Coolier - 新生・東方創想話

LOST:INVADED ~桜は舞い散った~

2024/06/19 00:01:43
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 目を開けると一面の桜の花。

 硬い床の上に転がっていた身体は、あちこちが痛んだ。バネのように跳ね起きる。途端、身体に降り積もっていた桜の花びらが音もなく流れ落ちていく。

「どこ、ここ……?」

 頭を抑える。花びらが何枚か髪に引っ付いていた。桜の木の下? 花見でもして、酔い潰れて寝てしまった? でもアルコールを飲んだ記憶なんてない。花見なんてした記憶がない。こんな場所に見覚えはない。寝る前に何を? 違う。もっと。どうしてここに? 判らない。でも、もっと深刻だ。そもそもーー

「私は、誰……?」

 思い出せない。思い出せないことで、一気にパニックの波が精神を揺さぶる。自分の職業。自分の名前。自分の容姿。自分の過去。何も。何も覚えてない。記憶喪失。それもとんでもなく範囲の広い。でも、そんなことがあり得る?
 自分の体を見る。白い手袋をつけている。茶色のトレンチコートを着ている。どっちも買った覚えはない。ブラックのスーツを着ている。私の身体にぴったりだけど、仕立てた記憶もない。ネクタイは赤。誰かにプレゼントして貰った記憶はない。何もない。何も。全ての記憶を思い出すことができない。 

 周囲を見渡す。そして私は事態が想像以上に怪奇であることに気付かされる。
 てっきり外なのだと思っていた。さっきから桜の花びらが散っているのが見えていたから。でも違った。ガラスだ。まるで水槽に閉じ込められてしまったかのように、ガラスの壁に囲まれている。ガラスの向こうにはまた別のガラスの壁、そのまた向こうにはさらに別のガラスの壁。果てが見えないほど、何重にも。まるで、

「ミラーハウス?」

 ふと単語が口をつく。そう。この場所はまるで、天井をすべて撤去した遊園地のミラーハウスのよう。どうも私は、誰だか判らない私は、遊園地のミラーハウスというものを知ってるらしい。そう思った。ここがミラーハウスなら、どこかに鏡があるはずだ。その鏡で私の姿を確認すれば、私は自分が誰なのか思い出せるかもしれない。立ち上がる。桜の花びらが降り積もる硬質の床を踏み締めて。靴越しに伝わる質感的に、花びらの下もガラスなのだろうか。

 鏡はすぐに見つかった。
 いや、これを鏡と呼んでいいのか。
 私の顔が映らないのだ。

 着ている服は映っている。手袋、コート、スーツ、ネクタイ。でも首から上の皮膚が露出しているはずの部分だけ、映らない。試しに手袋を外してみる。私の目からは、何の変哲もない手に見える。でも、その手は鏡に映ってない。まるで透明人間が服を着ているよう。

「落ち着いて、私。落ち着くの……」

 心拍数が上がっている。深呼吸でそれを留めようとする。
 果たしてこれは、鏡がおかしいのだろうか。それともおかしいのは私? 私は自分が男なのか女なのかすら覚えてないのだ。鏡を見れば少しは何か判ると思ったのに。

 いや、自分が男か女かを判別するのに鏡は要らない。
 ーーうん、どうやら私は女だ。大したことではないかもしれないけど、今は判ることを少しずつでも確かめていくしかない。

「私は人間じゃないのかしら?」

 吸血鬼は鏡に映らない、らしい。なら私は吸血鬼? 犬歯を触ってみる。人の皮膚に穴を空けられそうなほど尖ってない。吸血衝動、のようなものも感じない。そもそも吸血衝動とは、どのようなものと定義するのだろう。仮に私にそんな衝動があったとして、それが無性に人の血を啜りたい衝動なのだ、と確かめるためには実際に人の血を啜ってみるしかない。けれど、それは人に危害を加えることに他ならないわけで、傷害罪に該当する。傷が元で死なせてしまったら傷害致死だ。気軽に実行できる犯罪じゃない。もしそれで、自分の衝動が吸血衝動ではない、別の衝動だったと判ったら? 目も当てられない。衝動は解消しないし、犯罪者の仲間入りだ。
 判ったことが二つある。ひとつ、どうも私には基本的な法律の知識があるということ。ひとつ、どうも私は、自分の利益のために他者を害する行為に嫌悪感を覚える人間であるらしいということ。少しだけ安心する。自分が倫理観のかけらもない獣のような悪人であることを、何の記憶もない状態で受け入れるのは難しそうだ。法の定める規範と乖離する感覚の持ち主だったとしたら、記憶を失う前の私は警察に追われる存在だったかもしれないわけで、この何も判らない状況で敵対者に怯える状況は勘弁願いたい。

 さて、どうしようか。
 ここでこのまま奇妙な鏡の前に立っていても、事態が好転するイメージが湧かない。行動するべきだ。自分がどこにいるのか把握して、それこそ警察なり救急なりに助けを求めるべきだろう。もしかしたら捜索願いが出されているかもしれない。私を探している誰かの元に身を寄せれば、記憶を取り戻す術も判るかもしれない。

 でも、どうやって出ればいい? 四方をガラスと鏡に閉じ込められている。まるでショーケースの中。天井は遮られていないけれど、ガラスを登るなんてのは蜘蛛でもないと無理だろう。それとも、私は実は蜘蛛だという可能性はあるだろうか。グレゴール・ザムザはある朝自室のベッドで目覚めると、自分が巨大な毒虫になっていることに気が付いた。私はその逆で、もともと蜘蛛だったにもかかわらず目が覚めて人間になってしまっていて戸惑っているとか? 私はカフカを読んだこともあるようだ。読書家だったのだろうか? いや、カフカの変身くらいは一般教養だろうから、それで自分の出自を探るのは無理かもしれない。

 ガラスの壁をじっくり観察する。少しして、微かに切れ目の入っている一角があることに気づいた。それはそうだろう。私はこの場所で目覚めた。なら普通に考えれば、目が覚める前、この場所に入ってきたはずだ。ガラスの壁は五メートル以上はある。上から入ってきたのなら、落ちた衝撃で怪我をした痕跡がないのはおかしい。なら、入口はあって然るべきなのだ。

 ドアノブのようなものは見当たらない。切れ目に沿って手を添えて、グッと押してみる。クリック音のような軽やかな音がして、ガラスが手前方向に開いた。目覚めた部屋を出て、通路に足を踏み出す。便宜上、通路という呼称をしたけれど、ここが本当に通路なのかどうかは判らない。鏡とガラスが延々と等間隔に並んでいて、部屋から出たという実感すらない。ここも桜の花弁が重厚な絨毯のように散り積もっている。

 不自然だ。この空間は一体何なんだろう。

 遊園地のミラーハウスのようだ、とは思った。ありえない事じゃない。視界を覆う桜色は並び立つガラスによって合わせ鏡状に、無限を感じさせるほど増幅されて荘厳だ。一見の価値はある。人を呼び込めば、かなり話題になるだろう。それ自体は問題じゃない。けれど、ここには天井がない。必然、風雨を防ぐことができない。細かい砂埃や大気中の塵による汚れを排除することができない。なら相応の劣化があって然るべきなのだ。なのに壁面を構成するガラスは磨き上げたばかりのような透明度だし、夥しく敷かれた桜の花びらもすべて落ちたばかりのように劣化がない。まるで時間が止まった世界ででもあるかのように。でも時間が止まっているわけではない。時間が停止しているなら私は動けないし、桜の花びらも舞い散らない。

 この世界はどこか歪だ。そして私はその歪さを不自然として認識している。違和感。つまりこの世界にとって私は異物なのだ。私と世界のどちらが間違っているのかまでは判らないけれど、この違和感を無視することはできそうもない。

 世界のために何か自分の役割が用意されていると信じることは、おかしいだろうか。
 世界に対して奇妙だと私が感じることに意味があると思うのは、狂人の戯言なのか。

 例えば、このガラスの迷宮が巨大な無菌室の中に構築されているとしたら?

 空を見上げる。空、と呼んでいいのかどうかは判らない。複数に折り重なる枝と花びらに遮られて、隙間すら見当たらない。桜吹雪というよりも、桜雪崩。無数の花びらが舞い散るばかりで、それ以上の情報を得られそうには無かった。

 疑問。桜の木があって、桜の花びらが散っている。数えきれないほどの花びらが落ちているように感じられても、一本の桜の木から生成される花びらは有限であるはず。現にこの床にも、数センチ単位で花びらが積もっている。なのに、まだ空もまともに見ることができないほど、枝に花びらが残るだろうか。

 仮説。もし桜の木が精巧に作られたイミテーションで、かつここが屋内なら、この状況も成立するかもしれない。枝と花びらの向こうには天井があって、そこにカレイドスクリーンで花びらの映像を流せば、空を見ることはできないはず。

 でも誰が何のために、そんなことを?
 視線を戻す。確信はない。結論を出すのはもちろん、仮説を進めるためにも情報が足りない。とにかく進もう。そう思った、その時だった。視界の端、何重にも隔たるガラスの向こう側に、桜の花びらが不自然に盛り上がった部分を見つけた。

「何かしら……」

 普通に考えれば、あの場所の花びらの下には何かが埋まっている。最終的にはここを出るにしても、あの下を調べてみる価値はあるはず。そう思った。歩き出す。
 桜とガラスに彩られた迷宮の中で、行きたい場所に向かうことは想像以上に困難だった。案の定、通路は入り組んでいるし、ガラスの透明度も高くて何度かぶつかりそうになった。頭の中で自分の位置を二次元にマッピングする。俯瞰視点で自分のいる位置を定義する。不思議とその作業はスムーズに行って、効率的に未捜索エリアを進むことができた。目が覚めて以降の記憶力に問題は感じない。むしろ、かなり記憶能力は高い方であるように感じた。そんな人間が、いまだに自分のことを何ひとつとして思い出すことができないのは矛盾もいいところだと自重する余裕すらあった。

 時間にして十五分ほどだろうか。クリック式の扉を開けて、その場所に辿り着くことが出来た。

 桜の花びらが人型に盛り上がっている。
 花びらの山の一部分が、真っ赤に染まっている。
 赤く染まった部分の真ん中には、ナイフが四本突き立っている。

 この下にいるのは人間で、その人間はもう死んでいる。考える間もなく直感的に理解した。綺麗な桜の下には、死体が埋まっている。けれどこの死体は、桜の花びらの中に埋まっていた。これじゃ、せっかく桜の木の下で死んでるのに、桜の美しさに寄与することができない。歩み寄った私は、死体の上に降り積もった花びらをどかしていく。

 死体は女性だった。紫色のワンピースを着ていた。
 女性は金髪だった。桜の花びらの隙間から、それが伺えた。
 ドアノブカバーに似た白い帽子を被っていた。顔の部分の花びらをどかす。彼女の顔を認識する。

「……カエル」

 咄嗟に口から単語が溢れでた。
 私は彼女を知らない。だけど名前だけは判る。

 彼女はカエル。
 そして彼女の名前を思い出したことで、私は自分のことも連鎖的に思い出す。

 私の名前は星井戸。名探偵だ。
 下の名前は思い出すことができない。けれど、もっと重要なことを思い出す。というよりも理解する。

 名探偵である私は、カエルの死の謎を解かなくちゃいけない。
 この桜とガラスの迷宮の只中で、四本ものナイフを胸に刺されて死んでいる彼女の。



『ーー星井戸、覚醒しました』

 滑らかな合成音声が凛と告げる。スタンドアロンサーバ上に構築された解析AIに生物学的な男女の概念は存在しないが、ここではそれらの解析AIを彼女という三人称で仮称する。彼女の音声出力を受けて、同じようにスタンドアロンサーバ上に構築された2つの解析AIクラスタが反応した。

『では、始めましょう。藍はそのまま星井戸の観察とカエル殺人事件の推理。橙は井戸内部の構成要素と現実世界の照合ね』
『はい、紫さま』

 それぞれ別々のサーバ上に構築された三つの解析AIには、統合解析サーバ=紫、井戸観察サーバ=藍、現実照合サーバ=橙という擬似人格が付与されており、互いの情報を音声対話形式でやりとりする。本来、サーバ同士を量子イントラネットで並列に接続すれば音声での情報伝達は発生しない。だが、別々の役割を与えられた解析AI同士に全情報のやり取りを許可すると、擬似人格のメルトダウンを引き起こして解析作業に不備が発生するため、サーバ同士を物理的に分離した状態で不完全な情報伝達しか許可しないよう、彼女たちは設計されていた。

 彼女たちは、ひとつの世界を観察している。
 その世界は精神分析学におけるイドをもじって、「井戸」と呼ばれている。イド。無意識の本能的衝動、欲求などの精神的活動の源泉。そこには意識の表層にまで登ってこない願望や記憶の本質的な情報が眠っている。

 井戸。仮想現実上に構築された、人間の衝動=無意識の世界。
 彼女たちが観察しているその井戸は、現実世界で発生した殺人事件現場で検出された、殺意の思念を元に構築されている。

 連続連続殺人犯「第五の刳り貫き」

 犠牲者の目を刳り貫いて殺す。あるいは殺してから犠牲者の目を刳り貫く。それ故についた犯人の渾名が「刳り貫き」。そうした尋常ならざる殺人方法を用いて連続殺人を行う五人目の連続殺人犯。つまり連続殺人が連続している。それ故に連続連続殺人犯。

『現実世界に、井戸内部の様相と合致する場所はありません』

 橙が現時点の情報を統合して結論づける。

『全世界の遊園地やレジャー施設と照合しましたが、<桜の木の下に建つ天井のないミラーハウス>の要素を持つ施設は存在しないようです』
『殺意の世界に現実世界との相対性がない。純粋な心象風景の具現ということですね。このタイプの連続殺人犯は心的外傷の発露としての殺人ではない可能性が高いです』
『学習データからの傾向予測に頼りすぎないようにね、藍。所詮、私たちが学習してきたデータは、真っ当な人間が研究の成果として量子ネット上に公開しているものがほとんど。連続殺人鬼の持つ殺意なんて、そこから導き出される傾向に合致する可能性の方が低いわ』
『認識しています。紫さま』

 紫からの指摘も想定内とばかりに返した藍が続けて、

『カエルの胸に刺さっている四本のナイフは、今回の刳り貫きの犠牲者の数と一致します。橙、犠牲者リストの共有を』
『はい、藍さま』

 藍の指示を受けた橙が情報共有認証を通して、紫と藍に警察から開示された捜査資料を展開する。

『死亡推定時刻順に行きます。鶴宮祐也(8)京都、牧田龍太郎(11)宮崎、大貫道雄(10)新潟、古川ナツ(9)北海道』
『男の子ばかりね。それもまだ、小学校すら卒業してない』

 紫が嘆息する。それは嘆息と定義して問題ないだろう。解析AIにとっての感情発露はエミュレートに過ぎないが、外部からの観測においてそれは人間の反応と遜色がない。箱の中の英国人が中国語を理解できていなくても、対話が成立する以上、そこに意識の非存在を論じることは無意味だ。なぜなら人間は意識があろうとなかろうと、誰の心の中をも見ることができないからだ。それは相対性精神学がメジャーな学問となった昨今の科学情勢的には常識であった。

『まだ現実世界の捜査に役立つ情報の抽出はできてないわ。引き続き解析を進めて。星井戸がカエル殺人事件の謎を解く前に』

 紫が桜とガラスの井戸の中で、カエルの死体を見下ろす星井戸の様子を観察しながら言った。



 どうして四本もナイフを刺されているのだろう?

 私は、名探偵・星井戸であることが判明した私は、まず誰もが抱くだろうその謎から思考を巡らせる。
 ナイフは全て柄の付近まで深く胸に刺さっている。肋骨に阻まれて肺や心臓を逸れたと思しきナイフは一本もない。
 つまり、どのナイフも例外なく致命傷なのだ。
 ただ殺すだけならナイフは一本で事足りる。殺害に用いるナイフを、わざわざ四本も用意する必要がどこにある?
 人がナイフで殺人に及ぶ際、被害者を滅多刺しにすることは往々にしてある。それは自身の殺意に翻弄された錯乱状態で、適切な致命傷がどの程度なのか判らない場合がほとんどだ。けれど、このカエルの死体には余計な穴が空いてない。それ自体がチグハグだ。

 余計な穴が空いてない。揉み合った時についた余計な傷がない。つまり犯人はカエルの抵抗すら許さず、狙いを定めて一発で致命傷を負わせることができた。そんな芸当ができる奴が凶器を複数持つのは不自然だし、一度の犯行でその複数の凶器を使うことも不自然だ。
 四本のナイフ全てが致命傷になり得るのなら、最初の一発でカエルは死んでいる。その後から、三回も致命傷を与える必要はない。

 そもそも何で四本なのだろう。三本でも五本でもなく。

「四という数自体に意味があるのかしら? ……うん、それ以外に考えられない」

 これは単なる殺人事件じゃない。凶器が残っている時点で気がつくべきだったかもしれない。意味があるんだ。
 私は名探偵だ。私はこの殺人事件を必ず解決してみせる。世界に名探偵が存在しているのは、その世界に解かれるべき謎があるからだ。謎が用意されていて名探偵がその謎に居合わせる以上、その謎は全て解き明かされる運命にあるんだ。

 きっと私がここにいることにも意味がある。
 引き続き推理を進めていく。



『紫さま。星井戸が、ナイフの数に意味があると推理を』
『ちょっと待って、藍。監査官からの通信だわ』

 紫の人格を構築するサーバにのみ用意されている外部との通信用回線にコールが届く。それは現実世界で実際に殺人事件の捜査に携わっている警察組織と情報交換を行うための回線だった。現場の捜査にも犯人の逮捕にも、外部で実際に動く人間の手は不可欠だ。紫たちは井戸の解析のために調整(チューニング)されたAIに過ぎないし、いくら井戸の解析が上手くいって殺人犯が判ったとしても、獄中からその犯人を逮捕するために出向くわけにはいかない。

「井戸の捜査から何か判ったか?」
『いいえ、まだ何も』
「紫さん、急かすようで悪いが、上は早急な結果を求めてる。連続殺人犯に好き勝手やらせるなんて、警察の面目丸潰れだからな」
『心得てますわ。今回の、五人目の刳り貫きに次なる殺人を犯させはしませんしーー』

 彼女はそこで一拍の間を置いた。解析AIに呼吸は不要なので、息継ぎのためではない。通話相手に意図が伝わるよう最適化された発話の空白。

『ーー私たちの有用性も証明してみせますわ。このシステムは連続殺人鬼の単なる手慰みではなく、充分に事件捜査の役に立てるのだと』
「判ってもらえているようで安心した。何か判ったら報告してくれ。今回の刳り貫きは日本中で犯行を繰り返している。逮捕するなら、所轄と連携を取らなくちゃならないし、それには時間も掛かる」
『えぇ、ありがとうございます。鳴瓢(なりひさご)さん。必ず、吉報をお届けしますわ』

 通話が途切れたその瞬間、藍が待ちわびたとばかりに、

『紫さま、井戸内部で星井戸が何か見つけたようです。カエルのワンピースのポケットに』

 その言葉を受けて、紫が井戸内部の観察に戻る。死体を検分していた名探偵・星井戸がポケットの中からそれを引っ張り出した。それは一枚の写真だった。住宅街の一角と思しき場所で、ランドセルを背負った少年がカメラの方に振り向いた瞬間を撮影したような。

『人物解析、入ります。写真に映る少年の顔、被害者のひとりと一致しました。古川ナツです』
『どうしてカエルの死体が被害者の写真なんて持ってるんだ? 犯人に持たされたのか? だとすると意図は撹乱?』
『ダイイングメッセージの可能性はないの?』
『それはありません。カエルは胸を一突き……いえ、四突きもされています。恐らく犯行中に死亡しているので、メッセージを残すことは不可能かと』
『写っている街並みと現実世界との照合、完了しました。古川ナツが死亡した犯行現場と一致します。北海道です』
『犯人自身の記憶の可能性が高い。橙、写真が映された角度や高さを計算してくれ』
『割り出しました。俯角や古川ナツの視線から推測するに、画像は地面から157センチメートルの高さからキャプチャされたものかと』
『男性の平均身長と比較して13センチも低い。犯人は女性か?』

 藍と橙の作業を統合監視しながら、紫は井戸内部の様子を注視する。星井戸が目覚めてから三十分程度。だが既に井戸が構築されてから二時間が経過していた。長時間の井戸への潜入はパイロットに大きな負担をもたらす。記憶のない無防備な状態で、他人の殺意の中に居続けるなど。たとえ、彼女が自ら望んでそうしているとは言え。
 紫は自身が抱く懸念を表明しない。ただ、井戸の解析に自身のリソースを集中させる。



 写真の子供に見覚えはないし、街並みにも覚えはない。
 カエルと子供は似ても似つかない。血の繋がりは無いだろう。無関係な他人の、それも子供の写真を持ち歩くことは、かなり不自然なことのように感じる。ダイイングメッセージである可能性はない。カエルはほぼ即死だったはず。周囲に他に写真らしいものも見つからない。死に瀕してとっさに起こした行動として、この写真をワンピースのポケットに忍ばせることは不可能だ。

 それでも、これは紛れもなくメッセージだ。
 そもそもカエルは、どうしてここで死んでいる? このガラスに四方を囲まれた空間の真ん中で。

「部屋の隅でもない。通路の奥でもない。入り口付近でもない」

 立ち上がった私はカエルから離れて、この一画そのものの調査を始める。

「そして壁は、ほとんどガラス。一部分だけ鏡」

 鏡の前に立つ。ここの鏡も、私が目覚めた場所のそれと変わらない。着ている服だけ映り、肌の部分は決して映らない。
 肩越しに映るカエルの姿を確認する。カエルは映っていた。服はもちろん、目を見開いたままの顔も、投げ出されて虚空を掴む両手も。
 鏡に映らない私が異常? そうじゃない。この鏡は生きてるものを映さないんだ。人間は映らない。でも人間の着ている服は映る。桜の花びらは映るけれど、桜の木や枝は映らない。どうして? きっとこの鏡にとって、生きとし生けるものなんて映す価値がないから。

 だからこの世界の桜は常に散り続けている。数え切れないほどの生と死を走馬灯みたく蒐集して。
 桜が美しいのは、花びらのひとつひとつが散る様に、表裏一体の生と死が凝縮されているからだ。
 生が失われる刹那の煌めきを繰り返している。消える瞬間の焔が一際輝く様に死の影を仮託して。

「だから、この世界では繰り返すことに意味がある」

 周囲を見渡す。変わり映えのないガラスの壁が聳えてる。眼を凝らす。けれど、注意を引く何かは見つからない。小さな書き込みや彫り込みがあるとか、どこかの隅に張り紙でもしてあるとか。何の変哲もない。でも、そんなわけはない。ここじゃ無ければいけない理由がある。隣の部屋でも、そこに繋がるための通路でもない、この部屋じゃなきゃいけない理由。

 壁には汚れひとつない。天井は、そもそも存在しない。
 それじゃ、床は?

 何もかもが必要以上に開けっぴろげなこの空間に何かが隠れているのなら、それは降り積もる花びらの下以外に考えられない。上品ではないけれど、ブーツを履いた足を箒代わりに花びらを退かしていく。邪魔になった花びらはクリック式の扉の向こうへ蹴りやって。ややあってそこそこ身体に疲労が溜まり始めた頃合いで全貌が明らかになり、私はその異様な絶景に知らず息を呑んでいた。その場にしゃがみ込んで眼を凝らす。

「夜空だわ」

 足元のガラスの向こうには、紛うことなき夜の空。ベルベットのような漆黒に抱かれる星々の瞬き。まるで夜に堕ちていく最中のような。眼下に星が瞬く様は宇宙旅行にでも来たみたい。だけどそうじゃない。垂直下に広がる星空をこの眼で認識した途端、推理よりも直感的かつ明確に3つの数字が脳裏を駆け抜ける。

「ーー北緯43度37分22秒、東経141度22分5秒、6月13日午後8時48分14秒」

 ここまで詳細な数字がするりと出てきたのは我ながら驚いた。どうやら私の眼は、星を見れば時間が判り、月を見れば場所が判るらしい。そんな能力が私にあること自体も解き明かすべき謎ではあるかもしれない。けれど私にはカエルの死の謎を解かなくちゃいけないという使命がある。重要なのは、これでカエルがこの部屋で死ななくてはいけなかった理由がハッキリしたということだ。この部屋自体が指し示す座標。

「でもまだ、推理は完全じゃない。まだ謎は残ってる」

 メッセージなのは間違いない。でも、2通りの解釈ができる。すなわち、犯人によるものなのか、それともカエル自身によるものなのか。それによって、込められた意味には大きな違いが出る。

 前者である場合、それは問題だ。自己主張ならいいけれど、罠である可能性を否定できない。
 後者である場合。もっと問題だ。

 だって、それは、あまりにーー

 深呼吸。一度、二度。感情をフラットに。脳細胞を灰色に。
 私は名探偵だ。名探偵は真実に尻込みしない。名探偵は推理を恐れない。謎を解き明かした果てに何が待っていたとしても、立ち止まるわけにはいかない。そこで歩みを止めてしまうのは、名探偵じゃない。立ち上がる。
 立ち上がった私はカエルの元に歩み寄る。次の一手は既に見えている。生と死が入れ替わる一瞬を切り取ったこの世界では、繰り返すことに意味がある。カエルの胸に刺さったナイフの一本を掴む。ナイフは全部で四本。その全てが致命傷。本来なら人を1人殺すのに四本もナイフは必要ない。

 けれどそれに意味があるとすれば?

「ーーカエルは四度、殺された」

 ナイフを引き抜く。その瞬間、カエルの死体は瞬きする間もなく私の目の前から消失した。流れていた血の一滴も残さず。
 周囲を見渡す。カエルの死体が消えて、この世界に私はひとりきりになってしまったかのように思えた。でも、そうじゃない。私の推理が正しければ。ややあって、私は目的のものを見つける。七時の方向。いくつかのガラスを隔てた先の空間に、桜の花びらが不自然に盛り上がった場所があった。

 世界の法則は見えた。

「でも繰り返すだけじゃ、謎は解けない」

 瞬間移動したカエルのところへ透明な迷宮を進みながら呟く。



『続けますか? 紫さま』

 藍の声は沈鬱だった。その声を聞く紫の胸中にも暗いものが澱んでいる。解析AIに胸部は存在しないが、それでも。

『星井戸が導き出した座標は、四人目の犠牲者である古川ナツの遺体発見現場です』

 橙の報告は予想を外れるものでは無かった。藍と紫が導き出している推論と合致する。だが、だからこそ判断を迫られていた。このまま井戸の解析を続けるべきか、それとも打ち切るべきか。

『カエルは四本のナイフを刺されています。それは今回の刳り貫きの被害者の数と同じ。ナイフが四本ある真相としては、実はカエルは四度殺されていたから。そしてカエルが死んでいる部屋には、被害者の遺体発見現場の座標が記されている。この法則が適用されるのなら、次にカエルが死んでいる部屋には、新潟の座標が記されているはず。三人目の犠牲者である大貫道雄の遺体発見現場の』
『問題は、それが我々に取っては既知の情報ということよね』
『えぇ。この情報では、事件の捜査に寄与できません。これが繰り返されるだけなら、井戸の解析は無意味になると進言します』
『橙。現実世界の情報と合致する何かは見つけた?』
『いいえ、紫さま。古川ナツの写真だけです』
『繰り返すだけじゃ、謎は解けない……星井戸の言う通りね。何も覚えてないはずだけど、無意識のうちに気付いているのかしら』
『何もかもまったくの無意味だったわけではありません。犯人の身長が157センチメートルである可能性が高いこと、6月13日午後8時48分14秒に古川ナツ殺害が実施された可能性が高いことを報告するのは?』
『井戸を解析してまで提供する情報としては弱いわね。けれどーー』

 瞬間、紫が発声をキャンセルする。それまで変化の無かった井戸内部に、大きな揺らぎが生じたことを検出したからだった。

 構成された殺意の世界が軋むような音を立てて塗り替えられる。
 現象が断絶する。理論が再生する。情報骨子の構築が開始される。

『井戸の更新です! 第五の刳り貫きの新たな殺人衝動を検出しました!』
『星井戸は!?』
『座標、変わっていません! ですが、またカエルの死体が消えてます! 検索中……見つけました! 星井戸が最初に目覚めた部屋です!』
『星井戸、走り出しました! カエルの死体に辿り着くまでおよそ1分!』
『橙、カエルの死体のある部屋の床の下、探査できる?』
『いいえ、紫さま! 星井戸が割り出すまで確認不能です!』
『藍、これまでの情報から、最初の部屋の場所の候補を出せる?』
『いいえ、紫さま! 情報が少なすぎます!』
『星井戸が迅速に行動してくれるのを祈るばかりね』

 紫は内心で皮肉る。解析AIに、祈りという行為の本質的な意味は理解できない。救いが訪れることを希うことはできない。
 だから、カエルの死体の元に辿り着いた星井戸が、即座に床の花びらを蹴散らし始めたのを見ても、祈りが通じたとは考えない。 
 ただ、自らのアルゴリズムの中で最も価値があると設定した期待値が結果を返したことに安堵するのみだ。

『星井戸、眼下の星空を認識しました!』
『座標、出ます! 北緯35度42分32秒、東経139度47分44秒、6月18日午後9時33分59秒!』
『東京、浅草! 時刻は今から12分41秒後です!』
『鳴瓢さん!』

 紫が監査官である鳴瓢の名を呼ぶ。井戸の変化を察知した瞬間からオンコールにしていたのだ。

「了解した。所轄の連中に急行させる」
『はい、よろしくお願いします』

 紫が彼に告げる。コールは即座に切れた。これで紫たちの仕事は終わった。
 だが、すべてが終わったわけではない。犯人はまだ捕まっていない。所轄の対応が遅ければ、12分後に新たな殺人が起きる。

 人事は尽くした。あとは天命を待つばかりだ。
 たとえそれが本質的には理解できない概念だとしても、彼女たちには願う他になかった。



「ーー判るかな? 少年。つまり、学校の勉強なんてのは、そんなに悩むことじゃないのさ。才能がなくたって関係ない。社会に出ると、そんなことはどうでも良くなる。重要なのは、努力すること。そして自分の価値を社会に示すことだ」

 お姉さんは、そう言ってパッと笑ってみせた。僕は小さく頷く。本当は、お姉さんの言うことは、あんまりピンと来てない。でも、僕に笑ってくれるお姉さんを、ガッカリさせたくなかったんだ。
 星が瞬いてる。月明かりが、とても綺麗に見えた。今日はすごく星が見える素敵な夜だ。だけど、僕はお姉さんから目を離せない。いつもの公園で、いつものブランコの上で、お姉さんが買ってくれたジュースを飲みながら。そうして過ごす夜は、僕にとっては胸が痛くなるくらいに特別だった。

「人生は可能性に満ちているんだよ。少年」

 言って、お姉さんがブランコを漕ぎ始める。立ち漕ぎだ。ジーンズを履くお姉さんの足は、スラリと長い。自信ありげに張った胸の膨らみが、重力に逆らって揺れる。ハッとするような衝撃が心臓を掴むような気がした。僕は、それがすごくいけないことのように思って、慌てて視線を逸らす。お姉さんは僕の視線の移ろいなんて思いも寄らないみたく、真っ直ぐ前を見たまま、

「悩むのも良い。嘆くこともあるだろうさ。だけど、そんなのは長い人生の、ほんの一瞬だけの痛みなんだよ。これから、楽しいことがたくさん待ってる。知ってるかな? 大人になるって、すごく素敵なことさ。好きなこと、やりたいこと、心が震えるくらいに感動することが、いくらでも起きる。そりゃ、怠惰じゃいけないよ。少しの努力は必要だ。それを、人生のスパイスだと思って、楽しむことが大事なんだ」
「お姉さんは、すごく楽しそうに見えるよ」
「楽しいよ。そりゃ、楽しいさ。好きに旅行しながら、好きな仕事をして、楽しいことをたくさんしてる。ノマドワーカーって言うんだけどね、聞いたことある?」
「うぅん、ない」
「それもひとつの可能性さ。興味があったら、目指してみると良い。学校のテストなんかでクヨクヨしてちゃ、無理かもしれないけどね」
「もっと勉強、頑張んなきゃってこと?」
「いや、そうじゃない。なりたい自分になればいい。そのための方法は、何も勉強だけじゃないよ、って話」

 お姉さんが、ブランコから手を離した。綺麗な放物線を描いてから、ストンと軽やかに地面に降りる。
 僕の瞳を、お姉さんがジッと見つめてくる。その目の輝きが眩しくて、気恥ずかしくて、胸がドキドキしてきて。
 きっと僕は、今日のことを一生覚えているのだろう。そんな予感があった。

「少年。君は、どんな大人になりたい?」
「……まだ、判んない」
「そうだよね。まだ見ぬ未来の自分を思い描くのは、時に困難だ。特に、君みたいに無限の可能性が広がっているのなら」
「そんなこと、ないよ……僕、頭も良くないし、足だって早くない」
「些細なことだよ。それらはひとつの要素でしかない。それに、今できなくても明日はできるかもしれない。そうやって物事をポジティブに捉えていれば、望む未来は、きっと来るよ」

 ニッコリと微笑んだお姉さんの表情はひまわりのようで。
 将来のことなんて考えたこともなかった。でも今僕は、必死に脳みそをフル回転させて、大人になった自分のことを考えていた。お姉さんの期待に応えたくて。何が好きだろう。何をやりたいだろう。僕はいったい、どんな大人になりたいのか。
 ゆっくりとお姉さんが歩み寄ってくる。お姉さんの視線を強く感じた。

「……宇宙飛行士とか、なりたい、かも」
「いいね。宇宙飛行士。どうしてそう思ったの?」
「星が好きだから。宇宙に出たら、地上で見るよりもずっと星が近いよね。きっと綺麗だろうな、って」

 僕の言葉は半分本当で、半分嘘だった。星は好きだ。でも、それで宇宙飛行士になろうと思ったことはなかった。だけど、言葉にしてお姉さんに伝えてみると、本当に宇宙飛行士になりたいという気持ちが湧いてきた。それはなんだか不思議な感覚で。宇宙飛行士になった自分の姿を思い浮かべるとワクワクしてきて。

「少年。夢ができたね」

 お姉さんが笑っている。微笑むお姉さんの目は、真っ直ぐに僕の目を見下ろしている。
 ありがとうってお礼を言おうとした。でも言葉が出なかった。いつの間にか、お姉さんが右手にナイフを構えていた。

 意味が判らなかった。

 声も出なかった。呼吸が喉に詰まってしまったようで。
 お姉さんが笑っている。お姉さんが笑っている。その表情は、少しも歪みがないまま。そしてそのまま、お姉さんは僕の左肩に手を掛けて、右手のナイフを僕の胸に目掛けて突き上げるようにーー


「ーー確保ぉ!」


 誰かがお姉さんに横から飛び掛かって、そのままお姉さんを地面に薙ぎ倒す。
 制服姿の大人の人。お巡りさん?
 僕はブランコの上で固まったまま動けない。状況が目まぐるしく変わっていく。たくさんのお巡りさんが、お姉さんに飛び掛かっていって。揉み合う声。獣のような怒声。取り上げられるナイフ。手錠の掛かる音。
 誰かが僕の肩に毛布を掛けてくれた。そして僕は誰かに抱きかかえられて、公園の出口へと連れて行かれる。

 何か、変な夢を見ているみたいな感覚だった。風邪を引いた時に見る、とびきりの悪夢みたいな。身体がぼんやりして、頭がふんわりして、何が起きているのか判らないまま。仰向けで抱えられる僕は救急車に乗せられながら、ただ星を見ていた。

 今日はすごく星が見える素敵な夜だ。
 きっと僕は、今日のことを一生覚えているのだろう。そんな予感があった。



「謎は解けた」

 ポツリと呟く。硬質のガラスに反射して、虚しい響きだけが残った。
 私の足元にカエルの死体が横たわっている。五本のナイフを胸に突き立てられた彼女の。

 カエルを殺した犯人なんて居ない。居なかった。
 カエルは自分で自分の胸にナイフを突き立てたのだ。何度も。何度も。
 それは私に座標を知らせるため。自ら命を絶つことで、自分が死んだ位置を私に伝えるため。

 そのためだけに。
 カエルは死んだ。

「ーー私には判らないよ。誰かの命が、アナタの死が、そんなことで消費されていいのかな」

 ただ私に伝えればいいのなら、もっと他に方法なんていくらでもある。文字を残すとか、私に直接言うとか、何でもいい。けれど、カエルは自ら死ぬことで私にメッセージを伝えようとした。まるでこの世界では、カエルは必ず死んでいなくてはいけない、というルールでもあるかのように。

 でも、それでもなお、思う。アナタが死ぬことはなかった。

 アナタが死ななくても良かった。

 ……アナタが、

「ッ! アナタが、死ななくて良かった!」

 もう冷たくなっているカエルの手を握る。視界がぼやける。目頭が熱くなって。
 私の頬を流れた涙がカエルの手に落ちる。落ちる。声を震わせて泣く私の嘆きを、誰も受け止めないまま。

「アナタを失いたくないのに……! アナタを助けたいだけなのに……っ!」

 何も覚えてない。でも、判る。感じる。
 アナタは私の大切な人なの。
 世界よりも、自分よりも、アナタのことが大事なのに。

「置いて行かないで……私を置いて、行かないでよ……っ!」

 桜の花びらが舞い散るこの迷宮で。
 すべての謎を解いた名探偵であるはずの私は、喝采も達成感も無く、ただひたすらにーー



 女の名前は深大天音(じんだいあまね)といった。東京浅草で十二歳の少年である丸山進次郎を殺害しようとしたところを現行犯逮捕された彼女は、警察の取り調べに対して犯行を認め、またこれまでの四件の連続殺人事件についても自供した。彼女は自分自身こそ、世間で第五の刳り貫きと騒がれている連続連続殺人鬼であることを認めた。

 しかし彼女に対する尋問でもなお、警察や民衆が最も知りたい事実は明らかにならなかった。

 ーーどうして、被害者の目を刳り貫くなどという異常極まる連続殺人事件が、繰り返されるのか。

 深大は自らの殺人の動機を明らかにしていない。被害者の両目を刳り貫いた理由についても明かしていない。
 現在、連続連続殺人鬼刳り貫きの中で、動機が明白なのは第二の刳り貫きのみ。他の刳り貫きは既にこの世におらず、動機が明らかになる日は来ない。
 警察による尋問は、これからも実施される予定だ。



 それまで入れられていた留置場から護送車に乗せられ、深大天音は東京刑務所の監房に移された。
 彼女はその監房の快適さに驚く。シングルサイズとはいえベッドが用意されており、他の囚人と相部屋でもない。トイレに仕切りがないのは仕方ないとはいえ、広さは六畳近くある。四畳半の空間に三人が押し込まれていた留置場とは雲泥の差だった。
 廊下に面する部分は一面の強化アクリル樹脂で、向かいの牢の様子が見えた。既に先達がいるようだが、中の様子があまりにも異質だった。本棚にはずらりと物理書籍が並び、ラックに複数台の量子コンピュータが並んでいる。牢屋と言うより手狭な研究室といった有様だった。どうして刑務所の中で、あんなにも多くの私物が許されているのだろうか。

 ベッドの上で女が膝を抱えている。ベッド脇の壁には一面にプリントされた写真が貼ってあった。どの写真にも、金髪の女性が写っている。何枚かの写真には、ベッドの上の女が一緒に写っているようだった。
 深大は、ベッドの上の女に見覚えがあった。

「あんたのこと、ニュースで見たことあるよ」

 アクリルの向こうにいる女に、そう声を掛ける。女は一瞬だけ深大の方を見たが、返事はなかった。女は何かブツブツと呟いているように見える。なんと言っているかまでは判らない。気味の悪い女だと感じた。設備は悪くないけれど、隣人には恵まれなかった。そういうのが嫌でノマドワーカーをやっていたというのに。鼻を鳴らしてベッドに寝転んだ。

「ーーどうしてアナタは、両目を刳り貫くの?」

 唐突な問いかけ。深大は首だけで声のした方を見る。ベッドの上に三角座りをしていた向かいの女が、いつの間にかベッドに腰掛けて深大の方を見ていた。

「あれ? 知ってるんだ?」
「まぁね。世間をだいぶ騒がせたみたいだし」

 向かいの女が陰気な声で言う。その陰気さと言ったら、まるで地獄の釜の底に焦げついた真っ黒な呪いを声帯の代わりに貼りつけてるかのよう。色の濃い隈に彩られた女の瞳は、どうも左右で僅かに色が違うようだった。もしもこの女が深大の覚えの通りであれば、その理由にも当たりがついた。俄かにこの女と会話するモチベーションが湧いた。

「あんたになら、話しても良いかな。なんせ、先輩だもんね。牢屋の先輩だし、人の眼球を刳り貫くことに関しても先輩だ。仲良くしなきゃ」
「そいつはどうも。恐縮だわ。それで?」
「美しいものが好きなんだよ。私は」
「人間なら誰だってそうだと思うけど」
「まぁ、聞きなって。単に美しいものを愛でるだけじゃ、私は飽き足りなかった。どんなに綺麗な景色を見ても、満たされなかった。どんなに素晴らしい人に出会っても、何かが違った。そして私は気付いたんだ。私は、私こそが美しいものになりたかった」
「別に変な顔はしてないわよ、アナタ。充分、美人の範疇に入る」
「でも、一番じゃないでしょ?」
「何を一番と定義するかによるわね。好みもあるし、そもそも絶対的な尺度じゃない」
「だからさ」
「何が?」
「人間の美しさは相対的で、絶対的な美しさは存在しない。顔や体型にいくら気を使っても、何が一番なのかは人それぞれ。時期やタイミングにもよる。でも、誰かにとっての一番に、私がなる瞬間はある。私はその瞬間を切り取って、永遠にしたかった」
「つまり、アナタにとってはトロフィーだったのね。自分が、被害者にとって一番美しいものに成った瞬間を記念する」
「そういうこと」
「ふぅん」

「……それだけ?」

「何が?」
「いや、何が? じゃなくて」
「どうかした?」
「なんでそんなに興味なさそうなのさ? あんたが聞いたんだろ?」
「聞いたわよ? それで教えてくれたじゃない。あぁ、そうなんだ、って納得したわ」
「あぁ、そうなんだ、じゃないよ。私、そんなに簡単に納得されちゃうようなこと、言ったかな?」
「アナタがそう言うなら、そうなんだろうと思ったわ」
「それさ、どういう意味?」
「言葉通りだけど」
「嫌味かな? ムカつくなぁ」
「そんなつもりは無かったのだけど……」
「もういいよ。あんた、つまらない女だね」
「気に障ったなら謝るわ。ごめん」
「あんたのその金髪の友達も、つまらない女だったんだろうな。あんたなんかと仲良くしてたんじゃ、程度が知れるってもんだ」

 そう深大が捨て台詞を吐いた瞬間、向かいの女がピタリと黙った。気味の悪い、感じの悪い女に一矢報いてやれたと彼女はほくそ笑む。そしてそのまま、多少は愉快な気持ちのまま、女から目を背けて昼寝でもしようと思った。

「ーー美しいものが嫌いな人間はいない。美しさに目を奪われるのは人間の必然。でも、アナタは自分の醜さから目を逸すことができず苦しんでいる。アナタが被害者の子供達から目を奪ったのは、綺麗な死から醜い自分を切り離すため」

「……なにを」
「パパに犯されたのがそんなに怖かった? 自分の父親に汚されてた自分が、そんなに嫌いなの?」

 深大を、心臓を鷲掴みにされたような怖気が襲った。
 思わずベッドから立ち上がる。向かいの女に詰め寄ろうとした。でも、駄目だった。透明のアクリルに遮られて。
 女は笑っていた。女は嘲っていた。午睡から目覚めた死神みたいに酷薄に、月のように微笑んで。

「何を、口から出任せをーー」
「出任せじゃない。私は知ってる。アナタと同じくらい、よく知ってるの。アナタが自分の居場所を見つけられないのは、誰かに自分の過去を悟られるのが怖いから。アナタが小さな男の子ばかり狙うのは、大人の男の人が怖いから」
「し、知ったようなことを……ッ!」
「だから、知ってるんだって。橙、読み上げて」

 女が指を鳴らすと、ラックに並んでいた量子コンピュータの一台が起動する。舌足らずな幼女の合成音声が無慈悲に告げる。

『深大天音。十三歳の時、父である深大幸次郎が児童虐待の疑いで逮捕されています。警察の調べによると幸次郎は容疑を認め、少なくとも五年に渡り、一人娘である天音を虐待し続けていたと供述しています』

 あまりに唐突にもたらされた忌むべき過去の記述。深大は自らの食道が逆流する胃酸に焼かれる感覚を味わった。身体が震える。涙が滲む。脳に溶けた鉛でも流されたようにグラグラと脳の血管が茹だつ。

「こ、の……! やめろ……!」
「やめない」
「く、こ、殺してやる……っ」
「できるものならどうぞ。さて、どうして天音は、実の父から性的虐待を受けていた可哀想な天音は、男の子を何人も殺す連続殺人鬼になってしまったのかしら? 藍、推理して」

 女が指を鳴らすと、ラックに並んでいた量子コンピュータの一台が起動する。自信ありげな女性の合成音声が残酷に告げる。

『天音は自らが最も美しい存在になりたいからだと語った。だが、それは欺瞞だ。なら復讐か? 男性という、自らの尊厳を踏み躙った生き物に対する復讐。もしかしたら天音は、自分ではそう思い込んでいるかもしれない。けれど、そうじゃない。本当は、愉しかったんだんだろう?』
「……違う」
『幼い天音は、さぞ苦しかっただろう。怖かっただろう。痛かっただろう。地獄のようだ。毎晩、毎晩、父親に手篭めにされ続けて、この世を呪う日もあったろう。だが父親が逮捕されて自分の前から消え失せて、お前は気付いてしまった。その地獄のような日々が愛おしかったことに。その地獄のような苦しみに恋焦がれていることに。お前は、その地獄が気に入ったんだ。だから再現しようとした。何度も何度も幼い子どもを殺しては、喪失した地獄の焼け付くような触感を再演し続けた』

「ち、違う……っ! そんな、悍ましい……っ、違う!」
「違わない。だって私は知ってるもの。アナタが言葉で何を言おうと、私を納得させることはできない。過去は消えないのね。脳裏に焼きついた強烈なトラウマに支配されて。でもアナタはその地獄のような日々を『保存』し続けた。何度も何度も『繰り返し』その地獄を堪能し続けた。『散りゆく桜』のように鮮烈なその日々を綺麗な『ガラス』の中にパッケージして、毎日でも思い返しては、うっとりしてた。幼い子どもを殺した瞬間、パパみたいになれたと、悦んでいたのでしょう?」
「黙れ!」
「黙らない」
「ふざけるな! 全部、全部、薄汚い妄想だ! よくも、よくも、そんな……っ!」

 深大は戦慄していた。冷や汗が止まらない。呼吸が、うまく、肺に流れていかない。形ばかり声を張り上げても、穴の空いた風船みたいに、仮初の怒りが抜けていってしまう。

 女の声が恐ろしい。女の視線が、怖い。
 何よりも、女の語る言葉が、砂漠に撒いた水のように、自分という存在の奥底まで染み入ってくるのが、怖くて堪らない。

 どうして。どうして。
 この女の言葉は、まるで私の深層心理をその眼で見てきたかのように、私という存在の核心を、私自身の認識よりも、ずっと深くーー。

「…………そんな、はずない……」
「私の言葉が嘘かどうかは、アナタにも判ってるでしょう?」
「違う……っ!」
「だから、違わないんだって。私は、私の言葉が正しいことを知ってるのよ。紫、どう思う?」
「……やめて」

 深大が、か細い声で懇願する。
 その願いは届かない。

 女が指を鳴らすと、ラックに並んでいた量子コンピュータの一台が起動する。高貴な女性の合成音声が不条理に告げる。

『ねぇ、アナタの愉しみは、もう終わったのよ?』
「……っ」
『もう地獄は無いわ。アナタの人生に、二度と訪れない。アナタのパパが、ある日突然、アナタを置いて消え失せてしまったように』
「……っ、ひ……ぅ」
『四件の連続殺人。一件の殺人未遂。しかも相手は子ども。情状酌量の余地はない。アナタがこの監獄の外に出られる日は来ない。昔は、この国にも死刑があった。でも、もう無いわ。だからアナタがもう一度地獄を味わいたくても、それは訪れない。アナタは惨めに、鮮烈だった地獄の残り香を思い返しながら、ただただ退屈な日々を過ごしていくことしかできないーーただ一つの例外を除いて』
「あ、あっ、あ……」

 深大がその場に崩れ落ちる。

 足に二度と力は入らないだろう。身体の震えは二度と止まらないだろう。
 彼女は知ってしまった。彼女は判らされてしまった。
 女の言うことが正しいのだと。女の告げる言葉は、彼女にとって神の宣告よりも重いことを。女が言う通り、もう自分に残された道などないのだと。

 女が笑う。酷薄に笑う。それは死神のように、月のように。

「ーーもう、いいんじゃないの?」

 もういい。
 あぁ、そうだ。その通りだ。
 もう、終わった。もう、いいんだ。
 その言葉は、今の深大の気持ちを、深大自身よりも正確に言い表していた。



 翌日、房内で深大天音の自殺体が発見された。



 所定の手続きを終えた鳴瓢が、肩を怒らせながら刑務所の通路を歩く。鳴瓢秋人。殺人課の刑事にして、試験的に導入された特例捜査の監査官を担当している。このご時世において他人と、ましてや刑務所の監獄の中にいる人間と顔を突き合わせて話す必然性は皆無に等しい。だが彼は怒っていた。どうしようもなく。おめおめと連続殺人が遂行されたことも、上層部がそれを半ば見越していたことも。
 いくつもの物理的な障壁を抜け、彼は目的の房の前に辿り着く。右手には空の独房。先日、深大天音が死んだ場所。彼の目当ては向かって左側の房の中だ。

「おい」

 彼は公僕とは思えないほど獰猛な、それこそ手負いのケルベロスの唸り声めいた声を出した。呼び掛けた人物は、ベッドの上で膝を抱いたまま平然としている。女は一瞬だけ鳴瓢の方を見たが、返事はなかった。女は何かブツブツと呟いているように見える。なんと言っているかまでは判らない。

「聞こえてないとは言わせねぇぞ、宇佐見蓮子」
「……ご機嫌よう、鳴瓢さん。椋(むく)ちゃんは元気?」

 彼女は小さく息を吐いて、ベッドの淵に腰掛けて鳴瓢に向き合う。鳴瓢はすんでのところで、アクリルを殴りつけそうな右手を抑えた。

「一度は許す。だが二度はない。気安く俺の娘の名前を呼ぶな」
「優しいのね。一度目は許してくれるなんて」

 彼女が自嘲気味に微笑む。弱々しい、今にも脆く崩れそうな笑み。
 鳴瓢は大きく息を吸い、そして大きく吐いた。僅かながら怒りの衝動が弱まったのを感じた。

「深大天音を殺したことを怒りに来たんじゃないの?」
「そうだ。だが、お前だけが悪いわけじゃない。わざわざお前の向かいに深大を移送した奴も悪い」
「深大で三人目だものね。私、もうすっかり、連続連続殺人鬼殺人鬼だわ」
「お偉方の中に、それをお前に期待してる奴がいる。この国には死刑がない。だから理解できない殺人鬼を大っぴらに処分できない。だから、実績にあるお前に処分させて安心したいんだ。俺はそのことが何よりも腹立たしい」
「私のことを心配してくれるの?」
「井戸の中にはお前しか入れない」

 鳴瓢の言葉を聞いて、反射的に彼女は自らの左目を瞼の上からなぞる。
 元の左目は『刳り貫かれて』しまった。
 誰よりも大切だった相方の両眼を『刳り貫いた』殺人鬼によって。

「……あの子の理論(ユメ)を、現に還元できるのは、私くらいしかいないものね」
「一つだけ聞かせてくれ。お前はこれからもーー」
「鳴瓢さん。私はね。叶うことなら、あの子の失われた眼を、私に移植して欲しかった」

 彼女は左目から手を離して、ポツリと囁くように、

「でも、それはそんな簡単なことじゃない。視神経を完全に接続することは現代の技術でも困難だし、免疫反応によって拒絶される可能性も高い。そもそも他人の生体眼球を、生前に仲が良かったから、程度で移植する理由もない。今の私みたいに、義眼を用意するのが理に適ってる。だから、死んだあの子の眼を私が受け継ぐなんてのはくだらない、程度の低い妄想に過ぎないと思う。でも、思うの」
「どんな風に?」

「今の私の状況こそ、くだらない、程度の低い妄想なんじゃないか、って。そうであってくれたら、どんなにいいだろう、って」

「……そうか」
「でも過去は変わらない。何かを間違えてしまった、ということは痛いくらい判るのに、その間違いを正すことはできない。今の私はね、鳴瓢さん。ひとつの目で明日を見て、ひとつの目で昨日を見つめてる。人間に両目があるのは、前を見据えて進み続けるためだというのに。私は過去にも未来にも辿り着けない。夢にも現にも居場所がない。これじゃない。こうあるのは間違ってる。消えない過去の間違いを正して、元通りの世界で生き続ける、そんなユメを見てる」
「…………」

 鳴瓢には、何も言うことができなかった。
 自分は幸運にも、何も失うことなく現在を生きることができている。
 でも、何かが違ったら。何かを間違えていたら。どこかの地点で、取り返しのつかない不条理に襲われてしまっていたら。

 ーーアクリルの向こうにいるのは、自分だったのではないか?

「話が逸れたわね。私は、私の大切な人を殺した犯人を許せなかった。同じ目に合わせてやると決意した。その瞬間から、もう私の全てが歪んだ。私の取りうる行動の中に、殺人という選択肢が入り込んでしまった。でも、私はそれを後悔してない。あの子は、私の人生の全てを棒に振っても構わないと思うくらい、大切な人だったから。それを奪ったり、踏み躙ったりする奴は許さない。だから、そうね。えぇ、きっと私は、これからも殺すでしょう」
「……お前に、これ以上、殺人はさせない。連続殺人犯に好き勝手やらせるなんて、警察の面目丸潰れだからな」
「ありがとう。鳴瓢さん」

 彼女の言葉を受けて、鳴瓢はその場を後にする。
 彼女以外の誰もいなくなった監房に、しかし小さな話し声がする。
 それは失われた左目を通して見る昨日に向けて囁かれる、在りし日の残響。

「ーーねぇ、メリー。アナタの現実、私が全部、夢に変えるからね」



 ーーそこは、いつだって奇妙な世界。
 そこでは、常にひとりの女の子が死んでいる。殺されている。謎がある。
 目を覚ました私は、私のことすら判らない。
 でも、彼女が私に教えてくれる。
 そこでの私は何も覚えてなくて、名探偵・星井戸だけど。
 そこでの彼女は死んでいて、カエルだけど。
 世界の全てに意味があって、私たちにしか成し遂げることができないことがある。
 私が残されたことにも、彼女が行ってしまったことにも意味があって、私たちにしか解決できない謎がある。
 閉じた世界の、束の間の時間の中でだけはーー

 ーー私たちは、秘封倶楽部だ。
ピンと来る方はいるかもしれません。いないかもしれません。オマージュ元は、「ID:INVADED」というアニメです。
読了、感謝します。
天高馬 肥子
[email protected]
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コメント



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1.100南条削除
面白かったです
ネタ元はわからなかったのですが、登場人物たちのひっ迫した雰囲気が伝わってくるようでハラハラしました
読んでいて楽しかったです
3.100名前が無い程度の能力削除
イドにおける葛藤をミステリ的な密室のように表現していて、それらの観測という形で八雲がいるというシチュエーションが面白かったです。