まず、最初は身体が爆ぜた。
右腕がぼこぼこと沸騰した水のように盛り上がり、そして肉片を撒き散らしながら爆発した。まるで熟れたトマトが内部から膨張して破裂したみたいだ。
だらんと垂れた血管から血液がたらたらと流れていく。痛い。酷く痛い。だが、それ以上に爆発した患部が熱かった。
骨の周りに絡みつくようにして付着している断裂した筋肉がやけに気持ち悪い。だからだろうか。つい、微笑みを浮かべてしまう。
ああ――嗚呼。
フランドール。フランドール・スカーレット。私の唯一にして最愛の妹よ。
「フラン」
「なあに、お姉様」
次は、千切られた。
脇腹の辺りをおもむろに捕まれ、力任せに引きちぎられる。
腸がずるりと、体内から放出される。ぼたり、ぼたり、と地面に落ちる。
とても、痛い。
「お前は狂っているよ」
「お姉様がそういうのなら、きっとそうなんだろうね。きっと」
左腕に噛み付かれる。魔力で強化してもいない貧弱な細腕はいともたやすく、骨ごと噛み砕かれてしまった。
ぶらんぶらん。
残った皮と筋肉のみで左腕は支えられ、振り子のように揺れた。
フランドールは口内の肉を、骨を、血を、飲み込む。私は食べられている。
「まずいよ、お姉様」
フランドールは泣いていた。涙を流していた。
大粒の涙を流しながら、私を食べていた。
「まずいよ」
もう一度、フランドールは言った。私の妹は、そう言った。
赤子のように、夜に怯える幼子のように、もしくは何の意味もなく泣く子供のように、私の妹は泣いていた。
――辛いよ。とても。辛いんだよ。
フランドールは私にそう告げて、私の喉元に食いついた。
むしゃりむしゃり、と私は咀嚼されていく。
フランドールは泣きながら、食べ続ける。
私はそんな彼女がとても愛おしく、ほほを撫でた。
「フラン」
「なあに、お姉様」
無垢だ。
どこまでもフランドールは無垢なのだ。
汚れを知らぬ、善悪を知らぬ、世界を知らぬ。
なぜならば完結してしまっているからだ。
フランドールの世界はこのちっぽけな地下室だから。
だから、泣きながらも私を食べるしか、彼女はできないのだろう。
ああ――嗚呼。なんと、なんと愛おしいことか。
「お前は狂っているよ」
「お姉様が言うなら、そうなんだろうね。きっと」
フランドールの返答に私は満足しながら、食べられ続けた。
「ねえ、魔理沙。私は考えてしまう。どうしても、考えてしまうのよ」
「何のことをだ? パチュリー、それだけじゃあ流石の魔理沙さんだって解らないぜ」
「妹様のことを、レミィのことを考えてしまうの」
「はあ、フランとレミリアのことか。確かにな。……まあ、私も時々考えるよ。どうすれば二人とも幸せになれるのかねえ、と」
「そうね。どうすれば二人とも幸せにできるのかしらね。私には最良が解らない」
「そりゃあ、誰だってそうだろうよ。レミリアのやつだって何百年も考えているんだ。そう簡単にはいかないと思うぜ」
「私はレミィの親友だと自負しているわ」
「ああ、ああ、お前がそう言うからにはそうなんだろうな。けれど、それがどうかしたのか? 話しがずれているように思うぜ、私は」
「だから、レミィの幸せを――幸福を叶えてあげるのが私に課せられた役割だと思う。そういう運命だからこそ、レミィの親友たる価値があるのだろうと思うの」
「……何を言ってるんだ?」
「ごめんなさい。らしくもない弱音ね。忘れてちょうだい」
「……ああ、そう言えばフランを閉じこめているのはお前の魔法なんだっけか? あまり思い悩むなよな。仕方のないことだぜ」
「ええ、ええ。そう。あまり思い悩まないことにするわ」
紅魔館の平穏はこうして保たれたのだった。
だから、太く短くか細く長くかはそれぞれですが
必ず狂ってる分と釣り合うだけの正常を描かなくちゃいけないんだと思うのです
本当に狂っているのか疑問を感じました。
こうなるに至った要因を読みたいです。
かな。これだけ短い文章で、あまりに深くを語れる力がある。とても素晴らしいと思います。
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