Coolier - 新生・東方創想話ジェネリック

日記2

2010/08/04 13:47:00
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彼女の仕事は多岐にわたる。

お嬢様の世話、掃除、洗濯、食事。妹様との戯れ、果てや深夜、メイドが寝静まった時間の館内の見回りなどである。お嬢様は基本的には夜行性なので、見回りの時間にばったり廊下で出会うことはあるが、それ以外は館内で人を見かけることはほとんど無い。見かけたとしても寝ぼけてトイレに起きたメイド妖精か、明日の朝ごはん当番となって仕込みに追われている妖精かのどちらかである。

紅魔館に入り込む輩は若干歪んだ思考の持ち主ばかりらしく、白昼堂々と正門から門番をなぎ倒してやってくる。「入り込む」と言うよりも「強行突破」なんて四字熟語が似合う強盗のような連中ばかりだ。

で、あるからして、咲夜自身「夜の見回り必要なくね」と思いつつあった。

だが、万が一、夜に忍び込む輩もいるやもしれない。そんな思考も払拭することが出来ず、咲夜は今日も蝋台を片手に深夜、紅魔館を見回っているのである。

―終わったら暖かいスープでも飲みましょうかねぇ・・・・確か夕食のあまりのコーンクリームがあったはず・・・・あれに牛乳を足して温めて飲もう・・・―と、職務が終わった後の安らぎのひと時を想像して内心ホクホクと暖かい気分になっていた咲夜の視線の先に・・・・・人影がチラついた。

あの方向は図書館・・・。パチュリー様にしては体格が大きかった気がする。だが、咲夜は「侵入者は生きて帰さん!」と走り出すことなく、ゆっくりと人影が消えた図書館へと歩きながら頭をひねる。あれは誰だっただろうか・・・・どっかで見た気がする・・・・。と考え込むこと9秒。咲夜は図書館のわずかに開いた両開きのドアから図書館の中へと入る。

そこには先ほど咲夜が目撃した人影の正体が、本棚に体を隠してパチュリーの様子を伺っている最中であった。

「こぁ、なにしてるの?」背後から声をかけられた小悪魔は背中の羽をビクッと強張らせて緊張した面持ちでゆっくりと振り返った。
「な、なんだ・・・咲夜さんですか・・・」と咲夜の姿を確認した小悪魔がホッとした表情でため息をつく。
「また本?熱心ね・・・」と咲夜が小悪魔の片手に持たれた本を見て言う。
「あ、いや・・・え、えぇ、そうなんです!熱心なんです!」と慌てて頷く小悪魔に、咲夜が頷き返す。
「確かに、こんなきつい職場じゃ本が趣味じゃなきゃやってけないわよね」と咲夜がウンウンと頷いて、本棚のスキマからコックリコックリと船を漕いでいるパチュリーを見る。

「えぇと、咲夜さんからそんなセリフが飛び出すなんてビックリです」と小悪魔。
「そりゃあ人間ですもの。辛い時もあるわ」
「私は悪魔ですけど・・・」
「生き物はみんなつらいときがあるのよ」
「は、はぁ、そんなもんですか・・・」と小悪魔が答えると、咲夜が満足げに頷く。
「そんなもんなのよ」とそこまで言って、咲夜が再び小悪魔の片手に持たれた本を見つめる。
「そういえば、こぁって、どんな本読んでるの?」
「え!?いや!!その、咲夜さんが読んでも面白くないと言うかなんと言うか・・・・!」と慌てる小悪魔を見て、咲夜の口元が意地悪く歪む。
「へぇ~?何?恥ずかしいものなの?見せられないものなの?」と咲夜が小悪魔から本を奪おうとするが小悪魔は「いやです!いやです!」と後ずさり。パチュリーは頬杖を付いて更に眠気の狭間へと・・・。
「ちょっと、見せなさいよ!」と咲夜。
「いーやーでーすー」と小悪魔、涙目。
「そう、あなたがその気なら・・・」



次の瞬間には本は咲夜の手の中にあった。
「時を、時を止めましたねぇ・・・!?」と小悪魔が言って、本の表紙を見つめる咲夜を見つめる。
「能力は使うためにあるのよ」と咲夜が言いつつ、本を裏返したり、背表紙を見たりと忙しく観察する。
「へぇ・・・・日記ねえ・・・・」と咲夜。
「もう十分ですよね!?返してくださいいいい・・・・」と小悪魔が咲夜にすがりつくが、咲夜は未だに本を離そうとはせずに、それどころか、おもむろに本を開いた。



八月二十八日 金曜日 恐らく雨。


今日もレミィがお茶に来た。雨だから具合が悪いみたい・・・。吸血鬼が流れる水に弱いって言うのは事実だけれど、レミィほど力の強い吸血鬼が天候一つであそこまで弱体化するっていうのは少し面白いわね。今度、流しそうめん大会でもやろうかしら・・・・。

それはそうと、レミィが今日は珍しくワンピースを着ていたわ。白い下着みたいに薄いワンピース。服が雨のせいで乾かなくてそれしかなかったみたい。「咲夜にだけは見られたくない」って言って咲夜が図書館に現れるたびに隠れていたわね・・・。




「うおおおおおおおおお!!!!!!!」咲夜が吼えた。それはもう絶叫に近い声で吼えやがった。丁度、夢の中でシアワセな何かが起きたらしく「むにゃむにゃ」と気持ちよさ気に寝言を言ってたパチュリーが、ビクッと体を強張らせて起き上がる。

「むー!むー!」これ以上叫ばれたら堪らないので、小悪魔は自分の命を投げ出す覚悟で咲夜の口を必死に押さえた。パチュリーはといえば、たった今の吼え声の正体を探るべくあたりをキョロキョロとしている。

「ちょっと!咲夜さん!?なに吼えてるんですか!犬ですか!?あなたは!!」
「ぐるるる・・・!!」と口を押さえられて唸る咲夜。パチュリーはどんなにあたりを見回しても現れることの無い吼える化け物を「夢だったのか」と割り切って、またも頭を机に預けて寝始める。ようやく、小悪魔が咲夜の口から手を離すと、咲夜は苦しそうに「はあはあ」と息をして深呼吸。

「お嬢様・・・・服が、服が乾かないとワンピースになられるのですね・・・!なら私はあえてあなたの服を乾かすことを放棄しましょう・・・」
「咲夜さん。それメイドとしては終わりですよ」と小悪魔が言うと、咲夜が悔しそうに「チッ」と舌打ちして日記を再度見つめる。
「こんな破壊力抜群の書物があっただなんて、私は知らなかったわ」と咲夜が言って、ツーっと垂れてきた鼻血を手のひらで拭う。そして、いい笑顔で小悪魔の肩に手を置く。
「あなたには感謝します。こぁ、あなたのおかげで私がやるべきことが見えてきました」
「咲夜さん、言っておきますけど、あなたが今考えているやるべきことはやらないほうがいいことですよ?」
「やらなくて良いなんてのは、やる気が無い人間の逃げよ。人とは常に何かを成し遂げるの。成し遂げた後に批判するのは他人がすることよ。私はただ思ったとおりに行動するだけ」咲夜が拳をギュッと握って言う。
「テロリストとかそういうこと言いそうですよね」と小悪魔。
「人は時としてテロリストにもメイドにもならなければならない」
「テロリストになっちゃダメじゃないですか?」と困惑する小悪魔に咲夜は日記を返して図書館から出て行く。
「私は自分の使命を見つけた!これだけで、今夜の見回りに意義があったものだと信じています!」
「もうだめだあの人」小悪魔は人知れずに呟くのであった。



「さてさて・・・・」小悪魔は禁書棚を見上げてため息をつく。ここにこの本を置けば、面倒くさい騒動も終わりです。できれば、全部読みたかったけれど、やっぱり人の日記をこっそり盗み見るのは良くないことだ。小悪魔はそんなことを思いながら、本を棚へと戻す。

「んー・・・・本・・もって・・・きて・・・・。くぅ・・・」図書館に小さく寝言が聞こえ、小悪魔は微笑む。パチュリー様に、お布団をかけておいてあげないと・・・。小悪魔は小走りで、眠るパチュリーの元へと歩み寄るのであった。













「咲夜ー?私の服が見当たらないんだけど・・・」と口を尖らせるのはレミリアである。彼女は今、薄い下着とドロワーズのみ身に着けた格好で、片手にはいつもの帽子を持ってクローゼットの前で立っていた。彼女の赤い瞳には困惑の色が浮かんでいた。昨日は沢山あったはずの私の服・・・・どこにいったのかしら?
「お嬢様、お着替えですか?」と咲夜が静かにドアを開けて入室。間髪いれずにレミリアは問う。
「咲夜、私の服が無いんだけど・・・」すると、咲夜が丁寧に一礼する。
「それでしたら、私が今朝方、全て洗濯いたしました」
「・・・・全て?なんで?着る服が無いじゃない」
「いえ、なんだか服を全て洗いたい気分でしたので」となんだかワケ分からないことを口走る咲夜にレミリアは小首をかしげる。
「服を洗ったのはいいとして、私はどうすればいいのかしら?着るものが無いのだけれど・・・・」とレミリアが咲夜をにらみつけると、咲夜が得意気に自分の背後に隠していた一着の白いワンピースをレミリアの目の前へと差し出す。
「着るものならここに御座います、ああ、いつこんな可愛らしいお召し物を手に入れられたのですか!?さあ!早く!早くそれに着替えてください!いえ、やっぱり私がお着替えをお手伝いいたします!さあ!両手をバンザーイしてください!」と大分ヤバイ表情でマシンガンの如くトークする咲夜。だがしかし、その咲夜のテンションも次の瞬間凍りついた。目の前では恥ずかしさと怒りに真っ赤になってプルプル震えるレミリア。
「さ・・・さく・・・咲夜・・・・ち・・・・ちょっと・・・・死んできなさい・・・・」次の瞬間、レミリアの手に現れたのは巨大な赤い槍であった。
「お嬢様!せめて!死ぬ前に私にお嬢様のワンピース姿をおおおおお!!!!」






チュドゴーン!







八月二十九日 土曜日  天気 きっと快晴。


どうやら私の日記が小悪魔に読まれてしまったみたい。私が日記にかけていた「欲望の呪い」が解かれていたもの・・・・。小悪魔がこの日記を戻したことがそもそも驚きだわ、日記を読んだら暫くは欲望のままに行動してしまう強い呪いだったはずなのに・・・・。流石に、私の専属の書官を続けていると魔法とか呪いに耐性が着くのかしら・・・。図書館の本の中にも呪い付きの本は山ほどあるし・・・。

それはそうと、今日はレミィの部屋に大穴が開いたわ。原因は咲夜らしいけど、咲夜もレミィも誰も詳しいことは語ってくれないわ。レミィは「あれは咲夜じゃなかった」って言うし咲夜は「あれは私じゃなかった」って意味深に言って黙ってしまうし・・・。なんなのかしら。

とにかく。日記を読んだ小悪魔におしおきをしようと思っていたけどやめたわ。あの子に嫌われたら、夜、布団をかけてくれる子がいなくなるから・・・。


ps: 流しそうめん大会は近いうちにやろうと思う。
前回の投稿のご意見、参考にさせていただきます。有難うございました。

そんなわけで初の二本立てとなりました。
brownkan
コメント



1.削除
うん。大分読み易くなった。
流しそうめんに超期待。
2.名前が無い程度の能力削除
こあの欲望は「いつもパチュリー様のそばにいること」ってことかなぁ。もう付き合っちゃえばいいじゃない。
流し素麺大会に期待
3.奇声を発する程度の能力削除
流しそうめんのフラグ!
面白かったです!
4.名前が無い程度の能力削除
はい!吸血鬼は流れ水に弱いけど、流しそうめんの水とかは特に弱点じゃないです!雨はまた、別の理由ですし、吸血鬼にとっての流れ水とは川とかそういうごく一部のものに限られます!