Coolier - 新生・東方創想話

第8話 裏切り、そして対立

2024/07/04 21:43:14
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ここは畜生界。動物霊達が弱肉強食の信念で作り上げた都会である。その地区ごとにそびえ立つビルが立っており、その組の勢力を表しているんだとか。今日も己の組の為に戦う動物霊達だったが、最近では威勢だけで行動はしないらしい。
この原因にはある噂が関係している。
『地獄で観光をしていた動物霊が鬼を怒らせ、畜生界まで攻め込んできた。しかし剛欲同盟所属の人間が、一撃で片付けた。』
という、動物霊達にとっては嘘か本当かも分からない情報が流れているからだ。この噂のせいで、剛欲同盟、及び勁牙組、鬼傑組は勢力を伸ばし、畜生界三大組織の名は、地獄にまで轟いたそうだ。



そして、剛欲同盟所属の人間は何を隠そうこの俺、空蝉龍陽(うつせみたつはる)である。今俺は仕事帰りに、音楽プレーヤーとイヤホンを買ってココアシガレットを咥えながら歩いている。最近の仕事は邪魔な組織を消す、という仕事であり、色んな組織を潰してきた。ガリ勉研究員ばかりの組だったり、たまにトキ三郎並の猛者もいた。報酬は金だったり、銃器や、兵器の作り方が入ったUSBだったりする。ちなみに俺は家を買わずホテルで宿借しているので、銃器は基本尤魔の配下に渡すのが日課になった。
しばらく歩いていると、俺は例のビルの前に立ち止まり、傍にいたオオカミ霊に案内してもらった。着いた先は黒駒が練習場として使っている岩盤地帯で、そこに黒駒もいる。黒駒は立っていた岩場からジャンプで俺に近づいてきた。
「おう、よく来たな。丁度暇してたんだ。」
「ああ。わざわざ無理な事を言ってすまない。礼を言うぞ。」
お互い、オオカミ霊が離れたと同時に宙に舞い、組手がスタートする。お互い殺す気で戦う為、周囲はお構い無しで全力でする。4〜5分も経てば、二人の組手の影響で辺りの岩盤地帯の岩は半分ぐらい粉々になる。この前俺は黒駒に一通の手紙を渡した。その内容は組手をしたいという内容で、場所も時間も完全に黒駒に任せているので殆ど来ることが出来なかった。しかしようやく暇が出来たので、手合わせしてもらっている。(黒駒はそんなに暇なのか。)組手が終わると、黒駒は満足した顔で俺に言う。
「よし龍陽、今日はここまでだ。またここに来いよ!何時でも待ってるからな!」
そう言って黒駒は何処かに飛んで行ってしまった。



次に俺は八千慧の所に行き、弾幕について教えて欲しいと頼んだ。幸い、八千慧も暇らしく、弾幕について手ほどきしてくれた。結論から言おう。弾幕で戦う、通称弾幕ごっこはスペルカードとやらが必要で、その枚数で強さが決まるらしい。スペルカードを持ってはいるが、まだ決まってないので、俺の強さは分からないときっぱり言われた。他にも詳しく聞こうとしたが、「仕事が入ってきたので失礼。」と行ってしまった。ちなみにこの後、尤魔が何処にいるかカワウソ霊に聞いたが、行方知らずで幹部でも分からないと答えたので仕方なく、ホテルに帰った。
ホテルで俺は相変わらずニュースを見て、ぼーっとしていた。仕事がない日は久しぶりでゆっくりしようと思ったのだ。俺は「ふぅーー」とため息をついてベットに寝転がる。最近よく思うが、あの頃から成長したのか不安になってきた。肉体的ではなく心の面で、だ。
惨めったらしく劣等感を感じていたあの頃を思い出すと、涙が出てくる。何もかも中途半端で生きる気力を失った時、周りからの目は冷めきっていた。そして言葉のナイフで切り刻まれ、ついには自分自身で文字通り体を包丁で切り刻んだ。あの苦痛を忘れることは無いだろう。「お前は誰からも必要とされない。」「変わりはいくらでもいる。」誰しもが嫌がる言葉をクラスメートが、教師が、家族が、ネットが言ってくる毎日は生きた心地がしなかった。最後に俺は自分の左目を包丁で刺し、意識を失った。その最中、俺は思った。やっぱり生まれてこなかった方が良かったんだと。
思い出にふっけていると、ふとニュースに俺が写っているのが見えた。
『次のニュースです。今日未定、地獄の牢獄の管理者が鬼を葬った人間1名を警戒リストに載せると発表しました。警戒リストに名前が載ったのはこれで二人目です。管理者は早急な対応と、もう一人の脱獄者を捜索している模様です。脱獄者の名前は……』
いよいよ俺の名前もビッグになったなと思い、それ程尤魔達に必要とされていると再認識した。期待に応えるのは苦手だが、それ相応の頑張りはしないとな。



突然ニュースが緊急速報に切り替わり、俺は右目を丸くした。写っているのは横たわった動物霊と大量の埴輪だったからだ。ニュースを見ていると携帯から電話がかかってきた。それは尤魔でもなく、黒駒でもなく、まさかのカワウソ霊からだった。
「大変です!急に変な兵士に襲われて皆ぐったりしちゃってます!組長も出かけましたが一人で勝てる量じゃありません!!どうか退治してくださ……」
ツーツーと音と共に、カワウソ霊の声が途絶えてしまった。これは明らかに異常事態だ。すぐに向かわねば、大勢死人が出るクラスになる。俺は窓ガラスを割って早急に現場に向かう。
現場は思ったよりも悲惨で、埴輪共が、一方的にカワウソ達を蹂躙していた。俺は傍にいた埴輪共を片付け、怪我はないかと尋ねる。
「あ……ありがとうございます。」
「良かった、助けがきた!助かるぞ!」
そう言って年老いたカワウソは怪我をした仲間を撫でた。見渡すと、鬼傑組は大勢の怪我人が出ており、中には命の危険があるのもいた。その光景は俺の心を燃やして、復讐という二文字が浮かんだ。
「奴らの出処はどこだ。俺が殺してやる。」
「霊長園です!!どうやらあそこに住む人間共が邪神を呼び寄せたらしくて……」
「分かった。ここで大人しく待ってろ。万が一の事があったら大声で叫べ。お前さん達の組長が帰って来るとは限らない。いいな。」
カワウソ達が頷くと、俺はすぐさま埴輪を片付けながら、霊長園に向かった。
霊長園。そこは畜生界全ての組織に、奴隷として使われている人間の保管場所である。見た目は100%古墳で、内装はしっかりしていた。動物霊に仕返しがしたかったのか、あるいは意図的ではなく普通にひょっこりはんしたのか、考えても仕方ない。
「誰か〜!!助けてくれ〜〜!!!」
その時、避難に遅れた民間人(タカと蛇の霊)が襲われているのが見えた。放っておけば二秒で喉をカッ切られるだろう。俺はすぐさま埴輪共を叩き壊して、奴らを助ける。
「とっとと失せろ!死にたくなければ物陰に隠れとけ!」
必死だったので荒ぶった口調になってしまったが、タカと蛇は物陰に隠れて行った。


俺は霊長園に着いて早々驚愕した。寂しかった霊長園が今では数えきれない程の埴輪で満ちている。この中から邪神を探すなんて、まさにウォーリーを探すよりキツそうだ。しかしこっちのウォーリーはすぐに出てきた。それと同時に、ゴーレムの女体化っぽい兵士も出てきた。
「お前さんが埴輪騒動の元凶か?よくもまあ、暴れてくれたね。この邪神が。」
「まあ邪神とは酷い。私はただ、ここの人間達の信仰心からできた、ただの神ですよ。」
青色のロングヘアーに緑色の頭巾を被った邪神は答える。そのオーラーは邪神そのもので、動物霊が手を出せなかったのも納得がいく。隣のゴーレムは黄色の甲冑を来ており、刀と弓を持っている。そしてこちらをムッと睨んでおりそのオーラーから、恐らくあの邪神が作ったのだろうと察しがついた。
「申し遅れましたね。私の名は造形神(イドラデウス)埴安神袿姫。こちらの兵士は磨弓と言って私のお気に入りなのです。」
「俺は空蝉龍陽。ただの掃除屋だ。埴輪騒動の元凶はここだと聞いてやってきた。これからお前さん達に選択肢をやる。降参して小指を差し出すか、俺と戦うかだ。」
「威勢がいいですね。いいでしょう。磨弓、やっておしまい。」
「はっ、姫様。」
そう言うと周りから埴輪が次々と湧いて、その数は1万は下らんだろう。確信した。こいつが元凶だと言うことを。こちらが構えるとすぐさま埴輪が弓を放って俺をウニにしようとする。しかし村正で弾き返すと、矢は全て埴輪共に刺さり砕けていった。が、そこからが厄介だった。なんと埴輪共が再生して、再び弓を放った。急な攻撃だったが、流石に慣れているので今度は下に弾き返す。敵に目をやると、今度は馬に乗った埴輪がこちらに向かってくる。おいおい、馬もいけるのか。埴輪とは人型のもあれば馬型のものもあると聞いたことがあるが、これでは騎馬戦だ。あの邪神の脳みそはどんな思考をしたら、ここまでいけるのか。しかも埴輪共はあんなに動いているのに息一つ乱れていない。つまり強力な操作型の兵士だ。(バケモンかよ)
何か策をねって見たが、ウカウカしているとジリ貧でやられることしか頭になかった。万事休すかと思っていたが、脳裏に黒駒が教えてくれた事を思い出す。



「操作系ってのはなあ、強さが変則的なやつと一定の奴が居んだよ。一つは本体が近くにいること。操作系は本体が近くに居る程、強くなるっていう特徴があるんだ。もう一つは何かしらの条件で、能力を底上げしていること。本体が傍に居なくても近くに居るみたいに強い。けどその分攻撃が単調で避けやすいっていう特徴があるんだ。まっ、覚えて損は無いけどね。」
何が損は無いだ、死ぬほどあるじゃん。しかし突破口は見えた。確かに動きが単純で一つ一つは避けやすい。それを数の暴力で誤魔化していたわけだ。無尽蔵の軍事力、再生力、体力があっても動きが単純なら、話は早い。しかも埴輪という立場で、俺にヒントをくれたんだからな。そして俺は全身に炎を纏わせ、宙を舞う。腕をクロスさせ、全方位に炎を浴びせる。
【火災神 イフリート・クロス】
ドロドロに溶けてもがく埴輪共と体が半分溶けた磨弓に俺はトドメを刺す。
【絶技 神裂】
しかし、邪神・袿姫によって、神裂は明後日の方向に飛んで行ってしまった。
「姫様、申し訳ありません。このような事態になるとは…。」
「いいわ、磨弓。ゆっくり休んで頂戴。」
「いや、休む暇は与えん。この俺が直々に燃やして……」
突如、目まいと吐き気が俺を襲った。それにこの匂い、通常では有り得ない程の異臭だ。これは中学生の理科の実験で死亡した子もいる程有名で、入試にも出てくるあの気体だった。
「·····塩化水素か。」
「ええ。貴方の能力は、人間達から聞いています。それを踏まえて埴輪達に含ませたのですよ。最も、一体に30g程混ぜたのですが、貴方は耐性があるようですね。」
通常、塩化水素は20gで成人を殺せるが、一体に30gとはなかなかだ。俺が溶かした埴輪は約8000体ぐらいでその気体がここに集結するとなれば、相当なものだろう。
「お喋りが過ぎましたね。では、さようなら。」
その言葉と同時に、無数の弾幕が俺の体に直撃した。



気が付いたのは、何の変哲もない部屋の中だった。体を動かそうとしたら、力が入らない。起き上がる事すらままならない俺に、手を差し伸べたのはあのタカと蛇だった。
「大丈夫ですか。全身打撲と出血多量、複雑骨折で1ヶ月生死を彷徨っていたんですよ。」
「俺らが救出しなかったら、あんた死んでたッスよ。」
「お前さん達…確か……あの時の。」
「無理しなくてもいいッス。あ、俺の名前はヨシタカって言うッス。こっちはマムシんって言うマムシの霊ッス。」
「ヨシタカ、マムシん、済まない。」
「謝る事はありません。私達の命の恩人ですから。」
あの後、ヨシタカとマムシんは俺の力になろうと、急いで俺のあとを追っていたらしい。霊長園の前で横たわっていた俺を見て、家まで運び看病してくれたそうだ。そしてこの二人は元々、鬼傑組、勁牙組所属だったがあまりにブラック過ぎて抜けたらしい。
「あんたが居るから入ったんですが、勁牙組ってのはなかなかキツくてですね。仕事が出来なかったら上司からボコられるんスよ。」
「ああそれ。うちも同じでした。私は情報操作を担当していましたが、一分一秒でも遅れたら階級が下がるんです。」
二人の不幸自慢を聞いているとなんだか心が落ち着き、これが友だちって奴かと認識した。話を聞いていると話題が俺に移ったらしく、俺の話をし始めた。
「テレビで見たッスよ!あの鬼を一撃で葬ったって!!いや〜かっこいいッス。」
「地獄の警戒リストに名を刻むとは、ここでは光栄な事ですよ。」
何故か少し照れくさくなってきた。自分にとっては、任務を遂行しただけなのにここまで褒められることは無かった。すると空気が急に重くなり、ヨシタカが話し始める。
「でもなあ、それ故にあんたが可哀想ッス。まさか、ただ良心的な組織を潰しせと命令されているなんて。」
「えっ。」
その時、俺は再び目まいがした。こんなことは考えたくないが、やっぱりこれを基準にすると全て合致する。そう、尤魔達は俺を利用して、邪魔な組織を潰していたのだ。自分達がのし上がる為に。そして時間が経てば切り捨てる。
尤魔達にとっての俺はただのゲームカセットだった。最初は遊んでくれるが、時間が経てば忘れて捨てられる。その事を考えると、自分がこれまで殺した組員達の罪悪感と、申し訳なさに押しつぶされそうになった。
俺が過呼吸を起こしていると、ヨシタカとマムシんは心配そうに背中をさすってくれた。それは初めて感じる慈愛の感情で、俺は思わず泣いてしまった。



2日後のニュースはこうだった。鬼を葬った人間の関係者計16000人が、何者かによって殺害されたと。遺体は激しく損傷しており、全員脳を喰われた跡がある。周りに置いてあった銃器は無くなってあるので、警察は窃盗事件と睨んでいる。
最後の方、どうしてもグロく表現してしまったのでグロいのが嫌いな人、すみません。よろしければ点数とコメントをお願いします。m(_ _)m
SABAMESI
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コメント



0.100簡易評価
3.90名前が無い程度の能力削除
良かったです
4.100南条削除
面白かったです
回を増すごとに読みやすくなっているうえに話の緩急も鋭くなっていて読んでいて楽しかったです
毎回楽しみにしています