OPテーマ(もちろん、仮面ライダーBlackの替え歌で)
門を超えろ 図書館抜けろ 月と星のため
君は見たか サニーが真っ赤に燃えるのを
紅い霧の奥で 危険な罠が待つ
信じる奴が 自機キャラ
真実の絆
悪戯仕掛ける事が 私のファンタジー
生きる事って素敵さ 幻想残る郷
時を超えろ 悪魔祓え この郷のため
スペル放ち 弾をかわし 友を取り戻せ
サニーミルク BLACK
サニーミルク BLACK
サニーミルクの仲間を攫い、その能力を使ってはた迷惑な異変を起こす、紅魔館の主レミリア=スカーレット。
サニーは仲間を救い異変を解決するべく紅魔館への侵入を試みるが、館は巫女でも近づけない程の濃い霧に覆われていた。
サニーは紅魔館へ入る術を探すため、とりあえず人里で情報を集めようとする。
「小悪魔が妖精にやられたの?」
「申し訳ありません、お嬢様、売り物の食料も回収できませんでした」
紅魔館のレミリアの自室。
サニーミルクBlackに負けて帰ってきた小悪魔は、緊張した表情で報告した。
椅子に足を組んで座るレミリアは顔色一つ変えずに聞いている。
小悪魔は彼女の顔を直視できないでいた。
「まあいいわ、確か、並行して進めている作戦があったわね、それに全力を尽くしなさい」
「ありがとうございます、こちらは必ずや成功させてご覧に入れます」
小悪魔はそそくさと退出した。
レミリアは肘かけに頬杖をつくと、メイド長の咲夜を呼んだ。
「咲夜、紅茶をお願い」
「お呼びでしょうか」 咲夜が一瞬で紅茶を準備した状態で現れた。
「咲夜、もう大丈夫なの」
「はい、見苦しいところを見せてしましました」
レミリアはカップを手に取り、一口すする。
「いいのよ貴方が元気なら。それより、小悪魔をボコボコにした奴の事は知ってる?」
「はい、噂話によると、黒い服を着た妖精で、Blackサニーとか、サニーミルクBlackと呼ばれているそうです」
「もう私に楯突く奴はいないかと思ったけれど、楽しめそうね、まあ、人間でないのが少し残念だけど」
レミリアは微笑み、まだ見ぬ挑戦者に思いを巡らせた。
サニーミルクは人間を装う事をしなくても、小川で遊んでいた三人の子供たちと仲良くなった。
一緒に弾幕ごっこはできなくても、大人たちへの悪戯を教えたり、一緒に実践してみて怒られたりした。
「しげる君見っけ」
「あははは、サニーはかくれんぼ強いなあ」
「見たか、私はかくれんぼの天才よ」 サニーは腰に手を当てて、背を反らす。
「サニーすごいな、ごめんね、今まで妖精だと思って馬鹿にしていたよ」
「それより今度は何して遊ぶ?」
「次ルナチャイルドが転んだやろうよ」
(ルナ……そうだ、私はこんな事をしてる場合じゃないんだ)
「どうしたの、サニー?」
「うん、ちょっとね、今日はもう帰るわ、ありがとう」
本来の目標を忘れてないけないと自戒する頃、三人から寺子屋の事を教えられた。
「明日、サニーも慧音先生のところで勉強教えてもらったらどう」
「そうしなよ、きっと面白いよ、時々眠いけど」
サニーは子供たちの事が気にいったので、慧音先生とやらにも会ってみようと思った。
かなりの知識人妖怪らしいので、もしかしたら二人を助ける手段もあるかもしれない。
次の日、白沢が教師を務める寺子屋へ行った。
しかし、子供たちの人数が少ない、どうも様子がおかしいようだった。
「新入生のサニーミルクですっ」
「よろしく、君は妖精かい?」
「はい、ダメでしょうか?」
「慧音先生、妖精は勉強しなくても死なないので教える必要は無いと思いますが」
黄色と黄緑と赤の服を着た少女が、サニーの授業参加に苦言を呈した。
「阿求、学ぶ意欲に種族の差はないぞ」慧音はやんわりと阿求と呼ばれた少女を諭した。
「サニーミルク、悪かったな、それでは授業を始めるぞ」
授業はサニーにはすぐに理解できない事ばかりだったが、慧音がその都度丁寧に教えてくれた。サニーは少しずつだが増えていく自分の知識に感動を覚えた。
「ねえ、阿求ちゃん、なんで妖精が嫌いなの?」
サニーは休み時間の合間に、隣の席の花屋の娘に尋ねてみる。あの子に悪戯を仕掛けた記憶はないが。
「太陽の丘で妖精にからかわれたんだって」
「ちょっと、それは内緒にしてって言ったでしょ!」 阿求が少女に喰ってかかる。
「それがトラウマになって……」
「サニーミルク、授業が済んだらさっさと人里から出なさい、さもないと貴方で鬱憤を晴らすわよ」
「でた、阿求ちゃんの妖精鬱憤晴らし」花屋の娘が笑う。
「あの、妖精で鬱憤を晴らすって何?」
「うふふ、サニーミルクは聞かない方がいいわよ」
それでも、サニーは屈託ない目で阿求の方を見た。
「でも、寺子屋って意外と面白いね、だんだん知識が増えて、馬鹿じゃなくなっていく感じ」
「阿求ちゃん、サニーとも仲良くできない?」
「ま、まあ、あんたは妖精にしては見込みがあるかもね」
阿求は自分の威厳を示すかのように腕を組みながらも、目を伏せて笑みを隠した。
そんな休み時間の談笑中、棟梁の息子がふと、素朴な疑問を口にする。
「ところで、稗田が生徒の側で授業を受けるのって超珍しくないか?」
「そうねー、いつもは教科書を作ったりする側でしょ」
阿求は視線を同級生から少しそらして答える。
「えっ……、それは、まあ、教科書の内容が正しく伝えられているか確認するためよ」
「でも阿求ちゃん、ちょっと間違ってたよ、先生も阿求ちゃんも」
阿求は顔面蒼白になった。
「ど、どこが?」
「だって、慧音先生は鞄(かばん)と靴(くつ)の読みを間違えてたし、阿求ちゃんも古事記が編纂されたのを古墳時代って答えていたし……」
「えっ、古墳時代のはずよ、なにしろ私が編纂に関わったんだから間違いないわ」
花屋の娘は教科書を阿求に見せた。
「本当だ、なんで自分の関わった書物の年代を間違えたんだろう?」
「先生も稗田も、頭の使いすぎで疲れてんじゃねえのか?」
その日の放課後、チルノがやたら頭が良くなったという噂が流れた。
阿求は危険を顧みず、特濃の霧が紅魔館を囲む湖付近まで言ってチルノに会い、知識を確認した。サニーも一緒に行くと言ったが、阿求は首を縦に振らなかった。
「ねえ、私が編纂した本に『古事記』と言うのがあるんだけど、いつの時代か知ってますか?」
「知ってる、奈良時代、あんたがそらんじたのを太 安万侶(おおのやすまろ)っておっさんが書き写したんでしょ」
阿求は急いでチルノの答えを教科書と照合した。正解だった。
「それで、九九の8の段を言ってみてください」
「おーけー、はちいちがはち、はちにじゅうろく……はっくしちじゅうに」
「じゃ、じゃあ、原子番号28番の元素は?」
「ストロンチウム。花火の赤い色に使われてる」
「山部赤人が詠んだ、小倉百人一首の4番目の歌は?」
「田子の浦に、うち出でて見れば、白妙の、富士の高嶺に、雪は降りつつ」
「1453年にコンスタンティノープルを陥落させたオスマントルコのスルタンは誰?」
「メフメト2世」
「……全部当たっている!」 必死な形相で照合を終えて、阿求は絶句した。
「あたいは、この分野でも最強になるの! もうおバカじゃないよ」
姿を消してその場を見ていたサニーは、ただならぬ物を感じた。
(もしかして、紅魔の仕業か?)
次の日、慧音と阿求のみならず、他の大人や子供たちも、寺子屋で学んだ内容を忘れがちになった。
反面チルノの記憶力は変わらなかった。
それで慧音や阿求は知識と言うアイデンティティを奪われ、授業をやる気を無くしてしまった。
サニーはある日、偶然酒場に入り浸る二人の姿を見てしまう。
「慧音先生、阿求さん、こんなところで酔っ払ってちゃ生徒に示しがつかないと思いますが」
「私の記憶がダメダメになった。もう授業する資格がない、ヒック」
「あはは、妖精より頭が悪くなるようじゃおしまいですよぉ。」
二人にはもう知識人の面影はない。サニーは悲しんだ。
手掛かりを調べに里に出ると、ある焼き芋の屋台が最近繁盛しているらしい。
経営しているのは紅い髪の女性で、聞くと阿求や慧音も常連だという、サニーも進められて一口試食してみたが、美味ではあるがそれほど病みつきになるほどには思えなかった。
頭がぼんやりするような気がして、試食の焼き芋を店主に返した。
「あら、妖精さんのお口には合わなかったようですねえ」
店主の含み笑いに違和感が残る。
夕方、宵闇に消えていく屋台を、サニーミルクは姿を消して追いかける。
「ふふふ、この忘却イモで里の住人、特に白沢や阿礼乙女の記憶力を奪い、代わりにこの頭脳イモでおバカおバカと呼ばれるチルノの記憶力を向上させ、二人のやる気を無くさせる。そうすれば妖怪退治の方法を覚えている者は消え、紅魔の支配は盤石となる。」
小悪魔は笑い、暗がりに広がる農地を空から眺めた。
魔法の森を開墾して作った畑で、里へ売りつけようとした食料もここで栽培したものだ。
眼下には召喚された使い魔達と、彼らに農法を指導している中年の男がいた。
彼女は彼の前に降り立ち、作業状況の報告を聞く。
「……それから稗田殿、忘却イモと頭脳イモの質は上々でしたよ」
「ありがとうございます、小悪魔様」
稗田と呼ばれた男は深々と頭を下げた。
「それにしても、稗田の一族は代々妖怪退治の技術を伝えてきたはず。よく我々に協力する気になりましたねえ」
「私は短命な娘が不憫でならないのです、父親として、娘には一族の使命より自分の幸せを掴んで欲しいのです」
「娘に恨まれるとしても?」
「構いません、娘に元気で長生きしてほしいと思わない父親がいますか? そのためには、例え悪魔に魂を売ろうとも……」
「もう何も言いません、人間の親子愛、感動しました」
「成功の暁には、娘の吸血鬼化をお願いします」
「まあ、せいぜい気張る事ですね、老いも病もない国へ行きたいのなら」
姿を消す能力で、サニーはその場をしっかりと見ていた。
「やはり紅魔の仕業だったのか」
「誰?」
「あっ、口に出しちゃった」
「げっ、この前の妖精」
サニーは姿を現し、小悪魔の前に立つ。
「人妖の……えっと、ぱわーばらんすをどうこうしようとする貴方たちの悪だくみ、許さないわ」
「今度は前のようにはいかなくてよ」
小悪魔が至近距離で弾幕を放つ、だがその軌道は依然と変わらなかった。
サニーはジャンプしながら体を一回転させ、小悪魔の背後を取り、蹴りを入れながら光の弾幕をまき散らす。
「負けるもんですか」
小悪魔がクナイを手に持ち、サニーに切りかかる。
サニーはそれを避けたが、小悪魔はその動作を後ろ回し蹴りに変える。
サニーは蹴りを左肘でブロックし、右手で凝縮した太陽光線……かつて光り苔に当てたものよりずっと強い……を小悪魔に照射した。
「熱っ、服が焦げた、よくも!」
「お仕置きサニーキック!」 サニーが助走をつけようとしたその時。
「待て」
何者かがバールのようなものでサニーの後頭部を殴った。
威力はそれほどでもなかったが、すかさずサニーの腋の下に手を伸ばし、羽交い絞めにした。
先ほどの中年の男性、阿求の父親だった。
「娘の邪魔はさせない」
「あんた、阿求さんのお父さんでしょ、娘をパーにして何が楽しいの?」
「楽しくなんかないさ、でもな、協力すれば娘に永遠の命を与える、レミリア様がそう約束して下さったのだ!」
「みんなが紅魔館の奴隷になってもいいの? それに、典型的な用済みになれば消されるフラグじゃない!」
「死んでもすぐ生き返るお前ら妖精には分かるまい。しかも、娘は他人と比べてわずかしか生きられないのだ」
「な……」サニーは絶句した。
「稗田殿、よくやりました、そこを動かないで」
小悪魔が大玉を撃った。サニーは咄嗟にしゃがんで上半身を折り曲げ、阿求の父親を前方へ投げ飛ばす格好になる。
「あ、いけね!」
「ぐはっ」
大玉が阿求の父親の直撃してしまう。
そこへ、松明の光の群れが近づいてくる。先頭には慧音と阿求、里の人々が異変に気付いたらしい。
「ここでイモを栽培していたのか」
「お父さん、しっかりして!」
阿求が倒れた父親に走りより、抱きかかえる。父親は苦しげな息遣いで娘に応えた。
「阿求、心配掛けてすまなかったね、お前を阿礼乙女の宿命から解放してやりたかったんだ」
「お父さん、これは大切な私の役目、そんな事してくれなくても良かったのよ」
「でも、お前には長生きしてほしかったんだ、レミリア様はお前を吸血鬼化してくれると言っていた」
「そんな、人間を辞めてまで長生きなんかしたくない、だからこんな事はもうやめて」
「親のエゴだと思うかもしれないが、私はそうせずにいられなかったんだ、分かっておくれ」
阿求は小悪魔の方を睨みつけた、小悪魔は両手のひらを振っておどけた調子で弁解した。
「おっとっと、父上をそんな風にしたのは私じゃありません、そこの妖精さんですよお」
「本当なの、サニー?」
「結果的に、私がお父さんを傷つけたも同然だわ」
「おお、妖精こわいこわい」
小悪魔は芝居がかったセリフとともに夜の闇へ消えた。
「サニー、どうしてなの? これしか方法はなかったの? あんたは比較的マシに思ったのに!」
サニーは何も答えず、顔を伏せるのみ。
「阿求どの、これにはきっと事情がある、まず話を聞こう」
「やっぱ妖精とは仲良くなれない、里から出てって! 今度会ったら鬱憤晴らしじゃ済まさないから」
サニーに喰ってかかろうとする阿求を、慧音は必死にひきとめていた……。
次の日、
記憶を取り戻すため、阿求と慧音が必死に教科書の内容を学びなおしていた。
二人は生徒用のいすに座り、妹紅に教師の代役を頼んでおいた。
羞恥心を捨てて、子供たちとともに教科書の内容を音読する。
「……秋姉妹、隣は何をする神ぞ」
「ちがう、秋深し、隣は何をする人ぞ、だよ慧音」
「……で、古事記が編纂されたのは……奈良時代?」
「正解だ」
「良かったあ」
たまにはこうやって生徒になるのも悪くない、と思う二人であった。
阿求の父は順調に快方に向かっていた。
だがサニーミルクはあの夜の後、姿を見せていない。
寂しがる子供もいた、阿求も少し言いすぎたかと思う。
「ん?」
ふと慧音は気配を感じて、窓の方に目を向けた。
妖精が覗いているような感じがしたからだ。
でも何も見えない、そんな慧音を妹紅が注意する。
「慧音、何見てんだ?」
「いや、なんでもない」
「じゃあ、次のページ、慧音、読んでくれ」
「はい」
それでも、確かに妖精の視線を感じたのだ。
サニーミルクは異変を解決する妖精である。
そのサニーが、またしても紅魔のはた迷惑な野望を打ち砕いた。
いつか人とも仲良くできる日を信じて、彼女は戦う。
がんばれ、サニーミルクBlack。
門を超えろ 図書館抜けろ 月と星のため
君は見たか サニーが真っ赤に燃えるのを
紅い霧の奥で 危険な罠が待つ
信じる奴が 自機キャラ
真実の絆
悪戯仕掛ける事が 私のファンタジー
生きる事って素敵さ 幻想残る郷
時を超えろ 悪魔祓え この郷のため
スペル放ち 弾をかわし 友を取り戻せ
サニーミルク BLACK
サニーミルク BLACK
サニーミルクの仲間を攫い、その能力を使ってはた迷惑な異変を起こす、紅魔館の主レミリア=スカーレット。
サニーは仲間を救い異変を解決するべく紅魔館への侵入を試みるが、館は巫女でも近づけない程の濃い霧に覆われていた。
サニーは紅魔館へ入る術を探すため、とりあえず人里で情報を集めようとする。
「小悪魔が妖精にやられたの?」
「申し訳ありません、お嬢様、売り物の食料も回収できませんでした」
紅魔館のレミリアの自室。
サニーミルクBlackに負けて帰ってきた小悪魔は、緊張した表情で報告した。
椅子に足を組んで座るレミリアは顔色一つ変えずに聞いている。
小悪魔は彼女の顔を直視できないでいた。
「まあいいわ、確か、並行して進めている作戦があったわね、それに全力を尽くしなさい」
「ありがとうございます、こちらは必ずや成功させてご覧に入れます」
小悪魔はそそくさと退出した。
レミリアは肘かけに頬杖をつくと、メイド長の咲夜を呼んだ。
「咲夜、紅茶をお願い」
「お呼びでしょうか」 咲夜が一瞬で紅茶を準備した状態で現れた。
「咲夜、もう大丈夫なの」
「はい、見苦しいところを見せてしましました」
レミリアはカップを手に取り、一口すする。
「いいのよ貴方が元気なら。それより、小悪魔をボコボコにした奴の事は知ってる?」
「はい、噂話によると、黒い服を着た妖精で、Blackサニーとか、サニーミルクBlackと呼ばれているそうです」
「もう私に楯突く奴はいないかと思ったけれど、楽しめそうね、まあ、人間でないのが少し残念だけど」
レミリアは微笑み、まだ見ぬ挑戦者に思いを巡らせた。
サニーミルクは人間を装う事をしなくても、小川で遊んでいた三人の子供たちと仲良くなった。
一緒に弾幕ごっこはできなくても、大人たちへの悪戯を教えたり、一緒に実践してみて怒られたりした。
「しげる君見っけ」
「あははは、サニーはかくれんぼ強いなあ」
「見たか、私はかくれんぼの天才よ」 サニーは腰に手を当てて、背を反らす。
「サニーすごいな、ごめんね、今まで妖精だと思って馬鹿にしていたよ」
「それより今度は何して遊ぶ?」
「次ルナチャイルドが転んだやろうよ」
(ルナ……そうだ、私はこんな事をしてる場合じゃないんだ)
「どうしたの、サニー?」
「うん、ちょっとね、今日はもう帰るわ、ありがとう」
本来の目標を忘れてないけないと自戒する頃、三人から寺子屋の事を教えられた。
「明日、サニーも慧音先生のところで勉強教えてもらったらどう」
「そうしなよ、きっと面白いよ、時々眠いけど」
サニーは子供たちの事が気にいったので、慧音先生とやらにも会ってみようと思った。
かなりの知識人妖怪らしいので、もしかしたら二人を助ける手段もあるかもしれない。
次の日、白沢が教師を務める寺子屋へ行った。
しかし、子供たちの人数が少ない、どうも様子がおかしいようだった。
「新入生のサニーミルクですっ」
「よろしく、君は妖精かい?」
「はい、ダメでしょうか?」
「慧音先生、妖精は勉強しなくても死なないので教える必要は無いと思いますが」
黄色と黄緑と赤の服を着た少女が、サニーの授業参加に苦言を呈した。
「阿求、学ぶ意欲に種族の差はないぞ」慧音はやんわりと阿求と呼ばれた少女を諭した。
「サニーミルク、悪かったな、それでは授業を始めるぞ」
授業はサニーにはすぐに理解できない事ばかりだったが、慧音がその都度丁寧に教えてくれた。サニーは少しずつだが増えていく自分の知識に感動を覚えた。
「ねえ、阿求ちゃん、なんで妖精が嫌いなの?」
サニーは休み時間の合間に、隣の席の花屋の娘に尋ねてみる。あの子に悪戯を仕掛けた記憶はないが。
「太陽の丘で妖精にからかわれたんだって」
「ちょっと、それは内緒にしてって言ったでしょ!」 阿求が少女に喰ってかかる。
「それがトラウマになって……」
「サニーミルク、授業が済んだらさっさと人里から出なさい、さもないと貴方で鬱憤を晴らすわよ」
「でた、阿求ちゃんの妖精鬱憤晴らし」花屋の娘が笑う。
「あの、妖精で鬱憤を晴らすって何?」
「うふふ、サニーミルクは聞かない方がいいわよ」
それでも、サニーは屈託ない目で阿求の方を見た。
「でも、寺子屋って意外と面白いね、だんだん知識が増えて、馬鹿じゃなくなっていく感じ」
「阿求ちゃん、サニーとも仲良くできない?」
「ま、まあ、あんたは妖精にしては見込みがあるかもね」
阿求は自分の威厳を示すかのように腕を組みながらも、目を伏せて笑みを隠した。
そんな休み時間の談笑中、棟梁の息子がふと、素朴な疑問を口にする。
「ところで、稗田が生徒の側で授業を受けるのって超珍しくないか?」
「そうねー、いつもは教科書を作ったりする側でしょ」
阿求は視線を同級生から少しそらして答える。
「えっ……、それは、まあ、教科書の内容が正しく伝えられているか確認するためよ」
「でも阿求ちゃん、ちょっと間違ってたよ、先生も阿求ちゃんも」
阿求は顔面蒼白になった。
「ど、どこが?」
「だって、慧音先生は鞄(かばん)と靴(くつ)の読みを間違えてたし、阿求ちゃんも古事記が編纂されたのを古墳時代って答えていたし……」
「えっ、古墳時代のはずよ、なにしろ私が編纂に関わったんだから間違いないわ」
花屋の娘は教科書を阿求に見せた。
「本当だ、なんで自分の関わった書物の年代を間違えたんだろう?」
「先生も稗田も、頭の使いすぎで疲れてんじゃねえのか?」
その日の放課後、チルノがやたら頭が良くなったという噂が流れた。
阿求は危険を顧みず、特濃の霧が紅魔館を囲む湖付近まで言ってチルノに会い、知識を確認した。サニーも一緒に行くと言ったが、阿求は首を縦に振らなかった。
「ねえ、私が編纂した本に『古事記』と言うのがあるんだけど、いつの時代か知ってますか?」
「知ってる、奈良時代、あんたがそらんじたのを太 安万侶(おおのやすまろ)っておっさんが書き写したんでしょ」
阿求は急いでチルノの答えを教科書と照合した。正解だった。
「それで、九九の8の段を言ってみてください」
「おーけー、はちいちがはち、はちにじゅうろく……はっくしちじゅうに」
「じゃ、じゃあ、原子番号28番の元素は?」
「ストロンチウム。花火の赤い色に使われてる」
「山部赤人が詠んだ、小倉百人一首の4番目の歌は?」
「田子の浦に、うち出でて見れば、白妙の、富士の高嶺に、雪は降りつつ」
「1453年にコンスタンティノープルを陥落させたオスマントルコのスルタンは誰?」
「メフメト2世」
「……全部当たっている!」 必死な形相で照合を終えて、阿求は絶句した。
「あたいは、この分野でも最強になるの! もうおバカじゃないよ」
姿を消してその場を見ていたサニーは、ただならぬ物を感じた。
(もしかして、紅魔の仕業か?)
次の日、慧音と阿求のみならず、他の大人や子供たちも、寺子屋で学んだ内容を忘れがちになった。
反面チルノの記憶力は変わらなかった。
それで慧音や阿求は知識と言うアイデンティティを奪われ、授業をやる気を無くしてしまった。
サニーはある日、偶然酒場に入り浸る二人の姿を見てしまう。
「慧音先生、阿求さん、こんなところで酔っ払ってちゃ生徒に示しがつかないと思いますが」
「私の記憶がダメダメになった。もう授業する資格がない、ヒック」
「あはは、妖精より頭が悪くなるようじゃおしまいですよぉ。」
二人にはもう知識人の面影はない。サニーは悲しんだ。
手掛かりを調べに里に出ると、ある焼き芋の屋台が最近繁盛しているらしい。
経営しているのは紅い髪の女性で、聞くと阿求や慧音も常連だという、サニーも進められて一口試食してみたが、美味ではあるがそれほど病みつきになるほどには思えなかった。
頭がぼんやりするような気がして、試食の焼き芋を店主に返した。
「あら、妖精さんのお口には合わなかったようですねえ」
店主の含み笑いに違和感が残る。
夕方、宵闇に消えていく屋台を、サニーミルクは姿を消して追いかける。
「ふふふ、この忘却イモで里の住人、特に白沢や阿礼乙女の記憶力を奪い、代わりにこの頭脳イモでおバカおバカと呼ばれるチルノの記憶力を向上させ、二人のやる気を無くさせる。そうすれば妖怪退治の方法を覚えている者は消え、紅魔の支配は盤石となる。」
小悪魔は笑い、暗がりに広がる農地を空から眺めた。
魔法の森を開墾して作った畑で、里へ売りつけようとした食料もここで栽培したものだ。
眼下には召喚された使い魔達と、彼らに農法を指導している中年の男がいた。
彼女は彼の前に降り立ち、作業状況の報告を聞く。
「……それから稗田殿、忘却イモと頭脳イモの質は上々でしたよ」
「ありがとうございます、小悪魔様」
稗田と呼ばれた男は深々と頭を下げた。
「それにしても、稗田の一族は代々妖怪退治の技術を伝えてきたはず。よく我々に協力する気になりましたねえ」
「私は短命な娘が不憫でならないのです、父親として、娘には一族の使命より自分の幸せを掴んで欲しいのです」
「娘に恨まれるとしても?」
「構いません、娘に元気で長生きしてほしいと思わない父親がいますか? そのためには、例え悪魔に魂を売ろうとも……」
「もう何も言いません、人間の親子愛、感動しました」
「成功の暁には、娘の吸血鬼化をお願いします」
「まあ、せいぜい気張る事ですね、老いも病もない国へ行きたいのなら」
姿を消す能力で、サニーはその場をしっかりと見ていた。
「やはり紅魔の仕業だったのか」
「誰?」
「あっ、口に出しちゃった」
「げっ、この前の妖精」
サニーは姿を現し、小悪魔の前に立つ。
「人妖の……えっと、ぱわーばらんすをどうこうしようとする貴方たちの悪だくみ、許さないわ」
「今度は前のようにはいかなくてよ」
小悪魔が至近距離で弾幕を放つ、だがその軌道は依然と変わらなかった。
サニーはジャンプしながら体を一回転させ、小悪魔の背後を取り、蹴りを入れながら光の弾幕をまき散らす。
「負けるもんですか」
小悪魔がクナイを手に持ち、サニーに切りかかる。
サニーはそれを避けたが、小悪魔はその動作を後ろ回し蹴りに変える。
サニーは蹴りを左肘でブロックし、右手で凝縮した太陽光線……かつて光り苔に当てたものよりずっと強い……を小悪魔に照射した。
「熱っ、服が焦げた、よくも!」
「お仕置きサニーキック!」 サニーが助走をつけようとしたその時。
「待て」
何者かがバールのようなものでサニーの後頭部を殴った。
威力はそれほどでもなかったが、すかさずサニーの腋の下に手を伸ばし、羽交い絞めにした。
先ほどの中年の男性、阿求の父親だった。
「娘の邪魔はさせない」
「あんた、阿求さんのお父さんでしょ、娘をパーにして何が楽しいの?」
「楽しくなんかないさ、でもな、協力すれば娘に永遠の命を与える、レミリア様がそう約束して下さったのだ!」
「みんなが紅魔館の奴隷になってもいいの? それに、典型的な用済みになれば消されるフラグじゃない!」
「死んでもすぐ生き返るお前ら妖精には分かるまい。しかも、娘は他人と比べてわずかしか生きられないのだ」
「な……」サニーは絶句した。
「稗田殿、よくやりました、そこを動かないで」
小悪魔が大玉を撃った。サニーは咄嗟にしゃがんで上半身を折り曲げ、阿求の父親を前方へ投げ飛ばす格好になる。
「あ、いけね!」
「ぐはっ」
大玉が阿求の父親の直撃してしまう。
そこへ、松明の光の群れが近づいてくる。先頭には慧音と阿求、里の人々が異変に気付いたらしい。
「ここでイモを栽培していたのか」
「お父さん、しっかりして!」
阿求が倒れた父親に走りより、抱きかかえる。父親は苦しげな息遣いで娘に応えた。
「阿求、心配掛けてすまなかったね、お前を阿礼乙女の宿命から解放してやりたかったんだ」
「お父さん、これは大切な私の役目、そんな事してくれなくても良かったのよ」
「でも、お前には長生きしてほしかったんだ、レミリア様はお前を吸血鬼化してくれると言っていた」
「そんな、人間を辞めてまで長生きなんかしたくない、だからこんな事はもうやめて」
「親のエゴだと思うかもしれないが、私はそうせずにいられなかったんだ、分かっておくれ」
阿求は小悪魔の方を睨みつけた、小悪魔は両手のひらを振っておどけた調子で弁解した。
「おっとっと、父上をそんな風にしたのは私じゃありません、そこの妖精さんですよお」
「本当なの、サニー?」
「結果的に、私がお父さんを傷つけたも同然だわ」
「おお、妖精こわいこわい」
小悪魔は芝居がかったセリフとともに夜の闇へ消えた。
「サニー、どうしてなの? これしか方法はなかったの? あんたは比較的マシに思ったのに!」
サニーは何も答えず、顔を伏せるのみ。
「阿求どの、これにはきっと事情がある、まず話を聞こう」
「やっぱ妖精とは仲良くなれない、里から出てって! 今度会ったら鬱憤晴らしじゃ済まさないから」
サニーに喰ってかかろうとする阿求を、慧音は必死にひきとめていた……。
次の日、
記憶を取り戻すため、阿求と慧音が必死に教科書の内容を学びなおしていた。
二人は生徒用のいすに座り、妹紅に教師の代役を頼んでおいた。
羞恥心を捨てて、子供たちとともに教科書の内容を音読する。
「……秋姉妹、隣は何をする神ぞ」
「ちがう、秋深し、隣は何をする人ぞ、だよ慧音」
「……で、古事記が編纂されたのは……奈良時代?」
「正解だ」
「良かったあ」
たまにはこうやって生徒になるのも悪くない、と思う二人であった。
阿求の父は順調に快方に向かっていた。
だがサニーミルクはあの夜の後、姿を見せていない。
寂しがる子供もいた、阿求も少し言いすぎたかと思う。
「ん?」
ふと慧音は気配を感じて、窓の方に目を向けた。
妖精が覗いているような感じがしたからだ。
でも何も見えない、そんな慧音を妹紅が注意する。
「慧音、何見てんだ?」
「いや、なんでもない」
「じゃあ、次のページ、慧音、読んでくれ」
「はい」
それでも、確かに妖精の視線を感じたのだ。
サニーミルクは異変を解決する妖精である。
そのサニーが、またしても紅魔のはた迷惑な野望を打ち砕いた。
いつか人とも仲良くできる日を信じて、彼女は戦う。
がんばれ、サニーミルクBlack。
キャラを中心とした淡々とした展開が仮面ライダー的ですね
このままエピソードを重ねたらかなりの長編になりそうな予感
楽しみなのでテレビ放映並みの連載回数を期待します