪魔はそれに気づいていないふりをする。

だってそれを言うのは野暮だから。

きっと言ってしまったら、一生心残りが出来てしまうから。


「そうですね……では一つだけ」


だから、小悪魔ははっきりと、堂々と言ってやった。


「すーーっ……まずちゃんと毎日お風呂にはいってください。髪の毛の手入れも忘れずに。トリートメントは洗い流さずに濯ぐだけでいいですからね。次に寝て下さい。いいから寝て下さい。最低6時間は寝て下さい。寝るときにムラムラしたら私の写真を使ってもいいから寝て下さい。というか私の写真をプリントした抱き枕があるのでそれを使って寝て下さい。寝ろ。朝起きたらご飯を食べること。魔法使いには必要ないとかふざけてるんですか? いくら食べてもむしろ食べなくても体系変わらないとか卑怯です。むしろその着やせは卑猥です。ちょっと胸よこしやがれです。あーそうそう、私の事忘れられないように、図書館中に仕掛けを満載しておきましたので、次に来る小悪魔には十分注意するように伝えて下さいね。ついでにパチュリーの下着一セット(使用済み)もらっていきます。あ、忘れてましたけど、衣類もちゃんと洗濯してくださいね。っと洗濯は咲夜さんがしてくれますから規定の場所に置いておけばいいですから。下着も毎日変えて下さい。私が来た時みたいに一カ月も履きっぱなしだと臭いがやばいですから。さすがに私でも無理ですから。あとそれから……」

「何が一つよ、というかドサクサにまぎれて呼び捨て? あと下着返せ」

「こあ~♪ では一つじゃないついでに~」

「まだあるの……?」

「はい、一番大切なことです」

「じゃぁ早く言いなさい。もう時間ないわ」


パチュリーの言葉の通り、小悪魔を乗せた六芒星が淡い光を放っていた。

若干ながら、小悪魔の体も透けてきている。

そう、もうすぐお別れの時間だ。

それは決められていた事。

契約である以上、避けられない運命。


「パチュリー様」

「……」

「26年という短い期間でしたけれど、楽しかったです」

「小悪魔……」

「最初はこんな出不精で不潔な人の使い魔は嫌で嫌で、しょうがなかったです」

「こら」

「でも……」


光が、小悪魔を包み込む。

雪のような粉が小悪魔に触れるたび、どんどん小悪魔が薄くなっていく。

声すらも、ほとんど聞こえなくなる。

だけど、これだけは伝えておきたい。

その想いを、小悪魔は力いっぱい叫んだ。


「私、パチュリー様の使い魔で良かったです! 私は魔界一、いえ幻想郷一の幸せ者でした!!」

「小悪魔ーーーー!!」


全てが終わった後、魔法陣の上には一つの宝石だけ残されていた。

それは賢者の石。

レプリカでもない、正真正銘の伝説の石。

この26年間。小悪魔がずっと胸に抱いていたものだ。

きっとこれには、使い魔としての知識。

司書としての知識。

そしてなによりも、愛する主人への知識が詰まっている。

最後の最後まで、主人へ尽くした一人の悪魔の物語は、ここに終焉を迎えたのである。





◇ ◇ ◇ ◇ ◇ 








迎えた、はずなんだけどね。





「準備完了ね」


パチュリーは使い魔召喚の儀式の準備をしていた。

六芒星の各頂点に、それぞれの属性カードを置いていく。

そして中央には月のカードと、賢者の石を設置。

あとは悪魔召喚の儀式を行えば、新しい使い魔が誕生するだろう。

そしてまた26年後には……

26年。それはこの魔法陣に由来している。

各頂点と接点に1から数値を割り振った時、頂点から直線状への合計がすべて26になるのだ。

だれが決めたわけでもなく、それが真理。

六芒星、賢者の石の真理なのだ。

真理には、誰も逆らえないのである。


「なんて、愚痴っても仕方がないわね」


準備完了したならば、やることはただ一つ。

実行。


「パチュリー・ノーレッジの名において命ず……あーめんどうね。スペカ発動」


ごごごご……なんて地響きもなく、ただ魔法陣が光り輝く。

星屑の煌めきが、賢者の石を取り巻き、中心の暗闇から黒い光を吸収する。

その影が形を成せば召喚終了。

たったこれだけ。時間にして僅か10秒だ。

そこに現れたのは、人間にして大凡10歳くらいの外見の少女だった。


「こんにちは」

「え? え? え?」


どうやら召喚された小悪魔は戸惑っているらしい。

それもそうだろう。なにせ急に景色が変わったのだから。

これから召喚されますよーなんて、本人が準備しているわけではない。

いわば、無理やり連れてきたのだ。

それは戸惑う。誰でも戸惑う。

だから最初は優しく、状況を判断させる必要がある。

だって相手はまだ子供だから。


「初めまして、私の名前は」

「パチュリーさま、何してるんですか?」

「パチュリー・ノーレ……え?」

「あ、フローラルな香りがします。ちゃんとお風呂に入ってるんですね、よかったぁ。で、なんで私ここに? ってうわぁ背が縮んでますよ!?」

「う、うそ……まさか貴方」

「こあぁ、力も全然入りません。これじゃ大玉すら打てないですよって、胸も小さくなってます!?」

「っ! 貴方、胸は元から皆無だったじゃない……」

「そういえばそうでした、ってこあああ!?」


目の前に現れた新しい使い魔。

彼女をパチュリーは力いっぱい抱きしめていた。

目を丸くして成すがままにされていた小悪魔も、ぎゅっと抱きついた。

一か月分のパチュリー分を吸収するように。

これから一生分の小悪魔分を吸収するように。

小悪魔と、その主人は暫く抱き合っていた。


パチュリーの胸に顔を埋めながらも、次第に状況を把握した小悪魔が最初に言った言葉は


「ただいま、戻りましたぁ」


したったらずになっていた。









◇ ◇ ◇ ◇ ◇ 





――後日。魔法図書館にて。



「ところでどうして私が再召喚されたんでしょう?」

「色々要因は考えられるわ。まずレミィ」

「あー……なるほど」

「と言いたいところだけど、そこまでレミィが気のきく吸血鬼とは思えないわ」

「何気に友達とは思えない発言ですねー」

「友達だからこその発言よ。それは置いといて、やっぱり原因は賢者の石ね」


パチュリーが小悪魔の首にかけている石を指差し、言葉を続ける。


「この中に詰まった貴方の知識が。他の悪魔には引き継げないほどの内容だった」

「こあ?」

「知識とは、そのままその人の想いでもあるの。簡単にいったら……」

「つまり、愛の力ですね!!」

「……大体あってるわ」


頭を抱えつつ、パチュリーはうなだれる。

嬉しいような、でもどこか複雑な気分だ。


「でも数億と居る悪魔の中から、それだけで私が選ばれます?」

「恥ずかしいけれど、それだけ貴方の想いが強かったって事。それと、私の想いもね」

「つまりこれは相思相愛!!」

「自惚れるな愚か者め。単純に使い魔として今までで一番便利だっただけよ」

「こあぁ!?」


落ち込む姿も、子供っぽくなっていると可愛い。


「しくしく……」

「いつまで嘘泣きしているの。子供じゃないんだから」

「子供ですよー見た目は……ってそうですよ、なんで子供に戻っちゃってるのですか!?」

「それは、多分……私が適当に召喚したからね。」


パチュリーの脳裏に召喚時の言葉が過る。

『パチュリー・ノーレッジの名において命ず……あーめんどうね。スペカ発動』


「大事な召喚をそんな適当に!?」

「次からは気をつけるわ」

「本当にもう……胸がぺったんこになっちゃった気持ち分かりますか? すごい喪失感です」

「だから元から無いじゃない。万年180度」

「ひどい! 魔力だけじゃなく少しくらいパチュリーさまの胸力も私に支給してくださいよ」

「馬鹿言ってないで、ほら仕事する」

「むぅ……私諦めませんからね!」

「はいはい」


ささーっと一か月分の埃を払う作業に戻っていく小悪魔。

必死に羽を羽ばたかせて、本棚の上の雑巾がけしていく。

やはり子供の体系ではつらいだろうか。

魔術式の簡略化も善し悪しがあるか。

そう呟いたのが聞こえたのだろうか、小悪魔が本棚の上からパチュリーに言った。


「パチュリーさま。次の召喚時も今回と同じ方式でお願いしますね?」

「どうして?」

「だって、召喚されるたびにお肌ぴっちぴちで、ほっぺたぷにぷにに戻れるのですよ? すーーーっごくラッキーじゃないですか!」
「胸はいいの?」

「元から無いですし。今さらですし。パチュリーさまからもらいますし」

「あげないわよ。というよりも、次もまた召喚される保証なんて何処にもないのに」


小悪魔はニコニコと笑いながら返答する。

それはさも当然であるかというように、断定の言葉で。


「保証ならありますよー」


それは、小悪魔という名の通り、小さくても悪魔的に笑っていた。


「私、パチュリーさまの事、大大大大だーいすきですからっ!!」



暗い図書館の中、笑顔に呼応するかのように、賢者の石がきらりと輝いた。







六芒星の知識。


その想いは真っすぐで。


それは賢者の石。


偽物(レプリカ)でなく、本物の想い。


だから真っすぐで。


それはきっと。


紅い一本の線。
レミリアさんは、友達想いの良い人ですね。
我もそんな人になりたいこじろーです。


さて残すところ、あと4作品かーそうなのかー
こじろー
コメント



1.名前が無い程度の能力削除
パチェこあ最高だー!!
2.奇声を発する程度の能力削除
これはマジで素晴らしいパチェこあだー!!
後4作頑張ってください。
3.名前が無い程度の能力削除
不足してたパチュこあ分の補充感謝します!
素っ気ないパチュリー様にラブラブアタック仕掛けるこぁちゃん!
ふぉーぅ!
4.こじろー削除
>1しゃま
あぁ……最高だー!!

>奇声しゃま
残り四作で我も……いや、それはきっと(無音

>3しゃま
こぁこぁ言うこあは可愛くてこぁこぁしちゃいますー!