Coolier - 新生・東方創想話ジェネリック

小さい秋、こっそり――

2010/10/28 03:11:18
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 爽やかな秋晴れの下で、霊夢はくつろいでいた。
 縁側に腰掛けて、熱いお茶をすする。外気の涼しさと体内からの温かさが、のんびりと鬩ぎ合う。
 体の芯からじわじわと、広がるような、広がらないような、そんな曖昧な心地を楽しんでいた。

 さて、午後は何をしようか。最近は妖怪退治の依頼は無いし、お札の予備も十分にある。庭の掃除も終わらせた。
 本格的に、やることがない。
 でも、まあいいか。 どうせ参拝客も来ないだろうし、心ゆくまでこの平和を享受するとしようか。お茶と共に。

 霊夢は庭で駆けまわっている落ち葉を意識から外し、ぼんやりと空を見上げた。

 ……はぁ。

 やっぱり見上げなかった。


「秋ですよー」
「秋でしゅよー」
「は、春はまだですよー?」


 季節を間違えた妖精が、何やらちびっこいの二人を引き連れてやって来たようだ。


「平和って、いいわよね。……平和」


 どこまでも突き抜ける空は、憎々しいほど爽やかだった。





○○○○○





「秋ですよー」
「秋でしゅよー」
「れ、霊夢さん。無視しないで下さいよー」


 座った霊夢の両横に立ち、くいくいと袖を引っ張るちび達。くりくりの目できらめく視線を発しながら、秋、秋と騒いでいる。
 霊夢はひょいと帽子を取り上げて、自分の頭にかぶせる。


「ぼーし、とるなー!」


 帽子をとられた、少し小さい方の子が、霊夢の頭に手を伸ばす。しかし必死に背伸びをしても、あと少し届かない。


「むー」


 霊夢は可愛らしい抗議を無視して、二人の頭をくしゃくしゃと撫でまわした。

 紅葉の髪飾りの子は、くすぐったそうに、しかし静かに撫でられている。
 一方帽子をとられた方は、撫でる手を掴んではしゃぎだした。


「霊夢さんて、意外と可愛らし――」


 ゴツン。


「それで、これはどういう状況なわけ?」
「しっかり聞こえてるじゃないですか……」


 涙目でうずくまっているリリーに、髪飾りの子が駆け寄る。 


「りりー、だいじょぶ? いたいのいたいの、飛んでけー」
「とんでけー」


 先に駆け寄った子は、とんでけー、と少し心配そうに瞳を揺らす。
 真似してる方は、よく分かっていないようだ。


「ありがとー。いたいの飛んでっちゃったよー」


 そんな二人を心配させまい、と、リリーはぴょんと飛び起きて、人差し指を自分の両頬にあててにっこりと笑ってみせる。 

 ついさっき飛んでいった痛いのは、霊夢の視線に乗って帰って来た。






○○○○○





「それで?」


 こほん、と仕切りなおして霊夢が問い直す。
 リリーは若干頬を赤らめつつ、記憶を呼び戻した。


「実は、私もよく分からないんですよ。洞窟で春になるまで眠っていたところを、突然この子達に起こされたんです。それで、とりあえずここに……」
「とりあえずで来るな……今回は許すけど」


 むしろ褒めて遣わす。
 ……と、それはいいとして。

 霊夢は、改めてちびっこ二人をよく確認してみる。
 前に一度会っただけだが、やはり見間違いようもない。以前と全く同じ、サイズだけが小さくなっている服装。
 中身は……この子達が、あんな可愛げのないのになってしまうのか……。

 結構失礼なことを考える。


「ええと、あんた達。秋姉妹よね?」
「うん!」


 葡萄の飾りの赤い帽子を返してもらった童女が、元気いっぱいに答えた。 
 しかし、もう一人の子に怒られる。


「こら、穣子。ちゃんとご挨拶するの!」
「ご、ごめんなしゃい」

「はじめまして、秋静葉です。よろしくおねがいします」
「あ、秋穣子です! よろしくおねがいしましゅ!」


 小さなお姉ちゃんは、ぺこり、と行儀よくお辞儀をする。
 その姿に倣って妹も頭を下げるが、勢いよく下げ過ぎて帽子が落ちてしまった。


「ああ、うん。ご丁寧にどうも。私は博麗霊夢よ。……初めましてじゃないけどね」


 ほれ、と帽子を拾ってあげると、穣子は嬉しそうにかぶりなおした。


「ありがとー。……れーむ?」
「れ、い、む」
「……れ、え、む?」


 む? と、ちょこんと可愛らしく首を傾げる妹。
 そこに姉が入ってくる。


「まったく、穣子ったら。しょーがないなぁ」
 
 
 ちょっと得意げに、腰に両手をあてている。


「ほう。じゃあ、あんたも言ってみなさい」
「うん!……れいむ!」

「ほほう。……れいむ、れいむ、れいむ、れいむ」
「れいむ、れいむ、れえむ、れーむ」


 れいむ、れいむ、と一生懸命に唱える静葉。
 両手をわきわきとさせて、それを眺める霊夢。


「霊夢さん……よだれ」


 リリーは呆れ顔で指摘しつつも、ちゃっかりと穣子を確保している。
 いつの間にか膝の上に乗せられていた穣子は、退屈そうに足を揺らしていた。





○○○○○





「ねーねー、りりー」
「なあに、穣子ちゃん?」


 穣子はリリーの膝から下りて、えい、と両手を打ち合わせる。それから、袖の中を探りだした。


「みてて……お芋!」


 ちっちゃなおててが握るのは、赤紫色の大きなさつまいも。
 はい、とリリーに手渡す。

 一方静葉は、しきりに感心するリリーを見つめてから、ちょっとほっぺを膨らませて霊夢の服を引っ張った。


「れーむさん、私も……もみじ!」


 同じく、えい、と手を打って離すと、掌の間から真っ赤な楓の葉が一枚、ひらりと舞い落ちる。


「へー、あんた達すごいわね。どっから出したの?」
「えっへん。神様だもん」


 静葉がもう一回手を叩くと、今度は黄色いイチョウの葉が現れた。
 霊夢はそれらを拾ってしげしげと眺めた後、自然な仕草で自分の髪に飾りつけた。


「よし、じゃあ私も……」


 それからそう言って、霊夢は脇のあたりを探りだす。
 いつの間にか薩摩芋に埋もれていた二人も、霊夢に注目する。


「えーい、芋羊羹! おまけに……もみじまんじゅう!」
「れーむさん、すごーい!」
「おいしそー!」
「それこそ何処から出したんですか……」

「えっへん。私、巫女だもん」


 そう言って、霊夢は偉そうに胸を反らした。


「……もん、とかちょっと無――」
「りりー、だいじょ――むぎゅっ」


 またしても涙目のリリーに駆け寄ろうとするお姉ちゃんを、霊夢は抱きとめる。
 

「で、あんたは何かだせないの?」


 案外あっさりと立ち直ったリリーは、対抗して妹を抱きしめながら、しばし思案した。 


「えーと……は、春度!」
「それはまだ、しまっときなさい」


 すぐさま霊夢につっこまれて、何処か満足そうな顔で花びらを消し去る。
 それから、ふと思いついた事を口にした。


「そうだ、霊夢さん。焼き芋をしませんか?」
「やきいも?」


 霊夢より早く、穣子が真っ先に反応した。


「そうです、焼き芋。せっかくこんなにお芋がありますし」


 実は私、食べた事が無いんですよー。と、当然と言えば当然なことを呟く。
 霊夢は、リリーの隣に築かれた薩摩芋の山を眺めてから頷いた。


「いいわね。だったらあんた達、そこら辺の落ち葉を集めて頂戴」
『はーい!』
「あれ、霊夢さんは?」


 乗り気な二人に背を向けて、霊夢部屋の中へと向かってゆく。


「火の準備よ」


 道具はそこね。と庭の隅を指し示す。


「よーし、じゃあ集めるよー」
『おー!』


 ちっちゃな握りこぶしを突き上げてから、庭に降り立った二匹は落ち葉を追いかけ始めた。 


「あれ? 実質、私一人ですか?」


 きゃっきゃ、と駆けまわる二人。
 くすっ、と一つ笑みを零し、リリーは庭の隅に転がっている竹ぼうきを手に取った。





○○○○○





「では、私はそろそろ帰りますね」


 お腹いっぱいになって落ち葉も燃え尽きたころに、リリーは切りだした。
 もうだいぶ日が傾き、太陽は山に触れはじめている。


「ん……そうね。二人はどうするの?」
「おとまり!」
「れーむさん、お泊りしていい?」


 拒否なんて想定していない、期待を込めた瞳が向けられる。


「いいわよ」
「……即答ですか」
「当たり前じゃない。リリー、あんたも泊まってく?」
「いえ、せっかくですけど……レティが寂しがるので」


 もう、しょうがない子なんですよ。と嬉しそうに呟く。


「……え? どゆこと?」
「では、春にまた……」


 霊夢の疑問には答えず、最後に笑顔を残して春告精は夕焼けの向こう消えていった。


「れーむさん、はやくー」
「はやくー」

 
 うーん。まあ、いいか。


「よーし、まずはお風呂に入るわよ!」
「わーい!」
「おふろ!」


 霊夢は、部屋の中へと二人を追ってゆく。

 赤い空は山の向こうに消えてゆき、透き通る闇の中に黄色い月が浮かんでいる。 
 乾いた秋の風が、落ち葉のほかにも何かを運んできた。


――ですよー。


 博麗神社のお風呂からは、いつまでもはしゃぎ声が響いていた。





おしまい
読んで頂きありがとうございました。


追記:2010/11/1

・奇声を発する程度の能力 様
 3 様
 6 様
ありがとうございます。
なんだか小さい子を書きたくなったのです。そんで、せっかく秋なんだし……。


・名無し 様
 4 様
 5 様
 7 様
実は(?)続編は全く考えていなかったのですが、急遽執筆を始めました。
ちょいと時間がかかるかもしれませんが、待っていて頂けると嬉しいです。
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コメント



1.奇声を発する程度の能力削除
幼い秋姉妹も良いものだ!
2.名無し削除
レティについて詳しく
3.名前が無い程度の能力削除
これは信仰するしかないな
4.名前が無い程度の能力削除
レティさんについて超詳しく
5.名前が無い程度の能力削除
やはり小さい子の破壊力は段違い……
レティさんについての続編を期待しています
6.名前が無い程度の能力削除
幼い秋姉妹だと…!?
グッジョブb
7.名前が無い程度の能力削除
リリー×レティフラグか!