Coolier - 新生・東方創想話

炬燵とコーヒーの相性とか

2010/01/11 01:26:16
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「ん……ふはぁ」

炬燵に入りて大あくびを一つ、霧雨魔理沙は冷たい空気を目一杯吸い込んで、足りない酸素を補給した。
しかし、魔理沙の脳に足りていないのは酸素ではなく休息、それとちょっとの糖分である。

「はく………んっ」

続けて大口をもう一つ。
炬燵の暖気も相俟ってか、常時眠気との交戦中の様だ。

「…で、何しに来たのよ」

三度口を開けようとした所で、炬燵の主が客に切り出した。
唐突にやって来ては炬燵に飛び込み、黙ったままかと思えばゆらゆらと船を漕いでいるだけ。
眠りに来たというのでなければ、どうして来たのだろうか。

「いやいや霊夢、何か目が覚める事は無いかな~って…」

言ってる事とやってる事がまるで噛み合っていない。

「ならまず炬燵から出なさいよ、睡魔の根源みたいなものじゃないの」

第一に、魔理沙は炬燵の中に居るという事。
ご丁寧に座布団を二つ折りにして枕にしている辺り、芸が細かい、主に快眠を得る為の。

「いや、だって外は寒いし……んう」
「寒い方が目が覚めるわよ。 少なくとも炬燵の中よりはね」
「寒い所で寝たら凍死しちゃうぜ……」
「寝るな!」

霊夢の怒声と共に魔理沙の頭上から降るサッカーボール大の陰陽球。
間一髪の所で魔理沙がグレイズすると、畳でワンバウンドした陰陽玉はそのまま何処かへ消えてしまった。

「あっ……ぶないなぁ、危うく顔まで白黒になっちゃう所だったぜ」
「どう、少しは目が覚めたかしら?」
「まあ、少しは………くぅ」
「………」

今度は無言で、反応を無くした魔理沙に針を落とす。
当然避けられる筈も無く、針は無情にも魔理沙の眉間に垂直に当たった。

「―――――~~~~!!!」
「安心して、峰打ちよ」

針の峰は持ち手の方らしい、霊夢の中では。

「あいた…サンキュ、霊夢。 おかげで大分目が覚めた」

ジンジンと痛む額を押さえて、魔理沙がむっくりと起き上がる。
第二にこの魔理沙、起きる起きると言いながら炬燵の中に身体半分突っ込んで横になっていたのだ。
抗いつつも身を任せる、ある意味一つのツンデレ要素。

「顔に食らいたくなかったら身体を起こしなさいよ」
「いや、頭を何処かに乗せていると頭痛が和らぐんだよ。
特に柔らかい所だともうスーって」

罠である。

「そんなに寝たくないなら、背中を前後に曲げたり頭と足でブリッジしてなさい。
それで暫くはもつわよ」
「何でそんな微妙な事知ってるんだ……」
「永夜異変の時にちょっとね」

別名、寝不足異変と呼ばれるアレ。
霊夢が奇妙な月の原因と対峙する頃には、まともに会話出来なくなっていたという噂も有る。

弾幕れ、話はそれからだ。

「あの時は本気でコーヒー派に乗り換えようかと思ったわ…」
「想像したくないな、湯飲みにコーヒー入れて飲んでる霊夢なんて」

神社の縁側に座布団を敷き、座した巫女が嗜むは黒い液体。
趣味が変わって困るのは、せびられる某古道具屋の店主だろう。

「あんなに苦いの、そう毎日飲みたくならないわよ。あの時が特別だっただけ」
「そんなもんかな…、でも眠気が覚めるならちょっと飲んでみたいかも。
本を片手にカップでコーヒーを飲むって、結構格好良いと思うぜ」
「そういう事は一度飲んでみてから言いなさい。
丁度紫から貰ったコーヒーが余ってるから、淹れて来るわ」

おーと手をひらひらさせる魔理沙をおいて炬燵から離れ、寒さに震える腋を締めて霊夢は台所へと向かう。



二人分のコーヒーを用意して戻って来る頃には、魔理沙はあちらの世界へ旅立っていた。

「………」

手には熱々の淹れたてコーヒー、そして目の前にはだらしなく口を半開きにして眠りこける魔理沙。
霊夢はコーヒーの入ったカップをテーブルに置かず、魔理沙の横に座る。

「………魔理沙?」

小さく呼びかけてみるが、返事は無い。
あれだけ眠たそうにしていたのだから、ちょっとやそっとでは起きる事は無いだろう。

「………」

霊夢の目線は、魔理沙の顔に開いた小さな入り口へと向けられる。
悪戯心を擽る無防備なそれを眺めて思う。


―――ああ、こんな気持ちになったのは初めてね。




この瞬間を惜しみつつ、魔理沙の口に熱々のコーヒーを注ぎ込む。

「ぶべらっ!!」

途端に噴き上がるTHE・噴水 ブラックレーベル。
真上に撃ち出された液体は重力を前になす術も無く後戻りし、白黒の黒をちょっと広げた。

「おはよう、魔理沙」
「……おはよう、霊夢。  っていきなり何するんだよっ!」

寝耳に水ならぬ寝口にコーヒー(熱々)を受けて、魔理沙が文字通り飛び起きた。

「『動けなくなった間抜けな魔理沙を見ても、手を出さずにじっとしていられるか、それが最大の問題だ。』」
「なっ……!?」


袖で顔を拭う魔理沙のすぐ傍で、平然とコーヒーをすする事の犯人。
見れば、霊夢が持っているのはカップではなく湯飲みであり、それは魔理沙の想像通りの光景だった。

「…にがっ」

僅かに口内に残るコーヒーの味を、時間をかけて確かめる魔理沙。
結果、砂糖もミルクも入っていないコーヒーは舌に合わなかったようだ。

「霊夢もよくこんな苦いの飲めるよな…」
「私は牛乳で割ってガムシロップを入れてるから、結構飲み易いのよ」

霊夢の湯飲みに有るのは真っ黒な液体ではなく、綺麗な薄茶色をした湯上りの必需品、コーヒーの牛乳割り。
あまりにも甘美な味わいはその飲み残しにまで価値が有り、蟻が列を成して欲すると言われている。
主に夏場に。

「…ガムシロップとかよく分からないけど、ちょっと飲ませてくれ。
なんかそっちの方が美味しそう」
「駄目よ。幻想郷じゃ貴重なものなんだし、魔理沙には自分のが有るじゃないの」

幻想郷では貴重ではあるのだが、某賢者の手に掛かれば造作も無い事。
何故か霊夢が何も言わなくても定期的に供給されるらしく、茶葉が無い時の代わりに飲んでいた。


余談だが、コーヒーを飲み過ぎると汗の臭いが強くなるらしい。


「こんなん苦くて飲めないぜ…」
「これはそういう飲み物だし、苦い方が眠気覚ましには良いのよ。
あんたが飲みたいって言ったんだからちゃんと責任持って全部飲みなさい」
「…分かったよ」

霊夢が湯飲みを手放す気が無いのを見て、魔理沙は大人しく自分のカップに口を付ける。
時折うげ、と呟きつつも、何とか飲み干しカップを置いた。

「んん……何で良い匂いがするのにこんな苦いんだろ」

カップの底に出来た茶色の輪を眺めつつ、残ったコーヒーの香りを楽しむ。
匂いと味が比例する食べ物は数有るが、反比例する物が無い訳でもない。

「紅茶もお茶も一緒よ、つまりそういうものだと思えば良いわ」
「そっちの方がまだ美味しいと思うぜ…」
「それじゃあ、こんなのとかはどう?」

霊夢が立ち上がり、戸棚から黒い瓶を一つ取り出して中身をカップに注いだ。
途端に部屋中にお菓子のような甘い香りが広がる。

「おお、ケーキの匂いだ」
「これも紫がくれたのよ、良い香りでしょう」

中身を注いだカップを魔理沙に手渡し、霊夢は瓶を戸棚に戻す。
カップの中は、再び黒い液体で満たされた。

「それじゃあ、貰うぜ」

甘い香りに惹かれ、欠片も疑う事無く口に流し込む魔理沙。



ゴファッ



直後に噴き上がるTHE・噴水 ブラックレーベル二週目。

まるで食虫植物の如く獲物を誘い、数多くの人間に絶望を与えてきた液体、その名もバニラエッセンス。
良い子は決して真似してはいけません、孔明の罠です。

「ああもう、部屋汚さないでよ!」
「ゲホッ、ゲホッ。 …こんなもん飲ますなぁっ!」

激しく咽ながらも声を絞り出して憤る魔理沙。

「紫が凄く嫌な笑顔で渡してくるものだから、怪しいと思ってたのよ。
こんなサイズのもの、初めて見るわ……」

何故かラベルが剥がされているが、その内容量およそ500cc、飲み干せば間違い無く致死量である。

「…つまり、私は毒見役にされたって事か」
「魔理沙がいつもやってる事じゃないの」

状況的には、新種のキノコを見つけた時の魔理沙と大きな違いは無い。
少なくとも安全である事が分かっている分、キノコより大分良心的だと言わざるを得ない。

「うげ…霊夢、ちょっとコーヒー飲ませてくれ…口の中が大惨事だ」
「もう無いわよ、全部飲んじゃった」

がっくりと項垂れる魔理沙に流石に罪悪感を感じたのか、再び霊夢は台所へと向かう。
少しして、今度は二人分のコーヒーと牛乳、砂糖がお盆に乗って運ばれてきた。






「あー…大声出したら頭痛くなってきた」

二杯目のコーヒーを飲み終えて、魔理沙が呻く。
眠気が飛ぼうが液体が飛ぼうが脳が休息を欲している事には変わりはない。

「そういえば、どうしてそんなに寝たくないのよ」

眠いのなら眠れば良い。
寝不足は様々な悪影響を引き起こす女性の敵とまで言われているのだが。

「ん……あれだ、夜更かしの練習」
「練習?」

夜更かしに練習も何も無いのではないか。
テーブルに額をぐりぐり押し付けて眠気を紛らわしている魔理沙は、顔を伏せたまま続ける。

「…だって、大人達は皆夜遅くまで起きていても平気なのに、私はすぐ眠くなっちゃうんだ。
もっと長く起きていられるようになれば、その分一日が長く使えて得するじゃないか」

そこまで言い切り、あーうーと呻きながら額をぐりぐり押し付け続ける魔理沙。

「…なんだ、そんな事だったの」

あまりに暢気な理由に、霊夢が苦笑する。

「そんなふらふらで起きてたって、何にもならないでしょうが。
それに、寝るのが遅いとその分次の日が短くなっちゃうわよ」
「……うにゅ」

魔理沙の顔がべちゃりとテーブルに引っ付いた。
既にコーヒーでも忘れる事の出来ない眠気に、陥落寸前といった所か。

「だから、眠いならさっさと寝てきなさい。 布団出してあげるから」
「…ぅああ、サンキュ、霊夢……」

白旗を振り出した魔理沙を残し、霊夢は布団の準備に取り掛かった。




準備を終えて居間に戻ってみれば、魔理沙は既に夢の中に居た。

「…せめて自分で動いて欲しかったわね」

何から何まで人任せ。
霊夢は仕方が無いとばかりに魔理沙の身体を支え、布団まで引っ張って行く。
手のかかる客人は、多少身体をぶつけたくらいでは起きそうに無かった。


「はふ……」

魔理沙を布団に寝かせた所で、霊夢も欠伸を一つ。
暢気な寝姿につられたのか、魔理沙の眠気が霊夢にまで移ってしまったかのようだ。

「私も一眠りしようかな…」

そう思った時が昼寝の時。
人間、眠たい時に寝られるのが一番の幸せなのだ。
霊夢は己が睡魔に抗う事無く身を任せ、寝支度を整える。


しかし、ここ博麗神社には、布団は一組しか無い。
仕方なく魔理沙を布団の端に退けて、霊夢自身もその中に潜り込んだ。

「はぁ~……」

魔理沙の体温でほど良く暖められた布団にふわりと包まれ、自然と声が漏れる。
程無くして、二人分の寝息が聞こえ始めたのは言うまでも無い。





ただ、魔理沙は知らなかった。
コーヒーには、利尿作用が有るという事を。
たまには何も考えずに
けど投稿する場所を間違えた気もする
ライア
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コメント



0.1380簡易評価
1.90名前が無い程度の能力削除
コーヒー片手に読めるようなSS無いかなという気分になった途端に
このSSを見つけてしまいました
のどかで和やかな雰囲気が甘ったるくて好きでした
3.100名前が無い程度の能力削除
マブダチっていいなぁ
これまでもこれからも二人の関係はこんな感じであり続けてもらいたい

…魔理沙が大惨事を起こすのか否か、気になるw
7.100名前が無い程度の能力削除
ちょっと最後www良い雰囲気だったのにぃ!!
9.100名前が無い程度の能力削除
あぁ…きっと魔理沙はこのあと霊夢にシバかれたんだろうな…w
11.90名前が無い程度の能力削除
ちょwww最後wwww
21.80名前が無い程度の能力削除
最後がどう見ても死亡フラグです、本当に(ry
炬燵の魔力は恐ろしい、気付くと時間がすっ飛んでる……
26.100名前が無い程度の能力削除
最後wwwそれはあかんwww
でも魔理沙のおね(マスパ
28.80ぺ・四潤削除
霊夢にシバかれるというよりも
「大丈夫よ魔理沙。私何も見てなかったから。」
とか言って慈愛に満ちた生暖かい目で見られてそうだ。
29.100名前が無い程度の能力削除
読みやすくていい雰囲気
そしてオチも最高
33.100名前が無い程度の能力削除
コーヒーブレイクってのは、この事ですねwww
37.80ずわいがに削除
許すまじきはバニラエッセンスっ

最後の一行でフラグがww
40.100名前が無い程度の能力削除
バニラエッセンス500ccとかどうやって使い切るんでしょう?ww