Coolier - 新生・東方創想話ジェネリック

唄えよ魔が歌、とメイド長は言った

2010/11/10 02:02:50
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 暑い夏の日の夜、紅魔館の地下に紅魔館を動かす主要メンバーが集められた。


 蒸し暑い地下室は折からの経費削減の煽りを受け、クーラーではなく扇風機が二台、低いうなり声を上げて稼動していた。テーブルの上にはざっくり切り分けられたスイカが乗っており、その隣には冷たい麦茶が注がれたコップが置いてある。
 しばしスイカを食べながらの歓談の後、レミリアが前に進み出て、ごほんと咳払いをひとつした。


「はい。それでは今から第61回㈱紅魔館夏の総会を始めます」


 レミリア・スカーレットは木を輪切りにした手作りコースターを、あの縁日でよく売ってる振り回すとニチョニチョと奇っ怪な音が鳴るハンマーで叩いた。ニチョニチョ。紅魔館夏の総会の開始の合図が鳴る。


「はいはいおねーさま。スイカのおかわりないの?」
「早い早い。我慢してすぐ終わるから」
「はいはいお嬢様。これ時間外手当てつきますか?」
「門番同志。これも給料のうちなんですよ」
「はいはいお嬢様、もう上がっていいですか」
「メイド長同志、それはストレートすぎて胸に刺さる」
「刺さるほどないじゃない」
「今なんつった紫モヤシ」
「私からは特にありません!」
「よろしい小悪魔同志。どういうわけかやたら元気がいいですね」
「私からも特にないぜ」
「お前は呼んでないからいいよ」


 毎回恒例の開催への祝辞が終わったところで、レミリアは宣言する。


「ということで、この大会は我が㈱紅魔館の更なる発展と清栄のため、わが社の部下であり社員であり同志である皆様から意見を持ち合い、直すべきところは直し、改めるべきところは改め、よりよい住環境を実現していこうという主旨の下に開催されるものです。議長はこの私、レミリア・スカーレットが務めます。賛成の方はご起立の上、紅魔館館員証を掲げて賛成の意を示してください」


 レミリアが言うと、そこで全員が起立して館員証を眼の高さまで掲げた。
 美鈴が一人だけゲオの会員カードを提示したのが気になったが、顔パスである。っていうかこの白黒はなんで館員証持ってるんだ?


「はい、では着席ー」


 みんなが着席すると、レミリアはこほん、と咳払いして「それでは早速、今日の議題ですが……」と議論の口火を切った。


「最近、皆様の間でこう、同志愛というか、思いやりというか、そういったものが希薄になっている件についてです。主に私への」


 その提言に、円卓に座ったレミリアを除く全員が視線を交錯させた。
 しばしのざわざわの後、まず始めに手を上げたのは美鈴だ。


「はい、門番同志。発言を許可します」
「そんなことないと思いますけど」


 しょっぱなから議論の腰をへし折るその発言にも、レミリアを除く全員がうんうんと頷く。


「そうでしょうか。現に皆様、今しがた私の言うこと全然聞いてくれなかったですよね?」
「そんなことはないと思うわ」
「ちょっと待った。パチェ同志、あなたにまだ発言は許可してません」
「おねーさまの枕カバーって黄ばんでそうだよね」
「ムムッそこもまだ発言を許可してませんよ。っていうか関係ない話しない。っていうか黄ばんでません」
「あー確かに黄ばんでましたね。主にヨダレで」
「こらこらメイド長同志まで。黄ばんでないったら」
「私も最近サッカーの試合でイエローカード見るたびにレミリアの枕カバー思い出すもんな」
「お前は呼んでないから発言しなくていいよ。っていうかそこまで黄ばんでないったら。地味にリアルな話するな」
「そう言えばお嬢様のシーツもなんだか不自然に黄ばんでますよね。たまに門番してると夏風に燦然と翻る世界地図が」
「はいはい静粛に静粛に」


 レミリアはハンマーでコースターをムニョムニョと叩くと、「まったくあなたたちという者は……」と腰に手を当てて溜息を吐いた。


「ほら言ってるそばから私の言うこと、ぜんぜん聞きやしないじゃないですか。いくら総会のときは例外的に上下に関係なく発言してよいとはいえ、毎度毎度この場におけるあなたがたの私への理不尽に無礼講な態度は眼に余ります。私への揺るぎない忠誠心はどこ行ったんですか」


 そう言うと、円卓上の全員が首を捻った。さてさて、一体何処へ、いつの間に落としたものか忠誠心。
 しばしの沈思黙考の末、一番最初に呟いたのは門番同志である。


「いや、まだありますね。忠誠心はちゃんと。落とした記憶がないので」
「ありますか。そう言っていただけると議長冥利です。欲を言えば発揮してくれると嬉しいです」
「そうだぜそうだぜ。この間みんなで焼肉行ったときとかレミリアの話題で持ちきりだったもんな」
「オイいい加減出てけよお前。それよりちょっと待った。私焼肉なんて行ってないんですけど」
「冷麺美味しかったじゃないですか」
「ちょっとメイド長同志。さも私も出席してたかのように同意を求めないで。っていうかなんでみんな私を誘わなかったんですか」
「人間いざ面と向かうと言えないことって多いじゃない」
「えぇ……こいつら一体何を言ってるの……」
「おねーさまのゴミ虫」
「えぇ……全く脈絡無く吐かれた妹の言葉が胸に刺さる……」


 レミリアは「まったくあなたたちと来たら……」と額に滲み出た脂汗を拭う。


「ありのままの事実の開陳は時として人を傷つけることがあるんですよ。っていうか門番同志、焼肉なんていつ行ったんですか」
「おとといの夜ですけど」
「えぇ……意外に最近じゃない……。私その日おへそのゴマとってたんだけど……」
「おねーさまのおへそのゴマってすっごく臭そうだよね」
「コラコラそこまで臭くない。もう何言わせるの妹の癖に」
「わかるわかるへそのゴマってすっごい臭いよな。あと長い時間靴穿いてると出現する足の指の玉も臭いんだぜ」
「お前は呼んでないから発言しなくていいよ。っていうか乙女にあるまじき発言だなオイ」
「私はそんな乙女にあるまじき発言は致しません!」
「よろしい小悪魔同志。突然の乙女宣言に戸惑いましたがその意気や良しですよ」


 さてさて閑話休題、とレミリアは背後のホワイトボードの方を向いた。
 自分で持ってきたダンボール箱に危なっかしい足取りで登ると、ホワイトボードにさらさらと議題を書き始める。
 奇妙にひらがなが多い丸文字に全員がほっこりしだしたとき、レミリアは議題を書き終わって円卓の方に向き直った。


「えーとですね。今回は我がそんなどうしようもないような㈱紅魔館の団結心を高めるため、本日は『㈱紅魔館の歌』を作りたいと思います」


 ホワイトボードには『紅摩館のうた』と書かれている。惜しい。一番難しい漢字が。
 円卓に座った全員が顔を見合わせた。


「歌ですか?」
「その通りですメイド長同志。ハイ物分りのよいメイド長同志に拍手」


 パチパチパチパチ……と全員が拍手をする。短い拍手が納まってから、レミリアは続きを口にする。


「実はですね、今まで㈱紅魔館には驚くべきことに社歌どころか社訓も就業規則もなかったんですね」
「そう言えば就業規則なかったですよね」
「その通りです門番同志。拍手は割愛します」
「違法じゃなかったかしら」
「パチェ同志の今の発言は議長権限によって取り消します」


 ごほん、と今夜何度目かの咳払いをして、「それでですね」とレミリアは続けた。


「考えてみれば、この状態では㈱紅魔館の社員としての自覚どころか、団結心も生まれにくいと思うのです。今までは私のゆるぎないカリスマだけが我が紅魔館の絶対の規則であり、法であり、理念であったわけですが、それがどうも紅霧異変の辺りから緩み始めた感があります。これは私自身のカリスマブレイクの頻発にもよるものと反省しておりますが、どうも一番の理由は紅魔館で暮らすそれぞれの気持ちがバラバラになっていることにも一因があるものと考えられます。ここは綱紀を一新するという意味でも、紅魔館のシンボルとなるものの作成および制定が急がれるわけです。……何か質問ある方は?」


 その言葉は、発言者の意図を残虐なほどに裏切り、まるでちり紙のようにふわふわと各自の頭の上を浮遊しているようだった。
 しばらくの沈黙の後、最初に手を挙げたのは美鈴だった。


「はい、門番同志」
「この間の春大会では紅魔館のシンボルマークを制定したはずですが?」
「あぁ、皆さんの意見を取り入れて作った『うーうー君』ですね。この間ちゃんと著作権申請しておきましたから大丈夫ですよ」
「いえ、そういうんじゃなくて。あのとき取り決められたシンボルマークも今は誰もがその存在を忘れていると思って」
「ちょっと待ったメイド長同志ウソでしょ?」
「あぁアレね。帽子に縫いつけられてキモかったからフェルトペンで執拗に塗り潰しておいたわ」
「ちょっと何を言い出すんですかパチェ同志まで。あなたをそんな常軌を逸した行動に駆り立てた憎悪は一体どこから来たの」
「シンボル決めたのに全然意味を成してないのな」
「外部の人間がそういう会議の腰を折るような発言しちゃダメなの」
「おねーさまのアホ」
「そしてまさかの妹の暴言が胸に刺さる」
「私は決して暴言を吐きません!」
「いいですよ小悪魔同志。あなたの見当違いの元気が今となっては唯一の味方です」


 レミリアはぐっ、と我知らず奥歯を噛み締める。こんなとき、カリスマが発揮できたらいいのに。いつものようにカリスマさえ発揮できたら、咲夜にすらここまで派手にナメられるということもなかっただろう。辛いとき苦しいとき、カリスマはいつでもレミリアの一番の友であり、頼るべき伴侶であったのだ。
 しかし「総会ノ席上二於ケル当主ノカリスマノ行使ハ厳重ニコレヲ禁ズル」というのは紅魔館初代当主より続く定期総会鉄の掟である。まぁ違反しても特に罰則らしい罰則はないのだが、逆らうと初代当主の呪いによって頭蓋骨が破裂するとに伝えられている。会議の席で議長である現当主がカリスマを発揮するということは、つまり総会の絶対の公平性が著しく損なわれるということをも意味するのでそういう戒めがあるらしい。紅魔館をよりよくするためには公平性の担保は絶対の条件だったのだろうが、なかなかどうしてこれが難しいのである。いかなレミリアと言えど頭蓋骨が破裂するのはイヤなので仕方なくカリスマを封印し、先ほどから単なる幼女に徹する他ないのが口惜しいところだった。

 結局、最後は自分の頑張りか。レミリアはふぅ、とため息を吐いてから円卓の全員の顔を見た。


「いいですか、みなさん」


 レミリアはすっと人差し指を立てると、ごほんと強めに咳払いをして、すぅ、と息を深く吸う。


「『必ず手に入れたいものは 誰にも知られたくない』……」


 円卓に座る全員が一体なにが始まるんだと顔を見合わせる。


「『百ある甘そうな話なら 一度は触れてみたいさ』……」


 それでも、レミリアは歌い続ける。顔を紅でなく、朱に染めながら。
 ぼそぼそと、しかし、確実に、歌詞を噛み締めるように。


「『勇気だ愛だと騒ぎ立てずに』……」
「『その気になればいい』……」


 全員が、戸惑いながらも声を合わせ始める。いいぞ、その調子だ。レミリアは少しだけ声を大きくする。
 それにつれて、レミリアの歌にあわせる全員の声も大きくなる。


「『掴んだ拳を使えずに 言葉を失くしてないかい』……」


 バラバラになっていた何かが、確実に集い、集まり、発熱するのが誰の肌にも知覚される。
 いいぞ。やればできるじゃないか。レミリアの思いに呼応するように、全員が立ち上がって、何かに憑かれたように歌い始める。


「『傷つけられたら牙をむけ 自分を失くさぬために』……」


 いいぞ、もっとだ。もっともっと声を張り上げろ。もっと魂を燃やせ。


「今からいっしょに……! これから一緒に!!」


 レミリアが拳を突き上げると、全員もそれに習って拳を振り上げる。
 いまや紅魔館全員+αの気持ちは完全にひとつになっていた。凄い。歌の魔力だ。これぞ紅魔館の真の姿だ。


「殴りに行こうかぁー!! AhーAhー!!! ヤ」
「……とまぁこんな風にですね」
「ズコー」


 レミリア以外の全員がその場にズッコケた。
 

「あら、どうしたんですか皆さん? いまどきズッコケリアクションなんて骨董的ですよ」
「お嬢様! いくらなんでもこの曲でそのボケはキツすぎます! 時止める暇もなくコケちゃいましたよ!」
「そうよそうよ! 全くレミィは天然でそういうことをするんだから! どういう脳ミソしてるのよ!」
「せっかくイイ感じだったのに空気読んでよ! おねーさまのスカタン! 雌ブタ!」
「この歌はサビが重要なんじゃないですか! お嬢様の雌ブタ!」
「まったく何がカリスマだぜ! レミリアの雌ブタ!」
「ちょっと……仮にも主人と姉と親友と悪友に向かって悪口言いすぎよ……っていうか雌ブタって……」
「お嬢様の雌ブタ!」
「おい誰だ今ダメ押しした奴」
「私です小悪魔です!」
「えぇ……何でこういうときも元気なの……その元気怖い……」


 とにかく、とレミリアは咳払いする。もう咳払いしすぎて咽はボロボロだ。カッコウはどんな腰抜けでも咽から血が出るまで鳴く練習をするというが吸血鬼が咽から血が出るまで咳払いするなんてなんかおかしくないか。


「まぁ何はともあれ、たった今各々方自身が実感できたかと思います。歌と言うのはなにかこう、人を団結させ、ひとつの目標に向かってゆかせる力があるのです。この不思議な力を取り入れることができれば、我が紅魔館の団結はより強固で確実なものとなることが予想されます。だからこそ、今ここでみんなが力を合わせ、紅魔館の歌を作成することが重要になってくるわけです。わかっていただけましたでしょうか?」


 全員が顔を見合わせ、なんとなく頷いた。とりあえず、まぁいいでしょう、と言うような反応の仕方だった。全員の気が変わらないうちに、レミリアはコースターをハンマーでニキョニキョと叩いた。紅魔館議決第282662号が無事に採択された瞬間だった。
 ひとまず、カリスマなしで議題をまとめることに成功だ。これだけ濃い面子を前に、レミリアはノーカリスマノークライで乗り切ったのだ。自分に褒美でもひとつ取らせたい気分だったが、それは『紅魔館の歌(仮)』が完成してからにしよう。


「それでは早速、次の議題です」
「歌詞の制定ですね」
「その通りです。相変わらずメイド長同志は奇妙なほどに物分りがよいですね」
「いやぁテレますわ////」
「褒めてません」
「どっちなのよ」
「霊夢いつの間に。魔理沙は?」
「モグモグGOMBO観るんだって帰ったわよ」
「そうなのか」
「そうなの」


 レミリアはちょっと背伸びして、どうにか手が届くホワイトボードの下の方に『紅摩館の歌(仮)』と書き殴る。


「まぁつっけんどんに言うのもアレですが、早速歌詞の制定に入ります。私としてはこう、俺のハートが真っ赤に燃えて、なおかつあまりダークな雰囲気のない、爽やかな歌詞がよいと思います。皆さんから何か意見はありますでしょうか」


 レミリアが言うと、ハイハイ、とやたら元気に手を挙げたのはやはり美鈴だ。


レ「はい門番同志。何か案があるんですか?」
美「最初の歌い出しは『真っ赤に燃える紅魔館~』とかイイですよね」
レ「なんかよさそうに感じるけどそれだと火事っぽくて縁起悪いわね」
咲「なるほど。常にボヤ起こしてるって感じのドタバタさ加減がイイわね。さすが美鈴私の永遠の恋人」
美「いやぁそんなテレますよ咲夜さん皆さんの前で////」
レ「まさかのメイド長同志による援護射撃……あなたの心の琴線の作動条件がわからなくなったわ……っていうかお前らいつからデキてたのよ……」
咲「三年ぐらい前ですけど」
レ「えぇ……主に黙っていながら倦怠期も無事クリアしてるじゃない……なんなのこの図太い従者共……」
フ「おねーさまの塩ブタ」
塩「そして妹の脈絡のない暴言がそろそろ怖い……」


 レミリアは取り合えずホワイトボードに『真っ赤に燃える紅魔館』と書き殴る。


レ「はい、じゃあ次に行きます」
霊「はいはい。『お賽銭ザクザク博麗神社~』とかどうかしら?」
レ「なんで人様の家の歌にストレートな欲望を表現しようとするのよ……」
小「私もお嬢様に賛成です! 第一、紅魔館と博麗神社にはそれほど接点がありませんし、それ以上にお賽銭は一種の宗教行為であり、思想・信条の自由という観点からしても強制されるべきではないと考えることがその理由です!」
レ「心強いけどだんだんウザくなってきた……今夜に限ってなんなのそのハイテンション……」
霊「えー。いいじゃない歌詞に入れるぐらい。レミリアのケチンボ」
パ「そうよそうよ。他ならぬ霊夢の頼みなら聞いたげなさいよ。レミィのケチンボ」
レ「パチェまで……。あんたたちの感性どうなってんのよ……っていうかケチンボって……」


 仕方なくレミリアは『お賽銭ザクザク博麗神社』と書き殴る。


レ「では次」
フ「『もりもり守矢は今日ももりもり』とか入れたら語感的にいいと思うんだけど」
レ「ついに接点すらないところが歌詞に……」
美「なるほどスキャットの要素を入れるということですか。さすが妹様」
レ「えぇ……なんでこういうときだけそういうアクロバットな解釈するのん……憲法9条じゃないんだから……」
咲「なんかお通じにもよさそうですよね。元気いっぱいって感じで」
レ「瀟洒なメイドが瀟洒じゃないことを言い出した……。く、狂ってる……狂ってるよ……」
霊「でもリズム的にはいい感じじゃない?」
パ「そうね。スキャットは悪くないと思うわ。暫定的にでも追加しておけば?」
 

『もりもり守矢は今日ももりもり』という文言がホワイトボードに追加される。


レ「ではそろそろ最後の行ですね。これは結びの句ですので特に慎重に決定したいと思います」
咲「難しいですが、やはり最後は『もいちど行きたい北海道』でいいんじゃないでしょうか」
フ「あ、それいいね。なんか雄大な感じがして」
美「そう言えばこの間行った北海道はよかったですよね。温泉とか」
レ「ちょっとお前たちいつ北海道なんか行ったの? 私行ってないよ」
霊「え? 先月だけど」
レ「えぇ……私先月ピアニカの練習してたんだけど……っていうかなんで霊夢は誘って主を誘わないの……」
パ「人間、傷心したときはひとりになる時間がほしいでしょ?」
レ「えぇ……本当にコイツら何言ってるの……夢なら覚めてくれ……ウオォ……」
フ「でもちゃんとお土産買ってきたじゃない。北海道のおいしい空気をビニール袋に詰めたヤツ」
レ「あまりにも惨めだよそのお土産……貰わん方がよかった……。っていうかゴミだと思ってとっくに捨てちゃったよ……」
霊「ないよりマシじゃない」
レ「……」
咲「では一応歌詞は決定したということで、皆様で一度歌ってみましょうか」


 酷く落ち込んでいるレミリアに代わり、咲夜が促すと全員が起立した。メロディーは暫定的に『君が代』のどんより旋律に合わせることにする。
 咲夜がスッと手を上げ、「いち、にの、さん、はい……」と音頭を取った。


真っ赤に燃える紅魔館
お賽銭ザクザク博麗神社
もりもり守矢は今日ももりもり
もいちど行きたい北海道……


 …………………………。
 ………………。
 ……。


「……いいんじゃない?」


 最初に言葉を発したのは、霊夢だった。その表情は奇妙にうっとりし、眼尻にはうっすら涙すら浮かんでいた。
 ほぅ、とため息を吐くと同時に、円卓の面々が口々に『紅魔館の歌(仮)』の完成を祝い始めた。


咲「いい……このどんよりとしたメロディーと相まって一段と心に染みますわ……」
パ「見えた……北海道の草原どころかロシアのツンドラ地帯まで見えたわ……」
フ「何これ……胸が……胸があったかいよ……」
小「ウオオオ……おいどんの眼から溢れるこれはただの汗ですたい……」
美「なりましたね……心……ひとつに……」
レ「ならねぇよォォォォォォォォ!!!!!!」


 メギョ、という音がして、途端に猛烈な殺気が部屋の空気を圧した。
 円卓に座った全員がぎょっと殺気の出所を見ると、髪の毛を逆立て、牙を剥き、わなわなと怒りに震えてホワイトボードを四つ折に折り畳む吸血鬼、レミリア・スカーレットの姿があった。


「ウォォォアァァァー貴様らァァァ!! さっきから黙って聞いてればナメ腐りやがって!! 扱いといい焼肉といい北海道旅行といいこの歌詞といい!! 貴様らドドドドド下僕の分際でどれだけ私をコケにすりゃ気が済むんだ! 大体なんだこの歌は! 幻想郷名所案内の歌かなんかですかァァァァ!!!」


 毛穴という毛穴から殺気と怒気を噴出させ、両目からは血の涙を噴出させながら、レミリアは文字通り鬼神の顔で円卓の面々を睨みつける。そのあまりの形相と迫力に、従者や妹はおろか博麗の巫女でさえ恐怖に竦んで動けなくなる。紅魔館の地下から発した猛烈な瘴気の渦は幻想郷の大地そのものをも打ち震わせ、やがてその周りを取り囲む結界をも圧倒的な力でたわませ始めた。


「ようわかったわ……! 綱紀の粛正などムダだった! 貴様らに忠誠心や思いやりを求めた私の方がバカチンコだったのだ!! もういい、紅魔館の歌なんて作らん!! 貴様らで勝手にもりもり歌っていればいいだろ!! もう知らない知らない!!! みんなみんな嫌いだ!! 主を大切にしない従者なんて大っ嫌いだ!!!」


 絶叫が終わった途端、幻想郷を歪ませていた殺気の奔流が唐突に治まった。それでもしばらくの間、円卓にいた面々は凍りついたように動けずにいた。プイ、と顔を背けて床に座り込んだレミリアは、それから肩を震わせてしくしくと泣き始めた。

 なんだこの状況。
 
 いつでも尊大で、傲慢で、わがままの限りを尽くしていたレミリア・スカーレットが、今は小さく震えながら洟を啜り上げているではないか。

 出し抜けに訪れた沈黙に、氷漬けにされていた頭が回転を再開する。
 それと同時に、円卓に座っていた各々はゆっくりと今までの話を反芻し始めた。あぁ、自分たちは何をやっていたんだろう。焼肉も北海道旅行も、誘わなかったのはレミリアへの意地悪ではなかった。夏の総会を前にしてあれこれ思い悩んでいる様子のレミリアの負担を増やしたくなかったのだ。まぁ確かにハブってもいいかなと思ったフシはあるけど、それが却ってレミリアを傷つけることになってしまうとは……。
 自分たちはレミリア・スカーレットという吸血鬼を遠巻きにしすぎたのだ……。目の前で侘しく丸まったレミリアの背中は、そんな反省を一同に覚えさせた。いかな紅魔館の当主であろうと、比類なき力を有した吸血鬼であろうと、目の前の背中はまだこんなにも小さかったのに……。


 まんじりともしない空気が流れ始めたときだった。不意に、咲夜がレミリアに近寄り、ポン、と肩を叩いた。


「お嬢様?」
「ふん、今更そんな声出したところで無駄だぞ。レミリアは怒っちゃったんだぞ」
「お嬢様、お嬢様」
「ふん、しつこいわ」
「おーじょうさまぁー」
「ふんだ。ふんふーんだ。咲夜なんて大っ嫌いだ。ぷんすかぷんぷん」
「怒んなよ」
「やっ、やめろ……! 鼻を摘むな……! ちーんとかいらない……マジいらないから……!」
「ならこっち向いてください。でなきゃ鼻に指突っ込みますよ」
「あ……やぁ、太いの入ってくるぅ……! ……フガ、フフガフガフガ。わかったわかった、向くから向くから。そっち向けばいいんだろう、もう」


 レミリアが血と汗と涙と鼻水で汚れきった顔で振り向くと、そこには聖母の微笑みと共に、一冊のノートを手に持った咲夜がいた。
 咲夜がたった今、時を止めて取ってきたのだろうか。このボロボロに擦り切れたノートは……? レミリアが回答を求めるように咲夜の顔を見ると、返事の変わりに咲夜はにっこりと笑う。


「これはお嬢様がまだ小さかった頃、とても大切にされていたノートですわ」
「えっ? なっ、なんでそんなものを咲夜が持ってるんだ?」


 うまく乗せられているとわかっていても、レミリアは聞かずにはおれなかった。こんなノートの存在、レミリア自身覚えていない。
 その問いに、咲夜はさらに笑みを深くする。


「私が管理していたわけじゃありません。これは美鈴がゴミ箱に入っていたのを拾い上げて以来、数百年間もパチュリー様と小悪魔が図書館で保存なさっていたんです」
「何だと……?」


 レミリアは美鈴からパチュリー、小悪魔へと視線を移動させる。美鈴は困ったように笑って鼻の頭を掻き、パチュリーは気恥ずかしそうにそっぽを向いてしまう。小悪魔はと言うと、主に黙って差し出がましいことをしていた負い目があるのか、不安げに視線を泳がせている。


「これはずうっと昔、お嬢様が宝物と呼んでいたものだそうです。これには紅魔館とお嬢様、数百年分の歴史が書き溜められているんですよ。実はお嬢様が紅魔館の歌を作ろうと言い出したとき、このノートのことを話題にしようと、事前に皆様で申し合わせていたんですの」
「えっ、なっ、なんで? 総会の議題は事前には秘密なはずで……」
「あんなに寝言で言われれば気がつきますわ……もっとも、発案者は妹様ですけどね」


 ぼんっ、と顔が熱くなった。そんな寝言してたのか。それより驚いたのは皆の行動だ。こんな餓鬼の落書きにも劣るノートを、わざわざゴミ箱から取り上げて保管していたというのか。なおかつ、一切本人が知らないところでこれを紅魔館の歌として採用しようとしていたのか……。
 レミリアは困ってしまって、助けを求めるようにフランに視線を移した。しかしそのフランはさっきまでの元気を失って、俯いてしょんぼりしている。それはまるで、姉に対して重ねた意地悪を後悔しているかのようで――。


「お嬢様。私たちの願いは、これからもずっとこの紅魔館でお嬢様にお仕えすることなんです。紅魔館も私たちも、お嬢様があってこその存在なんです。紅魔館の歌を作るとして、これ以上の草稿がありまして?」


 咲夜が浮かべる慈母の微笑み。それはまるで、傷つき、ボロボロのかさぶたの固まりになったレミリアの心を綺麗に洗い流していくようだった。
 レミリアは新たな涙が吹き出るのを感じた。それはかさぶたの塊となった心を洗い流して、レミリアの胸を暖かに満たしてゆく。


「咲夜……みんな……! うわぁぁぁぁん!!」


 思わず、レミリアは咲夜の胸に飛び込んで泣いた。
 涙腺が壊れてしまったかのようだった。わんわん泣いて、泣いて、今まで感じていた寂しさと疎外感が涙で流れるまで、泣いた。
 それを咲夜はそっと包み込み、レミリアの涙が枯れて心のもやもやが流れ切るまで、ずっと背中をさすってくれていた。


 レミリアの涙は、なかなか止まらなかった。霊夢が『冒険! CHEERS!!』を観るといって帰っても、紅魔館から嗚咽が途切れることはなかった。





 そして、その日の夜。永遠に続くかと思われた夜が終わり、幻想郷に朝日が昇る頃。
 『紅魔館の歌』はついに完成した――。





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「ふんふん~……ふんふんふ~ん……」

 紅魔館が一望できるテラスでケーキをつついていたレミリアは、いつになく上機嫌で鼻歌を歌っているた。いわゆる「最高にハイ」ってやつだ。日の光を知らない青白い肌も、帽子を彩る真紅のリボンも、今日はなんだかいつもよりハリを増して見えた。


「ご機嫌なようですね、お嬢様?」


 と、そのときだった。突然隣で声が発し、レミリアは我に返った。見ると、咲夜が忽然と隣に現れて紅茶を注いでいるではないか。
 思わず椅子から転げ落ちそうになったレミリアは、慌てて鼻歌を歌っていた口を手で隠した。


「さっ、咲夜! うっ、うるさいな。鼻歌ぐらいいいだろ、ほっとけ」


 レミリアの抗議も、瀟洒なメイドは唇を持ち上げるだけの微笑であしらってしまう。やれやれ、いくら吸血鬼と言えど、自分の半分も生きていない人間に敵わんとは。妙な諦念を覚えてみたものの、いつもの常で悔しいという感情は沸いてこない。丸くなったものだ、と、レミリアは心の中で苦笑した。

 咲夜が淹れる紅茶の香りが鼻をくすぐった。今日の紅茶は深い飴色の輝きを湛えている。口をつけてみると、ちゃんと紅茶の香りがした。どうも普通の茶のようだ。舌先に妙なしびれもない。咲夜が淹れるにしては珍しいな……とレミリアが液面に視線を落とすと、それを察したかのように「今日は普通の紅茶ですわ」と咲夜が言う。


「少しよい茶っ葉が入りまして。お気に召しましたでしょうか?」
「ん、なかなか良いよ。里でもこんな上等なものが手に入るのか」
「いえ、それは霊夢が持ってきてくれたんですよ」


 その発言に、レミリアは口に持って行きかけたカップの存在を刹那忘れた。
「霊夢が……?」と鸚鵡返しに利き返すと、「歌の完成のお祝いだそうです」という返答が帰ってきた。


 あの貧乏巫女め、家計は火の車の癖にムリをする……。根本的に経済基盤が違いすぎる紅魔館に対して、そこの我侭な主人が満足する紅茶を買ってくるとなれば相応の苦労が必要であろう。まぁ霊夢のことだから香霖堂から強奪してきたという可能性もないではないのだが、何はともあれ殊勝な心がけと言えた。文句は言わずに堪能させてもらうことにしよう。
 紅茶を舌の上で転がしていると、咲夜が「そういえば……」と顎に人差し指をやって考え込む顔つきになった。


「どういうわけか、最近霊夢の様子がおかしいんですの。紅魔館に来ても落ち着きがないし、それが弾幕勝負の途中でもですよ? 私が鼻歌を歌ったりすると簡単に負けてしまって……この紅茶もさっき、これあげるから勝負中にその鼻歌はやめてちょうだいって……」
「おや、そうなの? 道理で最近見ないと思ったわ」
「弾幕に負けなくなったのはいいんですが……それにしても一体どうしてでしょうねぇ」
「……紅魔館の歌の魔力かも知れんな」


 それ以外、気の効いた回答が思いつくものでもない。レミリアがなかば思いつきで回答してみても、咲夜もそれ以上は追求する気がないのか、「どうなんでしょう?」と首をひねってしまった。


 そのときだった。ズズン……という地鳴りのような音と共に紅魔館全体が揺れ、レミリアは顔を上げた。
 おや、もうそんな時間か。レミリアはもう慣れっこになってしまった振動に、壁にかかっている時計を仰ぎ見る。いつもの時間に、あの白黒が本を強奪しようと押し入ってきたらしい。毎度毎度飽きない奴だ。レミリアはカップを傾けつつ、ちらと外に目をやる。激しい土煙を七色の光弾が切り裂き、対空砲火のように一条の光となって空へ消えてゆく。


「美鈴も律儀な奴ね。人間の魔法使いぐらい顔パスにしてもいいのにねぇ」
「いえ、普段はあちらから挑んでこない限りは顔パスにしていますわ」
「ほほう、にしても今日は大分派手にやってるみたいだけど」
「それなんですがねぇ……」


 そこで咲夜は苦笑する。レミリアが怪訝な表情をすると、咲夜はフンフンと鼻歌を歌いだした。先方、レミリアが歌っていたのと同じ旋律だった。


「なんだかこの間から、やたらと美鈴がやる気になってるんですよ。居眠りもしませんし。この歌のおかげですわ」
「なんと」
「それだけじゃありません。めったに外に出ないパチュリー様や小悪魔、妹様までが門の前に並んで魔理沙を追い返すんですの」
「本当か、それ」
「おかげでここ一週間、魔理沙には一冊の本も奪われてないんだとか。ああなるとかえって魔理沙が気の毒でしてねぇ……」


 その瞬間だった。うおーっ! という悲鳴にも似た声が上がり、魔理沙の小柄が空中へ放り出されるのが見えた。門番と+αたちの歓声が響き渡ると、哀れ魔理沙は綺麗な放物線を描いて湖に落水する。門の正面に位置するこのテラスから見える四人は、えいえいおーなどと言って拳を天に突き上げている。


 と……そのとき。おそらく美鈴のものと思われる声が朗々と響き渡り、すぐにフランも同じように歌い始めた。ややあって、パチュリーや小悪魔の控えめな声もそれに重なり、やがてひとつのメロディーとなって紅魔館の広い庭に轟き始めた。
 今しがた咲夜が口ずさんだ鼻歌と同じ旋律。やけに調子っぱずれで歌う声はドラ声だったけれど、やたらと元気だけはいいその歌声。それは唸る億万の蝉の声にもかき消されることなく、砂漠に垂らした水滴のように幻想郷の夏に染み込んで行った。
 それにしばし耳を傾けていた咲夜は、やがて「ね?」と言うように小首を傾げて見せた。


「あの歌をもっと早く完成させていれば、紅霧異変も完遂できていたかも知れませんわ」
「……奴らのために今度は音楽家でも雇うことにするかな」 


 思わず苦笑してしまうと、咲夜も同じように笑う。
 主人と従者。数百年単位で重ねてきた時間が違う者同士が、こうして何の腹蔵もなく笑い合う。それだけでも『紅魔館の歌』を作った甲斐があると思えて、レミリアは止まらない笑いをしばしの間そのままにしていた。


「あ、そうそう。お嬢様」
「なんだ?」
「あのノートの件ですが、一体いつお書きになっていたんですか?」
「あぁ、そのことか……」


 レミリアは苦笑しつつ、「よくは覚えてないんだがな……」と頭を掻いた。


「私にもあんな時代があったんだなと、読み返してみて思ったよ。やれやれ、尻が青かった時代のことなんて忘れたいものね……」
「ダメですよ。アレは紅魔館そのものの歴史だと申し上げましたでしょう。あの時代があったから、今も昔もレミリア・スカーレットはレミリア・スカーレットなんですから」
「そうか……そういうものかな」
「そうですわ、きっと」


 レミリアはテーブルの上に乗っているノートを手に取ってみる。破れ、汚れ、そのたびに何度も何度も丁寧に補修された跡がある。
 お世辞にも見栄えがいいとはいえないノートは、紅魔館の人妖たちが紡いいでくれたレミリアの歴史そのものだった。ボロボロのノートが今日はなんだか輝いて見えた。


 レミリアは空になったカップをソーサーに戻しつつ、ページを広げてみた。罫線に沿ってびっしりと、細かい字で何か書かれている。
 今の自分とは違う、幼くて拙い文章。なんだか照れくさいような気持ちを噛み締めながら、紅魔館の歌の元になった部分を声に出して読んでみた。













『8beat☆Love(紅魔館唱歌)』

ドキドキ☆ ドキドキ☆
聞こえているでしょ? 私の鼓動
あなたの隣で 奏でるビート
いつかあなたと 愛のセッション☆
(大チュキ★)

















どうしても捨て切れない奴を再掲です。タイトルはジェイスン・タヴァナーとは何の関係もありませんが背景色と文字色は関係があります。
スポポ
コメント



1.名前が無い程度の能力削除
いい加減に作品を出して消してを繰り返すの止めませんか?
2.奇声を発する程度の能力削除
>塩「そして妹の脈絡のない暴言がそろそろ怖い……」
塩?
夜中に盛大に笑ったwww
3.名前が無い程度の能力削除
再掲なら再掲と書け
時間を無駄にした
4.名前が無い程度の能力削除
どこかで読んだとおもったら
5.名前が無い程度の能力削除
ディックの「「流れよ、我が涙」と警官は言った」ですか
エリスンの「「悔い改めよ!ハーレクイン!」とチックタックマンは言った」というのもありましたね

60~70年代の内外SFや日本の特撮など~80年代のSF映画や日本マンガやアニメ(竹本泉先生とか)やゲーム~90年代以降のエヴァや東方project
そんな黒歴史の流れがあるという(笑)