東方怪綺談の後・・・
「今度はあの娘についていこう。それで、あの魔法を盗もうっと」
アリス(ロリス)と戦った幽香。アリスの究極魔法を習得するため、魔界へ帰るアリスに
透明化してこっそりついていくことにした。ストーカーさながらである。
魔界。濃い瘴気が立ち込める街の一角に、アリスの家があった。こじんまりとした洋風の一軒家だ。
「うーん、やっぱり何か視線を感じるような・・・」
自宅に着いたアリス。後ろにいる透明幽香の気配を感じつつも、それからいつもとかわらぬ日常生活を楽しんでいた。本を読んだり、音楽鑑賞、魔法の勉強、アリスはこの頃からすでに部屋に閉じこもりがちな感はあった。
お茶のカップを片手に本を読むアリスの傍らで、幽香は音を立てぬよう浮遊した状態で彼女の様子を眺めていた。
「今日もこんな調子ねぇ・・・この子いつになったらあの魔法を使うのかしら。この分だとあと何週間もかかるかなあ・・・おっと?」
幽香はアリスのある動作に気がついた。なんとアリス、本を読みながら自分のry
-自主規制-
それから数日。一向に究極魔法を使う様子の無いアリス。
そんなアリスにバレないよう、透明になっておとなしくしていなければならない幽香。さすがに疲れてきた。
「もう帰りたくなってきたなあ、魔界見物でもしていきたいけど・・・でもその間に魔法を使われたら意味ないし」
「ん・・・待てよ。何もわざわざ魔法を使うところを見る必要はないわね。アリスがもってたあの魔導書があれば・・・。」
なんでこんなことに気づかなかったんだろう、私ったら。
夜にアリスが寝静まる時を見計らい、さっそく魔導書を探すことにした幽香。
「確かグリモワなんとか・・・」
アリスの書斎。たくさん魔法の本があった。机の上にも、いくつか本が積まれている。
「あったあった、これじゃない、案外簡単に見つかったわ。」
アリス曰く、究極の魔法が書かれた魔導書。さっそく広げて読んでみた。
「へぇー、さすがに難しい魔法使ってるわ。ちょっと読んだだけじゃ分からないわねえ」
大妖怪幽香とて、魔法は最近覚えたばかり。魔理沙をストーカーした末に、やっと使えるようになったのだ。
「さすがに勝手に持ち帰るわけにはいかないか。とりあえず大事なところだけ、手帳にまとめてメモしとこう」
凶悪妖怪幽香とて、盗みなど下品なマネはしない。幽香は高貴なカリスマレディ。霧雨魔理沙とは違うのだ。とはいえ複雑な究極魔法、書き写すのも大変だ。
「こんなことなら、写真機でも持ってくればよかったわ」
要点だけでも、とても全部はメモできない。それどころか、どこが要点なのかもわからない。しかし勉強熱心なゆうかりん。朝まで本を読みふけった。
翌朝
チュン・・・チュン・・・チュンチュン・・・。ガタッ、ブロロロロ・・・。
朝。アリスはおもむろに寝室から起きてきた。台所で水を飲み、食パンを2枚取りだした。
パンにバターをこれでもかというくらいに塗りたくり、魔法トースターに入れてタイマーを回した。
通はバター。子供のころはジャムだったが今はバター。甘ったるいジャムでパンが食えるか。バターでその店のレベルが分かる。
焼けるまでリビングで新聞を読もう。しかしそこでアリスは、いつもとは違う光景を目にすることになる。アリスはリビングのソファーに目をやった。
ソファーの上には毛布が置いてあるが、なぜか異様に膨らんでいる。
まるで誰かが中にくるまっているかのようだ。しかもソファーの一部分が何かの重みで
くぼんでいるではないか。
「!?」
アリスは困惑しながらも、ソファーにそっと近いた。毛布の中にはだれもいない。
ただ不自然にふくらんでいる。触ってみた。何もいない筈の空間に、感触があった。
「な、何・・!?」
アリスは毛布をはぎ取った。
「ふぎゃ!」
何もない空間から短い叫び声が上がった。そう、それは透明化した幽香だった。
本を徹夜で読んでいて、眠くなってついソファーで
寝てしまっていたのだ。幽香はいきなり起こされ、透明化の術が解けてしまった。
アリスは驚愕した。
「ッ!?な、な、何なの!何であんたがここに・・・!」
バレてしまった。事態を飲み込んだ幽香。しかし幽香は動じない。
「えーっと、おはよう」
「おはようじゃない!何で私の家に勝手に入ってるかって聞いてるの!」
「えっとね、あなたが前使った究極の魔法を私も習得したいから、貴女の後をこっそりつけてきたの。」
「は・・・?」
アリスはぞっとした。まさかこの数日間、自分のプライベートをすべて見られていたと言うのか。
「あんた・・・、透明になって私をずっと監視してたの・・・?」
「うん。まあ、ずっと」
幽香はニコニコしながら答えた。
アリスは、アリスは、それはもうすさまじい羞恥心と、怒りが心に湧きあがっていた。
「ふざけないで!!」
アリスは敵意をむき出しにして怒鳴りつけた。その形相にさすがの幽香もビクッと驚き、笑顔が消えた。
いくら自分が力で勝っていても、憎悪の感情をぶつけられるのは心地よいものではない。
「いや、さすがにお風呂やトイレまでは覗いてな・・・」
「そういう問題じゃない!!あんた馬鹿じゃないの!?なんなのよ!なんてことしてくれたのよ!この変態!!」
すさまじいアリスの剣幕。幽香は完全にシュンとして答えに詰まってしまった。
こう見えても幽香、打たれ弱いのだ。もう半泣きである。
「うぅ・・・」
「あんた前から変な奴だと思ってたのよ!!なんで・・・何であんたが来るのよ!
なんで魔理沙じゃなくて・・・あんたが・・・」
「え?」
「とにかく出てって!!」
「あ・・・待っ」
「出てけーー!!」
幽香は追い出されてしまった。アリスは真実を見る「まことのメガネ」を持っていたので、もう透明化する同じ手は使えなくなった。
幽香は怒鳴られたショックでしょんぼりしながらも、まだ究極の魔法は諦めなかった。
「とりあえず夢幻館に帰って、メモした内容だけでも実際に練習してみよう」
館で待っているエリーとくるみのために、魔界のお土産を買って、幽香は傷心のまま魔界を後にした。
数日後
現世と夢幻世界との境界にある夢幻館。広い庭で、幽香は愛用の日傘振り回し、究極魔法の練習に励んでいた。
「てりゃ!・・・こうかな?」
「とう!・・・うーん、こっちの方がいいかな」
魔界から帰宅して数日。アリス宅で読んだ本の内容とメモした内容だけで、
なんと究極魔法の基礎はほとんど習得していた。あとは完成に向けて使えるようにするだけだ。さすが幽香である。
幽香の部下のエリーとくるみは、そんな主の姿を微笑ましく見守っていた。
「幽香様は、今日も魔法の習得に励んでおられるようです」
「ふむ。大変結構なことですな」
幽香は空に向けて傘を振った
「えいっ!」
すると七色の光が傘の先端から発射され、美しい光線が遠く空に吸い込まれていった。
幽香は、とうとう究極魔法の習得に成功したのだ。
「やったわ!やったわよエリー、くるみー、見て見て!」
幽香は二人の前で、もう一度同じ魔法を使って見せた。もう完全に自分の物にしてしまったようである。
彼女らは、みな幽香の究極魔法習得を喜んだ。
幽香も、その部下たちも、このような幸せで平穏な日々がずっと続くと思っていた。
一方のアリス。アリスは魔界から再びこちらの世界にやってきていた。神社の裏の湖を通り、夢幻館の前にやってきた。透明になる魔法を使い、その姿を確認することはできない。
湖の番人である吸血鬼くるみは、ぼーっとしていて全くアリスには気付かず、アリスを通してしまった。
「あの妖怪。よくも辱めてくれたわね。あんたがしたのと同じように、
今度は私があんたの恥ずかしーいプライベートを覗いてやるんだからね!」
そう、アリスの目的は報復である。執念深いアリスは、幽香のように透明になって
ストーカーの仕返しをすることにしたのだ。
しかしアリス。すでに幽香に完全に察知されてしまっていた。
幽香とて伊達に長く生きているわけではない。アリスが透明になって姿を隠していようが、魔力を感知して手に取るように分かるのだ。
「あらあら悪い子ねえ、この前の仕返しのつもりなのかしら」
幽香は館の食堂で、食事を取りながらつぶやいた。だがエリーには、何のことやらわからない。
ちなみにエリーはこの館の門番だが、いつも門番してるわけではない。彼女は幽香の家政婦も兼ねているのだ。
「幽香様?どうされました」
「エリー」
「はい」
「魔法で透明になった侵入者がいるわ。裏庭よ。とっ捕まえてきなさい」
「かしこかしこまりましたかしこー!」
「いや、そういうのいいから」
あきれ顔の幽香をよそに、エリーは異常なテンションで裏庭に向かっていった。
その後、幽香は一人で食事を取っていたのだが、もう一人の侵入者の存在には気がつかなかった。
そう、実はアリスとは別にもう一人の侵入者がいたのだ。博麗神社の巫女。その名も博麗靈夢である。
アリスと違い透明になることはできないが、彼女は完全に気配を消すことができた。
だから幽香は気づかない。靈夢は絶で気配を消し、湖を回り込むコースで亀に乗って飛んで来たので、くるみにも気付かれなかった。
「あの妖怪。よくもわけのわからない植物で私の神社を壊してくれたわね。
家を壊される苦しみをあなたにも味わわせてあげるわ」
靈夢は以前、幽香に自分の神社を破壊されたことがあった。経緯は違えど、アリスと同じく目的は報復であった。
彼女が手から提げている布バッグの中からは、大量のボム兵がその姿をのぞかせていた。
「館ごと吹き飛ばしてくれるわ」
夢幻館裏庭。アリスはエリーと魔法や弾を撃ちあい交戦していた。アリスは透明化していたが、エリーによってその魔法を解かれてしまったのだ。
「もう!せっかくの計画が台無しじゃない!!邪魔をしないでくれる!」
「やるじゃない!なかなかやるじゃない!だけど幽香さまは貴女の企みなんてとっくにご存知なのよ!」
「なんですってえ!」
二人がこうやって騒いでいる間に、靈夢は夢幻館の外側の柱にボム兵の設置を完了してしまっていた。
本当は中から壊したかったが、バレてしまっては元も子も無いので短時間で設置を済ませた。
これで全壊するかは分からないが、相当の損傷を与えることができるだろう。
靈夢は館から離れると、湖付近の茂みに隠れ、点火させるための術を使った。
「洋館は壊されるためにあるのよ。グッバイ、幽香」
ドカーン!!
幽香はびっくりして飛びあがった。
「な、なんなの!」
ベランダに出ると、白煙が上がっていて何が起こっているのかわからない。
だが何かが爆発したであろうことは予想できた。夢幻館の正面は大破し上階ごと崩れていたが、建物全体の倒壊までは免れていた。
一方外で戦っていたエリーとアリス。正門前から強烈な爆発音がしたので戦闘は中断された。
こちら側からは大破した部分は見えないが、煙が上がっている様子が確認できる。
戦いの手を緩めたアリスは叫ぶ。
「ちょっとどうなってるの、あんたの家爆発したわよ!」
「大変だわ、大変だわ、幽香様が・・・!」
大破した夢幻館の様子を、満足そうに眺める靈夢。しかし彼女はすぐに異常に気付いた。
「空の様子がおかしい・・・」
靈夢は何かを感じとった様子で、湖の桟橋に待たしてある玄爺のところへ走っていった。
一方湖の前でぼーっとしていたくるみも、さすがに爆発音に気がついた。
「幽香様の危険が危ない!」
くるみはただちに離陸し、湖上空を通って夢幻館の方へ飛んで行った。
その途中で、夢幻館側から亀に乗って飛んでくる靈夢とすれ違った。
湖に彼女を侵入させた覚えの無いくるみは、疑問に思い靈夢に問うた。
「あれ?あんた何でそっちにいるの?」
「場合じゃないわ!巻き込まれる前に私は逃げるわよ!」
「?」
それだけ言うと、靈夢は神社側に向かって飛び去ってしまった。
一方、夢幻館の外に出た幽香は、この場所に大変なことが起こっていることに気づいた。
空が真っ赤になり、夢幻館の周囲に地響きが響き渡っている。さっきの爆発で、
現世と夢幻世界をつなぐ空間がおかしくなり始めているのだ。
ここにいては危ない。一刻も早く湖の向こうに逃げなければ!しかしエリーを置いてはいけない。
「エリー!どこなの!?エリー!」
幽香はエリーを探そうと空に舞い上がったが、夢幻館の周囲を見て愕然とした。
湖などすでになかった。夢幻館の敷地の周囲は、地面がなくなり夕焼け空のような空間が広がっていた。
夢幻館が空中に浮かんでいるような状態になっている。
「まさか・・・この館ごと、夢幻世界に呑み込まれてしまったの・・・」
突風のような衝撃とともに、幽香と夢幻館、その場にあったすべての物が上空に吸い込まれていった。
幽香は意識を失った。
数時間後
靈夢は、神社から再び裏山の湖を訪れた。
「さすがに・・・ちょっと悪いことしちゃったかなあ・・・」
湖の上空から向こう側を見る。夢幻館のあった敷地は、ミステリーサークルのように地面が削り取られて荒野になっていた。そのさらに向こう側にあるはずの夢幻世界もすっかり消えていて、山々が続いているだけであった。現世と夢幻世界をつなぐ道が無くなってしまったのだ。
そして、夢幻館があったはずの場所には、もう何も残っていなかった。
「うあああああっ!?」
幽香は悪夢で目を覚ました。しかし彼女が目を覚ましたのは、いつもの温かいベッドではなかった。
屋外である。土と草のひんやりとした感触が肌に伝わってくる。
空は真っ暗で、夜になっていた。辺りからは鈴虫の鳴き声が聞こえる。森の中のようだ。
彼女は、これが夢オチでなかったことを知った。
「どこ・・・ここ」
エリーもアリスもいない。夢幻館も無い。ただ、自分だけがそこにいた。
「エリー!・・・アリス・・・どこにいるの!?」
これほどの不安を感じたのは何百年振りだろうか?もうすでに幽香は泣きそうであった。
爆発がおきて、夢幻世界に取り込まれた。覚えているのはそれだけだ。
だとするとここは夢幻世界なのだろうか?
幽香は自分の体にも違和感を覚えた。背中まで伸びていた自分の長い髪が無い。
驚いて自分の髪の毛を触ってみると、肩のあたりで髪の感触があった。
つまり、彼女の髪は肩までの長さにばっさり切られていたのだ。
さらに変わったのは髪の毛だけではなかった。着ているチェック柄の服もボロボロになってしまっていた。
まるで人間の乞食のようであった。愛用の傘も、どこかにいってしまった。
「どうなってるのよ・・・」
ともかく、ここがどこなのかを知る必要がある。幽香はしばらく歩いてみることにした。
昼なら空を飛んでもよいのだが、月明かりもない夜には上空から地上を見ても分かりにくい。
それに幽香が歩いている所は一本道があり、迷う心配はなさそうだ。
少し歩くと、すぐに見覚えのある人工物を発見した。石でできた長い階段。
上の方には赤い鳥居がある。なんと、博麗神社への階段ではないか。
どうやらわけのわからない異世界に飛ばされたわけではないようだ。幽香は元気を取り戻して、階段を駆け上がった。
「きっとあの巫女なら何か知っているはずね」
階段を上がった先には、ちゃんと博麗神社があった。それを見た幽香は、
まるで何年ぶりかに故郷へ帰ってきたかのような、とても懐かしい感じがした。
こんな時間であるが、幽香は神社の居住区に向かうと、入口の戸を叩いた。
「靈夢ー!いるんでしょ。いるのは分かってるのよ、出てきんさい!」
幽香が呼ぶと、中からごそごそ人が歩いてくる気配がした。
「誰よー、こんな時間に。はいはい、今空けるわよー」
戸を開けて出てきたのは、まさしく博麗の巫女であった。
だがその姿は、幽香の知っている巫女ではなかった。靈夢の面影はあるが、顔が全く違うのだ。
「靈夢・・・?」
「ええ、私が博麗霊夢だけど。何か用?」
幽香は愕然とした。
「嘘おっしゃい、あなたが靈夢なわけないでしょう」
「何言ってるのよ、私は正真正銘博麗霊夢!幻想郷の平和を守るスーパー巫女さんよ。
ところであなた妖怪ね、見ない顔だけど何しに来たの」
「ここ・・・博麗神社・・・よね?」
「ええ、そうよ」
「あなたはここの巫女で博麗靈夢・・・」
「ええ」
「・・!?」
どうも会話がかみ合わない。
「私、この神社の裏の湖にある夢幻館って洋館に住んでるのだけれど」
「・・・裏の湖にそんな館ないわよ」
「は!?」
「は、じゃない。無いったらないのよ。夢幻館なんて館今まで聞いたこともないし」
幽香も霊夢も、会話しながらお互い相手が何を言いたいのか、頭の中でいろいろ考えていた。
そして先に霊夢が何か思いついたように切り出した。
「分かった!あなた幻想入りしてきたのね!」
「へ?」
「落ち着いて聞きなさい。ここは幻想郷という土地よ」
霊夢は、幻想郷のことを簡単に説明した。
もちろん幽香は幻想郷のことなどとっくに知っている。なぜなら幽香はその幻想郷の住人なのだから。
ただ、問題はその先の話だ。
なんと霊夢が言うには、この世界は外から隔離された土地であるという。
わけがわからない。何を言っているんだこの巫女は。幻と実体の境界?博麗大結界?何のことだ。
幽香は混乱した。幽香の知っている幻想郷は、結界で隔離されてなどいない。
××県本巣郡、東方町幻想郷地区。正式に人間界の政府の地図に載っている場所なのだ。
妖怪と人間のパワーバランスが崩れたなどという話も聞いたことがない。
その時ふと、幽香の中に一つの回答が思い浮かんだ。
「おい」
今まで霊夢の話を黙って聞いていた幽香が、口を開いた。
霊夢は話を中断する。
「なによ」
「今は西暦何年だ!」
「1999年だけれども」
「なんてこった!!」
幽香の読みは見事に外れた。てっきり未来の世界にタイムスリップしたのかと思っていたのだ。
昔読んだ空想魔法小説にそういう話があったので、まずそれが頭に思い浮かんだのだが。
1999年。幽香のいた世界の年代と、全く同じであった。ただ違うのは季節が初春から秋になっていることだけだ。
仮にここが未来の世界だったとしても、たった数か月先である。
しかし霊夢が今話した結界の話は、100年も前の事だと言うではないか。これでは辻褄が合わない。
そんな幽香の様子を見て、霊夢は困ったなというような素振りを見せた。
「うーん。裏の湖じゃなくってさ。霧の湖になら洋館が建ってるわよ。2軒ほど。」
「霧の湖に・・・?」
霧の湖は、神社からけっこう離れたところにある大きな湖だ。神社の裏山の湖とは別である。幽香もそれは知っている。
「うん、とりあえず明日になったら、行ってみたら? 場所は・・・、あんた飛べるんでしょ?なら空から見ればすぐ分かると思うわよ。ここから北西の方角にあるわ。ああ、あと人間の里は 行かない方がいいわよー。今いろいろあってめっちゃ警戒してるから。じゃ、おやすみ」
霊夢はそういうと神社の中に引き返そうとした。幽香はそれを呼びとめる。
「ちょ、待って」
「なに?」
「あの・・・泊めてくれないの・・・・?」
「あんたのような小汚い妖怪を泊める部屋はない!」
それだけ言うと、霊夢は玄関の戸をピシャリと閉めた。鍵もかけられてしまった。
「・・・」
幽香初めての野宿である。妖怪なので家がなくても死にはしないが、今まで館に住んでいた分、惨めであった。
幽香は神社の縁側の上に寝そべり、目を閉じた。暖かい布団で目が覚めることを願いながら。
(続く)
でも、知らない人にとってはしこりが残る
続きを楽しみにしてます