「メリー。ちゅ~」
「ひ、ぇ!?」
◇ ◇ ◇
私の名前はマエリベリー・ハーン。この冥い街でオカルトサークルをやっているわ。いわゆる、ふつーのオカルトサークルって、UFOと交信を試みたり、UMAを捜索したり、黒ミサをやったりするものらしいけど、粋な部長の計らいでそんな霊能活動は一切行っていないの。サークルの名前は秘封倶楽部、部長曰く、「世界に封じられた秘密を暴く」からだと言うけれど、暴くが入ってないじゃないの。全く、いい加減なんだから、蓮子は。
蓮子って言うのは秘封倶楽部の部長、宇佐見蓮子。そして私、マエリベリー・ハーン、蓮子はメリーって呼ぶけれど。部員はたった2人だけの、零細、弱小サークルなのよ。たった2人、とは言うけれど、実は私たち2人はとんでもない秘密を持っているわ。星と月を見上げれば、正確な時刻と場所を識ることのできる蓮子。そして結界のほつれを視ることができる私。私たちの目があれば、本当にどんな秘密だって暴けてしまうわ。少数精鋭ってヤツね。
けれど、夜な夜な冥い街を彷徨う私たちは、反面、昼間は対して活動をしていないのでした。
「暑いわね……」
夏と言えば、キラキラと輝く汗、真っ白に輝く太陽、白銀のビーチ。暑さがいかにも青春っ! ってイメージなんだけど、日本の夏、京都の夏はそんな爽やかさとは一切無縁でした。それでも、ほんの少しでも期待を持っていた私が馬鹿だったわ。ジメジメとしててネットリとしてて、肌に絡みつくような熱気、汗は乾かないし、風も吹かない。あーもー、考えただけで暑くなってくるわ。
「蓮子……。昔の人はどうやってこの暑さを凌いだのかしらね」
「メリーも脱げばいいと思うわ」
蓮子は衣服という衣服を脱ぎ捨て、下着だけの姿でごろんちょと寝転がっている。ここは蓮子の部屋。自分の部屋なのだから、恥じらい、なんて言葉とは無縁なのでした。私たちが気兼ねをしない程度の仲だということを物語っているのだけど、更年期を過ぎた夫婦のような、変な錯覚に陥りそうになってしまうわ。ちなみに、私は脱ぎません。
「後は……そうね。涼を想うのよ」
「涼を想う、ねぇ」
「ホラ、窓の外に風鈴吊るしてあるじゃない? アレがチリン、って鳴るたびに、ああ、爽やかだ。生きてるって素晴らしいってね」
「風鈴が鳴る程度の風さえ吹かないのはどうかと思うの」
「あははは」
蓮子は起き上がってテーブルに頬杖をつくと私を見つめたわ。正座してて座高がやや高くなってる私の位置からだと丸見えよ、色々と。畳の目の跡がついている腕は、やっぱり汗だくだったわ。我慢大会じゃあるまいし。
「変に西洋被れしてるからいけないのよ、メリーは。そのクセみょんなトコロは日本人なんだから。正座してると蒸れない?」
「そりゃ、私は元々海の向こうの生まれだから仕様が無いじゃない。……蒸れますわ」
私は足を崩す。正直言うと、ちょっぴり痺れてたの。私は、前々からあたためていたある提案をこの部屋の主に持ちかけたわ。あたためていた、なんていうと暑苦しいけれども。
「ねぇ、蓮子。エアコン買わな――」
「ダメ!!」
がーん、秒殺。
「エアコン購入というのは秘封倶楽部の結成と同じくらい重要なモノよ。一時的な涼しさと引き換えに外に熱気を吐き出すのよ? カルネアデスの船板と同じよ。言わば切り札。いいえ、人類最後の砦! 大体、あんなもの維持費はかかるわ、電気代はかかるわ、拝観料はかかるわで大変よ」
蓮子。拝観料はかからないわよ。
「とにかく! 他の方法で涼しくなる努力をするのよ。夜まで! 凌ぐ! 暑さを!」
なんだか蓮子の気迫が暑苦しいわ。
「ふぇ~……」
私はテーブルに突っ伏して大きくため息。髪の毛がべたべたする。
「そうそう、涼しくなる方法にさ、ちょっと昔の話なんだけど」
「なによう、今すぐ教えなさいよ、蓮子。そして我に涼をー」
「ほんの数千年前、裕福な支配者層が奴隷を侍らせてた時代」
「いきなりスケールが大きいわねぇ。奴隷に扇がせてたって言う話?」
「ううん。ホラ、気温より体温の方が低いからさ」
「……蓮子、貴女まさか!」
「まさかなのだー!!」
テーブルに突っ伏していた私の背中に蓮子が抱きついてきた。汗ばむ蓮子の肌がぬるぬると滑って気持ち悪いし、なによりも蓮子は体温が私よりも高いから一方的に涼しい思いをしてるはず。なんてずるい子。
「めりー、つべたいー、やらかいー、良い匂いするー」
「私はっ! 暑苦しいわよう!」
むにーっと蓮子がほお擦りをする。顔にかかる吐息が灼熱のよう。
「ふー」
「耳はやめてぇ!」
蓮子に吹きかけられた右耳がぼわぼわする。
「いい加減やめてよう!」
抵抗すると悪ノリしていた蓮子はしゅんとなり、離れる。蓮子のことは嫌いじゃないのだけれど、こういうときだけはちょっぴり本気になってしまう私。まだまだ子供よね。
「ご、ごめんメリー」
「……っもう!」
「機嫌治してよ、ホラ。団扇で扇いだけるから」
「知らない」
「ごめんってばぁ。もう耳はやんないわ」
「耳だけ?」
「耳だけ」
「……」
「あっ、ちょ、ちょっと。わかったわよ! じゃあとっておきのとっておき!」
「何よ」
蓮子はニヤッと笑ってたわ。回想はココまで。
◇ ◇ ◇
「メリー。ちゅ~」
「ひ、ぇ!? ち、ちちちち、ちゅー?」
「ちゅー」
ちゅーって、あのちゅーよね? キッスよね、接吻よね? フレンチ? ディープ? そそそ、そんな。私たち女の子同士だし、ゆくゆくはそういう関係になるかもしれないこともないけれど。実家に挨拶しに行く間柄になることも無くは無いと思うんだけど。機嫌治してってだけで簡単に唇を許してしまって良いのマエリベリー? いや、でも蓮子だし、蓮子の唇だし。……ええい、どうにでもなれマエリベリー・ハーン。蓮子と一緒ならどこまでも。行き着くところまで行くまでだわ!
「じゃあ、メリー。目を閉じて」
「ん……」
私は静かに瞼を閉じて軽く顎を上げたわ。
Chu!
初キスは、まるでオレンジ味。というかモロにオレンジ味。
「……つべたい」
「そりゃそうよ。溶けるわよ、チューペット」
「えぇ!?」
私の唇に触れたのは蓮子の唇……じゃなくてアイスだったわ。ああ、蓮子の言葉に凄く、すごくすごくドキドキした自分が馬鹿らしい。
乙女のトキメキを返しなさい!
「ん、チューブついてる方が良かった? はい」
蓮子は齧りかけたアイスを私のと交換したわ。……ああ、ほんとにもう。
「やっぱり暑い時にはアイスよ。チューペットよ。おいしーね」
ほんとにもう、蓮子ってば。
「……うん」
でも、ま、いっか。
いつの間にか部屋には夏風が吹き、チリン、と風鈴が鳴っていた。
「ひ、ぇ!?」
◇ ◇ ◇
私の名前はマエリベリー・ハーン。この冥い街でオカルトサークルをやっているわ。いわゆる、ふつーのオカルトサークルって、UFOと交信を試みたり、UMAを捜索したり、黒ミサをやったりするものらしいけど、粋な部長の計らいでそんな霊能活動は一切行っていないの。サークルの名前は秘封倶楽部、部長曰く、「世界に封じられた秘密を暴く」からだと言うけれど、暴くが入ってないじゃないの。全く、いい加減なんだから、蓮子は。
蓮子って言うのは秘封倶楽部の部長、宇佐見蓮子。そして私、マエリベリー・ハーン、蓮子はメリーって呼ぶけれど。部員はたった2人だけの、零細、弱小サークルなのよ。たった2人、とは言うけれど、実は私たち2人はとんでもない秘密を持っているわ。星と月を見上げれば、正確な時刻と場所を識ることのできる蓮子。そして結界のほつれを視ることができる私。私たちの目があれば、本当にどんな秘密だって暴けてしまうわ。少数精鋭ってヤツね。
けれど、夜な夜な冥い街を彷徨う私たちは、反面、昼間は対して活動をしていないのでした。
「暑いわね……」
夏と言えば、キラキラと輝く汗、真っ白に輝く太陽、白銀のビーチ。暑さがいかにも青春っ! ってイメージなんだけど、日本の夏、京都の夏はそんな爽やかさとは一切無縁でした。それでも、ほんの少しでも期待を持っていた私が馬鹿だったわ。ジメジメとしててネットリとしてて、肌に絡みつくような熱気、汗は乾かないし、風も吹かない。あーもー、考えただけで暑くなってくるわ。
「蓮子……。昔の人はどうやってこの暑さを凌いだのかしらね」
「メリーも脱げばいいと思うわ」
蓮子は衣服という衣服を脱ぎ捨て、下着だけの姿でごろんちょと寝転がっている。ここは蓮子の部屋。自分の部屋なのだから、恥じらい、なんて言葉とは無縁なのでした。私たちが気兼ねをしない程度の仲だということを物語っているのだけど、更年期を過ぎた夫婦のような、変な錯覚に陥りそうになってしまうわ。ちなみに、私は脱ぎません。
「後は……そうね。涼を想うのよ」
「涼を想う、ねぇ」
「ホラ、窓の外に風鈴吊るしてあるじゃない? アレがチリン、って鳴るたびに、ああ、爽やかだ。生きてるって素晴らしいってね」
「風鈴が鳴る程度の風さえ吹かないのはどうかと思うの」
「あははは」
蓮子は起き上がってテーブルに頬杖をつくと私を見つめたわ。正座してて座高がやや高くなってる私の位置からだと丸見えよ、色々と。畳の目の跡がついている腕は、やっぱり汗だくだったわ。我慢大会じゃあるまいし。
「変に西洋被れしてるからいけないのよ、メリーは。そのクセみょんなトコロは日本人なんだから。正座してると蒸れない?」
「そりゃ、私は元々海の向こうの生まれだから仕様が無いじゃない。……蒸れますわ」
私は足を崩す。正直言うと、ちょっぴり痺れてたの。私は、前々からあたためていたある提案をこの部屋の主に持ちかけたわ。あたためていた、なんていうと暑苦しいけれども。
「ねぇ、蓮子。エアコン買わな――」
「ダメ!!」
がーん、秒殺。
「エアコン購入というのは秘封倶楽部の結成と同じくらい重要なモノよ。一時的な涼しさと引き換えに外に熱気を吐き出すのよ? カルネアデスの船板と同じよ。言わば切り札。いいえ、人類最後の砦! 大体、あんなもの維持費はかかるわ、電気代はかかるわ、拝観料はかかるわで大変よ」
蓮子。拝観料はかからないわよ。
「とにかく! 他の方法で涼しくなる努力をするのよ。夜まで! 凌ぐ! 暑さを!」
なんだか蓮子の気迫が暑苦しいわ。
「ふぇ~……」
私はテーブルに突っ伏して大きくため息。髪の毛がべたべたする。
「そうそう、涼しくなる方法にさ、ちょっと昔の話なんだけど」
「なによう、今すぐ教えなさいよ、蓮子。そして我に涼をー」
「ほんの数千年前、裕福な支配者層が奴隷を侍らせてた時代」
「いきなりスケールが大きいわねぇ。奴隷に扇がせてたって言う話?」
「ううん。ホラ、気温より体温の方が低いからさ」
「……蓮子、貴女まさか!」
「まさかなのだー!!」
テーブルに突っ伏していた私の背中に蓮子が抱きついてきた。汗ばむ蓮子の肌がぬるぬると滑って気持ち悪いし、なによりも蓮子は体温が私よりも高いから一方的に涼しい思いをしてるはず。なんてずるい子。
「めりー、つべたいー、やらかいー、良い匂いするー」
「私はっ! 暑苦しいわよう!」
むにーっと蓮子がほお擦りをする。顔にかかる吐息が灼熱のよう。
「ふー」
「耳はやめてぇ!」
蓮子に吹きかけられた右耳がぼわぼわする。
「いい加減やめてよう!」
抵抗すると悪ノリしていた蓮子はしゅんとなり、離れる。蓮子のことは嫌いじゃないのだけれど、こういうときだけはちょっぴり本気になってしまう私。まだまだ子供よね。
「ご、ごめんメリー」
「……っもう!」
「機嫌治してよ、ホラ。団扇で扇いだけるから」
「知らない」
「ごめんってばぁ。もう耳はやんないわ」
「耳だけ?」
「耳だけ」
「……」
「あっ、ちょ、ちょっと。わかったわよ! じゃあとっておきのとっておき!」
「何よ」
蓮子はニヤッと笑ってたわ。回想はココまで。
◇ ◇ ◇
「メリー。ちゅ~」
「ひ、ぇ!? ち、ちちちち、ちゅー?」
「ちゅー」
ちゅーって、あのちゅーよね? キッスよね、接吻よね? フレンチ? ディープ? そそそ、そんな。私たち女の子同士だし、ゆくゆくはそういう関係になるかもしれないこともないけれど。実家に挨拶しに行く間柄になることも無くは無いと思うんだけど。機嫌治してってだけで簡単に唇を許してしまって良いのマエリベリー? いや、でも蓮子だし、蓮子の唇だし。……ええい、どうにでもなれマエリベリー・ハーン。蓮子と一緒ならどこまでも。行き着くところまで行くまでだわ!
「じゃあ、メリー。目を閉じて」
「ん……」
私は静かに瞼を閉じて軽く顎を上げたわ。
Chu!
初キスは、まるでオレンジ味。というかモロにオレンジ味。
「……つべたい」
「そりゃそうよ。溶けるわよ、チューペット」
「えぇ!?」
私の唇に触れたのは蓮子の唇……じゃなくてアイスだったわ。ああ、蓮子の言葉に凄く、すごくすごくドキドキした自分が馬鹿らしい。
乙女のトキメキを返しなさい!
「ん、チューブついてる方が良かった? はい」
蓮子は齧りかけたアイスを私のと交換したわ。……ああ、ほんとにもう。
「やっぱり暑い時にはアイスよ。チューペットよ。おいしーね」
ほんとにもう、蓮子ってば。
「……うん」
でも、ま、いっか。
いつの間にか部屋には夏風が吹き、チリン、と風鈴が鳴っていた。
蓮子とメリーにはちゅーちゅーしてほしいw
乙女なメリーもなかなか可愛くてグッド!
暑い日の二人の微笑ましい一時でした。
蓮子とメリーはもっとちゅーちゅーすべき
チューブついてる方が持つとき冷たくないですよね。
はやく実家に挨拶しに行く間柄になればいいと思うよ。