Coolier - 新生・東方創想話

性格は明るく、話し上手だ。

2013/02/25 01:01:57
最終更新
サイズ
18.14KB
ページ数
2
閲覧数
3663
評価数
5/29
POINT
1450
Rate
9.83

分類タグ

 幻想郷に命蓮寺が建立されてから、暫くたったある日の事。
 地獄の閻魔である四季映姫は、相談事があると言われて、
部下である小野塚小町に話を聞きに行く途中だった。
「小町が私に相談事があるなんて、珍しいですね…
よほど困っているのかしら。私に解決できることなら良いのだけど」
 長い付き合いの中で相談を持ち掛けられる事がほとんどなかった為、
一体何があったのだろうと考えていた。
 そもそも小町自身もサボり癖を除けば能力自体は優秀な方で、
ちょっとした問題なら一人でも対処できてしまうのである。
「しかし、これは私に対する認識を改めさせる良い機会でもありますね。
どうも小町は、私の事を頼りないと思っているみたいだし…
頼りになる事が分かれば、少しはサボりも減るでしょう」
 サボり癖に関しては本人の意識による所が大きいのだが、
自分にも原因があるだろうと思っている映姫は、この機会に改めさせるつもりのようだった。
 少なくとも自分が頼りになると分かれば、相談等をされる機会も増えるだろう。
 映姫は部下との信頼関係を築くと言うのも重要な事だと考えていた。
「確か小町の部屋はここでしたね…小町、いますか? 私です、四季映姫です」
 そんな事を考えている内に部屋の前まで辿り着くと、
小町の部屋である事を確認してドアをノックしながら呼びかける。
 部屋は広くないのですぐに気付いても良さそうな物だが、中々出てくる気配はない。
「小町、小町ー?」
「んぁ…はっ…し、四季様ですね? すぐ開けますので、少々お待ちをー」
 ノックをしてから暫く経ち、部屋を間違えてしまったのかと思い、
映姫が不安になってきた所でようやく反応があった。
「いやーすいません、気づくのが遅れてしまって」
「…寝てたんでしょう?」
「あ、いやまぁその。た、立ち話もなんですし、中へどうぞ」
 あわてた様子で取り繕っているが、反応の遅さに加えて、
涎の跡やはだけた上着から、寝ていたことは誰が見ても明らかだった。
 仕事中ではないので説教するつもりもないのだが、注意だけはしておくべきだろう。
「やれやれ…誤魔化すならせめて、服装くらいは正しておきなさい」
「はっ…す、すぐに着替えてきます!」
 だらしない服装になっている事を指摘すると、慌てて小町が着替えに行った。
 羞恥心がどうこうではなく、服装を正さなかったら説教が待っているのは間違いなかったからである。
「…まったく、困ったものですね」
 着替えに行った方を一瞥して、映姫は飽きれながら溜息をついていた。


 着替えを済ませて小町が戻ってくると、映姫は出されたお茶を飲みながら本題へと移る。
「それで…相談があるとの事だけど、一体何かしら?」
「あぁ、はい。実は仕事に関する事でして…」
 映姫の問いかけに、若干言いにくそうにしながら小町が話し始めた。
 言いにくそうにしている事を少し不思議に思った映姫だったが、
仕事中でもないのに仕事の話をするからだろうと判断した。
「仕事の相談とは、また珍しい…何か問題でもあったんですか?」
「えぇ、そうなんですよ。仕事中に、あたいの舟が何者かに沈められてしまいまして…
あ、別に舟自体が壊れてしまったとかはありませんよ? ちゃんとサルベージしましたし」
「……え? 沈められた?」
 三途の川を渡る舟が沈んだという事を知り、あまりにも予想外の出来事に映姫も驚いていた。
 いくら古い舟だからと言ってもそう簡単に沈む事はないし、小町がミスをした訳でもないだろう。
 舟が無事だと言うのは不幸中の幸いだったが、これはかなり大きな問題である。
「そうなんですよ、あたいも気付かない内に…これはきっとプロの犯行に違いありません」
「いや、ちょっと待って。プロと言うのも若干意味が分からないけど。
…そもそも、舟を沈められそうになったのなら、普通は途中で気付くんじゃないかしら?」
「ぎくっ」
 沈められているのに気付かなかった事を棚上げようとした小町だったが、あえなく失敗に終わってしまう。
 舟自体が小さい為、普通に運行していれば気づかない筈がないのだから当然だろう。
「大方、舟の上で昼寝をしていた所を狙われたのでしょうね…
まったく、だから日頃から真面目に働くようにと言っているのに。そもそも小町は…」
「す、すみません、すみません。で、でもほら、今は犯人を見つける事の方が…」
 説教を始めようとした映姫の言葉を遮って、小町が当初の目的に話を戻そうとする。
「…そうですね、説教は後にしましょう。しかしそうなると、犯人の姿は見ていないでしょうし…
舟を沈める、と言えば舟幽霊ですが三途の川まで来るような者がいるのかどうか…」
「あ、結局説教は避けれないんですね…」
 確かに小町の言うとおりだった為、映姫が珍しく説教を後回しにして状況を確認した。
 結局は説教が待ってい事に変わらず、小町は肩を落としている。
「念のために聞きますが、小町には舟を沈められる心当たりは無いのね?」
「と、当然ですよ! あたいがそんな事すると思いますか?」
 映姫に尋ねられて、とんでもないという様子で小町が否定した。
「そうね…私もそう思います。とするとただの愉快犯…辺りが妥当かしら」
 疑う理由もないので、小町の言葉に同意しながら別の可能性を考える。
 何度も舟を沈められているなら、格好の獲物と認識されているのだろう。
「このままじゃ、働こうにも働けませんよ」
「…ただでさえサボって仕事が遅れるのに、これ以上遅れるのは確かに避けたいところね…
となれば、すぐにでも犯人を捕まえる必要があるわ」
 自分の事を棚に上げてそう言った小町に対し、若干飽きれながら重要性を再確認する。
 今は小町しか狙われていないが、万が一にでも他所が狙われたら面倒な事になるのは間違いない。
「こういう時は、古典的ではあるけど…囮が効果的でしょうね」
 事件が起こっている経緯や状況を確認し、もっとも効果が望める方法を挙げた。
 これまで何度も沈められているのなら、今後も起こる可能性は高いという点から判断したようである。
「あ、やっぱりそうなります? あたいもそれが良いと思ってました」
「…仕事中に寝ても怒られないから?」
「ち、違いますよ! あたいだって犯人は捕まえたいと思ってますって!」
 嬉しそうに賛成してくる小町に、意地悪く映姫が言う。
 どうやら本当にそんな事を考えていたようで、あわてた様子で取り繕っていた。
「……まぁ、良いわ。それでは早速、明日からやっていきましょう」
「はい、分かりました!」
 一先ずはその言葉を信じる事にして、映姫がすぐに作戦を決行する事を告げる。
 それに力強くうなずきながら、小町もやる気を見せていたのだった。


 作戦の決行を決めた翌日、小町はいつものように三途の川で舟を漕いでいた。
 寝たフリをする前に少しでも仕事を進めておくよう、映姫に言われたからである。
「はぁ、結局仕事はしなきゃならないのか…」
 様子を見ている筈の映姫に気付かれないように、小町が呟く。
 少しは楽が出来ると思っていたが、その考えはあっさり見抜かれてしまっていた様だ。
「…ふあぁぁ…んー、もうそろそろ良いよねぇ、作戦開始って事で…それなりに幽霊を運んだし」
 幽霊を渡し終えた小町が、あくびをしながら自分にそう言い聞かせる。
 特に遅くまで起きていた訳ではないが、この様子なら寝たフリではなく完全に寝てしまうだろう。
「うん、そうしようそうしよう…と言う訳で、おやすみなさーい」
 相変わらず自分に甘い小町は、舟の上で横になるとそのまま居眠りを始めた。
 映姫が様子を見ている事などすっかり忘れてしまっているようだ。
「……やれやれ、ここまで予想通りとは…後できっちり説教しておかないと。
でも今は、犯人を捕まえるのが先決ね…さて、現れるかしら…?」
 あまりにも予想通り過ぎる小町の行動に、映姫は頭を抱えていた。
 これも見越して、幽霊を運ぶノルマや作戦の開始時間を遅めに伝えておいたのである。
 眠っている小町は放っておいて、映姫が注意深く舟の周りの様子を伺う。
 およそ一時間ほど過ぎた頃に、川下の方から何者かの影が近づいてくるのを発見した。
「…掛かったみたいね。さて、犯人は一体何者なのか…」
 隠れている映姫に気付いた様子はなく、その影は舟へと接近する。
 影の大きさからは、人間程度の大きさである事が見て取れた。
「相変わらずよく寝てるなぁ…そんなに寝てると風邪引きますよー、っと…」
 人の形をした影が姿を現すと、小町の姿を飽きれた様子で眺めながらバケツで舟に水を注いで行く。
 水兵のような服装と感じ取れる気配から、舟幽霊であると判断した映姫だったが、
背負っている柄杓ではなくバケツで水を注いでいる事に戸惑いを感じていた。
「海のない幻想郷に、舟幽霊…よね、多分…どこから迷い込んだのか知らないけど、放ってはおけないわね」
 水辺にいる舟幽霊ほど厄介な相手はいないが、映姫とて閻魔という役職を背負う身である。
 よほど強大な力を持っていない限り、苦戦はしても負ける事はないだろう。
「楽に沈められるのは張り合いがないし、もーちょっと会話出来た方がなー…」
 舟に水を注ぎながら、不満そうにそんな事を言っていた。
 面白くなかろうと水を注ぎ続けているのは、やはり習性と言うものなのだろうか。
 そして既に小町の身体の三分の一ほどが水に浸かっているのだが、やはり起きる様子はない。
「…小町はどうしてこう…やれやれ。とりあえず、そろそろ止めに入りましょう」
 あまりの鈍感さに、映姫は飽きれ果てて脱力してしまうのを感じていた。
 とは言え、このまま見ていて取り逃がしてしまったら元も子もない。
 小町に期待する事は諦めて、映姫は犯人を捕まえるために行動を開始するのだった。

コメントは最後のページに表示されます。