Coolier - 新生・東方創想話

少なくとも、ゾルタクスゼイアンではない

2025/09/16 16:07:39
最終更新
サイズ
30.59KB
ページ数
1
閲覧数
599
評価数
11/16
POINT
1310
Rate
15.71

分類タグ

 ゾルタクスゼイアンは楽しい場所だよ。チョコレートの川が流れているんだ。
「ゾルタクスゼイアンはどこにあるのさ」
 ピラミッドの中がゾルタクスゼイアンさ。君がいるのはピラミッドの奥だよ。だから森の先に、上かな、に進むとピラミッド、つまりゾルタクスゼイアンに行くことができる。
「ピラミッドにゾルタクスゼイアンが?」
 ただのピラミッドではなくてプロビデンスの目だよ。プロビデンスの目は神が全てを見通す目なんだ。凡人には見えない。()
づいた存在にのみ見えるから、心の目で見るんだ。
「んー。なるほどねえ。確かにそれが『真実』っぽいなあ」
 いいね。君は目覚めた。選ばれたものだよ。ピラミッドの神の目は人類を監視している。東洋風な言い方をすれば、あれは神社なんだ。神と、神のごとく人類を支配してるフリーメイソンの拠点なんだよ。そうして支配がてら楽園を囲い込んで、中の特権階級が独り占めしてるんだ。
「決めた。まずゾルタクスゼイアンに行こう。出始めに楽園を、そして地上を悪辣なる支配者の魔の手から救い出す。幻想郷の人達に真実を()
らせるんだ!!」
 いいねいいね。


***


 ユイマン・浅間は情報処理に追われていた。
 ユイマンは仕事中洗脳状態にある。以前は常に洗脳状態に置かれ常に仕事をさせられていたが、数千年の時を経てシステムが崩壊するに至り、彼女の管理者である月の都はついに休暇をとらせるということを覚えた。しかし、いつ彼女の自我を戻すかは彼女の状態をモニタリングしている月の都側にあり、未だユイマン側にその自由はない。
 一方、当のユイマン本人は洗脳の方も福利厚生の一環と考えていた。初めての休暇から洗脳を徐々に強められ仕事場に戻るときに、「他に楽しいことがいろいろあるのに私はどうしてこんなことを」と一瞬思った。今までの人生の中で彼女が仕事というものをもっとも恨んだのは、おかしな情報を流し込まれ記憶も自我も混乱していた時代でもなく、最初の再起動で自我を取り戻した時でもなく、まさにこの瞬間である。彼女はいっそ洗脳により労働が悪という事実を忘れさせてくれと願い、事実その通りになった。仕事をしている彼女は、労働の善悪や洗脳の善悪など考えない。自分はそういうものだと固く信じている。幸福は不幸のない状態だと定義するならば、仕事をしているときの彼女は間違いなく幸福だった。
 仕事中の彼女は幸福ではあったが悩みの種もあった。外の世界から来る情報の偏りである。
 偏りには二通りある。一つが彼女が「バイアス」と呼ぶ「特定の偏った思想」という意味の偏りだ。処理しきれなかった情報による汚染の害は絶対どこかで起こっているのだろうと既に頭が痛い。
 もう一つ、彼女が「トレンド」と呼ぶ、思想の偏りよりはもう少しマイルドな、単純な流行り廃りのような偏りもある。汚染の影響は比較的無害と考えられるが、同じような情報が大量に流れるので蛇が食い飽きるという問題がある。
 今のトレンドは変な生物だった。単眼で目が体の体積の多くを占める。色は赤と青の二色が確認されている。こう表現すると異変敵のようだが、形が四角錐ではなく球体だった。外の世界の語彙を用いれば、イクラの卵のよう。
 処理されなかった生物情報が既に迷宮内で具現化しつつある。情報は既に食ってるから生態は既に分かっていたが、情報通りの奇妙さである。何が変かって、こいつはとにかく変形する。基本情報が球体なので球体の生き物と認識していたが、実際に動いているのを見る限り、球体を保っている個体の方が少ない。単純に体の一部を伸ばしているものの他、魚の形になって壁を泳いだり鳥の形になって天井を飛んでいるものもいた。
 また、他の個体と目を合わせるなり互いに体を伸ばし結合する個体もいた。これがこの生物における交尾なのかと心の中の少女部分がキャアキャア野次を飛ばしていたが、生物学的交尾と違ってそれで個体数が増えることはないようだ。群体になるというのが近い。
 一番早くから結合を開始していた群体は、青い人型の体の顔周りに、赤い個体の集合がライオンのたてがみのようにくっついていた。これが最終形態らしい。スライムに対するキングスライムみたいなものだ。
「もっともあれは虚構生物(ゲームキャラクター)
だが」
 さてこいつは虚構か現実か。一つ分かることがあるのだとすることは生命力、つまり穢れに満ちているということだ。


***


「仕事は順調?」
 不変の女神、磐永阿梨夜が浅間浄穢山最奥部から上がってきた。
「皮肉? 迷宮の途中で見ただろう、穢れた生物共を……」
「あーやっぱり。月の使命とかで根を詰めすぎなんだよ。あんな奴ら多少痛い目見ようがどうでもいいじゃない。自分を少しは甘やかさないと」
「そう、ね」
 阿梨夜に説得されて、ユイマンの目の色が変わった。洗脳が解けたらしい。おそらく、阿梨夜と会うことにより、ユイマンの感情のある方向の閾値が基準を上回り再起動されるようになった。途轍もない年月を経てついに果たされた再会を起因とする一種のバグのようなものだが、阿梨夜はこのバグは「使える」と思った。
「ただ最終的にはこの生物達にはいなくなってもらうわよ。月の都とかじゃなく私の意思として。見た目が私好みじゃない」
「可愛いと思うけれど。キモ可愛いっていうのかな」
「それは個人の感想ね。というか貴方にとってはこういうめちゃくちゃに姿を変えていく不定形生物が物珍しらしいとかそういう感覚があるんじゃないの」
「そうかもね」
「何体かペットとして引き取ってくれない? 全部蛇に食わせるのは骨が折れるし。あ、引き取るなら最後まで責任持って飼ってね。外来種になるから」
「飼うねえ。これって餌は何をあげればいいの……。日の光を浴びることが好きで雨を体から取り込むことができる……? 植物なのこれ……。ああ違うの」
 浅間浄穢山には生命情報が流れている。その程度の嗜好は神域の支配者側には筒抜けなのである。
「生物として情報に欠けがあるから、残念ながら模造生物(ハルシネーション)
の類と私は読んでるわね。まあよかったじゃない。餌は要らないよ、多分」
「いや日の光が必要だと私の(神域)
で飼うのは難しいわね……。残念」
「そっか。じゃあ結局全部駆除対象ね……。マイペースにやるとするわ」
「その意気よ。実は昨日もここに来たんだけれどさ、そのときは返事がなかったんだよね。どうせずっと働き詰めなんでしょ。マイペースに仕事するなら息抜きを入れる頃合いよ」
「息抜きね……。鹿狩りぐらいしか思いつかない……」
「まあそれでもいいけど……。外の世界から来た情報を処理してるんでしょ。なんか外の世界の話題で面白そうなのないの?」
「ああ、それなら……。でもな……」
 ユイマンは逡巡した。
「どうしたの」
「いや、気になった食べ物があるんだけれどさ。道具とか材料が特殊だからどうしようかなって」
「そんなのうまいこと調達すればいいのよ。息抜きなんだから時間は贅沢に使わないと。私の能力があれば留守にしてても穢れた情報もこのキモカワも増殖することはないでしょうし」
「貴方はそれでいいの」
「それでいいもなにも、もともと貴方を連れてどっかに遊びにでも行こうかというつもりだったし」
「じゃあお言葉に甘えようかしら」
「そうこなくっちゃ。ところで、その食べ物ってどういうの?」
「『たこ焼き』っていう名前らしいけれど」


***


ゾルタクスゼイアンはこの中のどこかだよ。
「そのどこかが重要なんだけれど」
 フリーメイソン共の陰謀は用意周到だということだね。一番美味しい果実を、迷宮の皮の中に隠し持ってるんだ。
「じゃあ迷路を抜けないといけないわけだ。どうしたら抜けれるの」
 まもなくゲートが開きます。二列に並んでお待ちください。
「ゲートってどこ? というか列もなにも、今私一人だよ」
 ……。
「黙っちゃった。もういいよ。知ってる? 迷路って壁にずっと左手を当て続けていると必ず解けるんだよ……。うわっ、何あの生き物。平べったい目ん玉に羽が生えてる」
 ゾルタクスゼイアンフクロウはゾルタクスゼイアンの固有種だよ。
「フクロウか。確かにフクロウって目が大きいもんね」
 奥のゲートが()
いています。空いているゲートをご利用ください。
「奥にゲートが? ……ないじゃん、嘘つき」
 一般来場者の皆様は、三番ゲートより退場してください。
「むー、情報がごちゃごちゃ混ざってる。もういいよ一旦帰るよ。また別の日に出直しだ」
 EXPO2025 大阪・関西万博公式ショップよりお知らせです。現在、万博会場では……。


***


 幻想郷でたこ焼きを作るにあたり障壁になるのは二点。焼くのに特殊な器具が必要だということと、その名の由来にもなっている大事な原材料のタコが海産物ということである。
「たこ焼き器? なんだそれは」
 まず、道具問題を解決するために二人の知り合いの中で一番事情通そうな人の元に赴いた。
「たこ焼きを焼くための道具ですね」
「まずたこ焼きが何かを知らん」
 しかしこの事情通っぽさそうな魔法使い、存外役に立たない。
「小麦粉などでできた生地を球の形に焼いて、中にタコを入れた食べ物らしいです」
「あー? 饅頭とか肉饅とかの類か?」
「いえ、それとはどうにも違うようです」
「おいおい。正体を当てるゲームみたいになってきたな。が、互いに正体を知らないんじゃどうしようもない」
 魔理沙は頭を掻いた。
「ごめんなさいね。阿梨夜が役に立たなくて」
「お前もだ、お前も」
「うーん。じゃあタコの方はなんか知ってる?」
「最近山に出たらしいな」
「山に? 山って妖怪の山? タコって海の生き物なんじゃなかった?」
「外の世界の図鑑だとそうなってるんだがな。なんでも龍の化身らしい。だから安易に食おうとしないほうがいいんじゃないか?」
「といってもねー、外の世界では普通によく食べられてる、これは正しいっぽいのよ」
「ああ、図鑑にもそう書いてたな。なんで魚の図鑑って味に言及したがるんだろうな」
「タコは魚ではないらしいよ」
「そりゃ細かい分類の問題だ」
 結局、魔理沙はたこ焼き器もタコも入手手段を知らないらしい。いきなり暗雲立ちこめた。残る知り合いは、最近の食文化に精通してるか怪しい守矢の祭神と怪しいではなくて知らないなと自信をもってレッテルを貼れるような博麗の巫女くらいしかいない。
 とりあえず二人はやや形式的ながら魔理沙に礼を述べた。
「力になれずすまんな……。あいや、もしかしたら」
「もしかしたら?」
「森の入り口のあたりに香霖堂っていう古道具屋があってな。外の世界から流れ着いたものも売ってる。たこ焼き器とやらももしかしたらあるかもしれない。私も今始めて知った道具だから、本当にあるかどうかは分からんが」
「おお、有望そうな情報」


***


「たこ焼き器? ああそれなら、ちょっと待ってくれ」
 香霖堂の店主は銀髪の男性だった。まあ性別なり外観なりはどうでもよくて(ユイマンは立場上姫な上月の傀儡だからそういうのに自由はないし、阿梨夜は過去の出来事以来恋愛を諦めている)、問題は店の中だ。あまりにも物が多い。道具屋だから、というので済まされるレベルではもはやない。壁の材質も見えないくらいに物が積まれていたり棚が乱立したりしているし、室内の移動にも少し手間取るくらいに床の移動可能領域も狭い。この生活破綻ぶりには二人も閉口せざるを得なかったし、この物の整理できなさ具合はさっき訪れた魔理沙の自宅を思わせた。類は友を呼ぶらしい。
 で、その道具だかガラクタだかよくわからない山の一つを店主は混ぜている。別にそれらがどうなろうが自分達に実害はないなずなのだが、それはそれとして山の構成要素が壊れるんじゃないかと見ている二人は気が気ではない。
「あったあった、これだ」
 店主は大まかには板状の機械(機械なのでケーブルが伸びている)を取り出した。
「たこ焼きなんて幻想郷の人は誰も知らないからね。このまま売れないものかと思っていたが縁というものはあるらしい。使い方は知ってるね」
 二人は首を横に振った。
「たこ焼きを知ってるのにたこ焼き器を知らないというのは奇妙なこともあるもんだ……。深底の窪みが等間隔に並んでいるだろう?」
 店主が指摘するように、板にはクレーターを半球型にしたような窪みが長方形に、計二十個並んでいた。
「おそらく中華鍋のようなものと考える。深底を活かして、名前からするにタコとかを強火で焼くのだろう」
 たこ焼き器はたこ焼き器なのだろうというのはいいのだが、店主の説明はもう一つ頼りにならない。ユイマンは、彼は道具が持つ情報のごく一部分しか読み取ることができないのだろうと推測した。自分が持ってる情報だとたこ焼きは小麦粉を含む生地を成形したもので炒め料理ではない。
「まあ、たこ焼きの作り方はこっちで調べておくわ」
「そうしてくれ。僕は料理人じゃない。……ああ、大事なことを伝えなければならない。それを使うには電気が必要だ。ここではある方が珍しいのだが、君達は持っているか?」
「持って……ないわね」
 ユイマンは面倒なことが増えたなと落胆したが、やりとりを聞いていた阿梨夜が前に出てきた。
「これが中華鍋のようなものとして、電気は加熱に使うんですよね?」
「そうだろうね。外の世界の道具はだいたいそうだ」
「で、この鉄板部分は熱に強い」
「ああ、材質は耐熱性のある金属だ。これは完璧に分かってることだから信用してもらって構わない」
「じゃあ単純な話です。鉄板のところだけ火にかけて使ったらいい」
「焼きムラができるかもしれないがね……。あとは火傷……はひょっとしたら君達は大丈夫か。妖怪なら」
「あら、二人とも神ですよ」
 私は厳密には古神人だけどね、とユイマンは心の中で呟く。
「ああすまない。信心深い方ではないんだ」
「気にしてないから大丈夫です」
「そうか。それで、いかにお客様が神様といえども、ここは店だから買うというなら支払いが必要なんだけれど、持ち合わせは大丈夫かい?」
 二人は一瞬顔を見合わせた。持ち合わせがあるかないかでいえばあるのだが、二人共俗世から離れてた期間が長すぎて、「現代人」との価値のすり合わせが大丈夫かどうか若干自信がない。
「大丈夫。私がここはどうにかするから……」
 阿梨夜はそう小声で囁いたが、
「任せて!!」
 ユイマンの方が割と大声でそう叫んで突然店から出てしまった。
「あの、大丈夫かい……?」
 いかに朴念仁な香霖堂店主といえども、この事態には阿梨夜にそう聞かざるを得ない。
「あー、大丈夫です。あの子、ちょっとそういうところがあるので……」
 阿梨夜はため息を吐いて、手持ちの古石(一種の伊弉諾物質であり、マジックアイテムとしての価値がある)を店主に見せた。
「これは……」
 店主は驚いた声でそう呟き鑑定をした。
「本当に大丈夫かい? むしろこれほどのものならたこ焼き器一個では不釣り合いに安すぎるくらいなのだが」
 ここの店主はまるっきり商売に向いてない。その向いてなさはおおよそ商売人にあるまじき無愛想として現れるが、極稀にこういう正直さとして現れることがある。普通の商人ならば、しめしめと思いながら価値をごまかしてそのまま取引成立させるとかむしろ更に客に吐き出させるかするところだが、店主は逆にこちらからもっと出すべきかということに悩んでいた。
「もっと小さい石で構わないのだが、これが一番小さ……」
 店主が阿梨夜に聞こうとしたところで、勢いよく入り口の扉が開いた。
「ただいま!! こいつで構わないかしら!!」
 店主と阿梨夜があんぐりと口を開けてるところに、ブツが投げ込まれた。ユイマンが今しがた狩ってきた鹿である。
「??? えっ、君、鹿を持ってたのかい?」
「いえ、そんなことなかったはずですが……」
「今狩った!!」
「今って……」
 店主は商品として陳列してる時計を見た。西洋式時計の時間換算にして、多分ユイマンが店を飛び出してから戻ってくるまでに十分も経ってない。
「早すぎでしょ」
「森には鹿がいっぱいいるのよ」
「いうほどいたかな、この森……。まあしかし、鹿を丸ごと一頭渡されてもな……」
「安心して、これでよければ解体はするわ。慣れてるし」
「どう考えても慣れてるだろうね……。まあ、鹿肉一頭分も結構なものとはいえ、貴重すぎるその石よりはちょうどよくある。鹿の方にしよう」
「はーい。店の外借りますね」
「井戸が外に出て右に行ったところにある。好きに使っていいから解体した後の掃除はしといてくれ」
 店主は鹿を担いでまた店を出るユイマンを見届けた後、阿梨夜にぼやいた。
「君も大変だな」
「何が?」
「お守りというのも疲れるものだろう」
「うーん。苦労してるのは月の民の方じゃないです?」
「月の民?」
「こっちの話。ま、あそこのことなんてもうどうでもいいんですよ。ところで一つ聞きたいことがあるのですが」
「何かね」
「タコについては知ってます?」
「それか。少し待ってくれ」
 また山でもひっくり返すのかと阿梨夜は思ったが、今回は一度店の奥の物陰に引っ込んですぐ戻ってきた。
(やっこ)
凧は外の世界だと廃れたらしくここにもあまり流れてこない。今だと角凧の方が……」
「それ飛ばすほうの凧じゃない。そういうコテコテのボケはいいんですよ。ここまでの流れで分かってください。たこ焼きの方のタコ」
「ああそっちか。流石にそっちはうちではどうにもならないな」
「だからといってそれを刻んで食べ物の中に入れるわけにはいかないんですよ」
「だろうね。生き物のタコの方なら少し前に新聞記事になってたな。妖怪の山に」
「魔理沙から聞きました。ただ口ぶりからするにそっちは信憑性が怪しそうだなと」
「天狗の記事だからな……。他で何か知らないか、ということか」
「そゆことです」
「まあ心当たりがまるでないわけではない。昔一度三途の川から行商人が魚を売りに来たことがあったんだ」
「魚屋? でも幻想郷の立地だとどうせ川魚だけじゃないんですか?」
「絶滅した古代種の魚が三途の川に住んでいて、生きていたときは海産種だったろうものも含まれるらしい。前のタコの新聞の挿絵を見てふと思い出したんだ。あの行商人、貝の殻に入ったタコみたいな生き物を売ってたな、と」
「それで妥協するのも大いにありね……。連絡先とかは」
「知らないんだ。ここに来てくれたのはそれっきりなもので。人里には今でも来てるのだが、うちには最初の一回しか来てくれなかったね。どうしてなんだか」
「貴方のせいじゃない、人が少ないからってだけだと私は思いますよ」
 阿梨夜は店主の人格否定にならないよう言葉を選んだつもりだったが、よくよく考えるとここは店かのだから人が少ないというのも普通に悪口なのだった。阿梨夜は仮面の下で「やっちまった」と後悔したが、思いのほか店主は気にしてないどころか「そういうことなんだろうね」と阿梨夜の発言もとい人がいないという現状を肯定しているようだった。
「まあそういうわけでここに来てもタコのようなものは買えないが、里の方に行けば買えるということだ。ただ残念ながら」
「残念ながら?」
「来る日付が決まってるそうで、次に来るのは十日後だ。今日は買えない」
「そういうことなら大丈夫です。待つのには慣れてますから。ゆいまーん? タコが買えるのは十日後だってー」
「何ー? 皮と角って店主さん要るー?」
「……君も大変だな。あと肉以外は要らないから君達の方で貰ってくれ」
 阿梨夜は苦笑いするしかなかった。


***


 分かったことは二つ。まず、自分が今まで真実と思っていた「声」は嘘っぱちだということ。そして、ピラミッドの中にあるのはゾルタクスゼイアンではどうやらなさそうだということ。
 この結果にはだいぶ落胆せざるをえなかった。巫女の暴力によるダメージよりも傷は大きい。信ずる者は救われるのなら、信ずるよりどころを失った者は救われないのだ。
 まあ、今の私には博麗霊夢さんがいる。結局信ずるところを見つけられ続けられてるのだから、私は救われる側の存在だ。せめてそこはポジティブに考えよう。
 しかしそうなるとピラミッドの中にあるのは結局なんだったのだろうか? 前に探索したときは巨大迷路しかなかったが、例えばあれ全部が迷路のアトラクションなんてことはないはずだ。ゾルタクスゼイアンではないにせよ、中にある何かに侵入されるのを防ぐために外側がああいう間取りになっている。そう考えるのでは間違いじゃないはず。
 ね、そう思うよね。
「……」
 はあ、全く私は何をやってるんだか。「(ペテン)
」に聞いてももう仕方がないのに。
 なんにせよ、もう一度あれを探索してみよう。自分の目で判断して物事を決めると決意したんだから、今度は声に騙されて手を離すなんて馬鹿なことはせずに最後までたどり着いてやるんだ。


***


「怪我は大丈夫?」
「流石に不変の貴方には負けるだろうけれど体は頑丈な方よ。二日で治ったわ」
 たこ焼き器を入手した二人だったが、順調にそのままタコの入手を待ってレッツパーリィ! とはならなかった。元々ユイマンが懸念していた思想的に偏った情報による汚染災害が妖怪化した貝の化石一個の暴走として具現化してしまい、その処理に負われることとなったのだった。
 なお、この件の犯人たるニナから負った怪我より、それを解決しにきたはずの紅白巫女から負った怪我の方が重かった。このことにユイマンはいたく腹を立てており、騒動の直後一度竪穴を訪れた阿梨夜も当初は「うんうん、それは巫女が悪いね」と同情していた。が、事情をよく聞くとニナの出現を誰にも信じてもらえないと思い込みいささかヒステリー気味になってたユイマンが霊夢に攻撃したのが先、というのが真相だったようで、阿梨夜の意見は「……情緒不安定を克服できるように頑張りましょうね」に変わったのだった。
「なんにせよ、今日は貴方の快気祝いでもあるわね」
「そんな大げさな怪我じゃなかったって」
 終わった過去の事件はどうあれ、今が心身ともに健康ならそれでいい。特にこれまで特に心の側に色々思うところあった二人にとって、この哲学は金言だった。
 材料は既に調達済みだ。盲点だったのはソースなる調味料で、原料の香辛料が幻想郷だと貴重品だからか、小麦粉を取り扱ってるような里で一番ハイカラな食料品店にも売ってない。元々たこ焼き器を入手した帰りに入手するつもりだったのだが、ここで壁にぶつかっていた。
「最悪ソースの情報源を探してそこから具現化させるわ。料理の味ってのは究極的には情報なのよ」
 ユイマンは戻ったあとそう提案していた。
「そんな味気ないのは駄目。ちゃんとリアルの味を楽しまなきゃ」
「と言ったって……」
「一個あてはある。皮と角、使っていい?」
「まあいいけれども」
 そして、この日阿梨夜はちゃんとソースの瓶も持ってきた。
「凄い。よく手に入ったわね」
「あるところにはあるのよ」
 種明かしは単純で、洋食を出すレストランなら(これは店の外見でいかにもそれらしいと分かるので初回の人里探索時点で存在は確認していた)業務用にソースをどこかしらから仕入れてるはずで、そこから仕入れ先に繋がるか、最悪店から直接分けてもらえばいい。買うには現金が必要だから皮と角を売って用意しておく。
 あと阿梨夜はタコも買ってきていた。
「タコ……?」
「実物で見るとアンモナイトって思ったより貝の部分の主張が強いよね」
「捌くのにも貝と考えるべきかしら」
「まあ貝って言っても石よりは柔らかいだろうしなんとかなるでしょ」
「え? 何するつもり?」
「貝殻が邪魔なんでしょ?」
「……多分貴方の考えてる方法だとなんとかならないわよ。そういう包丁仕事は私がするから火か生地の準備して」
「じゃあ火起こししとくわ」
 そう言って阿梨夜は迷宮の方に一度出て行ったが、しばらくして戻ってきた。同行人を増やして。
「来客よ」
「珍しいこともあるものね……あ」
「あ」
 ユイマンと来客は同時に息を詰まらせた。来客とはちょっと前のお騒がせ人にして今はピラミッドの探求者、渡里ニナだった。
「すみませんすみません。知らなかったんです本当に、まさか貴方様の住処だったとは」
「ちょっと、この子なんか凄い怯えてるんだけれど貴方前に何をしたのよ」
「何もしてないしどっちかというと私の方が酷い目に……ああいや気にしなくても大丈夫よ。過去にはこだわらないって決めたから」
 ユイマンは宥めたが、ニナは阿梨夜の背後に隠れている。
「……それとどっちかというとその人の方が危ないよ。なんてたってさっき石で貝殻を割ろうと」
「ひええ」
「あっ、こら、それは違う話でしょ!! あ、ニナちゃん大丈夫だから大丈夫だから」
「どおして名前知ってるのー!! 怖いよー!!」
 ニナからしてみれば宝物庫かと思って入った部屋がモンスターハウスといった状況だから全力で逃亡を試みた。一方二人はニナの誤解を解き客人としてもてなそうとそれを追いかけた。


***


 奇妙な追いかけっこは三十分ほどで決着した。ニナは無傷だが、ユイマンの頭にはたんこぶができている。むやみに騒ぎを大きくしたと阿梨夜に叱られたためだ。ユイマンはちょっと理不尽だと思っている。
「つまり、ここがゾルタクスゼイアンじゃないってのは正しい?」
「惜しいけれど違うね。ここの周りの区画がゾルタクスの唯心迷宮って呼ばれてはいるけれど」
「チョコレートの川は?」
「なんですそれは?」
「ないの……? なあんだ」
 ここがゾルタクスゼイアンでもなければチョコレートの川もないということを再確認し、ニナは再び落胆した。
「四季の竪穴ならあるわよ。ここがそう。綺麗でしょ?」
「美味しくないじゃん」
「味覚には対応してないけれど4DXにはできるわよ」
 ユイマンはボタンがついた薄い直方体型の機械(曰く、リモコンと言うらしい)を操作した。ニナの背後は冬の面だったが、そこから冷風とともに粉雪が飛んできた。
「寒い寒い!! 分かりましたもう結構です」
「えー、楽しいじゃない」
「そりゃユイマンの背後は春の面だから心地良いでしょうよ」
 阿梨夜は秋を背中にしていた。翼の骨の隙間に紅葉が挟まっている。彼女はリモコンを奪うようにして手にとって4DX機能を切った。機能を切っても既に排出された雪に紅葉、桜の花といったものはそのままらしい。
「これ穢れ大丈夫なの?」
「厳選素材を使った合成品だから大丈夫よ。空気分解性だから掃除の手間もない」
「ここ穢れ気にするところなの?」
 ニナは二人が竪穴中央に用意しているものを眺めた。
「ああ、もう気にする必要なんてなかったわね。ニナちゃんいいこと言うね」
「そうそう。チョコレートじゃないけれど美味しいものが今日はある予定なの。食べてくでしょ?」
「いいんですか?」
 二人は頷いた。
「わあい」


***


「生地入れてから何分経ったっけ?」
 アンモナイトの足や紅生姜の赤が所々半分浮かんでいるクリーム色の液体を眺めながら阿梨夜は仏頂面をしている。
「その質問は生命情報の範疇外だけれど……五分は経ったでしょ。何か問題が?」
「入れたときから全く状態が変わらない。ニナちゃん原因分かる?」
「たこ焼きってそれに生地入れて棒でくるくる回したら焼ける食べ物ですよね? 鉄板が冷めてるのかなあ」
 ニナは生地を一滴、わざとたこ焼き器の平たい部分に置いてみたが焼ける気配はなかった。
「冷めてるっぽい」
「えー。火はついてるんだけどな」
 実際鉄板の下に火が見えてるのはそうで、だからニナも阿梨夜も手で触れて確認しようという勇気(蛮勇)は流石に持てない。
「触れちゃ駄目よ」
 阿梨夜は戻ってきたユイマンに釘を刺した。ユイマンは「そんなことしないわよ」と言いながら伸ばしかけた手を引っ込めてたこ焼き器と生地を観察する。
「……あっ、分かったかも。貴方能力使ってない?」
「そういえば」
 阿梨夜は能力の行使を止めた。しばらくすると音を立てて生地が焼け始めて、壁の赤青生物が変形活動を再開した。
 竪穴の先から「どうしてこの事態を放置したんですか!!」「とりあえず封鎖です!! 早く!! 早く!!」といった阿鼻叫喚の声が聞こえてきた。阿梨夜とユイマンは声を無視した。ニナだけは不安の表情を見せたが、二人が「あんなの気にしなくても大丈夫よ」と声を揃えて言うのでニナも無視することにした。
「それより生地入れてから焼くまで時間かけすぎたけれどくっつかないかしら」
「大丈夫でしょ。私の鹿狩りの腕を信じなさい」
 鹿狩りとたこ焼きに何の相関が? と阿梨夜は首を傾げたが、首を傾けている阿梨夜の前で、ユイマンはおもむろに棒でたこ焼きを刺し始めた。
「何やってるの」
「え? たこ焼きってこうじゃないの」
「なんか違う気がする」
 実際ユイマンがやってるのは半球たこ焼きの串刺しでしかなく、それに棒を抜いたそばからまだ生の生地がユイマンが作った穴を塞いでいくから形状は半球のままだ。
「棒借りていい?」
 ニナは自分の知識通りに棒を動かして手際よくたこ焼きをひっくり返していった。たこ焼き器の中には次々と球体が出現していき、阿梨夜とユイマンの二人も「そうそうたこ焼きってこういうの!!」と感動とともに納得している。
 情報の声は何一つ正しいことを教えてくれなかったと思っていたが、少なくとも正しいたこ焼きの焼き方は教えてくれていたらしい。ニナは自己肯定感が少し高まるのを感じた。


***


 たこ焼きというのはジャンキーな食べ物だ。野菜は一切入っていなく、炭水化物と油で大半が構成されていて、ソースという塩分をたっぷりかけて食べる。
 ニナにとってはアンモナイトが入っていることよりもその不健康さが衝撃であり重大な問題だった。情報はなんでも口に入れる代わりに食べ物は厳しく選別するのが彼女の生き方だった。
 食べ物を食べさせてもらえるというので無邪気に喜んでいたが、完成したものの想像を超えるジャンクフード感に、ニナの勇気は揺らいだ。小麦粉は戦後米国から入ってきた粉だ。グルテン蛋白質には発がん性がある。その塩は本当に安全? 塩化ナトリウムが入っていない塩を選ぼうよ。そういうハルシネーションが――今となってはそれらの情報は真偽不明なのだが――脳裏にこだまする。
 ニナは二人がたこ焼きを口にするのを待った。毒味させようという魂胆だ。アンモナイトはいい――アンモナイトが人体に有害という話は聞かない。アンモナイトを覆う黄色の球体部分がどうか。
「食べないの?」
「うん? あいや、ちょっとしてから」
「あっ、分かった、猫舌なんでしょ……熱っ!!」
「はい、猫舌二人目。いや猫舌以前の問題ね。もうちょっと落ち着いて食べなさいよ」
仕方ないじゃない(ひかたないひゃない)

 ユイマンは水を飲んだ。
「中もこんな熱いとは思わないって」
「熱を通す食べ物は普通そうでしょうに。それこそ鹿だって生焼けにはしないでしょ」
「新鮮な鹿は生でも食べられるのよ。維縵国には生肝の餅ってのがあって」
「そうなの?」
「ニナちゃん、真に受けないでね。この人は変わった人……特殊な訓練を受けてるから」
 ジビエは寄生虫の問題があるから生食は推奨されない。維縵国の伝承だと甲賀三郎の千日の旅路の食糧として、生肝の餅を千枚持たせたという記述があるが、おそらく維縵国が死の世界に隣接している地域だから、維縵国周辺もまた食べ物の腐敗や寄生虫の発生が起こらない世界だったのだろう。同じことを現実世界ですると、初日で体を壊しかねない。マジだよ。
 と、生の鹿は危険だが、たこ焼きの方は、少なくとも食べたらすぐ体に悪影響のある食べ物ではないらしい。見たところ熱さに火傷すること以外の危険性は見られない。ニナは意を決してたこ焼きを口にした。
 そして彼女は一撃で堕落した。ニナは知った。体に悪い食べ物は美味いのだ。これこそがゾルタクスゼイアン。フリーメイソンが「食べてはいけない」という情報の迷宮によって隠していたチョコレートの川の如き楽園。
 三人はたこ焼きの味に舌鼓を打ち、最初に焼いていた分を完食したところでもっと食べようということになり追加で焼いた。
「たこ焼きがこんなに美味しいなら他の情報も信用できそうね。次はお好み焼きとか食べたい」
「それは?」
「小麦粉とかキャベツとかを入れた生地を鉄板で薄く伸ばして焼いて、豚肉とかと重ねて鉄板で焼く料理」
「つまり円盤型にしたたこ焼き?」
「いやいやいやいや。お好み焼きとたこ焼きの違いは形だけじゃないから。生地も別物、お好み焼きの生地は……」
「ちょっとちょっと、記憶混ざってる」
 阿梨夜はユイマンの頭を軽く叩いた。
「あれ?」
「あ、戻った。テレビみたい。やっぱ大体のものって叩けば直るのね」
「いやー、ニナちゃん、それはなんか違うと思うけれど……。それはそうとなんとなく原因が分かった気がする」
「原因? 何の?」
「この謎生物の出現とユイマンがたこ焼きとかお好み焼きとかを食べたくなった理由。多分、特定地域の文化なのよ。だから普通の食べ物とは違う強い拘りが情報に組み込まれている」
「最近この手の情報が急に増えたのよ。だから私は外の世界での流行だと思ったのだけれど」
「その地域で何か大きな祭りがあったんじゃない?
それか祭りが終わったか。だとするとこの生物は祭りのマスコットキャラクターなのかもね。地域の固有種とも考えたけれど」
「祭りのマスコットにこんな変なデザインのキャラクター使うかしら」
「それはユイマンの感想じゃない。外の世界だとこういうのが流行りなのよ、多分」
 ニナは二人の会話を聞きつつ、なんか静かだなと思った。いや会話は活発だし、それにたこ焼きを焼く音も加わっているから騒々しくはあるが……。
 そうか、竪穴の先からの声が消えている。最後に聞こえたのは「駄目です!! 既に入り込んでいます!!」だったか。何がどこに入り込んだか知らないが先は大変なことになってるらしい。
「ここがゾルタクスゼイアンじゃないってのは分かったけれど、この先ってどこに繋がってるの?」
「んー、そんなのどうでもいいじゃない。そんなことより、阿梨夜、その瓶ってもしかして」
「ああ、酒屋があったから。千年の時を経て人間の醸造技術はどれほどのものになったかしらね……。最初に開ければよかった」
「ちょっとちょっと、質問に答えてよ」
 ニナは酒の受け渡しをしようとする阿梨夜とユイマンの腕をそれぞれ掴んだ。
「どうでもいい、というのは不誠実に聞こえるでしょうけれど、私もユイマンのどうでもいいという意見に同意するわ」
「だからそれは答えになってないんだって。私には識る権利がある」
「全てを知ろうとしても情報の洪水に押しつぶされるだけよ。ニナちゃんそれでおかしくなってたじゃない。無関心というのは必ずしも愚かさではない、生きていく上で必要な技術でもある。そして竪穴の先は無関心でいいことなの」
「むー。子供の『教えて』に答えないのは教育に悪いんだよ」
 自分が歩く反面教師のような存在だったことを棚に上げてニナは反駁した。
「じゃあ教えると、私達は鎖に繋がれてるみたいな存在でね、ということは鎖を繋いだ奴がいるってことだ。で、さっきまで聞こえてたのは鎖が折れる音。鎖の先の奴らがどうなろうか知ったことじゃないし、私達にとってはむしろ万々歳なの」
「じゃあ祝杯にしましょう」
 ユイマンはグラスに瓶の中身を注いだ。
「久しぶりの酒だけれど大丈夫?」
「維縵国では毎日宴会だったわ。この程度の酒を一度飲むなんてどうということはない。知らなかったの?」
「ここが普通の神社で二人で祀られていた時代にも同じ話を聞いた。変わってないようで何より」
「そういう貴方は私のペースに合わせて大丈夫?」
「不変の肝臓を甘く見ないことね」
「二人ともそんな酒飲んじゃ駄目だよ。酒は体に悪いの!!」
 二人の酒豪トークにニナが口を挟んだ。
「そんなことないわよ。神様にとって酒は無害でむしろ薬。その証拠に私達二人とも健康そのものじゃない」
「貴方も飲む?」
「えー、でも私神じゃなくて妖怪だし、あとお酒は二十歳になってからって言うじゃん」
「言わないわよ」
「世界はそういうことになってるの。私は一歳未満よ? 蜂蜜だって駄目なお年頃」
「それは汚染された情報。幻想郷ではお酒は自由。蜂蜜は知らないけれどね」
「大体貴方肉体的には何億年も前の貝の化石なんだから余裕で大丈夫でしょ。ほらほら」
 ユイマンはニナの口に酒瓶を押し付けた。
「むぐっ!?」
 ニナは顔を赤くして目を回す。
「ふふ、貝の酒蒸し」
「こらユイマン、そんなこと言うんじゃありません」
 酩酊状態のニナには幻覚が見えていた。甲羅の背中をこちら側に向けた巨大なカニが足と鋏を上下に動かしていた。全身赤と白の縦縞模様の服を着て、それと同じ柄のパーティークラッカーみたいな帽子を被った眼鏡のおっさんが太鼓を叩いていた。
 脳裏に声が響く。それは声色からして明らかに今までのものとは違っていた。三、四十代くらいの訛りの強い男性の声。以前彼女を洗脳した声以上に奇妙なことを言っているが、ニナにはそれが真実であるように思えた。



 大阪の街は楽しい場所や。道頓堀にはカーネル・サンダースが流れているんや。
錦上京の本編ストーリーを整理した結果、月の都は痛い目を見るべきという決議が脳内会議で可決されました。その手段として、ミャクミャクと粉もん文化という大阪タッグにより効率的に穢れを蓄積させようという意図から話の組み立ては始まっています。究極的にはユイマンと阿梨夜が幸せタコパしてたら終わる話ではあるんですが、ニナがいた方が話が作りやすかったので彼女にも登場してもらってます。あと構想時点で思いついていたオチがあれだったので……

一個補足すると道頓堀に投げ込まれたカーネル・サンダース像は今から15年以上前には引き揚げられているので道頓堀にカーネル・サンダースが流れているという事実はありません(他がさも真実かのような物言い)
東ノ目
https://x.com/Shino_eyes
簡易評価

点数のボタンをクリックしコメントなしで評価します。

コメント



0.250簡易評価
1.100ひようすべ削除
ソースのソース
2.90奇声を発する程度の能力削除
良かったです
3.90福哭傀のクロ削除
要は3人の珍道中的なグルメ漫画のフォーマット。あんまりグルメ漫画を見ないので詳しくは語れないのですが、でも一時期はやって量産された題材において優劣を決めたのはキャラの魅力という側面が他よりも大きい気がしていて、その点で行けばこの3人は非常に魅力的だった。というか百合のフォーマットとしても非常にいい組み合わせでした。流行れ。しっかりしてそうなポンコツお姉さんを嫌いな人類なんていないんだから。少なくても百合ではあった
4.100名前が無い程度の能力削除
情報過多の大阪とピラミッドを接続させてしまう奇想が楽しかったです。
〈塩化ナトリウムが入っていない塩を選ぼうよ。〉の一文でめちゃくちゃ笑ってしまいました。
8.90ローファル削除
面白かったです。
本編では所々理不尽な目に遭っていた印象のある面々だったので
初めてのことに楽しそうに取り組む3人が読んでいて微笑ましかったです。
9.100名前が無い程度の能力削除
なんでしょう、この乱雑な情報がすべて大阪に収束する感じ、たいへん面白かったです。
10.100Lucy削除
何だこれ…
11.100夏後冬前削除
幻想郷がすべてを受け入れるように大阪の粉モン文化もすべてを受け入れますからね。小麦粉で包んで焼けば何でも食べられますし、無理なら串カツにしてしまえばいい
12.100のくた削除
たこ焼きが食べたくなりました
13.100南条削除
面白かったです
万博って幻想郷にこんな影響及ぼすんだと思いました
16.90名前が無い程度の能力削除
平和にわちゃわちゃたこ焼きパーティ、かわいいね……。これを読んで何年かぶりにたこ焼きを食べました
「アンモナイトが人体に有害という話は聞かない」にただ情報を溜め込んだだけで知識として身についていないニナの悲哀を感じました