※序盤と最後にパロネタが少しあります。
話の大筋には関係ありませんが、分からない方はごめんなさい。
あたいの主、さとり様はかなりの料理好きだ。
趣味は何かと言われれば間違いなく読書と料理と答えるだろう。
一人でいて暇な時間は大抵そのどちらかで過ごしているらしい。
暇でない時間に何をしているかと言えば、料理以外の家事をこなしたりペットの世話をしたりしている。
きっとさとり様は良いお嫁さんになれるに違いない。
本人曰く
「旧地獄跡の管理をお燐とお空が担当してくれるようになったから、
安心して趣味に時間を使えるようになったんですよ。」
とのことだ。
もっとも、こいし様との関係が上手くいってなかった頃はどちらかと言えば
余計なことを考えないために何かをしているという節があったが、
今では心から趣味を楽しんでいる様子である。
そんな訳であたい達は食べる専門だったのだが、ある日突然、さとり様に料理を教わりたいと思った。
楽しそうに料理をするさとり様を見ると、何だか自分もやってみたくなってしまうのである。
それでゆくゆくはお空にお弁当を作ったりなんかして、二人っきりでピクニックに……。
はっ!危ない危ない。まだ妄想するには早い。
そんな訳で今あたいは地霊殿の台所の前にいたりする。
実際に料理をする姿を見て、勉強するつもりだ。
それでは、実際にさとり様の台所をのぞいてみよう。
ガチャッ
「さとり様、失礼しま……」
カッ!
あたいのすぐ左を包丁が掠めていった。
ドアの横の壁に突き刺さった。
「のぞき見に入って来たというわけデスカァーッ!!!」
バタン。
あたいは無言で扉を閉めた。
よし、落ち着いて状況を整理してみよう。
あたいのいる場所は地霊殿だ。それは間違いない。
そしてこのドアはさとり様の台所に繋がっている。それも間違いない。
で、ドアを開けたらコック帽をかぶったイタリアンなシェフがいた。これも間違いない。
なんだ、何も問題ないじゃないか。
「いやいやいやいや!」
明らかに最後がおかしいから!
あれは幻覚だ。そうに違いないと自分に言い聞かす。
そうだ。昨日は結構張り切って死体運びの仕事をしたから疲れているんだ。
そうに違いない。よし、落ち着いた。
再びドアを開ける。
ガチャッ
「さとり様、ちょっとお願いしたいことが」
「ただじゃあおきませンッ!覚悟してもらいマスッ!」
イタリアンなシェフがものっそい形相で石鹸を振り上げて迫ってきた。
普通に泣きそうになるほど怖かった。
バタン。
あたいはまたも無言で扉を閉めた。
落ち着け、まだ慌てるような時間じゃない。
ここは地霊殿のはずだ。はずだよ……ね……?何か自信なくなってきた。
深呼吸を1つ、2つ、3つ、ダー!
よし、落ち着いた。
しかしこのままドアを開けても先ほどの二の舞になるだろう。
あたいはきびすを返して洗面所へと向かい、石鹸で手を洗う。
何故そうしたかは分からないが、こうしなければいけない気がした。
野生の勘というやつだ。
そして再び台所へと戻る。
ガチャッ。
「あ、あの、さとり様いますか……?」
びくびくしながらドアを開ける。
これでもう一度あのシェフが出てきたらもうあたいは駄目かもしれない。
「あら、お燐。何か用かしら?」
あたいの視線の先にはピンクの薔薇のエプロンをしたさとり様がいた。
見慣れているはずのその姿が、今は何よりも輝いて見える。
思わず涙ぐんでしまいそうになる自分を必死に抑える。
「えっと、さとり様、さっきここに誰かいませんでした?」
「おかしなことを聞く子ですね。ここには私以外誰も入っていませんよ?」
「そ、そうですよね!いや、変なこと聞いてすいませんでした。」
うん、やっぱりあれはあたいの幻覚だったんだ。間違いない。
チラッとドアの左の壁を見ても、包丁も何も刺さっていない。
余程疲れていたのだろう。今日は早目に寝ることにしよう。
……壁に空いている刃物が刺さったような跡は見なかったことにした。
--------------------------------------------------------------------------------------
「さとり様は何をしてらっしゃったんですか?まだお夕飯には早いですよね。」
「ええ。今日はこいしもお空もいるし、おやつでも作ろうと思ってたのですが……。」
さとり様が困ったように視線をまな板に向ける。
そこには大量のパンの耳の山があった。
そういえば今日のお昼はサンドイッチだった。
ハムやツナ、卵にチーズと色々な種類があっておいしかった。
あれはそれの残骸だろうか。
「あれをどうにか処分したいと思ってるんだけどね、どうしたものか悩んでるのよ。」
「前に作った甘いやつじゃ駄目なんですか?あの白い粉とか黄色い粉とかがかかった。」
あれは中々おいしかった。あたいはどちらかと言えば辛いものの方が好きだが、
甘いものが大好きなこいし様は特に喜んで食べていた気がする。
「ああ、きな粉揚げパンですか。私もそれを作ろうと思ってたんだけど、
お砂糖もきな粉も切らしちゃってるみたいなのよ。」
「なるほど。」
「まさかそのまま食べろって言う訳にもいかないし、お燐は何か良いアイデアがないかしら?」
いや、そんなこと言われてもあたいは料理なんてやったことないですって。
いつ教えてくださいと言おうか、タイミングを測っている最中なんですから。
しかし、主が求めているのならば何か答えるのが義務である。
「そうですね、逆転の発想で甘いものじゃなくて辛いもの、ということで
砂糖じゃなくて塩を使ってみるとかは。」
自分で言っててないよなーとは思うが、さとり様は意外な反応を示した。
「ああ、なるほど……。そういう手もあったわね。」
「へ!?まさか本当に塩を使う気ですか!?」
さとり様はふるふると首を振る。
「そっちじゃなくて、甘いものじゃなくて辛いものって方よ。
おやつだからってことで甘いものにしか頭がいってなかったから助かったわ。
こいしとお空も呼んで来てくれるかしら?すぐ出来るから。」
「は、はあ、分かりました。」
言われた通りにこいし様とお空を呼んで来る。
さとり様の思考は相変わらず読めないなぁ。
こいし様とお空は応接間で遊んでいたが、おやつの時間だよーとあたいが告げると
一目散にとダイニングルーム(台所と隣接している)へと向かう。
「お姉ちゃん、今日のおやつは何ー?」
「おなか空きました、さとり様ー!」
「はいはい、すぐに出来るから少し待ってなさいな。」
さとり様は苦笑しながらフライパンを火に当てている。
と思ったら先ほどのまな板にあったパンの耳を全て放り込んだ。
パンの耳を炒めてどうするのだろうか。
三十秒ほど炒めた後、さとり様は近くにあった容器を取った。ってそれは……
「「「ソース!?」」」
あ、ハモった。
いや、パンの耳にソースってさすがにそれはどうかと思うんですが。
さとり様は気にすることなくふたを取り、全体的にソースを振る。
そのまま器用にフライパンを前後に動かしていく。
炒められたパンの耳が宙を舞い、ソースが絡んでいく。
仕上げとばかりにフライパンに着陸させて、用意してあったお皿に乗せた。
「はい、出来上がり。」
出てきたものは良い具合に炒められたパンの耳の山。
ソースが満遍なくかかっていて、マーブル模様のような白黒になっている。
「パンの耳にソースかけただけって……。」
「うにゅ……。」
「確かにこれは……。」
「ふふ、まあ騙されたと思って食べてみなさい。」
その言葉に三人ともおそるおそる箸をつける。
あ、でも匂いはすごく良い。なんかソースとは別の匂いがする。
思い切って、三人同時に口をつける。
「え、嘘、おいしい……」
「さとり様、これとってもおいしいです!」
「あたい、これすごい好きかもしれない!」
予想外、というか普通においしい。ソースが満遍なくかかっているのに
全然味が濃くなっておらず、まろやかな風味がある。
パンの耳それ自体も良い具合に炒められており、外側のカリカリ感と少しだけ残っている
白い部分のふわふわ感が絶妙にマッチしている。
微妙にハムやツナの切れ端がくっついてるのがアクセントになっている。
「どうかしら?簡単だけど結構いけるでしょ?最初に炒める前にフライパンにバターを
よくなじませておくの。それだけで匂いも味も柔らかくなるんですよ。」
バター!そういうのもあるのか!
いや、それはともかくこれはおやつにぴったりだ。
なんか止められない止まらない的な感覚で箸が進む。
とか考えてたら、突然こいし様が席を立ってさとり様の方へ向かう。
「ねえお姉ちゃん~。」
「なんですか、こいし。」
こいし様は悪戯っぽい顔をしてパンの耳を一つ摘まんで口に含み
「んー」
さとり様に向かって自分の顔を差し出した。
「はいぃ!?」
あちゃあ、また黒白の魔法使いにでも変なことを吹き込まれたんだろうか。
最近こいし様地上によく行ってるしなあ。
「え、えとですね、そんなことしてはお行儀が悪いですよ。」
「んー!」
「ほ、ほら、さすがに人前では恥ずかしいと言うか……」
「んんー!」
躊躇しているさとり様に対して、不満そうに更に顔を突き出すこいし様。
……さとり様も大変だなぁ。でもちょっと羨ましい。
あー、結局こいし様の押しに負けちゃった。
満足そうな顔のこいし様と顔を赤くしてるさとり様が何だか微笑ましい。
パンの耳でやってるのがちょっと間抜けだけど。
ってあれ、もう両側とも食べ終わってるのに何で顔を離さないんだろう。
まあいいか。とりあえず今の料理をメモしておこう。
これくらいなら簡単に作れそうだし。
レシピ①:ソースパン
材料 :パン(耳のみでもの普通でも可)、ソース、バター
作り方 :フライパンにバターをよくなじませてからパンを入れる。
(耳でない場合はパンは四分割した方が良い)
軽く焦げ目がついてきた辺りでソースを入れてよく絡めて完成。
ちなみにお空は夢中になって食べていた。
結局、おやつを片付けている最中に事情を話し、料理を教えてもらうことを了承してもらった。
その時のさとり様の顔がすっごい良い笑顔だったのが気にかかるが……。
って料理教わりたいと思った理由がバレバレだからか!
うう、さとり様の能力のことすっかり忘れてた……。
--------------------------------------------------------------------------------------
「ウナギが食べてみたい。」
ある日突然こいし様がそんなことを言い出した。
「ウナギ、ですか?また突然ですね。」
「うん。昨日地上に行った時、夜雀がウナギの屋台をやってるって聞いたの。
それで食べてみたくなって。」
そういえばあたいもウナギなんて一度くらいしか食べたことがない。
例の騒動の後の宴会で、夜雀が持ってきたのをちょっと食べたくらいだ。
あの時はまだこいし様はいなかったしなあ。
「なるほど、でもさすがに今からでは手に入れるのは難しいですね。」
時刻は既に午後の四時を回っている。
今から地上に出て行ってウナギを入手しては、夕食の時間には間に合わないだろう。
「どうしましょう?何でしたら今から夜雀の屋台に行きますか?」
「私、場所知ってるから案内しますよー!」
「うーん、いや、やっぱり今度でいいや。」
ちょっと残念そうなこいし様。
さとり様は腕を組んで考えるような仕草をする。
「そうですね、本物のウナギ程はおいしくないかもしれませんが、
ちょっと思いついた料理があるのでそれを作ってみようと思います。
こいし、今日はとりあえずそれでいいかしら?」
「う、うん。分かった。」
「お燐、せっかくだから貴方も手伝ってくれる?」
突然振られて、あたいは慌てて返事をする。
「は、はい!分かりました!」
「こいしとお空は皆の分のお皿を並べておいてくれる?」
「「さー、いえっさー!」」
何故軍人。
--------------------------------------------------------------------------------------
「はい、出来上がりましたよ。」
「うわぁ、おいしそう!」
お空が声を上げる。
出されたのは、海苔の表面全体に白っぽい物が乗っている料理だった。
焦げ茶色のタレが塗られていて、色合いだけなら確かにウナギっぽい感じがする。
表面に塗られたタレが焦げて、香ばしい食欲をそそる匂いを出している。
「「「「いただきます」」」」
お決まりの挨拶をして、早速皆それに箸をつける。
うわ、真ん中の方持つと白い部分が崩れちゃいそうだ。
端の部分を持って、崩さないように注意しながら慎重に口に運ぶ。
口に入れた瞬間、土台の海苔がサクサクとはじける。
その後に白い部分が適度に噛み砕いた海苔と一緒に舌触り良く溶けていく。
甘辛いタレがそれらに良くマッチして、口の中を至福で満たしてくれる。
「……」
「……」
「……」
「ど、どうかしら?やっぱり駄目?」
無言になってしまったあたいたちを心配そうにさとり様が見つめる。
だがあたい達に言える言葉は一つしかない。
「「「美味しい!!!」」」
三人揃っての言葉にさとり様はちょっと怯んだ後、花がほころぶような笑顔になった。
なんだろう、これ本気で美味しい。
そのまま食べてもさることながら、御飯との相性がやば過ぎる。
「ねえ、お姉ちゃん!これどうやって作ったの!?」
「木綿豆腐を使ったんですよ。もちろんそのままでは柔らか過ぎるので、
片栗粉と小麦粉を混ぜて適度に固くしました。
タレは醤油と味醂をベースに即興で作った物ですが。」
うん、あたいも手伝ってて驚いた。
あの豆腐がこんな風に変身するとは……。
そう言っている間もお皿の上の蒲焼もどきはみるみる内に減っていく。
「ごちそう様でした!」
「満足して頂けましたか、こいし。」
「うん!すっごく美味しかった!お姉ちゃん、ありがとう!」
「ふふ、どういたしまして。」
うーん、それにしても料理って色々あるんだなあ。
予想しない組み合わせからこんなに美味しい料理が出来るのってすごい。
とりあえず、今の料理を忘れない内にメモしておこう。
レシピ②:蒲焼もどき
材料 :木綿豆腐1丁、片栗粉大2、小麦粉大3、焼き海苔数枚
タレ :酒大2、砂糖大2、醤油大5、味醂大4、しょうがの絞り汁適量
作り方 :木綿豆腐をボウルに入れて、片栗粉と小麦粉を混ぜてよく潰す。
それをまな板に並べた焼き海苔の上に載せていく。(貼り付けるような感じ)
タレは材料をカップに入れてよく混ぜた後、少し温めて粘り気が出るようにする。
フライパンで白い部分が海苔から剥がれないように注意しながら焼いていき、タレを満遍なくかけて完成。
ちなみにお空は夢中になって食べていた。
--------------------------------------------------------------------------------------
そんなこんなでさとり様のお手伝いをしている内に大分腕も上達してきた。
今では簡単な料理くらいは一人で作れるようになっている。
これも全てはさとり様の教え方が上手なお陰だと思う。
包丁の使い方から、調味料による味付けの勘所まで分かりやすく、楽しそうに教えてくれた。
本当にさとり様は料理が好きなんだろうと思う。
「ねえ、さとり様。」
「何ですか、お燐。」
包丁を動かす手は止めず、さとり様が返事をする。
それにしても本当に薔薇のエプロンがよく似合うなぁ。
「さとり様はどうしてそんなに料理が好きなんですか?」
さとり様の手が止まる。こちらに振り向く。
「そうね……お燐はどうしてだと思う?」
「え?えっと……。」
うんうん唸って考えるが、なかなか答えは出ない。
自分の好きな料理が作れるからってことはないだろうし……。
「お燐も料理を続けていれば、その内に分かると思うわよ。」
そう言ってクスクス笑うさとり様の顔は本当に楽しそうだった。
何だかはぐらかされた気がするけど、自分で考えろってことなんだろう。頑張ろう。
当面の目標はお弁当を作れるようになって、それでお空と……
「それで……。」
ハッと顔を上げると、さとり様がニヤニヤした目つきでこっちを見ていた。
何か嫌な予感がする。
「ピクニックに行く時は私も誘ってくれるのかしら?」
「さとり様の意地悪ー!」
--------------------------------------------------------------------------------------
●外伝レシピ:秘伝のカレー
「はい、出来ましたよ。」
「あ、今日はカレーなんですね。」
「うわぁ、おいしそう!」
「いただきまーす!」
パクッ
……………………………
ピシッ!!!
「お、お姉ちゃん、これは……。」
「辛いというか酸っぱいというか……御飯の味が変……」
「酢飯にカレーをかけました。
あまからすっぱカレーと名付けてみましたがどうでしょう?」
「さ、さとり様は味見したんですか……?」
「ええ、しましたよ。ルーだけですが。」
「は、腹が痛ぇ、ものすごく痛くなってきた……!」
「……や、やはり古明地さとり、スタンド使いだったか……。」
レシピ③:あまからすっぱカレー
材料 :(ここから先は赤い何かが付着していて読み取れない)
ちなみにお空は夢中になって食べていた。
あまからすっぱカレーに挑戦してみたい。
おくうがなんでも美味しそうに食べてていいねw
点数はトラウマ分加味で
もっとやれwww
さすが核の力は偉大だった!
なん……だと……!?ちゅっちゅしたということか!?
ド○クエ四コマ劇場なつかしいですね。
豆腐蒲焼は今度試してみようかと思いました。
何というかストレートに面白かったです
あとお空自重w