Coolier - 新生・東方創想話ジェネリック

紅魔館のクールビズ

2010/07/26 00:25:30
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 殊更に暑い、とある夏の日。
 紅魔館の主であるレミリア・スカーレットが、館の主たる面子を自室に集めた。
 その服装は寝巻であり、睡眠中にかいた汗が吸い込まれ、べったりと地肌に張り付いている。

 薄ら透ける下着に、レミリアの親友、パチュリー・ノーレッジは顔を顰めた。

 なにも、でかでかと刺繍された『R』の美的センスを疑っている訳ではない。
 親友の螺子が一本抜けていることなど先刻承知だ。
 むしろ、その程度で済んでいると安堵した。

 閑話休題――ともかく、パチュリーが苦い顔をしているのは、そんな霰もない格好にレミリアが全く無頓着なためであった。
 
「お嬢様、まず何よりも乾かしませんと」
「放っておけ。その必要もなくなる」
「はぁ……?」



 タオルで体を拭おうとする従者を邪険に払い、紅魔館の主は、一同に宣言した。

「今日より、我が紅魔館では一切の着衣を禁ずる。
 異論は認めない。
 ……否。

 異論がある者は、この私を倒してみせよ!」

 寝巻を千切りながら、レミリアは言ってのける。マジだった。



 魔女、従者、門番――居合わせた者の誰よりも速く動いたのは、主の妹、フランドール・スカーレット。

「ふん、フランドール、姉に刃向かうか。ならば私も本気を」
「きゅっとしてドカーン!」
「うー!?」

 先端に白い毛玉がついたナイトキャップが、弾けて飛んだ。

「あぶ、あぶっ!? だってだってねフラン、咲夜たちはメイド服で暑苦しいし、美鈴なんて長ズボンよ長ズボン!」
「だからって極端すぎるのよ! せめて、一枚二枚減らすとかでいいでしょう!?」
「わかったわフラン、お姉様、二枚脱ぐ!」

 レミリアの寝巻は薄い桃色のワンピースタイプであり、既にソレは千切られていた。
 加えて、帽子も弾け飛んでいたし、つまるところ、残っているのは二枚だけだ。
 要は、フリルのついたシャツと真っ白いドロワーズだけである。

 パチュリーが制止の声をあげる。
 咲夜が一瞬の戸惑いの後、バスタオルをかける。
 美鈴が手を伸ばし、フランドールを留めようとする。



 ――何れよりも速く、フランドールは、否、フランドールたちは、動いていた。

「き「ん「き「禁じられた遊びっ!!」」」」



 放たれた圧倒的な量の弾幕が、パチュリーをはじめとした一同の視界を、塞ぐのだった。






「――と言うような経緯で、暫くは薄着が採用されたのよ」

 ところ変わって、館の地下、大図書館。

 紅茶の代わりに水が注がれたカップを持ち上げつつ、パチュリーは、館の現状を解説した。

 カップに口をつけ、水を喉に通し、胃へと落とす。
 口腔内に残る、ざらついた滑らかさに小首を捻る。
 違和感を覚えた。

 普段飲まされている水は所謂硬水の類で、押し並べて、良く言えばまろやかさが味の特徴だ。
 滑らかさなど欠片もない。
 正直、不味い。

 どうやら、カップの中身は塩水のようだ。

「あー……それで、妖精メイドの方々は水着になられているんですね」

 頷いたのは、向かいに座るパチュリーの従者、‘図書館の司書‘こと小悪魔だ。
 首に白いタオルを巻き、何処から調達したのか、額に冷却材。
 勿論、主の額にも同じ物が貼られていた。

「クールビズですか」
「環境への配慮なんてさらさらないけどね」
「まぁ、実施されている‘外‘でも、概ねそんな感じでしょうし」

 ポケットからハンカチを取り出し、パチュリーは手に浮かんだ汗を拭いとった。
 ただ在るだけで、体内の水分が外へと出ていき、消え失せる。
 それだけならまだしも、作成中の目録に落ちるのは許し難い。

 いやになるほど、夏だった。

「流石に、咲夜は水着じゃなくて袖なしシャツだけど」
「あぁ、提灯袖は確かに暑そうですもんねぇ」
「パフスリーブ」
「言い方に拘るなら、キャミソールって言ってください」
「それだとどうしてもインナーに聞こえる気がするし……」

 紅魔館に待望の腋成分が加えられた。ハラショー。

「美鈴は、指摘されたズボンを止めたみたいね」
「あの、それ、かなり際どくなりませんか?」
「『大丈夫です。見えません』って断言してたわ」
「流石は美鈴さん、解っていらっしゃる」
「何がどう解っているのか気になるけど、めんどうだから不問にしてあげる」

 歩くたび、引き締まった腿がちらちらと覗くそうな。ブラボー。

「妹様は、水着」
「メイドさんたちと同じですか。スク水ですか」
「彼女たちは‘制服‘だから。……セパレートタイプの物よ」
「フリルが一杯ついているんですね。可愛い!」
「レミィもね」

 薄桃の配色が、姉妹の肌の白さを一層引き立たせる。
 とは言え季節柄、火照るのは致し方なし。
 薄らと浮かぶ、赤。

「おぉ……幼女の醍醐味」

 恍惚とした声で、小悪魔が呟いた。

「貴女ね……」
「お臍も可愛らしい」
「互いに突っつき合っていて、これは止めた方が良いんだろうか、と少し悩んだわ」

 いたって健全な光景である。
 いやしかし、だがしかし……。
 悩んだものの、パチュリーは止めなかった。

 因みに、姉妹による突っつき合いは、エスカレートしてグングニルとレーヴァテインが取りだされた所で、従者と門番に止められたそうな。

「で、その」
「んぅ、なによ」
「肝心のパチュリー様は?」

 身を乗り出す小悪魔に、そんなことか、とパチュリーは鼻で笑う。

「暑さで参っているのはレミィよ? 私じゃないわ」
「ですが、薄着にしろとお嬢様は仰っているんですよね?」
「小悪魔、なにを勘違いしているの。私はレミィの部下じゃないわ」

 解ってますけど、と歯切れの悪い言葉が返ってきた。

「彼女も、相談役として私を呼んだだけよ。
 その証拠に、指摘はなかったもの。
 これでいいのよ」

 会話が途切れる。
 特に思うこともなく、パチュリーは目録作りを進めた。
 頬と言わず眉間と言わず浮かぶ汗をハンカチで拭い、黙々と続けた。



 暫くして、小悪魔が切り出した。

「見ていて私が暑苦しいんで、着替えてください」
「気でも違ったの、小悪魔。吸血鬼でさえ命じられない私に、貴女が」
「命令ではなく、嘆願です。パチュリー様、私のために、着替えてください」



 繰り返す従者に、主人は苦い顔をする。

 あくまで『自身のために』と、従者は言う。
 例年よりも長く続いている猛暑で、主人の体力が削られているのを解っているのだろう。
 でなければ、出所不明の冷却材をよこしたりはしないだろうし、わざわざ塩水を作ったりするものか。

 ――そこまで解っていながら、パチュリーは、首を横に振った。

「できないわ、小悪魔。
 しない、じゃなくて、できない。
 言っている意味が解るかしら? 貴女なら、解ると思うけど」

 親友にハブにされたことで意固地になっているだけではない。
 それはそれで思うところがあったが、また別の話だ。
 もっと切実に、縦に振れない事情があった。



 せめて、誠意だけは返してやろう――真っ直ぐに瞳を向ける小悪魔に、パチュリーは、素直に理由を語った。

「夏服なんて、もってないもん」

 切実だった。
 加えて、パチュリーの服はワンピースタイプ。
 オールオアナッシングであり、一枚脱ぐとまいっちんぐ。



 主従の間に流れる微妙な空気はしかし、従者によって断ち切られる。
 正確には、従者が何処からか取りだした一枚の衣服。
 薄紫が基調の、半袖ワンピースだった。

「こんなこともあろうかと」

 ご都合主義な台詞だったが、諌める立場のパチュリーは何も言わなかった。
 ただ、その衣服に目を奪われていた。
 とてもとても、涼しそう。

 だから、小悪魔も嬉しそうに微笑んで、そっと手渡すのだった。



「……あ」
「どうぞ、着替えてきてくださいな」
「ふん。そうね、偶には、従者の願いも聞いてあげないとね」



 立ち上がり、パチュリーは足早に自室へと戻ろうとした。
 扉に手をかけ、ふと、振り返る。
 小悪魔は微笑の表情のまま。

 重なる声に渋面を浮かべ、続いた従者の言葉を耳にして、その場を後にする――。





「――ございます、パチュリー様」





 かくして、紅魔館の面々は、ヒトリ残さず薄着へと転じたのであった。







 ひょこりと、パチュリーは扉から顔をのぞかせる。
 渡された服は腕にあり、着替えていなかった。
 気になることがあり、戻ってきたのだ。

 気配を察知して顔を上げる小悪魔に、首を傾げる。

「……ちょっと待って。私に散々言っておいて、小悪魔、貴女は変わっていないじゃない」
「やだなぁパチュリー様、私が着替えちゃったら何処の誰か解らないじゃないですか」
「そんなぎりぎりな発言でかわそうとしないでよ」
「いえいえ、かわすだなんて、そんな。お嬢様の提案の前から、薄着にしていますよ」
「……? どう見ても、何時もの、ブラウスと黒いワンピースでしょう? 変化は、特に……」

 ないように思えた。
 少なくとも、目視できる範囲では。
 パチュリーは、上から下へと、小悪魔の体を観察する。

「はふ……」

 なんぞ艶のある声が、小悪魔から零れた。

「見える訳がないと解っていても、こう、火照ってしまいますね」
「意味ないじゃないの。……いや、じゃなくて、貴女、まさか」
「そんなに見つめられてしまいますと、うふ」

 うふじゃねぇ。

 思いつつ、パチュリーは掌を向けた。
 視界に映る小悪魔は、微笑っている。
 恍惚とした笑みを浮かべていた。

 自身に向けられた集束する魔力を感じているだろう、にも拘らず、愉しそうに、言った――。



「ノーパンノーブラですわぅっきゃー!?」



 確かに言葉通りだったとさ。






                      <幕>
・私もお嬢様のお臍を突っつきたい。お読み頂きありがとうございます。

・異常気象が続いています。
・対策を取って、倒れないよう注意しましょう。
・本作のように服装もその一つですが、今は冷却材も色々出ていますので、確かめてくださいな。

・あと。ウチのパッチェさんは本当に手間のかかる方ですね。

いじょ

10/08/02:誤字訂正
>>12様、ご指摘ありがとうございます。
道標
コメント



1.奇声を発する程度の能力削除
色々と素晴らしいな!
2.名前が無い程度の能力削除
素晴らしい以外に言い様がない
3.名前が無い程度の能力削除
めーりんの美脚を拝めるなら猛暑も乗り切れる気がするのは
既に暑さで脳がやられているからなのか


ところで熱中症対策で塩水を飲むなら糖分も入れた方が
飲みやすくなってエネルギー補給も出来るよ
4.名前が無い程度の能力削除
小悪魔さんはいつも通りでした まる
5.名前が無い程度の能力削除
道標さんのパチュリーはめんどくさくて、本当に可愛いです。
6.名前を忘れた程度の能力削除
一番暑さで壊れてるの小悪魔じゃね?w
・・・こぁだけに熱暴走か
7.ぺ・四潤削除
さすが小悪魔。素晴らしい。貴方もいい感じに脳が茹ってますな。もっと暑くなれ。
「しない、じゃなくて、できない。」ごめん。運動不足だからいろいろと弛んでるからかと思っt(ロイヤルフレア)
8.万年削除
ぼでーぺいんとかと思っt
9.名前が無い程度の能力削除
いいよーいいよー。
10.名前が無い程度の能力削除
健全かつえろい。さすがの作者様くおりてぃ。
11.名前が無い程度の能力削除
ちょっとアレな小悪魔もいいですね。紅魔館のメンバーが薄着になりどんな格好になったのかぜひ見てみたい!!
12.名前が無い程度の能力削除
いちお
提灯袖はパフスリーブですわ