注意
・キャラの性格に多少違和感があるかもしれません
・登場人物が多いです
「なぁ、いい加減顔パスで通してくれてもいいんじゃないか?」
「パチュリー様から通しちゃ駄目って言われてるんですよ」
「でもアリスはこの門素通りしていくじゃんか」
「アリスさんはちゃんと本を返すからいいそうです。それに……私が止めなくても結果は変わらないんじゃないですか?」
「……まぁそうだな。結局弾幕ごっこふっかけてるような気はするぜ!けど結果が変わらないっていうんなら止めても結果は変わらないぜ?」
「今日の私は一味違いますよ!なんたって咲夜さんから『今回ネズミを通したらクビにするから』って言われてるので!」
「だったらせいぜい頑張れよ!」
何のことはない日常である。異変がない時の私の主な行動パターンは神社(他にも色々行く宛はあるが)でお喋り、自宅で研究、紅魔館に本を借りに行くの3パターンで今日は本を借りに来ていつも通り門番と弾幕ごっこをしている。さて、クビがかかっているらしい門番は今日は必死だし、いつもよりも楽しめそうだ。
◇
「ん……うーん……」
「起きたか?」
「ん……あれ?私は……?」
「私のマスパでいつも通り気絶してた」
「あー……。てことは私クビかぁ……。これからどうしよう……」
「いやギリギリセーフだぜ?魔理沙さんの優しさに感謝するんだな」
「どういうことですか?」
「門番は倒したけどまだ私は門をこえてないからな、咲夜の言うとおりならまだ大丈夫だぜ」
「ふむ……、どうしてです?」
「さっきも言ったが魔理沙さんは優しいからな!具体的にはお前がクビになった後やってくる門番がもし強いようなら不都合だからだ」
「どこに優しさを感じればいいのかわかりませんが、一応お礼は言っておきます」
いやぁ、いいことをすると気持ちいいな。つい不景気な世の中で路頭に迷うことになるかもしれなかった妖怪を救っちゃったぜ。……とはいえこの後どうしようか、このままでは本を借りれない。まぁ本は急ぎじゃないから明日でもいいんだが、一日予定が空いてしまった。
「んー……。このあとの予定がなくなっちゃったんだがどうすればいいんだ?」
「そんなの知りませんよ。博麗神社にでも言ったらどうですか?」
「なんとなくそんな気分じゃないんだよなぁ……。お前はこういう時ってどうやって時間潰してるんだ?」
「基本的にずっと門番やってますから潰す時間なんてありませんよ」
「……門番って忙しいのか?」
「そうですねぇ……。大変ですけど、慣れればそれなりに楽しいこともありますね」
「そっか……。よし、今日一日飽きるまでここの門番をやることにするぜ!」
「……え!?」
「どうせ暇だし、楽しいこともあるんだろ?それに何事も経験だぜ」
「うーん……別に構いませんが……」
こうして私の紅魔館での一日門番が始まった。
「門番ってどんな面白いことがあるんだ?」
「そんなに目を輝かせてもらっても……、空見たり、庭いじったりは」
「門番ってどんな面白いことがあるんだ?」
「……そうですねぇ。たまにチルノちゃん達が来るので遊んだりして過ごしたりもしますね」
「……来てないじゃん」
「でも今日は魔理沙さんがいるじゃないですか」
「……まぁ何かあるまでお喋りってのも悪くないか。せっかく門番やってるんだし『侵入者』とやらをやっつけてみたかったりもするんだがな」
「(主な『侵入者』は魔理沙さんなんですけどねぇ……)」
そういえばあんまり中国とは話したことがないような気がする。門で会ったら問答無用で弾幕ごっこだし、宴会にはパチュリーと一緒であんまり顔を出さないからだろう。改めて考えてみると、こいつが何の妖怪なのかすら知らないことに気づく。
「でもお喋りっていってもなぁ……。そういえばお前って何の妖怪なんだ?」
「そうですねー……因みに何の妖怪に見えます?」
「うーん……中国の妖怪?」
「聞いてるのは出身地じゃなくて種族なんですが」
「なら……キョンシーか?」
「魔理沙さんには私が死体に見えすんですか?」
「少なくても私は幽々子は死んでるようにはあんまり見えないけどな。幻想郷じゃ死んでるやつのほうが生き生きとしててもおかしくないだろ?」
「まぁ、それもそうですね」
「で、結局お前は何の妖怪なんだ?」
「それは秘密です」
「……は?」
「妖怪ってやっぱり人間に恐れられてこそだと思うんですよね。正体不明の妖怪ってなんかかっこよくありませんか?」
「たしかになんかかっこいいな!」
「ただでさえ友好度や危険度が高くないってされてるんですからこういう小さな工夫が大事なんですよ。それに秘密のある女の子ってなんか魅力的じゃないですか?」
そう言った時の中国の顔はどこまでも人懐っこく、自分より遥かに年上であるはずなのにどこか可愛く見えた。なにか色々と台無しな気がするが、それもまたこいつのいいところなんだろう。
「まぁ好きにすればいいんじゃないか?」
「結構大変なんですよ?『悪魔の棲む館』の門番が穏やかなイメージを持たれるといろいろと台無しですし」
「普段から門の前でチルノ達の遊び相手やってる時点でもうだめだと思うがな。改めて考えるとお前ってそういう側面から見ると紅魔館では随分浮いてるよな。……お前ってなんでレミリアに仕えてんだ?」
「なんでと言われましてもねぇ……。お嬢様って一緒にいると楽しいじゃないですか。だからですかね?」
「でもレミリアってすごい我儘で自分勝手じゃん」
「それってたいていの幻想郷の妖怪達に当てはまることですよ。魔理沙さんもですよね?」
「私は自分の欲望に忠実なだけだぜ!」
「でもそれってある意味魅力的なことでもありますよ。実際そういう方々も結局友達が多いじゃないですか」
「ほんとに皆物好きだよな、全くもって理解できん」
「あとは……やっぱり紅魔館の皆が好きだからですね。ここは居心地がいいんです」
居心地がいい場所か、私にとってはどこなんだろうな。博麗神社か香霖堂か、案外ここの図書館かもしれないな。魔法の森の家の可能性もあるが、少なくても実家はそうじゃなかったな……。
「ふーん……。じゃあ逆になんでレミリアはお前を雇ってるんだろうな?あんまり役に立ってないのに」
「……結構ひどいこと言いますね。……魔理沙さんって私の名前知ってます?」
「紅美鈴だろ?」
「……フルネームで覚えてるのになんで門番や中国って呼ぶんですか?」
「門番は門番だろ?それに見た目が中国だからじゃないか?私や霊夢だって白黒や紅白って言われてるぜ?まぁ嫌ならやめるが」
「そう言われてみればたしかにそうですが……。話がずれましたね、ここの主はレミリア・スカーレットお嬢様で、知っての通り名前にもついてるスカーレット、つまり紅色が大好きなんですよ。それで私の名前も紅美鈴で……」
「紅が入っているというわけか……。まさかそんな理由でお前を部下にしたのか?」
「冗談ですよ、そんなわけないじゃないですか」
「だよなぁ」
「……冗談ですよね?」
「真顔で聞くなよ。私に分かるわけないだろ」
どうやらこの話題は駄目だったらしい。まぁレミリアは色々と駄目なやつではあるが部下くらいはちゃんと選んでると思うが。
そんなことを考えていると上空をかなりのスピードで飛ぶ影があった。方向からして紅魔館に入ろうとしているのは明白である。これは間違いない!待ちに待った『侵入者』ってやつだ!
「てなわけでいきなり恋符『マスタースパーク』!!」
「……へ?」
「ん?……ぬわっ!」
私の放ったマスタースパークは残念ながら『侵入者』を捉えることはできなかったようだ。当たる直前に『侵入者』が急速旋回して見事にかわしてみせ、そのままこっちまで下りてきて
「何するんですか魔理沙さん!危うく焼き鳥になるところでしたよ!」
「そしたら私が『幻想郷最速』だな」
「残念ですが『幻想郷最速』だからこそ今のだってかわせるんですよ。それにしてもいきなりひどくないですか?弾幕ごっこならちゃんと申し込んでくれたら受けますよ?」
「残念ながら今の私は門番なんだぜ!お前のスピードだったら声かけるのは館の中になっちまうだろ?だから仕方なくだ、無駄に速いお前が悪い」
「ものすごい理不尽を感じますが、そんなことをイチイチ気にしてたらここでは生きていけませんしねぇ……。まぁいいです、私はいつも通り『文々。新聞』を届けに来ただけなので通してください」
「あ、はい。いつもご苦労さ」
「駄目だぜ!」
「……はい?」
「ちょっ、魔理沙さん困りますよ!」
「だってせっかくの『侵入者』だぜ?普通に通したらつまんないじゃんか」
「文さんは『侵入者』じゃないんです!お客さんは通すのが門番の」
「……ふむ、わかりました。そのかわり取材させてもらってもよろしいですか?」
「……へ?いや新聞を届けないとお嬢様に怒られ」
「別にいいぞ?というか退屈だしちょっと付き合えよ」
「たまには密着取材もいいかもしれませんね。わかりました、では私もお付き合いさせて頂きます」
「いや、その前に新聞を届けないと……」
さっきから美鈴がイチイチうるさい。とりあえずレミリアに新聞を届ければいいのなら……。
「おーい咲夜ー!ちょっと来てくれー!」
「何よ?忙しいからあんまり呼ばないで欲しいんだけど」
「相変わらずいきなり現れるよなお前って。これ『文々。新聞』だからレミリアに届けといてくれ」
「わかったわ」
新聞を受け取ってまた咲夜は消えた。ある意味一瞬で現れるこいつが『幻想郷最速』とも言えるような気がするがそこは気にしないでおこう。
「これで文句ないだろ?」
「まぁ……そうですね……」
「では早速取材に入らせてもらいます!魔理沙さんは今回、なんでまた紅魔館の門番をやっていらっしゃるんですか?『霧雨魔法店』の仕事の一環ですか?」
「『霧雨魔法店』?……あぁ……いや、ただの暇つぶしだぜ?退屈だったから門番でもしようっていう」
「今絶対自分の店のこと忘れてましたね?ですがその理由ですと面白くもなんともありませんね……」
「そんな事言うなよ。もうすぐお昼だし、新聞のネタはどっかからやってくるんじゃないか?」
「そうですねぇ……。今日ここを訪れそうな人物は一人、いやひょっとしたら二人かもしれません」
「二人か……誰なんだ?」
「それは……あ、一人来ましたよ!」
美鈴の言葉で遠くを見てみるが、全然見えない。文の方は普通に見えてるみたいだが……こういうところはやっぱり人間と妖怪の差ってやつを感じる。少ししてやっと見えてきたその人物は私のよく知る人物(私には知らない人物のほうが下手すりゃ少ないかもしれないが……)、というよりある意味お隣さんだった。
「よぉアリス!何しにきたんだ?」
「明らかに自分のものでない本を持って、図書館のある紅魔館に来る目的といえば一つだけでしょ?」
「……?何しにきたんだ?」
「なるほど、あんたには本を返すっていう思考はないのね」
「こんにちはアリスさん、パチュリー様の本の返却ですね?どうぞ通って」
「ここを通りたければ私と文をを倒していくんだぜ!」
「お、これは少し面白そうですね。魔法の森の住人同士の対決、いい写真がとれたら記事にしちゃいますよ!……って私も参加ですか!?」
「あんた紅魔館の門番になったの?」
「今日だけだがな!」
「ふーん……そうなの。じゃあ降参するわ」
「よし行くぜ!……え?」
「私の負けよ。だからここを私は通れない、そうでしょ?」
「アリスさんはパチュリー様から許可が出てるので入れますよ?」
「実はパチュリーから借りた本の期限が今日までなんだけど、まだこれ読み終わってないのよね。門を通れないんじゃ本は返せないでしょ?それじゃあ仕方ないからここで続きを読ませてもらうわね」
そう言ってアリスは門の近くの木陰で本を読み始めてしまった。勝手に盛り上がってた文と私は実に肩透かしな気分だ。
「相変わらずマイペースなやつだなぁ」
「魔理沙さんには言われたくないと思いますよ」
「……そういえばそろそろ腹が減ってきたな。ご飯っていつもどうしてるんだ?」
「……咲夜さんが簡単なものを作ってくれますよ。あとたまにお嬢様が館に誘ってくれます」
「へー、休憩は?」
「特には無いですよ?」
「へ?」
「私妖怪ですから別に寝なくても平気ですし(昼寝は好きですが)、基本的に平和なので特に疲れるわけでもありませんしね」
「……紅魔館なのに案外ブラックなんですね」
「……まぁ、否定はしませんよ」
「とりあえずもうすぐ咲夜が簡単なご飯を持ってきてくれるわけだな?」
「そういうことです。あ、二人目が来ましたよ」
言われて見てみると、遠目ではよくわからないが傘をさした人物がゆったりとした足取りでこちらに向かってきているのが見える。近づくにつれてはっきりと見えるようになったそいつもまた、私の知ってる人物だった。
「久しぶりだな!なんでお前がこんな所に来てるんだ?」
「私は花のあるところならどこにでも現れるわよ。それにこの館の庭の面倒はたまに私がみているしね。私としてはあなたがここにいる理由の方を知りたいんだけど」
「暇つぶしに門番やってんだ、今日だけだけどな」
「そろそろ来る頃だと思っていましたよ幽香さん、花の方は綺麗に咲いてますよ」
「それは良かったわ、まぁせっかくだし少し見ていこうかしら?」
「おっと、ここを通りたかったら私と文とアリスを倒していくんだな!」
「やっぱり私は参加するんですね……」
「私は降参で」
「ふーん、天狗と魔理沙が相手か……ここはおとなしく引いておこうかしら」
「なんでだよ、大妖怪としてのプライドはないのかよ」
「なんとでも言いなさいな、別に気にならないし」
「……退屈なんです、戦ってくださいお願いします」
「慣れない敬語使った上に頭まで下げてもらってるとこ悪いけどね、あなた達二人とやったら、ここら一体吹き飛ぶじゃない?私はさっきも言ったけど花が見たいのよ。あなたが今日一日門番やってるんならここで明日まで待ってるわ」
そう言って幽香は門の近くの草木をいじり始めた。さっきから『侵入者』はいっぱい来てるのに一向に戦えない。ただただ『門番』が増えていくだけだ。そんなことを考えているといきなり咲夜が門に現れた。
「あら、随分と門番が増えてるわね。おにぎりか何か差し入れしようと思ってるんだけど、皆は何か希望があるかしら?」
「あ、私お弁当持参してるので大丈夫です」
「わかったわ、天狗意外の分は作ってくるから少し待っててちょうだい」
「へー、文ってそういうイメー」
「おまたせ」
「……最後まで喋らして欲しいんだぜ」
とりあえずかなり多めに作られてあるおにぎりを残して咲夜は館に戻ってしまったようだ(消えたので実際は分からないが)。本を読んでたアリスも、草木をいじってた幽香もやってきて、結局文以外は皆おにぎりに舌鼓をうっていた。
「さっきの続きだが、文って料理とかするイメージがないから意外だぜ」
「え!?いや、私だって長年生きてるんですから料理くらい……できますよ?」
「眼が泳いでるぜ?とりあえず弁当見せてみろよ」
「はぁ……別に構いませんが……」
そう言って文は新聞の入っている鞄の中を探っているが一向に弁当が出てこない。それになんだか焦り始めてるようだ。
「どうしたんだ?まさか忘れたのか?」
「……そうみたいですね」
「お、落ち込まないでも大丈夫ですよ!咲夜さんの作ったおにぎり美味しいですし!」
「お気遣い感謝します……」
文はえらく気を落としているようだったが、そんなに自分の作った弁当が楽しみだったんだろうか?
「おや?また誰か来ましたね、今日まだ来る予定の人っていましたっけ?」
「私に分かるわけないだろ」
「あれって早苗さんじゃないですか?」
文の言うとおりやってきたのは早苗だった。いつもの巫女服だが、いつもと違い斜めだけの鞄を持っている。
「あれ?皆さんお揃いで、何かあるんですか?」
「私は降参で」
「皆で門番やってるんだ。ここを通りたかったら私と文とアリ……幽香を倒していくんだぜ!」
「だからここでは私は戦わないって言ったじゃない。他の誰かが戦うなら被害が拡大する前に速やかに排除するけど」
「いえ、私が用事があるのは紅魔館じゃなくて文さんなんですよ」
「私ですか?」
「えぇ、お弁当届けに来ましたよ」
「おやそれは、ありがとうございます」
そう言って早苗は鞄から弁当を取り出し、文に渡す。受け取った文は随分嬉しそうだが……あれ?
「ちょっと待てよ。なんで早苗が文に弁当届けに来るんだ?」
「今日は椛さんが哨戒の任務の日なので届けられなかったんですよ」
「椛ってあの白狼天狗か?なんでそいつが文の弁当届けることになってるんだ?」
「そ、それはですね……なんというか……」
「そりゃ忘れた弁当を届けるのは普通は同居人じゃないですか?」
「ちょ、早苗さ」
あぁたしかにそういうもんだったな。弁当なんて普段持って行かないし同居人がいないからそういう感覚ってイマイチないんだよな。……じゃなくて!
「文とあいつって同居してるのか!?」
「いや、それは……えっと……天狗の社会では特別珍しいわけでもなくて」
「お付き合いしてる二人が同居することってそんなにおかしいことではないと思いますが?二人共見た目は若いですがしっかりしてらっしゃいますし」
「早苗さんは少し黙ってください!」
「へー、お前達ってそういう関係だな……。ちっとも知らなかったぜ」
「え、いやあの……、別に椛とはそんな仲じゃ」
「文さん……あんなに想ってくれてる椛さんを裏切るんですか……?」
「う、あ……。……はいそうですよ!椛と付き合ってますよ、椛大好きですよ!これでいいですか!?」
「文さん……なんというか、おめでとうございます」
「美鈴さんの優しさがなんだか辛いです……」
これはまたおもしろい話題が出てきたもんだ。女の子(……ここにいる奴らのうちどいつまで当てはまるのかは知らんが)は基本的に恋バナってやつが好きだ。それも身近な奴だとなおさらだ。人の恋路を邪魔するつもりはないがぜひとも色々聞きたい。
「ところでその弁当ってやっぱ……」
「……椛がつくったものです」
「少しもらってもいいか?」
「まぁ少しなら……」
許可が出たのでおかずをちょっと分けてもらう。……どさくさに紛れて幽香以外皆もらっていったのは気にしない。
「……結構美味しいな、あいつもあんまり料理が上手ってイメージがなかったんだが」
「たしかに上手ではなかったですねぇ。でも結構器用ですし覚えは早かったですよ」
「なんでそんなこと早苗が知ってるんだ?」
「そりゃ椛さんに料理を教えたのは私ですから。『文さん、仕事に夢中になるとよく御飯食べるの忘れるから』ってうちに教えてもらいに来たんですよ」
「……愛されてるなー」
「……あ、ありがとうございます」
「で、お前たちって二人きりの時はなんて呼び合ってんだ?」
「え!?」
「同棲してからどれ位になるんだ?」
「いや……」
「告白はどっちからでなんて言ったんだ?」
「あの」
「キスぐらいしたのか?」
「……言えません」
「普段人のことは根掘り葉掘り聞くのにズルくないか?」
「そ、それは……」
文はとうとう耳まで真っ赤にして下を向いてしまった。だがやっぱり気になるものは仕方ない。
「よし、じゃあ勝負して勝ったら私の質問全部答えろよ?」
「……もちろん弾幕ごっこですよね?それなら」
「というわけで……いけ、萃香!メガ○ンパンチだ!」
「おりゃ~!」
「はい?……ってあぶなっ!」
私が叫ぶと文の前にいきなり霧が現れて集まっていき、萃香が現れた。不意打ちのパンチだったがさすがは『幻想郷最速』、これをぎりぎりかわしてみせやがった。
「さすが天狗だね~。よーしお姉ちゃんちょっと頑張っちゃうぞ~」
「いや、あの……えぇっ!?」
「人いっぱいいるしいるんじゃないかと思って声をかけてみたが……ほんとにお前もどこにでも現れるよな」
「楽しいところならね~。それに恋バナ嫌いじゃないし!」
「魔理沙さん聞いてないですよ!理不尽です!」
「言ってないもん。勝ったらとしか言ってないから誰がかは決まってないぜ?さて、質問考えとくから萃香頑張れよ」
「任せとけー!」
「……わかりました。伊吹様が相手なら、久しぶりに本気を出させて頂きます!」
「お、勝ち譲らないんだ。これは楽しくなってきたねー」
「負けられない戦いってやつですよ!」
二人が間合いをとって構える。お互いにいつでも攻守に移れるような体制を維持しつつ相手の隙を伺っている。緊張がこっちまで伝わってきそうなこの拮抗状態でそろそろ5分くらいたったのだろうか、BGMもさっきから二週目に入っている。……BGM?
「……お前たちなんでここにいるんだ?」
「そりゃ呼ばれたからよ。丁度予定も空いてたし」
いつからいたのか知らないが、プリズムリバー三姉妹が愉快に演奏をしていた。
「……誰がこいつら呼んだんだ?」
「私よ……」
なんだか暗い声に振り返ってみると幽香が草木をいじりながら沈んでいた。いないと思ったらそんなことしてたのか……。
「……何があったんだ?」
「ここの草木がね……、なんだか元気が無いようなのよ。だから音楽でも聞けば元気になるかなぁって思って……」
「……なるのか?」
「……なったらいいなぁ」
そんなことに構わず、三姉妹はとりあえず演奏を続けている。そしてそれに合わせて早苗が歌い始める。……なんで歌い出したのかはもうめんどくさいから突っ込まないことにする。
その時いきなりものすごい突風が巻き起こった。振り返ってみるといつの間にか文と萃香の弾幕ごっこが始まっていた……んだと思う。……正直速すぎて目で追えないからよくわからん。
「いやー、やっぱり天狗ってなんだかんだで強いよねー。戦ってるとワクワクしてくる♪」
「……」
「普段へこへこしてるところは嫌いだけど、やっぱりその強さは私達を存分に楽しませてくれる」
「……」
「これだけの実力があるならもっと気持ちよく生きたらいいのにねぇ……」
「……」
「あ、あのさぁ……私のこと嫌い?……そこまで無視されるとその……ちょっと傷つく」
「すいません。こちとら必死なもんで」
「あー……なんかごめんね?」
勝負がどうなってるのかはよくわからんが、会話から察するにまだ余裕がありそうな分萃香の方が優勢なようだ。
それにしても本気の文と萃香の対決なんて改めて考えるとすごいレアな気がする。周りもこの対決に注目してるんだろうと思って見てみると……そうでもなかった。三姉妹と早苗は相変わらず自分達の音楽に夢中だし、美鈴は船を漕いでるし、アリスは……あれ?アリスがいない?……まぁ別にいいか。そして幽香は傘を文達が戦ってる上空に構えて……ん?
「ここで暴れるな!!」
「あらよっと」
「……」
いきなり幽香が極太のレーザーをぶっ放してきた。だがそれを二人は難なくかわす。あのタイミングであのスピードの攻撃を軽々避けるあたり、やっぱりこいつらは只者じゃないとしみじみ思う。避けられたレーザーは雲を突き抜けて空高くに消えていった。
「不意打ちはいただけないが……参戦するんだったら歓迎するよ?賑やかなのは大好きだし」
「……場所を変えるわよ。草花の素晴らしさがわからない愚か者どもは私が葬ってあげる」
「……では伊吹様この勝負はとりあえず引き分けにして、場所を改めませんか?」
「そうじゃないと風見幽香が本気を出せないんなら仕方ないね。私はそれで構わないよ」
「ではせっかくの好カード、記事にさせて頂きます!」
「……ん?おい、ちょっと待ちなよ。なんで他人事?」
「勝負は引き分け、つまり私は質問に答える義務はなくなり、もう戦う理由がないんですよ。そうですよね?魔理沙さん」
「う……。まぁ、そうなっちゃうな……」
「で、でも 場所を改めるって言ったじゃん!鬼に嘘を付くの!?」
「いいですけど、すぐ降参しますよ?」
「これだから天狗は嫌いなんだよ……」
結果的には文の一人勝ちということになるのだろうか。まぁいろいろ聞けなかったのは残念だったが、それなりに貴重なものが見れたし私は満足だ。
「ちょっと、私はまだあなたを許してないんだけど」
「草花って綺麗ですよね!私大好きです!」
「わかればいいのよ」
「それでいいのかよ!」
結局文は上手いことすべての問題を切り抜けてしまった。こういうところは伊達に長生きしてないとつくづく思う。
「さて、鬼の方にはきっちり教育してあげないとね」
「天狗のことは残念だけど、こっちはこっちで楽しそうだ」
「ちょっと待ちなさい!!」
突然の声に振り向くとそこにはいつかの不良天人、比那名居天子が仁王立ちしていた。
「さっきのレーザーは誰よ!いきなり天界に撃ってくるなんて危ないじゃない!」
いきなり地震を起こす奴に言われたくないが、どうやら幽香がさっきはなったレーザーが天界まで届いたらしい。……というより天子に直撃したようだ、服がボロボロになってる。
「お、天子じゃん。せっかくだし天狗がいなくなった分勝負に参加しないかい?」
「……勝負?」
「鬼の四天王対フラワーマスター対不良天人、自分で言うのもなんだけどなかなかいいと思うんだけど?」
「へぇ……面白そうじゃない」
「おぉ……これはいい記事が書けそうですねぇ……」
この場に緊張が走る。聞こえるのは美鈴のいびき、三姉妹の演奏、早苗の歌声、アリスの熱演、そして子供たちの声援。……おい、またなんか増えてるぞ。
「なぁ……アリス、何やってんだ?」
「人形劇の途中なの。話しかけないでくれる?」
「あ、ごめん。……じゃなくて!お前何やってんの!?」
「だから人形劇よ」
「なんで!?」
「パチュリーから借りた本が読み終わったから、それを元に大体の劇の流れはできたんだけど……、最終チェックのために一回演じてみようと思ってね。ちょうど来てたからチルノ達に見てもらってたの」
そういえば美鈴はたまにチルノ達が来るって言ってたっけな。劇はどうやら好評らしく、チルノ達は目を輝かせて夢中になってる。いつのまにか劇に合わせて三姉妹も演奏してるし、それに合わせて早苗も歌っている。
もう突っ込むのは疲れたし、無視して萃香達の方を見てみると、こっちもまた状況が随分変わっていた。
「おい、萃香。何があったんだ?」
「二人戦意喪失により私の不戦勝……」
「どういうことだ?」
「幽香はアリスが劇を始めたぐらいからなんか草花が元気になったとか言って私ほっぽり出してそこで花いじってるし、天子はそこにいるよ……」
萃香の指差す方向を見ると、天子がチルノ達に混ざってアリスの劇に一番大きな声援を送っていた。
「まぁ……ドンマイ?」
「単純に賑やかなのは好きだからいいけど……今度ここを誰かが通ったら問答無用で喧嘩ふっかけてやる……」
「あら、せっかく花が元気を取り戻したのに。暴れるっていうんならまとめて血祭りに上げるわよ?」
「ちょっと、劇が今いい所なのよ。邪魔するんならぶっ飛ばすわよ!」
「まぁ、私もそろそろのんびりするのには飽きてきたし参戦させてもらうぜ?」
「これはまた盛り上がりそうですね……。いい記事を書くためにも多少場をかき乱すのも面白いかもしれませんね」
こうして紅魔館の門には過去最大の戦力が集結した。次にここを通ろうとするものはとても無事ではすまないだろう。
・キャラの性格に多少違和感があるかもしれません
・登場人物が多いです
「なぁ、いい加減顔パスで通してくれてもいいんじゃないか?」
「パチュリー様から通しちゃ駄目って言われてるんですよ」
「でもアリスはこの門素通りしていくじゃんか」
「アリスさんはちゃんと本を返すからいいそうです。それに……私が止めなくても結果は変わらないんじゃないですか?」
「……まぁそうだな。結局弾幕ごっこふっかけてるような気はするぜ!けど結果が変わらないっていうんなら止めても結果は変わらないぜ?」
「今日の私は一味違いますよ!なんたって咲夜さんから『今回ネズミを通したらクビにするから』って言われてるので!」
「だったらせいぜい頑張れよ!」
何のことはない日常である。異変がない時の私の主な行動パターンは神社(他にも色々行く宛はあるが)でお喋り、自宅で研究、紅魔館に本を借りに行くの3パターンで今日は本を借りに来ていつも通り門番と弾幕ごっこをしている。さて、クビがかかっているらしい門番は今日は必死だし、いつもよりも楽しめそうだ。
◇
「ん……うーん……」
「起きたか?」
「ん……あれ?私は……?」
「私のマスパでいつも通り気絶してた」
「あー……。てことは私クビかぁ……。これからどうしよう……」
「いやギリギリセーフだぜ?魔理沙さんの優しさに感謝するんだな」
「どういうことですか?」
「門番は倒したけどまだ私は門をこえてないからな、咲夜の言うとおりならまだ大丈夫だぜ」
「ふむ……、どうしてです?」
「さっきも言ったが魔理沙さんは優しいからな!具体的にはお前がクビになった後やってくる門番がもし強いようなら不都合だからだ」
「どこに優しさを感じればいいのかわかりませんが、一応お礼は言っておきます」
いやぁ、いいことをすると気持ちいいな。つい不景気な世の中で路頭に迷うことになるかもしれなかった妖怪を救っちゃったぜ。……とはいえこの後どうしようか、このままでは本を借りれない。まぁ本は急ぎじゃないから明日でもいいんだが、一日予定が空いてしまった。
「んー……。このあとの予定がなくなっちゃったんだがどうすればいいんだ?」
「そんなの知りませんよ。博麗神社にでも言ったらどうですか?」
「なんとなくそんな気分じゃないんだよなぁ……。お前はこういう時ってどうやって時間潰してるんだ?」
「基本的にずっと門番やってますから潰す時間なんてありませんよ」
「……門番って忙しいのか?」
「そうですねぇ……。大変ですけど、慣れればそれなりに楽しいこともありますね」
「そっか……。よし、今日一日飽きるまでここの門番をやることにするぜ!」
「……え!?」
「どうせ暇だし、楽しいこともあるんだろ?それに何事も経験だぜ」
「うーん……別に構いませんが……」
こうして私の紅魔館での一日門番が始まった。
「門番ってどんな面白いことがあるんだ?」
「そんなに目を輝かせてもらっても……、空見たり、庭いじったりは」
「門番ってどんな面白いことがあるんだ?」
「……そうですねぇ。たまにチルノちゃん達が来るので遊んだりして過ごしたりもしますね」
「……来てないじゃん」
「でも今日は魔理沙さんがいるじゃないですか」
「……まぁ何かあるまでお喋りってのも悪くないか。せっかく門番やってるんだし『侵入者』とやらをやっつけてみたかったりもするんだがな」
「(主な『侵入者』は魔理沙さんなんですけどねぇ……)」
そういえばあんまり中国とは話したことがないような気がする。門で会ったら問答無用で弾幕ごっこだし、宴会にはパチュリーと一緒であんまり顔を出さないからだろう。改めて考えてみると、こいつが何の妖怪なのかすら知らないことに気づく。
「でもお喋りっていってもなぁ……。そういえばお前って何の妖怪なんだ?」
「そうですねー……因みに何の妖怪に見えます?」
「うーん……中国の妖怪?」
「聞いてるのは出身地じゃなくて種族なんですが」
「なら……キョンシーか?」
「魔理沙さんには私が死体に見えすんですか?」
「少なくても私は幽々子は死んでるようにはあんまり見えないけどな。幻想郷じゃ死んでるやつのほうが生き生きとしててもおかしくないだろ?」
「まぁ、それもそうですね」
「で、結局お前は何の妖怪なんだ?」
「それは秘密です」
「……は?」
「妖怪ってやっぱり人間に恐れられてこそだと思うんですよね。正体不明の妖怪ってなんかかっこよくありませんか?」
「たしかになんかかっこいいな!」
「ただでさえ友好度や危険度が高くないってされてるんですからこういう小さな工夫が大事なんですよ。それに秘密のある女の子ってなんか魅力的じゃないですか?」
そう言った時の中国の顔はどこまでも人懐っこく、自分より遥かに年上であるはずなのにどこか可愛く見えた。なにか色々と台無しな気がするが、それもまたこいつのいいところなんだろう。
「まぁ好きにすればいいんじゃないか?」
「結構大変なんですよ?『悪魔の棲む館』の門番が穏やかなイメージを持たれるといろいろと台無しですし」
「普段から門の前でチルノ達の遊び相手やってる時点でもうだめだと思うがな。改めて考えるとお前ってそういう側面から見ると紅魔館では随分浮いてるよな。……お前ってなんでレミリアに仕えてんだ?」
「なんでと言われましてもねぇ……。お嬢様って一緒にいると楽しいじゃないですか。だからですかね?」
「でもレミリアってすごい我儘で自分勝手じゃん」
「それってたいていの幻想郷の妖怪達に当てはまることですよ。魔理沙さんもですよね?」
「私は自分の欲望に忠実なだけだぜ!」
「でもそれってある意味魅力的なことでもありますよ。実際そういう方々も結局友達が多いじゃないですか」
「ほんとに皆物好きだよな、全くもって理解できん」
「あとは……やっぱり紅魔館の皆が好きだからですね。ここは居心地がいいんです」
居心地がいい場所か、私にとってはどこなんだろうな。博麗神社か香霖堂か、案外ここの図書館かもしれないな。魔法の森の家の可能性もあるが、少なくても実家はそうじゃなかったな……。
「ふーん……。じゃあ逆になんでレミリアはお前を雇ってるんだろうな?あんまり役に立ってないのに」
「……結構ひどいこと言いますね。……魔理沙さんって私の名前知ってます?」
「紅美鈴だろ?」
「……フルネームで覚えてるのになんで門番や中国って呼ぶんですか?」
「門番は門番だろ?それに見た目が中国だからじゃないか?私や霊夢だって白黒や紅白って言われてるぜ?まぁ嫌ならやめるが」
「そう言われてみればたしかにそうですが……。話がずれましたね、ここの主はレミリア・スカーレットお嬢様で、知っての通り名前にもついてるスカーレット、つまり紅色が大好きなんですよ。それで私の名前も紅美鈴で……」
「紅が入っているというわけか……。まさかそんな理由でお前を部下にしたのか?」
「冗談ですよ、そんなわけないじゃないですか」
「だよなぁ」
「……冗談ですよね?」
「真顔で聞くなよ。私に分かるわけないだろ」
どうやらこの話題は駄目だったらしい。まぁレミリアは色々と駄目なやつではあるが部下くらいはちゃんと選んでると思うが。
そんなことを考えていると上空をかなりのスピードで飛ぶ影があった。方向からして紅魔館に入ろうとしているのは明白である。これは間違いない!待ちに待った『侵入者』ってやつだ!
「てなわけでいきなり恋符『マスタースパーク』!!」
「……へ?」
「ん?……ぬわっ!」
私の放ったマスタースパークは残念ながら『侵入者』を捉えることはできなかったようだ。当たる直前に『侵入者』が急速旋回して見事にかわしてみせ、そのままこっちまで下りてきて
「何するんですか魔理沙さん!危うく焼き鳥になるところでしたよ!」
「そしたら私が『幻想郷最速』だな」
「残念ですが『幻想郷最速』だからこそ今のだってかわせるんですよ。それにしてもいきなりひどくないですか?弾幕ごっこならちゃんと申し込んでくれたら受けますよ?」
「残念ながら今の私は門番なんだぜ!お前のスピードだったら声かけるのは館の中になっちまうだろ?だから仕方なくだ、無駄に速いお前が悪い」
「ものすごい理不尽を感じますが、そんなことをイチイチ気にしてたらここでは生きていけませんしねぇ……。まぁいいです、私はいつも通り『文々。新聞』を届けに来ただけなので通してください」
「あ、はい。いつもご苦労さ」
「駄目だぜ!」
「……はい?」
「ちょっ、魔理沙さん困りますよ!」
「だってせっかくの『侵入者』だぜ?普通に通したらつまんないじゃんか」
「文さんは『侵入者』じゃないんです!お客さんは通すのが門番の」
「……ふむ、わかりました。そのかわり取材させてもらってもよろしいですか?」
「……へ?いや新聞を届けないとお嬢様に怒られ」
「別にいいぞ?というか退屈だしちょっと付き合えよ」
「たまには密着取材もいいかもしれませんね。わかりました、では私もお付き合いさせて頂きます」
「いや、その前に新聞を届けないと……」
さっきから美鈴がイチイチうるさい。とりあえずレミリアに新聞を届ければいいのなら……。
「おーい咲夜ー!ちょっと来てくれー!」
「何よ?忙しいからあんまり呼ばないで欲しいんだけど」
「相変わらずいきなり現れるよなお前って。これ『文々。新聞』だからレミリアに届けといてくれ」
「わかったわ」
新聞を受け取ってまた咲夜は消えた。ある意味一瞬で現れるこいつが『幻想郷最速』とも言えるような気がするがそこは気にしないでおこう。
「これで文句ないだろ?」
「まぁ……そうですね……」
「では早速取材に入らせてもらいます!魔理沙さんは今回、なんでまた紅魔館の門番をやっていらっしゃるんですか?『霧雨魔法店』の仕事の一環ですか?」
「『霧雨魔法店』?……あぁ……いや、ただの暇つぶしだぜ?退屈だったから門番でもしようっていう」
「今絶対自分の店のこと忘れてましたね?ですがその理由ですと面白くもなんともありませんね……」
「そんな事言うなよ。もうすぐお昼だし、新聞のネタはどっかからやってくるんじゃないか?」
「そうですねぇ……。今日ここを訪れそうな人物は一人、いやひょっとしたら二人かもしれません」
「二人か……誰なんだ?」
「それは……あ、一人来ましたよ!」
美鈴の言葉で遠くを見てみるが、全然見えない。文の方は普通に見えてるみたいだが……こういうところはやっぱり人間と妖怪の差ってやつを感じる。少ししてやっと見えてきたその人物は私のよく知る人物(私には知らない人物のほうが下手すりゃ少ないかもしれないが……)、というよりある意味お隣さんだった。
「よぉアリス!何しにきたんだ?」
「明らかに自分のものでない本を持って、図書館のある紅魔館に来る目的といえば一つだけでしょ?」
「……?何しにきたんだ?」
「なるほど、あんたには本を返すっていう思考はないのね」
「こんにちはアリスさん、パチュリー様の本の返却ですね?どうぞ通って」
「ここを通りたければ私と文をを倒していくんだぜ!」
「お、これは少し面白そうですね。魔法の森の住人同士の対決、いい写真がとれたら記事にしちゃいますよ!……って私も参加ですか!?」
「あんた紅魔館の門番になったの?」
「今日だけだがな!」
「ふーん……そうなの。じゃあ降参するわ」
「よし行くぜ!……え?」
「私の負けよ。だからここを私は通れない、そうでしょ?」
「アリスさんはパチュリー様から許可が出てるので入れますよ?」
「実はパチュリーから借りた本の期限が今日までなんだけど、まだこれ読み終わってないのよね。門を通れないんじゃ本は返せないでしょ?それじゃあ仕方ないからここで続きを読ませてもらうわね」
そう言ってアリスは門の近くの木陰で本を読み始めてしまった。勝手に盛り上がってた文と私は実に肩透かしな気分だ。
「相変わらずマイペースなやつだなぁ」
「魔理沙さんには言われたくないと思いますよ」
「……そういえばそろそろ腹が減ってきたな。ご飯っていつもどうしてるんだ?」
「……咲夜さんが簡単なものを作ってくれますよ。あとたまにお嬢様が館に誘ってくれます」
「へー、休憩は?」
「特には無いですよ?」
「へ?」
「私妖怪ですから別に寝なくても平気ですし(昼寝は好きですが)、基本的に平和なので特に疲れるわけでもありませんしね」
「……紅魔館なのに案外ブラックなんですね」
「……まぁ、否定はしませんよ」
「とりあえずもうすぐ咲夜が簡単なご飯を持ってきてくれるわけだな?」
「そういうことです。あ、二人目が来ましたよ」
言われて見てみると、遠目ではよくわからないが傘をさした人物がゆったりとした足取りでこちらに向かってきているのが見える。近づくにつれてはっきりと見えるようになったそいつもまた、私の知ってる人物だった。
「久しぶりだな!なんでお前がこんな所に来てるんだ?」
「私は花のあるところならどこにでも現れるわよ。それにこの館の庭の面倒はたまに私がみているしね。私としてはあなたがここにいる理由の方を知りたいんだけど」
「暇つぶしに門番やってんだ、今日だけだけどな」
「そろそろ来る頃だと思っていましたよ幽香さん、花の方は綺麗に咲いてますよ」
「それは良かったわ、まぁせっかくだし少し見ていこうかしら?」
「おっと、ここを通りたかったら私と文とアリスを倒していくんだな!」
「やっぱり私は参加するんですね……」
「私は降参で」
「ふーん、天狗と魔理沙が相手か……ここはおとなしく引いておこうかしら」
「なんでだよ、大妖怪としてのプライドはないのかよ」
「なんとでも言いなさいな、別に気にならないし」
「……退屈なんです、戦ってくださいお願いします」
「慣れない敬語使った上に頭まで下げてもらってるとこ悪いけどね、あなた達二人とやったら、ここら一体吹き飛ぶじゃない?私はさっきも言ったけど花が見たいのよ。あなたが今日一日門番やってるんならここで明日まで待ってるわ」
そう言って幽香は門の近くの草木をいじり始めた。さっきから『侵入者』はいっぱい来てるのに一向に戦えない。ただただ『門番』が増えていくだけだ。そんなことを考えているといきなり咲夜が門に現れた。
「あら、随分と門番が増えてるわね。おにぎりか何か差し入れしようと思ってるんだけど、皆は何か希望があるかしら?」
「あ、私お弁当持参してるので大丈夫です」
「わかったわ、天狗意外の分は作ってくるから少し待っててちょうだい」
「へー、文ってそういうイメー」
「おまたせ」
「……最後まで喋らして欲しいんだぜ」
とりあえずかなり多めに作られてあるおにぎりを残して咲夜は館に戻ってしまったようだ(消えたので実際は分からないが)。本を読んでたアリスも、草木をいじってた幽香もやってきて、結局文以外は皆おにぎりに舌鼓をうっていた。
「さっきの続きだが、文って料理とかするイメージがないから意外だぜ」
「え!?いや、私だって長年生きてるんですから料理くらい……できますよ?」
「眼が泳いでるぜ?とりあえず弁当見せてみろよ」
「はぁ……別に構いませんが……」
そう言って文は新聞の入っている鞄の中を探っているが一向に弁当が出てこない。それになんだか焦り始めてるようだ。
「どうしたんだ?まさか忘れたのか?」
「……そうみたいですね」
「お、落ち込まないでも大丈夫ですよ!咲夜さんの作ったおにぎり美味しいですし!」
「お気遣い感謝します……」
文はえらく気を落としているようだったが、そんなに自分の作った弁当が楽しみだったんだろうか?
「おや?また誰か来ましたね、今日まだ来る予定の人っていましたっけ?」
「私に分かるわけないだろ」
「あれって早苗さんじゃないですか?」
文の言うとおりやってきたのは早苗だった。いつもの巫女服だが、いつもと違い斜めだけの鞄を持っている。
「あれ?皆さんお揃いで、何かあるんですか?」
「私は降参で」
「皆で門番やってるんだ。ここを通りたかったら私と文とアリ……幽香を倒していくんだぜ!」
「だからここでは私は戦わないって言ったじゃない。他の誰かが戦うなら被害が拡大する前に速やかに排除するけど」
「いえ、私が用事があるのは紅魔館じゃなくて文さんなんですよ」
「私ですか?」
「えぇ、お弁当届けに来ましたよ」
「おやそれは、ありがとうございます」
そう言って早苗は鞄から弁当を取り出し、文に渡す。受け取った文は随分嬉しそうだが……あれ?
「ちょっと待てよ。なんで早苗が文に弁当届けに来るんだ?」
「今日は椛さんが哨戒の任務の日なので届けられなかったんですよ」
「椛ってあの白狼天狗か?なんでそいつが文の弁当届けることになってるんだ?」
「そ、それはですね……なんというか……」
「そりゃ忘れた弁当を届けるのは普通は同居人じゃないですか?」
「ちょ、早苗さ」
あぁたしかにそういうもんだったな。弁当なんて普段持って行かないし同居人がいないからそういう感覚ってイマイチないんだよな。……じゃなくて!
「文とあいつって同居してるのか!?」
「いや、それは……えっと……天狗の社会では特別珍しいわけでもなくて」
「お付き合いしてる二人が同居することってそんなにおかしいことではないと思いますが?二人共見た目は若いですがしっかりしてらっしゃいますし」
「早苗さんは少し黙ってください!」
「へー、お前達ってそういう関係だな……。ちっとも知らなかったぜ」
「え、いやあの……、別に椛とはそんな仲じゃ」
「文さん……あんなに想ってくれてる椛さんを裏切るんですか……?」
「う、あ……。……はいそうですよ!椛と付き合ってますよ、椛大好きですよ!これでいいですか!?」
「文さん……なんというか、おめでとうございます」
「美鈴さんの優しさがなんだか辛いです……」
これはまたおもしろい話題が出てきたもんだ。女の子(……ここにいる奴らのうちどいつまで当てはまるのかは知らんが)は基本的に恋バナってやつが好きだ。それも身近な奴だとなおさらだ。人の恋路を邪魔するつもりはないがぜひとも色々聞きたい。
「ところでその弁当ってやっぱ……」
「……椛がつくったものです」
「少しもらってもいいか?」
「まぁ少しなら……」
許可が出たのでおかずをちょっと分けてもらう。……どさくさに紛れて幽香以外皆もらっていったのは気にしない。
「……結構美味しいな、あいつもあんまり料理が上手ってイメージがなかったんだが」
「たしかに上手ではなかったですねぇ。でも結構器用ですし覚えは早かったですよ」
「なんでそんなこと早苗が知ってるんだ?」
「そりゃ椛さんに料理を教えたのは私ですから。『文さん、仕事に夢中になるとよく御飯食べるの忘れるから』ってうちに教えてもらいに来たんですよ」
「……愛されてるなー」
「……あ、ありがとうございます」
「で、お前たちって二人きりの時はなんて呼び合ってんだ?」
「え!?」
「同棲してからどれ位になるんだ?」
「いや……」
「告白はどっちからでなんて言ったんだ?」
「あの」
「キスぐらいしたのか?」
「……言えません」
「普段人のことは根掘り葉掘り聞くのにズルくないか?」
「そ、それは……」
文はとうとう耳まで真っ赤にして下を向いてしまった。だがやっぱり気になるものは仕方ない。
「よし、じゃあ勝負して勝ったら私の質問全部答えろよ?」
「……もちろん弾幕ごっこですよね?それなら」
「というわけで……いけ、萃香!メガ○ンパンチだ!」
「おりゃ~!」
「はい?……ってあぶなっ!」
私が叫ぶと文の前にいきなり霧が現れて集まっていき、萃香が現れた。不意打ちのパンチだったがさすがは『幻想郷最速』、これをぎりぎりかわしてみせやがった。
「さすが天狗だね~。よーしお姉ちゃんちょっと頑張っちゃうぞ~」
「いや、あの……えぇっ!?」
「人いっぱいいるしいるんじゃないかと思って声をかけてみたが……ほんとにお前もどこにでも現れるよな」
「楽しいところならね~。それに恋バナ嫌いじゃないし!」
「魔理沙さん聞いてないですよ!理不尽です!」
「言ってないもん。勝ったらとしか言ってないから誰がかは決まってないぜ?さて、質問考えとくから萃香頑張れよ」
「任せとけー!」
「……わかりました。伊吹様が相手なら、久しぶりに本気を出させて頂きます!」
「お、勝ち譲らないんだ。これは楽しくなってきたねー」
「負けられない戦いってやつですよ!」
二人が間合いをとって構える。お互いにいつでも攻守に移れるような体制を維持しつつ相手の隙を伺っている。緊張がこっちまで伝わってきそうなこの拮抗状態でそろそろ5分くらいたったのだろうか、BGMもさっきから二週目に入っている。……BGM?
「……お前たちなんでここにいるんだ?」
「そりゃ呼ばれたからよ。丁度予定も空いてたし」
いつからいたのか知らないが、プリズムリバー三姉妹が愉快に演奏をしていた。
「……誰がこいつら呼んだんだ?」
「私よ……」
なんだか暗い声に振り返ってみると幽香が草木をいじりながら沈んでいた。いないと思ったらそんなことしてたのか……。
「……何があったんだ?」
「ここの草木がね……、なんだか元気が無いようなのよ。だから音楽でも聞けば元気になるかなぁって思って……」
「……なるのか?」
「……なったらいいなぁ」
そんなことに構わず、三姉妹はとりあえず演奏を続けている。そしてそれに合わせて早苗が歌い始める。……なんで歌い出したのかはもうめんどくさいから突っ込まないことにする。
その時いきなりものすごい突風が巻き起こった。振り返ってみるといつの間にか文と萃香の弾幕ごっこが始まっていた……んだと思う。……正直速すぎて目で追えないからよくわからん。
「いやー、やっぱり天狗ってなんだかんだで強いよねー。戦ってるとワクワクしてくる♪」
「……」
「普段へこへこしてるところは嫌いだけど、やっぱりその強さは私達を存分に楽しませてくれる」
「……」
「これだけの実力があるならもっと気持ちよく生きたらいいのにねぇ……」
「……」
「あ、あのさぁ……私のこと嫌い?……そこまで無視されるとその……ちょっと傷つく」
「すいません。こちとら必死なもんで」
「あー……なんかごめんね?」
勝負がどうなってるのかはよくわからんが、会話から察するにまだ余裕がありそうな分萃香の方が優勢なようだ。
それにしても本気の文と萃香の対決なんて改めて考えるとすごいレアな気がする。周りもこの対決に注目してるんだろうと思って見てみると……そうでもなかった。三姉妹と早苗は相変わらず自分達の音楽に夢中だし、美鈴は船を漕いでるし、アリスは……あれ?アリスがいない?……まぁ別にいいか。そして幽香は傘を文達が戦ってる上空に構えて……ん?
「ここで暴れるな!!」
「あらよっと」
「……」
いきなり幽香が極太のレーザーをぶっ放してきた。だがそれを二人は難なくかわす。あのタイミングであのスピードの攻撃を軽々避けるあたり、やっぱりこいつらは只者じゃないとしみじみ思う。避けられたレーザーは雲を突き抜けて空高くに消えていった。
「不意打ちはいただけないが……参戦するんだったら歓迎するよ?賑やかなのは大好きだし」
「……場所を変えるわよ。草花の素晴らしさがわからない愚か者どもは私が葬ってあげる」
「……では伊吹様この勝負はとりあえず引き分けにして、場所を改めませんか?」
「そうじゃないと風見幽香が本気を出せないんなら仕方ないね。私はそれで構わないよ」
「ではせっかくの好カード、記事にさせて頂きます!」
「……ん?おい、ちょっと待ちなよ。なんで他人事?」
「勝負は引き分け、つまり私は質問に答える義務はなくなり、もう戦う理由がないんですよ。そうですよね?魔理沙さん」
「う……。まぁ、そうなっちゃうな……」
「で、でも 場所を改めるって言ったじゃん!鬼に嘘を付くの!?」
「いいですけど、すぐ降参しますよ?」
「これだから天狗は嫌いなんだよ……」
結果的には文の一人勝ちということになるのだろうか。まぁいろいろ聞けなかったのは残念だったが、それなりに貴重なものが見れたし私は満足だ。
「ちょっと、私はまだあなたを許してないんだけど」
「草花って綺麗ですよね!私大好きです!」
「わかればいいのよ」
「それでいいのかよ!」
結局文は上手いことすべての問題を切り抜けてしまった。こういうところは伊達に長生きしてないとつくづく思う。
「さて、鬼の方にはきっちり教育してあげないとね」
「天狗のことは残念だけど、こっちはこっちで楽しそうだ」
「ちょっと待ちなさい!!」
突然の声に振り向くとそこにはいつかの不良天人、比那名居天子が仁王立ちしていた。
「さっきのレーザーは誰よ!いきなり天界に撃ってくるなんて危ないじゃない!」
いきなり地震を起こす奴に言われたくないが、どうやら幽香がさっきはなったレーザーが天界まで届いたらしい。……というより天子に直撃したようだ、服がボロボロになってる。
「お、天子じゃん。せっかくだし天狗がいなくなった分勝負に参加しないかい?」
「……勝負?」
「鬼の四天王対フラワーマスター対不良天人、自分で言うのもなんだけどなかなかいいと思うんだけど?」
「へぇ……面白そうじゃない」
「おぉ……これはいい記事が書けそうですねぇ……」
この場に緊張が走る。聞こえるのは美鈴のいびき、三姉妹の演奏、早苗の歌声、アリスの熱演、そして子供たちの声援。……おい、またなんか増えてるぞ。
「なぁ……アリス、何やってんだ?」
「人形劇の途中なの。話しかけないでくれる?」
「あ、ごめん。……じゃなくて!お前何やってんの!?」
「だから人形劇よ」
「なんで!?」
「パチュリーから借りた本が読み終わったから、それを元に大体の劇の流れはできたんだけど……、最終チェックのために一回演じてみようと思ってね。ちょうど来てたからチルノ達に見てもらってたの」
そういえば美鈴はたまにチルノ達が来るって言ってたっけな。劇はどうやら好評らしく、チルノ達は目を輝かせて夢中になってる。いつのまにか劇に合わせて三姉妹も演奏してるし、それに合わせて早苗も歌っている。
もう突っ込むのは疲れたし、無視して萃香達の方を見てみると、こっちもまた状況が随分変わっていた。
「おい、萃香。何があったんだ?」
「二人戦意喪失により私の不戦勝……」
「どういうことだ?」
「幽香はアリスが劇を始めたぐらいからなんか草花が元気になったとか言って私ほっぽり出してそこで花いじってるし、天子はそこにいるよ……」
萃香の指差す方向を見ると、天子がチルノ達に混ざってアリスの劇に一番大きな声援を送っていた。
「まぁ……ドンマイ?」
「単純に賑やかなのは好きだからいいけど……今度ここを誰かが通ったら問答無用で喧嘩ふっかけてやる……」
「あら、せっかく花が元気を取り戻したのに。暴れるっていうんならまとめて血祭りに上げるわよ?」
「ちょっと、劇が今いい所なのよ。邪魔するんならぶっ飛ばすわよ!」
「まぁ、私もそろそろのんびりするのには飽きてきたし参戦させてもらうぜ?」
「これはまた盛り上がりそうですね……。いい記事を書くためにも多少場をかき乱すのも面白いかもしれませんね」
こうして紅魔館の門には過去最大の戦力が集結した。次にここを通ろうとするものはとても無事ではすまないだろう。
つまり過去最大規模にして最強クラスの布陣を相手にすることになってしまうのはアワレその家主かもしれないという・・・やばい、なんでこんなことになったんだとテンパるお嬢様想像したら笑えてきたw
おぜう通ったら楽しくなりそうだな
楽しい作品でした