紅魔館の主、レミリア・スカーレットは、悩んでいた。
原因は、一昨日、美鈴から紅魔館への来客者の報告にあった。
紅魔館には、今迄、魔理沙、アリス、慧音などの(一部利用とはかけ離れた事をする者がいるが)図書館利用者、
取材に来る文、バイトに来る早苗、置き薬の点検と時折主人たる輝夜に頼まれた本を借りに来る鈴仙、そして極希に遊びに来る霊夢。
パーティーを開かない限り、ほぼ決まった者達しか来なかったはずだった。
しかし、最近、それ以外に紅魔館を訪れる者が増えてきた。
原因は、紅魔館のメイド長「十六夜咲夜」にあった。
自慢ではないが、咲夜は良く出来た従者だ。私の娘にと見込んだだけの事はある。
咲夜は紅霧の異変以後、人里だけでなく幻想郷の各所に出向く事が多くなった。
もともと、博麗神社で行なわれる宴会等で気配りができる為に、妖怪の中では人気が高かった。
人里でも最初、クールで美しい容姿と紅魔館に住む悪魔の狗と言う形容によって遠目で見られていただけであった。
しかし、花の咲き乱れる異変以後に、咲夜が買い物の途中、里の外で妖怪に襲われている子供を助けたことがあった後、買物の時にも気さくにに話しかけてくれた、
料理の話をしていた時にアドバイスを貰った等の話が加わり、人里内で人気が上がり始めた。
その為、結婚して欲しい。嫁に欲しい。妻に迎えたい。と言う人、妖怪が紅魔館に訪れるようになったのだ。
先月7名、今月に入って10名。種族も人間、天狗、河童と他種族も混ざっていた。
以前、咲夜に眷属の誘いを兼ねて、将来のことを尋ねたことがあったが、『私は一生死ぬ人間ですよ。大丈夫、生きている間は一緒にいますから。』と、返されてしまった。
多分あの時は本気でそう言ってくれたのだろう。だが、咲夜は人間だ。人間は良くも悪くも変わっていくものだ。
咲夜が心変わりをし、本気で誰かを愛したのなら嫁に出しても構わないと思っている。
親友のパチュリー・ノーレッジに相談する為、レミリアは図書館に赴いた。
「ねぇ、パチェ。相談があるんだけど。」
「咲夜のことでしょ?」
「判るの?」
「昨日、美鈴からも相談されたのよ。」
「そう。それでなんて答えたの?」
「『家事炊事が得意で働き者、頭脳は明晰な上に、知識もある。弾幕戦もかなりの腕前。何よりも主人を立てて、尽くすタイプ。加えてあの容姿だから、引く手数多なのは当たり前じゃない。』って答えたわよ。」
「私が見込んで育てた娘だもの。当たり前じゃない。」
「何言ってるの。勉強は私に、残りの家事炊事と弾幕戦は美鈴に丸投げしたくせに。」
「親友に知識を生かすチャンスを与えてあげたんじゃない。」
「よく言うわよ。」
「ん?話が違ってるわ。そういう話ではなくて、咲夜が将来をどう考えているかってことよ。」
「レミィ、そういうことは本人に直接聞きなさい。」
「前に聞いたことがあるわ。『生きている限りは一生お傍にいます。』って言ってたわ。咲夜が今もそう思っているならそれで良いと思っている。でも、あの子頑固で不器用だから、もしかしたらその言葉に縛られているんじゃないかって思うのよ。もしそうなら、そんな馬鹿なことはして欲しくないわ。」
「確かにそうね。人間は妖怪と違って、強迫観念じみたこだわりがないから自由に変わっていけるものね。本人も気付かぬうちに今では心変わりしているかもしれないわね。そう本人にそう言ってあげたらどう?」
「だめよ。もし心変わりしていても、私が聞いたらその事をまた考えないようにしちゃうじゃない。」
「それもそうね。それよりレミィ。」
「なに?」
「立派に母親の顔になってるわよ。」
「からかわないでよ。」
「からかってないのだけど。そうね、現状をもう一度整理し直して、一度私達の考えを纏めてから咲夜に話した方が良いかもしれないわね。」
「そうね。そうなると、私とパチェ、美鈴で会議を開きましょう。美鈴には求婚者の事を当たらせるわ。」
「私は咲夜の交友関係を調べるわ。」
「外に出るの?パチェ」
「基本的には遠見の魔法で対応するけど、実際に外に出なくてはいけない時には小悪魔に調べに行かせるわ。」
「会議は三日後にしましょう。それまでにお願いね。」
三日後
「では、会議を始めるわ。美鈴、報告して。」
「はい。御手元の資料を見て下さい。まず、非公認の咲夜さんファン倶楽部の会員は1400名を超えております。東風谷早苗が幻想郷に来た為、一部のファンがそちらに流れましたが、人気自体は衰えていないと思います。ファン倶楽部の人と妖怪の比率はほぼ半々で、男女比を見ますと、7対3で、圧倒的に男性からの指示が多いです。」
「……美鈴、あんた録に仕事もしないで、何こんな資料まで作って張り切っているのよ!私は咲夜をアイドルデビューさせるとか考えているのではなくて、咲夜の将来を考えているのよ。あんたには、求婚者の事を聞いているの!」
「申し訳ありません。えっと求婚者の種族ですが、人間が5名、天狗が3名、河童が2名です。人間の方は街に出て人柄などを聞いたのですが、女癖が悪いとか金遣いが荒いとか、働かずにブラブラしている放蕩等全員が何かしら悪い評判がありました。あと天狗と河童も調べましたが、天狗はパパラッチーとゴシップ新聞の記者ばかりです。河童は夢に取り付かれて役に立ちそうもないガラクタを大発明と称して作っている技術者でした。はっきり言って、録で無ししか寄って来ていませんでした。」
「なんでまた……」
「それも調べました。ファン倶楽部会員にとって咲夜さんが高嶺の花と言うこともありますが、どうも会員の中で咲夜さんに対しては不可侵の規約があるらしいのです。先の求婚者はファン倶楽部に登録されていなかった者達でした。」
「そうなの。」
「はい。身の程知らずの求婚者達は今度来たら、金輪際来れないようにしてやります。」
「そうしてやりなさい。パチェの報告もお願い。」
「咲夜の交友関係ね。小悪魔報告して。」
「はい。咲夜さんの交友関係は、はっきり言ってかなり広いです。知人レベルも入れればそれこそとんでもない数になります。ですから、特に仲の良い者達だけをあげます。霊夢さん、魔理沙さん、アリスさん、妖夢さん、鈴仙さん、文さん、早苗さん、慧音さんの8人です。」
「全部女じゃない。」
「それだけ幻想郷では、男が情けないってことかしらね。」
「あの、あいつは?ほら、あの変わった物売ってる男。名前なんて言ったかしら……」
「森近霖之助のこと?駄目ね。八百屋の店主に毛が生えた程度の関係ね。それにその男は魔理沙に御執心だから。」
「あっそ。まぁ、この際、情けない男より女の方が良いわ。」
「それよりお嬢様の希望としては、咲夜さんの相手はどんな感じの方が良いんですか?」
(お嬢様もパチュリー様も美鈴さんも、咲夜さんの将来を考えていた筈なのに、何故結婚相手の相談をしているのでしょうか?)
「そうね~。まず、咲夜を大事にしてくれる事。これは絶対ね。それと強くて、頭も良くて、あと、お金もあった方がいいわよね。あとは咲夜は色々気苦労が多いから、咲夜が傍に居て安らげるような人が良いんじゃないの?」
「レミィ、咲夜に気苦労かけているって言う自覚があったの?」
「私の事じゃないわよ。白黒ねずみが来てもあっさり通してしまう門番とか、図書館に引き篭もってちょっと動いただけでも寝込んでしまう魔女のことよ。」
「あと、偏食の多い吸血鬼も追加しておいた方がいいわよ。」
「わがままな主人もですね。」
「……まぁいいわ。そうなると魔理沙は除外ね。霖之助ってのが居るらしいから。まぁ、霖之助ってのが居なくても、魔理沙は素行が悪いから論外ね。それと、あの月兎も駄目ね。飼い主に問題が多過ぎるわ。慧音ってのが良いんじゃない?職を持っているし、里人の信頼も厚いんでしょ?」
「駄目ね。永遠亭と頻繁に喧嘩ばかりしている焼き鳥女を囲っているって話よ。」
「文さんも止めた方が良いですよ。取材方法と新聞記事の件で結構あちこちで問題起こしてますから。」
「そうなの?そうなると、残ったのはアリス、妖夢、早苗ってとこかしら。」
「霊夢さんが抜けてますよ。」
「霊夢は甲斐性なしの貧乏人だから……貧乏でなくてもう少し甲斐性があったら良いんだけどね。」
「アリスさんが良いですよ。器用ですし、人形の操作の応用と言うわけではないですが、多数の事を並列で処理できる能力はきっと咲夜さんの役に立つと思うんですよ。」
「アリスは私のだから駄目よ。まだ未熟だけど将来性の事を考えると早苗なんて良いと思うわよ。外の知識も豊富だし。」
「悪魔の狗が神に嫁入りってどんな冗談よ。咲夜の事を考えれば、あの半霊の剣士……妖夢って言ったかしらあの子なら純粋で素直そうだから良いんじゃない?」
「妖夢さんは駄目ですよ。鈴仙さんとバカップル状態なんですから。それを横取りしたとか言われたら、咲夜さんの品格が落ちるじゃないですか!」
「略奪婚も私の娘っぽくていいと思うけど。」
「お嬢様、何言ってるんですか!妖夢さんは純粋で素直だからこそ、咲夜さんに乗り換えるなんてしませんよ。アリスさんにしておいた方が良いですよ。」
「だからアリスは私んのって言ってるでしょ、このザル門番!早苗にしなさいって言ってるじゃない!」
「どうせ、外の本が欲しくてそんなこと言ってるんじゃないの?この日陰もやし!なんで神なんかのとこに嫁がせなきゃいけないの!従者同士って事も考えれば、妖夢でしょ!」
「何言ってるんですか!永遠亭と全面戦争になるじゃないですか!そんなことも判らないから、ヘタレかりすま(笑)とか言われるんですよ!」
「「「……」」」
(これはやばいのでは?)
「星気 星脈地転弾」
「日符 ロイヤルフレア」
「夜王 ドラキュラクレイドル」
「ねぇ、咲夜。今、紅魔館の方で凄い魔力を感じたんだけど……」
「たいした事じゃないと思うわ。」
「そう?」
「それより、霊夢、今日は抹茶のシフォンを作って来たんだけど。」
「美味しそうね。」
「食べてみて。」
(少女試食中)
「うん、美味しい。ほんと、咲夜って料理上手よね。」
「ありがとう。」
「……ねぇ、咲夜。やっぱりさっきのが気になるんだけど。」
「多分、お嬢様とパチュリー様と美鈴が喧嘩しているのよ。」
「あの三人が?なんで?」
「きっと、私の結婚相手で揉めてんるんじゃないかしら?」
「……咲夜結婚しちゃうの?」
「御見合いくらいはさせられるかもしれないわね。」
「そうなんだ……」
「御見合いしなくてすむ方法もあるのだけど……」
「へっ?へぇ~。一応聞くけど、どんな方法?」
「そうね、例えば私の目の前の人が求婚してくれるとか、私と一緒にお茶を飲んでいる人がプロポーズしてくれるとかかしら?」
「……えっと、咲夜、明日も来てくれるかな?」
「どうして?」
「それまでに良い言葉考えとくから。」
「楽しみにしているわね。」
10/04/06 間違いの修正、及び言回しの修正
>残ったのはアリス、妖夢、文、早苗
?止めているのに文が入ってますよ。
あまーい!!良い霊咲!!!!
しかし、霊夢ひどい言われかたしてるなw
やっぱり結局のところ当人次第なんだよね。
あぁ、咲夜さんには甘える霊夢とか素敵過ぎる…
そして最後の咲霊でホッとして2828
>1様
間違いの指摘ありがとうございます。
早速修正しました。
>2様
霊夢さんの酷い言われように関しては。○ぞん1刻の5代さん役だからです。(笑)
『甲斐性なしの貧乏人だけど、やる時にはやるし、基本的に優しい』って、まんま霊夢さんだと思えたので。その代わり咲夜さんが全く嫉妬してくれなくて困ってしまう。(爆)
>3様
仰るとおりだと思います。
でも、咲夜さんには甘える霊夢さんだけでなく、反対の霊夢さんにだけ愚痴ったり、甘えたり、弱さを見せる咲夜さんも素敵だと思います。(今度はこのネタも使おう。)
>4様
なんかハラハラさせてしまって申し訳ありません。
基本的に私は悲恋にしたりしないので安心して下さい。
気に入った方達には最後にとことん幸せを押し付けるのが私のポリシーなので。(その前に地獄見せたりしちゃいますが)