まるくて、しろくて、ふよふよしてる。
そこらじゅうにいて、そこらじゅうにいない。
さわるとひんやりしていてきもちがいいもの、なぁんだ?
……まんじゅう?
********
幽霊の正体見たり枯れ尾花。
えぇと、たしか怖い怖いと思っていると、ススキの影すら幽霊に見えてしまうとかそんな意味だったか。
まぁ外の世界ならともかく、幻想郷じゃあ十中ハ九見たのは本物の幽霊なのだが――
「幽霊(ホンモノ)の方が怖くないってのもアレな話しよねぇ」
「な、なによ、薮から棒に」
幽霊にものを尋ねても、彼等はふよふよ漂うだけで答えなど返すわけもない。
そもそも脳みそとかって幽霊にもあるのだろうか?
今度何処ぞの騒霊の頭でもかち割って覗いてみよう。
半霊とかも気になる。
頭の中もひょっとすると半分になっているのかもしれない。
「そんなわけがないでしょう!」
博麗の巫女こと彼女、博麗霊夢がそんな思考を巡らせていると、縁側で茶を啜っていたもう一人の少女は怒鳴り声を挙げた。
半分幽霊な人、魂魄妖夢である。
「私の頭の中はちゃんと詰まってます」
頬をかわいらしくぷっくらと膨らませ、彼女は言った。
半人半霊の身である魂魄妖夢にとって、先程の霊夢の発言は聞き捨てならないものだったからである。
他の人間ならつゆ知らず、博麗の巫女ならば本当にやりかねない。
大仰にため息をつく妖夢に対し、霊夢は心底どうでもよさ気な表情を見せる。
「あら、あんたっていつの間に人の心の中が読めるようになったの?」
驚いたわと霊夢は言ってお茶を啜った。
もっとも、その表情はとても驚いたような表情には見えないのだが……
霊夢は続けた。
「そうゆうのなんだっけ、イモリ?ヤモリ?」
「なんで爬虫類のみなのよ。しかもりしか合ってないし。悟りよ、悟り……たぶん」
自信なさ気にそう答え、妖夢もまたお茶を口に運んだ。
まぁ、地面の下のじめじめしたところにいるくらいだ、蛇とか蜘蛛でも変わらないだろう。
……蜘蛛は虫か。
「で、あんたはいつの間にそんな能力を手に入れたわけ?」
「そんな能力手にするまでもなく、貴方がぶつぶつと小声で呟いていたじゃない」
はぁとため息をつく妖夢。
「あら嫌だわ。お口にチャック」
そう言って、霊夢はファスナーを閉じる仕種をしてみせる。
そんな彼女に対し、妖夢は再びため息をついた。
「今更何を言いますか」
「嫌ねえ、独り言を盗み聞きするなんて」
「貴女が駄々漏れなだけよ」
「垂れ流してるのよ、暇だから」
ずずうと、二人分の茶を啜る音が響く。
「ていうか、なんでこんなことになったのかしらねぇ」
空を眺めつつ、霊夢は言った。
蒼くはない。
既に日も沈み、真っ黒な空に、点々と星が煌めいている。
「私に聞かれても困る……」
「よねぇ。あんたも私も被害者だし。始める前から幽霊もいるし」
「……そもそも、なんで私を誘うのよ」
私だって半分幽霊だっていうのにと続ける妖夢。
たしかに、幽霊とか妖怪とか誘う時点でいろいろと本末転倒な気もするが……
「あいつの気まぐれだしなぁ」
「幽々子様の命令で、来てはみたけれど」
りぃんと風鈴が音色を奏でた。
季節は夏、じっとりとした空気が肌に絡み付く。
不快な事に、今夜は熱帯夜のようだ。
そういったことでは、打ってつけの行事ではあるのだろうけれども、気乗りしないのは間違いようのない事実だ。
二人はため息を重ね、そして、言った。
「「肝試し、ねぇ」」
*******
時間は少し遡ることになる。
まだ太陽が頭上にあったころ、蒸し暑い太陽の光から逃れるように、縁側の影で茶を啜っていた。
溶けてしまいそうな程に暑い陽射し。
べっとりと汗で張り付く巫女装束に、やや不機嫌になりつつ団扇を扇ぐ。
ふと不快な気配を感じ、霊夢は振り返った。
スキマが開く。
「あら、ごきげんよう」
「げ……」
スキマから、ひょっこり生首こんにちは。
何も無かったはずの空間に浮かぶように、スキマ妖怪八雲紫は顔を出した。
心臓に悪いことこの上ない。
「人の顔見てげって言うのは失礼だとは思わないかしら?」
あんたは人じゃないだろうと、迷惑そうにため息をつく霊夢。
「何しに来たのよ」
「貴方の顔が恋しくなっちゃってねぇ」
「よし、帰れ」
「もう、冗談じゃない。そんなに私の事が好きなのかしら?」
んなわけあるか、と霊夢は叫んだ。
「そんなに怒鳴らなくてもいいじゃない……間違えた、そんなに私の事が嫌いかしら?」
「……好きではないことは確かよね。嫌いとゆうよりも苦手、かしら?」
そう言って茶を啜る霊夢に、紫は肩を竦めて見せる。
「珍しく素直じゃない。そうゆう素直な霊夢も私的には好きだけれど」
「……キモ」
「ひ、酷いわ霊夢」
「はいはい、で?用件はなんなのよ?」
ああそうだったと手を打つ紫。
本当、何しに来たんだ。
迷惑千万が代名詞と言ってもいい八雲紫のことだ、またなにか面倒事でも持ち込んで来たのか。
そう構えていると、紫は口を開いた。
「ほら、今日って暑いじゃない」
「そうね、めちゃめちゃ暑いわね」
「この調子だと熱帯夜だと私は思うのよ」
「そうでしょうけど……」
だからどうした。
そう尋ねようとした矢先、予想だにしなかった言葉が紫の口から零れた。
「そこで、名案――」
そして、彼女は目を細める。
肝試しをしましょう。
*******
もちろん、霊夢は反対した。
嫌よ面倒臭いと。
主に面倒くさいと。
当然だ、このくそ蒸し暑い中そんな面倒な真似をする意味が解らない。
けれど、騒ぎ好きな連中がそんなイベントを見逃すわけもなく、あっという間に境内は人妖だらけになったわけである。
「魔理沙に、吸血鬼にそのメイド……他にもいろいろ集まってたわよね?」
「えぇ、さっさと先に行ってしまったけれど」
そうなのだ。
肝試しといったらやっぱり二人組よねというこれまた紫の提案で、二人組での行動が決まってしまったのだ。
「で、なんで私があんたと組まなきゃならんのだ」
「し、仕方がないでしょう、あみだくじで決めたんだから!」
不満げな霊夢に対して、妖夢はやっぱり怒鳴った。
まぁどうでもいい話しだけれど。
『あ、あー、あー……はろーはろー岡本太郎。こちら八雲紫。霊夢、聞こえてるかしら?』
紫の声……
傍らでふよふよと浮かぶ通信用の陰陽玉からだ。
どうゆう理屈なのかは知らないし、確かに便利なのだが――
「無駄にこんな事に使うな」
『けちけちするものでもないでしょう?それより、そろそろ貴方達の番よ』
「なら、さっさと行くわよ妖夢」
さっさと縁側を立ち、ずかずかと闇の中へと消えていく。
面倒臭いことはちゃっちゃと済まして、さっさと寝よう。
霊夢の思考は既にそれだけだ。
「お、置いていかないでよ!」
そんな霊夢を妖夢は慌てて追い掛けて行った。
********
静かに。
夜の墓地は不気味だ。
それこそ、なにかが出るのではないかと思えるほどに暗く、不気味だ。
人間は視界を奪われると、不安に襲われるという。
それは普段見えるものが見えないのだから、当然と言えば当然なのだが……
月には雲がかかり、足元を薄く照らすのは提灯の明かりだけ。
ああ、なんでこんなことになっているのだろう。
博麗霊夢は鬱々としていた。
「……」
「……」
「…………」
「…………」
「………………」
「……いや、待て」
ぴたりと足を止める霊夢に、合わせるようにして妖夢も足を止めた。
右腕の肘の辺りに押し付けられたちょっぴりと柔らかい感触。
ちらりと横に視線をやれば、妖夢の顔が近くに……
と言うより、妖夢は墓地に入って以来、霊夢にべったりと付いていた。
「……ははん」
妖夢の様子に、霊夢は口端を吊り上げる。
「な、なによ?」
「あんた、怖いわけ?」
びくりと、妖夢は身を竦める。
「そ、そんなわけ―――」
明らかな動揺の色。
みえみえの強がり。
そんな彼女の様子に、霊夢はくすくすと笑って――
『うわっ!!』
不意に墓の影から何かが飛び出した。
「おぉう!」
「ひっ!?」
びくりと身を竦める二人。
背後からだ。
声の方に振り返ると、意地悪げな笑みを浮かべつつ、白黒の少女、霧雨魔理沙がそこに立っていた。
「なんだ、魔理沙じゃない」
「なんだとはご挨拶だな」
これでも脅かそうとじっと待ってたんだぜ?と、魔理沙は肩を竦める。
どうやら、墓石の影に隠れていたらしい。
「あんたも暇よねぇ」
「魔女だからな」
「びっくりしたじゃない」
「の割には反応薄かったじゃないか。つまらない女だな」
なんだか意味が解らないことを宣い、そそくさと退散していく魔理沙を、霊夢はため息とともに見送った。
霧雨魔理沙、嵐のような女である。
「まったく……あぁもう面倒臭い」
行くわよ妖夢と、霊夢は彼女の腕を引く――
が、その瞬間、予想外の出来事が起こった。
妖夢が、倒れた。
泡を吹き、白目を向き、涙を流し、びくびくと痙攣しているその様子は、とてもではないが見られたものではない。
恐らく、多分、きっと、先程の魔理沙のせいだろう。
そうに違いない。
突いてみたが、妖夢が起きるような様子は一行になかった。
完全に気を失っている妖夢を見て、霊夢はため息をつきつつ彼女を抱き上げる。
そして思った。
半分幽霊のあんたが一番怖がってどうすんねん。
********
幽霊の正体見たり枯れ尾花。
どんな風に考えても、怖いものは怖いんだけどね。
そこらじゅうにいて、そこらじゅうにいない。
さわるとひんやりしていてきもちがいいもの、なぁんだ?
……まんじゅう?
********
幽霊の正体見たり枯れ尾花。
えぇと、たしか怖い怖いと思っていると、ススキの影すら幽霊に見えてしまうとかそんな意味だったか。
まぁ外の世界ならともかく、幻想郷じゃあ十中ハ九見たのは本物の幽霊なのだが――
「幽霊(ホンモノ)の方が怖くないってのもアレな話しよねぇ」
「な、なによ、薮から棒に」
幽霊にものを尋ねても、彼等はふよふよ漂うだけで答えなど返すわけもない。
そもそも脳みそとかって幽霊にもあるのだろうか?
今度何処ぞの騒霊の頭でもかち割って覗いてみよう。
半霊とかも気になる。
頭の中もひょっとすると半分になっているのかもしれない。
「そんなわけがないでしょう!」
博麗の巫女こと彼女、博麗霊夢がそんな思考を巡らせていると、縁側で茶を啜っていたもう一人の少女は怒鳴り声を挙げた。
半分幽霊な人、魂魄妖夢である。
「私の頭の中はちゃんと詰まってます」
頬をかわいらしくぷっくらと膨らませ、彼女は言った。
半人半霊の身である魂魄妖夢にとって、先程の霊夢の発言は聞き捨てならないものだったからである。
他の人間ならつゆ知らず、博麗の巫女ならば本当にやりかねない。
大仰にため息をつく妖夢に対し、霊夢は心底どうでもよさ気な表情を見せる。
「あら、あんたっていつの間に人の心の中が読めるようになったの?」
驚いたわと霊夢は言ってお茶を啜った。
もっとも、その表情はとても驚いたような表情には見えないのだが……
霊夢は続けた。
「そうゆうのなんだっけ、イモリ?ヤモリ?」
「なんで爬虫類のみなのよ。しかもりしか合ってないし。悟りよ、悟り……たぶん」
自信なさ気にそう答え、妖夢もまたお茶を口に運んだ。
まぁ、地面の下のじめじめしたところにいるくらいだ、蛇とか蜘蛛でも変わらないだろう。
……蜘蛛は虫か。
「で、あんたはいつの間にそんな能力を手に入れたわけ?」
「そんな能力手にするまでもなく、貴方がぶつぶつと小声で呟いていたじゃない」
はぁとため息をつく妖夢。
「あら嫌だわ。お口にチャック」
そう言って、霊夢はファスナーを閉じる仕種をしてみせる。
そんな彼女に対し、妖夢は再びため息をついた。
「今更何を言いますか」
「嫌ねえ、独り言を盗み聞きするなんて」
「貴女が駄々漏れなだけよ」
「垂れ流してるのよ、暇だから」
ずずうと、二人分の茶を啜る音が響く。
「ていうか、なんでこんなことになったのかしらねぇ」
空を眺めつつ、霊夢は言った。
蒼くはない。
既に日も沈み、真っ黒な空に、点々と星が煌めいている。
「私に聞かれても困る……」
「よねぇ。あんたも私も被害者だし。始める前から幽霊もいるし」
「……そもそも、なんで私を誘うのよ」
私だって半分幽霊だっていうのにと続ける妖夢。
たしかに、幽霊とか妖怪とか誘う時点でいろいろと本末転倒な気もするが……
「あいつの気まぐれだしなぁ」
「幽々子様の命令で、来てはみたけれど」
りぃんと風鈴が音色を奏でた。
季節は夏、じっとりとした空気が肌に絡み付く。
不快な事に、今夜は熱帯夜のようだ。
そういったことでは、打ってつけの行事ではあるのだろうけれども、気乗りしないのは間違いようのない事実だ。
二人はため息を重ね、そして、言った。
「「肝試し、ねぇ」」
*******
時間は少し遡ることになる。
まだ太陽が頭上にあったころ、蒸し暑い太陽の光から逃れるように、縁側の影で茶を啜っていた。
溶けてしまいそうな程に暑い陽射し。
べっとりと汗で張り付く巫女装束に、やや不機嫌になりつつ団扇を扇ぐ。
ふと不快な気配を感じ、霊夢は振り返った。
スキマが開く。
「あら、ごきげんよう」
「げ……」
スキマから、ひょっこり生首こんにちは。
何も無かったはずの空間に浮かぶように、スキマ妖怪八雲紫は顔を出した。
心臓に悪いことこの上ない。
「人の顔見てげって言うのは失礼だとは思わないかしら?」
あんたは人じゃないだろうと、迷惑そうにため息をつく霊夢。
「何しに来たのよ」
「貴方の顔が恋しくなっちゃってねぇ」
「よし、帰れ」
「もう、冗談じゃない。そんなに私の事が好きなのかしら?」
んなわけあるか、と霊夢は叫んだ。
「そんなに怒鳴らなくてもいいじゃない……間違えた、そんなに私の事が嫌いかしら?」
「……好きではないことは確かよね。嫌いとゆうよりも苦手、かしら?」
そう言って茶を啜る霊夢に、紫は肩を竦めて見せる。
「珍しく素直じゃない。そうゆう素直な霊夢も私的には好きだけれど」
「……キモ」
「ひ、酷いわ霊夢」
「はいはい、で?用件はなんなのよ?」
ああそうだったと手を打つ紫。
本当、何しに来たんだ。
迷惑千万が代名詞と言ってもいい八雲紫のことだ、またなにか面倒事でも持ち込んで来たのか。
そう構えていると、紫は口を開いた。
「ほら、今日って暑いじゃない」
「そうね、めちゃめちゃ暑いわね」
「この調子だと熱帯夜だと私は思うのよ」
「そうでしょうけど……」
だからどうした。
そう尋ねようとした矢先、予想だにしなかった言葉が紫の口から零れた。
「そこで、名案――」
そして、彼女は目を細める。
肝試しをしましょう。
*******
もちろん、霊夢は反対した。
嫌よ面倒臭いと。
主に面倒くさいと。
当然だ、このくそ蒸し暑い中そんな面倒な真似をする意味が解らない。
けれど、騒ぎ好きな連中がそんなイベントを見逃すわけもなく、あっという間に境内は人妖だらけになったわけである。
「魔理沙に、吸血鬼にそのメイド……他にもいろいろ集まってたわよね?」
「えぇ、さっさと先に行ってしまったけれど」
そうなのだ。
肝試しといったらやっぱり二人組よねというこれまた紫の提案で、二人組での行動が決まってしまったのだ。
「で、なんで私があんたと組まなきゃならんのだ」
「し、仕方がないでしょう、あみだくじで決めたんだから!」
不満げな霊夢に対して、妖夢はやっぱり怒鳴った。
まぁどうでもいい話しだけれど。
『あ、あー、あー……はろーはろー岡本太郎。こちら八雲紫。霊夢、聞こえてるかしら?』
紫の声……
傍らでふよふよと浮かぶ通信用の陰陽玉からだ。
どうゆう理屈なのかは知らないし、確かに便利なのだが――
「無駄にこんな事に使うな」
『けちけちするものでもないでしょう?それより、そろそろ貴方達の番よ』
「なら、さっさと行くわよ妖夢」
さっさと縁側を立ち、ずかずかと闇の中へと消えていく。
面倒臭いことはちゃっちゃと済まして、さっさと寝よう。
霊夢の思考は既にそれだけだ。
「お、置いていかないでよ!」
そんな霊夢を妖夢は慌てて追い掛けて行った。
********
静かに。
夜の墓地は不気味だ。
それこそ、なにかが出るのではないかと思えるほどに暗く、不気味だ。
人間は視界を奪われると、不安に襲われるという。
それは普段見えるものが見えないのだから、当然と言えば当然なのだが……
月には雲がかかり、足元を薄く照らすのは提灯の明かりだけ。
ああ、なんでこんなことになっているのだろう。
博麗霊夢は鬱々としていた。
「……」
「……」
「…………」
「…………」
「………………」
「……いや、待て」
ぴたりと足を止める霊夢に、合わせるようにして妖夢も足を止めた。
右腕の肘の辺りに押し付けられたちょっぴりと柔らかい感触。
ちらりと横に視線をやれば、妖夢の顔が近くに……
と言うより、妖夢は墓地に入って以来、霊夢にべったりと付いていた。
「……ははん」
妖夢の様子に、霊夢は口端を吊り上げる。
「な、なによ?」
「あんた、怖いわけ?」
びくりと、妖夢は身を竦める。
「そ、そんなわけ―――」
明らかな動揺の色。
みえみえの強がり。
そんな彼女の様子に、霊夢はくすくすと笑って――
『うわっ!!』
不意に墓の影から何かが飛び出した。
「おぉう!」
「ひっ!?」
びくりと身を竦める二人。
背後からだ。
声の方に振り返ると、意地悪げな笑みを浮かべつつ、白黒の少女、霧雨魔理沙がそこに立っていた。
「なんだ、魔理沙じゃない」
「なんだとはご挨拶だな」
これでも脅かそうとじっと待ってたんだぜ?と、魔理沙は肩を竦める。
どうやら、墓石の影に隠れていたらしい。
「あんたも暇よねぇ」
「魔女だからな」
「びっくりしたじゃない」
「の割には反応薄かったじゃないか。つまらない女だな」
なんだか意味が解らないことを宣い、そそくさと退散していく魔理沙を、霊夢はため息とともに見送った。
霧雨魔理沙、嵐のような女である。
「まったく……あぁもう面倒臭い」
行くわよ妖夢と、霊夢は彼女の腕を引く――
が、その瞬間、予想外の出来事が起こった。
妖夢が、倒れた。
泡を吹き、白目を向き、涙を流し、びくびくと痙攣しているその様子は、とてもではないが見られたものではない。
恐らく、多分、きっと、先程の魔理沙のせいだろう。
そうに違いない。
突いてみたが、妖夢が起きるような様子は一行になかった。
完全に気を失っている妖夢を見て、霊夢はため息をつきつつ彼女を抱き上げる。
そして思った。
半分幽霊のあんたが一番怖がってどうすんねん。
********
幽霊の正体見たり枯れ尾花。
どんな風に考えても、怖いものは怖いんだけどね。
でも私的には、妖夢が霊夢にピッタリと寄り添うところはちょっとやりすぎだと思います。
最初からピッタリくっつく妖夢ではなく、内心怖いのを我慢している妖夢を見たかったり。
最後に、一つ誤りの指摘を。
イモリは爬虫類ではなく両生類です。