夜も遅い丑三つ時、辺りは暗く漆黒に包まれて静まり返っている。
時刻はまさに、私達妖怪の時間。この時間帯に外を歩き回る人間はおらず、私は首に巻いたマフラーのありがたみを噛み締めながら肩をすくめた。
あ、申し遅れました。私、清く正しいをモットーにしている新聞記者、射命丸文です。
私がいる場所は、人里のはるかはずれに存在する古びた日本家屋の前。今は誰も住んでおらず、ボロボロに打ち捨てられたその屋敷には、人ならざる者の気配がひしひしと感じられた。
つまり、幽霊。あるいはゴーストと呼ぶべき連中の住処なのである。この屋敷は。
「椛、遅いわねぇ。もう、取材道具持ってくるのにどれだけ時間がかかってるのよ」
一人愚痴を零しながら、はぁっと吐息を零せば、真っ白な息が溶けて消える。
体の震えを誤魔化すようにジャンプして見るが、ちっとも暖まりゃしない。
あぁ、こんなことならミニスカートなんてはいてくるんじゃなかったと思ったが、今更そんなことを思ったって仕方がない。
この体の震えは、何もこの空気の読めない寒さだけが原因じゃない。
非常に言い難い事実なのだけど―――私、困ったことに幽霊って言う奴が大の苦手なのである。
千年近くも生きておいて何を言っているんだと言う方も多いだろうけれど、駄目なものは駄目なんだから仕方がない。
幽々子さんはまだいいですよ? ちょっと危ないですが分別はあるほうですし。
妖夢さんも生真面目で好感の持てる方ですし、こっちも苦手意識は余りありません。
問題なのは―――人に悪意を持って害をなす悪霊という連中だ。
昔っから、私はその悪霊という奴に関わると、決まって碌な目にあわなかったのである。
それであれよあれよと幽霊が苦手になっていき、今じゃ夜に一人だと仕事に打ち込んでなきゃ不安で仕方ないくらい。
「あー、やっぱやめようかなぁ。でも、霊夢から直々のリクエストだものねぇ」
寒さを誤魔化すように呟いては見たものの、やっぱりそれでも寒気って言うものは中々消えない。
そも、何ゆえあの巫女は私のピンポイントで嫌いな心霊スポット特集をリクエストしやがるのか。
私が何か特集のリクエストを聞いたからって、直感にしたがって嫌がらせに来たのかと疑ってしまう。
リクエストされたからには、ちゃんとやり遂げるのが新聞記者としてのケジメだ。嫌いだからって、投げ出すなんて無様、この射命丸文に出来るものか!
……などと、意気込んでいたのは少し前までの話。ぶっちゃけると、怖くて怖くて堪らんとです。
天魔様、もう帰りたいです。寒いし怖いしなんか気配するし。
私、がんばったよね? もう、ゴールしていいよね?
「文さーん、撮影道具とってきましたよー」
「待ってました椛!! キスしていいですか!!?」
「やめてください、投げ飛ばしますよ。バックドロップで」
ようやく来ましたよ私の救世主様! 冷たい視線も冷たい言葉もご愛嬌、犬走椛!!
天狗では下っ端の白狼天狗、だけど私の一番のお気に入り。見た目の可愛さとは裏腹にナチュラルに毒を吐く彼女が堪りません!!
「もー、何処に行ってたの椛~。随分遅かったじゃない」
「すんません、散歩してたもんで」
……わー、椛ってば正直さん。泣いていいですかね、私。
「文さん、いじけないでください。冗談ですから」
「ふーんだ、どうせ他の女のところに行ってたんでしょー」
「よくわかりましたね。確かににとりのとこには行ってましたけど」
「なんですとぉ!!?」
どちらかというとそっちを否定して欲しかったんですけど!!? 何ナチュラルに肯定しよっとねこの子は!!?
私が大仰に驚いたのを見て、彼女はなぜか盛大にため息をつくのですが……なんかものすごく納得いかない。
「文さん、別ににとりのとこに行ったのはやましい理由じゃなくて、コレをもらってきたからですよ」
「……何、これ。普通のカメラ……じゃないわね。少し年代モノっぽいけど、霊力を感じますし」
ため息と共に彼女が取り出したのは、少々年代を感じる古いカメラ。
なにやら妙な気配を感じるカメラなんですが、コレが中々強力な力を秘めているらしく、私の背筋に嫌な寒気を感じるほどだ。
明らかに、普通のカメラなんかじゃない。すると彼女は私の疑問に答えるように、指をぴんっと立てて言葉を紡ぐ。
「にとりの発明品のひとつでして、対幽霊用のカメラです。ボタンを押すと爆発します」
「使えるかっ!!」
私を殺す気かこの子は!?
「にとりがですけど」
「何故ッ!?」
ただの自爆装置じゃないですかそれじゃ!!
どうしよう、ツッコミどころが多すぎて何処から突っ込めばいいのかわからない!!?
あぁ、おちつけ。落ち着くんだ射命丸文。
そもそもの話、こんなの椛の冗談に決まってるじゃないですか。うん、冗談に決まってる。
「とりあえず、これと文さんのカメラと、それからフィルムと。必要なものはそろってますよね?」
「え? あぁ、うん」
先ほどのカメラと、自分の取材道具を一式袋のまま渡される。
中身を確認すれば、使いなじんだカメラと手帳、フィルムにペンと一通り必要なものは全てそろっていた。
まったく、なんだかんだといって漏れがないのは優秀だなぁ椛は。
「それにしても、こっちのカメラは使うことあるのかしらねぇ。あ、シャッターボタンはここ?」
かちっ! ズドォォォォォォォォォォォォォォォォンっ!!
はるか遠方から、大地を揺るがすような大轟音が響き渡った。
うっかりシャッターボタンを押したまま、恐る恐る後ろを振り返る。
すると、妖怪の山の方角から巨大なきのこ雲が立ち上っているのが目に映った。
『……』
私はおろか、椛すらもぼーぜんとした様子で妖怪の山から立ち上るきのこ雲を眺めている。
きのこ雲はやがて妖怪の山の頭上を覆いつくし、妖怪の山を一層物々しい姿に変貌させた。
お互い、まさかの事態に硬直すること約数十秒。
「さ、行きましょう文さん」
「え、スルー!!? あの大爆発スルーするの!!?」
「にとりなら大丈夫です。遺骨は拾っておきますから」
「それって大丈夫じゃないわよねぇぇぇぇ!!?」
私のツッコミもなんのその。一人そそくさと幽霊屋敷に入っていく椛はなんてフリーダム!
ごめんね、にとり。今度、きゅうり持ってお見舞い行くから許して頂戴!!
▼
びゅーっという風の音が人の声に聞こえるなんていうことは結構ざらにあるわけで。
ソレが寂れたボロボロの日本家屋ともなればなおさらで、先ほどから風の音なんだか人の唸り声なんだかわからない音が私の耳に届いている。
襖は破れ、歩くたびにギィギィと床が軋み、些細なシミさえ人の顔に見えてしまう。
うん駄目、やっぱ怖い、帰りたい。帰って椛をモフモフしたいです、安西先生。
「文さん、なんで手を握るんですか?」
「し、知ってるでしょう! 私が幽霊とか駄目なの!」
「……まだ駄目だったんですか、幽霊」
うぅ、仕方ないじゃないですか。怖いもんは怖いんですから。
ゴキブリを嫌いな人が一生ゴキブリが苦手なままと同じ理論です。私も駄目ですけどねゴキブリ!
はぁっと盛大なため息をつく椛。そりゃ、妖怪として幽霊が駄目ってどうなのよって思うのはわかるんですけど、そんなあからさまにため息つかなくてもいいじゃない。
あー、欝だ。死にたい。
「わかりました。私の手、放さないでくださいよ」
「へ? あ、うん!!」
握っていた手を、強く強く握り締めてくれる。
その暖かさが嬉しくて、先ほどまで感じていた憂鬱も吹っ飛んでしまうのだから、我ながら現金な性格だ。
普段は冷たくてそっけないくせに、こういう時は変に優しいんだから。
出来るなら、ずっとこうしていたい。今なら、この幽霊屋敷の雰囲気も何もかもが気にならない。
最初はあんまり乗り気じゃなかったけれど、今ならこの企画も良かったと思―――
『あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛』
「出たぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁあ!!!!?」
思えるかぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁ!!
チクショウ空気読みなさいよこの悪霊!! 私の幸せな椛とのシンキングタイムを返せ馬鹿!!
なんて、文句言える度胸があったら悲鳴なんて上げないわけで、しかもこの悪霊は私のことを狙いに定めたらしい。
日本特有の着物を着込んだ血まみれの男の亡霊が、ゆらりゆらりと恐怖を煽るように歩いてくる。
「あ、こんにちわ。お邪魔してます」
……椛さんパネェッス。何普通に挨拶してんの。
いや、妖怪としてはあるべき姿かもしれないけど、メッチャ顔が素なんですけどこの子。
と、そんな感想を抱いている私に、彼女が小声で言葉を投げかける。
「文さん、カメラを使ってください」
「え、何でカメラ?」
「文さんのカメラ、にとりに改造してもらって対幽霊用になってます」
あー、撮影して悪霊を封印するとかそんな感じですかね?
……なんか、風祝の方がそういう除霊方法でがんばるゲーム持ってた気がするんですけど、その影響じゃないよね椛?
とにもかくにも、このままじゃ持たない。主に私のガラスの精神が。
カメラを取り出し、意を決してカメラを構えてみる。もともと、新聞の特集のつもりで訪れたのだから、どのみちこうしなきゃいけなかったのだ。
ピントを合わせ、悪霊を中心に移りこむようにカメラを調整する。
そうして、私はバクバクと鳴っている心臓の音を聞きながら、意を決してシャッターを切った。
カシャッ! デロデロデロデロデロデロデロ……。
……Why?
「レンズから赤味噌が出ます」
「人のカメラに何してんですか!!?」
「いえ、万が一失踪した時に赤味噌があればしばらく生き残れるかと思って。栄養価高いですし」
「何の心配してるのよ!!? 失踪する事前提なの!!?」
私今何のためにシャッター切ったの!!? 私の決死の覚悟返してよ!!?
ていうか元に戻りますよね私のカメラ。戻ると言ってくださいよ椛さん!!?
「文さん、何してるんですか! その赤味噌を悪霊に投げつけてください!! その赤味噌にお清めの塩が混ざってますから!!」
「普通に塩を持って来ましょうよ!? 何のために私のカメラこんな魔改造したんですか!!?」
「いや、なんというかその場のノリで」
「ノリ!!?」
なんか凄まじい答えが返ってきた。
怒ればいいのか泣けばいいのか、もういろんな感情がごちゃ混ぜになって心が感情をもてあましてる。
もう自棄っぱちだ。というか、自棄になることでしか感情を向けられなかったといったほうが正しい。
床にこぼれた赤味噌を手で掴み、思いっきり幽霊にスローイン。赤味噌が幽霊に着弾した瞬間。
ジュウウゥゥゥゥゥゥゥゥゥゥゥゥゥゥゥ!!
『ギャアァァァァァァァァァァァァァァァァァァァッ!!』
もれなく幽霊が硫酸かけられたかのごとく溶け出した。わーお、グロテスク。
見る見る内に小さくなっていく幽霊。やがて空気に溶けたかのように消えていく。
後に残るのは、呪いの音叉にも似た風の音だけ。味噌独特な匂いが鼻についたが、ソレも今はどうでもいい。
「……椛、カメラ直るよね?」
「さーて、奥に行きましょう文さん」
「ちょ、何で答えないのよ!? 答えなさいよ!! ていうかむしろ直るって言ってよ椛ぃぃぃぃぃぃぃ!!!」
▼
さて、私の相棒のカメラが殉職して悲しむ暇も有らばこそ、私達二人は屋敷の奥へ奥へと歩き続けた。
地下に進む階段を見つけた私達は、暗闇の先を注意深く見ながら足を進める。
とりあえず、現れる悪霊は片っ端から味噌を投げつけて成仏してもらったのだが、その光景は余りにもシュールすぎるんで黙秘権を行使させていただきたい。
唯一の収穫はというと、ずっと椛が手を握ってくれていたことだろうか。
さすがに味噌を握った手をつないでるわけじゃないけど、ソレだけが今の私の唯一の心のよりどころだ。
赤味噌握った手、匂い残ったりしないといいんだけどなぁ。帰ったら洗おう、うん。念入りに。
手から味噌の匂いがする女なんて嫌過ぎる。
「……声?」
「へ? 声?」
ふと、椛が立ち止まって呟いた言葉。
私も思わず立ち止まり、彼女の言葉を反芻するように声を零す。
椛は見回り組みの一員だ。こういった音を聞き分けたり、遠くを見たりなんていうのは慣れっこだから、多分間違いない。
「また幽霊ですか。もう赤味噌無いですよ?」
「困りましたね。素直に塩をもってくるべきでした」
……いや、今更のようにそこを後悔されても困るんですけど。
ていうか、本当に今更過ぎる。最初ッから塩をもってくれば、私のカメラが殉職することも、私の手が赤味噌の匂いに塗れる事もなかったのに。
あ、やばい。ちょっと涙出てきた。
とにもかくにも、大事な相棒を亡くしたからにはこのままけるなんてことは出来るはずもない。
しばらく歩き続けていけば、一段と広い広場に出た私達は、あらためてその光景を目撃することになった。
ここまでくれば、私にもその姿が見えてくる。
広場の中央にはそれぞれ赤と黒の着物を着た二人の侍の霊、この場所には広場を照らすように明かりが灯り、彼らの姿をより鮮明にさせた。
二人の中央には一振りの剣が突き立っており、ソレは私の目から見ても一目でも業物だとわかるほどの一品だ。
『だーから、コレはオレのだって言ってんだろーが!!』
『ふざけんじゃねーよ、コイツはオレのだボケ!! 卑怯な手を使ったお前の反則負けだっただろうが!!』
『ちげーよ相打ちだよ相打ち!! 負けてませーん、勝負はまだついてませーん!!』
……問題は、こいつらの口論が果てしなく低レベルだってことぐらいだろうか。
どうやらあの剣をめぐって口論しているらしいが、こいつら自分が死んでいるっていう自覚があるのかしら?
何しろ、霊体の足元辺りには白骨化した二つの遺体。一体、どれだけの時間口論してたのか知らないが、まさかずっと口喧嘩してたんだろうか?
というより、口論の内容が幼稚すぎる。
「あ、すみませーん文々。新聞でーす」
「椛ぃぃぃぃぃぃ!!?」
何ナチュラルに話しかけに行ってんですかあの子!!?
軽やかな足取りで赤と黒の幽霊二人組みに向かう彼女を見て、彼らも椛のことに気がついたらしく口論を止める。
『あー? 今ちょっと立て込んでんだよ。家は今新聞とか取ってないから。早く帰った帰った』
そしてお前らいつの幽霊!!? 絶対最近よねアンタ!!? 何で新聞とか知ってんの!!?
「いや、すみません。何を口論してるのかと思いまして」
『いやー、実はな。俺たちこの刀をかけて勝負してたんだけっどもよぉ、相打ちになっちまっておっ死んじまってな、それで今まで口論してたんだわ』
そして椛の問いにフランクに答えてくれる幽霊二人組。いや、どっちかって言うと亡霊といったほうが正しいのだろうか。
供養されないまま残っちゃったから、今の今までこうやって口論し続けていたらしい。
そりゃ、こんな幽霊屋敷の地下深くにあったら、普通は遺体があるなんて気付かないわよねぇ。
「この刀が欲しかったんですか」
そういって、おもむろに刀を引き抜く白狼天狗の椛さん。まじまじと刀を見つめ、そして両端を掴んで横にして目の前に持ってくる。
あ、すっごい嫌な予感がするんだけど。
「お二人ともこの刀が欲しい。けれども、刀はひとつしかないから、争いをして命を落としたと。今もまだ欲しいのですか?」
『おうよ』
椛の問いかけに、亡霊二人は同時に肯いて肯定の意を示してみせる。
一瞬、椛は瞠目して何事か考え込んでいたのか、すぐにまた目を開き。
「なら、これで半分こですっ!!」
ボキィッ!!
『圧し折ったぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁ!?』
私と亡霊のツッコミが見事にハモる。
いや、確かに半分こだけど。確かに半分こだけども!!?
『お嬢ちゃん何してんだ!!?』
「あ、すみません。私のサド心に火がついてしまいまして」
「椛、ソレ全然謝ってないって!!? 火事現場に油を撒き散らすかのごとき所業よ!!?」
私のツッコミにも椛は特に気にした風もなく、動じた様子は微塵もない。
ごめん、その鋼の心を私にも分けてもらえませんか。いやマジな話。
そして案の定、怒り狂う亡霊二人組み。
『嬢ちゃん、てめぇが何したかわかってんのか?』
「いや、争いの元になるぐらいならいっその事と思いまして」
「発想が男らしすぎるよこの子!!?」
うん、そんなところも好きなんですけどね。何もこの場でソレを発揮しなくてもいいじゃないの!!?
刀を抜く二人の亡霊。舌打ちひとつして、私は愛用の天狗の団扇を取り出した。
あぁもう、相変わらず幽霊やらなにやらに関わると碌な事がないんだから!
真正面から戦う気なんて更々ない。連中の厄介さは除霊して成仏させなきゃいけないってことだ。
つまり、除霊できない私が戦ったって時間の無駄に過ぎないのだ。
これからどう逃げるか、地上までの道のりを頭に思い描き、逃走経路を瞬時に割り出して選別する。
そんなときだっただろうか、そいつが現れたのは。
「破ぁーーーーーーーー!!」
一喝する叫び声。乱れ飛ぶ青白い光弾が降り注ぎ、侍の亡霊二人組みをまとめてすっ飛ばした。
もちろん、いきなりの事態に私と椛は呆然とするしかないわけで。
「ふぅ、危なかったですね。他の霊の方に除霊を依頼されてきたんですが、早めに来て正解でした」
声は、私達の後方から聞こえた。
ふと後ろを振り向けば、金髪に黒のメッシュが入った、何処か仏門をイメージさせる女性が立っている。
「危ないところを助けていただいて助かりました。ところで、貴女は?」
「いえいえ、名乗るほどのものじゃありませんよ。そうですね」
椛の問いに目の前の女性は苦笑し、ウインクをひとつして一言。
「寺生まれのTとだけ、名乗っておきましょうか」
……寺生まれって、すごい。
▼
「はぁ、もう本当に散々だったわ」
心底疲れきったようにため息をつき、私は紛れもない本心を言葉にした。
結局取材はうまくいかないし、何もかもが散々だ。
帰って風呂に入って、ベッドの上で飽きるほど眠りたい。そんな気持ちだ。
「すみません、文さん。今度、お詫びに何かおごりますよ」
「そう? なら期待しちゃおうかしら」
くすくすと笑いながら、私達は屋敷の出口を目指して歩く。
どうやらもうすっかり朝方になっていたようで、もう少しすれば太陽の光も空高く上ることだろう。
外は朝霧に包まれて、きっと優雅な光景をさらしているに違いない。
先ほどの寺生まれさんこと寅丸星さんは、事後処理のためにあの場に残られました。
毘沙門天の代理ってことですから、ここにいる霊の未練を解消させて成仏させてやるつもりなんでしょう。生真面目なことだ。
「椛~、帰ったら何か作ってくれません?」
「いいですよ別に。今回は迷惑かけましたし、そのぐらいなら喜んで」
「じゃ、私はハンバーグがいいかな。椛が作るの美味しいから」
「わかりました。腕によりをかけて作りましょう」
そうお互いに笑いあいながら、私達は屋敷の入り口に手をかけた。
なんだかんだと色々会ったが、まぁ楽しかったからよしとしよう。
悪いことばかりでもなかったし、こうやって椛の手料理にもありつけたことだし、結果オーライだ。
ガラガラと引き戸を開け、朝焼けが視界に飛び込んで―――
「あ」
来る前に、ところどころ黒コゲになっているにとりがそこに仁王立ちしてた。
その顔、恐ろしい顔は般若のごとく。鬼の面でも被ってんじゃないかと錯覚してしまいそうな恐ろしい形相だ。
「おい、お前ら表に出ろ」
はっはっは、やばい。完全に忘れてた。
時刻はまさに、私達妖怪の時間。この時間帯に外を歩き回る人間はおらず、私は首に巻いたマフラーのありがたみを噛み締めながら肩をすくめた。
あ、申し遅れました。私、清く正しいをモットーにしている新聞記者、射命丸文です。
私がいる場所は、人里のはるかはずれに存在する古びた日本家屋の前。今は誰も住んでおらず、ボロボロに打ち捨てられたその屋敷には、人ならざる者の気配がひしひしと感じられた。
つまり、幽霊。あるいはゴーストと呼ぶべき連中の住処なのである。この屋敷は。
「椛、遅いわねぇ。もう、取材道具持ってくるのにどれだけ時間がかかってるのよ」
一人愚痴を零しながら、はぁっと吐息を零せば、真っ白な息が溶けて消える。
体の震えを誤魔化すようにジャンプして見るが、ちっとも暖まりゃしない。
あぁ、こんなことならミニスカートなんてはいてくるんじゃなかったと思ったが、今更そんなことを思ったって仕方がない。
この体の震えは、何もこの空気の読めない寒さだけが原因じゃない。
非常に言い難い事実なのだけど―――私、困ったことに幽霊って言う奴が大の苦手なのである。
千年近くも生きておいて何を言っているんだと言う方も多いだろうけれど、駄目なものは駄目なんだから仕方がない。
幽々子さんはまだいいですよ? ちょっと危ないですが分別はあるほうですし。
妖夢さんも生真面目で好感の持てる方ですし、こっちも苦手意識は余りありません。
問題なのは―――人に悪意を持って害をなす悪霊という連中だ。
昔っから、私はその悪霊という奴に関わると、決まって碌な目にあわなかったのである。
それであれよあれよと幽霊が苦手になっていき、今じゃ夜に一人だと仕事に打ち込んでなきゃ不安で仕方ないくらい。
「あー、やっぱやめようかなぁ。でも、霊夢から直々のリクエストだものねぇ」
寒さを誤魔化すように呟いては見たものの、やっぱりそれでも寒気って言うものは中々消えない。
そも、何ゆえあの巫女は私のピンポイントで嫌いな心霊スポット特集をリクエストしやがるのか。
私が何か特集のリクエストを聞いたからって、直感にしたがって嫌がらせに来たのかと疑ってしまう。
リクエストされたからには、ちゃんとやり遂げるのが新聞記者としてのケジメだ。嫌いだからって、投げ出すなんて無様、この射命丸文に出来るものか!
……などと、意気込んでいたのは少し前までの話。ぶっちゃけると、怖くて怖くて堪らんとです。
天魔様、もう帰りたいです。寒いし怖いしなんか気配するし。
私、がんばったよね? もう、ゴールしていいよね?
「文さーん、撮影道具とってきましたよー」
「待ってました椛!! キスしていいですか!!?」
「やめてください、投げ飛ばしますよ。バックドロップで」
ようやく来ましたよ私の救世主様! 冷たい視線も冷たい言葉もご愛嬌、犬走椛!!
天狗では下っ端の白狼天狗、だけど私の一番のお気に入り。見た目の可愛さとは裏腹にナチュラルに毒を吐く彼女が堪りません!!
「もー、何処に行ってたの椛~。随分遅かったじゃない」
「すんません、散歩してたもんで」
……わー、椛ってば正直さん。泣いていいですかね、私。
「文さん、いじけないでください。冗談ですから」
「ふーんだ、どうせ他の女のところに行ってたんでしょー」
「よくわかりましたね。確かににとりのとこには行ってましたけど」
「なんですとぉ!!?」
どちらかというとそっちを否定して欲しかったんですけど!!? 何ナチュラルに肯定しよっとねこの子は!!?
私が大仰に驚いたのを見て、彼女はなぜか盛大にため息をつくのですが……なんかものすごく納得いかない。
「文さん、別ににとりのとこに行ったのはやましい理由じゃなくて、コレをもらってきたからですよ」
「……何、これ。普通のカメラ……じゃないわね。少し年代モノっぽいけど、霊力を感じますし」
ため息と共に彼女が取り出したのは、少々年代を感じる古いカメラ。
なにやら妙な気配を感じるカメラなんですが、コレが中々強力な力を秘めているらしく、私の背筋に嫌な寒気を感じるほどだ。
明らかに、普通のカメラなんかじゃない。すると彼女は私の疑問に答えるように、指をぴんっと立てて言葉を紡ぐ。
「にとりの発明品のひとつでして、対幽霊用のカメラです。ボタンを押すと爆発します」
「使えるかっ!!」
私を殺す気かこの子は!?
「にとりがですけど」
「何故ッ!?」
ただの自爆装置じゃないですかそれじゃ!!
どうしよう、ツッコミどころが多すぎて何処から突っ込めばいいのかわからない!!?
あぁ、おちつけ。落ち着くんだ射命丸文。
そもそもの話、こんなの椛の冗談に決まってるじゃないですか。うん、冗談に決まってる。
「とりあえず、これと文さんのカメラと、それからフィルムと。必要なものはそろってますよね?」
「え? あぁ、うん」
先ほどのカメラと、自分の取材道具を一式袋のまま渡される。
中身を確認すれば、使いなじんだカメラと手帳、フィルムにペンと一通り必要なものは全てそろっていた。
まったく、なんだかんだといって漏れがないのは優秀だなぁ椛は。
「それにしても、こっちのカメラは使うことあるのかしらねぇ。あ、シャッターボタンはここ?」
かちっ! ズドォォォォォォォォォォォォォォォォンっ!!
はるか遠方から、大地を揺るがすような大轟音が響き渡った。
うっかりシャッターボタンを押したまま、恐る恐る後ろを振り返る。
すると、妖怪の山の方角から巨大なきのこ雲が立ち上っているのが目に映った。
『……』
私はおろか、椛すらもぼーぜんとした様子で妖怪の山から立ち上るきのこ雲を眺めている。
きのこ雲はやがて妖怪の山の頭上を覆いつくし、妖怪の山を一層物々しい姿に変貌させた。
お互い、まさかの事態に硬直すること約数十秒。
「さ、行きましょう文さん」
「え、スルー!!? あの大爆発スルーするの!!?」
「にとりなら大丈夫です。遺骨は拾っておきますから」
「それって大丈夫じゃないわよねぇぇぇぇ!!?」
私のツッコミもなんのその。一人そそくさと幽霊屋敷に入っていく椛はなんてフリーダム!
ごめんね、にとり。今度、きゅうり持ってお見舞い行くから許して頂戴!!
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びゅーっという風の音が人の声に聞こえるなんていうことは結構ざらにあるわけで。
ソレが寂れたボロボロの日本家屋ともなればなおさらで、先ほどから風の音なんだか人の唸り声なんだかわからない音が私の耳に届いている。
襖は破れ、歩くたびにギィギィと床が軋み、些細なシミさえ人の顔に見えてしまう。
うん駄目、やっぱ怖い、帰りたい。帰って椛をモフモフしたいです、安西先生。
「文さん、なんで手を握るんですか?」
「し、知ってるでしょう! 私が幽霊とか駄目なの!」
「……まだ駄目だったんですか、幽霊」
うぅ、仕方ないじゃないですか。怖いもんは怖いんですから。
ゴキブリを嫌いな人が一生ゴキブリが苦手なままと同じ理論です。私も駄目ですけどねゴキブリ!
はぁっと盛大なため息をつく椛。そりゃ、妖怪として幽霊が駄目ってどうなのよって思うのはわかるんですけど、そんなあからさまにため息つかなくてもいいじゃない。
あー、欝だ。死にたい。
「わかりました。私の手、放さないでくださいよ」
「へ? あ、うん!!」
握っていた手を、強く強く握り締めてくれる。
その暖かさが嬉しくて、先ほどまで感じていた憂鬱も吹っ飛んでしまうのだから、我ながら現金な性格だ。
普段は冷たくてそっけないくせに、こういう時は変に優しいんだから。
出来るなら、ずっとこうしていたい。今なら、この幽霊屋敷の雰囲気も何もかもが気にならない。
最初はあんまり乗り気じゃなかったけれど、今ならこの企画も良かったと思―――
『あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛』
「出たぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁあ!!!!?」
思えるかぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁ!!
チクショウ空気読みなさいよこの悪霊!! 私の幸せな椛とのシンキングタイムを返せ馬鹿!!
なんて、文句言える度胸があったら悲鳴なんて上げないわけで、しかもこの悪霊は私のことを狙いに定めたらしい。
日本特有の着物を着込んだ血まみれの男の亡霊が、ゆらりゆらりと恐怖を煽るように歩いてくる。
「あ、こんにちわ。お邪魔してます」
……椛さんパネェッス。何普通に挨拶してんの。
いや、妖怪としてはあるべき姿かもしれないけど、メッチャ顔が素なんですけどこの子。
と、そんな感想を抱いている私に、彼女が小声で言葉を投げかける。
「文さん、カメラを使ってください」
「え、何でカメラ?」
「文さんのカメラ、にとりに改造してもらって対幽霊用になってます」
あー、撮影して悪霊を封印するとかそんな感じですかね?
……なんか、風祝の方がそういう除霊方法でがんばるゲーム持ってた気がするんですけど、その影響じゃないよね椛?
とにもかくにも、このままじゃ持たない。主に私のガラスの精神が。
カメラを取り出し、意を決してカメラを構えてみる。もともと、新聞の特集のつもりで訪れたのだから、どのみちこうしなきゃいけなかったのだ。
ピントを合わせ、悪霊を中心に移りこむようにカメラを調整する。
そうして、私はバクバクと鳴っている心臓の音を聞きながら、意を決してシャッターを切った。
カシャッ! デロデロデロデロデロデロデロ……。
……Why?
「レンズから赤味噌が出ます」
「人のカメラに何してんですか!!?」
「いえ、万が一失踪した時に赤味噌があればしばらく生き残れるかと思って。栄養価高いですし」
「何の心配してるのよ!!? 失踪する事前提なの!!?」
私今何のためにシャッター切ったの!!? 私の決死の覚悟返してよ!!?
ていうか元に戻りますよね私のカメラ。戻ると言ってくださいよ椛さん!!?
「文さん、何してるんですか! その赤味噌を悪霊に投げつけてください!! その赤味噌にお清めの塩が混ざってますから!!」
「普通に塩を持って来ましょうよ!? 何のために私のカメラこんな魔改造したんですか!!?」
「いや、なんというかその場のノリで」
「ノリ!!?」
なんか凄まじい答えが返ってきた。
怒ればいいのか泣けばいいのか、もういろんな感情がごちゃ混ぜになって心が感情をもてあましてる。
もう自棄っぱちだ。というか、自棄になることでしか感情を向けられなかったといったほうが正しい。
床にこぼれた赤味噌を手で掴み、思いっきり幽霊にスローイン。赤味噌が幽霊に着弾した瞬間。
ジュウウゥゥゥゥゥゥゥゥゥゥゥゥゥゥゥ!!
『ギャアァァァァァァァァァァァァァァァァァァァッ!!』
もれなく幽霊が硫酸かけられたかのごとく溶け出した。わーお、グロテスク。
見る見る内に小さくなっていく幽霊。やがて空気に溶けたかのように消えていく。
後に残るのは、呪いの音叉にも似た風の音だけ。味噌独特な匂いが鼻についたが、ソレも今はどうでもいい。
「……椛、カメラ直るよね?」
「さーて、奥に行きましょう文さん」
「ちょ、何で答えないのよ!? 答えなさいよ!! ていうかむしろ直るって言ってよ椛ぃぃぃぃぃぃぃ!!!」
▼
さて、私の相棒のカメラが殉職して悲しむ暇も有らばこそ、私達二人は屋敷の奥へ奥へと歩き続けた。
地下に進む階段を見つけた私達は、暗闇の先を注意深く見ながら足を進める。
とりあえず、現れる悪霊は片っ端から味噌を投げつけて成仏してもらったのだが、その光景は余りにもシュールすぎるんで黙秘権を行使させていただきたい。
唯一の収穫はというと、ずっと椛が手を握ってくれていたことだろうか。
さすがに味噌を握った手をつないでるわけじゃないけど、ソレだけが今の私の唯一の心のよりどころだ。
赤味噌握った手、匂い残ったりしないといいんだけどなぁ。帰ったら洗おう、うん。念入りに。
手から味噌の匂いがする女なんて嫌過ぎる。
「……声?」
「へ? 声?」
ふと、椛が立ち止まって呟いた言葉。
私も思わず立ち止まり、彼女の言葉を反芻するように声を零す。
椛は見回り組みの一員だ。こういった音を聞き分けたり、遠くを見たりなんていうのは慣れっこだから、多分間違いない。
「また幽霊ですか。もう赤味噌無いですよ?」
「困りましたね。素直に塩をもってくるべきでした」
……いや、今更のようにそこを後悔されても困るんですけど。
ていうか、本当に今更過ぎる。最初ッから塩をもってくれば、私のカメラが殉職することも、私の手が赤味噌の匂いに塗れる事もなかったのに。
あ、やばい。ちょっと涙出てきた。
とにもかくにも、大事な相棒を亡くしたからにはこのままけるなんてことは出来るはずもない。
しばらく歩き続けていけば、一段と広い広場に出た私達は、あらためてその光景を目撃することになった。
ここまでくれば、私にもその姿が見えてくる。
広場の中央にはそれぞれ赤と黒の着物を着た二人の侍の霊、この場所には広場を照らすように明かりが灯り、彼らの姿をより鮮明にさせた。
二人の中央には一振りの剣が突き立っており、ソレは私の目から見ても一目でも業物だとわかるほどの一品だ。
『だーから、コレはオレのだって言ってんだろーが!!』
『ふざけんじゃねーよ、コイツはオレのだボケ!! 卑怯な手を使ったお前の反則負けだっただろうが!!』
『ちげーよ相打ちだよ相打ち!! 負けてませーん、勝負はまだついてませーん!!』
……問題は、こいつらの口論が果てしなく低レベルだってことぐらいだろうか。
どうやらあの剣をめぐって口論しているらしいが、こいつら自分が死んでいるっていう自覚があるのかしら?
何しろ、霊体の足元辺りには白骨化した二つの遺体。一体、どれだけの時間口論してたのか知らないが、まさかずっと口喧嘩してたんだろうか?
というより、口論の内容が幼稚すぎる。
「あ、すみませーん文々。新聞でーす」
「椛ぃぃぃぃぃぃ!!?」
何ナチュラルに話しかけに行ってんですかあの子!!?
軽やかな足取りで赤と黒の幽霊二人組みに向かう彼女を見て、彼らも椛のことに気がついたらしく口論を止める。
『あー? 今ちょっと立て込んでんだよ。家は今新聞とか取ってないから。早く帰った帰った』
そしてお前らいつの幽霊!!? 絶対最近よねアンタ!!? 何で新聞とか知ってんの!!?
「いや、すみません。何を口論してるのかと思いまして」
『いやー、実はな。俺たちこの刀をかけて勝負してたんだけっどもよぉ、相打ちになっちまっておっ死んじまってな、それで今まで口論してたんだわ』
そして椛の問いにフランクに答えてくれる幽霊二人組。いや、どっちかって言うと亡霊といったほうが正しいのだろうか。
供養されないまま残っちゃったから、今の今までこうやって口論し続けていたらしい。
そりゃ、こんな幽霊屋敷の地下深くにあったら、普通は遺体があるなんて気付かないわよねぇ。
「この刀が欲しかったんですか」
そういって、おもむろに刀を引き抜く白狼天狗の椛さん。まじまじと刀を見つめ、そして両端を掴んで横にして目の前に持ってくる。
あ、すっごい嫌な予感がするんだけど。
「お二人ともこの刀が欲しい。けれども、刀はひとつしかないから、争いをして命を落としたと。今もまだ欲しいのですか?」
『おうよ』
椛の問いかけに、亡霊二人は同時に肯いて肯定の意を示してみせる。
一瞬、椛は瞠目して何事か考え込んでいたのか、すぐにまた目を開き。
「なら、これで半分こですっ!!」
ボキィッ!!
『圧し折ったぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁ!?』
私と亡霊のツッコミが見事にハモる。
いや、確かに半分こだけど。確かに半分こだけども!!?
『お嬢ちゃん何してんだ!!?』
「あ、すみません。私のサド心に火がついてしまいまして」
「椛、ソレ全然謝ってないって!!? 火事現場に油を撒き散らすかのごとき所業よ!!?」
私のツッコミにも椛は特に気にした風もなく、動じた様子は微塵もない。
ごめん、その鋼の心を私にも分けてもらえませんか。いやマジな話。
そして案の定、怒り狂う亡霊二人組み。
『嬢ちゃん、てめぇが何したかわかってんのか?』
「いや、争いの元になるぐらいならいっその事と思いまして」
「発想が男らしすぎるよこの子!!?」
うん、そんなところも好きなんですけどね。何もこの場でソレを発揮しなくてもいいじゃないの!!?
刀を抜く二人の亡霊。舌打ちひとつして、私は愛用の天狗の団扇を取り出した。
あぁもう、相変わらず幽霊やらなにやらに関わると碌な事がないんだから!
真正面から戦う気なんて更々ない。連中の厄介さは除霊して成仏させなきゃいけないってことだ。
つまり、除霊できない私が戦ったって時間の無駄に過ぎないのだ。
これからどう逃げるか、地上までの道のりを頭に思い描き、逃走経路を瞬時に割り出して選別する。
そんなときだっただろうか、そいつが現れたのは。
「破ぁーーーーーーーー!!」
一喝する叫び声。乱れ飛ぶ青白い光弾が降り注ぎ、侍の亡霊二人組みをまとめてすっ飛ばした。
もちろん、いきなりの事態に私と椛は呆然とするしかないわけで。
「ふぅ、危なかったですね。他の霊の方に除霊を依頼されてきたんですが、早めに来て正解でした」
声は、私達の後方から聞こえた。
ふと後ろを振り向けば、金髪に黒のメッシュが入った、何処か仏門をイメージさせる女性が立っている。
「危ないところを助けていただいて助かりました。ところで、貴女は?」
「いえいえ、名乗るほどのものじゃありませんよ。そうですね」
椛の問いに目の前の女性は苦笑し、ウインクをひとつして一言。
「寺生まれのTとだけ、名乗っておきましょうか」
……寺生まれって、すごい。
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「はぁ、もう本当に散々だったわ」
心底疲れきったようにため息をつき、私は紛れもない本心を言葉にした。
結局取材はうまくいかないし、何もかもが散々だ。
帰って風呂に入って、ベッドの上で飽きるほど眠りたい。そんな気持ちだ。
「すみません、文さん。今度、お詫びに何かおごりますよ」
「そう? なら期待しちゃおうかしら」
くすくすと笑いながら、私達は屋敷の出口を目指して歩く。
どうやらもうすっかり朝方になっていたようで、もう少しすれば太陽の光も空高く上ることだろう。
外は朝霧に包まれて、きっと優雅な光景をさらしているに違いない。
先ほどの寺生まれさんこと寅丸星さんは、事後処理のためにあの場に残られました。
毘沙門天の代理ってことですから、ここにいる霊の未練を解消させて成仏させてやるつもりなんでしょう。生真面目なことだ。
「椛~、帰ったら何か作ってくれません?」
「いいですよ別に。今回は迷惑かけましたし、そのぐらいなら喜んで」
「じゃ、私はハンバーグがいいかな。椛が作るの美味しいから」
「わかりました。腕によりをかけて作りましょう」
そうお互いに笑いあいながら、私達は屋敷の入り口に手をかけた。
なんだかんだと色々会ったが、まぁ楽しかったからよしとしよう。
悪いことばかりでもなかったし、こうやって椛の手料理にもありつけたことだし、結果オーライだ。
ガラガラと引き戸を開け、朝焼けが視界に飛び込んで―――
「あ」
来る前に、ところどころ黒コゲになっているにとりがそこに仁王立ちしてた。
その顔、恐ろしい顔は般若のごとく。鬼の面でも被ってんじゃないかと錯覚してしまいそうな恐ろしい形相だ。
「おい、お前ら表に出ろ」
はっはっは、やばい。完全に忘れてた。
あまりの刊行ペースの早さにただただ脱帽ッス。
新道wwはじっこネタがちょくちょく出てくるな。
元ネタは全然わかんなかったけど面白かった。
全然関係ないけどオリンピックの開会式で椛の盾持った人たちがいっぱい走り回ってて笑ったww
椛さん、Tさん……マジぱねぇッス
なんというかっこいい椛とTさん……。
だがにとり、怒ってるけど原因はお前がつけた機能だからw