「うふふ、大儲け大儲け」
てゐは一日の仕事を終え、笑顔で家に戻る。今日の仕事は上々だった。
取引相手は、キラキラした物を集めるのが趣味の地獄烏の少女。
「ねえ、こんな宝石を手に入れたんだけど」
「うわあ、綺麗」
てゐは外界から流れてきた様々な色のガラスの破片を磨き、鋭利な面を落として、宝石のように仕立て上げた。
それをお空と呼ばれている地獄鴉にみせると、お空は目をキラキラさせながら、そのガラス片を食い入るように見つめるのだった。
欲しい? と尋ねると、首を大きく縦に振って欲しい欲しいと答えた。
「これ、良かったら地上と地底の友好の証にあげてもいいよ」
「本当?」
「ただし、あんたからも何か友好の証をもらいたいなあ」
「うん、あげるあげる、これ持っていって」
そして手に入れたのだ、大粒のダイヤモンドを。両手いっぱいのガラス片を対価として。
詐欺? このガラス片はお空にとってはまさに宝の石、だから略して宝石と呼んでも差支えない。
そもそも、物の価値を決めるのは買った当人であって他人ではない。
ゴミを宝とみなす者がいても良いではないか。
一粒の透明なキラキラと、多くの色とりどりのキラキラ
自分は前者に価値を見出し、お空は後者に価値を見出した。
だからこれは正当な取引だ。閻魔にも文句は言わせない。
というのがてゐのポリシーだった。
屋台で一杯飲み、いい気分で永遠亭に戻ると、何羽かの配下の妖怪兎―ここではイナバと通称されている―がざわつきながら、ある部屋の隙間を覗いていた。
「ねえ、一体何があったの」
てゐが尋ねると、丸っこい兎の姿をしたイナバ達(あらたとしひら氏仕様)は口々に何があったのかをつぶやく。あまり文脈や時系列を気にした話し方でない。頭に思いついた事象を適当に口にしている感じがする。
「やってきた~」「つきのおひめさま~」「きれいなひと~」「おきゃくさん~」
覗いてみると、月の高貴な住人である綿月姉妹が、主である蓬莱山輝夜、八意永琳と楽しそうに談笑している。
「……それでですね、ここに来る前日の夜、妹が興奮して眠れなくて、早く八意様に会いたいって言ってたんですよ」
「お姉さま、そ、それは言わない約束でしょ」
その月の住人の名は、姉を綿月豊姫、妹を綿月依姫といった。
うまく気にいられれば、何か商機があるかもね、そんな気分でふすまを開け、2人にお辞儀をして挨拶する。
「今晩は、月のお姫様、ご機嫌麗しゅうございます」
「あらあら、ここのイナバの女王様ね」豊姫が笑う。
「そんな大したものじゃないです、ただここでの年長うさぎなだけです」
「鈴仙とは仲良くしているかしら」
「そりゃあもう、鈴仙は悪戯ばかりするので手を焼かされています」
傍らに控えていた鈴仙が怒る。
「ちょっと、悪戯で手を焼かせているのはあんたでしょ」
てゐが素知らぬ顔で続けた。
「ほらこんな風に、きっと構ってもらいたいんでしょう、複雑な年頃ですから」
依姫も呆れ顔。
「玉兎隊時代なら懲罰ものね。反省しなさい」
「うう、信じて下さい」
鈴仙がなおも抗議するが、てゐはのらりくらりとかわしている。
たまにこういう事が起こるほかは、いつもの永遠亭のはずだった。
就寝前、てゐは何となく綿月姉妹の寝室の前に立って、2人の会話を興味と悪戯心で盗み聞きしていた。
何か商機でも見つかったらもうけものだし、そうでないならそれでもいい、
とかそんな事を考えながら。
「お姉さま、その姿はどうかと思います」 依姫の声だ。
「だってえ、寝る時はこの姿の方が落ち着くんだもん」
その姿とはどんな姿だろう、てゐは好奇心を抑えきれず、そっとふすまを開けて覗いてみる。
つぎの瞬間、てゐは後悔した。見るべきではないものを見てしまった。
一匹の鰐鮫、中途半端に擬人化され、目にまつ毛の生えた鮫が布団の中にいた。
ときおり、しっぽをびちっとはねさせていた。
綿月姉妹は鰐鮫の化身だったのだ。
「あら?」 一瞬、鰐鮫化した豊姫とてゐの目が合った。
てゐは身を震わせて絶叫した。
「うぎゃあああああああああああああああああああああああサメだああああああああああああああああああああああああああああああこわいよおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおお」
何事かと思った依姫が剣の柄を握り、廊下へ駆けだすが、すでにてゐの姿はなかった。
「依っちゃん、今のは?」
「多分、どこぞの悪戯イナバがお姉さまの姿に驚いて逃げたのでしょう」
「そう……」
鮫の姿の豊姫は、どこか悲しそうに目を伏せる。
「お姉さま?」
「やっぱこの姿って怖いのかしら」
「いいい一体なんであんな奴がこの永遠亭に」
てゐは自室にこもり、毛布を被って震えていた。
忘れたはずの痛みと恐怖がよみがえってくる。
かつて鮫、特に鰐鮫をからかおうとして血祭りにあげられ、通りがかりの神々に間違った治療法を教えられたためさらに苦しんだ。
因幡の素兎として語りつがれている話である。
もし最後に通りがかった神々の弟君が、正しい手当の仕方を教えてくれなかったらどうなっていたか。
(痛いのはいや、怖いよう、怖いよう)
兎妖怪の長老というプライドもあって、今まではあの日の事を思い出す事はあっても、叫んだり走り出したりするような事はどうにか押さえていられた。
もうトラウマは克服したものとばかり思っていた。
しかし直前で鮫そのものを見せられたとき、てゐは痛感した。
あの傷は完全には癒えていなかったのだと。
「てゐさま~」「あそぼー」「あそんでー」
とその時、部屋に何羽かのイナバ達が遊びに来た。
そのうちの一羽がてゐの涙に気づく。
普段は気の強いてゐの思いがけない泣き顔に、イナバ達は困惑し、それから心配になって、彼女をどうにかなぐさめようとする。
「なかないでー」「どうしたのー」「ぼくらがついてるー」
てゐは気の済むまで泣いた。
イナバ達は慰めの言葉が尽きた後も、ひたすらにてゐのそばに寄り添う。
かなりの時間が経った後、顔を上げ、イナバ達を抱きしめた。
「ありがとう、ごめんね心配かけて。もう大丈夫」
「いつものてゐさまー」「ふっかつしたー」「よかったー」
そしてイナバ達の顔を見る。てゐは決意した。
私はこの子たちを束ねるリーダー。そして、この子たちを守る使命がある。
私がしっかりしないでどうする。
「これは不運じゃなくて、きっとトラウマを清算するための好機」
被っていた毛布を取り、立ち上がる。
「私は、今度こそ鰐鮫をひっかけてやる。でなきゃ私は、一歩も前へ進めないのよ」
「てゐさまー」「さぎしとしてはー」「けっこうつめがあまいー」「きをつけてー」
「あはは、確かにそうよね、情けないわ」
自嘲気味に笑う、沈んだ雰囲気が吹っ飛んでゆく。拳を握り、てゐは宣言した。
「私はあの日のトラウマを克服する。その日こそ、呪縛からの独立記念日だ」
イナバもなんか盛り上がった。
「やられたらー」「やりかえすー」「ばいがえしだー」
泣きながら部屋にこもったてゐを案じ、そっと部屋の外でウサ耳を立てていた鈴仙は思った。
(いや、もともと自業自得じゃん)
翌朝、豊姫がまだ寝ている妹を起こさないように着替え、ふすまを開けると、足元にバナナの房が落ちていた。
「ふふっ、単純な悪戯ねえ」
バナナの房を拾い上げ、寝室の屑かごに投げ捨て、改めて廊下に足を踏み出そうとした途端、床の異変に気付いた。
廊下の床にワックスが塗られ、ピカピカに光っていた。
傍らで哀れなブレザー姿のイナバが一羽、盛大に下着を晒して倒れている。
バナナの房はフェイクだったのだ。
豊姫は転ばないように慎重に廊下を歩き、そっとブレザー兎のスカートを元に戻した。
これはまだ始まりにすぎないかも、と何となく感じた。
朝食の後、豊姫はてゐから皿に載せたお菓子をふるまわれた。
「豊姫様、これはバウムクーヘンという地上のお菓子です。なんでも異国の言葉で、『木のケーキ』というそうです、美味しいですよ」
たんこぶを頭に作った鈴仙が、珍しいわね、と興味深そうに見つめる。
「姉さま、こんな穢れた地上のものなど食べてはいけません」
「知ってる依姫? 美味しい物だけには穢れなんてないのよ。習わなかった?」
「どこで習ったんですか」
「私の経験則よ」
「たんにお姉さまが食いしん坊なだけじゃないですか、もう」
「でも依姫の言う事ももっともね。鈴仙、まずあなたが味見して頂戴」
「ええ、いいいんですか?」
「私が許可します」
「やったー」
鈴仙はそのバウムクーヘンを手に取り、一口味わった。
「いただきます」
がりっ
さすが木のケーキというだけあって、木に含まれるフィトンチッドの芳醇な香り。頑丈な歯ごたえ。そして繊維たっぷりの食感。
鈴仙はどうにか一口噛み砕き、飲み込んだ。
「まるで本物の木の年輪を食しているよう…………って言うか、本物の木じゃん!」
「だって最初、『木のケーキ』って言ったでしょ。見事なノリ突っ込み」
てゐがかすかに笑うが、目標が外れたので失敗だ。
「誰がノリ突っ込みよ! 飲み込んじゃったじゃない!」
「うわあ、鈴仙、さすがの私も引くわ」 豊姫も呆れている。
「豊姫様、何度も申し上げますが私は『木のケーキ』を出したのです、嘘はついてません」
「てぇえゐいいいい」
そう言うとてゐはそれこそ脱兎のごとく駆けだして行った。
鈴仙も後を追う。
昼下がり、そろそろ帰る支度をしようという時。館の一室から依姫の大声が響いた。
「また扇子を失くした!?」
妹の大声に、どこかの公園前派出所のごとく、周囲の扉や障子、屋根が吹き飛んだ。
感情のあまり、幾柱かの神々を呼んでしまったらしい。
気迫に、姉の豊姫もおろおろしている。
「うん、枕元に置いておいたんだけど、さっき寝室に行ったら無くなっていたの」
「そんな、あれがどういう代物か分かっているはずでしょ」
その月の扇子には恐るべき力が込められており、一振りで周囲の物を素粒子レベルに分解してしまうと言う。
以前綿月姉妹が永遠亭を訪れた時、蓬莱山輝夜がこれを誤って振り回しそうになり、大騒ぎになった。
さすがの豊姫も沈み込んでいる。
「そこまで怒らなくたって」
「怒りますよ。ああ全く、愛宕様を暴走させて死んでしまいたい」
もう一度探そうとして豊姫が寝室に戻ると、扇子自体はすぐ見つかった。
しかし問題がある。
「あの扇子って、もしかして生き物で、分裂増殖出来たのかしら」
豊姫が持っていたものとそっくり同じ色と柄の扇子が、何十個も畳の上に載っていた。
「ど、どれが本物だったっけ?」
「おおこれはこれは豊姫様」 てゐがゲスい笑顔で部屋の入口に姿を見せた。
「これもあなたの悪戯かしら?」
「じつはうちのイナバ達が、綿月様にお贈りする扇子をこしらえていたのですが、偶然豊姫様の扇子に似てしまいましてねえ」
「本当に困ったわねえ。あの扇子、非常に危険な代物なのよ」
豊姫は少し考えて、何をどう思ったのか、扇子の一つを手に取り、てゐに向かってあおぐ。
「何をするんです?」
何事も無かったが、てゐは一瞬ぎょっとして豊姫に問う。何を考えているのか。
「だから、全部振って確かめてみようと思ったの、時間はかかるけど確実でしょう」
豊姫は、次々に扇子を手にとり、あら違う、これも違うと呟きながら振り仰いでいく。
見守るてゐの顔が青ざめて行く。人生で二番目に怖い体験だ。
「あの、もし本物だったら、どうなるの」
「ええ、この辺の家やイナバ達が素粒子に還るだけよ」 事もなげに言った。
「そんな、やめて下さい。他に確かめる方法がないんですか?」演技抜きのてゐの懇願。
「面倒だし、だいいちイナバはこの地上に腐るほどいるのではなくて? 繁殖力強いし」
「わ、私はどうでも良くないよ」
「安心して、いずれは死ぬのが生命なのだから」とニッコリ。
(安心なわけあるか、この人クレイジーだ)
「ほれー、私の舞いをご覧あれ」
とうとう豊姫は扇子を同時に二つ手に取り、ぶんぶん振り回す。
そうこうしている内に、とうとう扇子が残り二つになった。
「アハハ、この二つのうちのどちらかが本物ね」
豊姫は扇子の一つを持ち、力を込めた。扇子が光に満ちて行く。
顔はまるで無邪気な子供のよう。
「キャハッ、大当たり♥」
てゐは腰を抜かしていて何もできないでいる。
「あわわわわわわわ、や、やめて……」
そして思い切り、てゐめがけて振り仰いだ。
「そーおれっ」
思わず両手で顔をかばい、目を閉じる。だがこんな動作でどうなると言うのだ?
怯えている自分とは別の、心の中のもう一人の自分が妙に冷静な判断を下した。
でもそうせずにいられなかった。
しかし、いつまでたっても、何の衝撃も熱も痛みも感じない。
案外死とはこんなものか? だが待てよ、周りの雰囲気がさっきと変わらない。
おそるおそる目を開けてみると、豊姫が腹を抱えて笑っていた。
「あはははは、引っかかった引っかかった。今のは音と光が出るだけの月のおもちゃ。本物は都に置いてきたわ」
「えっ、という事は……」
「ただのおもちゃにこんなに怯えるなんて、かわいい」
事情が呑み込めてきた。
この女、悪戯にかかったふりをして、自分を弄んでいたのか。
落ち着いてくるにつれて、恥ずかしさと悔しさが同時に込み上げてくる。
「うふふ、たまには上級者にやられて、己の実力を知るのも良い機会でしょう」
豊姫はその場に座り込んだままのてゐの頭を軽くなでてやった。
上級者……生真面目だがそれゆえ騙されやすい鈴仙ばかり相手にしていて、悪戯の腕がなまっていたというのか?
「あなたはあの因幡の素兎でしょ、だからどうして私を狙うのか想像がつくけれど、もう終わりにしない?」
てゐは何も答えず、その場から逃げ去った。
こっちは本気ではめようとしているのに、あちらは完全に遊んでいるだけだ、くそう。
「てゐ様、てゐ様の言いつけどおり、傷洗浄用の真水入りの甕20個と、蒲の穂300本、八意印の傷薬10壜と鎮痛剤ヤゴコロキソニン100錠を用意しました」
人の姿に変化した永遠亭の精鋭、てゐの直参イナバ(秋☆枝氏仕様)の一羽がそう伝えた。
「ありがとう、れゐ、あなたはめゐとまゐの三人で、図に書いた場所にこれを隠して、合図があるまでその場所で待機していて」
「はいっ、てゐ様の無残な悲鳴が合図ですね」別のイナバがおどけて言った。
「誰が無残な合図よ、てぬ。あなたはていと一緒に例の物をあの場所へ運んどいて、そうしたらそこで待機」
「了解しました」
鈴仙にはこの計画は伝えていない。
なんだかんだでてゐは鈴仙の事は好きだ。でも鈴仙は元月のイナバだから、計画が漏れるかもしれない。ばらさなくても微妙な顔の変化で綿月姉妹に悟られる可能性もある。
こういう事は古くからの仲間たちだけでやりたいと思ったのだ。
てゐ達の会話を聞いていた鈴仙は、お茶の間にいた永琳たちに遠慮がちに報告した。
「師匠、てゐが豊姫様を狙って悪戯を仕掛けていますが」
「ただの悪戯でしょ、放っておきなさい」
「ええっ、でもいいんですか」
煎餅をかじっていた依姫も、あまり不安そうではなかった。
「姉さまも張り合う相手がいて楽しそうだったし、とりあえずみんなで観戦しましょう」
輝夜は楽しそうだ。
「みんなで、どっちが勝つか賭けているの、ウドンゲもどう? ちなみに私は、豊ちゃんが負けたら働くわ」
「じゃあ私は……いや結構です」
心配そうな鈴仙に、永琳がお茶をすすりながら言った。
「ウドンゲ、これはいわば、豊姫とてゐのスペルカード戦なのよ」
「スペルカード戦、ですか?」
「そ、勝負の方法は、てゐは悪戯し、豊姫はそれを見破る、どちらかが根負けするまで続ける、そんなところでしょう」
「はあ、今日あちこちで起きていた騒ぎもこれだったんですね。まったくあのバウムクーヘン、まだ歯が少し痛い」
「あははは、あの木のケーキを食べるウドンゲ、あれは良かったな」輝夜が笑う。
必勝の策を整えたてゐは、豊姫に今までの狼藉を詫びに来たと言い、綿月姉妹が使っている寝室にいた。豊姫は昼寝中だった。
「あのう、私は鰐鮫に悪戯して、ひどい目にあわされました。自業自得なんですけど、それ以来鮫が怖くて仕方ないのです」
「それで、トラウマを打ち払おうと私にギャフンと言わせたかった?」
「はい、豊姫様、お願いがございます、鰐鮫の恐怖を克服するため、豊姫様の元のお姿を見せていただけないでしょうか」
てゐは姿勢を正し、まっすぐに豊姫の瞳を見つめた。
しばらく考えて豊姫は首を縦に振った。
「いいわ、それで悪戯されなくなるならね」
「はい、ではここでは誰かに覗かれるかも知れませんし、部屋を変えましょう」
てゐは豊姫を永琳の診察室へ案内した。
ここには診察台とベッド、各種薬品や注射器、酸素ボンベや吸入器といった医療器具が並んでいる。
戸を閉め、豊姫は鰐鮫の姿に変化した。
「これが本来の姿です。人々の幻想が、私たちにヒトの姿を与えたのです」
まつ毛が生えているせいで目元がやや擬人化されている。
てゐは一瞬体を震わせたが、ひとまず危険はない状況下で、じっくりとその姿を眺める。
「どう、私の姿、醜い?」
てゐは首を横に振り、その肌に触れてみる。
「いいえ、醜いと言うより、力強く、畏怖を感じます。恐怖を全く感じないと言えば嘘になりますが、本当に偉大なお姿です」
お世辞ではない。てゐの本音だった。
「そう、ありがとう」 鰐鮫は涙を流して感謝した。
鰐鮫モードの自分をてゐに見られた時、過去のトラウマ、心的外傷が疼いたのはてゐだけではなかった。
遠い遠い昔、豊姫は地上の若い男と結ばれたが、鰐鮫の姿に戻って出産中にその姿を見られてしまった。
―――貴方! 見てはならないと申しましたのに―――
その男は逃げだした。あの醜いものを見る目つきが思い出される。
あの傷は今も消えてなどいなかったのだ。
しかし、てゐは自分の姿を再び見たいと言いだし、偉大な姿だと言ってくれた。
このイナバがどんな詐欺師で悪戯者だろうと、その言葉に偽りはないのが分かる。
「私はかつて、あなた様、鰐鮫を軽く見ていました。しかしそれは間違いだと思い知らされました。あなた方は本当に誇り高い生物です。だから、だからこそ……」
てゐは酸素ボンベを掴んだ。
「克服のし甲斐があるってものよ!」
「!?」
そのボンベを強引に豊姫の口にねじ込んだ。
豊姫には一瞬何をされたのか気付かなかった。
信じられない言葉が目の前の兎から飛び出した。
「このアンモニア臭え軟骨魚類があっ、哺乳類様に屈しやがれ」
てゐは薬品棚から猟銃を取りだし、弾丸を装填した。
「失敬な! かまぼこにすると美味しいのよ、ってか何て下品な! 女の子がそんな事言うものでは……」
「ゲームオーバーだ! ド外道ー」
ボンベめがけて引き金を引いた。
「どよわにゅっ!」
爆発が起こり、豊姫は某暗殺拳の餌食になった雑魚悪党のような叫びをあげ、哀れ消し飛んだ……のか?
「あっはっはっは汚え花火だ、おおざまあwざまあw」
勝ち誇るてゐの首を誰かが掴み、持ち上げた。
「やってくれたわね」 豊姫だった。
「な、何故無事で」
「その程度で私がやられるわけ無いでしょう? 海神パワーなめんなよ」
そしててゐを掴んだまま隣の手術室のドアをあけ、手術台にてゐを押し付けた。
「いい道具が揃っているわね、皮をはぐなんて事は言わない、鍋用のお肉に加工してあげる」
「ちょっと、冗談だよね」 首を抑えつけられて苦しいてゐがどうにか声を出す。
「ヒトの口にボンベ放り込んで爆発させるのが冗談なのかしら?」
「ご、ごめん、謝るから、お願い」
豊姫は凄味のある笑顔でてゐを一喝した。
「黙れ、この被捕食動物」
「ひいっ」
「あんた達は食肉になるか、実験動物がお似合いなのよ」
豊姫はメスを取り、てゐの喉に近づけていく。
「血抜きしましょう」
「いやあああああ! 助けて、大国主様あー、怖いよお」
思わずあの時の恩人の名を叫んだ。こうなるなら何もしなければよかった。
豊姫があの鰐鮫の中にいたという確証はないのだから、豊姫にしてはとんだ因縁つけと言えた。
でももう遅い。彼女を怒らせてしまった。
「残念、大国主様はもう来てくれないわ」
思えば、健康に気をつけて長生きしてきた、その罰が当たったのか?
(私は本当にバカだな。答えが出た所でどうにもならないのに)
この期に及んで、冷静に分析しようとしている自分に我ながら呆れる。
(ここが死に時か、思えば長かったな……鈴仙、あれ?
なぜあの子の顔が? ああ、なんだかんだで……)
「だったら私たちが!」
人の姿をした二羽のイナバが降ってきて、一羽が豊姫にぶつかり、てゐの首を掴んでいた腕が離れた。
てゐとおそろいのワンピースを着た、直参兎達だった。
「てぬ! てい! やっと来てくれたか」 やっと呼吸が自由になった。
「大丈夫ですか、てゐ様」ていが心配している。
「ほうら、やっぱり無残な悲鳴が合図じゃないですか?」てぬが笑う。
2人が弾幕の態勢に入った。ていが声を張り上げる。
「私たちは、てゐ様に一番近い名を許された、最強クラスの兎よ」
「さあて、まずはこのお方をカマボコにするとしますか」
豊姫はあの扇子を懐から取り出し、余裕を持った目で三羽を睨みつけた。
「パチ者はお呼びじゃないわ。この扇子は全てを素粒子に返す物、おとなしくした方がいいわよ」
怯んだ二人をてゐが勇気づける。
「てい、てぬ、それは偽物だよ!」
豊姫がしまったという顔をした。
「さあ、これで逆転だよ。負けを認めるの、認めないの」
その時、手術室にどやどやと集団が入ってきて、先頭の人物がぱんぱんと手を叩いた。
「はーいはいそこまでそこまで、痴話げんかはこれでおしまい」
「や、八意様」
「姉さま、もう勝負は終わりです、その因幡のプライドはズタズタでしょう。それともこのまま続けて、R-18指定されたいのですか」
豊姫は扇子をひらひら振って肩をすくめた。
「冗談よ、冗談。もう少し脅かしたら放してやるつもりだったのに」
これで勝負は終わった。引き分け、と見て良いだろうとてゐは思う。
手術台から降りて、改めて助けに来てくれた二人に礼を言った。
「ありがとうね、てぬ、てい。私に近い名前は伊達じゃなかったわね」
てぬが苦笑いする。
「私たちがこの名を授かった時、進退きわまった時に詰め腹を切る係かと思いましたがね」
「大丈夫、それは鈴仙の役目……『ドゴッ』いったあい」
てゐの頭に鈴仙のゲンコツがさく裂した。それが今回最大の物理ダメージだった。
だが今は、ぷりぷり怒る彼女がいとおしい。
客間で2人は仲良く永琳に説教された。
「2人とも、競うなら平和的なやり方で競いなさい」
「はい、申し訳ありません、つい大人げない事をしてしまいました」 豊姫が頭を下げる。
「うう、私はただ、あの日の仕返しがしたかっただけなんです」 てゐも続いた。
「てゐのそれは自業自得でしょ。それから2人とも戦闘の仕方が酷いこと酷いこと。スペルカードルールは美しさを心がけるものです。恥を知りなさい」
「ごめんなさい」「ごめんなさい、八意様」
「それから、戦いの最中に興奮するのは分かるけれど、汚い言葉、特にお互いの種族差別発言も良くないわ、両方相手に謝って、さあ早く」
てゐが少し反論する。
「永琳様、あんまり差別発言するなといってばかりいると、正当な批判も出来なくなりますよ」
「それとこれとは話は別です」
「ぐぬぬ」
「ほら、二人ともごめんなさいしなさい」
てゐと豊姫はばつが悪そうに向き合う。
最初に口を開いたのはてゐ。
「あのう、ひどい事を言って申し訳なかったです。でも、私はあなた様とその一族を本当に立派な方々だと思っています、それは間違いありません」
輝夜もそれを認めた。
「確かに、あの飄々としたあなたが、ああまで感情むき出しになるなんてねえ」
豊姫は謝罪を受け入れた、今度は彼女の番だ。
「わたしも、人の知能を身に付けたイナバにひどい事言っちゃって、ごめんね」
てゐも受け入れ、これでこの件はお開き。
「じゃあ、こういう戦いの締めとして、帰るのは明日にして、今日は飲みましょう」
永琳が酒を出し、その場でてゐと豊姫は互いに酌をした。
「ったくもう、ちょっとからかったぐらいで皮まで剥ぐなんてよー」
「鮫の姿がそんなに怖いかーおめえの子産んだんだぞー」
月夜の晩、完全に出来あがった二人が、トラウマの元について愚痴を言い合っている。
「しっかしあなたも災難だったわねえ、痛かったでしょう?」
「あんたこそ、幸福の絶頂って言う所に旦那にあんな扱いされるなんて気の毒に」
二人の心の傷が完全に癒えたのかは分からない。
しかし兎は恐怖に耐えて鰐鮫に悪戯を仕掛けた。
鰐鮫も自分を恐れながらも蔑まず、真剣にぶつかってくる兎と向き合った。
二人とも、抱えていた何かが軽くなったみたいだ。
眠り始めたてゐを豊姫が膝枕した。
その寝顔を見て、豊姫は地上も悪くないかもなと思うのだった。
「ああ、やられたあ~」
翌日、てゐはダイヤが無くなっているのに気づいた。
隠し場所には『これで無しにしてあげます by豊ちゃん』という置手紙があった。
しかしてゐは、地底で手に入れたダイヤの成り立ちを想像し、苦笑いした。
今頃月の都は大騒ぎかも知れない。
「いちおう、勝ったといやあ勝ったんだろうけど、こんな偶然には頼りたくなかったな。もっと精進しなきゃね」
てゐは一日の仕事を終え、笑顔で家に戻る。今日の仕事は上々だった。
取引相手は、キラキラした物を集めるのが趣味の地獄烏の少女。
「ねえ、こんな宝石を手に入れたんだけど」
「うわあ、綺麗」
てゐは外界から流れてきた様々な色のガラスの破片を磨き、鋭利な面を落として、宝石のように仕立て上げた。
それをお空と呼ばれている地獄鴉にみせると、お空は目をキラキラさせながら、そのガラス片を食い入るように見つめるのだった。
欲しい? と尋ねると、首を大きく縦に振って欲しい欲しいと答えた。
「これ、良かったら地上と地底の友好の証にあげてもいいよ」
「本当?」
「ただし、あんたからも何か友好の証をもらいたいなあ」
「うん、あげるあげる、これ持っていって」
そして手に入れたのだ、大粒のダイヤモンドを。両手いっぱいのガラス片を対価として。
詐欺? このガラス片はお空にとってはまさに宝の石、だから略して宝石と呼んでも差支えない。
そもそも、物の価値を決めるのは買った当人であって他人ではない。
ゴミを宝とみなす者がいても良いではないか。
一粒の透明なキラキラと、多くの色とりどりのキラキラ
自分は前者に価値を見出し、お空は後者に価値を見出した。
だからこれは正当な取引だ。閻魔にも文句は言わせない。
というのがてゐのポリシーだった。
屋台で一杯飲み、いい気分で永遠亭に戻ると、何羽かの配下の妖怪兎―ここではイナバと通称されている―がざわつきながら、ある部屋の隙間を覗いていた。
「ねえ、一体何があったの」
てゐが尋ねると、丸っこい兎の姿をしたイナバ達(あらたとしひら氏仕様)は口々に何があったのかをつぶやく。あまり文脈や時系列を気にした話し方でない。頭に思いついた事象を適当に口にしている感じがする。
「やってきた~」「つきのおひめさま~」「きれいなひと~」「おきゃくさん~」
覗いてみると、月の高貴な住人である綿月姉妹が、主である蓬莱山輝夜、八意永琳と楽しそうに談笑している。
「……それでですね、ここに来る前日の夜、妹が興奮して眠れなくて、早く八意様に会いたいって言ってたんですよ」
「お姉さま、そ、それは言わない約束でしょ」
その月の住人の名は、姉を綿月豊姫、妹を綿月依姫といった。
うまく気にいられれば、何か商機があるかもね、そんな気分でふすまを開け、2人にお辞儀をして挨拶する。
「今晩は、月のお姫様、ご機嫌麗しゅうございます」
「あらあら、ここのイナバの女王様ね」豊姫が笑う。
「そんな大したものじゃないです、ただここでの年長うさぎなだけです」
「鈴仙とは仲良くしているかしら」
「そりゃあもう、鈴仙は悪戯ばかりするので手を焼かされています」
傍らに控えていた鈴仙が怒る。
「ちょっと、悪戯で手を焼かせているのはあんたでしょ」
てゐが素知らぬ顔で続けた。
「ほらこんな風に、きっと構ってもらいたいんでしょう、複雑な年頃ですから」
依姫も呆れ顔。
「玉兎隊時代なら懲罰ものね。反省しなさい」
「うう、信じて下さい」
鈴仙がなおも抗議するが、てゐはのらりくらりとかわしている。
たまにこういう事が起こるほかは、いつもの永遠亭のはずだった。
就寝前、てゐは何となく綿月姉妹の寝室の前に立って、2人の会話を興味と悪戯心で盗み聞きしていた。
何か商機でも見つかったらもうけものだし、そうでないならそれでもいい、
とかそんな事を考えながら。
「お姉さま、その姿はどうかと思います」 依姫の声だ。
「だってえ、寝る時はこの姿の方が落ち着くんだもん」
その姿とはどんな姿だろう、てゐは好奇心を抑えきれず、そっとふすまを開けて覗いてみる。
つぎの瞬間、てゐは後悔した。見るべきではないものを見てしまった。
一匹の鰐鮫、中途半端に擬人化され、目にまつ毛の生えた鮫が布団の中にいた。
ときおり、しっぽをびちっとはねさせていた。
綿月姉妹は鰐鮫の化身だったのだ。
「あら?」 一瞬、鰐鮫化した豊姫とてゐの目が合った。
てゐは身を震わせて絶叫した。
「うぎゃあああああああああああああああああああああああサメだああああああああああああああああああああああああああああああこわいよおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおお」
何事かと思った依姫が剣の柄を握り、廊下へ駆けだすが、すでにてゐの姿はなかった。
「依っちゃん、今のは?」
「多分、どこぞの悪戯イナバがお姉さまの姿に驚いて逃げたのでしょう」
「そう……」
鮫の姿の豊姫は、どこか悲しそうに目を伏せる。
「お姉さま?」
「やっぱこの姿って怖いのかしら」
「いいい一体なんであんな奴がこの永遠亭に」
てゐは自室にこもり、毛布を被って震えていた。
忘れたはずの痛みと恐怖がよみがえってくる。
かつて鮫、特に鰐鮫をからかおうとして血祭りにあげられ、通りがかりの神々に間違った治療法を教えられたためさらに苦しんだ。
因幡の素兎として語りつがれている話である。
もし最後に通りがかった神々の弟君が、正しい手当の仕方を教えてくれなかったらどうなっていたか。
(痛いのはいや、怖いよう、怖いよう)
兎妖怪の長老というプライドもあって、今まではあの日の事を思い出す事はあっても、叫んだり走り出したりするような事はどうにか押さえていられた。
もうトラウマは克服したものとばかり思っていた。
しかし直前で鮫そのものを見せられたとき、てゐは痛感した。
あの傷は完全には癒えていなかったのだと。
「てゐさま~」「あそぼー」「あそんでー」
とその時、部屋に何羽かのイナバ達が遊びに来た。
そのうちの一羽がてゐの涙に気づく。
普段は気の強いてゐの思いがけない泣き顔に、イナバ達は困惑し、それから心配になって、彼女をどうにかなぐさめようとする。
「なかないでー」「どうしたのー」「ぼくらがついてるー」
てゐは気の済むまで泣いた。
イナバ達は慰めの言葉が尽きた後も、ひたすらにてゐのそばに寄り添う。
かなりの時間が経った後、顔を上げ、イナバ達を抱きしめた。
「ありがとう、ごめんね心配かけて。もう大丈夫」
「いつものてゐさまー」「ふっかつしたー」「よかったー」
そしてイナバ達の顔を見る。てゐは決意した。
私はこの子たちを束ねるリーダー。そして、この子たちを守る使命がある。
私がしっかりしないでどうする。
「これは不運じゃなくて、きっとトラウマを清算するための好機」
被っていた毛布を取り、立ち上がる。
「私は、今度こそ鰐鮫をひっかけてやる。でなきゃ私は、一歩も前へ進めないのよ」
「てゐさまー」「さぎしとしてはー」「けっこうつめがあまいー」「きをつけてー」
「あはは、確かにそうよね、情けないわ」
自嘲気味に笑う、沈んだ雰囲気が吹っ飛んでゆく。拳を握り、てゐは宣言した。
「私はあの日のトラウマを克服する。その日こそ、呪縛からの独立記念日だ」
イナバもなんか盛り上がった。
「やられたらー」「やりかえすー」「ばいがえしだー」
泣きながら部屋にこもったてゐを案じ、そっと部屋の外でウサ耳を立てていた鈴仙は思った。
(いや、もともと自業自得じゃん)
翌朝、豊姫がまだ寝ている妹を起こさないように着替え、ふすまを開けると、足元にバナナの房が落ちていた。
「ふふっ、単純な悪戯ねえ」
バナナの房を拾い上げ、寝室の屑かごに投げ捨て、改めて廊下に足を踏み出そうとした途端、床の異変に気付いた。
廊下の床にワックスが塗られ、ピカピカに光っていた。
傍らで哀れなブレザー姿のイナバが一羽、盛大に下着を晒して倒れている。
バナナの房はフェイクだったのだ。
豊姫は転ばないように慎重に廊下を歩き、そっとブレザー兎のスカートを元に戻した。
これはまだ始まりにすぎないかも、と何となく感じた。
朝食の後、豊姫はてゐから皿に載せたお菓子をふるまわれた。
「豊姫様、これはバウムクーヘンという地上のお菓子です。なんでも異国の言葉で、『木のケーキ』というそうです、美味しいですよ」
たんこぶを頭に作った鈴仙が、珍しいわね、と興味深そうに見つめる。
「姉さま、こんな穢れた地上のものなど食べてはいけません」
「知ってる依姫? 美味しい物だけには穢れなんてないのよ。習わなかった?」
「どこで習ったんですか」
「私の経験則よ」
「たんにお姉さまが食いしん坊なだけじゃないですか、もう」
「でも依姫の言う事ももっともね。鈴仙、まずあなたが味見して頂戴」
「ええ、いいいんですか?」
「私が許可します」
「やったー」
鈴仙はそのバウムクーヘンを手に取り、一口味わった。
「いただきます」
がりっ
さすが木のケーキというだけあって、木に含まれるフィトンチッドの芳醇な香り。頑丈な歯ごたえ。そして繊維たっぷりの食感。
鈴仙はどうにか一口噛み砕き、飲み込んだ。
「まるで本物の木の年輪を食しているよう…………って言うか、本物の木じゃん!」
「だって最初、『木のケーキ』って言ったでしょ。見事なノリ突っ込み」
てゐがかすかに笑うが、目標が外れたので失敗だ。
「誰がノリ突っ込みよ! 飲み込んじゃったじゃない!」
「うわあ、鈴仙、さすがの私も引くわ」 豊姫も呆れている。
「豊姫様、何度も申し上げますが私は『木のケーキ』を出したのです、嘘はついてません」
「てぇえゐいいいい」
そう言うとてゐはそれこそ脱兎のごとく駆けだして行った。
鈴仙も後を追う。
昼下がり、そろそろ帰る支度をしようという時。館の一室から依姫の大声が響いた。
「また扇子を失くした!?」
妹の大声に、どこかの公園前派出所のごとく、周囲の扉や障子、屋根が吹き飛んだ。
感情のあまり、幾柱かの神々を呼んでしまったらしい。
気迫に、姉の豊姫もおろおろしている。
「うん、枕元に置いておいたんだけど、さっき寝室に行ったら無くなっていたの」
「そんな、あれがどういう代物か分かっているはずでしょ」
その月の扇子には恐るべき力が込められており、一振りで周囲の物を素粒子レベルに分解してしまうと言う。
以前綿月姉妹が永遠亭を訪れた時、蓬莱山輝夜がこれを誤って振り回しそうになり、大騒ぎになった。
さすがの豊姫も沈み込んでいる。
「そこまで怒らなくたって」
「怒りますよ。ああ全く、愛宕様を暴走させて死んでしまいたい」
もう一度探そうとして豊姫が寝室に戻ると、扇子自体はすぐ見つかった。
しかし問題がある。
「あの扇子って、もしかして生き物で、分裂増殖出来たのかしら」
豊姫が持っていたものとそっくり同じ色と柄の扇子が、何十個も畳の上に載っていた。
「ど、どれが本物だったっけ?」
「おおこれはこれは豊姫様」 てゐがゲスい笑顔で部屋の入口に姿を見せた。
「これもあなたの悪戯かしら?」
「じつはうちのイナバ達が、綿月様にお贈りする扇子をこしらえていたのですが、偶然豊姫様の扇子に似てしまいましてねえ」
「本当に困ったわねえ。あの扇子、非常に危険な代物なのよ」
豊姫は少し考えて、何をどう思ったのか、扇子の一つを手に取り、てゐに向かってあおぐ。
「何をするんです?」
何事も無かったが、てゐは一瞬ぎょっとして豊姫に問う。何を考えているのか。
「だから、全部振って確かめてみようと思ったの、時間はかかるけど確実でしょう」
豊姫は、次々に扇子を手にとり、あら違う、これも違うと呟きながら振り仰いでいく。
見守るてゐの顔が青ざめて行く。人生で二番目に怖い体験だ。
「あの、もし本物だったら、どうなるの」
「ええ、この辺の家やイナバ達が素粒子に還るだけよ」 事もなげに言った。
「そんな、やめて下さい。他に確かめる方法がないんですか?」演技抜きのてゐの懇願。
「面倒だし、だいいちイナバはこの地上に腐るほどいるのではなくて? 繁殖力強いし」
「わ、私はどうでも良くないよ」
「安心して、いずれは死ぬのが生命なのだから」とニッコリ。
(安心なわけあるか、この人クレイジーだ)
「ほれー、私の舞いをご覧あれ」
とうとう豊姫は扇子を同時に二つ手に取り、ぶんぶん振り回す。
そうこうしている内に、とうとう扇子が残り二つになった。
「アハハ、この二つのうちのどちらかが本物ね」
豊姫は扇子の一つを持ち、力を込めた。扇子が光に満ちて行く。
顔はまるで無邪気な子供のよう。
「キャハッ、大当たり♥」
てゐは腰を抜かしていて何もできないでいる。
「あわわわわわわわ、や、やめて……」
そして思い切り、てゐめがけて振り仰いだ。
「そーおれっ」
思わず両手で顔をかばい、目を閉じる。だがこんな動作でどうなると言うのだ?
怯えている自分とは別の、心の中のもう一人の自分が妙に冷静な判断を下した。
でもそうせずにいられなかった。
しかし、いつまでたっても、何の衝撃も熱も痛みも感じない。
案外死とはこんなものか? だが待てよ、周りの雰囲気がさっきと変わらない。
おそるおそる目を開けてみると、豊姫が腹を抱えて笑っていた。
「あはははは、引っかかった引っかかった。今のは音と光が出るだけの月のおもちゃ。本物は都に置いてきたわ」
「えっ、という事は……」
「ただのおもちゃにこんなに怯えるなんて、かわいい」
事情が呑み込めてきた。
この女、悪戯にかかったふりをして、自分を弄んでいたのか。
落ち着いてくるにつれて、恥ずかしさと悔しさが同時に込み上げてくる。
「うふふ、たまには上級者にやられて、己の実力を知るのも良い機会でしょう」
豊姫はその場に座り込んだままのてゐの頭を軽くなでてやった。
上級者……生真面目だがそれゆえ騙されやすい鈴仙ばかり相手にしていて、悪戯の腕がなまっていたというのか?
「あなたはあの因幡の素兎でしょ、だからどうして私を狙うのか想像がつくけれど、もう終わりにしない?」
てゐは何も答えず、その場から逃げ去った。
こっちは本気ではめようとしているのに、あちらは完全に遊んでいるだけだ、くそう。
「てゐ様、てゐ様の言いつけどおり、傷洗浄用の真水入りの甕20個と、蒲の穂300本、八意印の傷薬10壜と鎮痛剤ヤゴコロキソニン100錠を用意しました」
人の姿に変化した永遠亭の精鋭、てゐの直参イナバ(秋☆枝氏仕様)の一羽がそう伝えた。
「ありがとう、れゐ、あなたはめゐとまゐの三人で、図に書いた場所にこれを隠して、合図があるまでその場所で待機していて」
「はいっ、てゐ様の無残な悲鳴が合図ですね」別のイナバがおどけて言った。
「誰が無残な合図よ、てぬ。あなたはていと一緒に例の物をあの場所へ運んどいて、そうしたらそこで待機」
「了解しました」
鈴仙にはこの計画は伝えていない。
なんだかんだでてゐは鈴仙の事は好きだ。でも鈴仙は元月のイナバだから、計画が漏れるかもしれない。ばらさなくても微妙な顔の変化で綿月姉妹に悟られる可能性もある。
こういう事は古くからの仲間たちだけでやりたいと思ったのだ。
てゐ達の会話を聞いていた鈴仙は、お茶の間にいた永琳たちに遠慮がちに報告した。
「師匠、てゐが豊姫様を狙って悪戯を仕掛けていますが」
「ただの悪戯でしょ、放っておきなさい」
「ええっ、でもいいんですか」
煎餅をかじっていた依姫も、あまり不安そうではなかった。
「姉さまも張り合う相手がいて楽しそうだったし、とりあえずみんなで観戦しましょう」
輝夜は楽しそうだ。
「みんなで、どっちが勝つか賭けているの、ウドンゲもどう? ちなみに私は、豊ちゃんが負けたら働くわ」
「じゃあ私は……いや結構です」
心配そうな鈴仙に、永琳がお茶をすすりながら言った。
「ウドンゲ、これはいわば、豊姫とてゐのスペルカード戦なのよ」
「スペルカード戦、ですか?」
「そ、勝負の方法は、てゐは悪戯し、豊姫はそれを見破る、どちらかが根負けするまで続ける、そんなところでしょう」
「はあ、今日あちこちで起きていた騒ぎもこれだったんですね。まったくあのバウムクーヘン、まだ歯が少し痛い」
「あははは、あの木のケーキを食べるウドンゲ、あれは良かったな」輝夜が笑う。
必勝の策を整えたてゐは、豊姫に今までの狼藉を詫びに来たと言い、綿月姉妹が使っている寝室にいた。豊姫は昼寝中だった。
「あのう、私は鰐鮫に悪戯して、ひどい目にあわされました。自業自得なんですけど、それ以来鮫が怖くて仕方ないのです」
「それで、トラウマを打ち払おうと私にギャフンと言わせたかった?」
「はい、豊姫様、お願いがございます、鰐鮫の恐怖を克服するため、豊姫様の元のお姿を見せていただけないでしょうか」
てゐは姿勢を正し、まっすぐに豊姫の瞳を見つめた。
しばらく考えて豊姫は首を縦に振った。
「いいわ、それで悪戯されなくなるならね」
「はい、ではここでは誰かに覗かれるかも知れませんし、部屋を変えましょう」
てゐは豊姫を永琳の診察室へ案内した。
ここには診察台とベッド、各種薬品や注射器、酸素ボンベや吸入器といった医療器具が並んでいる。
戸を閉め、豊姫は鰐鮫の姿に変化した。
「これが本来の姿です。人々の幻想が、私たちにヒトの姿を与えたのです」
まつ毛が生えているせいで目元がやや擬人化されている。
てゐは一瞬体を震わせたが、ひとまず危険はない状況下で、じっくりとその姿を眺める。
「どう、私の姿、醜い?」
てゐは首を横に振り、その肌に触れてみる。
「いいえ、醜いと言うより、力強く、畏怖を感じます。恐怖を全く感じないと言えば嘘になりますが、本当に偉大なお姿です」
お世辞ではない。てゐの本音だった。
「そう、ありがとう」 鰐鮫は涙を流して感謝した。
鰐鮫モードの自分をてゐに見られた時、過去のトラウマ、心的外傷が疼いたのはてゐだけではなかった。
遠い遠い昔、豊姫は地上の若い男と結ばれたが、鰐鮫の姿に戻って出産中にその姿を見られてしまった。
―――貴方! 見てはならないと申しましたのに―――
その男は逃げだした。あの醜いものを見る目つきが思い出される。
あの傷は今も消えてなどいなかったのだ。
しかし、てゐは自分の姿を再び見たいと言いだし、偉大な姿だと言ってくれた。
このイナバがどんな詐欺師で悪戯者だろうと、その言葉に偽りはないのが分かる。
「私はかつて、あなた様、鰐鮫を軽く見ていました。しかしそれは間違いだと思い知らされました。あなた方は本当に誇り高い生物です。だから、だからこそ……」
てゐは酸素ボンベを掴んだ。
「克服のし甲斐があるってものよ!」
「!?」
そのボンベを強引に豊姫の口にねじ込んだ。
豊姫には一瞬何をされたのか気付かなかった。
信じられない言葉が目の前の兎から飛び出した。
「このアンモニア臭え軟骨魚類があっ、哺乳類様に屈しやがれ」
てゐは薬品棚から猟銃を取りだし、弾丸を装填した。
「失敬な! かまぼこにすると美味しいのよ、ってか何て下品な! 女の子がそんな事言うものでは……」
「ゲームオーバーだ! ド外道ー」
ボンベめがけて引き金を引いた。
「どよわにゅっ!」
爆発が起こり、豊姫は某暗殺拳の餌食になった雑魚悪党のような叫びをあげ、哀れ消し飛んだ……のか?
「あっはっはっは汚え花火だ、おおざまあwざまあw」
勝ち誇るてゐの首を誰かが掴み、持ち上げた。
「やってくれたわね」 豊姫だった。
「な、何故無事で」
「その程度で私がやられるわけ無いでしょう? 海神パワーなめんなよ」
そしててゐを掴んだまま隣の手術室のドアをあけ、手術台にてゐを押し付けた。
「いい道具が揃っているわね、皮をはぐなんて事は言わない、鍋用のお肉に加工してあげる」
「ちょっと、冗談だよね」 首を抑えつけられて苦しいてゐがどうにか声を出す。
「ヒトの口にボンベ放り込んで爆発させるのが冗談なのかしら?」
「ご、ごめん、謝るから、お願い」
豊姫は凄味のある笑顔でてゐを一喝した。
「黙れ、この被捕食動物」
「ひいっ」
「あんた達は食肉になるか、実験動物がお似合いなのよ」
豊姫はメスを取り、てゐの喉に近づけていく。
「血抜きしましょう」
「いやあああああ! 助けて、大国主様あー、怖いよお」
思わずあの時の恩人の名を叫んだ。こうなるなら何もしなければよかった。
豊姫があの鰐鮫の中にいたという確証はないのだから、豊姫にしてはとんだ因縁つけと言えた。
でももう遅い。彼女を怒らせてしまった。
「残念、大国主様はもう来てくれないわ」
思えば、健康に気をつけて長生きしてきた、その罰が当たったのか?
(私は本当にバカだな。答えが出た所でどうにもならないのに)
この期に及んで、冷静に分析しようとしている自分に我ながら呆れる。
(ここが死に時か、思えば長かったな……鈴仙、あれ?
なぜあの子の顔が? ああ、なんだかんだで……)
「だったら私たちが!」
人の姿をした二羽のイナバが降ってきて、一羽が豊姫にぶつかり、てゐの首を掴んでいた腕が離れた。
てゐとおそろいのワンピースを着た、直参兎達だった。
「てぬ! てい! やっと来てくれたか」 やっと呼吸が自由になった。
「大丈夫ですか、てゐ様」ていが心配している。
「ほうら、やっぱり無残な悲鳴が合図じゃないですか?」てぬが笑う。
2人が弾幕の態勢に入った。ていが声を張り上げる。
「私たちは、てゐ様に一番近い名を許された、最強クラスの兎よ」
「さあて、まずはこのお方をカマボコにするとしますか」
豊姫はあの扇子を懐から取り出し、余裕を持った目で三羽を睨みつけた。
「パチ者はお呼びじゃないわ。この扇子は全てを素粒子に返す物、おとなしくした方がいいわよ」
怯んだ二人をてゐが勇気づける。
「てい、てぬ、それは偽物だよ!」
豊姫がしまったという顔をした。
「さあ、これで逆転だよ。負けを認めるの、認めないの」
その時、手術室にどやどやと集団が入ってきて、先頭の人物がぱんぱんと手を叩いた。
「はーいはいそこまでそこまで、痴話げんかはこれでおしまい」
「や、八意様」
「姉さま、もう勝負は終わりです、その因幡のプライドはズタズタでしょう。それともこのまま続けて、R-18指定されたいのですか」
豊姫は扇子をひらひら振って肩をすくめた。
「冗談よ、冗談。もう少し脅かしたら放してやるつもりだったのに」
これで勝負は終わった。引き分け、と見て良いだろうとてゐは思う。
手術台から降りて、改めて助けに来てくれた二人に礼を言った。
「ありがとうね、てぬ、てい。私に近い名前は伊達じゃなかったわね」
てぬが苦笑いする。
「私たちがこの名を授かった時、進退きわまった時に詰め腹を切る係かと思いましたがね」
「大丈夫、それは鈴仙の役目……『ドゴッ』いったあい」
てゐの頭に鈴仙のゲンコツがさく裂した。それが今回最大の物理ダメージだった。
だが今は、ぷりぷり怒る彼女がいとおしい。
客間で2人は仲良く永琳に説教された。
「2人とも、競うなら平和的なやり方で競いなさい」
「はい、申し訳ありません、つい大人げない事をしてしまいました」 豊姫が頭を下げる。
「うう、私はただ、あの日の仕返しがしたかっただけなんです」 てゐも続いた。
「てゐのそれは自業自得でしょ。それから2人とも戦闘の仕方が酷いこと酷いこと。スペルカードルールは美しさを心がけるものです。恥を知りなさい」
「ごめんなさい」「ごめんなさい、八意様」
「それから、戦いの最中に興奮するのは分かるけれど、汚い言葉、特にお互いの種族差別発言も良くないわ、両方相手に謝って、さあ早く」
てゐが少し反論する。
「永琳様、あんまり差別発言するなといってばかりいると、正当な批判も出来なくなりますよ」
「それとこれとは話は別です」
「ぐぬぬ」
「ほら、二人ともごめんなさいしなさい」
てゐと豊姫はばつが悪そうに向き合う。
最初に口を開いたのはてゐ。
「あのう、ひどい事を言って申し訳なかったです。でも、私はあなた様とその一族を本当に立派な方々だと思っています、それは間違いありません」
輝夜もそれを認めた。
「確かに、あの飄々としたあなたが、ああまで感情むき出しになるなんてねえ」
豊姫は謝罪を受け入れた、今度は彼女の番だ。
「わたしも、人の知能を身に付けたイナバにひどい事言っちゃって、ごめんね」
てゐも受け入れ、これでこの件はお開き。
「じゃあ、こういう戦いの締めとして、帰るのは明日にして、今日は飲みましょう」
永琳が酒を出し、その場でてゐと豊姫は互いに酌をした。
「ったくもう、ちょっとからかったぐらいで皮まで剥ぐなんてよー」
「鮫の姿がそんなに怖いかーおめえの子産んだんだぞー」
月夜の晩、完全に出来あがった二人が、トラウマの元について愚痴を言い合っている。
「しっかしあなたも災難だったわねえ、痛かったでしょう?」
「あんたこそ、幸福の絶頂って言う所に旦那にあんな扱いされるなんて気の毒に」
二人の心の傷が完全に癒えたのかは分からない。
しかし兎は恐怖に耐えて鰐鮫に悪戯を仕掛けた。
鰐鮫も自分を恐れながらも蔑まず、真剣にぶつかってくる兎と向き合った。
二人とも、抱えていた何かが軽くなったみたいだ。
眠り始めたてゐを豊姫が膝枕した。
その寝顔を見て、豊姫は地上も悪くないかもなと思うのだった。
「ああ、やられたあ~」
翌日、てゐはダイヤが無くなっているのに気づいた。
隠し場所には『これで無しにしてあげます by豊ちゃん』という置手紙があった。
しかしてゐは、地底で手に入れたダイヤの成り立ちを想像し、苦笑いした。
今頃月の都は大騒ぎかも知れない。
「いちおう、勝ったといやあ勝ったんだろうけど、こんな偶然には頼りたくなかったな。もっと精進しなきゃね」
で実際、てゐと鰐鮫(話の都合とオリキャラ避ける都合上豊姫)の知恵比べといういかにも面白そうなテーマに賞賛惜しみないのですが、肝心のばかし合いの部分が乱雑極まりないのが残念でした。
傷薬など準備するシーンもあって、周囲のコメントも入れてもったいぶった割に、やったのは直接物理攻撃とキャラ崩壊。いたずら兎とはなんだったのか。
目安、「過去の諍いを水に流すためと注いだ銘酒、毒でも入っているかと疑う豊姫に自分が先に飲んで見せ、『恐らくグラスに仕掛けたな』と飲んだ振りして飲まない豊姫に、後から「あの酒は地上では手に入らない逸品で、このダイヤよりも価値がある」と言う。それで悔しがるなら良し、悔しがらないなら、後からてゐの目を盗んで残りの銘酒を飲んだ豊姫、実は月の千年古酒(同じ瓶を用いる)だと気づいてぎゃふん」
くらいの話かなーと思っていただけに、その点惜しかったです。
色々必死なてゐが可愛いよ。頑張れ因幡の白兎。
あと96作めおめでとーです。
100作目はどんな話がくるのか楽しみです。
下手の横好きですが、幻想郷の政治戦とか化かし合いのシーンをもっと書いてみたい欲求があります。おっしゃる通り最後はただの物理攻撃ばかりでしたね。こういうご指摘は非常に勉強になります、もっとも自分がそれを生かせるかが問題ですけど。話をうまく着地させるって難しいですね。
絶望を司る程度の能力さん
ありがとうございます。正直自分なりに考えたつもりでも、あまり面白いオチにならないんじゃないかと思っていましたが、報われた気分です。
奇声を発する程度の能力さん
ラストの候補として、
てゐが純粋な気持ちで負けを認め、穢れがあるとは知らず豊姫にダイヤ献上。
月の都でケガレハザード発生。豊姫はしばらく地上謹慎に。
鈴仙の電波通信でその事を知らされたてゐ真っ青。
豊姫「因幡はどこだ! あのバカ兎はどこだ!」 鈴仙「人里に商売に行きました」
という伝統の公園前派出所オチも考えていました。
沙門さん
はい、ジョーズのパクリです。他に湖でトヨワニと対決し、たまたま魚モードで泳いでいた衣玖さんか屠自古さんを噛ませ、感電させる案もありました。
神話からして、てゐって詐欺師としては詰めは甘い方なんじゃないか、という印象があります。普段は余裕の彼女が珍しく必死になるお話、いかがだったでしょうか。
100作書いていても万点越えは無く、いろいろ欠けている要素があるんだろうなと思いますが、めげずに自分以外の人も楽しめるものを書いていきたい所存です。