このSSは、「彼女と私 (咲夜)」と対の関係にあり、重複している箇所が多々あります。また「彼女と私 (後日譚」の前の話となっております。
彼女に始めてあったのは、幻想郷が紅い霧に覆われた時だった。
紅の館の廊下、同性の私から見ても美しいと思える容姿、素早く投げられるナイフ。
その瞳からは激しい憎悪を感じられる。
(まるで、昔の自分。)
一瞬そんなことが頭によぎった。
やがて、彼女のスペルカードは尽き、私の勝ちでこの弾幕ごっこは終わった。
意識を失ったのか落下する彼女を抱きかかえる。
その瞬間、彼女の目が開いた。先ほどまで青かった瞳が紅になる。
莫大とも言える霊力が放出され、私を跳ね飛ばす。
そして、私にナイフを投げつける。先程より各段に速く、隙がない。
確実に私を殺す為に投げられるナイフ。
勘と運を最大限に駆使してなんとかナイフを避け続ける。
更に意識を集中する。
ナイフを避けつつ、彼女に近付く。目の前から居なくなる。
そして背後からナイフが飛んで来る。ぎりぎり避ける。
最低限の動きも止め、多少掠めることも気にせず、致命傷になるナイフだけを避け、彼女に近付き、彼女を抱しめる。
彼女の体温が伝わってくる。暖かい。
抗うように振るわれる彼女のナイフで、あちらこちらを斬れ、血が滲む。
痛いが大した怪我ではない思い込む。
今度こそ、霊力が尽きたのか、彼女は意識を失う。
彼女を抱き直し、近くの部屋のベットに寝かせる。
簡単な治療をし、先に進む。まだ、この異変は続いているから。
なんとか、吸血鬼の姉妹を倒し、異変を解決した。
何とか神社に帰り、畳の上に倒れこむ。疲れた。寝よう。
目が痛い。朝日が目に染みる。もう朝になったようだ。身体も動くくらいには回復している。
喉が渇いたので、取り合えず、起き上がり、縁側まで移動。お茶を入れ、飲む。
縁側から幼い声が聞こえたので、声の方を向くと日傘をさした吸血鬼の姉がメイドと一緒にいた。
「何しに来たの?」
「昨日のことで話をしに来たのよ。」
これ以上めんどうなことは勘弁して欲しいので、あえてぶっきらぼうに問いかけたが、吸血鬼からは闘争の気配はない。
「日向じゃ辛いでしょ。お茶ぐらい出すから中に入りなさい。」
流石に日向に立たせたままと言うのも、何を言われるか判らないので、部屋に入る事を許可した。
「で、何?」
卓袱台に付いた二人にお茶を入れ、来訪の理由を尋ねた。
「それにしても、ボロいわね。こんなとこに住んでるの?」
「喧嘩売りに来たの?」
「ごめんなさい。根が正直だから、つい本音がでちゃったの。」
「直ぐ帰れ。」
「冗談よ。本当は昨夜の再戦に来たのよ。」
「日向に出れんの?」
「再戦は、また今度にしましょう。」
「出れないなら来んな。」
「お嬢様、やはり夜に来た方が良かったのではないでしょうか?」
「だって、寝てるかもしれないじゃない。」
「で、本当は何しに来たの?」
「昨日の事を謝りに来たのよ。」
「あら、割と殊勝な心がけね。もうあんな面倒なことしないでよ。」
素直に謝る吸血鬼は、外見同様可愛らしい笑顔を見せた。
「で、改めて、自己紹介だけど、私は現スカーレット家頭首のレミリア・スカーレットよ。」
「博麗霊夢。」
吸血鬼の名乗りに答え、私も答えた。
「紅魔館のメイド長をしております十六夜咲夜です。」
私とレミリアの視線を受け、僅かに表情を崩して、メイドは軽く頭を下げた。
「時々寄らせてもらうから。」
「来ない参拝客がもっと来なくなるからやめろ。」
半分冗談で答えておいた。
「何?人間が来ないの?」
「母さ・・・先代の博麗の巫女の時には、1日に何人かは来てたんだけど、私になってからは、さっぱり。おかげでお賽銭が全く入らない状態よ。」
「人間が来ないなら、別に遊びに来ても問題ないじゃない。それとも今回の異変を解決したから、また人間が来るようになるの?」
「関係ないんじゃない?空気に感謝する人間がいないのと同じ。博麗の巫女は、異変を解決するのが当たり前のことだから。」
「人を恨んだりしないの?」
不思議そうな咲夜の言葉。
「なんで?」
そんな事を言う咲夜が不思議だった。
「いくら異変の解決をしても、誰も評価してくれないから。」
「別に誉めて貰いたくて、やってるわけじゃないし……それに、先代の巫女が命がけで守ってきたのに、私の代で幻想郷が滅んだら困るじゃない。」
私を愛してくれた母さんが命がけで守った幻想郷を私が見捨てられるはずもない。
「それで良いんですか?]
「良いんじゃない?」
母さんの事を思い出し、少し気分が重くなったがわざと明るく事も無げに答えておいた。
私と咲夜を見て、何故かレミリアは満足気な表情をしていた。
「取り合えず挨拶もしたから、今日は帰るわ。咲夜、帰るわよ。」
レミリアは咲夜に帰る準備をさせると、そっと私に顔を近づけた。
「霊夢、咲夜は人間だから仲良くしちょうだい」
なるほど、レミリアが私のところに来たのは、咲夜に人間の友人を作らせる為なのか。
友人にするには、私よりも魔理沙の方が適していると思うが、他に理由もあるのだろう。
もしかしたら紅霧の異変も咲夜の為?
考えてみれば、日傘があれば日中も出歩けるレミリアが、昼間でも歩き回りたいから霧を出すでは、理屈に合わない。
己が従者、それも人間の為異変を起こすとは、変わった吸血鬼だ。親バカならぬ主バカとでもいうのだろうか。
そんな事を考え、変わった主従を見送った。
それから、度々、吸血鬼はメイドと共に神社に来るようになった。
来る度に、魔理沙が門番を倒して本を持って行ったとか、妹がまた我侭を言って屋敷を壊したとか、パチュリーがまた変な魔法実験を始めたとかどうでもいい内容の話をする。
レミリアが愚痴を言い、私がそれを冗談で返し、咲夜がレミリアの機嫌を取る。
そんな事を続けるうちに、咲夜は少しずつ笑顔を見せるようになった。
はにかむ様に笑みを浮かべる顔は、本当に可愛いと思えた。それと同時、憎悪で満ちた瞳は、もう二度としないで欲しいと思った。
いつまでも、冬が続くと思えた春に私は、幽冥界にいた。
魔理沙は途中で出会った人形使いと話があると残り、私は先を進み幽冥界の門を越え、剣士と戦った。
剣士は強く、術を放つ僅かな隙に一気に間合を詰められ、苦戦を強いられた。
私の中で囁きが聞こえてくる。(あの力を使えば直に終わらせる事が出来る。幻想郷を守る為には必要なことだ。)
その囁きをに気を取られ、術の発動が遅れ隙が出来る、鋭い斬激が来た。
その太刀筋は途中で軌道を変える。金属音が響き、新手か?の言葉と共に剣士が後退する。
「あまりらしくありませんが、大丈夫ですか?」
いきなり隣に咲夜が現れた。なぜ?咲夜がここに……
「お嬢様の命令ですわ。」
私の疑問に気づいたのか咲夜は微笑んで答えた。その微笑みを見ていると、私の中の囁きは消えていった。
「この先に異変の元があるの?」
「多分ね。」
咲夜の問いかけにいつもの雑談のように軽く答える。
「では、私がここを抑えるので、先に行きなさい。」
「かなりの使い手だけど大丈夫なの?」
「時間ぐらいなら稼げます。」
「頼んだ。」
「任せなさい。」
少し心配だが、咲夜の腕前と能力なら大丈夫。そう自分に言い聞かせ先に進んだ。
桜の巨木の前で亡霊の姫と対峙する。、蝶を思わせる弾幕をかいくぐり、亡霊の姫を倒す事が出来た。
空間が裂けると、見知った顔が出てきた。
「紫?」
「久しぶりね霊夢。」
「何で、ここにいるの?」
「その子が私の友達だから。」
友達……顔を思い出すことも出来ない仲間の姿がぼんやりと浮かんだ。
「私は友として、その子の願いを叶えてあげたいの。結果がどうなろうと……」
どこか苦しむような紫の声とともにいきなり妖気を放出し、容赦のない弾幕を展開する。
これで未だ本気ではないのだから厄介としか言いようがない。
全力でかわし続けるていると、いきなり弾幕が消えた。
紫の視線の先には、咲夜達がいた。
「霊夢、友達ができたの?」
「まぁね。」
「…そう、良かったわね。」
紫は私の言葉を聴いて微笑むと空間を開き、姿を消した。
「先程の妖怪は知り合いのなの?」
「えぇ、ちょっとした昔馴染みよ。今回の異変には関係ないわ。ありがとう、咲夜、魔理沙。これでこの異変も終わりよ。」
咲夜への問いかけに、そう答えておいた。
しかし、私はの中では、さっきの紫の言葉が渦巻いていた。
友達、仲間。私がこの言葉を使って良いのだろうか。
咲夜も魔理沙も何で私なんかの為に力を貸してくれるのだろう。
この異変の後から咲夜は頻繁に神社に訪ねて来てくれるようになった。
軽口で嫌味を飛ばしあい、それを笑顔で返す楽しい日々。
そして一人になるとまたあの時の疑問が蘇る。
友達、仲間。私にその言葉を使う資格があるのだろうか。
そして、このまま咲夜達と付き合っていて良いのだろうか。
永き夜の異変が終わったあたりから、咲夜が神社に来る回数が減り始めた。
宴会の席で何度か咲夜と話すことはあったが、以前のような笑顔でなく作った笑顔を返される。
少し苦しそうな表情すら見せる事もあり、会話が続けることが出来なかった。
間違いなく、避けられている。思い当たる事はまるでないが、これで良いのかもしれないと思う私がいた。
妖怪の山に神社が出現し、その巫女(風祝の東風谷早苗)が博麗神社を明け渡す要求をしてきた。
妖怪の山に弾幕で話し合いに行ったが、その途中で咲夜の姿を探してしまう自分がいる事に驚いた。
私にとって既に咲夜はかけがえのない存在なのだろう。
何とか、守矢の神々と話をつけ、その後に宴会が行なわれる事になった。
私自身の気持ちに区切りをつける為にも、咲夜と一度話をしよう。そう思いレミリアと咲夜を無理に呼んだ。
宴会に来た咲夜の姿を見て、嬉しくなった。
何から話せば良いのか判らず、ただ咲夜の顔を盗み見るようにしていると酔った早苗が絡んできた。
その日から、咲夜は博麗神社に来なくなった。代わりに早苗が頻繁に来るようになった。
今まで来ていた咲夜が来なくなってしまい、少し心配になる。
私が嫌いになって来なくなったのならその方が咲夜の為だろう。でも、もしかして怪我か病気になったのでは?と心配になった。
早苗は幻想郷の事を学びたいと言っているが、来る度に咲夜が来てないことを、残念がっていた。
「そんなに会いたいのなら、紅魔館に行けばいいじゃない。」
「それじゃぁ、霊夢さんがいないから意味がないじゃないですか。」
私も咲夜に会えずに少しイラついていたので、早苗に当たるような物言いになったが、早苗はよく判らない返事を返してきた。
その後、よく判らない外の言葉で色々説明されたが結局理解できなかった。
咲夜が来なくなってから2週間程して魔理沙が神社にやって来た。
取り留めのない話しをしていると、話題が咲夜のことになった。
魔理沙の話では、忙しいみたいだけど、咲夜は元気そうだったとのことった。
咲夜が元気で嬉しい。でも、これで確実に私が避けられている事が判った。
避けられる理由は判らないが、きっと私なんかには、もう会わない方が咲夜の為にも良いのだと自分に言聞かせた。
更に1週間ほど過ぎた。
今日は早苗だけでなく、八坂神奈子と洩矢諏訪子も神社に来ていた。
何でも、いつも早苗がお世話になっているお礼をしたいと言う事で、夕食をご馳走してくれた。
どこから嗅ぎ付けたのか魔理沙も一緒になって食べている。
食事を終えお茶を飲んでいると、いきなり雨が降りだした。魔力によるもの天候操作の気配がある。
きっと、フランが癇癪を起こし、外に飛び出さない様にパチュリーが雨を降らせたのだろう。
(咲夜、フランの相手をして怪我をしないと良いけど。)
そんな事を考えていると、背筋に冷たい物を感じた。紛れもない殺気。
かなりの高速でこちらに近付いてきている。
神奈子と諏訪子もその気配を感じたのか緊張した面持ちとなる。
境内に入った事を感じ、縁側に出ると、現れたのは紅美鈴だった。
いつも陽気な美鈴が冷たい目で私を見つめている。
「よう!中国じゃないか!雨の中どうした?」
自体が飲み込めていない魔理沙が声をかける。
一瞬で間合を詰められ、鋭い拳が振るわれる。
当たらなかったのは運が良いだけ。勘に頼って避けたのでは確実に当たっていた。
強い。弾幕ごっことはまるで別人のような動き。
雨が降っているが、接近戦を得意とする相手に屋内で戦うにはふりだ。
急いで外に飛び出す。矢継ぎ早に放たれる拳と蹴りを完全に運だけでかわす。
服が雨を吸い、身体の動きを阻害するのは、美鈴も同じはずなのに、まるで動きに乱れがない。
踏み込み、拳や蹴りの速さは妖夢と同等だろう。
「中国のやつあんなに強かったのか。」
「神奈子、あれって。」
「あぁ、間違いないよ。あいつだ。」
「神奈子様、諏訪子様、知ってらっしゃるんですか?」
「あぁ、知ってる。あいつとは昔やりあった事がある。たった一人で、私と諏訪子の部下の半分を戦闘不能にしたやつだ。」
「幸い部下に怪我人はいても死者は出なかったから、私と神奈子が二人がかりで押さえ込んで……話を聞いたら武術を極める修行の為にやった言うんだよ。ちょっと罰の意味も込めて、能力のかなりを封印して放り出したんだけど……」
「今のアイツの動きを見る限り封印はかなり解けているみたいだね。霊夢もあいつ相手に良くやる。」
「それより、どうするんだよ。」
「みんなで押さえ込むしかないだろ。」
守矢の神々、早苗や魔理沙の声が聞こえてきた。
意識の一部がまるで切り離され、私と美鈴そして周囲の状況、情報を収集し処理し始める。
まずい。この感覚に支配されれば私は昔の私に戻ってしまう。
蹴りが来た。速度で相手を斬る蹴りでなく、衝撃で相手を壊す蹴り。タイミングを合わせ、多少のダメージを覚悟し、当たる瞬間飛ぶ。それでも身体にかなりの衝撃が来た。しかし、蹴りの威力で距離をとることができた。
「美鈴、どうしたの?私なんかしたっけ?」
あの感覚に支配されまいと、わざと明るい声で美鈴に問いかける。
「五月蝿い!お前のせいで!」
「私のせい?」
「お前のせいで咲夜が!」
「咲夜?咲夜がどうしたの?」
「咲夜が倒れたんだ!お前のせいで!」
(咲夜が倒れた?私のせいで?)
その言葉で一瞬反応が遅れた。高速の突きが来た。当たれば確実に死ぬ。
咲夜の悲しそうな顔が浮かんだ。死んだら咲夜に会えなくなる。
そう思った瞬間、今迄押さえていた感覚と一緒に霊力が爆発した。
気付くと、5mほど先に美鈴が倒れていた。
「大丈夫か?」
「それにしても凄い力だったな。」
「霊夢さんやっぱり強いです。」
周りで何か言っているが、何を言っているのか理解できない
「……咲夜……倒れて……私のせい……」
「霊夢、咲夜に会いに行けよ。」
咲夜……その名前は分かる。大切な人の名前。
会う?誰が?誰に?私なんかが?咲夜に?会えるの?会って良いの?
「会えない……今更……会う理由もない……」
「友達なんだろ?友達が倒れたんなら、見舞いに行く。それで十分だろ。」
「友達……良いの私なんかが友達で。」
「良いに決まってるだろ。何言ってんだ?お前は咲夜のことが心配じゃないのか?」
「心配だよ……大切な……大好きな人だもの……でも、その人を倒れさせちゃったんだよ。会えないよ。」
「仕方ないな。霊夢として会えないなら、博麗霊夢として行けよ。」
「?」
「あのな。紅魔館のパーフェクトメイドが倒れたんだぜ、今までの異変の中で最大の異変だろ。博麗の巫女ならちゃんと解決させろよ。」
「……でも……」
「悪いが私は無理だぜ。永遠亭まで永琳を呼びに行かなくちゃいけないからな。早苗達にはその間の中国の面倒を見てもらわなくちゃいけないし。」
「そうですよ。霊夢さん。行って下さい。」
「……うん……」
(会いたい。咲夜に会いたい。でも、会っていいの?)
矛盾した思いを抱えたまま、小降りになってきた雨の中を紅魔館に急ぐ。
誰もいない門を越え、玄関の扉を開く。誰も出迎えない。
一度だけ行った事がある咲夜の部屋に向かう。扉を開ける中に入る。
薄暗い部屋の中で咲夜がベッドで寝かされていた。
顔が青白い。このまま消えてしまうのではないかと思うと怖くなり、咲夜を抱きしめる。
小さいながら確かな呼吸が聞こえる。少しほっとする。
「……ごめん……咲夜……ごめん。……」
ただ謝罪の言葉を繰り返す。
咲夜が身じろぎした。急いで身体を離すと咲夜が目を開けた。
「霊夢?」
「良かった。気が付いたんだ。」
「なぜここのいるの?」
「美鈴が教えてくれたの。咲夜が倒れたって。」
「そう。」
(また、前のように戻れたら……)
そんな思いを込めて、以前のような口調で話しかける。顔が引きつるのを感じる。
「ねぇ、咲夜。私、何か酷いことした?」
「どうして?」
「だって、ぜんぜん神社に来なくなったから、知らないうちに咲夜の気に触るような事をしたかもしれないから。もしそうなら謝らないと。」
「違うの、霊夢……全部私がいけないの……」
「咲夜は何も悪い事してないじゃない。」
「……霊夢。聞いて欲しい話があるの。」
「なに?」
「昔ね。一人の女の子がいたの。その子は幼い頃に両親を失って、全く知らない人に引き取られたの。
引き取られた所には、その子と同じくらいの子供が100人ぐらいいて、そこでは、その子達は名前でなく番号で呼ばれていたの。
そして、そこで、ただひたすら人や魔物を殺す訓練を受けさせられたの。過酷な訓練のせいでの子供達が次々死んでいったの。
その子は何とか生き延び続けて、5年くらい経つと、新しい番号をつけられて、魔物も狩ることができる商品としてに売られたの。
その子を買ったのは、お金の為に魔物退治や暗殺を請け負う組織だったの。最初は暗殺や力の弱い魔物を退治していたのだけど、何度も成功が続いて、いい気になったのでしょうね。
吸血鬼に手を出してしまったの。でも、そんな組織が吸血鬼に勝てるわけもなく、組織は壊滅、唯一生き残ったその子は、吸血鬼に気に入られて、今度は吸血鬼に忠誠を誓い、働く事になったの。
こんな生き方をさせてきた人々を憎んでね。そして、その子が私なの。軽蔑するでしょ?こんな薄汚い人間は霊夢に心配してもらう価値なんてないのよ!」
そんな咲夜を私は抱きしめた。咲夜は私を大切に思っていてくれている。だから辛い過去を話してくれている。だから私も咲夜に話す事にした。できたら誰にも話したくない過去を。
「霊夢?」
「咲夜……私も咲夜に聞いて貰いたい話があるの。」
「昔、一人の子供が居たの。その子には両親がいなかった代わりに10人くらいの子供がいたの。その子供達はそれぞれ特殊な能力を持っていたの。
時々、何人かの大人が妖怪を連れて来て、その妖怪を殺すと食べ物を貰える。他に頼れる存在がいない子供達は、力を合わせて妖怪と戦ったの。
大人達は最初は殆ど無害な妖怪しか連れて来なかったけど、徐々に力の強い妖怪を連れて来る様になったの。
子供達は日々の空腹に耐えながらも生きる残る為に、支えあいながら能力を高めていったの。大人達は子供達の状態などお構いなしで、妖怪を連れて来て戦わせる。
でも、そんな生活を子供が耐えられるわけがない。子供達は一人また一人と死んでいったの。そんな状態で生き残った為か、最後に一人残ったその女の子はとてつもなく強い能力を身につけたの。
でも、生死を共にしてきた子供達を失ってしまったので精神的に疲れ果ててしまって、死ぬ事ばかり考え始めたの。でも、ただ死ねない。
死んでいった子供達の仇を討つ為、と殺してしまった妖怪達への供養の為、あの大人達を殺そうと考えていたの。そして、いつも大人達がやってくる日に大人達の代わりに一人の妖怪がやってきたの。
その妖怪の発する妖気は今迄の妖怪とは比べられない程強いと直に気付いたの。死ぬ気で戦っても相討ちに持ち込めるかどうかも怪しい。
でも、その妖怪はね、『もうあの狂った人間達は死んだから、もうここには来ないわ。だから、これから貴方は今から自由にいきていいわよ。』そう言ったの。
その子はもう何も考えられなくなって、呆然としていたら、今度は『良かったら、私と一緒に来ない?多分貴方の願いをかなえる事ができるかもしれないわよ。』って言ったの。
その子には願いなんてないと思ってたし、今まで妖怪を殺してきたのだから、妖怪に殺されるのも仕方ないと思って、その妖怪について行く事にしたの。
妖怪が連れて行った所はね。古ぼけた神社で、そこに住んでいた年老いた女の人がいて、その妖怪はその女の人と何か話しをしたの。
それで理由はよく判らないけど、その女の人がその子を養女として引き取ってくれる事になったの。
その女の人は、娘にした子にいろんな事を教えたの。ここは幻想郷と言って妖怪達と人間が共存する世界であること。そして、この神社は博麗神社で幻想郷の要となっていること。
その子をここに連れて来た妖怪は、八雲紫と言ってこの幻想郷を作った妖怪の賢者であること。そして、その女の人は博麗の巫女と呼ばれる幻想郷を守護する存在であること。
それ以外にも、力の制御の仕方から、儀礼の方法、果ては炊事洗濯の仕方まで。そしてその巫女が亡くなった時、その子が後を継いで博麗の巫女になったの。
もう判るでしょ。その子供が私。……何が博麗の巫女よ。何が幻想郷の守護者よ。私はね、生きる為に妖怪を殺して糧を得ていただけじゃないの。
兄弟のように育った大切な仲間達を死なせて、そんな事なかったような顔して、未だに生き続けているの……軽蔑したでしょ?」
「……霊夢……」
「咲夜に会ってからね、気が付くと咲夜を探してしまう私がいて、そんな私に仲間を死なせておいてまた仲間を作るのかって、責める私がいるの。
咲夜が神社に来なくなって寂しかったけど、こんな私の傍に居ない方が咲夜の為になると言う私がいるの。だから、紅魔館にも会いに行かないようにしたの。
咲夜が倒れたって聞いて直に会いに行きたかったのに、行かない理由を一所懸命考えて、自分を誤魔化そうとしている薄情な私がいるの。そんな私は軽蔑されて当たり前なのよ。」
「そんな私の背中を魔理沙が押してくれたの。霊夢として会えないなら博麗の巫女として行けって。紅魔館のパーフェクトメイドが倒れるなんて最大級の異変だろうって。」
「霊夢、私は絶対に軽蔑したりしないわ。だから泣かないで。」
そんな私を咲夜は抱きしめてくれた。
「私だって咲夜のこと軽蔑したりしない。」
「話は終わったの?」
「レミリア!」
「お嬢様。」
声の方を向くとレミリアとパチュリーが立っていた。
レミリアは憔悴した顔をしているみたいだ。
「どうしたの?」
「雨の中を散歩できるか試してみただけよ。」
「可愛い娘が倒れて原因と思われる守矢神社に母親が特攻しそうだったから、雨を降らせたのだけど、その雨の中に突っ込んだのよ。」
「パチェ、余計な事は言わなくていいわよ。」
「霊夢、もう一人の馬鹿親はどうしているの?」
「美鈴なら神社で寝ていると思うわ。魔理沙が付いていてくれるはずよ。」
「魔理沙にも借りを作ってしまったわね。」
「仕方ないわね。私は調子が悪いし、パチェも魔法を使って疲れている。美鈴もいない。悪いけど霊夢、咲夜の看病お願いするわ。それで、今回の事は水に流してあげる。」
「レミリア、ごめんなさい。……それとありがと。」
「気にしなくていいわよ。じゃぁ、私は寝るわ。後は任せたわよ。」
「私も疲れたから寝ることにするわ。」
レミリアとパチュリーを見送り、咲夜と二人きりに戻った。
「咲夜もまだ本調子じゃないんだから、寝ていないと。」
「……早苗には悪い事をしてしまいましたわ。」
「なんで?」
「多分、早苗も霊夢に好意を持っていると……」
「それは大丈夫と思うわ。早苗がよく神社に来ていたのは、幻想郷の勉強をする為ってのもあるみたいだけど、どうも、私と咲夜を見に来ていたみたいだから。」
「どういう意味ですの?」
「宴会の時に咲夜と私がなんかよそよそしい態度で、私達に何かあると思ったみたい。外の世界の言葉で百済とツンドラが株で、なんとか……。咲夜判る?」
「さぁ、判りませんわ。」
「よく判らないけど私と咲夜が仲良くしているとこを見たかっただけらしいの。咲夜の調子がよくなったら、二人で早苗のところに行かない?」
「そうね。そうしましょ。」
心から求めていた咲夜の笑顔を見て、心が救われる思いがした。
それからまる二日、咲夜の看病をしながら、いろんな話をした。
その間に美鈴は紅魔館に復帰し、私は美鈴に謝った。
美鈴は、『咲夜さんが元気になったのだから、気にしない。』といって笑って許してくれた。
咲夜の体調も戻り、明日にでも仕事に戻るつもりでいるようだ。
私は今日、神社に戻る事にし、レミリアへ挨拶をしに向かった。
部屋にはパチュリーもいた。レミリアは面白そうに私を見つめている。パチュリーは相変わらず本を読んでいた。
「レミリア」
「あら、霊夢、何のよう?」
「咲夜はもう大丈夫そうだから、私も帰ろうと思って。」
「あっそ。」
「レミリア、迷惑かけたわね。パチュリーも。」
「もう水に流した事よ。」
レミリアの答えにパチュリーも頷いている。
「ところでなんで咲夜が倒れた時に永琳を呼びにいかなかったの?」
「薬で身体を治しても、原因をそのままにしておいたら同じことの繰り返しでしょ。」
「……レミリア、もしかして今回の事を判ってたの?」
「だいたいはね。その上で、咲夜の為には必要と思って、あえて役を演じることにしただけよ。こういう地味な事も運命操作に含まれるのよ。」
「その割には、咲夜が倒れた時には、本気で特攻しそうになってたじゃない。」
「パチェ、五月蝿い。それで、霊夢。ここからが問題よ。金輪際、こんなことにならないようにするにはどうしたら良いと思う?」
「えっと、咲夜の事をもっと信頼する。」
出来る事なら、咲夜を博麗神社に連れて帰りたいと思う気持ちが抑えて答えを返す。
「5点ね。」
「ちなみにパチェの採点は100点満点形式よ。」
パチュリーが私の答えを採点をし、レミリアは採点方法の説明をする。
「えっと、じゃぁ、頻繁に会って、話をよくする。」
「10点。」
「じゃぁ、どうすれば、良いって言うの?」
「霊夢が最初に思った事を素直に言えば良いのよ。その言葉を言う覚悟が出来たら追試してあげるわ。ただし、言うのは私達にでなく、咲夜に言う事。それとあまり待てないからね。」
そのレミリアの言葉に、私は何も言えず、顔を朱に染めることになった。
10/03/24 報告頂いた誤字の訂正。
>その巫女(風祝の東風谷早苗)が博霊神社を明け渡す要求をしてきた
○博麗
>「悪いが俺は無理だぜ。
魔理沙の一人称は「私」
>「多分、早苗も霊夢に好意を持ていると……」
好意を持っていると……
この二人は、ずっとイチャイチャしてれば良いよ!
もうちょっと、霊夢の独白や描写が欲しかったです。
>>1様
誤字の報告ありがとうございます。
>>3様
まだまだ未熟者なので、展開の早さが未だ判らないので、申し訳ありません。
ただもう少し感情も描写が欲しかったです
でもよかったです