陽は疾うに落ちているというのに、この街の喧騒は収まることを知らない
すでに街は濃霧に包まれ、深夜と呼ばれる時間を迎えようとしているのに、この館では人々の声が収まる気配さえない
ザワザワ……
ザワザワ……
「また一点張りか…」
「たった100ポンドから始めて、いったい幾らになるんだ…?」
煌びやかな装飾と、あでやかな彫刻に彩られた街のカジノは騒然としていた
ここは、街のゴロツキや労夫の集まるような盆中とは違う。街の上流階級、お金持ちが集まる高級カジノで、最低ベットが100ポンドという非常に高レートの最高級カジノである
紅い悪魔が出るようになってから、街の金持ちは街から逃げ出すものが多く、普段はそれほど人も集まらないこのカジノは、久方ぶりに人の熱気で溢れている
それは、ふらり…と現れた黒髪の少女によるものだった
流暢な英語で話すこの少女は、見たこともないような服装で、どこかの国のお姫様のようにも見えるが、話し方や素振りは妙に年寄り臭かった
彼女は、最低のベットが100ポンドからであると知ると、散々文句を言った挙句、なけなしの全財産を投げ打って1枚の100ポンドチップと交換した
誰もが、すぐに彼女が沈んでしまうと思っていたが、彼女は驚くべきことにルーレットの一点張りを3連続で当ててしまった
この時点で、彼女の持ち金は466万5600ポンドとなり、すでに工場一つ買えるくらいの金を得ていた
それを、この少女はさらに一点張りで賭けていた。ギャラリーが熱狂するのも当然である
全員の視線が、ルーレットの台に集中している。白い玉の落ちる先を誰もが凝視していた
当然である。当たれば1億6千万ポンドにもなる大勝負である。皆が息を呑んで勝負の行き先を見守る
ルーレットの上では、白球がピンに当たり、勢いが落ちる
盤上の数字の群に向かって、白球が進む
少女が賭けたのは、ルージュの8
玉は、まさにそのルージュの8に向かっている
「おお!」
観客が、一斉に声を挙げる。だが、盤の回る速度がわずかに速い、玉が落ちるよりも早くルージュの8が通過する
「ダメだ~!」
全員が目を伏せる。当たれば1億6千万ポンドという大勝負
負ければ、否応なしにゼロになってしまう
しかし、少女は落ち着いていた。少女の瞳は白い玉を見つめている
一瞬、玉の動きが止まったような気がした。次の瞬間、玉は数字を仕切る板に当たり、跳ね返る
「おおおおお!」
その方向は、まさにルージュの8がある方向だった
しかし、今度は勢いが強すぎる。このままでは、玉はルージュの8を通り越してしまう
少女は、再び玉を凝視する。玉の動きが、再び止まったように見えた
次の瞬間…!!
「うおおおおおおおお!!!!」
歓声とざわめき、周囲の観客が大いに沸いた
玉は、ものの見事にルージュの8に落ちていた
「いよっしゃあああああー!!。とったど~~~~!!」
その瞬間!、少女は大きな声で叫んだ
周りの紳士淑女には、なんと言っているかは分からない
それは、彼女が日本語で叫んだからだった
少女の名は、蓬莱山輝夜
蓬莱の薬を飲み、不老不死となった月のお姫様である
「アイツ、本当の目的を忘れてるんじゃないだろうな…」
彼女とその周囲のギャラリーが盛り上がっている中、彼女の連れ合いの少女はフロアの隅に一人で立ち、ぼんやりと眺めていた
言わずと知れた藤原妹紅である。彼女もまた、蓬莱の薬を飲み、不老不死となった蓬莱人である
輝夜には、周りの紳士淑女が次々と握手を求めてきている
まばゆいばかりの笑みを浮かべながら、輝夜はその握手に応えている
ルーレットの1点張りで、4連続で当たる確立は167万9616分の1という途轍もない確率である
勿論、輝夜は勘で当てているわけではない。輝夜の能力である永遠と須臾を操る能力で玉の時間を操作して自分の選んだ番号に入るようにしているのである
ほとんどインチキのような物だが、外の世界の人間には、時間を緩めたり進めたりする能力を持つ人間がいることなど想像すらできない
はしゃぐ彼女とは裏腹に、カジノ側の人間はあせっていた
なにしろ、1億6千万ポンドなどという大金は、このカジノにはおいていない
それは、このカジノどころか、この街そのものを買える位の大金である
「ぷりーず ちぇんじまねー はりーあっぷ」
とても英語とは思えないような発音で、輝夜は換金を要求した
インチキで当てたくせに、まったく悪びれる素振りはなかった
「おい、バカグヤ。こっちこい!」
妹紅が、輝夜の腕を引っ張り、フロアの隅に連れ込む
「お前、当初の目的を忘れてるんじゃないだろうな。私達はカジノで遊ぶために来たんじゃないんだぞ」
妹紅の言うとおり、ここは19世紀のイギリス
二人がこの時代にやってきたのは、謎の白い光によって時空の彼方へ吹き飛ばされた永琳達を探し出すためである
「分かってるわよ、貴方じゃあるまいし。そんな大事なことを忘れる訳ないじゃない」
「本当だろうな…?」
輝夜は言ったが、ルーレットが回っている時のあのはしゃぎっぷりを見ていると、とても信じられない
「馬鹿ねえ、大体ここでどんなに稼いだって、幻想郷ではこの時代のお金なんて使えないでしょうが
この広い街で、何の手掛かりも無く永琳達を探してたら、それこそ何万年あったって足りないわ
でも、こうやって私達が派手に暴れていれば、遠い異国の地から来た黒髪の天才美少女ギャンブラーと、そのお供の貧乳白髪少女の噂が出回って、永琳達の耳にも届く
そうすれば、永琳達の方から私達に会いに来てくれるわ」
「誰が貧乳白髪少女だ」
貧乳の言葉に過敏に反応した妹紅が、輝夜の両頬を思いっきり引っ張る
「い、いひゃいわ…。とにかく、足を棒にして街中を捜すより、永琳達の方から私達を見つけてくれるようにした方が効率がいいって話よ」
妹紅の握力は、500円玉を握りつぶせるほどに強い
差し詰め、ペンチで頬を引っ張られているような痛みに、輝夜が涙目になる
「ふん、本当なんだな?。目的を忘れて、ただ今思いついた理屈を言ってるだけじゃないんだろうな?」
妹紅が、輝夜の顔に自分の顔がひっつくくらいに近づけ、訊く
「し、失礼ね…、信じなさいよ」
ドキ…っとしつつ、輝夜は言い返す
「ふん、まあいい。確かに闇雲に探すよりは、そっちの方が効率がいいだろうからな」
妹紅が、引っ張っていた頬を離す。輝夜の頬が膨れた餅のようになっている
「そういうこと、さぁ!、ハリーアップ!、チェンジマネー!」
ようやく痛みから解放された輝夜が、再び換金を要求した
しかし、いつの間にやら、あれほどいたギャラリーは誰もいなくなっおり、代わりに筋骨隆々の大男が数十人ほどフロアに詰め掛けていた
とても払い切れないと判断したカジノ側は、客を追い払い、力づくで解決する道を選んだようだった
「おう、姉ちゃん!、妙なことをやってくれたじゃねえか!。お陰でこのカジノの評判はガタ落ちだ!」
フロアを仕切っていたらしい男が、銃を構えながら言った
「ふん、汚い男。ギャンブルの勝ち金も払えずに、力で解決しようなんて、評判が落ちて当然じゃない」
輝夜は、その男を睨みつけながら言った
とてもお姫様の言動とは思えないが、不思議とそれが様になっている
「ケッ!、どうせイカサマして勝った金だろうが!、てめえ生きて帰れると思うなよ!」
不老不死の輝夜に、生きて帰れる…はナンセンスだが、どうやらあっちは完全に殺る気である
まあ、たしかに輝夜はインチキして当てたので、その主張は間違ってはいない
「上等よ、博打の金も払えないような、○ンタマの腐ったような男に、私がやられるとでも思ってるの!」
とてもお姫様と思えないような言葉で、輝夜は言った
まさに、売り言葉に買い言葉である
自分がインチキをしていたことを完全に棚に上げ、輝夜はその喧嘩を買った
輝夜の数倍はありそうな、筋骨隆々の男が輝夜と妹紅の前に立ち塞がる
出口も完全に固められた、ここから逃げ出すには、こいつらを全員ブチのめすしかない
「く…」
妹紅が拳を構える。知らないウチに、妹紅まで巻き込まれてしまった
相手は50人以上はいる。輝夜と分けたとしても、25人以上が相手だ
「おう!、てめえら、やっちまいな!」
男が号令をかけた瞬間!、大男達が一斉に二人に襲い掛かった
「キャー!、もこたぁ~ん!、助けてぇ~!!」
その瞬間、一切の相手を妹紅に任せて、輝夜は脱兎の如く逃げ出した
「やっぱり荒事は私任せかぁ!!」
そう来ると予想はしていたが、完全に予想の通りだった
妹紅は、襲い掛かってくる大男にパンチを浴びせる
自分の数倍もある大男を、妹紅は一撃で吹き飛ばす
「くそ!」
しかし、さすがに全部の攻撃をかわすことはできない、男のパンチが妹紅の顔面を捉えた
「け!、こんなもんかよ…。しけたパンチしやがって!、あと1000年は修行して来い!」
男のどてっ腹に、妹紅のキックが炸裂する
巨漢の男は、10mくらい吹き飛んだ
「キャーモコターン!、カッコイイ!!」
「お前も戦え!」
輝夜は、テーブルの影に隠れながら声援を送った
妹紅は、50人以上いるゴロツキを一人で相手にする
だが、どの相手も一撃で宙を舞い、壁に激突していった
「くそ!、こいつら!、どうなってやがる!」
自分の手下を次々に倒され、男は焦っていた
たかが娘っ子二人と思っていたら、どえらく強い。イヤ、戦っているのは一人だが…
「くそ、こうなったらあの黒髪の女を!」
男は、テーブルに隠れている輝夜に銃を向けた
「死ね!」
男は、輝夜に向かって銃を撃った
「輝夜!、危ない!」
妹紅が叫ぶが、輝夜が反応が遅い
身を伏せる間もなく、弾は輝夜に向かって飛んでいく
輝夜は、弾を凝視する
その瞬間、弾はその場で停止した
「な、なんだ!」
男が、ありえないものを見て驚愕する
この世界の常識では、一度撃たれた弾が途中で停止して宙に浮くなどありえない
「このヤロー!」
男が驚いている間に、妹紅はテーブルを飛び越えて男に接近していた
「ヒィィィィ!!!」
男が悲鳴を上げた瞬間、妹紅のキックが男の顎を貫いた
男は、そのキックの勢いのまま、天井にのめり込むように突き刺さった
「動くな!、警察だ!」
妹紅が男を始末したのとほぼ同時に、騒ぎを聞きつけて来た警察がカジノに踏み込んだ
「ゲッ!、ヤバイ!」
流石に、警察に捕まるわけにはいかない
輝夜は、テーブルの上に散らばっていた金を自分の懐に詰め込む
「妹紅!、逃げるわよ!」
「悪く思うな!、あばよ!」
二人は窓を突き破り、カジノから逃げ去った
「逃がすな!、追え~!!」
警官達が大挙して二人を追い掛ける
しかし、二人は大きくジャンプして屋根に上った
ねずみ小僧よろしく、ふたりは濃霧の立ち込める夜の街のいずこかえ消えて行った
―――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――
~紅魔館~
「はぁ~、この館はなんでこんなに広いウサ。掃除しても掃除しても足りないウサ」
割烹着姿のてゐが言った
てゐは、この館の家政婦として雇われることになった
今まで、誰も掃除してこなかったのか、この広い館には埃が降り積もり、ゴミが散乱していた
ゴミの中には、人の骨のようなものまで混じっている
とても、てゐ一人の手ではまかない切れないが、誰も手伝おうとはしない
美鈴は、この館の門番として雇われた
門の前で、緩い動きの怪しげな動作を繰り返している
どうやら、太極拳の修行のようだった
「よく考えたら、この紅魔館が幻想郷に移動するのはいつになるウサ
こんな事を続けてたら、幻想郷に行く前に、私の身体が参ってしまうウサ」
てゐが、掃除の終わった床に座り込む
朝起きてから、今まで続けているが、全体の10分の1も進んでいない
永遠亭にいた時は、こういうことは全て優曇華に任せていたのに…
「あなた、何をしているのかしら?」
突然、てゐは背後から話しかけられた
幼く、そのくせ偉そうなこの声、この館の主、レミリア・スカーレットである
「見ての通りウサ、館の掃除をしているウサ」
てゐが答える
年齢で言えば、てゐの方がずっと年上である
「掃除?、日本の妖怪は神経が細かいのね。そんな事はしなくてもいい
パチェの薬の時間よ、すぐに持って行ってあげて」
用件だけを言うと、レミリアはそのまま消えてしまった
相変わらず、偉そうな態度である。永琳なら、掃除の労をねぎらってくれるだろうに…
とても、この館は人の住める状況ではないのだが、レミリアはそれが気にならないらしい
てゐは、パチュリーの薬を持って階段を降りる
陰湿な紅魔館の中でも、最も鬱蒼としてジメジメした部屋
パチュリーの大図書館である
てゐは、そのドアをノックする
「お薬をお持ちしたウサ…、入れて欲しいウサ…」
「ありがとう…、すぐ開けるわ」
カチン…と、魔法の鍵が開く音がする
普段は、パチュリーとレミリアしか入れないようになっているらしい
「いつもありがとう…、あなたの薬は私の作る薬よりよく効くわ…」
この大きな図書館の、小さなベッド
そこに横たわる、青白き少女、パチュリー・ノーレッジ
身体を起こしながら、パチュリーは言った
てゐの薬は、永琳の薬を手伝いながら覚えた物だ
もちろん、永琳ほどの凄い薬を作れる訳ではないが、そこらへんにある魔法薬などよりもはるかに効き目はある
吸飲みから水を口に含んだパチュリーは、てゐの持ってきた薬を飲む
青白いパチュリーの肌が、わずかに赤味を帯びる
「ありがとう、楽になったわ…。貴方のお薬の先生は、とっても優秀な魔法使いなのでしょうね…」
パチュリーが言った
街に工場が出来始めてから、パチュリーの体調はずっと悪いままだった
てゐが来てからは、少しずつだが良くなってきている
「もちろんウサ、お師匠様は最高のお医者様ウサ。あんたの病気も、お師匠様ならきっと治せるウサ…」
てゐは誇らしく、胸を張っていった
無論、幻想郷に帰れなければ永琳に逢うことも出来ないが
「そう…、会ってみたいわ…。この身体が治れば、レミィだってあんな無茶なことはしなくなるのに…」
レミリアが工場を破壊するようになったのは、街の工場が出す汚染されたガスがパチュリーの身体を蝕むようになったからだ
永琳にパチュリーの病気を治して貰えれば、レミリアも破壊をやめるかもしれない
「レミリアは馬鹿ウサ、あんなことをしても、結局は何にもならないウサ
人間はどんどん増えていくし、新しい工場ももっと造るウサ」
てゐの言う通り、どれほどの破壊を繰り返したとしても、人間は工場を造ることをやめないだろう
今はイギリスに留まっているが、この産業革命はやがて欧州中に広まり、やがては全世界に広がっていく
そうなれば、いかに吸血鬼のスカーレット姉妹といえど、破壊し尽くす事は不可能だ
「レミィの事を悪く言わないで、あの娘は…ゴホッゴオ…」
レミリアをかばおうとして、パチュリーは咳き込んだ
「無理しちゃいけないウサ。寝ていたほうがいいウサ」
てゐは、パチュリーを寝かせる
「ありがとう…、でも、レミィの事を悪く思わないで。私が今生きていられるのも、レミィのお陰なんだから…」
パチュリーが言った
目には、涙が浮かんでいる
「いったい、あんた達の間に何があったウサ?。なんであんたはレミリアに義理立てするウサ?」
てゐが訊いた
初めて会った時から、二人は一緒に居た。それが自然な状態なのだと思っていたが、二人がどうやって知りあったのかは知らない
「…レミィは、私の命の恩人よ。魔女狩りって知ってる?」
魔女狩り…キリスト教の歴史の中に、黒い影を落す歴史
テンプル騎士団やカタリ派への弾圧から異端審問が活発化し、教会主導による魔女狩りが行われたともいう
その被害者は数百万人にも及ぶとされ、そのほとんどが厳しい拷問や理不尽な言い掛かりによる犠牲者だったという
しかし、その被害者の中には、ほんのわずかだが本物の魔女も混ざっていた
「私の両親も、魔女狩りで命を落とした…。レミィに助けられていなければ、私もきっとそうなっていたでしょう」
パチュリーとその両親は、魔女狩りの被害者であった
パチュリー自身も、寸前のところでレミリアに助けられなければ、命を落としていただろう
だから、パチュリーにとってレミリアは、大事な親友であり、命の恩人でもある
「レミィはね、本当はとっても優しい娘なの。あんな性格だから、みんなに誤解されてしまうけれど…
本当は、誰も傷つけたいとは思っていない…。だから、工場以外の住宅地を破壊したりしない…
吸血鬼が、その本当の実力を見せたなら、あんな街は一晩で簡単に吹き飛んでしまうというのにね…」
そういうと、パチュリーはまた小さく咳き込んだ
「貴方達には分からないかもしれないけれど、貴方と美鈴がこの館に来て、レミィは喜んでいるわ
あの娘は、本当は家族が欲しかったのよ…。一緒の家に住んで、一緒にご飯を食べて、一緒に寝て…、一緒に笑って…、一緒に泣ける…
レミィは、夜の種族の誇りを護る為に戦って来たけど、みんなはレミィの力を恐れて、誰もこの館に近づこうとはしなかった
たとえ違う国から来たとはいえ、自分からこの館を訪ねてきてくれたのは、貴方達が初めてよ」
パチュリーの言葉に、てゐは戸惑う
てゐもまた、謎の白い光によって家族と離れ離れになってしまっているのだ
「レミリアの家族はどうしたウサ…?」
てゐが訊いた
この館の地下室に、妹のフランドールがいることは知っているが、それ以外にはレミリアの家族らしいものは見当たらない
「レミィの両親は死んだわ…、人間に殺されたの…
いま残っているのは、妹様だけ…」
そういうと、パチュリーの顔が暗くなる
もともと青白いパチュリーの顔が、亡霊のように白くなる
「レミィの両親は、もちろん吸血鬼だったけど、人間を理解しようとしていた
人間の考え方や、文化を学んで、共に生きる道を探していた
でも…、人間の差し向けたハンターに襲われ命を落とした…
そのハンターは、レミィが力を暴走させたお陰でどこかへ消えてしまったけれど、生死は分からないわ
レミィは、激しく人間を恨んだ。人間を理解し、共存しようとしていた両親を騙まし討ちにして殺した人間を…
レミィが涙を流したのは、後にも先にも、その時だけよ…」
パチュリーの声が震えている
人間への怒りを感じているのは、レミリアだけではない
パチュリーもまた、人間に両親を殺されているのだ
ただ、レミリアに比べてパチュリーは無力だった
パチュリーとて、人間への復讐を考えたことはあった
だが、それを行う勇気も決心もなかった
戦うことへの恐怖感にいつも苛まれ、最終的には何も言え出せずにいた
不思議と、レミリアはパチュリーの前で人間への復讐を口に出すことはなかった
それが、人間の作った工場の排ガスでパチュリーが体調を崩してから、レミリアは工場の破壊を始めた
パチュリーは、自分ができなかった人間への復讐を、レミリアが代わりにやっているのだと思った
そのレミリアの姿を見て、初めてパチュリーは本当の恐怖を感じた
そして、その復讐は無意味だということが初めて分かった
しかし、それをレミリアに伝えようとしても、それを言い出すことはできなかった
言えば、レミリアは怒るだろう…
貴方の為にやっているのに…と、それを思うとパチュリーは何も言えなくなった
「全ては、私が悪いのよ…。私にもっと勇気があれば…、自分で決心することができたなら、こんな事にはならなかった
いつも、このベッドの中で眠りながら、私はレミィに謝ってばかりだった…
私は…、悪い魔女よ…」
そういうと、いつもより喋りすぎて疲れたのか、パチュリーは眠りについてしまった
てゐは、とぼとぼと出口に向かって歩き出す
家族を失う寂しさ…、それが、今のてゐにはよく分かる
ふと、心の中にみんなの顔が浮かぶ
いつもグータラな輝夜と、厳しく優しい永琳、いつもイタズラを仕掛ける優曇華
輝夜が永夜異変を起こしてからも、てゐの生活は変わってはいない
ただ、いつもよりも賑やかになったと思っただけだった
その日々が、とても懐かしく思えた…
「鈴仙…、どこへも行かないで…」
パチュリーが漏らした小さな寝言に、てゐは心臓を掴まれたかのように感じた…
てゐは、今すぐにでもみんなに会いたくなった
幻想郷に居た時は、紅魔館の連中といえば、立派な館に住み、年中呑気に騒いでいるだけだと思っていた
しかし、実際には、それぞれに心に秘めた悲しみや寂しさを持っていた
それが、いま家族を失っている自分の悲しさと相俟って、寂しさを増大させていた…
~その夜~
「ふ~ん、そんな事があったアルね」
てゐの部屋は、美鈴と一緒の部屋だった
主人のレミリアと違い、二人とも石造りのやけに冷え込む床に、汚い編んだ藁と筵を敷いただけの粗末な寝具である
そんな中で、てゐは美鈴に今日聞いた話を聞かせていた
「美鈴は家族はいないウサか?」
てゐが訊いた
「アハハ、私は天涯孤独アル。小さい時に崑崙山中に捨てられてたアル
水を汲みに行った時、谷の底で武術の本を見つけて、武術の修行を始めたアル
あの本が私の家族アルかな?、汚くなったから捨てたアル」
いつもと変わらない笑顔を浮かべながら、美鈴は語る
「暗い過去を、明るく話すウサね…」
この中国妖怪には、寂しいとか、悲しいとかいう感情はないのかもしれない
レミリアに負かされた時も、これ以上にない位の笑顔で笑っていた
しかし、考えようによっては、この美鈴が一番悲しい過去を背負っているとも言える
結局の所、この紅魔館の住人は、みんな家族を失っているのだ
「ハハ、でも、私には分からないけど、きっと家族っていいものアルな」
どんな時でも笑顔を絶やさない美鈴
美鈴の能天気な笑顔に、てゐの心が少しだけ軽くなった
「うん…、そうウサ…」
~紅魔館・最深の地下室~
パチュリーの大図書館から、さらに地下に降りたその先
数十の護符と、魔法によって封印された扉がある
月の光も届かないその地下室の中で、一人の少女が眠っている
悪魔の妹、フランドール・スカーレット
部屋の中は、これ以上にないほどに散らかっている
ありとあらゆる調度品は、原型を留めないほどに破壊され、首や手足の千切れたぬいぐるみが恨めしそうな顔で横たわっている
もはや、この部屋が生活するための空間として果たせることは、眠るということだけだった
「お姉様…」
少女が呟く
姉であるレミリアがこの扉を開けない限り、少女はこの地下室から出ることができない
それは、少女がありとあらゆる物を破壊する能力を持っているからだ
少女の力が暴走することを恐れた姉は、彼女をこの地下深い部屋に閉じ込めた
物心ついた時から、それが少女に与えられた境遇であった
だから、少女はそれが不遇であるとは思わない。それが少女にとっての日常であった
少女にとって、姉は世界の全てだった。物事のほとんどは本を読んで覚えたものだった
その本も、全て破壊してしまった。この部屋にあるもの以外で少女が知っているのは、姉のレミリアだけである
二人の両親が殺された時、まだ少女は幼く、両親の顔は覚えていない
この数ヶ月間、姉が自分をこの部屋から連れ出していくことがあった
外の世界を見るのは、それが初めてだった
姉は、少女を街に連れ出し、煙を吐く大きな建物を好きなだけ破壊していいと言った
少女は自分の能力を駆使し、その巨大な建物を思う様破壊し、逃げ惑う人間を殺していった
それは、少女にとって初めての体験だった。とてもとても楽しい体験だった
少女が建物を破壊し尽くすと、姉は少女の頭を撫で、強く抱きしめた
初めて触れられた姉の身体は、とても柔らかく、優しく、甘い匂いがした
それ以来、少女は姉に連れ出されるのが愉しみだった
少女は、夢の中でも建物を破壊し、人々を殺し、そして姉に抱きしめられていた
その少女の生活に、少し異変が起きていた
いつもは姉が持ってくる食事を、見知らぬ兎が持ってくるようになった
鈴仙と名乗ったその兎は、少女が知っているどの兎とも違った
その兎は、自分は日本という国から来たといった
書物でしか知らないその国を、兎は語った
四季折々の花に囲まれ、美しい自然と豊かな文化が育まれ、ゆくゆくは世界有数の経済大国となっていくその国
文化果つると言われる東方の地に、それほど美しい国がある
少女の外の世界への興味は、どんどんと増していった
この扉の向こうには、あんな小さな街のだけじゃない
もっと大きな街がある、そこにはもっと沢山の人が住んでいて、もっと大きな建物もある
外に出たい…。だが、それが叶わぬ願いであると少女は知っている
この扉の封印は、姉でしか解くことができない
過去に何度か試してみたが、少女の力でも破壊することは不可能なのだ
そして、姉は、あの街以外に少女を連れて行くことは絶対になかった
寄り道をしようとして、少女は姉にこっぴどく怒られ、お尻を痣ができるまで叩かれた事もあった
いつになったら、姉が自分を呼びに来るのだろう
時計の無いこの部屋では、どれだけの時間が経ったのかも分からない
少女にとっては、姉と一緒に外出できる時間が待ち遠しかった
「痛い!」
夢見心地で眠っていた少女を、突如、鋭い痛みが襲った
少女は目を醒まし、その原因を探る
少女のベッドに、小さな蟲が這っている
この蟲が、少女の肌を刺したのだ
少女は、すぐさまその蟲を捕まえる
少女の手に、破壊の力が溢れ出る
次の瞬間には、蟲はそれこそすり潰されたかのように粉々になった
「はぁ…、はぁ…、びっくりした~」
少女は落ち着きを取り戻すのに時間がかかった
寝ている所を蟲に刺されるなど、少女には初めての経験だった
なぜなら…
「え…!?、何で!」
少女は、時間を置いてから気付いた
この部屋には、姉がかけた強力な封印が施されている
あんな小さな蟲など、この封印を突破して侵入してくることなど出来る訳が無いのだ
「まさか…」
あの蟲が入ってこれた…
だとしたら、理由は一つしか考えられない
少女はベッドから跳ね起き、ドアノブに手を掛ける
そして、ゆっくりと回した…
ガチャリ…
なんと、ドアが開いてしまった
あの兎が、扉の封印を忘れてしまったのだろうか?
しかし、少女にはそんなものは関係なかった
少女は、階段を駆け上がった
この地下室は深い、だが吸血鬼だけあって少女のスピードは速い
ものの数分で、少女は館の屋上に辿り着いてしまった
しかも、館の住人は、誰一人としてそれに気付いていない
どうやら、姉のレミリアは不在のようだ
パチュリーも、鈴仙(てゐ)も、美鈴も、誰もそのことに気づかずに平穏無事に過ごしている
鈴仙が食事を持ってくるのは、いつも夜になってからだ
それまでに戻れば、きっと見つかることはない…
少女は運も良かった、今日の天気は曇り…
もしも晴れていたら、陽の光を浴びて少女は蒸発していただろう
もしも、姉に見つかってしまったら、きっと酷いお仕置きを受けてしまう
だが、こんなチャンスが二度とあるかも分からない
少女は、どうしても外の世界を見たかった
自分一人の力で、外の世界を…
少女は、七色に輝く翼を広げ、飛び立った
人間はどんどん増えていくし、新しい工場ももっと造るウサ」
>作者は無茶ウサ、こんな書き方を続けても、結局は批判が増えるばかりウサ
読者はどんどん減っていくし、まともな書き方を見直すべきウサ
それでもまぁ描写や間にかなりの違和感あるが
ここまできたらへたに自分の書き方変えるよりも、書き方の問題だけ修正して突っ走った方がいい気がしてきた
ストーリー-10点案外悪くない 東方キャラが生きてない-30点 描写などの技術-30点って事で30点を
割とストーリーは好みかもしれない。
それに相変わらず句読点など、皆から指摘されてるのに直ってない。
そんな事してると永遠に低い評価しかもらえないよ!
ここで言うべきではないかもしれませんが、それなら自分のサイト作ってそっちでやった方が色々平和なのではないかと思います。
もっと周りを見たらどうですか?
長編を書く気力は評価します。
前回、どなたかがコメに対する返信をしたらどうか?と書いていらしたと思いますが、それすらも無視ですか!!あれから何の音沙汰も無く新作投稿するとは、どうなんでしょうねー。
今までのコメントを素直に受け止めたらどうですか?って言うか、理解してますか?
せっかく読者の方々からアドバイスを頂いているのに聞く耳を持たないのは非常に失礼。
個人のサイトを作って好きなように書いてはいかがでしょう。
是非、もう突っ走って行ってくださいww
>文章が汚いのは気にしないで下さい
>一部、キャラ崩壊しております
あとがきで言われても困ります……苦手な人も居ますから先に言って下さい。
というか、
>文章が汚いのは気にしないで下さい
今までの指摘に対する答えがこれですか……
こういう事を言いたくはないんですが、あなたは本当に読者からコメントを理解してるんですか?
もし理解しているのならば、何故実行しないんですか?もしくは実行しないor出来ない理由を何故後書きになり、コメント欄に書かないんですか?理由を書くのがそんなにイヤですか?
理由を書きたくないのならば、ここに投稿しないで自分のサイトでも立ちあげて、そこで公開でもしていてください。
ここは貴方が一方的に作品を発表する場所ではない(と私が勝手に思ってるだけですが)筈です。
もう一度その辺りをよく考えてみてください。
>文章が汚いのは気にしないで下さい
なんですかこれ?指摘されたことに対する開き直りですか?私にはそういう風にしか見えないんですが。
「、」「。」を付けないことが何故節約につながる事についての回答がなされてませんね?
まさかこれが回答だと言いませんよね?これでは回答になりませんよ。
ここまで書いてもどうせ無視されるんでしょうけどね……
キツイ事を言いますが、話の内容以前に書き手としての心構えとかが評価出来ないです。
コメントへの返信も良い評価を付けた人にはするけど、他はガン無視してるよね?どうかと思いますよ、そういう態度は。
だから近頃はアドバイスよりも批判ばかりが増えて行くんですよ、言っても無駄かも知れないけど、ちょっとは自覚した方が良いですよ?読んでくれる人、居なくなっちゃうかも知れませんよ?
「ウサ」と「アル」はギャグですよ
違和感がすごくて、作品世界から意識が引きはがされてしまう
ただ貴方の作品を読んだ読者がアドバイスをして、ここを直したほうがいいと指摘されたことに対しては気になってほしい…。
別々の時代に飛ばされた東方キャラが活躍するのは良い設定だと思うし、ストーリーも面白いと思います。
クロノトリガーも好きで何度ラボ○ス倒したか……個人的には中世と古代編が楽しかったなあ。
続き期待してます!
でも、あえて言わせて貰えれば、自分のサイトか何かで掲載した方が双方とも不快に思わず済むと思いますよ。
>27さん
それなら最初からコメント欄なんて必要無いって事になるでしょ?点数入れるシステムである以上、評価の場です、ここに出すって事は、様々な意見をもらって当たり前です、それが嫌なら自分のサイトかどこかてやれば良いと思うよ。
どれだけいい言葉を使っても頑固過ぎるというか
ストーリーは…うーん、ダメかな
ありがとうございます
私はクロノトリガーでは、シルバードを手に入れるとこのくだりが一番好きでした
この章では登場しませんが、クロノトリガーの中のエピソードも導入する予定です
遠まわしな言い方では伝わらない方が多いようですので、率直な書き方をさせていただきます
ひとつ理解していただきたいのは、世の中には様々な事情を抱えている人がいて、様々な考え方を持っている人間がいるということです
この世の中には、名作と呼ばれる文学は数多くありますが、100人の人間が読めばそれぞれ違った印象を受けるでしょうし、人によっては全くつまらないと思ってしまうこともあるでしょう
逆にいえば、まったく知名度もない人気のない小説でもそれを好きになることだってあるはずです
読む人によって印象や感想が違うのは当たりまえのことです
文法が気に入らないから読みたくない、それでこの話は終わっています
この小説は、読みたくない人に読ませるために書いてるわけでも、お金を取って読ませているわけでもありません
作者の書き方が気に入らない…だから読まない、評価しない。それでよいのではないでしょうか
私は、この書き方を理解してくれない人に無理して読んで欲しいとは思いません
それよりも、こんな書き方でも読んでいただき、話の内容を気に入ってくれた人のために書きたいと思っております
料理屋に入って、料理の味が気に入らないからと厨房に怒鳴り込んで味付けの方法を変えさせたりしますか?
現状、この文法を変えることは不可能です
この上、異論・反論のある方は、もう私の小説は読まないことをお勧めいたします
PS.ずわいがにさんと緑茶さんのコメントに返信しているのは、彼等が名前入りでコメントしてくださったからです。よい評価をしてくれたから返信している訳ではありません
最低限守らなきゃいけないものだと何故分からないのかな?
それが出来ないなら自分のサイトでやったら?
文法を変える事が不可能?
すぐに直せる所も沢山あるのにそれすらしてこなかった言い訳のつもりですか?
そんな考えならここに出す価値も意味も無いでしょ?
一方的に作品をのせるサイト作ってそこに出せば批判も貰わずに済むよ!!
実力不足を棚にあげて、気に入らなければ読むなとか開き直るような人には創想話に投稿する資格はありませんよ!
もう何も言いません…
が、とりあえずダイさんの考えはわかりました。まぁ、作品をどうするかは作者の自由です。
俺は内容さえ楽しめればそれで良いので、書き方や設定とかはあまり気にしません。
という訳でこれからはもう口出しせず、ストーリーの感想だけを書かせて頂きますわ。
姫様主人公向いてないよww……いやでも勇者って人ん家のもん勝手に漁るからな
ていうか出ました割烹着!割烹着は良いぞぉ、母性が滲むッ
ところでフランの部屋のドアが開いてたのは、もしや異変の黒幕の仕業なのかな
板が新しくなるたびURLが変わるのは面倒ですね
こちらもあっという間に読ませていただきましたよ。とても楽しく、です^^