注意
・能力に少しだけ拡大解釈あり
・作者は未熟者
・訳あって分類には少ししか登場しないキャラも載せています
・作者は家庭科(裁縫)も歴史(昔の日用品)知識が乏しいので矛盾点があるかもしれません。先に謝らせて頂きます。
それでもよろしければお付き合いお願いします
「――――――というのが聖の目指すものであり、今我々命蓮寺のみんなはこのように行動しているのです」
「ふむ……里の者たちが随分興味を示していたから気にはなっていたのだが……一度白蓮殿には会ってみたいものだな」
「聖も慧音さんとは一度話してみたいと言っていましたし、皆もきっと歓迎してくれると思いますよ」
「なかなか忙しい身なのでいつ行けるかは約束できないがな」
「寺子屋の先生って大変そうですしね」
「だがやりがいのあるいい仕事さ。おや、お茶がなくなってしまったな。ちょっといれてくるから待っていてくれ。ついでにお茶菓子のおかわりも持ってくる」
「すいません、ありがとうございます」
待っている間少々失礼だとは思いつつも改めて部屋を見回してみる。やはり寺子屋の先生というだけあって自宅には多くの本があり、しかし綺麗に片付いており落ち着いた雰囲気の部屋だった。不意に玄関の戸を叩く音が聞こえた。
「すまないが出てくれないか」
「わかりました」
玄関まで行って扉を開けると私の見知った人物がいた。
「……何をやってるんだいご主人」
「待ってましたよナズーリン!きっと来てくれると信じていました!」
「そりゃあ『ちょっと散歩に行ってくる』って言って二時間以上も帰ってこなければ普通は心配する人も出てくるだろう」
「心配かけてすいません……」
「いや、ぬえも言ってたが『どうせ迷子になってんじゃないの?星ってドジだし』っていうのが寺の皆の総意だったから特に誰も心配してないよ(そういった本人だけがどこか落ち着きがなかったが)」
「で、でもナズーリンは心配だったから来てくれたんですよね?」
「いや迷子のご主人が一人で寺まで帰れると思えなかったから探しに来ただけだよ」
「そ、そうですか……」
「ところでどうしてこんな所にいるんだい?」
「それはですねぇ……」
「おや?どうやら迎えの人物が来たようだね。ここで話すのもなんだし上がっていってはどうかな?」
「ふむ……では遠慮無く上がらせてもらおうか」
慧音さんの提案に従ってとりあえず居間でなぜ私が今慧音さんの家にいるのかをナズーリンに説明することにした。
「お昼すぎに命蓮寺をでて人里の方を散歩していると美味しそうなお団子屋さんがあったんですよ。そこでおだんごを3つほど食べたんですが……そのあと財布がないのに気づきまして……どうやら落としちゃったみたいなんですよ……」
「……続けて」
「すでに食べた後だったのでどうすることもできず、ここに連れてこられてしまったというわけです……」
「この手の妖怪相手の揉め事は私のところに回ってくることが多いんだ。妖怪と人間……普通の人里の人間だとどうしても力で上下関係があるからね」
「そこで慧音さんにお金を立て替えてもらって、迎えの人が来るまで待っていたというわけです……」
「……うちのご主人が迷惑をかけて本当にすまない」
「いや別に気にしてないが、今度からは気をつけてくれよ?」
「はい……すいません……」
◇◇
慧音先生にお金を返して人里をあとにしてしばらくするとご主人から申し訳なさそうに声をかけられた。
「すいませんでしたナズーリン……」
「ご主人のドジはいつものことだし別に気にしてないよ」
「……すまないついでに一つお願いしてもいいでしょうか?」
「なんだい?」
「探してほしいものがあるのですが……」
「……あぁ財布か、別に構わないよ」
「いやそうではなくて……この財布の持ち主を探してほしいんです」
そういってご主人は懐から財布を取り出した。
「……話が見えないんだが」
「お団子屋さんで自分の財布を探してる時に無意識に『財宝が集まる程度の能力』を使っちゃったみたいで……気がつくと……」
「……知らない財布が手元にあったということかい?」
「そういうことです……」
「だが財布ならさっき慧音先生に渡しておけば良かったんじゃないのかい?」
「財布の持ち主が人里に普段来る人物かはわからないですし、私の推測だとこの財布は普通の人間が持ち主ではないと思うんですよ」
ご主人の持っている財布はパッと見で分かることは少し小さめのがま口のタイプで落ち着いた色合いをしている。しかしおそらく子供用なのかだろう、可愛い動物……のようななにか(お世辞にも上手とはいえず何の動物なのかがわからない)が描かれている何の変哲もないものであった。縫い目の部分などから手作りであろうことは分かるがそれ以上は分からない。
「どうしてこれの持ち主が妖怪だと思うんだい?」
「妖怪とは限りませんが……この財布に使われている生地や糸って普通のものじゃないんですよ」
「……たしかになにか特殊なものを使っているようだね」
「このことから普通の人間が作っったとは考えにくいですし、妖怪やそれに類する者たちが作ってまわりまわって人間の手元にある可能性もあるとは思いますが……」
「まぁ自然に考えるなら今も妖怪の所有物であるだろうし、そうなるとたしかに人里からあまり出ることのない慧音先生に渡しても持ち主にかえってくるとは限らないというわけか」
「なのでナズーリンの能力で探してもらえると嬉しいんですが」
「……何か勘違いをしているのかもしれないが私の『探し物を探し当てる程度の能力』はあくまで野鼠を操って探し物を見つけるものだから、特徴を説明できるご主人の財布を探すことはできても野鼠に分からない財布の持ち主は探せないよ」
「そうですか……では私は少し持ち主を探してみますのでナズーリンは先に帰っていてください」
「いや一応私はご主人の部下なんだから付き合うよ」
「……ありがとうございます」
こうして拾った?財布の持ち主を探すためにいろいろな場所を回ることになったが……
「……とりあえず紅白と白黒、念の為にウサギのところは後回しにしようか」
「なぜです?」
「財布をとられたら困るだろう?」
「……ナズーリン、偏見で人を判断してはいけませんよ。まずは人を信じることが大事なのですよ」
「それはご主人の美点だと思うから別に変わる必要はないよ。だから疑うのは私の役目なのさ」
◇
「……まぁ、話は分かった」
「ではこの財布に見覚えはないですか?」
「見覚えはないな。というよりなんでここに一番最初に来たんだ?」
「てっきりレミリアさんが持ち主だと思ったんですが」
「……お前達が私をどういう風に見ているかよくわかったよ」
今私達は紅魔館にきている。ここに最初に行こうと言い出したのはご主人で、理由は今言ったとおりだ。そして案の定レミリア・スカーレットは機嫌を悪くしてしまった。だからあれほどやめようと言ったのに……。
「まぁね、見た目がこんなだし性格は子供っぽいってよく言われるけど、それでも私は500年以上生きてるわけよ。さすがにそんな子供っぽい財布は持ってないわよ。というかこの館で財布持ってるのなんて咲夜ぐらいだし」
「確かにお嬢様の言うとおりここで財布を持ってるのは私だけですね。ところでその財布、少し見せてもらってもよろしいですか?」
「はい、大丈夫ですよ」
ご主人がメイドに財布を渡すとメイドは財布をひと通り近くで眺める。
「この財布……随分と長い間大事にされているみたいですね」
「どうしてそんなことが分かるんだい?」
「随分変わった素材を使っているようですが、ところどころいたんでる部分があり、しかしその割には大きなキズなどはないように見えます。それに目立たないようにしてありますがいくつも修復した部分が見えます。しかも縫い方の癖から見てなおしたのは作った人とは違う人物なようですね。ですからおそらくこの財布をもらった人物は長い間自分でなおしながら使っていたんじゃないでしょうか?あくまで予想ですが」
「……ですがその予想がもし当たっていたら、持ち主にとってこれはとても大切なものなんでしょうね」
「…………」
「それになくして困っているだろうしね。急いで持ち主を探すとしようか。話を聞いてくれてありがとう、私達は急ぐからこれで失礼するよ」
手がかりは得られなかったが、この財布が思っていたより大事なものなのかもしれないことがわかったし、早く持ち主を探しに行くことにしよう。
「……咲夜」
「何でしょうかお嬢様?」
「私に少し縫い物を教えてくれないかしら?」
「……一応確認しますが何をお作りになるつもりですしょうか?」
「フランがいつか人里までいけるようになったら財布が必要になるかもしれないでしょ?」
「……きっとさっきの財布に負けないくらい大事にしてくれますよ」
「……ありがと」
◇
「ちょっと待っていてください、今幽々子様を呼んできますので」
「はい、おねがいします」
「……ちょっと待ってくれ、なんでここにしたんだい?」
「あの財布の持ち主の手がかりは『特殊な素材』『長い間使われている』『大事にされている』『持ち主は財布をなおせるくらいは裁縫ができる』ですからずばり幽々子さんかなと思ったんですよ」
「財布のデザインを思い出してくれ!明らかに子供用のデザインだったじゃないか!」
「あ……。だ、だったらナズーリンだって先に言ってくれたら良かったじゃないですか!」
「私はてっきり庭師のものだと思ってたんだよ……。だからわざわざここの主を呼ばなくてもいいと思ってたんだが」
「お待たせ~。立ち話も何だしどうぞ上がっていってくださいな」
話しているといつのまにか本人が来てしまったようだ。西行寺の姫君に連れられて客間まで来たが……さてどうするか。あの財布を見せて『あなたのですか?』と聞くのは流石に失礼な気がするし……西行寺の姫君を呼んでしまった時点で流れとしては少々不自然になってしまったが、庭師のほうに聞くことにするのがいいだろうか。
「さて何のようかしら?」
「今私たちはある財布の持ち主を探しているんですが、この財布は幽々子さんのものだったりしませんか?」
「……相変わらずご主人はストレートだな」
「あれ?これどこかで……」
「妖夢~、今朝里でおまんじゅう買ってきたでしょ?持ってきてくれるかしら~?」
「え……、あ、かしこなりました」
「さて……この財布はどこで手に入れたのかしら?」
……今の二人の反応からして、おそらくこの財布についてなにか知っているのだろう。だがそう簡単には教えてくれないようだし……どうするか……。
「恥ずかしながら色々あって私の『財宝が集まる程度の能力』を使ってしまって、その結果私の手元に来てしまったんですよ」
「……その能力を使えば例えば私の財布もとられちゃったりしたかもしれないのかしら?」
「私が集中して能力を使用すれば可能かもしれませんが……、少なくても今回は殆ど無意識だったので、多分元からどこかに落としていたものを集めたんだと思います」
「そうなの……。ありがとう、残念だけどここに持ち主はいないわ」
「……一ついいかい?」
「なにかしら?」
「あなたはこの財布の持ち主を知ってるようだが、誰か教えてくれないかい?」
「教えるだけじゃきっと意味は無いわよ?だから残念だけど教えるつもりはないわ」
「そうか……、ではこの財布を持ち主に返すよう頼むのはありかい?」
「それじゃあ罰にならないでしょ?大事なものを無くしちゃったのならちゃんと探させなくちゃいけないもの」
「ふむ……では私達はこのあと守矢神社に行く事にするよ」
「なら少しおみやげを渡すから待っていてちょうだい。それが食べ終わる頃には持ち主が見つかるだろうから」
そう言って庭師の持ってきたおまんじゅうの箱を渡された。とりあえず言った通り守矢神社に向かうことにしようか。
「良かったんですか、幽々子様?あのお財布は確か……」
「そうね~。妖夢、悪いんだけど少し言伝を頼めるかしら?」
◇
「あの、ナズーリン?話が読めないのですが……」
「うん?……あぁ、説明するよ」
今私たちは妖怪の山を抜けて守矢神社を目指しているところだ。もうすぐ目的地に到着するし、その前に説明しといたほうがいいだろう。
「姫君は『財布の持ち主を教えるだけじゃ無意味』といっただろう?ということは私達は持ち主の居場所、それどころか持ち主の存在を知らないかもしれないというわけだ。それなら探しても無駄だろう?だがあの姫君は持ち主とコンタクトを取れるようだったし『このお土産を守矢神社で食べ終わる頃には持ち主が見つかる』とも言っていた。つまり私達は彼女に居場所を教えて待っていればいいということだ」
「なるほど……でもなぜ守矢神社にしたんですか?命蓮寺で待っていてもいいと思うのですが」
「一応知らない人物の可能性があるから少し警戒をしたのさ。ここは二柱や天狗がいるからね、よっぽどの愚か者じゃなければここで騒ぎなんて起こさなだろう。それに……」
「……おや、たしかナズーリンさんと星さんですよね?守矢神社に何か御用ですか?」
「ここなら話し相手には困らないだろう?」
「あぁ、なるほど」
守矢神社に着いたのでとりあえず事情を話し、お土産のまんじゅうを開けることにする。聞いたところによると二柱は留守らしい。
「なるほど……お二人はこの財布の持ち主を探しているというわけですか」
「そうなんですよ、けど幽々子さんが待っていたらいいと言っていたのでもうほとんど解決してるんですけどね」
「ふむ……財布の中身は確認したんですか?」
「さすがにしてないよ、失礼かもしれないしね」
「ですけどこういうのって中身見たら持ち主が誰か分かるんじゃないですか?」
「うーん……たしかにそうかもしれませんねぇ……」
「というわけで開けちゃいます!」
そう言うと財布を開けたので皆で中を確認してみた。中にはそれなりに大金が入っている他に見慣れない人の顔が書かれた紙が入っていた。
「……何でしょうかこれは?」
「いやご主人、私に聞かれても困るよ。……残念だけどこれじゃあこの財布の持ち主はわからないね」
「……いや、私多分わかりましたよ?」
「え、わかったんですか!?」
「絶対じゃないですけどね?これをもっていてお二人が会えない人物……候補は2人いますが多分あちらでしょうね。……少々意外ではありますが」
「誰なんだい?」
「そうですねぇ……山を下りてみたら会えるんじゃないですか?幽々子さんも『おまんじゅうを食べ終わる頃には持ち主が見つかる』と言ってたようですし」
言われてみると確かにお土産のおまんじゅうはなくなってしまっていた。どこか釈然としないがここは言うとおりに山を下りるしかないだろう。
「じゃあお暇させていただくよ」
「はい、おまんじゅうありがとうございました。またぜひ来てください!」
◇
山を下りていくとそこには意外な人物が待っていた。
「……一応確認するがこの財布は」
「あぁ私のものだよ。どうやら仕事中に落としてしまったみたいでずっと探していたんだが……見つかってよかった、本当にありがとう」
「いやそれは構わないんだが……」
「ふむ……やはり意外かい?まぁ無理もないだろうがね、自分でも似合わないことは自覚しているんだけどね……」
そう言った九尾の狐、八雲の式は何かを思い出しているのだろうか、とても優しい眼をしていた。
「……ものを大事にするのはとても素晴らしいことだと思いますよ。恥ずべきところなんて全くありません」
「……そう言ってもらえると嬉しいよ」
その後少し話してから八雲の式は帰っていった。
「いやー、とはいえさすがに意外だったね。まさか持ち主が八雲の式だとは思わなかったよ」
「だから言ったじゃないですか、『偏見で人を判断したらいけません』って」
「……まぁ今回はご主人の言うとおりだったね」
「さて、持ち主も見つかりましたし……そろそろ命蓮寺に帰りましょうか」
「そうだね、けどその前に……」
私は懐からご主人が落としたた財布を取り出す。
「気をつけてくれとは言わないさ、いつも反省してその上でなくしてるんだから。でも私が愛想を尽かすまでに何とかしないと知らないよ?」
「……善処します」
◇◇
今朝財布を落としてしまったのに気づいた時は本当に焦ったものだ。なんたって昨日は結界の見回りのために幻想郷中を飛び回ったからあまりにも探す範囲が広すぎたのだ。だから昼ごろに妖夢が訪ねてきて守矢神社に行くように言ってくれた時はほっとしたものだ。本当に見つかってよかった。
「藍ー!晩ご飯まだー?」
「ちょっと待っててください、もうすぐ出来ますから」
「……なにかいいことでもあったの?えらく嬉しそうだけど」
「少し昔ことを思い出してましてね……。紫様は覚えていますか?あの狐の顔の書かれた財布のことを」
「……あぁ、そんなものもあったわねぇ。まだあれ大事にしてるの?」
「はい、紫様から初めて頂いた大事な宝物ですから」
「……ふーん」
「そういえばあの時私もお返しに紫様に財布を作ったんですよね……。初めて作ったものですからとても不恰好なものでしたが……あの財布ってまだありますか?」
「……さぁね?」
「……紫様らしいですね。……明日は橙をここに呼んでもいいですか?たまにはみんなで食事をしたいのですが」
「いいわよ」
「ありがとうございます」
・能力に少しだけ拡大解釈あり
・作者は未熟者
・訳あって分類には少ししか登場しないキャラも載せています
・作者は家庭科(裁縫)も歴史(昔の日用品)知識が乏しいので矛盾点があるかもしれません。先に謝らせて頂きます。
それでもよろしければお付き合いお願いします
「――――――というのが聖の目指すものであり、今我々命蓮寺のみんなはこのように行動しているのです」
「ふむ……里の者たちが随分興味を示していたから気にはなっていたのだが……一度白蓮殿には会ってみたいものだな」
「聖も慧音さんとは一度話してみたいと言っていましたし、皆もきっと歓迎してくれると思いますよ」
「なかなか忙しい身なのでいつ行けるかは約束できないがな」
「寺子屋の先生って大変そうですしね」
「だがやりがいのあるいい仕事さ。おや、お茶がなくなってしまったな。ちょっといれてくるから待っていてくれ。ついでにお茶菓子のおかわりも持ってくる」
「すいません、ありがとうございます」
待っている間少々失礼だとは思いつつも改めて部屋を見回してみる。やはり寺子屋の先生というだけあって自宅には多くの本があり、しかし綺麗に片付いており落ち着いた雰囲気の部屋だった。不意に玄関の戸を叩く音が聞こえた。
「すまないが出てくれないか」
「わかりました」
玄関まで行って扉を開けると私の見知った人物がいた。
「……何をやってるんだいご主人」
「待ってましたよナズーリン!きっと来てくれると信じていました!」
「そりゃあ『ちょっと散歩に行ってくる』って言って二時間以上も帰ってこなければ普通は心配する人も出てくるだろう」
「心配かけてすいません……」
「いや、ぬえも言ってたが『どうせ迷子になってんじゃないの?星ってドジだし』っていうのが寺の皆の総意だったから特に誰も心配してないよ(そういった本人だけがどこか落ち着きがなかったが)」
「で、でもナズーリンは心配だったから来てくれたんですよね?」
「いや迷子のご主人が一人で寺まで帰れると思えなかったから探しに来ただけだよ」
「そ、そうですか……」
「ところでどうしてこんな所にいるんだい?」
「それはですねぇ……」
「おや?どうやら迎えの人物が来たようだね。ここで話すのもなんだし上がっていってはどうかな?」
「ふむ……では遠慮無く上がらせてもらおうか」
慧音さんの提案に従ってとりあえず居間でなぜ私が今慧音さんの家にいるのかをナズーリンに説明することにした。
「お昼すぎに命蓮寺をでて人里の方を散歩していると美味しそうなお団子屋さんがあったんですよ。そこでおだんごを3つほど食べたんですが……そのあと財布がないのに気づきまして……どうやら落としちゃったみたいなんですよ……」
「……続けて」
「すでに食べた後だったのでどうすることもできず、ここに連れてこられてしまったというわけです……」
「この手の妖怪相手の揉め事は私のところに回ってくることが多いんだ。妖怪と人間……普通の人里の人間だとどうしても力で上下関係があるからね」
「そこで慧音さんにお金を立て替えてもらって、迎えの人が来るまで待っていたというわけです……」
「……うちのご主人が迷惑をかけて本当にすまない」
「いや別に気にしてないが、今度からは気をつけてくれよ?」
「はい……すいません……」
◇◇
慧音先生にお金を返して人里をあとにしてしばらくするとご主人から申し訳なさそうに声をかけられた。
「すいませんでしたナズーリン……」
「ご主人のドジはいつものことだし別に気にしてないよ」
「……すまないついでに一つお願いしてもいいでしょうか?」
「なんだい?」
「探してほしいものがあるのですが……」
「……あぁ財布か、別に構わないよ」
「いやそうではなくて……この財布の持ち主を探してほしいんです」
そういってご主人は懐から財布を取り出した。
「……話が見えないんだが」
「お団子屋さんで自分の財布を探してる時に無意識に『財宝が集まる程度の能力』を使っちゃったみたいで……気がつくと……」
「……知らない財布が手元にあったということかい?」
「そういうことです……」
「だが財布ならさっき慧音先生に渡しておけば良かったんじゃないのかい?」
「財布の持ち主が人里に普段来る人物かはわからないですし、私の推測だとこの財布は普通の人間が持ち主ではないと思うんですよ」
ご主人の持っている財布はパッと見で分かることは少し小さめのがま口のタイプで落ち着いた色合いをしている。しかしおそらく子供用なのかだろう、可愛い動物……のようななにか(お世辞にも上手とはいえず何の動物なのかがわからない)が描かれている何の変哲もないものであった。縫い目の部分などから手作りであろうことは分かるがそれ以上は分からない。
「どうしてこれの持ち主が妖怪だと思うんだい?」
「妖怪とは限りませんが……この財布に使われている生地や糸って普通のものじゃないんですよ」
「……たしかになにか特殊なものを使っているようだね」
「このことから普通の人間が作っったとは考えにくいですし、妖怪やそれに類する者たちが作ってまわりまわって人間の手元にある可能性もあるとは思いますが……」
「まぁ自然に考えるなら今も妖怪の所有物であるだろうし、そうなるとたしかに人里からあまり出ることのない慧音先生に渡しても持ち主にかえってくるとは限らないというわけか」
「なのでナズーリンの能力で探してもらえると嬉しいんですが」
「……何か勘違いをしているのかもしれないが私の『探し物を探し当てる程度の能力』はあくまで野鼠を操って探し物を見つけるものだから、特徴を説明できるご主人の財布を探すことはできても野鼠に分からない財布の持ち主は探せないよ」
「そうですか……では私は少し持ち主を探してみますのでナズーリンは先に帰っていてください」
「いや一応私はご主人の部下なんだから付き合うよ」
「……ありがとうございます」
こうして拾った?財布の持ち主を探すためにいろいろな場所を回ることになったが……
「……とりあえず紅白と白黒、念の為にウサギのところは後回しにしようか」
「なぜです?」
「財布をとられたら困るだろう?」
「……ナズーリン、偏見で人を判断してはいけませんよ。まずは人を信じることが大事なのですよ」
「それはご主人の美点だと思うから別に変わる必要はないよ。だから疑うのは私の役目なのさ」
◇
「……まぁ、話は分かった」
「ではこの財布に見覚えはないですか?」
「見覚えはないな。というよりなんでここに一番最初に来たんだ?」
「てっきりレミリアさんが持ち主だと思ったんですが」
「……お前達が私をどういう風に見ているかよくわかったよ」
今私達は紅魔館にきている。ここに最初に行こうと言い出したのはご主人で、理由は今言ったとおりだ。そして案の定レミリア・スカーレットは機嫌を悪くしてしまった。だからあれほどやめようと言ったのに……。
「まぁね、見た目がこんなだし性格は子供っぽいってよく言われるけど、それでも私は500年以上生きてるわけよ。さすがにそんな子供っぽい財布は持ってないわよ。というかこの館で財布持ってるのなんて咲夜ぐらいだし」
「確かにお嬢様の言うとおりここで財布を持ってるのは私だけですね。ところでその財布、少し見せてもらってもよろしいですか?」
「はい、大丈夫ですよ」
ご主人がメイドに財布を渡すとメイドは財布をひと通り近くで眺める。
「この財布……随分と長い間大事にされているみたいですね」
「どうしてそんなことが分かるんだい?」
「随分変わった素材を使っているようですが、ところどころいたんでる部分があり、しかしその割には大きなキズなどはないように見えます。それに目立たないようにしてありますがいくつも修復した部分が見えます。しかも縫い方の癖から見てなおしたのは作った人とは違う人物なようですね。ですからおそらくこの財布をもらった人物は長い間自分でなおしながら使っていたんじゃないでしょうか?あくまで予想ですが」
「……ですがその予想がもし当たっていたら、持ち主にとってこれはとても大切なものなんでしょうね」
「…………」
「それになくして困っているだろうしね。急いで持ち主を探すとしようか。話を聞いてくれてありがとう、私達は急ぐからこれで失礼するよ」
手がかりは得られなかったが、この財布が思っていたより大事なものなのかもしれないことがわかったし、早く持ち主を探しに行くことにしよう。
「……咲夜」
「何でしょうかお嬢様?」
「私に少し縫い物を教えてくれないかしら?」
「……一応確認しますが何をお作りになるつもりですしょうか?」
「フランがいつか人里までいけるようになったら財布が必要になるかもしれないでしょ?」
「……きっとさっきの財布に負けないくらい大事にしてくれますよ」
「……ありがと」
◇
「ちょっと待っていてください、今幽々子様を呼んできますので」
「はい、おねがいします」
「……ちょっと待ってくれ、なんでここにしたんだい?」
「あの財布の持ち主の手がかりは『特殊な素材』『長い間使われている』『大事にされている』『持ち主は財布をなおせるくらいは裁縫ができる』ですからずばり幽々子さんかなと思ったんですよ」
「財布のデザインを思い出してくれ!明らかに子供用のデザインだったじゃないか!」
「あ……。だ、だったらナズーリンだって先に言ってくれたら良かったじゃないですか!」
「私はてっきり庭師のものだと思ってたんだよ……。だからわざわざここの主を呼ばなくてもいいと思ってたんだが」
「お待たせ~。立ち話も何だしどうぞ上がっていってくださいな」
話しているといつのまにか本人が来てしまったようだ。西行寺の姫君に連れられて客間まで来たが……さてどうするか。あの財布を見せて『あなたのですか?』と聞くのは流石に失礼な気がするし……西行寺の姫君を呼んでしまった時点で流れとしては少々不自然になってしまったが、庭師のほうに聞くことにするのがいいだろうか。
「さて何のようかしら?」
「今私たちはある財布の持ち主を探しているんですが、この財布は幽々子さんのものだったりしませんか?」
「……相変わらずご主人はストレートだな」
「あれ?これどこかで……」
「妖夢~、今朝里でおまんじゅう買ってきたでしょ?持ってきてくれるかしら~?」
「え……、あ、かしこなりました」
「さて……この財布はどこで手に入れたのかしら?」
……今の二人の反応からして、おそらくこの財布についてなにか知っているのだろう。だがそう簡単には教えてくれないようだし……どうするか……。
「恥ずかしながら色々あって私の『財宝が集まる程度の能力』を使ってしまって、その結果私の手元に来てしまったんですよ」
「……その能力を使えば例えば私の財布もとられちゃったりしたかもしれないのかしら?」
「私が集中して能力を使用すれば可能かもしれませんが……、少なくても今回は殆ど無意識だったので、多分元からどこかに落としていたものを集めたんだと思います」
「そうなの……。ありがとう、残念だけどここに持ち主はいないわ」
「……一ついいかい?」
「なにかしら?」
「あなたはこの財布の持ち主を知ってるようだが、誰か教えてくれないかい?」
「教えるだけじゃきっと意味は無いわよ?だから残念だけど教えるつもりはないわ」
「そうか……、ではこの財布を持ち主に返すよう頼むのはありかい?」
「それじゃあ罰にならないでしょ?大事なものを無くしちゃったのならちゃんと探させなくちゃいけないもの」
「ふむ……では私達はこのあと守矢神社に行く事にするよ」
「なら少しおみやげを渡すから待っていてちょうだい。それが食べ終わる頃には持ち主が見つかるだろうから」
そう言って庭師の持ってきたおまんじゅうの箱を渡された。とりあえず言った通り守矢神社に向かうことにしようか。
「良かったんですか、幽々子様?あのお財布は確か……」
「そうね~。妖夢、悪いんだけど少し言伝を頼めるかしら?」
◇
「あの、ナズーリン?話が読めないのですが……」
「うん?……あぁ、説明するよ」
今私たちは妖怪の山を抜けて守矢神社を目指しているところだ。もうすぐ目的地に到着するし、その前に説明しといたほうがいいだろう。
「姫君は『財布の持ち主を教えるだけじゃ無意味』といっただろう?ということは私達は持ち主の居場所、それどころか持ち主の存在を知らないかもしれないというわけだ。それなら探しても無駄だろう?だがあの姫君は持ち主とコンタクトを取れるようだったし『このお土産を守矢神社で食べ終わる頃には持ち主が見つかる』とも言っていた。つまり私達は彼女に居場所を教えて待っていればいいということだ」
「なるほど……でもなぜ守矢神社にしたんですか?命蓮寺で待っていてもいいと思うのですが」
「一応知らない人物の可能性があるから少し警戒をしたのさ。ここは二柱や天狗がいるからね、よっぽどの愚か者じゃなければここで騒ぎなんて起こさなだろう。それに……」
「……おや、たしかナズーリンさんと星さんですよね?守矢神社に何か御用ですか?」
「ここなら話し相手には困らないだろう?」
「あぁ、なるほど」
守矢神社に着いたのでとりあえず事情を話し、お土産のまんじゅうを開けることにする。聞いたところによると二柱は留守らしい。
「なるほど……お二人はこの財布の持ち主を探しているというわけですか」
「そうなんですよ、けど幽々子さんが待っていたらいいと言っていたのでもうほとんど解決してるんですけどね」
「ふむ……財布の中身は確認したんですか?」
「さすがにしてないよ、失礼かもしれないしね」
「ですけどこういうのって中身見たら持ち主が誰か分かるんじゃないですか?」
「うーん……たしかにそうかもしれませんねぇ……」
「というわけで開けちゃいます!」
そう言うと財布を開けたので皆で中を確認してみた。中にはそれなりに大金が入っている他に見慣れない人の顔が書かれた紙が入っていた。
「……何でしょうかこれは?」
「いやご主人、私に聞かれても困るよ。……残念だけどこれじゃあこの財布の持ち主はわからないね」
「……いや、私多分わかりましたよ?」
「え、わかったんですか!?」
「絶対じゃないですけどね?これをもっていてお二人が会えない人物……候補は2人いますが多分あちらでしょうね。……少々意外ではありますが」
「誰なんだい?」
「そうですねぇ……山を下りてみたら会えるんじゃないですか?幽々子さんも『おまんじゅうを食べ終わる頃には持ち主が見つかる』と言ってたようですし」
言われてみると確かにお土産のおまんじゅうはなくなってしまっていた。どこか釈然としないがここは言うとおりに山を下りるしかないだろう。
「じゃあお暇させていただくよ」
「はい、おまんじゅうありがとうございました。またぜひ来てください!」
◇
山を下りていくとそこには意外な人物が待っていた。
「……一応確認するがこの財布は」
「あぁ私のものだよ。どうやら仕事中に落としてしまったみたいでずっと探していたんだが……見つかってよかった、本当にありがとう」
「いやそれは構わないんだが……」
「ふむ……やはり意外かい?まぁ無理もないだろうがね、自分でも似合わないことは自覚しているんだけどね……」
そう言った九尾の狐、八雲の式は何かを思い出しているのだろうか、とても優しい眼をしていた。
「……ものを大事にするのはとても素晴らしいことだと思いますよ。恥ずべきところなんて全くありません」
「……そう言ってもらえると嬉しいよ」
その後少し話してから八雲の式は帰っていった。
「いやー、とはいえさすがに意外だったね。まさか持ち主が八雲の式だとは思わなかったよ」
「だから言ったじゃないですか、『偏見で人を判断したらいけません』って」
「……まぁ今回はご主人の言うとおりだったね」
「さて、持ち主も見つかりましたし……そろそろ命蓮寺に帰りましょうか」
「そうだね、けどその前に……」
私は懐からご主人が落としたた財布を取り出す。
「気をつけてくれとは言わないさ、いつも反省してその上でなくしてるんだから。でも私が愛想を尽かすまでに何とかしないと知らないよ?」
「……善処します」
◇◇
今朝財布を落としてしまったのに気づいた時は本当に焦ったものだ。なんたって昨日は結界の見回りのために幻想郷中を飛び回ったからあまりにも探す範囲が広すぎたのだ。だから昼ごろに妖夢が訪ねてきて守矢神社に行くように言ってくれた時はほっとしたものだ。本当に見つかってよかった。
「藍ー!晩ご飯まだー?」
「ちょっと待っててください、もうすぐ出来ますから」
「……なにかいいことでもあったの?えらく嬉しそうだけど」
「少し昔ことを思い出してましてね……。紫様は覚えていますか?あの狐の顔の書かれた財布のことを」
「……あぁ、そんなものもあったわねぇ。まだあれ大事にしてるの?」
「はい、紫様から初めて頂いた大事な宝物ですから」
「……ふーん」
「そういえばあの時私もお返しに紫様に財布を作ったんですよね……。初めて作ったものですからとても不恰好なものでしたが……あの財布ってまだありますか?」
「……さぁね?」
「……紫様らしいですね。……明日は橙をここに呼んでもいいですか?たまにはみんなで食事をしたいのですが」
「いいわよ」
「ありがとうございます」
財布の持ち主の情報はうまく管理できているように思いました。少しずつ分かっていくのが面白かったです。
後日談もほのぼのとして良かったです。
「作者は未熟」なんてのは作品を発表する上でなんの免罪符にもなりませんし「先に謝る」くらいならちゃんと調べて書いてよという気になります。
作品を人前に晒す以上「自分は未熟です」なんて予防線は貼らずに、堂々としてほしいと個人的に思います。
短いとはいえほぼ台詞のみの作品を混乱無く、また一定の興味を持たせたまま読ませてしまうのは、貴方にそれだけの力があるからです。
今後も頑張ってください。
2さん
……あれ?セリフ多い?……たしかにそうかもしれないですね、全然意識してなかった。こういうことが分かるのも感想見て楽しいところです。
8さん
情報ありがとうございます。
14さん
調べる関係は一応調べてんですがイマイチわからなくて……というのは甘えですね。今後気をつけます。
『作者は未熟』の部分は謙虚な気持ちを忘れないようにと思っていたつもりが、いつの間にか予防線を張っていたみたいですね。言われて気づいたのは情けない限りです。
今後精進していきますので、また読んでくれたら嬉しいです。
どのタイミングで感想に返信をするかいつも迷っていて、とりあえずもう新しい感想が暫くこないだろうと思ってから返すようにしてたのですが……、今後はもう少し頻繁に、早めに返そうかなと思っています。